説明

固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材並びにその製造方法およびそれを用いた固体高分子型燃料電池

【課題】酸洗に要する時間を短くして導電性が良好な被膜を表面に形成できる固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材並びにその製造方法およびそれを用いた固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】質量%で、白金族元素:0.005%〜0.15%および希土類元素:0.002〜0.10%を含有し、残部がTiおよび不純物からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材である。本発明のチタン材は、非酸化性酸を用いた酸洗によりチタン材の表面にチタン酸化物および白金族元素からなる被膜を形成でき、その被膜の厚さを50nm以下とするのが好ましく、被膜の表面における白金族元素の濃度を1.5質量%以上とするのが好ましい。このように被膜が形成されることにより、本発明のチタン材は、初期の接触抵抗の低減が実現できるとともに、良好な耐食性が確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池、その構成要素であるセパレータに用いるチタン材およびチタン材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素の結合反応の際に発生するエネルギーを利用するため、省エネルギーと環境対策の両面から、その導入および普及が期待されている次世代の発電システムであり、固体電解質型、溶融炭酸塩型、リン酸型および固体高分子型などの各種の燃料電池がある。
【0003】
これらの中でも固体高分子型燃料電池は、出力密度が高く小型化が可能であり、また他のタイプの燃料電池より低温で作動し、起動停止が容易であることから、電気自動車や家庭用の小型コジェネレーションへの利用が期待されており、近年、特に注目を集めている。
【0004】
図1は、固体高分子型燃料電池(以下、単に「燃料電池」ともいう。)の構造を示す図で、同図(a)は、燃料電池を構成する単セルの分解図、同図(b)は多数の単セルを組み合わせて作られた燃料電池全体の斜視図である。
【0005】
図1に示すように、燃料電池1は単セルの集合体(スタック)である。単セルは、図1(a)に示すように固体高分子電解質膜2の一面にアノード側ガス拡散電極層または燃料電極膜と呼ばれるもの(以下、単に「アノード」という。)3が、他面にはカソード側ガス拡散電極層または酸化剤電極膜と呼ばれるもの(以下、単に「カソード」という。)4がそれぞれ積層されており、その両面にセパレータ(バイポーラプレート)5a、5bが重ねられた構造になっている。
【0006】
なお、上記の単セルと単セルの間、または数個の単セルごとに冷却水の流通路を持つ水セパレータを配した水冷型の燃料電池もある。本発明はそのような水冷型燃料電池をも対象とする。
【0007】
固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」という。)2としては、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系プロトン伝導膜が使われている。アノード3およびカソード4には、粒子状の白金触媒と黒鉛粉、および必要に応じて水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素樹脂からなる触媒層が設けられている場合もあり、この場合には、燃料ガスまたは酸化性ガスとこの触媒層とが接触して反応が促進される。
【0008】
セパレータ5aに設けられている流路6aからは燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流されて燃料電極膜3に水素が供給される。また、セパレータ5bに設けられている流路6bからは空気のような酸化性ガスBが流され、酸素が供給される。これらガスの供給により電気化学反応が生じて直流電力が発生する。
【0009】
固体高分子型燃料電池のセパレータに求められる主な機能は次のようなものである。
(1)燃料ガス、酸化性ガスを電池面内に均一に供給する“流路”としての機能、
(2)カソード側で生成した水を、反応後の空気、酸素といったキャリアガスとともに燃料電池から効率的に系外に排出する“流路”としての機能、
(3)電極膜(アノード3、カソード4)と接触して電気の通り道となり、さらに単セル間の電気的“コネクタ”となる機能、
(4)隣り合うセル間で、一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室との“隔壁”としての機能、および
(5)水冷型燃料電池では、冷却水流路と隣接するセルとの“隔壁”としての機能。
【0010】
このような機能を果たすことが求められる固体高分子型燃料電池に用いられるセパレータ(以下、単に「セパレータ」という。)の基材材料としては、大きく分けて金属系材料とカーボン系材料とがある。
【0011】
チタンをはじめとする金属系材料は、金属特有の加工性に優れ、セパレータの厚みを薄くすることができ、セパレータの軽量化が図れるなどの利点を有するが、金属表面の酸化により電気伝導性が低下する懸念がある。このため、金属系材料によるセパレータ(以下、単に「金属製セパレータ」という。)はガス拡散層との接触抵抗が上昇する可能性があることが問題となっている。
【0012】
一方、カーボン系材料は軽量なセパレータが得られる利点があるが、ガス透過性を有するといった問題や、機械的強度が低いといった問題があった。
【0013】
ここで、金属製セパレータ、特にチタン系材料からなるセパレータ(以下、単に「チタン製セパレータ」)に関し、従来から種々の提案がなされており、以下の特許文献1〜5がある。
【0014】
特許文献1では、耐食性(耐酸化性)を向上させるため、セパレータの電極と接する表面から不動態被膜を除去した後に、その表面にめっき等によって金を中心とした貴金属の薄膜層が形成されたチタン製セパレータが提案されている。しかしながら、金を中心とした貴金属を自動車等の移動体用燃料電池または定置用燃料電池に多量に使用することは経済性や資源量制約の観点から問題があり、特許文献1で提案されるチタン製セパレータは普及していない。
【0015】
このため、金を中心とした貴金属を用いることなくチタン製セパレータの耐食性(耐酸化性)の問題を解決する試みとして、特許文献2がある。特許文献2では、表面に炭素からなる導電接点層が蒸着により形成されたチタン製セパレータが提案されている。しかし、蒸着は、特殊な装置を要するプロセスであることから設備コストが上昇するとともに、多くの時間を要することによって生産性が低下して問題が生じる。このため、特許文献2で提案されるチタン製セパレータは積極的に活用されていないのが現状である。
【0016】
特許文献3には、表面に導電性セラミックスを分散して含む金属被膜が形成されたチタン製セパレータを用いることにより、金属表面の酸化による接触抵抗の上昇を低減する方法が提案されている。このセラミックスを含む金属被膜が形成された材料は、板材からセパレータ形状にプレス成形する際に、分散したセラミックスが成形を阻害し、時には加工時に割れが発生あるいはセパレータに貫通孔が発生する。また、セラミックスがプレス金型を摩耗させたりする問題から、プレス金型を超硬合金のような高価な材質に変更する必要が生じる。これらから、特許文献3で提案されるチタン製セパレータは実用化には至っていない。
【0017】
特許文献4には、白金族元素を含有するチタン合金基材を、非酸化性酸および酸化性酸を含む溶液に浸漬して酸洗することにより、その表面に白金族元素を濃化させた後、低酸素濃度雰囲気で熱処理を施したセパレータ用チタン材が提案されている。これにより、セパレータ用チタン材の表面に白金族元素とチタン酸化物の混合層が形成され、チタン材は、5kg/cm2を付加した状態で7.4mAの電流を流した際の接触抵抗が、10mΩ・cm2以下となり、導電性に優れるとしている。
【0018】
特許文献4では、熱処理を行うことで、接触抵抗を低下させているために、チタン板表面の不動態被膜の膜厚が厚くなり、接触抵抗の増大や長期使用時の接触抵抗の安定性の問題がある。また、熱処理を行うことによってコストアップとなるばかりか、熱処理の雰囲気条件が厳しいことから生産性についての問題や、熱処理による変形の問題もある。そして、特許文献4で提案されるチタン材は非特許文献1にも記載されている。
【0019】
特許文献5には、白金族元素を含有するチタン合金基材を、非酸化性酸を含む酸に浸漬して酸洗することにより、その表面に白金族元素を濃化させた層を形成したセパレータ用チタン材が提案されている。
【0020】
また、特許文献4および5で提案されるチタン材は、チタン材への水素吸収を抑制する観点から、酸化性酸を含む酸で酸洗を行っているので、再析出した白金族元素の下層にチタン酸化物が形成され、そのままでは初期の接触抵抗が高いといった問題や表面の不動態被膜が厚くなるために燃料電池を長時間運転すると、腐食性生物等の影響で接触抵抗が高くなる等の問題がある。特に、特許文献4に開示された発明は、熱処理を行っているために、前記問題はさらに大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2003−105523号公報
【特許文献2】特許第4367062号公報
【特許文献3】特開平11−162479号公報
【特許文献4】特許第4032068号公報
【特許文献5】特開2006−190643号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】R&D 神戸製鋼技報、vol.55、No.3(2005),佐藤俊樹、阪下真司、屋敷貴司、福田正人著,p.48〜51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
前述のとおり、チタン製セパレータでは、表面の酸化により電気伝導性が低下し、接触抵抗が上昇する問題を解決するため、金を中心とする貴金属めっき、炭素の蒸着、セラミックスの分散および白金族元素の濃化といった手法が提案されている。しかし、貴金属めっき、炭素の蒸着、セラミックスの分散といった手法は、いずれも普及していない。
【0024】
そこで、本発明者らは、白金族元素を濃化させる手法に着目して検討を行い、下記(1)〜(3)に記載の課題を有することを見出した。
(1)白金族元素濃化の速度向上/表面処理時間の短縮
前述のとおり、特許文献4および5の実施例から、酸化性酸を含む酸液に浸漬して白金族を表面に濃化させるために、表面被膜の厚さが厚くなる。このため、表面に濃化させる白金族元素の量を多くする必要性から濃化処理に要する時間が長くなり、浸漬時間を5分以上確保する必要がる。この表面処理が短い時間で完了し、連続的な処理を可能とすることにより十分な生産性を確保する必要がある。
【0025】
(2)白金族元素の含有量の低減
高価な白金族元素の含有量が少ない材料であっても、従来の材料と比較して、表面への白金族元素濃化が容易かつ高濃度になり、初期の接触抵抗の低減が実現できる材料を開発する必要がある。
【0026】
(3)真空熱処理の省略
特許文献4で提案されるチタン製セパレータでは、酸洗によってチタン表面に形成される不動態被膜はそのままでは導電性が極めて低い。このため、表面に再析出させた白金族元素を不動態被膜と混合させてチタン母材と被膜表面の通電パスを形成させるために、真空雰囲気(低酸濃度素雰囲気)での熱処理を施し、熱拡散によって混合している。この熱処理によって、不動態被膜の膜厚が厚くなり、接触抵抗の増大や長期安定性ばかりか、プレス後のセパレータの変形も発生する。
【0027】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記(1)〜(3)の課題を解決することができる固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材並びにその製造方法およびそれを用いた固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、上記(1)〜(3)の課題を解決するため、チタン製セパレータの表面に白金族元素が容易に露出・濃化して高濃度となることにより、良好な導電性を得ることができる方法を検討した。
【0029】
種々の検討の結果、特許文献4および5で提案されるチタン製セパレータと同様に、白金族元素を含有するチタン合金を酸洗するのが有効であると判明した。そこで、酸洗でより短時間かつ高濃度で白金族元素をチタン合金の表面に濃化できる方法を探索した。具体的には、白金族元素を含有するチタン合金に種々の元素を微量添加して酸洗し、その表面の白金族元素の濃度を比較した。その結果、白金族元素を含有するチタン合金に希土類元素を固溶限度の範囲内で添加すると、従来より短時間かつ高濃度で白金族元素を表面に濃化できることが判明した。
【0030】
これは、チタン合金に微量の希土類元素を添加すると、酸環境でのチタンの溶解速度が増加することに起因すると考えられる。例えば、JIS 1種の純チタンにY元素を0.01質量%添加すると、沸騰状態の3%塩酸水溶液に浸漬した際の溶解速度が約4倍となることが実験により確認できた。
【0031】
次に、白金族元素を含有するチタン合金に、希土類元素を固溶限度の範囲内で微量添加すると、チタンの溶解速度上昇に伴い、白金族元素の溶解・再析出速度が高まり、チタン合金表面での白金族元素の濃化速度が高まることが実験により確認できた。また、酸洗で浸漬時間を同一条件とした場合、希土類元素を添加したチタン合金は、希土類元素を添加していないチタン合金と比べて表面の白金族元素の濃度が高くなることも実験により確認できた。これらの実験結果の一例を、下記図2に示す。
【0032】
図2は、チタン合金の表面近傍におけるPd濃度の分布を、希土類元素の添加した場合と、添加しない場合とで比較して示す図である。同図に示す実験では、チタン合金(ASTM GR17)からなるチタン材料と、チタン合金(ASTM GR17)に希土類元素であるYを0.01質量%で添加することにより希土類元素を添加したチタン材料とを準備した。これらのチタン材料を沸騰状態の3%塩酸水溶液に96時間浸漬して酸洗した。酸洗処理後のチタン材料について、GDOESによって深さ(厚み)方向のPd濃度の分布をそれぞれ分析した。GDOESによる深さ方向のPd濃度の分布分析の詳細を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
図2より、Yを0.01質量%添加した場合(実線で示す曲線参照)は、Yを添加しなかった場合(破線で示す曲線参照)と比較し、表面(深さ0nm)のPd濃度が約1.6倍となった。
【0035】
Yを0.01質量%添加した場合は、酸洗による表面処理後の表面のPd濃度が約15質量%であり、マトリックスに含まれるPd含有率が0.05質量%である。すなわち、この浸漬条件では、表面にマトリックスの約300倍の濃度までPdが濃化した。
【0036】
図2では、希土類元素のうちでY元素一種だけについて示したが、他の希土類元素にも同様の白金族元素を高濃度で濃化させる効果があることを確認した。
【0037】
チタン合金への希土類元素の添加により上記効果が発現することは、本発明を検討する中で得た新しい知見である。
【0038】
本発明者らは、この実験事実をもとにチタン合金表面への白金族元素の濃化、そして表面に白金族元素が濃化したチタン合金の接触抵抗(初期接触抵抗)の低減について種々の検討を進めたところ、以下の(a)〜(f)の知見を得た。
【0039】
(a)チタン合金が、質量%で、白金族元素:0.005%〜0.15%および希土類元素:0.002〜0.10%を含有し、残部がTiおよび不純物からなり、そのチタン合金の表面で酸洗によって白金族元素を溶解・再析出させる。これにより、良好な導電性を有する白金族元素がチタン合金の表面に濃縮しつつ露出するので、接触抵抗が低減されたチタン材を得ることができ、固体高分子型燃料電池のセパレータに適する。この現象は、白金族元素の再析出速度が希土類元素を添加した効果により速まるために、酸洗中に形成される不動態被膜と混合した状態で再析出が起こり、一部は不動態被膜上に露出析出するものと推測される。
【0040】
(b)接触抵抗が低減されることによってセパレータに適したチタン材を得るために、上述の酸洗によって形成されるチタン合金の表面にチタン酸化物および白金族元素からなる被膜は、厚さを50nm以下とするのが好ましい。
【0041】
(c)接触抵抗が低減されることによってセパレータに適したチタン材を得るために、チタン合金の表面に露出した白金族元素の濃度は1.5質量%以上とするのが好ましく、チタン合金の表面に白金族元素が露出して形成される白金族元素の濃化層は厚さを1nm以上とするのが好ましい。
【0042】
(d)チタン合金が含有する希土類元素がYであれば、白金族元素をチタン合金の表面に濃化させる表面処理が容易に実現できる。
【0043】
(e)チタン合金が含有する白金族元素がPdであれば、接触抵抗がより低減され、固体高分子型燃料電池のセパレータ用により適したチタン材が得られる。
【0044】
(f)上記(a)に記載した溶解反応を生じさせるために、希土類元素を容易に溶解する塩酸を主体とした非酸化性酸の溶液に、上記(a)に記載のチタン合金を浸漬し、合金表面に白金族元素を濃化させる。これにより、接触抵抗が低減されたチタン材を得ることができ、得られるチタン材はセパレータに適する。
【0045】
本発明は、上記知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(5)の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材、下記(6)および(7)の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材の製造方法、並びに、下記(8)の固体高分子型燃料電池を要旨としている。
【0046】
(1)質量%で、白金族元素:0.005%〜0.15%および希土類元素:0.002〜0.10%を含有し、残部がTiおよび不純物からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【0047】
(2)前記チタン材の表面にチタン酸化物および白金族元素からなる被膜が形成されており、前記被膜の厚さが50nm以下であることを特徴とする上記(1)に記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【0048】
(3)前記被膜の表面における白金族元素の濃度が1.5質量%以上であることを特徴とする上記(2)に記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【0049】
(4)前記希土類元素がYであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【0050】
(5)前記白金族元素がPdであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【0051】
(6)質量%で、白金族元素:0.005%〜0.15%および希土類元素:0.002〜0.10%を含有し、残部がTiおよび不純物からなるチタン合金を非酸化性酸で酸洗し、該チタン合金表面に白金族元素を濃化させることを特徴とする固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材の製造方法。
【0052】
(7)前記非酸化性酸として、塩酸を必須成分とする非酸化性酸を用いることを特徴とする上記(6)に記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材の製造方法。
【0053】
(8)固体高分子電解質膜を中央にして燃料電極膜と酸化剤電極膜を重ねあわせた単位電池を複数個、当該単位電池間にセパレータを介在させて積層した積層体に、燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池であって、前記セパレータが上記(1)〜(5)のいずれかに記載のチタン材からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【0054】
以下の説明では、チタン合金の組成についての「質量%」を単に「%」と表記する。
【発明の効果】
【0055】
本発明のチタン材は、希土類元素を含有することから、効率よくチタン材の表面に導電性が良好な被膜を形成できる。この被膜により、本発明のチタン材は、初期の接触抵抗の低減が実現できるとともに、良好な耐食性を確保することができる。
【0056】
本発明のチタン材の製造方法は、酸洗後に熱処理を施すことなく、導電性が良好な被膜を形成できることから、生産性を向上できる。
【0057】
本発明の固体高分子型燃料電池は、セパレータとして上述の接触抵抗の低減が実現されるとともに良好な耐食性が確保された本発明のチタン材を用いることから、初期電圧が高く、かつ、経時劣化が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】固体高分子型燃料電池の構造を示す図で、同図(a)は、燃料電池を構成する単セルの分解図、同図(b)は多数の単セルを組み合わせて作られた燃料電池全体の斜視図である。
【図2】チタン合金の表面近傍におけるPd濃度の分布を、希土類元素の添加した場合と、添加しない場合とで比較して示す図である。
【図3】チタン材の接触抵抗の測定に用いた装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
上述のように、本発明のチタン材は、白金族元素:0.005%〜0.15%および希土類元素:0.002〜0.10%を含有し、残部がTiおよび不純物からなることを特徴とする。以下、本発明の内容について詳細に説明する。
【0060】
1.チタン材の組成範囲および限定理由
1−1.白金族元素
本発明において白金族元素とは、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtをいう。白金族元素は、Tiより低い電気抵抗率を有し、固体高分子燃料電池の運転環境において酸化や腐食が発生せず電気抵抗率が上昇しない元素である。一方、Tiは、元来の電気抵抗率が白金族元素と比較して大きいのみならず、大気中あるいは固体高分子燃料電池の運転環境下で、チタン材の表面に強固な不動態被膜を生成した場合、より大きな電気抵抗率となる。このチタン材の表面に生成する不動態被膜は、Tiが種々環境で優れた耐食性を発現させる保護機構を担っており、チタン合金をセパレータに適用する際には耐食性維持の観点で必要である。
【0061】
本発明のチタン材は、後述する酸洗による表面処理を行えば、チタン材の表面にチタン酸化物および白金族元素からなる被膜が形成され、この被膜は不動態被膜である。具体的には、チタン材の表面は、チタン酸化物で構成される不動態被膜で覆われるとともに、濃化した白金族元素が存在する。この濃化した白金族元素が不動態被膜を貫通してチタン材のマトリックスと電気的な接続経路を有することで、白金族元素による低い接触抵抗とチタン酸化物による耐食性を両立させる。
【0062】
本発明のチタン材は、上述の白金族元素を1種または2種以上を含有させる。含有させた白金族元素の各々の含有率を合計した含有率(以下、単に「白金族元素の含有率」という。)を0.005〜0.15%とする。これは、後述する酸洗による表面処理でチタン材表面に白金族元素を濃化させて接触抵抗の低減を実現するために必要な白金族元素の含有率から定めた。白金族元素の含有率が0.005%未満の場合にはチタン材表面への白金族元素の濃化が不十分となり、接触抵抗の低下が実現できない。一方、白金族元素の含有率が0.15%より高くなると原料コストが多大となるからである。
【0063】
経済性と耐食性とのバランスを考慮すると、白金族元素の含有率は、0.01〜0.05%とすることが好ましい。本発明のチタン材では、この範囲の白金族元素の含有率でも、白金族元素の含有率が0.05%よりも高いチタン材と同等の接触抵抗を有し、接触抵抗の低下を実現できるからである。
【0064】
本発明において白金族元素は、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtのうちでPdが、比較的安価であり、かつ含有率当たりの接触抵抗低減効果が高いため最も好ましい。一方、RhおよびPtは非常に高価であるため、経済性の観点から不利である。また、RuおよびIrはPdより若干安価であり、Pdの代替として使用できるが、RuおよびIrの生産量が多くないことから、安定的に入手可能なPdが好ましい。
【0065】
1−2.希土類元素
1−2−1.希土類元素を含有させる理由
本発明者らは、Ti−0.02%Pd合金に、希土類元素に限ることなく種々の元素を添加し、そのチタン合金に60℃にした7.5%塩酸水溶液に浸漬する表面処理を施し、表面処理後のチタン合金表面について白金族元素の濃化により接触抵抗が低減する効果を調査した。種々の元素について調査した結果、この効果が認められたのは希土類元素であった。
【0066】
希土類元素には、Sc、Y、軽希土類元素(La−Eu)および重希土類元素(Gd−Lu)がある。本発明者らの検討の結果によると、上記の希土類元素のいずれでも白金族元素の濃化によりチタン材の接触抵抗を低減する効果が認められた。また、希土類元素を単独の元素として含有させる場合だけでなく、分離精製前の混合希土類元素(ミッシュメタル、以下、単に「Mm」という。)やジジム合金(NdおよびPrからなる合金)のような希土類元素の混合物を用いた場合でも上記効果が認められた。
【0067】
そのため、希土類元素でも入手性が良好で比較的安価なLa、Ce、Nd、Pr、Sm、Mm、ジジム合金、Y等を用いることが、経済性の面から好ましい。Yは、非酸化性酸、特に塩酸に容易に溶ける元素であり、白金族元素をチタン合金の表面に濃化させる表面処理が容易に実現できることから、希土類元素をYとするのが最も好ましい。なお、Mmおよびジジム合金の組成は、市中で入手できる材料であれば構成する希土類元素の種類およびその比率は問わない。
【0068】
1−2−2.希土類元素の含有率
本発明のチタン材は、上述の希土類元素を1種または2種以上を含有させる。含有させた希土類元素の各々の含有率を合計した含有率(以下、単に「希土類元素の含有率」という。)をは0.002〜0.10%とする。希土類元素の含有率の下限を0.002%としたのは、白金族元素を含有するチタン材の活性態域でTiと希土類元素とを同時に非酸化性酸を含む水溶液中に溶解させ、合金表面への白金族元素の析出を促進させる効果を十分に得るためである。
【0069】
希土類元素の含有率の上限を0.10%としたのは、白金族元素を含有するチタン材に希土類元素を過剰に含有させると、チタン材内に新しい化合物が生成する可能性があるからである。この新しい化合物は、非酸化性酸の水溶液中では優先的に部分溶解するので、白金族元素を含有するチタン材にピット状の腐食が発生する。そのため、この化合物が生成したチタン材は、チタン材表面で均一に白金族元素の濃化が生じないことから、表面で均一な接触抵抗の低減が実現されない。また、セパレータとして使用中に希土類化合物に起因する腐食が発生して接触抵抗が上昇してしまう。このため、本発明のチタン材における希土類元素の含有率は、状態図等に示されるα−Tiの固溶限度以下で、化合物が生成しない範囲であることが好ましい。
【0070】
1−3.任意添加元素
本発明のチタン材では、Tiの一部に代えてNi、Mo、V、CrおよびWを含有させてもよい。これらの元素を含有させることにより、希土類元素との相乗効果によって優れた耐隙間腐食性が得られる。これらの各元素を含有させる場合の範囲は、Ni:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.5%以下、Cr:0.5%以下、W:0.5%以下である。
【0071】
1−4.不純物元素
チタン材における不純物元素としては、原料、溶解電極および環境から侵入するFe、O、C、HおよびN等、およびスクラップ等を原料とする場合に混入するAl、Cr、Zr、Nb、Si、Sn、MnおよびCu等が挙げられる。これらの不純物元素は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば混入しても問題ない。本発明の効果を阻害しない範囲とは、具体的には、Fe:0.3%以下、O:0.35%以下、C:0.18%以下、H:0.015%以下、N:0.03%以下、Al:0.3%以下、Cr:0.2%以下、Zr:0.2%以下、Nb:0.2%以下、Si:0.02%以下、Sn:0.2%以下、Mn:0.01%以下、Cu:0.1%以下、合計で0.6%以下である。
【0072】
2.不動態被膜
前述のとおり、本発明のチタン材は、後述する酸洗による表面処理を行えば、チタン材の表面にチタン酸化物および白金族元素からなる被膜が形成され、形成された被膜は不動態被膜である。この不動態被膜は、チタン酸化物と酸洗によって再析出した白金族元素との混合物であり、良好な導電性を有する。被膜中の白金族元素は金属として存在していると推測され、チタン材(母材)と被膜表面の間の通電パスを形成していると考えられる。
【0073】
このような不動態被膜を形成するための酸洗による表面処理については後で詳細に説明するが、白金族元素および希土類元素を含有したチタン材は、酸洗によってチタン材が溶解する過程で、含有しているTi、希土類元素および白金族元素が溶液中に一旦溶出し、白金族元素が再び表面に再析出する。一方、チタン材表面ではTi等の酸化も同時に進行し、表面にチタンおよび希土類元素等の酸化物が形成される。さらに、再析出した白金族元素や形成されたTi等の酸化物が酸洗により溶出する。前記の過程を繰り返しチタン材表面に、Tiを主成分とする酸化物と白金族元素が混在した被膜が形成され、ある程度の白金族元素が濃化した段階で、溶解(酸化)反応はPdの抑制効果で停止する。
【0074】
本発明のチタン材は、希土類元素を含有することから、溶解反応の初期に溶解が速やかに生じる。このため、チタン材の表面近傍で白金族元素の濃度を高くすることができるとともに、チタン材の白金族元素の含有率を低くしても表面近傍の濃化を効率よく促進することができる。また、固体高分子型燃料電池のセパレータにチタン材を用いると、燃料電池での使用に伴い、セパレータ表面に接触しているカーボンクロス等による摩擦等で、前記良好な導電性を有する不動態被膜が破壊される場合がある。この場合でも、本発明のチタン材を用いれば、速やかに腐食して溶解反応が進行することにより再びチタン材表面に白金族元素が濃化する。このような自己修復作用を有する点も、本発明のチタン材の特徴である。
【0075】
本発明のチタン材は、良好な導電性を有する不導体被膜、すなわち、チタン酸化物および白金族元素からなる被膜の厚さは、50nm以下とするのが好ましい。厚さが50nmを超える場合、酸化物や腐食生成物の割合が高くなり表面接触抵抗が低下するおそれがある。より好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。
【0076】
皮膜厚さは、非酸化性酸濃度および処理温度によって制御可能である。本発明材料は、表面にPdが濃化すると電位が貴化する。濃化の過程で電位が貴化しTiの不働態化電位を超えると表面のTiは酸化物となり安定化する。すなわち被膜生成がストップする。
【0077】
使用する非酸化性酸の種類により、適切な条件は異なるが、例えば、非酸化性酸として、塩酸を用いた場合、濃度7.5%〜12.5%、処理温度65℃で0.5分処理を行えば1〜10nm程度に制御することが可能である。
【0078】
一方、本発明のチタン材は、チタン酸化物および白金族元素からなる被膜の厚さを1nm以上とするのが好ましい。被膜が薄くなり過ぎると、耐食性が低下するおそれがあるからである。
【0079】
本発明において、チタン酸化物および白金族元素からなる被膜の厚さは、チタン材の中央部を厚さ方向に切断し、その切断面を電子顕微鏡(例えば、TEM)にて観察して任意の10箇所の厚さ(母材とチタン酸化物および白金族元素からなる被膜との境界からチタン材の表面までの距離)を測定し、その測定値を平均することにより求めるものとする。
【0080】
一方、白金族元素濃化層の厚さの測定では、表1に示すGDOES測定において、測定後のスパッタ深さを表面粗さ計にて測定し、スパッタに要した時間からスパッタ速度を算出する。前記スパッタ速度に白金族元素の濃度分布の最大値に対して1/2の濃度になった時のスパッタ時間を積算して、白金族元素濃化層の厚さとする。
【0081】
チタン酸化物および白金族元素からなる被膜の厚さと、白金族元素濃化層の厚さとは、通常、チタン酸化物および白金族元素が混合された被膜となっているために同一の厚さとなる。本発明のチタン材は、被膜の最表層に白金族元素が多く濃化しているために、チタン酸化物とチタン母材との界面近傍に白金族元素の濃化量が最表層に比べて低い。このため、分析誤差が生じることや、白金族元素の深さ方向の濃度分布状況によって、チタン酸化物および白金族元素からなる被膜の厚さと、白金族元素濃化層の厚さとに若干の差が生じることがある。
【0082】
本発明のチタン材は、白金族元素が濃化した濃化層の層厚を1nm以上とするのが好ましい。ここで、白金族元素が濃化した濃化層の層厚は、上述の通り、チタン材の白金族元素の濃度分布を深さ(厚さ)方向に測定し、濃度分布の最大値に対して1/2の濃度になった深さを濃化層の層厚とする。白金族元素の濃度分布はGDOESにより測定することができる。このように定義される濃化層の層厚が1nm以上であれば、チタン材において、初期の接触抵抗を低減できるとともに良好な耐食性を確保できる。一方、後述する実施例に示すようにチタン材の白金族元素の含有率が高まるのに伴い濃化層の層厚が厚くなる傾向があるが、白金族元素の含有率を高めると経済性が悪化することから、濃化層の層厚の上限は10nmとするのが好ましい。
【0083】
本発明のチタン材は、チタン酸化物および白金族元素からなる被膜の表面における白金族元素の濃度を1.5%以上とするのが好ましい。ここで、被膜の表面における白金族元素の濃度とは、被膜が形成されたチタン材の白金族元素の濃度分布を深さ(厚さ)方向に測定した場合に深さ0mm位置の濃度を意味する。チタン酸化物および白金族元素からなる被膜の表面における白金族元素の濃度を1.5%以上とすることにより、チタン材が初期の接触抵抗を低減できるとともに良好な耐食性を確保できる。
【0084】
3.チタン材の製造方法
本発明のチタン材の製造方法は、前述の組成であるチタン合金を非酸化性酸で酸洗し、チタン合金表面に白金族元素を濃化させることを特徴とする。この酸洗による表面処理は、チタン酸化物および白金族元素からなる被膜、すなわち、良好な導電性を有する不動態被膜を形成するために行う。前述したとおり白金族元素のチタン合金表面への濃化は、チタン合金表面の酸化による溶解反応と同時に進行する。酸洗に硝酸等の酸化性酸を用いると酸化反応が過度に進行し、白金族元素による通電パスが形成されなくなり、接触抵抗が上昇する。このため、酸洗には非酸化性酸を使用する。
【0085】
チタン材の酸洗では、通常、酸化性酸が使用され、酸化性酸を使用する目的は酸洗により発生した水素を酸化することによりチタン合金内部への水素吸収を防止するためである。酸洗に酸化性酸を使用すると、一方でチタン合金表面の酸化層が厚くなる。よって、チタン合金内部への水素吸収を防止する目的で酸洗に酸化性酸を使用する場合であっても、白金族元素の濃化層厚さが10nm以下に抑制できる酸洗条件として使用すべきである。
【0086】
非酸化性酸としては、塩酸、硫酸等を採用できる。フッ酸も非酸化性酸ではあるが、チタン合金の溶解力が強く、白金族元素の再析出効率がやや劣ることと、単位時間当たりの水素の発生量が多く水素侵入の恐れが大きいことなど、使用には十分な管理が必要である。言うまでもないことであるが、塩酸、硫酸、フッ酸等を混合して使用しても問題ない。
【0087】
本発明のチタン材の製造方法は、非酸化性酸として、塩酸を必須成分とする非酸化性酸を用いるのが好ましい。これにより、後述する実施例で示すように、酸洗に要する時間を短くして1分以下にすることができる。このため、酸洗をオンラインで連続的に行うことが可能となり、生産性を向上させることができるからである。
【0088】
このように本発明のチタン材の製造方法は、酸洗によってチタン合金の表面にチタン酸化物および白金族元素からなる被膜を形成でき、この被膜は不動態被膜であり導電性が良好である。したがって、本発明のチタン材の製造方法は、従来法(非特許文献1等)の酸洗後の熱処理は必要がないために熱処理によるプレス成形チタン材の形状が変形するのを防止することができる。このため、プレスで所定の形状に成形されたチタン材が、その後の熱処理によって歪みが解放されることで変形するのを回避できる。このような本発明のチタン材の製造方法は、チタン製セパレータの生産性を向上させることができる。
【0089】
4.固体高分子型燃料電池
本発明の固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜を中央にして燃料電極膜と酸化剤電極膜を重ねあわせた単位電池を複数個、当該単位電池間にセパレータを介在させて積層した積層体に、燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池であって、セパレータが前述の本発明のチタン材からなることを特徴とする。本発明のチタン材は、前述のとおり、導電性が良好な不動態被膜が形成されており初期の接触抵抗が低減されるとともに良好な耐食性が確保されている。このようなチタン材をセパレータとして用いるので、本発明の固体高分子型燃料電池は、初期電圧が高く、かつ、経時劣化が小さい。
【実施例】
【0090】
本発明の優位性を確認するため、以下の試験を実施して、その結果を評価した。
【0091】
1.チタン材の準備
本試験では、被試験材であるチタン材として、従来例、本発明例および比較例のチタン材を準備した。以下に従来例、本発明例および比較例のチタン材について準備手順を記す。
【0092】
(1)従来例のチタン材
特許文献4および5に提案されるチタン材を得るために、市中よりTi−0.15Pd(JIS規格7種)、Ti−0.4Ni−0.015Pd−0.025Ru−0.14Cr(JIS規格14種)またはTi−0.05Pd(JIS規格17種)からなる板厚1mmのチタン合金薄板を入手した。
【0093】
[特許文献4のチタン材]
上記3種の薄板から30mm角の薄板片を切り出し、その薄板片の表面を耐水エメリーペーパー(SiC)によって乾式で研磨した。研磨は、粒度番手の異なる複数の耐水エメリーペーパーを用い、最後に♯600の耐水エメリーペーパーで仕上げた。研磨した薄板片をアセトン中で超音波洗浄した後、酸化性酸である硝酸の濃度を10質量%、かつ、非酸化性酸であるフッ酸の濃度を0.25質量%とした水溶液に10分間(25℃)浸漬することにより酸洗した。
その後、酸洗した試験片に熱処理を行い、チタン材(従来例1〜3)を得た。熱処理は、圧力を4×10-5torr雰囲気(酸素分圧は4×10-5torr以下)とした真空熱処理炉により、加熱温度を500℃、加熱時間を30分として行った。
【0094】
[特許文献5のチタン材]
上記3種の薄板から30mm角の薄板片を切り出し、その薄板片の表面を耐水エメリーペーパー(SiC)によって乾式で研磨した。研磨は、粒度番手の異なる複数の耐水エメリーペーパーを用い、最後に♯600の耐水エメリーペーパーで仕上げた。研磨した薄板片をアセトン中で超音波洗浄した後に酸洗を行い、チタン材(従来例4〜6)を得た。酸洗は、従来例5および6では、第1酸洗および第2酸洗を順に行い、第1酸洗と第2酸洗とで成分組成が異なる溶液を用いた。
【0095】
表2に、従来例のチタン材の材料番号、区分、基材としたチタン合金薄板の組成、規格、酸洗処理における溶液、その温度および浸漬時間、並びに、熱処理における酸素分圧、温度および時間をそれぞれ示す。
【0096】
【表2】

【0097】
(2)本発明例および比較例のチタン材
[チタン合金]
本発明例および比較例では、最初に、チタン合金を鋳造した。チタン合金の鋳造では、原料として市販の工業用純Tiスポンジ(JIS1種)、キシダ化学株式会社製パラジウム(Pd)粉末(純度99.9%)、キシダ化学株式会社製ルテニウム(Ru)粉末(純度99.9%)、キシダ化学株式会社製イットリウム(Y)削状(純度99.9%)、塊状の希土類元素および塊状の電解コバルト(Co)(純度99.8%)を使用した。希土類元素は、Mm、La、Ndとし、Mm以外は純度が99%のものを使用した。Mmの組成はLa:28.6%、Ce:48.8%、Pr:6.4%、Nd:16.2%であった。表3に、鋳造したチタン合金の材料番号、区分および組成を示す。ただし、表3の合金組成欄の「−」は、当該元素が検出限界以下であったことを示す。
【0098】
【表3】

【0099】
本発明例1〜16のチタン合金はいずれも本発明で規定する範囲の組成とし、本発明例15はYおよびRuのみを含有し、本発明例16はY、PdおよびRuを含有し、そして本発明例18は希土類元素(Mm)およびIrを含有し、それ以外の本発明例はYおよびPdのみを含有した。
【0100】
比較例1〜5のチタン合金はいずれも本発明で規定する範囲を逸脱する組成あるいは後述する白金族元素を表面に濃化する処理を施さないチタン材とした。比較例1は希土類元素を含有しないチタン合金、比較例2は希土類元素(Y)の含有率が本発明で規定する範囲を超えたチタン合金を用いた。また、比較例3は、白金族元素(Pd)の含有率が本発明で規定する範囲よりも低いチタン合金を用いた。比較例4は、希土類元素を含有しないチタン合金を用いた。比較例5は、本発明で規定する範囲の組成のチタン合金を用い、後述する白金族元素を表面に濃化させる酸洗を施すことなく、チタン材とした。
【0101】
[チタン材の作成方法]
本発明例および比較例では、上記原料からなる1個あたり約80gのインゴットをそれぞれ5個溶解し、その後、5個のインゴットを全て併せて再溶解して厚さ15mmの角形インゴットを作製した。完成した角形インゴットは均質化のために再溶解して再び厚さ15mmの角型インゴットとした。すなわち合計3回の溶解を行った。
【0102】
本発明例および比較例によるいずれの角型インゴットも微量の白金族元素や希土類元素を含有していることから、各元素の偏析を低減するために均質化の熱処理を以下の条件で施した。
雰囲気:圧力が10-3torr未満の真空雰囲気
加熱温度:1100℃
加熱時間:24時間
【0103】
均質化熱処理を施した角型インゴットは以下の手順で圧延して厚さ1.5mmの板材とした。
(a)1000℃に加熱したインゴットをβ相域熱間圧延することにより、圧延後の材料厚さ9mmとし、
(b)(a)で圧延した材料を875℃に加熱し、α+β相域熱間圧延することにより、圧延後の材料厚さ4.5mmとし(一部の材料は後述する(3)燃料電池セル評価でセパレータとして用いるために6.0mmとし)、
(c)(b)で圧延した材料を機械加工により表面および裏面のスケールを除去して金属光沢面を表面に露出させた後、冷間圧延で厚さ0.5mmの板材とした。
【0104】
圧延により得られた板材に、歪みとりのため、真空雰囲気下で加熱温度750℃、加熱時間30分間の焼鈍を施し、チタン材とした。
【0105】
本発明例および比較例(比較例5を除く)では、チタン材を酸洗し、チタン材表面に白金族元素を濃化させることによってチタン酸化物および白金族元素からなる被膜の形成を試みた。酸洗には、塩酸濃度を7.5質量%とした水溶液、硫酸濃度を25質量%とした水溶液、フッ酸濃度を1質量%とした水溶液または硝酸濃度が4質量%かつフッ酸濃度が1.5質量%とした水溶液を用いた。酸洗の際の水溶液の温度は30〜70℃で調整し、浸漬時間は0.5〜2分とした。表3に、酸洗に用いた水溶液、その温度および浸漬時間を併せて示す。
【0106】
本発明例14〜16では、酸洗したチタン材に熱処理を施した。熱処理は、窒素ガスと水素ガスの比率が1:3である無酸化性雰囲気とした連続式の光輝焼鈍設備またはArガスからなる不活性ガス雰囲気としたバッチ式焼鈍炉で行った。チタン材の加熱温度は450〜550℃とし、加熱時間は10〜30分とした。表3に、熱処理の雰囲気条件、加熱温度および加熱時間を併せて示す。当該欄の「−」は、熱処理を行わなかったことを示す。
【0107】
2.チタン材評価試験
上述の手順により得られた従来例、本発明例および比較例のチタン材を評価するため、接触抵抗の測定、耐食性調査および燃料電池セル評価を行った。その手順を以下に記す。
【0108】
(1)接触抵抗の測定
論文等(例えば、非特許文献1)で報告されている方法に準じ、下記図3に示す装置を用いて、チタン材の接触抵抗の測定を実施した。
【0109】
図3は、チタン材の接触抵抗の測定に用いた装置を示す模式図である。同図には、被試験材であるチタン材11と、金めっきが施された電極13と、ガス拡散層12とを示す。チタン材の接触抵抗の測定では、チタン材11をガス拡散層12で狭持し、これらを金めっきを施した電極13で挟む。この状態で金めっき電極13の両端に5kgf/cm2または20kgf/cm2で荷重を加えた後(同図の白抜き矢印参照)、電極間に一定の電流を流し、このときに生じるガス拡散層12とチタン材11との間の電圧降下を測定し、測定結果に基づいて接触抵抗を算出した。なお、算出された抵抗値は狭持した両面の接触抵抗を合算した値となるので、算出値を2で除してガス拡散層片面あたりの接触抵抗値で評価した。
【0110】
ガス拡散層12として、カーボンペーパー(東レ(株)製、TGP−H−90)用い、その面積は1cm2とした。電流値および電圧降下の測定には、デジタルマルチメータ((株)東陽テクニカ製 KEITHLEY 2001)を使用した。
【0111】
(2)電池模擬環境における耐食性調査
チタン材を90℃、pH2のH2SO4に96時間浸漬した後、十分に水洗して乾燥させ、その後、上述の接触抵抗測定を行った。耐食性が良好でない場合には、表面の不動態被膜が成長するので、浸漬前と比較し接触抵抗が上昇する。
【0112】
(3)燃料電池セル評価
[単セル電池]
燃料電池セル評価には、固体高分子型燃料単セル電池である米国Electrochem社製市販電池セルEFC50を改造して用いた。
【0113】
セルに用いたチタン製セパレータの詳細は、以下のとおりである。前記[チタン材の作成方法]で説明した(a)および(b)の手順によって熱間圧延を行い、厚さ6.0mmのチタン合金板を得た。このチタン合金板に、図1に示す形状で両面(アノード極側、カソード極側)に機械加工により溝幅2mm、溝深さ1mmのガス流路を切削、放電加工し、その後、表2または表3に示した条件で表面処理(酸洗、一部は酸洗および熱処理)を施しチタン製セパレータを得た。このチタン製セパレータについて、固体高分子型単セル電池内部にセパレータとして装填した状態で評価した。なお、実施例においては単セルで評価を行った。多セル積層した状態では、積層の技術の善し悪しが評価結果に反映されるためである。
膜電極接合体(MEA)は、東陽テクニカ製PFEC用スタンダードMEA(ナフィオン−1135使用)FC50−MEAを使用した。
【0114】
アノード極側燃料用ガスとしては99.9999%水素ガスを用い、カソード極側ガスとしては空気を用いた。電池本体は全体を70±2℃に保温すると共に、電池内部の湿度制御は、入り側露点を70℃とすることで調整した。電池内部の圧力は、1気圧である。
水素ガス、空気の電池への導入ガス圧は0.04〜0.20barで調整した。セル性能評価は、単セル電圧で0.5A/cm2において0.62±0.04Vが確認できた状態より継時的に測定を行った。
【0115】
[評価項目]
上記の単セル電池について以下の(a)〜(d)の項目の評価を行った。
(a)初期電池電圧
特性評価は、電池内に燃料ガスを流してから0.5A/cm2の出力で単セル電池の電圧を測定し、初期48時間の最も高い電池電圧を初期電池電圧と定義した。
【0116】
(b)電池の劣化度
初期電池電圧を記録した500時間後の電池電圧(0.5A/cm2の出力時)を用いて、下記の定義で燃料電池の劣化度を定義した。下記の定義から明らかなように、劣化度は、一時間毎の電池電圧低下割合を表す。
劣化度={初期電池電圧(V)−500時間後の電池電圧(V)}/500時間
【0117】
(c)Pd濃化層の層厚
表1に示したGDOESの測定条件で、チタン製セパレータの表面から深さ方向のPの濃度の分布を測定した。Pd濃度の分布の最大値に対して1/2の濃度になった深さを濃化層の層厚と定義した。チタン製セパレータのPd濃度分布の測定は、単セル電池に装填する前のものについて行った。
【0118】
(d)表面のPd濃度
表1に示したGDOESの測定条件で、チタン製セパレータの表面(Pd濃化層の表面)について酸素、チタン、Pdの定量値を測定し、Pd濃度を算出した。測定値は、酸素、チタンおよび白金族元素の合計が100%になるように補正した。チタン製セパレータのPd濃度分布の測定は、単セル電池に装填する前のものについて行った。
【0119】
3.試験結果
表4に、従来例、本発明例および比較例における材料番号、試験区分、白金族元素の含有率、酸洗における浸漬時間、初期および耐食性試験後の接触抵抗、単セル電池の初期電圧および劣化度、並びに、チタン製セパレータのPd濃化層の層厚および表面のPd濃度をそれぞれ示す。ただし、単セル電池の初期電圧および劣化度の欄における「−」は、セパレータが高接触抵抗であるため、単セル電池評価を行わなかったことを示す。また、Pd濃化層の層厚および表面Pd濃度の欄における「−」は、Pdが検出されなかったまたは、Pd以外の白金族を添加した供試材であることを示す。
【0120】
なお、従来例4は、初期および耐食試験後の接触抵抗が高い値を示し、セパレータに適した材料とは考えられないため、単セル電池評価を行わなかった。この従来例4では、表面Pd濃化層の有無を調査したが、表面の約70μmに濃化層が認められたが、しかし、その直下にチタンのみによって構成されたPdを含有しない酸化物の層が観察された。この酸化物層が電気的な接合を遮断するため、高い接触抵抗を示すと推測される。
【0121】
【表4】

【0122】
[従来例]
従来例1〜6は、酸洗における浸漬時間がいずれも10分以上であった。このうち従来例1〜3は、特許文献4で提案されるチタン材に相当し、酸洗した後に熱処理が必要であった。従来例4〜6は、特許文献5で提案されるチタン材に相当し、このうち従来例4は、接触抵抗、特に耐食試験後の接触抵抗が高くセパレータとして不適である。また、従来例5および6は、酸洗処理を2回施し、合計の浸漬時間が15分以上であり、生産性が問題となることから、セパレータとして不適である。
【0123】
荷重を5kf/cm2とした時の初期接触抵抗が特許文献4で規定される10mΩ・cm2以下となったのは、従来例1〜6のうちで従来例1のみである。この従来例1ではPd含有率が0.15%と高かった。
【0124】
単セル電池の初期電圧については、従来例1および3は0.7Vの電圧を有しており、接触抵抗が低いことを反映して高い電圧を示した。一方、それ以外の従来例2、5および6では、接触抵抗が高いこと反映して初期電圧が0.7V未満となった。
【0125】
これらから、従来例1〜6は酸洗に時間を要すること、特許文献4に規定される初期接触抵抗を得るにはPdの含有率が0.15%以上が必須であること、場合によっては酸洗後にコストアップ要因となる熱処理が必要となることが明らかになった。
【0126】
[本発明例]
本発明例1〜16では、酸洗の浸漬時間が2分以下であり、従来例1〜6と比較して短時間であることが確認できた。したがって、本発明のチタン材が、生産性が高いことが確認できた。
【0127】
本発明例1〜16では、荷重を5kf/cm2とした時の初期および耐食性試験後の接触抵抗がいずれも15Ω・cm2未満であり、概して従来例より接触抵抗が低くなった。従来例のなかでも同等の低い接触抵抗を示す事例があるが、これらの材料はPd含有率が0.15%で高い場合である。本発明のチタン材では、本発明例4でPd含有率が0.005%と少ない場合でも接触抵抗の低減が実現でき、経済性に優れる。
【0128】
また、本発明例のチタン製セパレータで構成した単セルの初期電圧は、いずれも0.7V以上と高い電圧であり、劣化度も−1.0μV/hrより軽微であった。したがって、本発明のチタン材は、少ないPd含有率で高い電圧かつ単セルの劣化度が小さい電池が実現できることから、経済性に優れる。
【0129】
[希土類元素の含有率]
材料No.7〜11のチタン材では、白金族元素であるPdの含有率を0.02%で固定しつつ希土類元素の含有率を変化させた。また、これらのチタン材の酸洗では、浸漬時間はいずれも1分とした。希土類元素を添加しない場合(材料No.10 比較例1)では、表4に示すようにPd濃化層の層厚が0nmとなるとともに表面のPd濃度が0%となったことから、酸洗による白金族元素濃化が表面に生じなかった。その結果、チタン材の接触抵抗が高くなり、チタン製セパレータを用いた単セル電池で初期電圧が低下するとともに劣化も大きくなった。このことから、酸洗による表面処理の時間短縮、すなわち、白金族元素濃化の速度向上には、希土類元素が必須元素であることが確認された。
【0130】
これに対し、材料No.7〜9(本発明例1〜3)では、希土類元素の含有率を0.002〜0.10%の範囲内とし、いずれのチタン材も酸洗後の表面に白金族元素が濃化した層が層厚1nm以上で形成されるとともに、初期および耐食性試験後の接触抵抗が良好であった。また、いずれのチタン製セパレータを用いた単セル電池も初期電圧および劣化度が良好であった。
【0131】
一方、材料No.11(比較例2)では、希土類元素の含有率が0.10%を超え、初期の接触抵抗は良好であったが、耐食性試験後の接触抵抗が高くなった。比較例2で耐食性試験後の接触抵抗が高くなった理由について原因を調査したわけではないが、添加した希土類元素が固溶せずに残存する、あるいはチタンと化合物を生成し耐食性を悪化させてしまうことが原因として考えられる。以上の試験結果より、本発明のチタン材で希土類元素の含有率を0.002〜0.10%とするのが妥当であることが確認できた。
【0132】
[白金族元素の含有率]
白金族元素は非常に高価であり、例えばPdは1950円/kg(日経新聞市況2011年8月24日)。このため、チタン材の添加元素として使用する場合、添加量を微量にすることが望まれる。
【0133】
材料No.12(比較例3)および材料No.13(本発明例4)では、いずれも希土類元素であるYの含有率を0.02%とし、白金族元素であるPdの含有率を変化させた。材料No.12(比較例3)では、Pdの含有率を0.004%とし、耐食性試験後の接触抵抗が荷重を5kgf/cm2とした場合で15mΩ・cm2を超えた。これに対し、材料No.13(本発明例4)では、Pdの含有率を0.005%とし、初期および耐食性試験後の接触抵抗が、荷重にかかわらず、いずれも15mΩ・cm2以下となり良好であった。このため、本発明のチタン材で白金族元素の含有率の下限を0.005%とするのが妥当であることが確認できた。
【0134】
一方、白金族元素の含有率の上限は、前述のとおり、過剰に添加してもその改善効果が限定的であること、また経済性の観点で、低コスト化が求められる固体高分子燃料電池用のセパレータには適合しない価格となることから、0.15%とした。経済性と改善効果のバランスから白金族元素の含有率は本発明例8および9に示すように0.05%を上限とすることが好ましい。
【0135】
[酸洗に用いる処理溶液]
材料No22〜23(本発明例11〜13)では、酸洗による表面処理で塩酸以外の非酸化性酸を含有する溶液を用い、浸漬時間が1.5〜2分となった。一方、材料No.7〜9および13〜19(本発明例1〜10)では、酸洗による表面処理で非酸化性酸として塩酸を含有する溶液を用い、浸漬時間がいずれも1分以下となった。このことから、本発明のチタン材の製造方法は、生産性を重視する観点から、塩酸を必須成分とする非酸化性酸を用いるのが好ましいことが確認できた。
【0136】
[表面のPd濃化層の層厚およびPd濃度]
材料No.20(比較例4)では、白金族元素の濃化層の層厚が1nm未満となるとともに、表面の白金族元素の濃度が1.5%未満となった。この場合、チタン材では、初期および耐食性試験後の接触抵抗が15mΩ・cm2を超え、チタン製セパレータを用いた単セル電池では、初期電圧が低くなるとともに、劣化度も大きくなった。一方、材料No.7〜9、13〜19および22〜27(本発明例1〜16)では、いずれのチタン材でも白金族元素の濃化層の層厚が1nm以上となるとともに、表面の白金族元素の濃度が1.5%以上となった。その結果、チタン材では、初期および耐食性試験後の接触抵抗が良好となり、チタン製セパレータを用いた単セル電池では、初期電圧および劣化度が良好となった。
【0137】
[単セル電池の評価]
材料No.7〜9、13〜19および22〜27(本発明例1〜16)では、チタン製セパレータを用いた単セル電池で初期電圧がいずれも0.7V以上となるとともに、劣化度が−1.0μV/h以上となった。したがって、本発明のチタン材を固体高分子型燃料電池セパレータとして用いれば、初期電圧が高く、かつ、経時劣化が小さくした優れた固体高分子型燃料電池を提供できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明のチタン材は、希土類元素を含有することから、酸洗に要する時間を短くしてチタン材の表面に導電性が良好な被膜を形成できる。この被膜により、本発明のチタン材は、初期の接触抵抗の低減が実現できるとともに、良好な耐食性が確保することができる。また、本発明のチタン材の製造方法は、酸洗後に熱処理を施すことなく、導電性が良好な被膜を形成できることから、生産性を向上できる。本発明の固体高分子型燃料電池は、セパレータとして上述の接触抵抗の低減が実現されるとともに良好な耐食性が確保された本発明のチタン材を用いることから、初期電圧が高く、かつ、経時劣化が小さい。
【0139】
したがって、本発明のチタン材並びにその製造方法およびそれを用いた固体高分子型燃料電池は、固体高分子型燃料電池の性能向上に大きく寄与することができ、燃料電池の分野に広く適用できる。
【符号の説明】
【0140】
1:燃料電池、 2:固体分子電解質膜、 3:燃料電極膜、 4:酸化剤電極膜、
5aおよび5b:セパレータ、 6aおよび6b:流路、
11:チタン材(被試験材)、 12:ガス拡散層(カーボンぺーバー)、
13:金めっき電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、白金族元素:0.005%〜0.15%および希土類元素:0.002〜0.10%を含有し、残部がTiおよび不純物からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【請求項2】
前記チタン材の表面にチタン酸化物および白金族元素からなる被膜が形成されており、前記被膜の厚さが50nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【請求項3】
前記被膜の表面における白金族元素の濃度が1.5質量%以上であることを特徴とする請求項2に記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【請求項4】
前記希土類元素がYであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【請求項5】
前記白金族元素がPdであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材。
【請求項6】
質量%で、白金族元素:0.005%〜0.15%および希土類元素:0.002〜0.10%を含有し、残部がTiおよび不純物からなるチタン合金を非酸化性酸で酸洗し、該チタン合金表面に白金族元素を濃化させることを特徴とする固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材の製造方法。
【請求項7】
前記非酸化性酸として、塩酸を必須成分とする非酸化性酸を用いることを特徴とする請求項6に記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用チタン材の製造方法。
【請求項8】
固体高分子電解質膜を中央にして燃料電極膜と酸化剤電極膜を重ねあわせた単位電池を複数個、当該単位電池間にセパレータを介在させて積層した積層体に、燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池であって、前記セパレータが請求項1〜5のいずれかに記載のチタン材からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−109891(P2013−109891A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252582(P2011−252582)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】