説明

固形浴用剤製造用ブリケットマシン及び固形浴用剤の製造方法

【課題】固形浴用剤製造用ブリケットマシンのロール表面への浴用剤組成物の付着を防止して効率良く固形浴用剤を製造する。
【解決手段】固形浴用剤製造用ブリケットマシンに浴用剤組成物を供給して固形浴用剤を製造する。固形浴用剤製造用ブリケットマシンは、同期して回転駆動される1対のロール1を備えており、各ロール1の周面にはポケット2が設けられている。このロール1は、ロール本体3と、該ロール本体3の周面にポケット2の内面も含めて形成されたサーメットの溶射層4とで構成されている。サーメットはタングステンカーバイド(WC)を含む高硬度のものであり、溶射層4のロックウェル硬度は60以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉粒状の浴用剤組成物を圧縮成形して固形浴用剤を成形するための固形浴用剤製造用ブリケットマシンに関する。本発明はまた、この固形浴用剤製造用ブリケットマシンを用いて粉粒状の浴用剤組成物を圧縮成形して固形浴用剤を成形する固形浴用剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機酸と炭酸塩を配合した浴用剤組成物は、炭酸ガスによる温浴効果、発泡による入浴の楽しみを得ることができ、多種類のものが市販されている。この浴用剤組成物の有機酸としては、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸などが用いられている。
【0003】
この浴用剤組成物は、ブリケットマシンを用いてブリケット状の固形浴用剤として販売されることがある。ところが、ブリケットマシンを用いてブリケット状に成形する際に、ブリケットマシンのロールに製剤原料が付着しやすく、特に浴用剤組成物がリンゴ酸を含有すると、この傾向が顕著になるという問題点があった。
【0004】
このようなブリケットの製造障害を抑制するため、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤を用いることが行われているが(特開2003−342164号公報)、固形浴用剤の組成によっては十分な効果が発揮されないことがあった。
【特許文献1】特開2003−342164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ロール表面への浴用剤組成物の付着が防止される固形浴用剤製造用ブリケットマシンと、この固形浴用剤製造用ブリケットマシンを用いて固形浴用剤を効率良く製造することができる固形浴用剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固形浴用剤製造用ブリケットマシンは、固形浴用剤を製造するためのブリケットマシンであって、周面にポケットが設けられた1対のロールを有しており、該ポケット内にて浴用剤組成物を圧縮成形して固形浴用剤を製造するブリケットマシンにおいて、少なくともポケット縁部のロックウェル硬度が60以上であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明では、ポケットの内面を含めたロール周面の全体のロックウェル硬度が60以上であることが好ましい。
【0008】
本発明の固形浴用剤の製造方法は、周面にポケットが設けられた1対のロールを有する固形浴用剤製造用ブリケットマシンによって浴用剤組成物を圧縮成形して固形浴用剤を製造する方法において、該固形浴用剤製造用ブリケットマシンの少なくともポケット縁部のロックウェル硬度が60以上であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の固形浴用剤の製造方法は、固形浴用剤がベントナイト、カオリン、タルクなどの鉱物粉末を含む場合に適用するのに好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明者が固形浴用剤製造用ブリケットマシンのロール表面への浴用剤組成物の付着の原因について検討したところ、ブリケットの成形を継続しているとポケットの縁部に磨耗や欠け(チッピング)が発生し、この磨耗や欠けの部分に浴用剤組成物が付着し、これを起点としてロール表面の広い範囲に浴用剤組成物が付着することが認められた。特に、固形浴用剤がベントナイト、カオリン、タルクなどの鉱物粉末を含有していると、ポケットの縁部に摩耗や欠けが発生して原料が付着し易くなる。
【0011】
本発明の固形浴用剤製造用ブリケットマシンは、少なくともポケットの縁部のロックウェル硬度を60以上としているため、固形浴用剤の成形を継続しても、ポケット縁部における磨耗や欠けが防止され、長期にわたって浴用剤組成物が付着することなく、安定して固形浴用剤の成形を行うことができる。
【0012】
本発明では、ポケット内面を含めてロール周面の全体のロックウェル硬度を60以上とするのが好ましい。
【0013】
これにより、ポケット縁部だけでなく、ポケット内面やポケット以外のロール周面の磨耗も防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0015】
図1(a)は本発明の固形浴用剤の製造方法に用いられる固形浴用剤製造用ブリケットマシンの模式図、図1(b)はこの固形浴用剤製造用ブリケットマシンのロール周面の断面図である。
【0016】
この固形浴用剤製造用ブリケットマシンは、同期して回転駆動される1対のロール1を備えており、各ロール1の周面には多数のポケット2が設けられている。このロール1の直径は160mm程度が好適である。ポケット2の大きさは、開口径が4.8mm程度、深さが1.2mm程度であることが望ましい。ポケット開口は円形であることが好ましいが、楕円形などであってもよい。
【0017】
このロール1は、ステンレス鋼などの鋼材よりなるロール本体3と、該ロール本体3の周面にポケット2の内面も含めて形成されたサーメットの溶射層4とで構成されている。このサーメットはタングステンカーバイド(WC)等の金属炭化物を含む高硬度のものであり、溶射層4のロックウェル硬度は60以上である。
【0018】
この溶射を行うに際し、ロール本体3の外周面をブラスト処理し、表面の粗度を高めてから溶射することにより、溶射層4とロール本体3との付着力を高めることができる。
【0019】
この溶射を行った後、研摩して溶射層4の表面を平滑にする。この研摩は例えばダイヤモンド砥粒を用いて行うことができる。研摩は、表面粗さRが3μm以下特に1μm以下となるように行うのが好ましい。
【0020】
上記のサーメットとしては、硬質粒子としてWCあるいはさらにCrCを含むものが好ましい。バインダーとしてはNi,Co,Cr等を用いることができる。
【0021】
好適なサーメット組成としては、
WC:60〜80重量部、特に70〜75重量部
CrC:10〜30重量部、特に15〜25重量部
Ni:5〜15重量部、特に5〜10重量部
が挙げられる。なお、WCのみを硬質粒子として含む
WC 80〜90重量部
Co,Cr,Niの少なくとも1種 残部
(ただし、Niは2重量部以下、Crは5重量部以下が好ましい。)なる組成のサーメットも用いることができる。
【0022】
このようなサーメットよりなる溶射層のロックウェル硬度(JIS Z2245による)は、通常、60〜70程度である。
【0023】
溶射は、溶射層4の厚さがポケット以外のロール周面において50〜500μm特に100〜300μm程度となるように行うのが好ましい。
【0024】
一般に、滑沢剤としてのカオリン、タルクや湿潤剤としてのベントナイト等の鉱物粉末を含むと、ポケット縁部に磨耗や欠けが発生し易くなり、浴用剤組成物の粉末がロール周面に付着し易くなるが、本発明の固形浴用剤の製造方法は、浴用剤組成物がかかる鉱物粉末を含んでいても、トラブルなしに固形浴用剤を安定して製造することができる。
【0025】
この浴用剤組成物の組成は、
炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩よりなる、主たる有効成分:40〜60重量部
乾燥硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、無水ケイ酸、塩化ナトリウムなどの副有効成分:15重量部以下(ゼロでもよい)
リンゴ酸、フマル酸、コハク酸などの溶解補助剤:30〜45重量部
カオリン、タルクなどの滑沢剤:0.5〜5重量部
ベントナイト、グルタミン酸ナトリウム、大豆油などの湿潤剤:5重量部以下(ゼロでもよい)
酸化チタン、デキストリン、無水エタノールなどの基剤:5〜15重量部
を合計で100重量部含むものが好適であるが、これに限定されない。この浴用剤組成物は、必要に応じ、少量の香料や着色剤が添加される。潤沢剤としてポリエチレングリコールを少量(例えば1重量部以下)併用してもよい。また、微量の酸化防止剤を含有してもよい。
【0026】
上記のカオリン、タルク、ベントナイトなどの鉱物粉末の平均粒径は5μm以下例えば0.1〜10μm程度が好適である。
【0027】
成形される固形浴用剤の大きさ、形状は特に限定されるものではない。固形浴用剤1個当りの重量は10〜50g程度が好適である。
【0028】
なお、本発明では高硬度材の溶射以外の手法、例えば高硬度金属材料の肉盛りとその研摩などによってロックウェル硬度を60以上としてもよい。
【実施例】
【0029】
実施例1,比較例1〜4
直径160mm、周面のポケットの数4032個、ポケットの形状は円形、ポケットの開口径4.8mm、ポケット深さ1.2mmのロールを試作し、入浴剤組成物のブリケット成形を行って1個当りの重さ30gの固形浴用剤を製造した。各ロールの構成材料の詳細は次の通りである。
実施例1:SUS420よりなるロール本体の周面にWC73重量部、CrC20重量部、Ni7重量部なる組成のサーメットを厚さ150μmに溶射し、表面粗さR1μmに研摩したもの。JIS Z2245によるロックウェル硬度(ロックウェル硬さ)は70である。
比較例1:SUS304よりなるロール。径、ポケットの数及び大きさは実施例1と同一。ロックウェル硬度は約10である。
比較例2:SUS329よりなるロール。径、ポケットの数及び大きさは実施例1と同一。ロックウェル硬度は約30である。
比較例3:SUS329よりなるロール本体の周面にSUS630を厚さ約5mm肉盛り溶接したロール。径、ポケットの数及び大きさは実施例1と同一。ロックウェル硬度は41である。
比較例4:SUS420よりなるロール本体の周面にSUS630を厚さ約5mm肉盛り溶接したロール。径、ポケットの数及び大きさは実施例1と同一。ロックウェル硬度は50である。
【0030】
入浴剤組成物の配合は次の通りである。
炭酸水素ナトリウム 35重量部
炭酸ナトリウム 20重量部
DL−リンゴ酸 30重量部
フマル酸 10重量部
カオリン 3重量部
ベントナイト 2重量部
【0031】
1対のロール間の間隙を0.25mmとし、この入浴剤組成物を540kg/Hの割合で供給し、ロール回転数を28rpmとして成形を行った。
【0032】
この結果、比較例1〜5ではいずれも20時間以内に入浴剤組成物がロールに付着したのに対し、実施例1では10日以上、全く支障なく連続して製造を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1(a)は固形浴用剤製造用ブリケットマシンの模式図、図1(b)は実施の形態に係る固形浴用剤製造用ブリケットマシンのロール周面の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 ロール
2 ポケット
3 ロール本体
4 溶射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形浴用剤を製造するためのブリケットマシンであって、
周面にポケットが設けられた1対のロールを有しており、該ポケット内にて浴用剤組成物を圧縮成形して固形浴用剤を製造するブリケットマシンにおいて、
少なくともポケット縁部のロックウェル硬度が60以上であることを特徴とする固形浴用剤製造用ブリケットマシン。
【請求項2】
請求項1において、ポケットの内面を含めたロール周面の全体のロックウェル硬度が60以上であることを特徴とする固形浴用剤製造用ブリケットマシン。
【請求項3】
周面にポケットが設けられた1対のロールを有する固形浴用剤製造用ブリケットマシンによって浴用剤組成物を圧縮成形して固形浴用剤を製造する方法において、
該固形浴用剤製造用ブリケットマシンが請求項1又は2に記載の固形浴用剤製造用ブリケットマシンであることを特徴とする固形浴用剤の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、該浴用剤組成物は鉱物の粉末を含有することを特徴とする固形浴用剤の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、該鉱物はベントナイト、カオリン及びタルクの少なくとも1種であることを特徴とする固形浴用剤の製造方法。

【図1】
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