説明

固体電解コンデンサ

【課題】固体電解コンデンサにおいて、低ESR特性を維持しつつ回路上で発生した過電流に対する保護機能を設ける。
【解決手段】コンデンサ素子4を有する固体電解コンデンサであって、該コンデンサ素子は、表面に陽極酸化皮膜1aが形成された陽極箔1と、表面に導体材料が形成された樹脂膜3と、陽極箔と樹脂膜との間に配置されたセパレータ2とを有し、該コンデンサ素子は、陽極箔と樹脂膜とをセパレータとともに巻回することによって形成され、さらに、該コンデンサ素子に、固体電解質7を保持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解コンデンサの陽極電極として、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁作用金属が用いられてきた。この陽極電極には、エッチングピットや微細孔が形成されており、陽極電極の表面に誘電体となる酸化皮膜層を形成し、さらに、この酸化皮膜層上に電解質層を形成して、電解質層から電極を引き出すことによって、電解コンデンサが構成される。
【0003】
電解コンデンサの真の陰極は、上記の電解質層であり、この電解質層が電解コンデンサの電気特性に大きな影響を及ぼすため、数々の形成方法が提案されている。
【0004】
また、非固体電解コンデンサでは、液状の電解質からなる電解液が用いられる。この液状の電解質はイオン伝導性であるために、非固体電解コンデンサは、高周波領域でインピーダンス特性が悪化する。一方、固体電解コンデンサでは、この液状の電解質に替えて、電子伝導性を有する固体の電解質が用いられる。なかでも、固体の電解質として、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体を用いることが知られている。このTCNQ錯体を熱溶融して陽極電極に浸漬させて塗布することで、固体電解質を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、他の手法として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電性高分子を固体電解質として用いることも試みられている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、回路上の過電流等によって電解コンデンサがショートする前に、電解コンデンサを回路から切り離すことを目的として、ヒューズやPTCを内蔵したコンデンサの提案も行われている。このため、コンデンサの内部やリード端子部にヒューズやPTCを内蔵する技術が多く検討されている(例えば、特許文献3〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−191414号公報
【特許文献2】特開平2−15611号公報
【特許文献3】特開2004−200422号公報
【特許文献4】特開2004−273511号公報
【特許文献5】特開2006−93337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したPEDOT等の導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサの等価直列抵抗は低いため(以下、低ESR特性と称する)、このような固体電解コンデンサは種々の回路で使用されている。しかしながら、回路上の過電流等によって電解コンデンサがショートする前に、電解コンデンサを回路から切り離すために、電解コンデンサ内にヒューズやPTCをリード端子部などに設けた場合には、ヒューズやPTCの抵抗分が等価直列抵抗に影響するため、コンデンサとして低ESR特性を得られなくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者等は、PEDOT等の導電性高分子を固体電解質層として用いた固体電解コンデンサにおいて、固体電解質の本来の低ESR特性を維持しつつ、過電流に対する保護機能を併せ持つ固体電解コンデンサを提案する。
【0010】
かかる着想に基づく具体的な発明は、以下の通りである。
【0011】
本発明は、表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と、表面に導体材料が形成されている樹脂膜とをセパレータを介して巻回した、コンデンサ素子に固体電解質を保持させていることを特徴としている。
【0012】
このように、コンデンサ素子に樹脂膜を使用し、かつ固体電解質を保持させた構成にしたことで、低ESR特性を維持しつつ、かつ回路上の過電流等によって電解コンデンサがショートする前に、電解コンデンサを回路から切り離すことができる。
【0013】
さらに、上述した樹脂膜は、所定の温度で溶解する溶解性を有し、セパレータと陽極箔との間に固体電解質が保持され、セパレータと樹脂膜との間に固体電解質が保持されたものが好ましい。
【0014】
樹脂膜は、所定の温度で溶解する溶解性を有するので、過電流による発熱によって溶解して、電解コンデンサがショートする前に、電解コンデンサを回路から切り離すことができる。
【0015】
上記樹脂膜は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンのうちの何れかが望ましい。
【0016】
これらの樹脂膜は、各々融点が異なるため、各々の熱特性に応じて使用する樹脂膜を選定することで、要求される保証温度に適合させた固体電解コンデンサを適宜提供することができる。
【0017】
上記導体材料は、金属、金属窒化物、金属炭化物、カーボンのうちの何れかが望ましい。
【0018】
これらの導体材料を用いることによって、固体電解コンデンサの電気的特性を維持しつつ、要求される保証温度に適合させた固体電解コンデンサを適宜提供することができる。
【0019】
なお、上記固体電解質を構成する導電性高分子は、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンおよびポリエチレンジオキシチオフェンのうちの何れかが望ましい。
【0020】
また、これらの導電性高分子の各々が有する融点などの熱特性に応じて、上記導体材料を適宜選択することで、要求される保証温度に適合させた固体電解コンデンサを提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と、表面に導体材料が形成された樹脂膜とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に固体電解質を保持させることで、従来の固体電解コンデンサの低ESR特性を維持しつつ、回路上で発生した過電流等によって電解コンデンサがショートする前に、電解コンデンサを回路から切り離すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるコンデンサ素子4の分解斜視図である。
【図2】本発明による固体電解コンデンサの積層構造を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について添付図面に基づき説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る固体電解コンデンサのコンデンサ素子の概略構成を示す斜視図である。
【0025】
図1を参照して、本実施の形態に係る固体電解コンデンサは、コンデンサ素子4に導電性高分子を保持させたものである。コンデンサ素子4は、陽極箔1と樹脂膜3とをセパレータ2を介して巻回されて形成される。すなわち、陽極箔1と樹脂膜3とに挟まれるように、陽極箔1と樹脂膜3との間にセパレータ2を配置する。セパレータ2が陽極箔1と樹脂膜3との間に挟まれた状態で、陽極箔1と樹脂膜3とセパレータ2とを巻回することでコンデンサ素子4を形成することができる。陽極箔1には、陽極リード線5が接続されている。また、樹脂膜3には、陰極リード線6が接続されている。
【0026】
陽極箔1は、アルミニウム等の弁作用金属で形成されている。図2に示すように、この陽極箔1の表面は、エッチング処理により粗面化(エッチングピット形成)され、陽極酸化(化成)による陽極酸化皮膜1aが陽極箔1の表面に形成されている。
【0027】
樹脂膜3は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等で形成されている。また、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスチレンなどで樹脂膜3を形成しても良い。図2に示すように、樹脂膜3の表面には、金属、金属窒化物、金属炭化物、カーボン等の導体材料層3aが形成されている。
【0028】
また、セパレータ2の両面には、導電性高分子からなる固体電解質7が保持されている。つまり、陽極箔1とセパレータ2との間、および樹脂膜3とセパレータ2との間には、固体電解質7が狭持されている。固体電解質7を構成する導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリピロール、または、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を使用でき、これらはモノマーの化学重合や電解重合により生成される。固体電解質を保持させる方法は、モノマーをコンデンサ素子に含浸して化学重合や電解重合によりポリマー化させる方法や、ポリマー状態でコンデンサ素子に含浸する方法がある。
【0029】
上記方法で作製された固体電解コンデンサに過電流が流れた場合の保護メカニズムは以下のとおりである。すなわち、固体電解コンデンサに過電流が流れた場合には、その電流の大きさに応じて、固体電解コンデンサが発熱する。この固体電解コンデンサの発熱により、陰極材料として使用している樹脂膜3(図2参照)が溶解することで、陰極リード線のリードタブ部と導電材料が絶縁されるため、電流が流れる経路を絶つことができる。
【0030】
以下、具体的な実施例について説明する。
【0031】
[実施例]
(コンデンサ素子作製工程)
アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔1の表面をエッチングにより粗面化し、陽極箔1の表面に酸化皮膜層を形成した。一方、樹脂膜3であるポリエチレンテレフタレート膜3の表面に、アルミニウム皮膜を蒸着により形成した後、カーボン層を形成した。なお、カーボン層の形成は、カーボン粉末を懸濁液に溶解させた溶液に樹脂膜3を浸漬させた後、引き上げて乾燥させることで行った。その後、陽極箔1に陽極リード線5を接続し、ポリエチレンテレフタレート膜3に陰極リード線6を接続し、セパレータ2を介して、陽極箔1とポリエチレンテレフタレート膜3とを巻回することで、コンデンサ素子4を作製した。
【0032】
(素子化成・熱処理工程)
アジピン酸二アンモニウム水溶液中で、上記のコンデンサ素子4に電圧を印加して素子化成を行い、さらに当該素子化成済みのコンデンサ素子4を熱処理し、コンデンサ素子4を重合前処理した。
【0033】
(固体電解質形成工程)
上記の重合前処理済みのコンデンサ素子4を、p−トルエンスルホン酸鉄溶液と、モノマー(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とを調合した液に浸漬した後引き上げ、100℃で60分間加熱して化学重合によるPEDOTを含浸した。
【0034】
(組立工程)
上記の固体電解質形成後のコンデンサ素子4を有底筒状の外装ケースに収納し、開口部をゴムパッキング等により密封した。
【0035】
(エージング工程)
上記の組立済みコンデンサ素子4を125℃雰囲気下でエージング処理し、定格4V−560μFの固体電解コンデンサを作製した。
【0036】
[従来例]
コンデンサ素子の作製工程として、エッチングにより粗面化し表面に酸化皮膜層が形成されたアルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔1と、表面にカーボン層を形成したアルミニウム箔9とを準備した。その後、陽極箔1には陽極リード線5を接続し、アルミニウム箔9には陰極リード線6を接続し、セパレータ2を介して、陽極箔1とアルミニウム箔9とを巻回することで、コンデンサ素子4’を作製した。このコンデンサ素子4’の作製の工程以外は、上記の実施例の工程と同様の工程によって、従来例としての固体電解コンデンサを作製した。
【0037】
上記の実施例および従来例に係る固体電解コンデンサの電気特性(静電容量、ESRおよび漏れ電流)、並びに、6Aの過電流を流し、固体電解コンデンサの頭頂部の最高温度を測定した。合わせてショート率、オープン率を確認した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から明らかな通り、実施例に係る固体電解コンデンサの方が、従来例に係る固体電解コンデンサに比べて、従来のESR特性を維持しつつ、過電流により固体電解コンデンサが発熱しても一定温度以上に上昇せずにコンデンサをオープン状態とし、回路から切り離すことができることが分かる。また、実施例に係る固体電解コンデンサは従来例と比較し、ショートを起こさないまま、安全にオープン状態にすることができることが分かる。
【0040】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【0041】
例えば、上記実施例では、樹脂膜にポリエチレンテレフタレート膜を使用したが、これに限らず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスチレンなどを用いることで同様の効果が得られる。
【0042】
これらの樹脂膜は、それぞれ固有の熱特性を持つため、要求される保証温度などに併せて樹脂膜を適宜選定することができる。
【0043】
また、樹脂膜の表面に形成した導体層にカーボン層を形成したが、これに限らず、ITOやチタン、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、タンタル、ニオブなどの金属やこれら金属の炭化物・窒化物などを用いることで同様の効果が得られる。
【0044】
また、上記実施例では、PEDOTを固体電解質に用いたが、公知の導電性高分子(ポリアニリン、ポリピロール)を用いても同様の効果が得られる。
【0045】
さらに、コンデンサ素子に溶液を含浸させる方法としては、酸化剤とモノマーをコンデンサ素子に別々に含浸する方法、予め酸化剤とモノマーとを混合調合した溶液をコンデンサ素子に含浸する方法、ポリマー溶液をコンデンサ素子に含浸する方法のいずれも同様の効果が得られる。
【0046】
その他、特許請求の範囲内での種々の設計変更および修正を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明を用いることで、過電流に対しての保護機能を持たせた固体電解コンデンサを得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 陽極箔
1a 陽極酸化皮膜
2 セパレータ
3 樹脂膜、ポリエチレンテレフタレート膜
3a 導体材料層
4 コンデンサ素子
5 陽極リード線
6 陰極リード線
7 固体電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ素子を有する固体電解コンデンサであって、
前記コンデンサ素子は、
表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と、
表面に導体材料が形成された樹脂膜と、
前記陽極箔と前記樹脂膜との間に配置されたセパレータと、を有し、
前記コンデンサ素子は、前記陽極箔と前記樹脂膜とを前記セパレータとともに巻回することによって形成され、
前記コンデンサ素子に固体電解質を保持させたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記樹脂膜は、所定の温度で溶解する溶解性を有し、
前記セパレータと前記陽極箔との間に前記固体電解質が保持され、
前記セパレータと前記樹脂膜との間に前記固体電解質が保持されたことを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記樹脂膜は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート、およびポリテトラフルオロエチレンのうちの何れかであることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記導体材料は、金属、金属窒化物、金属炭化物、カーボンであることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記固体電解質を構成する導電性高分子は、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンおよびポリエチレンジオキシチオフェンのうちの何れかであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の固体電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−278200(P2010−278200A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128810(P2009−128810)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)