説明

固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法およびそれを用いた固体高分子形燃料電池

【課題】触媒金属が反応界面に選択的に担持した固体高分子形燃料電池用電極触媒において、触媒金属の担持量を増加させ、製造工程の大幅な簡略化が可能な、固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法と、この製造方法で得られた燃料電池用電極触媒を用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法において、陽イオン交換樹脂溶液にカーボンを分散させる第1の工程と、前記分散物から溶媒を除去し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を形成する第2の工程と、前記混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にする第3の工程と、前記混合物に含まれる陽イオン交換樹脂の固定イオンに触媒金属の陽イオンを吸着させる第4の工程と、前記吸着した触媒金属の陽イオンを還元する第5の工程とを経ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法およびそれを用いた固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)の単セルは、膜/電極接合体を一対のセパレータで挟持した構造である。その膜/電極接合体は、高分子電解質膜の一方の面にアノ−ドを、もう一方の面にカソ−ドを接合したものである。セパレータにはガス流路が加工されている。たとえば、アノ−ドに燃料として水素、カソ−ドに酸化剤として酸素を供給することによって、電力が得られる。そのアノ−ドおよびカソ−ドでは、つぎのような電気化学反応が進行する。
【0003】
アノ−ド:2H→4H+4e・・・・・・・・・・・(1)
カソ−ド:O+4H+4e→ HO・・・・・・・(2)
アノードでは、水素ガスが触媒金属上で(1)式により酸化をうけ、カソードでは、酸素ガスが触媒金属上で(2)式により還元をうける。
【0004】
固体高分子形燃料電池の電極は、一般に触媒層と導電性多孔質体とから構成されている。その導電性多孔質体には、撥水性を付与した多孔質なカーボンペーパーなどが用いられる。
【0005】
固体高分子形燃料電池用電極の触媒層は、固体高分子電解質である陽イオン交換樹脂、カーボン、および電気化学反応を円滑に進めるために触媒金属を含む。
【0006】
従来の電極は、たとえば、触媒金属を担持したカーボン粉末と高分子電解質の溶液との混合物を高分子電解質膜あるいは導電性多孔質体に塗布することによって製作される。その従来の電極では、触媒金属が反応界面以外にも存在するので、その金属の利用率が著しく低い。すなわち、その利用率は10%程度であることが、非特許文献1で報告されている。
【0007】
その触媒金属を陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に形成される反応界面に選択的に担持した触媒層を備える固体高分子形燃料電池用電極が開発され、非特許文献2で開示されている。この触媒金属は、電気化学的な反応が進行する反応界面に選択的に担持されるので、その金属の利用率が従来の固体高分子形燃料電池用電極よりも著しく高い。
【0008】
この触媒金属が反応界面に選択的に担持された電極の触媒担持方法は、特許文献1で開示されているように、触媒金属のイオンを陽イオン交換樹脂に吸着したのち、化学的に還元するというものであるが、必要量の触媒金属を担持させるのに、この吸着、還元を複数回繰り返しおこなっている。しかし、実用化には製作工程の簡略化が必要である。
【0009】
【特許文献1】特開2000−012041号公報
【非特許文献1】Edson A.Ticianelli,J.Electroanal.Chem.,251,275(1988)
【非特許文献2】人見、安田、山地、第40回電池討論会講演要旨集、2B15、167−168(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1で開示されている、触媒金属が反応界面に選択的に担持した触媒層を備える固体高分子形燃料電池用電極の製作工程はつぎのとおりである。
【0011】
まず、第1の工程では、陽イオン交換樹脂溶液にカーボンを分散させる。第2の工程では、前記分散物から溶媒を除去し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を得る。第3の工程では、前記陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を触媒金属の陽イオンを含む溶液に浸漬することにより、陽イオン交換樹脂の固定イオンと陽イオンとのイオン交換反応により、混合物に含まれる陽イオン交換樹脂のプロトン経路の固定イオンに触媒金属の陽イオンを吸着させる。第4の工程では、前記吸着した触媒金属の陽イオンを、水素ガスまたは水素を含むガスによって還元して、触媒金属とする。
【0012】
しかしながら、従来の方法では、触媒金属の陽イオンの吸着量が、陽イオン交換樹脂の固定イオンの数から理論的に計算される量よりも、著しく低下していることが、詳細な調査の結果明らかとなった。そのため、20から40オングストロームの大きさをもつ高活性な触媒金属を必要量得るためには、特許文献1に記載されているように、この吸着、還元を複数回繰り返しおこなっていた。
【0013】
従来の方法の場合、陽イオン交換樹脂の製造工程およびその樹脂とカーボンとの混合物を製作する工程でナトリウムイオンなどのプロトン(H)以外のカチオンが混入するので、陽イオン交換樹脂中の陽イオン交換基にそのカチオンが吸着する。この吸着によって触媒金属の陽イオンの吸着が妨げられるので、触媒金属の陽イオンの吸着量が減少することが明らかになった
本発明は、この吸着量の低下の原因を究明すべく種々の実験をおこなった結果なされたものであり、触媒金属が反応界面に選択的に担持した固体高分子形燃料電池用電極触媒において、触媒金属の担持量を増加させ、製造工程の大幅な簡略化が可能な、固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法と、この製造方法で得られた燃料電池用電極触媒を用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法において、陽イオン交換樹脂溶液にカーボンを分散させる第1の工程と、前記分散物から溶媒を除去し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を形成する第2の工程と、前記混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にする第3の工程と、前記混合物に含まれる陽イオン交換樹脂の固定イオンに触媒金属の陽イオンを吸着させる第4の工程と、前記吸着した触媒金属の陽イオンを還元する第5の工程とを経ることを特徴とする。
【0015】
請求項2の発明は、上記第3の工程において、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を酸性溶液に接触させることを特徴とする。
【0016】
請求項3の発明は、固体高分子形燃料電池において、上記請求項1または2記載の製造方法で得られた燃料電池用電極触媒を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法では、陽イオン交換樹脂の固定イオンに触媒金属の陽イオンを吸着させる第4の工程の前に、第3の工程において、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にすることにより、触媒金属の陽イオンの吸着量を著しく増加させることができる。
【0018】
陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にする方法としては、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を酸性溶液に接触もしくは浸漬させることによって、酸性溶液のプロトンと陽イオン交換樹脂に不純物として吸着しているカチオンとのイオン交換反応が起こるので、陽イオン交換樹脂が完全なプロトン型になる。
【0019】
第3の工程で、陽イオン交換樹脂を完全なプロトン型とすることにより、陽イオン交換樹脂に含まれるプロトンの量が増大し、第4工程では、そのプロトンと触媒金属の陽イオンとのイオン交換は容易におこるので、電極の触媒金属の担持量が増加する。
【0020】
本発明の製造方法を適用することによって、従来法より少ない回数の吸着、還元工程によって、必要量の触媒金属をカーボンに担持させることが可能となった。したがって、製造工程の大幅な簡略化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、陽イオン交換樹脂溶液にカーボンを分散させ、この分散物から溶媒を除去し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を形成し、この混合物に含まれる陽イオン交換樹脂の固定イオンに触媒金属の陽イオンを吸着させ、吸着した触媒金属の陽イオンを還元する工程を経る、触媒金属が陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に選択的に担持された固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法において、吸着工程の前に、陽イオン交換樹脂とカーボンとの混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にする工程を導入することによって、活性の高い触媒の担持量が著しく増大させることができるものである。
【0022】
なお、陽イオン交換樹脂の「イオン交換容量」とは、乾燥した陽イオン交換樹脂1g中にある固定イオンのミリ当量を意味する。
【0023】
陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にするためには、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を酸性溶液に接触もしくは浸漬させる方法を用いる。
【0024】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法のフロー図を図1に示す。本発明の製造方法では、主に5つの工程を経ることが特徴である。すなわち、第1の工程では、陽イオン交換樹脂溶液にカーボンを分散させる。第2の工程では、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を形成する。第3の工程では、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にする。その具体的方法としては、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を酸性溶液に接触させる。第4の工程では、その混合物に含まれる陽イオン交換樹脂の固定イオンに触媒金属の陽イオンを吸着させる。第5の工程では、吸着した陽イオンを還元する。
【0025】
第2の工程で形成された陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物の混合物の形状は、厚さ2μm〜30μmのシートであること、または粉末であることが好ましい。シートの場合、各工程終了後、触媒層としてそのまま使用することが可能である。粉末の場合、プレスまたは溶媒に分散させたのちに基材に塗布することによってシートを形成し、それを触媒層として用いることが可能である。
【0026】
本発明の燃料電池用触媒を備える固体高分子形燃料電池の断面を模式的に図2に示す。図2において、11は本発明の燃料電池用電極触媒、15は陽イオン交換膜、16は導電性多孔質体、17はガス供給路、18はセパレータ、19はシール材、20は固体高分子形燃料電池である。
【0027】
図2に示した本発明の固体高分子形燃料電池では、燃料電池用電極触媒11が、陽イオン交換膜15のそれぞれの面に接触するように配置される。燃料電池用電極触媒11の他方の面には、撥水性を付与した導電性多孔質体16の一面が接触するように配置される。さらに、その導電性多孔質体16の他面にはガス供給路17を備えるセパレータ18が接触するように配置される。
【0028】
図2に示すように固体高分子形燃料電池20は、一対の電極11と、一対の導電性多孔質体16と、一対のセパレータ18とで陽イオン交換膜15を挟持することによって構成される。そのセパレータ間には、ガスケットやOリングなどのシール材19を配することによって、反応ガスの気密が保たれる。
【0029】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法を用いることによって、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に触媒金属が選択的に担持された電極を製作することができる。その電極触媒11の内部構造の模式図を図3に示す。図3において、11は本発明の燃料電池用電極触媒、12はカーボン、13は陽イオン交換樹脂、14は細孔、15は高分子電解質膜(陽イオン交換膜)である。
【0030】
燃料電池用電極触媒11は、カーボン12と陽イオン交換樹脂13とを含有する。その陽イオン交換樹脂13には、たとえばパーフルオロスルホン酸樹脂あるいはスチレンジビニルベンゼンスルホン酸樹脂などを用いることができる。カーボン12と陽イオン交換樹脂13とが混ざり合うことによって、カーボン12、陽イオン交換樹脂13および細孔14が三次元的に分布する。カーボン12の表面には、図示していないが触媒金属の微細粒子が担持されている。その触媒層11が、高分子電解質膜15に接合される。
【0031】
触媒金属は、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に選択的に担持されている。そのカーボンの表面近傍を模式的に図4に示す。図4において、12はカーボン、13は陽イオン交換樹脂、31はプロトン伝導経路、32は疎水性領域、33は触媒金属である。
【0032】
カーボン12の表面は陽イオン交換樹脂13によって被覆されている。その陽イオン交換樹脂13は、親水性であるプロトン伝導経路31と疎水性領域32とから構成される。そのプロトン伝導経路31とカーボン12の表面との接面に触媒金属33が選択的に担持されている。ところで、パーフルオロスルホン酸樹脂などの陽イオン交換樹脂は、H.L.Yeager等(J.Electrochem.Soc.,128,1880,(1981))および小久見等(J.Electrochem.Soc.,132,2601(1985))の報告に記載されているように、主鎖が集合した疎水性領域と側鎖が集合した親水性領域とにミクロ相分離した構造であることが知られている。
【0033】
その疎水性領域は、ポリテトラフルオロエチレンに類似の構造であるので、反応物および水の透過は著しく少ない。一方、その親水性領域では、側鎖の先端に結合しているイオン交換基がクラスターを形成しており、そのクラスターに水が取り込まれることによって、対イオンが移動可能な状態になる。つまり、水、プロトンおよび反応物(水素または酸素)は、親水性領域を移動することができる。
【0034】
したがって、陽イオン交換樹脂13の親水性領域であるプロトン伝導経路31とカーボン12の表面との接面に担持された触媒金属33は反応界面を形成することができるので、電気化学的な反応に対して活性である。逆に、陽イオン交換樹脂13の疎水性領域32とカーボン12の表面に存在する触媒金属は反応物およびプロトンの供給がおこらないので、電気化学的な反応に対して不活性である。
【0035】
これらの方法で製作した燃料電池用電極触媒において、触媒金属は、吸着した陽イオンがカーボンの触媒作用によって還元されるので、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンとの接面に備えた触媒金属の割合が、全触媒金属に対して50wt%以上となるため、触媒金属の利用率が高くなる。少量の担持量で高い性能を有するためには、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンとの接面に備える触媒金属の割合は、全触媒金属に対して80wt%以上であることが好ましい。
【0036】
陽イオン交換樹脂を備えた触媒金属担持カーボン粒子の全触媒金属の量に対するカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属量の割合はつぎの式で定義される。
【0037】
R=W/W・・・・・・・・・・・(1)
式(1)では、Rが全触媒金属の量に対するカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスター(プロトン伝導経路)との接面に担持された触媒金属量の割合、Wがカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属量(単位はg)、Wが全触媒金属の量(単位はg)を示す。WとWとの値はたとえば以下の方法でそれぞれ得ることができる。
【0038】
の値は、陽イオン交換樹脂を備えた触媒金属担持カーボン粒子のすべての触媒金属のうちの、カーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属の表面積を測定したのちに、その値をつぎの式に代入することによって得ることができる。
【0039】
=S(W/S)・・・・・・・・(2)
式(2)では、Sがカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属の表面積(単位はcm)、Wがすべての触媒金属から無作為に選んだN個の触媒金属の量の合計(単位はg)、Sがすべての触媒金属から無作為に選んだN個の触媒金属の表面積の合計(単位はcm)を示す。Sは、触媒金属の表面で生じる水素の脱離反応に起因する電荷量を求めて、この電荷量をつぎの式に代入することによって計算することができる。
【0040】
=Q/a・・・・・・・・・・・・・(3)
式(3)では、Qが水素の脱離反応に起因する電荷量(単位はC)、aが触媒金属の表面1cmでの水素の脱離反応に起因する電荷量(単位はC/cm)である。aの値は、たとえば触媒金属が白金の場合、210×10−6である。
【0041】
電荷量Qは、まず、陽イオン交換樹脂を備えた触媒金属担持カーボン粒子を含むシートを製作したのちに、このシートを触媒層として備えた燃料電池を製作し、つぎに、その触媒層を含む電極にアルゴンガスを流しながらその電極電位を0.05Vvs.SHEから1Vvs.SHEまで20mV/secで走査したときに検出されるアノード電流のうち触媒金属表面で水素の脱離反応に起因する電流を時間で積分することによって得ることができる。
【0042】
つぎに、WとSとは、無作為に選んだN個の触媒金属の粒子半径(r、r、・・・r)を透過形電子顕微鏡で観察することによってそれぞれ測定したのちに、その粒子半径をつぎの式(4)と式(5)とに代入することによってそれぞれ得ることができる。
【0043】
【数1】

【0044】
【数2】

【0045】
これらの式では、ρが触媒金属の密度、Nが触媒金属の個数、rは触媒金属の粒子半径である。なお、Nの値は、統計的な有意性を高めるために少なくとも30以上であることが好ましい。ただし、触媒金属の粒子の大きさのバラツキが少ないときは、Nの値が30より小さくても統計的な優位性は充分に高い。Wの値は、陽イオン交換樹脂を備えた触媒金属担持カーボン粒子中のすべての触媒金属を王水で抽出したのちに、その王水中の触媒金属量を定量することによって得ることができる。定量にはたとえばICP発光分析法を用いることができる。
【0046】
高分子電解質膜15には、たとえばパーフルオロスルホン酸樹脂を用いることができる。導電性多孔質体16には、高電子伝導性で、多孔性のカーボンペーパーあるいはカーボンフェルトなどを用いることができる。
【0047】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法において、第1の工程では、陽イオン交換樹脂溶液にカーボンブラックなどの炭素の粉末を加えたのちに混合することによって、ペースト状の分散物を調製する。
【0048】
第2の工程では、分散物から溶媒を除去し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を形成する。この混合物の形状は、シート状または粉末状のいずれでもよい。シート状混合物は、ペースト状の分散物を基材に塗布したのちに乾燥することによって得られ、粉末状混合物は、ペースト状の分散物を乾燥し、粉砕することによって得られる。
【0049】
陽イオン交換樹脂は、たとえば、パーフルオロカーボンスルホン酸型またはスチレン−ジビニルベンゼンスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いることができる。その溶液の溶媒には、水とアルコールとが任意の割合で混合したものを用いることができる。分散物の粘度は、陽イオン交換樹脂の溶媒量に応じて変化する。したがって、陽イオン交換樹脂の濃度を選択することによって、種々の粘度を有する分散物を調製することができる。たとえば、陽イオン交換樹脂の濃度が高い場合には、その分散物の粘度が高くなる。さらに、粘度が低い分散物から溶媒を除去することによって、その粘度を増大することができる。その分散物を塗布する基材には、高分子シートあるいは金属箔などを用いることができる。
【0050】
第3の工程では、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にする。具体的には、第2の工程で形成された、シート状または粉末状の陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を、硫酸、硝酸、塩酸のうちから選ばれる少なくとも1種類以上の酸性溶液に浸漬あるいは接触することによって、混合物中に含まれる陽イオン交換樹脂に不純物として吸着したナトリウム等のプロトン以外のカチオンを酸性溶液中のプロトンとイオン交換させたのちに、混合物を脱イオン水で洗浄する。
【0051】
第3の工程を経た陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるナトリウム等のプロトン以外のカチオンは、ICP分光分析によって定量することができる。具体的な定量の手順としては、はじめに、一定量の陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を王水等の酸性溶液に浸漬することによって、ナトリウム等のプロトン以外のカチオンを抽出する。つづいて、その抽出溶液を必要ならば濃縮したのちに、ICP分光分析を用いて目的のイオンを定量する。陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるナトリウム等のプロトン以外のカチオンの割合の算出方法は、一定量の混合物中の陽イオン交換樹脂の対イオンをすべてナトリウムイオンに置換したのちに、同様の方法でナトリウムイオンを定量した値に対する、混合物中の不純物カチオンの値から求める。
【0052】
また、第3の工程において、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を酸性溶液に浸漬あるいは接触させる場合、酸性溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸のうちから選ばれる少なくとも1種類以上の溶液を用いることができる。これらの中では、陽イオン交換樹脂にはスルホン酸基が含まれていることから、硫酸を用いることが好ましい。
【0053】
陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を酸性溶液に浸漬あるいは接触させる場合、酸性溶液の濃度としては0.1〜5.0mol/Lが好ましい。濃度が0.1mol/Lより薄いと、プロトンとのイオン交換が不十分となり、5.0mol/Lより濃すぎると陽イオン交換樹脂が分解される恐れが生じるためである。
【0054】
また、酸性溶液の温度としては30〜120℃が好ましい。温度が30℃よりも低いとプロトンとのイオン交換に長時間必要になり、120℃よりも高いと陽イオン交換樹脂の軟化がおこる恐れが生じるためである。
【0055】
さらに、陽イオン交換樹脂に不純物として吸着しているカチオンとプロトンとのイオン交換反応によって、陽イオン交換樹脂が完全なプロトン型とするためには、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を酸性溶液に浸漬あるいは接触させる時間は、酸性溶液の濃度や温度にもよるが、30分以上必要である。
【0056】
第4の工程では、触媒金属となる金属元素が含まれる化合物を水またはアルコールを含む水に溶解した溶液を調製する。その溶液は、触媒金属となる陽イオンを含有する。つぎに、その溶液に、第3の工程で製作した陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を浸漬することによって、混合物中に含まれる陽イオン交換樹脂に、触媒金属となる金属元素の陽イオンを吸着させる。この吸着は、その陽イオン交換樹脂の固定イオンと、その陽イオンとのイオン交換反応によるものである。
【0057】
そのとき、イオン交換させる陽イオンを二種類以上用いることによって、混合物に二種類以上の金属の陽イオンを吸着することができる。その陽イオンは、陽イオン交換樹脂が被覆されずに露出しているカーボン表面には吸着し難く、陽イオン交換樹脂の対イオンとのイオン交換反応により陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に優先的に吸着するものが好ましい。そのような吸着特性を持つ白金族金属を含む陽イオンとして、白金族金属の錯イオン、とくに[Pt(NH2+や[Pt(NH4+などとあらわすことができる白金のアンミン錯イオン、または[Ru(NH(N)]3+が好ましい。
【0058】
第5の工程では、第4の工程で得られた陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物に含まれる陽イオンを化学的に還元する。この第5の工程は、量産に適した還元剤を用いる化学的な還元方法を用いることが好ましく、とくに、水素ガスまたは水素を含むガスによって気相中で還元する方法またはヒドラジンを含む不活性ガスによって気相中で還元する方法が好ましい。ここで、水素ガスを含むガスとは、水素ガスと窒素やヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガスであることが好ましく、水素ガスを10vol%以上含むことが好ましい。
【0059】
この第5の工程において、カーボンが白金族金属の陽イオンの還元反応に対して触媒としての活性を有するので、200℃以下の温度でも、陽イオン交換樹脂に含まれるその陽イオンを還元することができる。
【0060】
たとえば、パーフルオロカーボンスルホン酸型陽イオン交換樹脂膜中に吸着した白金アンミン錯イオン[Pt(NH2+の水素による還元温度は約300℃で(境哲男、大阪工業技術試験所季報、36,10(1985))あるが、交換基を修飾したカーボン粒子(Denka Black、Vulcan XC−72、Black Pearl2000等)の表面に吸着した[Pt(NH2+のそれは、180℃であることが報告されている(K.Amine,M.Mizuhata,K.Oguro,H.Takenaka,J.Chem.Soc.Faraday Trans.,91,4451(1995))。
【0061】
この活性によって、カーボンの表面近傍の陽イオンが優先的に触媒金属まで還元されるので、そのカーボンの表面に触媒金属が生成する。その触媒金属は、陽イオンの還元反応に対して触媒としての活性を有するので、陽イオン交換樹脂中の陽イオンが触媒金属まで還元される。この還元に用いる、還元剤の種類、還元剤濃度、還元圧力、還元時間、還元温度を適時調整することによって、カーボンの表面に生成する触媒金属の粒径や表面性状を制御することができる。
【0062】
本発明の製造方法の第1から第5の工程を、第2の工程でシート状混合物を形成する例について説明する。まず、第1の工程では、カーボンとしてVulcan XC−72と陽イオン交換樹脂溶液としてナフィオン溶液とから分散物を調製した。
【0063】
つぎに、第2の工程では、その分散物を高分子シートに塗布および乾燥することによってシート状の陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を製作する。
【0064】
つづいて、第3の工程では、酸性溶液として希硫酸を調製したのち、その溶液にシート状混合物を浸漬することによって、陽イオン交換樹脂の対イオンをプロトン化する。
【0065】
そのあと、第4の工程では、触媒金属となる化合物として[Pt(NH]Clの水溶液を調製したのちに、その溶液に混合物を浸漬することによって、陽イオン交換樹脂の対イオン(H)とのイオン交換反応により、[Pt(NH2+を陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に吸着する。
【0066】
つづいて、第5の工程では、その混合物を180℃以上の水素ガス雰囲気中で還元することによって、触媒金属としての白金を陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に選択的に形成する。この方法を用いることによって、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン粒子との接面に触媒金属が担持された固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造が可能となる。
【0067】
本発明の製造方法によって得られた固体高分子形燃料電池用電極触媒では、従来の製造方法で製作した触媒と比較して、白金担持量が増大する。その理由をつぎに説明する。従来の方法の場合、陽イオン交換樹脂の製造工程や、その樹脂とカーボンとの混合物を製作する工程においてナトリウムイオンなどのプロトン(H)以外のカチオンが混入し、陽イオン交換樹脂中の陽イオン交換基にそのカチオンが吸着するために触媒金属の陽イオンの吸着が妨げられ、触媒金属の陽イオンの吸着量が減少するものと考えられる。
【0068】
一方、本発明の製造方法のように、第3の工程で酸処理を経ることにより、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物に含まれるプロトン以外のカチオンを200ppm以下にした場合、酸性溶液のプロトンと陽イオン交換樹脂に不純物として吸着しているカチオンとのイオン交換反応が起こり、陽イオン交換樹脂が完全なプロトン型になるので、触媒金属の陽イオンとそのプロトンとのイオン交換が容易におこる。触媒金属の陽イオンが容易に陽イオン交換樹脂の対イオンに吸着することができる。したがって、本発明の製造方法を用いて製作した固体高分子形燃料電池用電極触媒の白金担持量は従来の場合と比較して増大する。
【実施例】
【0069】
[実施例1]
以下、本発明を好適な実施例を用いて説明する。
【0070】
まず、本発明の製造方法を用いて固体高分子形燃料電池用電極触媒を製作した。第1の工程では、陽イオン交換樹脂溶液(アルドリッチ社製、ナフィオン5質量%溶液)80gを容器に採取した。その溶液に、カーボンとしてVulcan XC−72(キャボット社製)を6g添加したのちに、羽式攪拌器を用いて超音波を照射しながら1時間攪拌することによって分散物を調製した。
【0071】
つぎに、第2の工程では、容器を50℃の恒温水槽に設置したのちに、その分散物を羽式攪拌器で攪拌した。このとき、混合物の溶媒が蒸発するので、その分散物は濃縮される。この濃縮によって、分散物の重量に対する固形分重量(陽イオン交換樹脂とカーボンとの和)を14質量%に調整した。つづいて、隙間が200μmのアプリケータを用いて、その分散物を高分子(FEP)フィルムに塗布したのちに、室温で乾燥することによって、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含むシート状混合物を形成した。その混合物の厚みは約20μmであった。
【0072】
つぎに、第3の工程では、60℃に加熱した0.5mol/lの希硫酸を調製し、この溶液にシート状混合物を30分浸漬した。そのあと、シート状混合物を脱イオン水で洗浄した。得られた陽イオン交換樹脂とカーボンとを含むシート状混合物に含まれるプロトン以外のカチオンは、陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%であった。
【0073】
第4の工程では、50mmol/l濃度の[Pt(NH]Cl水溶液に前述のシートを6時間以上浸漬することによって、シート状混合物中の陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に[Pt(NH2+を吸着させた。つづいて、シート状混合物を脱イオン水で充分洗浄したのちに、十分に乾燥した。
【0074】
さらに、第5の工程では、シート状混合物を還元器に設置したのちに、1気圧の水素を充填した。その還元器を180℃に昇温した状態で6時間保持した。そのあと、還元器から取り出したシート状混合物を0.5mol/lの希硫酸に1時間浸漬することによって還元工程で還元されなかった[Pt(NH2+を溶出したのちに、その混合物を脱イオン水で十分に洗浄することによって、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に触媒金属が選択的に担持された固体高分子形燃料電池用電極触媒を作製した。最後に、その電曲触媒層を5cm×5cmの大きさに裁断した。
【0075】
次に、作製した固体高分子形燃料電池用電極触媒を用いて、固体高分子形燃料電池を作製した。高分子電解質膜(デュポン社製、ナフィオン115膜、膜厚約120μm)を0.5mol/lの希硫酸で1時間煮沸したのちに、その膜に脱イオン水で5回の洗浄および1時間煮沸を施した。
【0076】
その膜のそれぞれの面に、上述の方法で製作した選択的に触媒金属が担持された触媒層を配したのちに加熱圧着(135℃、50kg/cm)することによって、その膜と触媒層とを一体に接合した。そのあと、その接合体から高分子(FEP)フィルムを剥がし取った。最後に、その接合体のそれぞれの面に、撥水性を付与した導電性多孔質体としてカーボンペーパーを配したのちに一対のセパレータで挟持することによって本発明による固体高分子形燃料電池Aを製作した。
【0077】
[比較例1]
比較のために、従来の製造方法を用いて製作した燃料電池用電極触媒を備える燃料電池を以下のように製作した。その製法のフロー図を図5に示す。その製法は、陽イオン交換樹脂溶液にカーボンを分散させる第1の工程と、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を形成する第2の工程と、その混合物が含む陽イオン交換樹脂の対イオンとを吸着させる第3の工程と、イオン交換した陽イオンを化学的に還元する第4の工程とを経る。
【0078】
具体的な、製作方法は以下のとおりである。まず、実施例1と同様の第1の工程と第2の工程とを経て、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む、厚みは約20μmのシート状混合物を形成した。得られた陽イオン交換樹脂とカーボンとを含むシート状混合物に含まれるプロトン以外のカチオンは、陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の25%であった。
【0079】
第3の工程では、50mmol/l濃度の[Pt(NH]Cl水溶液に、第2の工程で形成したシート状混合物を6時間以上浸漬することによって、シート状混合物中の陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に[Pt(NH2+を吸着させた。つづいて、シート状混合物を脱イオン水で充分洗浄したのちに、十分に乾燥した。
【0080】
第4の工程では、シート状混合物を還元器に設置したのちに、1気圧の水素を充填した。その還元器を180℃に昇温した状態で12時間保持した。そのあと、還元器から取り出したシート状混合物を0.5mol/lの希硫酸に1時間浸漬することによって還元工程で還元されなかった[Pt(NH2+を溶出したのちに、シート状混合物を脱イオン水で十分に洗浄することによって、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に触媒金属が選択的に担持された固体高分子形燃料電池用電極触媒を作製した。最後に、その電極触媒層を5cm×5cmの大きさに裁断した。
【0081】
次に、作製した従来の電極触媒を用いて、実施例1と同様にして、固体高分子形燃料電池Bを製作した。
【0082】
これらの固体高分子形燃料電池AおよびBの電圧−電流特性を評価した結果を図6に示す。この評価の条件は、セル温度を80℃、アノードガスを水素、アノード利用率を80%、アノード加湿温度を80℃、カソードガスを空気、カソード利用率を40%、カソード加湿温度80℃とした。図6において、電圧−電流曲線AおよびBは、それぞれ固体高分子形燃料電池AおよびBの特性を示す。この図6より、実施例1の燃料電池Aの特性は、比較例1の燃料電池Bの場合よりも優れていることがわかる。
【0083】
これらの燃料電池にそなわる電極は、同量の陽イオン交換樹脂とカーボンとを含み、同じ構造であるにもかかわらず、本発明による固体高分子形燃料電池Aの特性は従来の固体高分子形燃料電池Bの場合よりも向上した。この特性の向上は触媒である白金の担持量の増加に起因する。燃料電池AおよびBの白金担持量はそれぞれ0.040mg/cmおよび0.032mg/cmであった。これより、燃料電池Aの白金担持量は、燃料電池Bの場合に比べて、約20%多いことがわかる。
【0084】
この結果は、本発明の固体高分子形燃料電池陽電極触媒を製作する第3の工程において、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含むシート状混合物を酸処理することによって、陽イオン交換樹脂に不純物として吸着しているナトリウムイオンなどのカチオンがプロトンと置換し、シート状混合物の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを○○ppmにしたことに起因するものと考えられる。
【0085】
陽イオン交換樹脂にプロトン以外の他のカチオンが固定イオンとして吸着している場合、触媒金属の陽イオンである[Pt(NH2+を含む溶液にシート状混合物を浸漬したときに、プロトンよりも、他のカチオンでは触媒金属の陽イオンのイオン交換が起こりにくい。このため比較例1では、陽イオン交換樹脂にイオン交換する[Pt(NH2+イオンのモル数が酸処理をおこなったの場合よりも少ないので、担持される白金量が少なくなる。
【0086】
言い換えると、陽イオン交換樹脂が含まれる混合物を酸処理することによって、一回の[Pt(NH2+イオンの吸着、還元工程において、電極触媒に担持される触媒金属の量を多くすることができるので、その工程を繰り返すことなく、必要量の触媒金属を担持することが可能になった。
【0087】
[実施例2〜4および比較例2]
[実施例2]
第3の工程において、60℃に加熱した0.5mol/lの希硫酸溶液中にシート状混合物を1時間浸漬し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含むシート状混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンは、陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の5%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の固体高分子形燃料電池用電極触媒を作製し、これを用いた固体高分子形燃料電池Cを作製した。
【0088】
[実施例3]
第3の工程において、60℃に加熱した0.5mol/lの希硫酸溶液中にシート状混合物を2時間浸漬し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含むシート状混合物の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンは、陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の3%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の固体高分子形燃料電池用電極触媒を作製し、これを用いた固体高分子形燃料電池Dを作製した。
【0089】
[実施例4]
第3の工程において、60℃に加熱した0.5mol/lの希硫酸溶液中にシート状混合物を3時間浸漬し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含むシート状混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンは、陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の1%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の固体高分子形燃料電池用電極触媒を作製し、これを用いた固体高分子形燃料電池Eを作製した。
【0090】
[比較例2]
第3の工程において、60℃に加熱した0.5mol/lの希硫酸溶液中にシート状混合物を15分浸漬し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含むシート状混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンは、陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の15%としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の固体高分子形燃料電池用電極触媒を作製し、これを用いた固体高分子形燃料電池Fを作製した。
【0091】
実施例2〜4および比較例2の固体高分子形燃料電池C、D、EおよびFについて、実施例1と同様の条件で、電圧−電流特性を評価した。その結果を表1にまとめた。なお、表1では、電流密度500mA/cmにおけるセル電圧を比較した。なお、表1には、実施例1および比較例1の固体高分子形燃料電池のデータも掲載した。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から、シート状混合物に含まれるプロトン以外のカチオンの量が200ppm以下である実施例1〜4の固体高分子形燃料電池A、C、DおよびEでは、電流密度500mA/cmにおけるセル電圧は0.6Vよりも高くなったが、シート状混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンは、陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%を越えた比較例1および比較例2の固体高分子形燃料電池BおよびFのセル電圧は0.6V以下と低くなった。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法を示したフロー図。
【図2】本発明の固体高分子形燃料電池の断面を模式的に示した図。
【図3】本発明の燃料電池用電極触媒の断面を模式的に示した図。
【図4】触媒金属が選択的に陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に担持された状態を模式的に示した図。
【図5】従来の固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法を示したフロー図。
【図6】実施例1および比較例1の燃料電池の電圧−電流特性を示した図。
【符号の説明】
【0095】
11 本発明の燃料電池用電極触媒
12 カーボン
13 陽イオン交換樹脂
14 細孔
15 高分子電解質膜
16 導電性多孔質体
17 ガス流路
18 セパレータ
19 シール材
20 固体高分子形燃料電池
31 プロトン伝導経路
32 疎水性領域
33 触媒金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換樹脂溶液にカーボンを分散させる第1の工程と、前記分散物から溶媒を除去し、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を形成する第2の工程と、前記混合物中の陽イオン交換樹脂に含まれるプロトン以外のカチオンを、その陽イオン交換樹脂のイオン交換容量の10%以下にする第3の工程と、前記混合物に含まれる陽イオン交換樹脂の固定イオンに触媒金属の陽イオンを吸着させる第4の工程と、前記吸着した触媒金属の陽イオンを還元する第5の工程とを経ることを特徴とする固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
第3の工程において、陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物を酸性溶液に接触させることを特徴とする請求項1記載の固体高分子形燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法で得られた燃料電池用電極触媒を用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池。




























【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−4871(P2006−4871A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182619(P2004−182619)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)
【Fターム(参考)】