説明

固形描画材

【課題】紙を固形描画材に固定することができ、同時に剥き易く、また、経時で紙が固形描画材から染み出した色素に染まらない、外周を紙で被覆された固形描画材の提供。
【解決手段】少なくとも着色材とワックスと油とよりなる固形描画材の外周を被覆する紙を水溶性高分子で接着した固形描画材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体の外周を紙で巻きまわして糊で接着したクレヨン、パス等の固形描画材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顔料と、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス及び/又はカルナウバワックス、木ロウ、ミツロウといった植物系や動物性のワックスと、必要に応じてワセリン、スピンドル油、マシン油などの鉱物油とよりなる、いわゆるクレヨン、パスと呼ばれる固形描画材の外周を、固形描画材の本体の折損及び手の汚れを防止する為に、紙や合成樹脂製の被覆材で巻きまわした固形描画材が知られている。
【0003】
この被覆材としては、紙の他、ポリエステル・ポリプロピレン等の合成樹脂フィルム、金属などの箔、またはそれらの複合材料で構成されたものが知られており、これを貼り合わせる為の接着剤としては、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリビニールエーテル系、合成ゴム系接着剤等が知られている。
特許文献1〜4には、固形描画材の外周を巻きまわす合成樹脂フィルムが記載されている。また、特許文献2には、固形描画材の外周を巻きまわした紙や合成樹脂フィルムの接着剤として、アクリル系接着剤等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−92555号公報
【特許文献2】実開昭59−9873号公報
【特許文献3】実開昭59−19386号公報
【特許文献4】実開昭62−50515号公報
【特許文献5】特開2001−10283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固形描画材の外周を巻きまわす被覆材は、本体の折損及び手の汚れを防止する為のものである。この被覆材が容易に外れると、折損や汚れの防止にならないので、本体に接着剤等で固定する必要がある。また、同時に、固形描画材自身が摩耗して短くなった場合、外周を巻きまわしている被覆材を破りとり、一定の長さを露出させる必要がある為、本体から容易にはがれる必要もある。
このとき、接着剤に非水溶性高分子等の油性成分を用いて固定すると、被覆する紙と油性である固形描画材が強固に接着してしまい、容易にはがれず、固形描画材表面に接着成分が残ってしまい、表面がべたついたり、描画時に滑らかに描けなくなる場合がある。ここで、固形描画材の着色材に安価で発色の良い塩基性染料レーキ顔料を使用し、かつ、接着剤に水溶性高分子等を使用した場合、使用する水溶性高分子のpHが低い場合、顔料に含まれる着色材成分が被覆する紙を接着する糊剤のpHによって顔料から遊離し、本体から溶出して、被覆材を着色させ、外観が悪くなるという問題が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも塩基性染料レーキ顔料を使用した着色材とワックスと油とよりなる固形描画材の外周を被覆する紙をpH7.5以上の水溶性高分子で接着した固形描画材を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
着色材とワックスと油とよりなる固形描画材の外表面は、油性の表面となっており、水溶性高分子は強い接着力を発揮しないが、程よい接着力を与え、被覆材が適度に固定されて、被覆材をはがしたいときは、容易に油性面の固形描画材の表面からはがれることが出来ると考えられる。
また、pHを高くすることにより、塩基性染料レーキ顔料からの着色成分の溶出を防止することができると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で使用する塩基性染料レーキ顔料は従来公知のもので良い。たとえば、タンニン酒石酸レーキ顔料、合成タンニンレーキ、ファナルレーキ、銅鉄コンプレックスレーキ等が挙げられ、具体的にはC.I.Pigment Violet1、C.I.Pigment Violet3、C.I.Pigment Violet3:3、C.I.Pigment Red81、C.I.Pigment Yellow18、C.I.Pigment Brown3、C.I.Pigment Red193、C.I.Pigment Green4、C.I.Pigment Blue62、C.I.Pigment Blue1、C.I.Pigment Blue2が挙げられる。
これらの塩基性染料レーキ顔料は、単独もしくは2種以上混合して使用しても良く、通常公知の有機顔料や無機顔料を混合して使用しても良い。通常公知の有機顔料、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ボーンブラック、アニリンブラック、鉄黒、黄土、水和酸化鉄、弁柄、ハンザエロー−10G、同5G、同3G、同4、同GR、同A、同G、ベンジジンイエロー、パーマネントイエローNCG、キノリンイエロー、スーダン1、パーマネントオレンジ2G、インダスレンブリリアントオレンジGK、バルカンオレンジ、ベンジジンオレンジHL、ピラゾリンオレンジTMP、ペリノンオレンジ、DPPオレンジ、パーマネントブラウンFG、パラブラウン、パーマネントレッド4R、ファイヤーレッド、ブリリアントカーミンBS、ピラゾロンレッド、キナクリドンレッド、ボルドー5B、チオインジゴレッド、ナフソールカーミンHR、ナフソールレッドF5RK、ナフソールレッドF3RK−70、パーマネントレッドFGR、パーマネントカーミンFB、パーマネントレッド2B、ブリリアントカーミン6B、ペリレンバーミリオン、ペリレンレッド、DPPレッド、ファストバイオレットB、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンマゼンタ、アルカリブルーレーキ、銅フタロシアニンブルー、インジゴ、インダスレンブルー、アシッドグリーンレーキ、銅フタロシアニングリーン等がある。また、上記の有機顔料を炭酸カルシウムなどの表面に付着させた複合顔料を用いても良い。市販品として、ブルー#2400(銅フタロシアニンブルーと炭酸カルシウムとシリカとジオキシンバイオレットとアルミニウムシリケートから成る複合顔料)、ブルー#2500(銅フタロシアニンブルーと炭酸カルシウムとアルミナシリケートとナフトールカーミンHRから成る複合顔料)、ビリジアングリンP(銅フタロシアニングリーン、銅フタロシアニンブルー、ハンザイエロー10G、炭酸カルシウム、カオリン、シリカから成る複合顔料)、FS/NR 418(銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、炭酸カルシウム、アルミニウムシリケートから成る複合顔料)(以上、野間化学工業(株)製)、NSB A−25(銅フタロシアニンブルー、炭酸カルシウムから成る複合顔料)(以上大日精化工業(株)製)が挙げられる。
その使用量は、固形描画材全量に対して0.1重量%〜30重量%が好ましい。
【0009】
ワックスは、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ミツロウ、木ロウ、モンタンワックスなど従来固形描画材に用いられている動・植物系ワックス、石油系ワックスといった天然ワックスや合成ワックスを挙げることができ、その使用量は固形描画材全量に対して10〜40%重量%が好ましい。
【0010】
オイルは、流動パラフィン、スピンドル油、マシン油、ワセリンなど従来固形描画材に用いられている動・植物系オイル、石油系オイル、合成オイルを挙げることができ、その使用量は固形描画材全量に対して1〜40%重量%が好ましい。
【0011】
上記各成分以外にも必要に応じて種々の成分を配合することもできる。
増量剤若しくは充填剤として、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、硫酸バリウム等を用いたり、滑剤や界面活性剤を用いたりすることが出来る。
【0012】
本発明の固形描画材は、上記各成分を加熱撹拌混合し、また必要に応じてニーダー、ロールミル等の混練機で混練し、これを溶融状態で型に流し込み、または射出・圧入もしくは押し出した後、冷却固化して得ることが出来る。
【0013】
外周を被覆する紙を固形描画材に接着する水溶性高分子は、具体的に、膠、アラビアガム(アカシアセネガル種、アカシアセヤル種)、黄色デキストリン、白色デキストリン、ブリティッシュガム等の天然水溶性高分子やカルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の半合成水溶性高分子、ポリビニールアルコール、水溶性アクリル系樹脂等の合成水溶性高分子が使用でき、単独もしくは2種以上混合して使用しても良い。これをディゾルバーやホモミキサーなどの撹拌機で水と一緒に撹拌溶解した0.1重量%〜20重量%の濃度のものを使用するのが好ましい。
【0014】
この水溶性高分子溶液に、炭酸水素ナトリウムや水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質を入れることにより、pHを7.5以上とすることが出来る。塩基性物質は、事前に水に溶かしてから水溶性高分子を加えても、先に水に水溶性高分子を溶かしたものに後から加えて撹拌して製造しても良い。
【0015】
また、pHを7.5以上にした水溶性高分子溶液には、上記各成分以外にも必要に応じて種々の成分を配合することもできる。乾燥速度の調節の為にエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、グリセリン等の水溶性高沸点溶剤を加えたり、クロロアセトアミド、2−ピリジンチオール−1−オキサイド・ナトリウム塩、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、チアベンダゾールなどの水溶性の防腐剤・防カビ剤やらに、防錆剤、脱泡剤、消泡剤、界面活性剤などと併用し得ること勿論である。
【実施例】
【0016】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0017】
固形描画材1 紫色クレヨン
ジステアリルケトン(花王ワックスT−1、花王(株)製) 25.5重量部
130度パラフィン 16.5重量部
マイクロワックス(融点70℃) 5.5重量部
マイクロワックス(融点96℃) 1.5重量部
硬化ひまし油 10.0重量部
黄色ワセリン 5.0重量部
スピンドル油 6.5重量部
二酸化チタン 2.5重量部
ジオキサジンバイオレット 2.0重量部
バイオレットFB−I(C.I.Basic Red12のPTMAレーキ顔料とC.I.Pigment Blue15とC.I.Pigment Whaite19の混合物、野間化学工業(株)製) 7.5重量部
タルク 16.5重量部
上記成分を加熱溶解しディスパーで30分練り混ぜ、型に流し込んだ後、冷却し紫色のクレヨンを得た。
【0018】
固形描画材2 赤紫色クレヨン
ジステアリルケトン(花王ワックスT−1、花王(株)製) 20.0重量部
130度パラフィン 22.0重量部
マイクロワックス(融点70℃) 4.0重量部
マイクロワックス(融点84℃) 3.0重量部
12−ヒドロキシステアリン酸 10.0重量部
白色ワセリン 5.0重量部
流動パラフィン 6.5重量部
二酸化チタン 2.5重量部
ローダミンレーキ#54(C.I.Basic Red1とC.I.Pigment Violet10のタンニン酸レーキ顔料、信光化学工業(株)製) 7.5重量部
タルク 16.5重量部
上記成分を加熱溶解しニーダーで60分練り混ぜ、型に流し込んだ後、冷却し赤紫色のクレヨンを得た。
【0019】
固形描画材3 紫色パス
ジステアリルケトン(花王ワックスT−1、花王(株)製) 17.0重量部
マイクロワックス(融点70℃) 2.5重量部
黄色ワセリン 5.0重量部
スーパーオイルN46(新日本石油(株)製) 23.0重量部
二酸化チタン 1.0重量部
バイオレット#74(C.I.Basic Red12とC.I.Pigment Violet3のPMA及びフェノールと硫黄の縮合物によるレーキ顔料、玉億色材(株)製)
8.0重量部
軽質炭酸カルシウム 44.5重量部
上記成分を加熱溶解しニーダーで60分練り混ぜ、型に流し込んだ後、冷却し紫色のクレヨンを得た。
【0020】
固形描画材4 赤紫色パス
ジステアリルケトン(花王ワックスT−1、花王(株)製) 15.0重量部
マイクロワックス(融点70℃) 2.0重量部
黄色ワセリン 4.0重量部
スーパーオイルBL(新日本石油(株)製) 18.0重量部
二酸化チタン 5.5重量部
バイオレット#74(C.I.Basic Red12とC.I.Pigment Violet3のPMA及びフェノールと硫黄の縮合物によるレーキ顔料、玉億色材(株)製)
3.5重量部
C.I.Pigment Red245 0.2重量部
炭酸カルシウム 51.5重量部
上記成分を加熱溶解しニーダーで60分練り混ぜ、型に流し込んだ後、冷却し赤紫色のクレヨンを得た。
【0021】
水溶性高分子溶液1
メチルヒドロキシエチルセルロース(チローゼMH300P4、信越化学工業(株)製)
9.0重量部
炭酸水素ナトリウム 2.5重量部
水 88.4重量部
チアベンダゾール 0.1重量部
上記成分を混合し、加熱しながら40分ディスパーで混ぜ、水溶性高分子溶液を得た。
【0022】
水溶性高分子溶液2
カルボキシルメチルセルロース(セロゲン5A、第一工業製薬(株)製)
5.0重量部
炭酸水素ナトリウム 2.0重量部
水 92.5重量部
チアベンダゾール 0.5重量部
上記成分を混合し、加熱しながら40分ディスパーで混ぜ、水溶性高分子溶液を得た。
【0023】
水溶性高分子溶液3
ヒドロキシエチルセルロース(チローゼH4000P2、信越化学工業(株)製)
12.0重量部
水酸化ナトリウム 0.2重量部
水 87.7重量部
1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン 0.1重量部
上記成分を混合し、加熱しながら40分ディスパーで混ぜ、水溶性高分子溶液を得た。
【0024】
水溶性高分子溶液4
カルボキシルプロピルセルロース(HPC−H、日本曹達(株)製)
15.0重量部
炭酸水素ナトリウム 3.0重量部
水 81.8重量部
2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.2重量部
上記成分を混合し、加熱しながら40分ディスパーで混ぜ、水溶性高分子溶液を得た。
【0025】
(実施例1)
固形描画材1の紫色クレヨンに上質紙を巻きまわし、水溶性高分子溶液1を0.05gでクレヨンと紙を貼り合わせ、紙巻きした紫色クレヨンを得た。
【0026】
(実施例2)
固形描画材2の赤紫色クレヨンに上質紙を巻きまわし、水溶性高分子溶液2を0.05gでクレヨンと紙を貼り合わせ、紙巻きした赤紫色クレヨンを得た。
【0027】
(実施例3)
固形描画材3の紫色パスに上質紙を巻きまわし、水溶性高分子溶液3を0.05gでパスと紙を貼り合わせ、紙巻きした紫色パスを得た。
【0028】
(実施例4)
固形描画材4の赤紫色パスに上質紙を巻きまわし、水溶性高分子溶液4を0.05gでパスと紙を貼り合わせ、紙巻きした赤紫色パスを得た。
【0029】
(比較例1)
固形描画材1の紫色クレヨンに上質紙を巻きまわし、水溶性高分子溶液1から炭酸水素ナトリウムを抜いた水溶液0.05gでクレヨンと紙を貼り合わせ、紙巻きした紫色クレヨンを得た。
【0030】
(比較例2)
固形描画材2の赤紫色クレヨンに上質紙を巻きまわし、水溶性高分子溶液2のカルボキシルメチルセルロース0.5重量部を0.05重量部に替えた水溶液0.05gでクレヨンと紙を貼り合わせ、紙巻きした赤紫色クレヨンを得た。
【0031】
上記実施例1〜4、比較例1〜2により得たクレヨン・パスのラベル変色試験、接着性、剥離性についての結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
ラベル変色試験
ラベルを巻いた固形描画材を30℃で5日間放置し、ラベルに固形描画材の色が染み出したか目視で確認した。変色の無いものを「○」、変色の認められるものを「×」とした。
【0034】
接着性
ラベルを巻いた固形描画材にラベルの部分を指で持ち、クレヨンの先端を台秤に45度の角度で、400gの荷重をかける。20秒後、ラベルが固形描画材本体よりはがれるか目視確認した。ラベルがはがれないものを「○」、剥がれるものを「×」とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性染料レーキ顔料からなる顔料とワックスと油とよりなる固形描画材の外周を被覆する紙を、水溶性高分子をアルカリ性物質でPH7.5以上にした糊液で接着した固形描画材。
【請求項2】
水溶性高分子が、セルロース系高分子である請求項1に記載の固形描画材。
【請求項3】
アルカリ性物質が炭酸水素ナトリウムである請求項1又は請求項2に記載の固形描画材。


【公開番号】特開2012−158686(P2012−158686A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19311(P2011−19311)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】