固形腫瘍の化学的塞栓療法用組成物
【課題】固形腫瘍の化学的塞栓療法用に適する組成物の提供。
【解決手段】水膨張性で水に不溶のポリマーの基質と、該基質に吸収される水溶性治療剤とを有する粒子を含む組成物であって、前記ポリマーは、6から8の範囲のpHにおいて全体に陰イオン性電荷を持ち、前記粒子は水中で平衡に達するまで膨張すると40〜1500μm範囲の粒子サイズを持ち、前記治療剤は少なくとも一つのアミン基を持つアントラサイクリン化合物であることを特徴とする組成物。該アントラサイクリンとしては、ドキソルビシンであることが好ましい。該ポリマーとしては、架橋されたポリ(ビニルアルコール)であることが好ましい。
【解決手段】水膨張性で水に不溶のポリマーの基質と、該基質に吸収される水溶性治療剤とを有する粒子を含む組成物であって、前記ポリマーは、6から8の範囲のpHにおいて全体に陰イオン性電荷を持ち、前記粒子は水中で平衡に達するまで膨張すると40〜1500μm範囲の粒子サイズを持ち、前記治療剤は少なくとも一つのアミン基を持つアントラサイクリン化合物であることを特徴とする組成物。該アントラサイクリンとしては、ドキソルビシンであることが好ましい。該ポリマーとしては、架橋されたポリ(ビニルアルコール)であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塞栓性ポリマー物質、および前記ポリマー基質に組み込まれる治療剤を含む組成物に関する。組成物は腫瘍に対して塞栓形成して細胞障害剤を送達するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
塞栓療法は、インターベンション医療において成長しつつある領域であるが、通常、所望の部位に対するカテーテルの経動脈的接近に依存し、接近の時点で、特定の血管を閉塞するために介在物が放出される。この治療は、従来、いくつかの過剰に血管の発達した腫瘍、例えば、肝細胞ガンに対する血液補給を阻止するために用いられてきたが、最近では、子宮筋腫に対する使用度の高い選択治療となっている。
【0003】
塞栓材料としては一定の範囲のものが臨床用途に用いられているが、それらは、塞栓部位に経カテーテル的に送達され、その部位への到着時点で、その部位をブロックするために血流中に放出されることを要求する。塞栓による血流阻止は、小型粒子または小球による血管の物理的ブロックによって実現されるか、または、液体塞栓剤の場合には、流動可能な材料を固化して血管内にキャスト(型)を形成するために、ある種の相変化または反応を必要とする。
【0004】
もっとも広く用いられる粒状塞栓剤は、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)フォーム粒子(例えばアイヴァロン(Ivalon)(登録商標))であり、これは数十年に渡って使用されている。最近、この材料は、シート状ではなく、粒状で市販されており、送達前に外科医が粒状化する必要が無くなっている。
【0005】
特許文献1には、塞栓療法用PVA系組成物が記載されている。このPVAは最初誘導体形成作用を受けて、ペンダントアクリル基を有するマクロモノマーを形成する。次いで、このアクリル基が、要すれば随意にコモノマーの存在下に重合されて、水不溶性、水膨張性ポリマー基質を形成する。この重合反応は生体内で実行することが可能であり、その場合、PVAは、血管中に送達後、塞栓部位において水不溶性となる。別法として、重合化は、送達前に行われ、一般的には微小球を形成する。この微小球は、水性ベヒクルにおいて懸濁状態で送達される。
【0006】
特許文献1では、この塞栓組成物に生物学的活性物質を含め、活性剤を、形成されたヒドロゲルから送達させるようにすることが可能であることが示されている。活性剤の一つのクラスは化学療法剤である。化学療法剤の例は、シスプラチン、ドキソルビシン、およびマイトマイシンである。活性剤を塞栓組成物に組み込むための方法について、若干の一般的ガイダンスを行う。組成物が、生体内で固化する液体の場合、活性剤は、単純に、その液体と混合してよい。品物があらかじめ形成される場合、活性剤は、「カプセル封入」によって、または、表面塗布によって組み込むことが推奨される。一つの治療剤が、どのようなタイプの組成物にも組み込まれる実際の例は無い。
【0007】
ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、加水分解されたポリ(メチルメタクリレート)、および、グルタールアルデヒドのようなアルデヒド架橋剤によって架橋されたPVAから形成されるヒドロゲル材料から成る微小球も塞栓剤として用いられてきた。ヒドロキシエチルメタクリレートは、例えば酸性基を有するコモノマーと共に共重合させてもよい。例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートと、0.3-1.0モル%のエチレングリコールジメタクリレートで架橋した、約1-2モル%のアクリル酸との架橋性コポリマーは、55-60重量%の範囲に水の平衡含量を持ち、長年コンタクトレンズ処方として用いられている。
【0008】
市場に見られる一つの塞栓製品が、Biosphere(登録商標)によって市販されている。この製品は、コラーゲン被覆の、トリスアクリルゼラチンの微小球を含む。コラーゲンは、生理的pHにおいて、全体的に陽イオン電荷を持つ。非特許文献1において、Biosphere(登録商標)は、塞栓性組成物と一般的に混合される一定範囲の薬物と混合されても、微小球の機械的特性は悪影響を受けないことを示している。具体的には、ドキソルビシン、シスプラチン、およびミトザントロンが試験されている。
【0009】
ドキソルビシン、および他のアントラサイクリン類は、各種の、ポリマー基質系送達システム、例えば、ポリラクチドまたはポリグリコリドの微小球、架橋フィブリノーゲン、および、アルブミン微小球に組み込まれている。非特許文献2は、ドキソルビシンをポリ(乳酸)微小球へ組み込み、その組成物を、動脈内からイヌ肝臓に送達したことを記載している。この組成物は、肝臓の末梢動脈を血栓閉塞した。このタイプの微小球は固く、保存し、送達するのは容易ではない。ドキソルビシンは、架橋結合ポリ(ビニルアルコール)の表面に共有結合された状態で、その細胞傷害性について試験された(非特許文献3)。薬剤は、ポリマーに共有結合しているので、表面から放出されるためには、その前に分断されなければならず、従って、生理的条件下では放出されない可能性がある。
【0010】
非特許文献4は、ドキソルビシンの、イオン交換微小球への組み込みと、ラットモデルの腫瘍の化学塞栓療法における前記組成物の使用について記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第0168720号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ball, D.S. et al., J. Vasc. Interv. Radiol. (2003), 14, 83-88
【非特許文献2】Juni, K. et al., Chem. Pharm. Bull. (1985), 33(1), 313-318
【非特許文献3】Wingard, LB et al., Cancer Research (1985), 45(8), 3529-3536
【非特許文献4】Jones, C. et al., Brit. J. Cancer (1989) 59(5)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
塞栓形成に好適な本発明による新規組成物は、水膨張性の、水に不溶のポリマー基質と、その基質に吸収される、水溶性治療剤とを有する粒子を含み、前記ポリマーは、6から8の範囲のpHにおいて全体に陰イオン性電荷を持ち、前記粒子は、水中で平衡に達するまで膨張すると、40-1500 μm範囲の粒子サイズを持ち、前記治療剤は、少なくとも一つのアミン基を持つアントラサイクリン化合物であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例2の結果を示す。
【図2】図2は、実施例3の結果を示す。
【図3】図3は、実施例4の結果を示す。
【図4】図4は、実施例5の結果を示す。
【図5】図5は、実施例6の結果を示す。
【図6】図6aおよび6bは、実施例7の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリマーは、水膨張性ではあるが、水不溶性でなければならない。従って、水性液体の存在下では、ポリマーはヒドロゲルを形成する。一般に、ポリマーは共有結合により架橋される。ただし、少なくとも部分的にイオン性に架橋されることは適当である。ポリマーは、エチレン的に不飽和なモノマーを、二価、またはさらに多価の機能的架橋性モノマーの存在下に重合することによって形成されてもよく、エチレン的に不飽和なモノマーとしては、陰イオン性モノマーが挙げられる。エタフィルコンA系コンタクトレンズに使用されるような、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸、および架橋性モノマー、例えば、エチレングリコールジメタクリレートまたはメチレンビスアクリルアミドのコポリマーを使用してもよい。
【0016】
水膨張性、水不溶性基質を形成するために使用が可能なさらに別のタイプのポリマーは、アルデヒドタイプ架橋剤、例えば、グルタールアルデヒドによって架橋されるポリビニルアルコールである。上述のような製品とするためには、ポリビニルアルコールは、例えば、モノマーを含む酸性官能基をヒドロキシル基と反応させて陰イオン性ペンダント基を設けることによって陰イオン性としなければならない。好適な反応試薬の例としては、二価酸、例えば、ジカルボン酸がある。
【0017】
本発明は、ポリマー基質が、1分子当たり1個以上のエチレン的に不飽和なペンダント基を有するポリビニルアルコール・マクロマーと、酸性モノマーを含むエチレン的に不飽和なモノマーとの共重合によって形成される場合に特に価値がある。このPVAマクロマーは、例えば、ペンダント性のビニル基またはアクリル基を、適当な分子量の、例えば、1000から500,000 D、好ましくは10,000から100,000 D範囲のPVAポリマーに供給することによって形成してもよい。ペンダントアクリル基は、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸をPVAと反応させて、ヒドロキシル基のいくつかを介してエステル結合を形成することによって供給してもよい。ポリビニルアルコールに対して重合が可能なビニル基の付着法は、例えば、米国特許第4,978,713号、好ましくは、米国特許第5,508,317、および5,583,163号に記載される。従って、好ましいマクロマーは、環状アセタール結合を介して、(アルク)アクリルアミノアルキル成分に結合される、ポリビニルアルコールのバックボーンを含む。実施例1は、このようなマクロマーの合成を記載する。好ましくは、PVAマクロマーは、1分子当たり約2から20個の、例えば、5から10個のペンダントエチレン基を持つ。
【0018】
PVAマクロマーが、酸性モノマーを含むエチレン的に不飽和なモノマーと共重合される場合、酸性モノマーは好ましくは一般式I:
【化1】
を持つ。式中、Y1は、下記から選ばれ
【化2】
CH2=C(R)-CH2-O-、 CH2=C(R)-CH2OC(O)-、 CH2=C(R)OC(O)-、 CH2=C(R)-O-、CH2=C(R)CH2OC(O)N(R1)-、 R2OOCCR=CRC(O)-O-、 RCH=CHC(O)O-, RCH=C(COOR2)CH2-C(O)-O-、
【化3】
式中、Rは、水素またはC1-C4アルキル基であり、
R1は、水素またはC1-C4アルキル基であり、
R2は、水素またはC1-C4アルキル基、またはBQであり、ここにBおよびQは下記に定義され、
Aは、-O-または-NR1-であり、
K1は、基-(CH2)rOC(O)-、 -(CH2)rC(O)O-、 -(CH2)rOC(O)O-、 -(CH2)rNR3-、 -(CH2)rNR3C(O)-、 -(CH2)rC(O)NR3-、 -(CH2)rNR3C(O)O-、 -(CH2)rOC(O)NR3- -(CH2)rNR3C(O)NR3-(式中、複数の基R3は同じであるか、異なる)、-(CH2)rO-、 -(CH2)rSO3-、または、要すれば随意にB1と結合した原子価結合でもよく、rは1から12であり、R3は水素またはC1-C4アルキル基であり、
Bは、直鎖または分枝鎖の、アルカンジイル、オキサアルキレン、アルカンジイルオキサアルカンジイル、または、アルカンジイルオリゴ(オキサアルカンジイル)鎖であって、要すれば随意に、1個以上のフッ素原子を、過フッ化鎖以下の数まで含んでもよく、あるいは、QまたはY1が、Bと結合する末端炭素原子を含む場合、原子価結合を含んでもよく、
Qは陰イオン基である。
【0019】
この酸性基は、例えば、カルボン酸、炭酸、スルフォン酸、硫酸、硝酸、フォスフォネート、またはリン酸基であってよく、好ましくはスルフォン酸基である。モノマーは、遊離酸として、または、塩の形で重合されてもよい。好ましくは、共役酸のpKaは5未満である。
【0020】
一般式Iのモノマーでは、Y1は、好ましくはCH2=CRCOA-基であって、式中RはHまたはメチル、好ましくはメチルであり、Aは、好ましくはNHである。Bは、1から12個の、好ましくは2から6個の炭素原子から成る、好ましくはアルカンジイル基である。
【0021】
一つの特に好ましいタイプのモノマーは、(アルク)アクリルアミドアルカン-スルフォン酸、例えば、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパン-スルフォン酸(AMPS)である。
【0022】
エチレン的に不飽和なモノマーには、希釈剤モノマー、例えば、非イオン性モノマーを含めてもよい。このようなモノマーは、酸性基のpKaを調節する、産物の親水性または疎水性を調節する、ポリマーへ疎水性領域を供給する、または、単に不活性の希釈剤として作用するに当たって有用である。非イオン性希釈剤モノマーの例としては、例えば、アルキル(アルク)アクリレート、および(アルク)アクリルアミド、特に、1から12個の炭素原子、ヒドロキシを持つ上記化合物、および、ジヒドロキシ置換アルキル(アルク)アクリレートおよび、-(アルク)アクリルアミド、ビニールラクタム、スチレン、およびその他の芳香族モノマーがある。
【0023】
エチレン的に不飽和なモノマーはまた、たとえば、粒子の疎水性、潤滑性、生物適合性、および/または、血液適合性を増すために、両性イオンモノマーを含んでもよい。好適な両性イオンモノマーは、我々の以前の公刊物、国際公開第9207885、9416748、9416749、および9520407号に記載される。両性イオンモノマーは、好ましくは、2-メタクリロイルオキシ-2’-トリメチルアンモニウムエチルフォスフェートの分子内塩(MPC)である。
【0024】
ポリマー基質において、陰イオンの濃度は、好ましくは0.1から10 meq g-1であり、好ましくは少なくとも1.0 meq g-1である。
【0025】
PVAマクロマーが、他のエチレン的に不飽和なモノマーと共重合される場合、PVAマクロマーの他のモノマーに対する重量比は、好ましくは50:1から1:5の範囲に、より好ましくは20:1から1:2の範囲にある。エチレン的に不飽和なモノマーにおいて、陰イオン性モノマーは、好ましくは10から100モル%の範囲の量、好ましくは少なくとも25モル%の量として存在する。
【0026】
水に不溶で、水膨張性のポリマーは、好ましくは、重量分析によって測定した場合、40から99重量%、好ましくは75から95%の、水の平衡含量を有する。
【0027】
本ポリマーは、いくつかのやり方で粒子に成形される。例えば、架橋ポリマーは、例えば、シートまたはブロックの形をしたバルク材料として製造し、次に、所望のサイズに粉砕してもよい。別法として、架橋ポリマーは、例えば、連続的な、非混和性担体における分散相中の、モノマーの滴において重合することによって、粒状に形成されてもよい。膨潤すると所望のサイズを持つ粒子を生産するのに好適な油中水重合の例は既知である。例えば、米国特許第4,224,427号は、水溶性モノマーを、懸濁剤の存在下に、連続溶媒相に分散させることによって、直径が最大5mmの、均一な、球形ビーズを形成するための工程を記載する。分散相粒子のサイズに対するコントロールを実現するために、安定化剤や界面活性剤が存在してもよい。重合の後、架橋微小球は、既知の手段によって回収され、洗浄され、要すれば随意に滅菌される。好ましくは、この粒子、例えば、微小球は、水性液体において膨張し、そのサイズに従って分類される。
【0028】
本発明で用いられる治療活性剤は、アミン糖が付着するアントラキノン基を含むアントラサイクリン化合物である。糖につくアミノ基は、ポリマー基質の陰イオン基と会合すると考えられており、これによって、高濃度の負荷と、投与後の調節された送達が可能となる。
【0029】
好適なアントラサイクリンの例は、下記の一般式IIを持つ。
【化4】
【0030】
各種腫瘍に対する効力がこれまでに徹底的に調べられているドキソルビシンが、特に興味深い負荷特性、および、放出特性を持つことを我々は見出した。この薬は、ポリ(ビニルアルコール-グラフト-アクリルアミドプロパンスルフォン酸)に対して特別の親和性を持つようであり、そのために、高濃度のドキソルビシンがこのポリマーに組み込まれ、長い日数をかけての放出が可能である。
【0031】
本発明では、薬剤が、ポリマー基質に共有結合によって付着していないことが重要である。
【0032】
治療活性剤は、いろいろの技術によってポリマー基質に組み込むことが可能である。一つの方法では、治療活性剤は、重合または架橋反応前に、ポリマーの前駆物質、例えば、モノマーまたはマクロマー混合物、または、架橋性ポリマーおよび架橋性混合物、と混合してもよい。別法として、活性剤は、架橋反応後に、ポリマーに負荷してもよい。例えば、粒状の乾燥ポリマーを、治療活性剤の溶液、好ましくは水溶液中で膨潤させ、要すれば随意にその後、吸収されなかった活性剤の除去および/または溶媒留去を行ってもよい。アルコールのような有機溶媒、またはより好ましくは水に溶かした、活性剤の溶液を、粒子の移動ベッドに噴霧し、薬剤を粒子の本体に吸収させ、同時に溶媒を除去するようにしてもよい。もっとも好都合にも、液体の連続ベヒクルに懸濁させた膨潤粒子を、薬剤の溶液に単に長期間接触させることだけでも、薬剤を粒子の本体に吸収させることが可能であることを我々は見出した。これは、陽イオン交換タイプの過程と類似のものと考えられる。次に、この膨潤させるベヒクルを除去し、あるいは、好都合なことであるが、続いて塞栓剤として使用される製品の一部として粒子と共に保存されてもよい。
【0033】
一つの特に好ましい実施態様では、膨潤粒子は、単純なゲル/液体分離技術、例えば、適当な孔口を持つフィルター、好適にはガラスフィルターによって、基質に吸収されない膨潤ベヒクルから分離される。ほとんどまたは全く粒子以外に液体を持たない膨潤粒子のスラリーを、滅菌のために、また、そのまま保存するために、適当な保存容器に注入してもよい。このスラリーは、その形で保存中に、液体の滲出がほとんど無く、また、薬剤の消失が起こらないという点で十分に安定であることが見いだされている。
【0034】
別態様として、粒子の懸濁液を濾過して残余の薬剤負荷液を完全に除去し、かつ、製薬製品を乾燥させるのに用いられる従来技術の内から選ばれる任意の技術によって、粒子を乾燥させることも可能である。そのような技術としては、室温または高温での、あるいは、減圧下または真空下での空気乾燥、従来技術による凍結乾燥、大気圧凍結乾燥、臨界超過液の溶液強化分散(SEDS)が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。別態様として、薬剤負荷微小球は、有機溶媒を用いた一連の工程で水を置換して脱水し、その後に、より揮発性の高いその溶媒を蒸発させる。薬剤に対して溶媒とならない溶媒を選択しなければならない。
【0035】
簡潔に言うと、従来法による典型的凍結乾燥工程は下記のように進行してもよい。すなわち、サンプルの分液を、部分的に閉鎖したガラス瓶に取り、この瓶を、凍結乾燥器内部の、冷却した、温度調節棚の上に置く。棚の温度を下げ、サンプルを、定められた均一な温度に凍結させる。完全な凍結後、乾燥器内の圧を、定められた圧に下げて、一次乾燥を起動する。この一次乾燥の間に、水蒸気が、昇華によって凍結体から次第に奪われ、一方、棚の温度は、一定の、低温に調整される。棚の温度を高め、室内の圧をさらに下げることによって二次乾燥を開始し、半乾燥体に吸収された水分を、残りの水含量が所望のレベルに下がるまで除去する。この瓶は、必要ならば保存的雰囲気の下で、そのまま封印することも可能である。
【0036】
大気圧凍結乾燥は、凍結した製品の上に極めて乾燥した空気を急速に循環させることによって実現される。従来の凍結乾燥法と比べて、真空無しの凍結乾燥は多くの利点を持つ。風の強い日には洗濯物が早く乾くというのと同じように、循環乾燥ガスでは、凍結サンプルからの熱および質量転移が向上する。この領域での多くの作業は食品生産に関わっており、揮発性の芳香化合物の保存が向上することが観察されているが、それが、生物製剤の乾燥に対してどのような利点をもたらすかは、まだ明確にされていない。特に興味があるのは、大気圧粉末乾燥工程を用いることによって、ケーキではなく、微細な、さらさらと流れる粉末が得られるという事実である。ミクロン以下の直径を有する粒子を得ることが可能で、これは、一般に粉砕によって得られるものよりも10倍小さい。高度の表面積を持つという粒子の性質により、簡単な再水和が可能な製品が得られるが、吸引性の、また、経皮性の用途用に必要な粒子サイズに対する微細なコントロールは、現在では可能ではないが、この領域での可能性がある。
【0037】
固形腫瘍、例えば、肝細胞ガンを持ち、塞栓療法を必要とする患者に対して投与される組成物は、吸収された薬剤を含む膨潤粒子の水性懸濁液である。この懸濁液は、ゲルタイプの塞栓組成に用いられるように、送達前に、造影剤、例えば、通例の放射線不透過剤と混合することが好ましい場合がよくある。例えば、吸収薬剤を含む膨潤粒子の水性懸濁液を、投与直前に、塞栓剤と共に通常使用される、液状放射線不透過剤、例えば、リピオドールと、容量で2:1から1:2の範囲、好ましくは約1:1で混合してもよい。吸収薬剤を持つが、粒子外液体をほとんど、または全く持たない膨潤粒子のスラリーを含む本発明の実施態様では、同様にして、このスラリーと造影(放射線不透過)剤を、例えば、容量で1:5から2:1の範囲で、好ましくは1:2から1:1の範囲で、送達の直前に混合してもよい。薬剤を含む組成物が、用時に乾燥形として支給される場合、粒子を、乾燥したまま造影剤に加えるか、あるいは、好ましくは、最初生理的食塩水のような水性ベヒクルにおいて膨潤させてスラリーまたは懸濁液を形成し、次に、送達前に造影剤と混合してもよい。別態様として、あるいは、上記に加えて、粒子に、あらかじめ、アントラサイクリンの他に放射線不透過物質を負荷してもよい。投与される組成物はまた、他の治療薬と混合してもよいし、あるいは、他の治療薬と別々に、ただしそれと組み合わせて投与してもよい。通常、組成物は、通例の送達デバイス、例えば、動脈内カテーテルを用い、注射器の貯留槽から投与される。
【0038】
塞栓療法を必要とする患者に対して投与される塞栓組成物は、単一の、一回きり用量として投与されてもよい。塞栓形成は、通例の技術を用いて造影剤を追跡することによって監視される。塞栓組成物の第2回目投与を、好ましくは本発明で有用な化学的塞栓組成物を、第1回投与からある時間後に、例えば、腫瘍を養う新規形成の血管に塞栓形成するために、例えば、ドキソルビシン含有組成物による第1回目治療の4から10週後に送達することが好ましいことが見出されるかも知れない。組成物は、1回の治療当たり25-100 mg/m2の範囲の薬剤用量で投与されるが、ただし十分な安全評価をした後であれば、より高い用量を用いることも可能である。ドキソルビシンについては治療当たりの好ましい用量は、50 mg/m2以上、例えば、最大100 mg/m2以上である。治療当たり、患者一人当たり、150 mg/m2を越える量を投与するのは望ましくないと一般に考えられている。
【0039】
本発明の第2局面として、塞栓療法による固形腫瘍の治療に使用される組成物製造におけるアントラサイクリン化合物の用法が提供される。この治療では、アントラサイクリンは、分子当たり少なくとも2個のエチレン的に不飽和なペンダント基を持つポリ(ビニルアルコール)マクロマーと、エチレン的に不飽和な陰イオン性モノマーとを共重合させることによって形成されるポリマー基質から送達される。
【0040】
本発明のこの局面では、ポリマー基質は生体内で形成されてもよい。従って、マクロマーと陰イオン性モノマーとアントラサイクリンを含む液体組成物は、患者の循環中に送達され、標的部位において重合化を起動する条件に暴露されて、塞栓性ゲルを形成するようにしてもよい。別態様として、ポリマー基質は、本発明の第1局面で記載されたように、投与前にあらかじめ形成されてもよい。
【0041】
PVAマクロマーと陰イオン性モノマーは、好ましくは、第1局面に関連して上述した通りのものである。本発明の第1局面に関連して上述したように、他のモノマー同士を共重合させてもよい。
【実施例】
【0042】
本発明は、その結果が図に示される下記の実施例において具体的に説明される。
【0043】
[実施例1: 微小球調製の概略法]
===ネルフィルコンBマクロマー合成===
微小球合成の第1段階は、広く使用されている水溶性ポリマーPVAからネルフィルコンB、すなわち重合可能なマクロマーを調製することを含む。Mowiol(登録商標) 8-88ポリ(ビニルアルコール)(PVA)粉末(88%加水分解、12%酢酸塩含有、平均分子量約67,000D)(150 g)(Clariant、シャーロット、ノースカロライナ州、米国)を、2リットルのガラス反応容器に加える。穏やかに攪拌しながら、1000 mlの水を加え、攪拌を400 rpmに増す。PVAの完全溶解を確保するために、温度を、2-3時間99±9℃に上げる。室温に冷却した時点でN-アクリロアミノアセトアルデヒド(NAAADA)(Ciba Vision、ドイツ)(PVAのg当たり2.49 gまたは0.104 mmol)をPVA溶液と混合し、次いで濃塩酸(100 ml)を加える。濃塩酸は、経エステル化によってPVAに対するNAAADAの添加を触媒する。この反応を室温で6-7時間進行させ、2.5 M水素化ナトリウムを用いてpH7.2に中和することによって反応停止させた。得られた塩化ナトリウム+未反応NAAADAは全て透析濾過によって除去する(工程2)。
【0044】
===マクロマーの透析濾過===
透析濾過(diafiltration)(接線流濾過)は、精製される入力液(この場合はネルフィルコンB液)を、膜表面を横切って連続的に循環させ、望ましくない物質(NaCl、NAAADA)を透過させて廃棄処理へ向かわせ、一方、ポアの大きさを十分小さくして保持体の通過を阻止して、循環中に留めさせる。
【0045】
ネルフィルコンBの透析濾過は、3000の分子量カットオフを持つポアサイズの0.1 m2のセルロース膜(Millipore社、ベッドフォード、マサチューセッツ州、米国)を積層したステンレススチールのペリコン2ミニホールダーを用いて行った。Mowiol8-88は、67000の平均分子量を持ち、従って、膜を通過する能力には限界がある。
【0046】
マクロマーを含むフラスコは、マグネットの攪拌棒を含み、攪拌プレートの上に設置される。溶液は、Easy Load IIポンプヘッドを装備したMasterflex(登録商標) LSペリスタルティックポンプを介し、LS24クラスVIチューブを用いて、透析濾過アッセンブリーに供給される。ネルフィルコンは、透過を加速するため、約50 psiの下で、膜の上を循環される。溶液が約1000 mlに濃縮された時点で、濾液が廃棄処理のために回収されるのと同じ速度で、6000 mlの追加分の添加が完了するまで水を添加することによって、容量を一定に保つ。一旦完了すると、溶液は、20-23%の固形分に濃縮され、25℃における粘度は1700-3400 cPとなる。ネルフィルコンは、GFC、NMR、および粘度によって特徴付けられる。
【0047】
===微小球合成===
球は、懸濁重合法によって合成する。すなわち、水相(ネルフィルコンB)を、有機相(酢酸ブチル)に両相が混和しない状態において加える。急速混合法を用いて、水相を分散させ、小滴を形成させることが可能であり、しかも、そのサイズおよび安定性を、攪拌速度、粘度、水相の有機相に対する比、および、両相の間の界面エネルギーに影響を及ぼす安定化剤と界面活性剤の使用、等の因子によって調節することが可能である。低AMPSシリーズおよび高AMPSシリーズの、二つのシリーズの微小球を製造する。これらのシリーズの処方は下記の通りである。
A. 高AMPS
水相:およそ21%w/w(重量/重量)のネフィリコンB液(約400±50 g)
およそ50%w/wの2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルフォネートNa塩
(140±10 g)
純水
過硫酸カリ(5.22±0.1 g)
テトラメチルエチレンジアミンTMEDA(6.4±0.1 ml)
有機相:n-ブチルアセテート(2.7±0.3 L)
10%w/wセルロースアセテートブチレートの酢酸エチル溶液(4.6±0.5 g)
(安定化剤)
純水(19.0±0.5 ml)
B. 低AMPS
水相:およそ21%w/wのネフィリコンB液(約900±100 g)
およそ50%w/wの2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルフォネートNa塩
(30.6±6 g)
純水(426±80 g)
過硫酸カリ(20.88±0.2 g)
TMEDA(25.6±0.5 ml)
有機相:n-ブチルアセテート(2.2±0.3 L)
10%w/wセルロースアセテートブチレート(CAB)の酢酸エチル溶液
(92±1.0 g)
純水(16.7±0.5 ml)
【0048】
ジャケット付き4000ml反応容器を、コンピュータ制御浴(Julabo PN 9-300-650)を用いて加熱する。該容器には、反応温度を連続的に監視するフィードバックセンサーが備えられる。
【0049】
酢酸ブチルを25℃で反応容器に加え、次いでCAB液と水を加える。システムに15分窒素を通じて清掃して後、PVAマクロマーを添加する。分散PVA液の架橋は、TMEDAを添加し、窒素下において温度を55℃に上げて3時間加熱することによって起動する。架橋反応は、レドックス起動重合によって行う。この重合では、TMEDAのアミノ基が過硫酸カリの過酸化基と反応してラジカル分子種が形成される。次に、このラジカルが、PVAとAMPS上の二重結合について重合および架橋を起動し、分散したPVA-AMPS小滴を不溶のポリマー微小球に変形させる。25℃に冷却した後、産物を、精製のためにフィルター反応器に転送し、そこで、酢酸ブチルを濾過によって除去した後、下記の処理を行う。すなわち、
*2 x 300 mlの酢酸エチルで洗浄し、酢酸ブチルとCABを除去する。
*酢酸エチルで30分平衡させ、次に濾過。
*減圧濾過の下で2 x 300 mlの酢酸エチルで洗浄。
*アセトンで30分平衡させ、濾過して、酢酸エチル、CAB、および水を除去する。
*減圧濾過の下で2 x 300 mlのアセトンで洗浄。
*アセトンで一晩平衡させる。
*減圧下で2 x 300 mlのアセトンで洗浄。
*真空乾燥、2時間、55℃で残余の溶媒を除去する。
【0050】
===染色===
この工程は必要であれば随意に行ってもよいが、薬剤に有色の活性成分が負荷されている場合は(これが色を与えるため)、一般に不要である。水和されると、微小球は、約90%(w/w)の水を含むので、それと見て取るのが難しい。臨床環境における可視性を助けるために、小球は、反応性の青色#4染料(RB4)を用いて青く染める。RB4は、水溶性クロロトリアジン染料であり、アルカリ性条件下でPVAバックボーンのペンダントヒドロキシル基と反応して、エーテル共有結合を形成する。この反応はpH12(NaOH)で実行され、生成されたHClは中和されてNaClになる。
【0051】
染色前に、小球は改めて十分に水和し、35 g分液に分割する(それぞれに処理する)。染色液は、0.8 gのRB4を2.5M NaOH液(25 ml)と水(15 ml)に溶解し、次に、小球を80 g/l-1生食液に加えて調製する。20分間混合した後、産物を32 μmの篩で回収し、濯ぐことによって、未反応の染料バルクを除去する。
【0052】
===抽出===
広範な抽出過程を用いて、未結合の、または、非特異的に吸収されたRB4を除去する。順守したプロトコールは下記の通りである。
*2 lの水で5分間平衡させる。篩で回収し、濯ぐ。5度繰り返す。
*80 mMのリン酸水素二ナトリウムの、0.29%(w/w)生食液の2 l溶液中で平衡させる。30分間沸騰加熱する。冷却し、篩で回収し、1 l生食液で洗浄する。さらに2回繰り返す。
*平衡産物を篩上で回収し、2 l水にて10分間洗浄する。
*回集し、1 lアセトンにて30分脱水する。
*全ての分液を合わせて、2 lアセトンにて一晩平衡させる。
【0053】
===篩分け===
製造された微小球は、そのサイズが100から1200ミクロンに渡るので、下記に掲げる指定の分布を得るために、ある範囲のメッシュサイズを用いる篩工程によって分画しなければならない。
1. 100-300 μm
2. 300-500 μm
3. 500-700 μm
4. 700-900 μm
5. 900-1200 μm
【0054】
篩分けの前に、小球は真空乾燥して完全に溶媒を除去し、次に60℃で水に平衡させて十分に再水和させる。この小球を、メッシュサイズが32から1000 μm範囲の15’’ステンレススチール篩トレーを備えた316Lステンレススチールvortisieveユニット(MM Industries、サーレム、オハイオ州)にて濾す。濾過された生食液はユニットを再度循環して分画を支援する。32ミクロン篩で回収された小球は廃棄する。
【0055】
[実施例2: ドキソルビシンの負荷]
本実験のために、実施例1のように調製した低AMPS微小球を用いた。使用する各サイズのビーズについて、0.5 mlを、2本の、1 ml注射筒に移した。1本は薬剤取り込みのため、2本目は対照として用いるためである。実験のために選んだサイズは、106-300 μm, 300-500 μm, 500-710 μmおよび850-1000 μmである。工程の有効性を確認するために500-710 μmのさらに3本の注射筒を準備した。実験の持続時間において光によってドキソルビシンが変性されるのを防ぐために、11本の、10 mlガラス瓶をフォイルで被った。標準曲線を作成した。20 mg/mlの薬剤液80 mlを用いて、下記の濃度を調製し、その吸光度(483 nmにおける)を測定した。すなわち、100 μg/ml, 50 μg/ml, 25 μg/ml, 12.5 μg/ml, 6.25 μg/mlおよび3.125 μg/mlである。得られた吸光度をグラフにプロットし、線の等式を用いて、実験においてビーズに取り込まれた薬剤の濃度を計算した。瓶の内の4本には5 mlの蒸留水(ROMIL)を満たし、ビーズを加えたときの対照として用いた。残りの7本の瓶には、所望の濃度で5 mlの薬液を加えた。開始の吸光度、従って溶液の濃度は、標準曲線の作成から既知である。(20 mg/ml溶液の吸光度を測定するためには、その溶液を200倍に希釈し、100 μg/ml濃度を用いる必要があった。この1:200希釈は、ビーズによる溶液の取り込みを測定する間中実行した。)第1セットの微小球を第1薬剤液を含む瓶に添加した直後にストップウォッチをスタートさせ、微小球を、最小から最大のものへと、残りの6本の瓶のそれぞれに加えた。キャップを用いて封印した後、それらの瓶を回転式ミキサー上に設置した。この過程を、対照サンプルについても繰り返した。瓶を設定したのと同じ順序で、0.167時間(10分)、0.5時間、1時間、2時間、24時間、および96時間間隔で吸光度を測定した。データから、1 mlの微小球当たりの薬剤量(mgで表した)、および、1 mlの微小球による薬剤の取り込み%が計算可能であった。結果を図1に示す。
【0056】
[実施例3: 薬剤濃度の負荷に対する効果]
実施例2に略述した処理過程に従って、ある範囲の異なる濃度のドキソルビシンを、高AMPS微小球処方に負荷することが可能であった。薬剤の大部分は、数時間内に微小球(500-710 μmのサイズ範囲)中に負荷するのが見られた(図2参照)。負荷は、重量に基づくと、高AMPS処方の方が、低AMPS処方よりもはるかに高いことが見て取れる。
【0057】
[実施例4: 微小球サイズの負荷に対する効果]
ドキソルビシンの負荷を、取り込み量の比較を実行するために、いくつかの異なるサイズの範囲の微小球について行った。小さい微小球の方が、比較的速く薬剤を負荷させるのが見られる一方、24時間に渡る連続負荷では、等重量の微小球は、ほぼ同じ薬剤負荷に平衡することを示した。この比較的速い取り込みは、小さい微小球では表面積が増すためである(図3参照)。
【0058】
[実施例5: 負荷の再現性]
ドキソルビシン負荷の再現性を測定するために、実施例2で略述した負荷実験を数回繰り返した。500-710 μmサイズ範囲の高AMPS微小球を、20 mg/mlの薬剤水溶液で負荷し、薬剤取り込みの時間変化を監視した(図4)。
【0059】
[実施例6: 微小球からのドキソルビシンの溶出]
高AMPS微小球を、各種濃度のドキソルビシンで負荷し、その微小球を250 mlの蒸留水に溶出させた(図5)。
【0060】
133.2 μg/mlおよび2 mg/mlで負荷した微小球から溶出した薬剤は、3時間でも依然として検出限界以下であった。それより高濃度の薬剤負荷では、バースト作用が、最初の数分間に明らかであり、その後、長時間のよりゆっくりした放出が続く。バーストは、微小球の中に保持されていた水からの遊離薬剤の放出を表し、一方、持続的溶出は、微小球の中で、基本的に荷電基の間のイオン相互作用によって「結合」されている薬剤によるものと推測される。薬剤最大負荷の場合(20 mg/mlの負荷液による)、バースト作用は、小球の全体薬剤負荷のほぼ45%を表し、残余のものは、担体から完全に溶出するためには数日を要する。実験は、100%の薬剤が、最終的には微小球から溶出することを示した。
【0061】
[実施例7: 高AMPS微小球によるドキソルビシン捕獲の可視化]
サイズ範囲850-1000 μm(手で篩にかけたもの)の高AMPS微小球約0.5 gを含む瓶に、リン酸バッファー生食液PBS(66.6 μg/ml)に溶解させたドキソルビシン1 mlおよび3 mlのPBSを加えた。この微小球をCCDカメラの下に設置し、2分に1回2.5時間に渡って映像を取った。この期間にサンプルの煽動は見られなかったが、光源からの局所的な加熱のために小さな動きが観察された。従って、最初と最後の微小球は同一であり、この期間を通して比較が可能である。薬剤の取り込みは、微小球における赤色の増加、および、周囲の溶液における赤色の喪失によって観察された(図6)。
【0062】
[実施例8: 乾燥薬剤負荷微小球の調製]
微小球は、実施例2に概説した方法によってドキソルビシンを負荷することも可能である。微小球は、下記の処理過程を用いて脱水した。脱水される微小球を、プラスチック容器に入れ、PBSで製造した10%アセトン(ROMIL)液(Inverclyde Biologicals)で被った。微小球を、溶液中に10分間放置し、この間、30秒間、数回に渡って振とうした。次に、溶液を傾寫除去し、前記過程をさらに2回繰り返した。この過程を、アセトン濃度を25%、50%、75%、および最後に100%と増加させて繰り返した。最後の100%脱水工程の後、アセトンを傾寫除去し、ビーズを、50℃に設定したオーブンに入れて、定常質量となるまで乾燥した。
【0063】
得られた乾燥産物は、塞栓化処置の前に、生食液/造影剤中に再懸濁/再水和することが可能である。水和は急速に起こり、数分だけで完全水和サイズの>80%まで膨潤する。
【0064】
[実施例9: 微小球スラリーの調製]
上記実施例1によって生産された高AMPS微小球を、20 mg/mlのドキソルビシン水溶液中で30分膨潤させた。この期間の後、余分の粒状液体は、実質的に脱色されて見え、色(赤)は、実質的に微小球内部に局在していた。この懸濁液を、焼結ガラス漏斗を通じて濾過して上清を除去した。微小球を、2倍容量の蒸留水で洗浄する一方、僅かな陰圧の下に濾過した。次に、微小球をジャーに移し、ジャーから、ペリスタルティックポンプによってガラス注射筒に汲み上げた。ポンプを取り外して後、注射筒を注射筒ロックにて閉鎖し、ガンマ線放射によって滅菌した。
【0065】
[実施例10: 負荷−標的負荷用量対実際負荷用量]
22-80 mg/ml水溶液から一連のドキソルビシン溶液を調製した。これらの溶液の1 mlを、1 mlの高AMPS微小球に加え、取り込みをUVで監視した。サンプルは、ローラーミキサーにて攪拌した。終了時点を、10、20、30、60分、次に、2時間、最長24時間に取った。取り込みは、溶液に残っているドキソルビシンから計算した。微小球には、水和化微小球1 ml当たり最大80 mgまで様々の用量を負荷することが可能であった。そして、30分未満で、薬剤溶液の90%が微小球に局在した。
【0066】
[実施例11: 高用量ドキソルビシン]
実施例10で、ドキソルビシンの80 mg/ml溶液を調製した。これは、粘ちょうな、ゼラチン状混合物で、日常的使用には適当ではないと思われた。この高用量を、今度は20 mg/mlのドキソルビシン液4 mlを用いて再現した。取り込みは、UVで監視し、最終的に、水和化高AMPS微小球に対し80 mgの薬剤負荷が再び達成された。
【0067】
[実施例12: 負荷−薬剤供給源]
ドキソルビシン25 mg/ml負荷の本発明の微小球を調製するために、3種類のドキソルビシン供給源が用いられた。
*アドリアマイシン(商標)PFSは、2 mg/ml溶液として市販される(Pharmacia and Upjohn)。
*アドリアマイシン(商標)RDFは、可溶性を促進するためにラクトースを添加した粉末処方として市販される(Pharmacia and Upjohn)。
*ドキソルビシンEP。
【0068】
アドリアマイシンRDFおよびドキソルビシンEP液について、2 mlを微小球2 mlに加え、取り込みをUVで監視した。アドリアマイシンPFS液については、2 mg/ml溶液50 mlを微小球2 mlに添加し、取り込みを監視した。30分後、これら25 mg/ml溶液は両方とも完全に負荷され、2 mg/ml溶液は24時間追跡したところ完全な取り込みを示した(図8)。
【0069】
[実施例13: 他のアントラサイクリン類の負荷]
8 mlガラス容器において、水和化高AMPS微小球(900-1200 μm)1 mlから成る4個のサンプルを調製した。リン酸バッファー生食液(PBS)に溶解した微小球を、10 mlガラスシリンダーで1 mlを測りとってガラス容器に移した。この後、全てのPBSを、各サンプルにおいて、ガラスパスツールピペットで除去した。負荷液を下記のように調製した。すなわち、ダウノルビシン(Beacon Pharmaceuticals) 20 mg入り1瓶は、1 mlの水(ROMIL)で再構成し、最終的に20 mg/mlの濃度を得た。エピルビシン急速溶解物(Pharmacia)50 mg入り1瓶は、2.5 mlの水で再構成し、最終的に20 mg/mlの濃度を得た。20 mg/mlドキソルビシン液(Dabur Oncology)を、比較のために、前の実施例のように調製した。調製後、これらの溶液の吸光度を483 nmのUVで読み取り、希釈を行って、各薬剤液について標準曲線を作成した。
【0070】
各負荷液1 mlおよび水1 ml(対照として)を、上記のように調製した1 mlの微小球を含む各瓶に加え、時間測定を開始した。瓶は、全ての実験においてローラーミキサーに設置した。指定の時点(0、10、20、30、45、および60分)で、50 μlを取り出し、必要に応じて希釈し、483 nmで読み取った。これらの読み取り値から、各時点における溶液の濃度を、各場合における対応標準曲線から計算した。微小球に負荷された薬剤の量は、装置によって抽出された時の、溶液の薬剤の消失によって測定した。データから、水和微小球1 ml当たりの薬剤のmg負荷量が計算され、グラフにプロットされた(図9)。グラフは、調べたアントラサイクリン類は同様に負荷することを示す。
【0071】
[実施例14: 他のアントラサイクリン類の溶出]
薬剤放出プロフィールを求めるために、実施例13で記述するように負荷した微小球を用いた。各薬剤負荷微小球タイプ1 mlを、100 mlのPBSで満たした褐色ガラス容器に移し、時間測定を開始した。全実験を通じて容器は、37℃の水浴に設置した。指定の時点(0、0.16、0.5、1、2、および72時間)に、溶液1 mlを取り出し、読み取り、容器に戻し容量を定常に保った。サンプルを483 nmで読み取り、濃度を、実施例12で求めたそれぞれの標準曲線の等式から計算した。データから、水和微小球1 mlから溶出される薬剤のmg量が計算され、グラフにプロットされた(図10と11)。グラフは、調べたアントラサイクリン類は同様の溶出プロフィールを描いて微小球から溶出することを示す。
【0072】
[実施例15: アントラサイクリンの微小球サイズに及ぼす効果]
実施例13で記述した微小球を用い、CCDカメラと顕微鏡によって撮影した微小球の画像を用い、Image Pro Plus 4.05で直径を割り出してサイズ分布を求めた。様々のアントラサイクリンで負荷した微小球を、小さな細胞培養フラスコに移し、画像毎に50から1500個の微小球を撮影した。Image Pro Plus 4.05は、100から1500個の微小球の直径を、サイズ範囲に応じて分解した。直径を表にまとめ、サイズ範囲対頻度のヒストグラムに変換し、正規化し、Excelを用いてグラフに表した(図12)。グラフは、これらのアントラサイクリンは、微小球サイズに対して同じ効果を及ぼすことを示す。
【0073】
[実施例16: 他の市販の微小球に対する薬剤負荷]
別の市販の塞栓性微小球(Embosphere(登録商標)、コラーゲンでコートされたトリスアクリル微小球)に対し、本発明の微小球におけるドキソルビシン負荷について、前述の実施例で概説した手順を用いて比較を行った。図15から明らかなように、本発明の微小球は、薬剤を捕獲する能力を示したのに対し、標準的市販製品はそのような能力を示さない。
【0074】
[実施例17: 負荷−物理効果]
ドキソルビシンの高AMPS微小球に対する負荷および溶出の効果を、薬剤の負荷および溶出後のサイズおよび圧縮性、および、ドキソルビシン負荷微小球の送達性を測定することによって評価した。薬剤の負荷は、薬剤が、水和状態の小球から水分を効果的に移動させるので、サイズの全体範囲において僅かな減少をもたらした(図14)。これは、圧縮性における僅かな減少を伴っていた。溶出では、サイズは恒久的に影響されず、圧縮性も同様であった(Instron張力テスターによるヤング率測定によって求めた)。標準カテーテルを通じての小球の送達性は、薬剤負荷過程によって変えられなかった。
【0075】
[実施例18: 溶出−ビーズサイズの効果]
各サイズの、本発明の微小球に、ドキソルビシン液70 mg/mlを負荷した。次に、微小球を、500 mlのリン酸バッファー生食液に移し、放出をUVによって測定した。インビトロ溶出プロフィールは、負荷されたドキソルビシンの最大40%が、バーストとして溶出の最初の2時間で放出され、次に残余の薬剤が、少なくとも12日間に渡って溶出した。全てのサイズ範囲が、同様の特性を示し、±5%内にて放出された(図15)。
【0076】
[実施例19: 溶出−溶媒の効果]
25 mg/mlのドキソルビシンを負荷した本発明の微小球を、様々な媒体中に入れ、溶出を60分間にわたって監視した。血漿とPBSは最初の60分放出を示した。水への放出は、UVの検出限界以下であった。これは、薬剤放出は、陰イオン荷電ポリマー基質からイオン性に結合した薬剤を移動するイオンの存在に決定的に依存することを示唆している(図16)。
【0077】
[実施例20: ドキソルビシンの安定性]
負荷および放出過程が薬剤の安定に及ぼす効果を求めた。様々な条件で保存した場合のドキソルビシン液の安定性を求めた。本発明の微小球に対してドキソルビシンを負荷、および放出させ、その後USP法によるHPLCを行い、ドキソルビシンがこの過程によって影響されるかどうかを調べた。得られたクロマトグラムは全て、同じ保持時間を持つ単一ピークを示し、微小球に対する負荷、および微小球からの放出の間、ドキソルビシンに対する有害作用が無いことが示された。
【0078】
[実施例21: ドキソルビシン負荷微小球−材料との適合性]
本発明の微小球に25 mg/mlのドキソルビシンを負荷した。次に、その微小球を造影剤および生食液に懸濁し、次に、送達カテーテル(Progreat(登録商標), Terumo)および注射筒(Merit)中に24時間放置した。様々な時点で、ドキソルビシン、および成分の安定性を測定した(ドキソルビシンについてはUV/HPLC、成分については目視/SEM)。室温で24時間に渡って、成分にも薬剤にも変性は観察されなかった。
【0079】
[実施例22: 事前負荷産品−負荷用量]
本発明の微小球のサイズ範囲全体に渡って、設定用量5、10、20、45 mg/mlでサンプルを調製した。各サンプルに対する負荷をUV測定で求めた。25回の独立試行のデータを下記の表に示す。
【0080】
表1: 負荷液のUV測定に基づく実際用量
【0081】
測定された用量範囲は、
45 mg/ml: 44.37-45.77 mg/ml (3.11%範囲)
20 mg/ml: 21.11-21.32 mg/ml (1.05%範囲)
10 mg/ml: 9.93-9.98 mg/ml(0.5%範囲)
5 mg/ml: 4.98-5.14 mg/ml (3.2%範囲)
これらのデータは、複数の試行間にほとんど変動が無いこと、および、厳密で正確な薬剤負荷の実現が可能であることを示す。
【0082】
[実施例23: 事前負荷産品−凍結乾燥による重量損失]
本発明のドキソルビシン負荷微小球を特許サイクルを用いて凍結乾燥した。全ての微小球範囲について、25回の独立試行で、5、10、20および45 mg/ml用量について重量損失パーセントを求めた(負荷微小球の%で表した、表2)。一貫した重量損失が得られた。これは、凍結乾燥前の負荷微小球の重量変動は、凍結乾燥後の産品に効果を及ぼさないことを示す。図17のデータは、凍結乾燥の際、一貫して82%を越える水分消失による重量減少があることを示す。
【0083】
表2: ドキソルビシン負荷微小球における凍結乾燥による重量損失
【0084】
[実施例24: 事前負荷産品−残留水分含量]
全サイズ範囲に渡って5、10、20、および45 mg/mlのドキソルビシンで負荷した本発明の微小球を調製し、凍結乾燥し、次に、滅菌のためにガンマ線放射した。次に、これらのサンプルの残留水分含量を、70℃で微小球を定常重量が実現されるまで加熱することを含む、重量定量法によって定めた。全てのサンプルについて、5%未満の残留水分含量が求められた。
【0085】
表3
【0086】
[実施例25: 事前負荷産品−再水和後の放出]
全サイズ範囲に渡って5、20、および45 mg/mlのドキソルビシンで負荷した本発明の微小球を調製し、凍結乾燥し、次に、滅菌のためにガンマ線放射した。次に、サンプルを再び水和し、薬剤のPBSへの放出を、UVにて100時間まで監視した(図18)。
【0087】
[実施例26: 再水和したドキソルビシン負荷微小球のサイズ]
20 mg/mlのドキソルビシンで負荷した本発明の微小球(300-500 μm)を調製し、凍結乾燥し、次に、いくつかのサンプルを滅菌のためにガンマ線放射した。サンプルを再度水和し、較正された画像分析装置(Image Pro-Plus)を用いてサイズ測定を行った(図19)。
【0088】
非薬剤負荷サンプルを同様に処理し、サイズ測定した。図19のデータは、各種処理後のサイズに若干のシフトが見られるが、産品を250-500 μmの受容可能な特定範囲の外側に押しやるほどではないことを示す。
【0089】
[実施例27: ウサギ肝臓ガンモデル(Vx-2)における経カテーテル化学的動脈塞栓形成後の、ドキソルビシン負荷微小球からのドキソルビシンの持続放出]
本実験の目的は、ウサギ肝臓ガンモデルにおいて、経カテーテル化学的動脈塞栓形成(TACE)を介して送達される本発明のドキソルビシン負荷微小球のパフォーマンスを評価することである。実験は、ジョンズホプキンス大学、バルチモアで実施された。
【0090】
===27.1 材料および方法===
動物は、それぞれ5匹の動物(実験動物4匹、対照1匹)から成る6グループ(グループ1、2、3、4、5、6)に分けた。全てのグループにおいて、対照動物にはドキソルビシン(治療動物と同じ濃度)を動脈内注入した。一方、治療動物は、ドキソルビシンを含む薬剤溶出球を用いる、化学的塞栓形成の修正プロトコールによって治療した。下記の三つの時点で各種グループの動物を屠殺した。すなわち、
グループ1: 化学的塞栓形成処置後1時間
グループ2: 化学的塞栓形成処置後12時間
グループ3: 化学的塞栓形成処置後24時間
グループ4: 化学的塞栓形成処置後3日
グループ5: 化学的塞栓形成処置後7日
グループ6: 化学的塞栓形成処置後14日
【0091】
===27.2 動物の準備===
VX2腫瘍細胞系統を、キャリヤーウサギ(ニュージーランドホワイト種)の後肢に注入し、14日間育成した。得られた腫瘍を、各キャリヤーウサギから回収し、生きた腫瘍組織を切り出し、無菌的に細切し、ステンレススチール篩を通過させて、それぞれから粥状腫瘍サンプルを調製した。ウサギを、アセプロマジン(1 mg/kg)と塩酸ケタマイシン(20 mg/kg)の混合物筋注によって麻酔前処置した。約15分後、静脈内導通を耳の辺縁静脈を通じて確立し、動物にナトリウムペントタール(40 mg/kg)を静注し、外科的麻酔深度を維持した。下腹を剃毛し、ベンジジンを塗布し、正中切開を行った。各ウサギの肝臓を、正中腹部切開によって露出し、周囲を十分な肝臓実質に囲まれた孤立病巣を発達させるために、粥状腫瘍サンプルの分液(0.2 ml)を、21G血管造影カテーテルを用いて露出肝臓の左葉に直接注入した。各2匹の試験ウサギについて一つの腫瘍粥を用いた。腫瘍は、ウサギ肝臓において14日間育成させた。これは、以前の実験に基づいて、直径2.5から3.5 cmの範囲のサイズに成長すると期待される期間である。出血は全て電気焼灼によってコントロールした。次に、下腹を走行縫合にて閉じ、皮膚は縫合にて閉じ、包帯した。処置の間、適正な無菌技法が順守された。手術後、動物をケージに入れ、毛布で保温し、麻酔から回復するまで呼気終末CO2濃度で監視した。動物が痛がっていたり、身体的に不調なことが明らかである場合は、鎮痛剤ブプレノルフィン0.02-0.05 mg/kgを皮下に12時間おきに3日間投与した。
【0092】
===27.3 ドキソルビシン溶出微小球の調製===
サイズ範囲が100-300ミクロンで、45 mg/mlのドキソルビシンを負荷した本発明の微小球を、実施例22のように調製し、実施例23のように凍結乾燥し、ガンマ線放射して滅菌した。使用直前に、微小球を1 mlの無菌水で水和し、それに2 mlのオムニパークと1 mlの生食液を加えた。溶液は、注入予定の少なくとも10分前に調製し、全体溶液の1 mlを、各ウサギについて動脈内注入した(後述の通り)。
【0093】
===27.4 化学的塞栓形成過程===
ウサギ肝臓に腫瘍の移植2週間後に、動物を「化学的塞栓形成」のために戻した。麻酔前の投与、静脈内導通、およびナトリウムペントタール麻酔は前述のように行った。導通を、総大腿動脈に確保し、その後、カテーテルを操作して総肝動脈に挿入した。造影剤の注入によって腫瘍の位置が示され、その後、2F JB1 カテーテルをできるだけ腫瘍近くに進めた。要すれば、標的動脈にカテーテルを導くためにTranssendガイドワイヤーを用いた。カテーテルが適切に配置されたならば、ドキソルビシン溶出小球を、前述のようにして腫瘍ベッドに注入した。対照には、塞栓形成無しに等価濃度のドキソルビシンのみを注入した。「化学的塞栓形成」の完了後に、カテーテルを除去し、止血を実現するために、動脈を再吸収可能な縫合材料によって縫い閉じた。処置および処置後を通じて、適正な無菌技法が順守された。不快と苦痛を最小にするためにあらゆる努力、例えば、腫瘍移植のための外科切開を限局すること、苦痛を最小とするためのブプレノルフィンの皮下注射、動物の状態、苦痛・不快レベルの評価が必要な場合にいつでも即応できる臨床コールの設置を含む努力が取られた。動物はその後飼育ケージに戻した。動物は全て前述の時点で屠殺した。
動物は、獣医学統制規則に従って屠殺した。各動物グループの動物は全て、治療後のそれぞれ指定の時点毎に、100 mg/mlのチオペンタール静注から成る静注深麻酔の下で殺した。
【0094】
===27.5 病理学的および組織学的評価===
ウサギの肝臓を剖出し、注意深く取り出し、5%フォルムアルデヒドを含む容器に入れた。肝臓は、肉眼検査のために5 mm間隔でスライスした。各薄切部を完全にパラフィンに包埋し、その後4 μ厚に薄切し、H&E染色で処理した。腫瘍の生存率は目視で評価し、各スライスについて生存腫瘍面積のパーセントで表した。腫瘍内および非腫瘍肝臓組織におけるドキソルビシンの濃度はHPLCによって定量した。
【0095】
===27.6 ドキソルビシン分析用血液採取===
3 mlの全血を、薬剤溶出ビーズ注入時点から、それぞれ、20分、40分、60分、120分、および180分後に耳から挿入された動脈カテーテルを通じて採取した。次に、血液を、ヘパリン添加真空容器に移し、室温で2000gで10分遠心した。血漿を分離し、ラベル添付ポリプロピレンのキャップ付き管に移した。これを、メタノール/氷で急速冷凍し、分析の時点まで-20℃で保存した。
【0096】
===27.7 腫瘍、および非腫瘍肝臓組織におけるドキソルビシン濃度定量のための組織処理===
腫瘍および非腫瘍肝臓組織(約100 mg)を摘出し、上を被っている皮膚と雑物を除去した。組織の重量を、あらかじめ重量を測定した管を用いて正確に定量・記録し、直ちに、ドライアイスの上に置き、その後分析の時まで-80℃に保存した。
【0097】
===27.8 結果===
<薬剤分布要約>
1. 腫瘍内部におけるドキソルビシンの最大濃度は、治療後7日目に得られ、それに続くのは3日目グループであった(図20)。
2. 腫瘍内部におけるドキソルビシンの濃度は14日グループでも高いままであった。これは、ビーズからドキソルビシンが連続的に溶出することを示している(図20)。
3. 全ての時点で血漿中のドキソルビシンおよび分解産物(ドキソルビチノール)の濃度は極少であった。これは、特に投与後20分において目覚しく、血漿におけるドキソルビシン濃度は、20分から180分にかけてほぼ直線的に減少し続ける。ドキソルビシン濃度は、ビーズ無しで動脈内注入した場合血漿で10から17倍高い(図21)。
【0098】
<組織学的観察>
1. 腫瘍壊死は7-14日目に最大であった(図22)。
2. 1および12時間グループは対照と考えられることに注意。なぜなら、この時間は、化学療法剤が細胞殺傷を始めるにはあまりにも早すぎるからである。
3. 最終的に、3日グループと7日グループでは、それぞれ、ガン細胞の50%および37%が完全に死滅もしなければ、完全に生存もしていない状態であった。これらの細胞は「損傷している」、または、恐らくアポトーシス性でさえあると思われる。
4. ビーズの分布に関しては、期待した通り、対照動物では全く見られなかった。実験動物では、ビーズは全て、小動脈内の、予想した血管サイズ、すなわち、100から300ミクロンにおいて残存していたことが判明した。血管内スペースから逸出したビーズは無かった。
5. 14日グループでは、腫瘍を移植した左側において肝臓組織の大部分が壊死しているようであった。死滅したガンと正常細胞との区別を確立するのが極めて困難であった。従って、我々は、薬剤溶出ビーズの効力は、14日以降にその最大値に達するものと仮定することが可能である。これらの結果は一貫していた。
6. 組織学的分析も、薬剤溶出ビーズがガン細胞を殺傷する有効性を明らかにした。我々は、以前の複数の実験から、ドキソルビシンまたはカルボプラチンの動脈内注入(同じ濃度で)は、腫瘍の僅かに30%の壊死しかもたらさないことを知っていた。これは、未処置(すなわち、対照)動物の壊死率とほぼ等しい。それとは対照的に、薬剤溶出ビーズでウサギを治療すると、50から100%の壊死をもたらし、14日でもっとも完全であり、その壊死率は、動脈内注入のみの場合よりも有意に大きかった(図22)。
【0099】
[実施例28: 臨床治験]
実施例9に従って製造した微小球スラリーを用いて、切除不能肝細胞ガン(HCC)を患う患者の治療における安全性、薬理動態プロフィール、および効力を評価した。実験に参加資格のある患者は、18から75歳で、切除、肝移植、経皮治療のような重い治療に適しないHCCを持つが、肝機能はよく保存されており(Child-PughのAクラス)、肝代償不全を持たない患者である。除外されたのは、
a)HCCについて以前に何らかの抗ガン治療を受けた患者、
b)別の一次腫瘍を抱える患者、
c)進行した肝臓病を持つ患者:Child-PughのB-Cクラス、または活発な消化管出血、脳障害または腹水、ビリルビン濃度>3 mg/dL、
d)腫瘍性疾患を持つ患者:BCLCクラスC(血管侵襲であって、分節性門脈閉塞、肝臓外拡散、または、ガン関連性症状=PST1-4を含むもの)、またはクラスD(WHOパフォーマンス状態3または4、オクダのIII段階)、
e)肝臓塞栓形成処置にたいして何らかの不適応を持つ患者:門脈-体循環シャント、遠肝性血流、不良な凝固試験結果(血小板数< 50,000/mm3、または、プロトロンビン活性 < 50%)、腎不全、重度のアテローム症、および、
f)ドキソルビシン投与に対して何らかの不適応を持つ患者(血清ビリルビン ≧ 5 mg/dL、白血球数 ≦ 3.000 細胞/mm3、心臓駆出率 < 50パーセント)、
である。
【0100】
化学的塞栓形成は、時点0および2月目に実行する。治療は、いずれかの除外基準の発生と共に、または、患者の決定により停止する。塞栓形成は、投与直前に造影剤と混合したドキソルビシン負荷微小球を注入し、血流停滞を実現するまで注入を持続することによって行う。PVA微小球の直径は医師によって選ばれるが、大部分は500 μm周辺のサイズを持つ。抗生物質による予防治療は行わない。
【0101】
ドキソルビシン微小球の薬理動態プロフィールを分析するための増進用量は、ビリルビン濃度< 1.5 mg/dLでは、治療当たり25 mg/m2(2名の患者)、50 mg/m2(2名の患者)、75 mg/m2(2名の患者)、100 mg/m2(2名の患者)から開始する。ビリルビン濃度が1.5-3 mg/dLの患者では、用量は、治療当たり25 mg/m2(2名の患者)、50 mg/m2(2名の患者)、75 mg/m2(2名の患者)、100 mg/m2(2名の患者)から開始する。ある用量レベルで用量限定性の毒性が見られない場合、用量は、次のグループでは増大され、単一治療における全体最大用量を150 mgのドキソルビシンとする。
【0102】
薬理動態評価:ドキソルビシン濃度測定用サンプルを、処置後、1時間、6時間、24時間、48時間、および7日に、入院時に、または外来クリニックにおいて末梢血から採取する。
【0103】
安全性:6ヶ月の試験期間を通じて、治療関連の合併症を記録し、分析する。0月目および2月目では、副作用は入院時(4日間)に記録する。7日目、14日目、1月目、3月目、および6月目に、患者は、診察と検査パラメータのために外来クリニックを訪問する。治療後の全ての外来訪問時に不快事象を調べる。そのようなものとしては、骨髄機能低下を初めとするドキソルビシン関連毒性の記録、肝不全、腎不全、感染症-胆のう炎、肝膿瘍、自発性細菌性腹膜炎、菌血症、虚血性肝炎または胆管狭窄、消化管出血が挙げられる。
【0104】
効力:3月目および6月目に、コントラスト強調螺旋型CT画像法によって客観的反応を評価する。その大きさは、EASL共通基準に従って定義される。完全反応:新生物病の兆候無し、部分的反応:> 50%の全体腫瘍負荷の減少、変化無し:< 50%の減少、または< 25%の増加、病気進行:> 25%の増加。結果は、客観的反応は、完全および部分的反応で占められた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、塞栓性ポリマー物質、および前記ポリマー基質に組み込まれる治療剤を含む組成物に関する。組成物は腫瘍に対して塞栓形成して細胞障害剤を送達するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
塞栓療法は、インターベンション医療において成長しつつある領域であるが、通常、所望の部位に対するカテーテルの経動脈的接近に依存し、接近の時点で、特定の血管を閉塞するために介在物が放出される。この治療は、従来、いくつかの過剰に血管の発達した腫瘍、例えば、肝細胞ガンに対する血液補給を阻止するために用いられてきたが、最近では、子宮筋腫に対する使用度の高い選択治療となっている。
【0003】
塞栓材料としては一定の範囲のものが臨床用途に用いられているが、それらは、塞栓部位に経カテーテル的に送達され、その部位への到着時点で、その部位をブロックするために血流中に放出されることを要求する。塞栓による血流阻止は、小型粒子または小球による血管の物理的ブロックによって実現されるか、または、液体塞栓剤の場合には、流動可能な材料を固化して血管内にキャスト(型)を形成するために、ある種の相変化または反応を必要とする。
【0004】
もっとも広く用いられる粒状塞栓剤は、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)フォーム粒子(例えばアイヴァロン(Ivalon)(登録商標))であり、これは数十年に渡って使用されている。最近、この材料は、シート状ではなく、粒状で市販されており、送達前に外科医が粒状化する必要が無くなっている。
【0005】
特許文献1には、塞栓療法用PVA系組成物が記載されている。このPVAは最初誘導体形成作用を受けて、ペンダントアクリル基を有するマクロモノマーを形成する。次いで、このアクリル基が、要すれば随意にコモノマーの存在下に重合されて、水不溶性、水膨張性ポリマー基質を形成する。この重合反応は生体内で実行することが可能であり、その場合、PVAは、血管中に送達後、塞栓部位において水不溶性となる。別法として、重合化は、送達前に行われ、一般的には微小球を形成する。この微小球は、水性ベヒクルにおいて懸濁状態で送達される。
【0006】
特許文献1では、この塞栓組成物に生物学的活性物質を含め、活性剤を、形成されたヒドロゲルから送達させるようにすることが可能であることが示されている。活性剤の一つのクラスは化学療法剤である。化学療法剤の例は、シスプラチン、ドキソルビシン、およびマイトマイシンである。活性剤を塞栓組成物に組み込むための方法について、若干の一般的ガイダンスを行う。組成物が、生体内で固化する液体の場合、活性剤は、単純に、その液体と混合してよい。品物があらかじめ形成される場合、活性剤は、「カプセル封入」によって、または、表面塗布によって組み込むことが推奨される。一つの治療剤が、どのようなタイプの組成物にも組み込まれる実際の例は無い。
【0007】
ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、加水分解されたポリ(メチルメタクリレート)、および、グルタールアルデヒドのようなアルデヒド架橋剤によって架橋されたPVAから形成されるヒドロゲル材料から成る微小球も塞栓剤として用いられてきた。ヒドロキシエチルメタクリレートは、例えば酸性基を有するコモノマーと共に共重合させてもよい。例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートと、0.3-1.0モル%のエチレングリコールジメタクリレートで架橋した、約1-2モル%のアクリル酸との架橋性コポリマーは、55-60重量%の範囲に水の平衡含量を持ち、長年コンタクトレンズ処方として用いられている。
【0008】
市場に見られる一つの塞栓製品が、Biosphere(登録商標)によって市販されている。この製品は、コラーゲン被覆の、トリスアクリルゼラチンの微小球を含む。コラーゲンは、生理的pHにおいて、全体的に陽イオン電荷を持つ。非特許文献1において、Biosphere(登録商標)は、塞栓性組成物と一般的に混合される一定範囲の薬物と混合されても、微小球の機械的特性は悪影響を受けないことを示している。具体的には、ドキソルビシン、シスプラチン、およびミトザントロンが試験されている。
【0009】
ドキソルビシン、および他のアントラサイクリン類は、各種の、ポリマー基質系送達システム、例えば、ポリラクチドまたはポリグリコリドの微小球、架橋フィブリノーゲン、および、アルブミン微小球に組み込まれている。非特許文献2は、ドキソルビシンをポリ(乳酸)微小球へ組み込み、その組成物を、動脈内からイヌ肝臓に送達したことを記載している。この組成物は、肝臓の末梢動脈を血栓閉塞した。このタイプの微小球は固く、保存し、送達するのは容易ではない。ドキソルビシンは、架橋結合ポリ(ビニルアルコール)の表面に共有結合された状態で、その細胞傷害性について試験された(非特許文献3)。薬剤は、ポリマーに共有結合しているので、表面から放出されるためには、その前に分断されなければならず、従って、生理的条件下では放出されない可能性がある。
【0010】
非特許文献4は、ドキソルビシンの、イオン交換微小球への組み込みと、ラットモデルの腫瘍の化学塞栓療法における前記組成物の使用について記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第0168720号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ball, D.S. et al., J. Vasc. Interv. Radiol. (2003), 14, 83-88
【非特許文献2】Juni, K. et al., Chem. Pharm. Bull. (1985), 33(1), 313-318
【非特許文献3】Wingard, LB et al., Cancer Research (1985), 45(8), 3529-3536
【非特許文献4】Jones, C. et al., Brit. J. Cancer (1989) 59(5)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
塞栓形成に好適な本発明による新規組成物は、水膨張性の、水に不溶のポリマー基質と、その基質に吸収される、水溶性治療剤とを有する粒子を含み、前記ポリマーは、6から8の範囲のpHにおいて全体に陰イオン性電荷を持ち、前記粒子は、水中で平衡に達するまで膨張すると、40-1500 μm範囲の粒子サイズを持ち、前記治療剤は、少なくとも一つのアミン基を持つアントラサイクリン化合物であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例2の結果を示す。
【図2】図2は、実施例3の結果を示す。
【図3】図3は、実施例4の結果を示す。
【図4】図4は、実施例5の結果を示す。
【図5】図5は、実施例6の結果を示す。
【図6】図6aおよび6bは、実施例7の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリマーは、水膨張性ではあるが、水不溶性でなければならない。従って、水性液体の存在下では、ポリマーはヒドロゲルを形成する。一般に、ポリマーは共有結合により架橋される。ただし、少なくとも部分的にイオン性に架橋されることは適当である。ポリマーは、エチレン的に不飽和なモノマーを、二価、またはさらに多価の機能的架橋性モノマーの存在下に重合することによって形成されてもよく、エチレン的に不飽和なモノマーとしては、陰イオン性モノマーが挙げられる。エタフィルコンA系コンタクトレンズに使用されるような、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸、および架橋性モノマー、例えば、エチレングリコールジメタクリレートまたはメチレンビスアクリルアミドのコポリマーを使用してもよい。
【0016】
水膨張性、水不溶性基質を形成するために使用が可能なさらに別のタイプのポリマーは、アルデヒドタイプ架橋剤、例えば、グルタールアルデヒドによって架橋されるポリビニルアルコールである。上述のような製品とするためには、ポリビニルアルコールは、例えば、モノマーを含む酸性官能基をヒドロキシル基と反応させて陰イオン性ペンダント基を設けることによって陰イオン性としなければならない。好適な反応試薬の例としては、二価酸、例えば、ジカルボン酸がある。
【0017】
本発明は、ポリマー基質が、1分子当たり1個以上のエチレン的に不飽和なペンダント基を有するポリビニルアルコール・マクロマーと、酸性モノマーを含むエチレン的に不飽和なモノマーとの共重合によって形成される場合に特に価値がある。このPVAマクロマーは、例えば、ペンダント性のビニル基またはアクリル基を、適当な分子量の、例えば、1000から500,000 D、好ましくは10,000から100,000 D範囲のPVAポリマーに供給することによって形成してもよい。ペンダントアクリル基は、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸をPVAと反応させて、ヒドロキシル基のいくつかを介してエステル結合を形成することによって供給してもよい。ポリビニルアルコールに対して重合が可能なビニル基の付着法は、例えば、米国特許第4,978,713号、好ましくは、米国特許第5,508,317、および5,583,163号に記載される。従って、好ましいマクロマーは、環状アセタール結合を介して、(アルク)アクリルアミノアルキル成分に結合される、ポリビニルアルコールのバックボーンを含む。実施例1は、このようなマクロマーの合成を記載する。好ましくは、PVAマクロマーは、1分子当たり約2から20個の、例えば、5から10個のペンダントエチレン基を持つ。
【0018】
PVAマクロマーが、酸性モノマーを含むエチレン的に不飽和なモノマーと共重合される場合、酸性モノマーは好ましくは一般式I:
【化1】
を持つ。式中、Y1は、下記から選ばれ
【化2】
CH2=C(R)-CH2-O-、 CH2=C(R)-CH2OC(O)-、 CH2=C(R)OC(O)-、 CH2=C(R)-O-、CH2=C(R)CH2OC(O)N(R1)-、 R2OOCCR=CRC(O)-O-、 RCH=CHC(O)O-, RCH=C(COOR2)CH2-C(O)-O-、
【化3】
式中、Rは、水素またはC1-C4アルキル基であり、
R1は、水素またはC1-C4アルキル基であり、
R2は、水素またはC1-C4アルキル基、またはBQであり、ここにBおよびQは下記に定義され、
Aは、-O-または-NR1-であり、
K1は、基-(CH2)rOC(O)-、 -(CH2)rC(O)O-、 -(CH2)rOC(O)O-、 -(CH2)rNR3-、 -(CH2)rNR3C(O)-、 -(CH2)rC(O)NR3-、 -(CH2)rNR3C(O)O-、 -(CH2)rOC(O)NR3- -(CH2)rNR3C(O)NR3-(式中、複数の基R3は同じであるか、異なる)、-(CH2)rO-、 -(CH2)rSO3-、または、要すれば随意にB1と結合した原子価結合でもよく、rは1から12であり、R3は水素またはC1-C4アルキル基であり、
Bは、直鎖または分枝鎖の、アルカンジイル、オキサアルキレン、アルカンジイルオキサアルカンジイル、または、アルカンジイルオリゴ(オキサアルカンジイル)鎖であって、要すれば随意に、1個以上のフッ素原子を、過フッ化鎖以下の数まで含んでもよく、あるいは、QまたはY1が、Bと結合する末端炭素原子を含む場合、原子価結合を含んでもよく、
Qは陰イオン基である。
【0019】
この酸性基は、例えば、カルボン酸、炭酸、スルフォン酸、硫酸、硝酸、フォスフォネート、またはリン酸基であってよく、好ましくはスルフォン酸基である。モノマーは、遊離酸として、または、塩の形で重合されてもよい。好ましくは、共役酸のpKaは5未満である。
【0020】
一般式Iのモノマーでは、Y1は、好ましくはCH2=CRCOA-基であって、式中RはHまたはメチル、好ましくはメチルであり、Aは、好ましくはNHである。Bは、1から12個の、好ましくは2から6個の炭素原子から成る、好ましくはアルカンジイル基である。
【0021】
一つの特に好ましいタイプのモノマーは、(アルク)アクリルアミドアルカン-スルフォン酸、例えば、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパン-スルフォン酸(AMPS)である。
【0022】
エチレン的に不飽和なモノマーには、希釈剤モノマー、例えば、非イオン性モノマーを含めてもよい。このようなモノマーは、酸性基のpKaを調節する、産物の親水性または疎水性を調節する、ポリマーへ疎水性領域を供給する、または、単に不活性の希釈剤として作用するに当たって有用である。非イオン性希釈剤モノマーの例としては、例えば、アルキル(アルク)アクリレート、および(アルク)アクリルアミド、特に、1から12個の炭素原子、ヒドロキシを持つ上記化合物、および、ジヒドロキシ置換アルキル(アルク)アクリレートおよび、-(アルク)アクリルアミド、ビニールラクタム、スチレン、およびその他の芳香族モノマーがある。
【0023】
エチレン的に不飽和なモノマーはまた、たとえば、粒子の疎水性、潤滑性、生物適合性、および/または、血液適合性を増すために、両性イオンモノマーを含んでもよい。好適な両性イオンモノマーは、我々の以前の公刊物、国際公開第9207885、9416748、9416749、および9520407号に記載される。両性イオンモノマーは、好ましくは、2-メタクリロイルオキシ-2’-トリメチルアンモニウムエチルフォスフェートの分子内塩(MPC)である。
【0024】
ポリマー基質において、陰イオンの濃度は、好ましくは0.1から10 meq g-1であり、好ましくは少なくとも1.0 meq g-1である。
【0025】
PVAマクロマーが、他のエチレン的に不飽和なモノマーと共重合される場合、PVAマクロマーの他のモノマーに対する重量比は、好ましくは50:1から1:5の範囲に、より好ましくは20:1から1:2の範囲にある。エチレン的に不飽和なモノマーにおいて、陰イオン性モノマーは、好ましくは10から100モル%の範囲の量、好ましくは少なくとも25モル%の量として存在する。
【0026】
水に不溶で、水膨張性のポリマーは、好ましくは、重量分析によって測定した場合、40から99重量%、好ましくは75から95%の、水の平衡含量を有する。
【0027】
本ポリマーは、いくつかのやり方で粒子に成形される。例えば、架橋ポリマーは、例えば、シートまたはブロックの形をしたバルク材料として製造し、次に、所望のサイズに粉砕してもよい。別法として、架橋ポリマーは、例えば、連続的な、非混和性担体における分散相中の、モノマーの滴において重合することによって、粒状に形成されてもよい。膨潤すると所望のサイズを持つ粒子を生産するのに好適な油中水重合の例は既知である。例えば、米国特許第4,224,427号は、水溶性モノマーを、懸濁剤の存在下に、連続溶媒相に分散させることによって、直径が最大5mmの、均一な、球形ビーズを形成するための工程を記載する。分散相粒子のサイズに対するコントロールを実現するために、安定化剤や界面活性剤が存在してもよい。重合の後、架橋微小球は、既知の手段によって回収され、洗浄され、要すれば随意に滅菌される。好ましくは、この粒子、例えば、微小球は、水性液体において膨張し、そのサイズに従って分類される。
【0028】
本発明で用いられる治療活性剤は、アミン糖が付着するアントラキノン基を含むアントラサイクリン化合物である。糖につくアミノ基は、ポリマー基質の陰イオン基と会合すると考えられており、これによって、高濃度の負荷と、投与後の調節された送達が可能となる。
【0029】
好適なアントラサイクリンの例は、下記の一般式IIを持つ。
【化4】
【0030】
各種腫瘍に対する効力がこれまでに徹底的に調べられているドキソルビシンが、特に興味深い負荷特性、および、放出特性を持つことを我々は見出した。この薬は、ポリ(ビニルアルコール-グラフト-アクリルアミドプロパンスルフォン酸)に対して特別の親和性を持つようであり、そのために、高濃度のドキソルビシンがこのポリマーに組み込まれ、長い日数をかけての放出が可能である。
【0031】
本発明では、薬剤が、ポリマー基質に共有結合によって付着していないことが重要である。
【0032】
治療活性剤は、いろいろの技術によってポリマー基質に組み込むことが可能である。一つの方法では、治療活性剤は、重合または架橋反応前に、ポリマーの前駆物質、例えば、モノマーまたはマクロマー混合物、または、架橋性ポリマーおよび架橋性混合物、と混合してもよい。別法として、活性剤は、架橋反応後に、ポリマーに負荷してもよい。例えば、粒状の乾燥ポリマーを、治療活性剤の溶液、好ましくは水溶液中で膨潤させ、要すれば随意にその後、吸収されなかった活性剤の除去および/または溶媒留去を行ってもよい。アルコールのような有機溶媒、またはより好ましくは水に溶かした、活性剤の溶液を、粒子の移動ベッドに噴霧し、薬剤を粒子の本体に吸収させ、同時に溶媒を除去するようにしてもよい。もっとも好都合にも、液体の連続ベヒクルに懸濁させた膨潤粒子を、薬剤の溶液に単に長期間接触させることだけでも、薬剤を粒子の本体に吸収させることが可能であることを我々は見出した。これは、陽イオン交換タイプの過程と類似のものと考えられる。次に、この膨潤させるベヒクルを除去し、あるいは、好都合なことであるが、続いて塞栓剤として使用される製品の一部として粒子と共に保存されてもよい。
【0033】
一つの特に好ましい実施態様では、膨潤粒子は、単純なゲル/液体分離技術、例えば、適当な孔口を持つフィルター、好適にはガラスフィルターによって、基質に吸収されない膨潤ベヒクルから分離される。ほとんどまたは全く粒子以外に液体を持たない膨潤粒子のスラリーを、滅菌のために、また、そのまま保存するために、適当な保存容器に注入してもよい。このスラリーは、その形で保存中に、液体の滲出がほとんど無く、また、薬剤の消失が起こらないという点で十分に安定であることが見いだされている。
【0034】
別態様として、粒子の懸濁液を濾過して残余の薬剤負荷液を完全に除去し、かつ、製薬製品を乾燥させるのに用いられる従来技術の内から選ばれる任意の技術によって、粒子を乾燥させることも可能である。そのような技術としては、室温または高温での、あるいは、減圧下または真空下での空気乾燥、従来技術による凍結乾燥、大気圧凍結乾燥、臨界超過液の溶液強化分散(SEDS)が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。別態様として、薬剤負荷微小球は、有機溶媒を用いた一連の工程で水を置換して脱水し、その後に、より揮発性の高いその溶媒を蒸発させる。薬剤に対して溶媒とならない溶媒を選択しなければならない。
【0035】
簡潔に言うと、従来法による典型的凍結乾燥工程は下記のように進行してもよい。すなわち、サンプルの分液を、部分的に閉鎖したガラス瓶に取り、この瓶を、凍結乾燥器内部の、冷却した、温度調節棚の上に置く。棚の温度を下げ、サンプルを、定められた均一な温度に凍結させる。完全な凍結後、乾燥器内の圧を、定められた圧に下げて、一次乾燥を起動する。この一次乾燥の間に、水蒸気が、昇華によって凍結体から次第に奪われ、一方、棚の温度は、一定の、低温に調整される。棚の温度を高め、室内の圧をさらに下げることによって二次乾燥を開始し、半乾燥体に吸収された水分を、残りの水含量が所望のレベルに下がるまで除去する。この瓶は、必要ならば保存的雰囲気の下で、そのまま封印することも可能である。
【0036】
大気圧凍結乾燥は、凍結した製品の上に極めて乾燥した空気を急速に循環させることによって実現される。従来の凍結乾燥法と比べて、真空無しの凍結乾燥は多くの利点を持つ。風の強い日には洗濯物が早く乾くというのと同じように、循環乾燥ガスでは、凍結サンプルからの熱および質量転移が向上する。この領域での多くの作業は食品生産に関わっており、揮発性の芳香化合物の保存が向上することが観察されているが、それが、生物製剤の乾燥に対してどのような利点をもたらすかは、まだ明確にされていない。特に興味があるのは、大気圧粉末乾燥工程を用いることによって、ケーキではなく、微細な、さらさらと流れる粉末が得られるという事実である。ミクロン以下の直径を有する粒子を得ることが可能で、これは、一般に粉砕によって得られるものよりも10倍小さい。高度の表面積を持つという粒子の性質により、簡単な再水和が可能な製品が得られるが、吸引性の、また、経皮性の用途用に必要な粒子サイズに対する微細なコントロールは、現在では可能ではないが、この領域での可能性がある。
【0037】
固形腫瘍、例えば、肝細胞ガンを持ち、塞栓療法を必要とする患者に対して投与される組成物は、吸収された薬剤を含む膨潤粒子の水性懸濁液である。この懸濁液は、ゲルタイプの塞栓組成に用いられるように、送達前に、造影剤、例えば、通例の放射線不透過剤と混合することが好ましい場合がよくある。例えば、吸収薬剤を含む膨潤粒子の水性懸濁液を、投与直前に、塞栓剤と共に通常使用される、液状放射線不透過剤、例えば、リピオドールと、容量で2:1から1:2の範囲、好ましくは約1:1で混合してもよい。吸収薬剤を持つが、粒子外液体をほとんど、または全く持たない膨潤粒子のスラリーを含む本発明の実施態様では、同様にして、このスラリーと造影(放射線不透過)剤を、例えば、容量で1:5から2:1の範囲で、好ましくは1:2から1:1の範囲で、送達の直前に混合してもよい。薬剤を含む組成物が、用時に乾燥形として支給される場合、粒子を、乾燥したまま造影剤に加えるか、あるいは、好ましくは、最初生理的食塩水のような水性ベヒクルにおいて膨潤させてスラリーまたは懸濁液を形成し、次に、送達前に造影剤と混合してもよい。別態様として、あるいは、上記に加えて、粒子に、あらかじめ、アントラサイクリンの他に放射線不透過物質を負荷してもよい。投与される組成物はまた、他の治療薬と混合してもよいし、あるいは、他の治療薬と別々に、ただしそれと組み合わせて投与してもよい。通常、組成物は、通例の送達デバイス、例えば、動脈内カテーテルを用い、注射器の貯留槽から投与される。
【0038】
塞栓療法を必要とする患者に対して投与される塞栓組成物は、単一の、一回きり用量として投与されてもよい。塞栓形成は、通例の技術を用いて造影剤を追跡することによって監視される。塞栓組成物の第2回目投与を、好ましくは本発明で有用な化学的塞栓組成物を、第1回投与からある時間後に、例えば、腫瘍を養う新規形成の血管に塞栓形成するために、例えば、ドキソルビシン含有組成物による第1回目治療の4から10週後に送達することが好ましいことが見出されるかも知れない。組成物は、1回の治療当たり25-100 mg/m2の範囲の薬剤用量で投与されるが、ただし十分な安全評価をした後であれば、より高い用量を用いることも可能である。ドキソルビシンについては治療当たりの好ましい用量は、50 mg/m2以上、例えば、最大100 mg/m2以上である。治療当たり、患者一人当たり、150 mg/m2を越える量を投与するのは望ましくないと一般に考えられている。
【0039】
本発明の第2局面として、塞栓療法による固形腫瘍の治療に使用される組成物製造におけるアントラサイクリン化合物の用法が提供される。この治療では、アントラサイクリンは、分子当たり少なくとも2個のエチレン的に不飽和なペンダント基を持つポリ(ビニルアルコール)マクロマーと、エチレン的に不飽和な陰イオン性モノマーとを共重合させることによって形成されるポリマー基質から送達される。
【0040】
本発明のこの局面では、ポリマー基質は生体内で形成されてもよい。従って、マクロマーと陰イオン性モノマーとアントラサイクリンを含む液体組成物は、患者の循環中に送達され、標的部位において重合化を起動する条件に暴露されて、塞栓性ゲルを形成するようにしてもよい。別態様として、ポリマー基質は、本発明の第1局面で記載されたように、投与前にあらかじめ形成されてもよい。
【0041】
PVAマクロマーと陰イオン性モノマーは、好ましくは、第1局面に関連して上述した通りのものである。本発明の第1局面に関連して上述したように、他のモノマー同士を共重合させてもよい。
【実施例】
【0042】
本発明は、その結果が図に示される下記の実施例において具体的に説明される。
【0043】
[実施例1: 微小球調製の概略法]
===ネルフィルコンBマクロマー合成===
微小球合成の第1段階は、広く使用されている水溶性ポリマーPVAからネルフィルコンB、すなわち重合可能なマクロマーを調製することを含む。Mowiol(登録商標) 8-88ポリ(ビニルアルコール)(PVA)粉末(88%加水分解、12%酢酸塩含有、平均分子量約67,000D)(150 g)(Clariant、シャーロット、ノースカロライナ州、米国)を、2リットルのガラス反応容器に加える。穏やかに攪拌しながら、1000 mlの水を加え、攪拌を400 rpmに増す。PVAの完全溶解を確保するために、温度を、2-3時間99±9℃に上げる。室温に冷却した時点でN-アクリロアミノアセトアルデヒド(NAAADA)(Ciba Vision、ドイツ)(PVAのg当たり2.49 gまたは0.104 mmol)をPVA溶液と混合し、次いで濃塩酸(100 ml)を加える。濃塩酸は、経エステル化によってPVAに対するNAAADAの添加を触媒する。この反応を室温で6-7時間進行させ、2.5 M水素化ナトリウムを用いてpH7.2に中和することによって反応停止させた。得られた塩化ナトリウム+未反応NAAADAは全て透析濾過によって除去する(工程2)。
【0044】
===マクロマーの透析濾過===
透析濾過(diafiltration)(接線流濾過)は、精製される入力液(この場合はネルフィルコンB液)を、膜表面を横切って連続的に循環させ、望ましくない物質(NaCl、NAAADA)を透過させて廃棄処理へ向かわせ、一方、ポアの大きさを十分小さくして保持体の通過を阻止して、循環中に留めさせる。
【0045】
ネルフィルコンBの透析濾過は、3000の分子量カットオフを持つポアサイズの0.1 m2のセルロース膜(Millipore社、ベッドフォード、マサチューセッツ州、米国)を積層したステンレススチールのペリコン2ミニホールダーを用いて行った。Mowiol8-88は、67000の平均分子量を持ち、従って、膜を通過する能力には限界がある。
【0046】
マクロマーを含むフラスコは、マグネットの攪拌棒を含み、攪拌プレートの上に設置される。溶液は、Easy Load IIポンプヘッドを装備したMasterflex(登録商標) LSペリスタルティックポンプを介し、LS24クラスVIチューブを用いて、透析濾過アッセンブリーに供給される。ネルフィルコンは、透過を加速するため、約50 psiの下で、膜の上を循環される。溶液が約1000 mlに濃縮された時点で、濾液が廃棄処理のために回収されるのと同じ速度で、6000 mlの追加分の添加が完了するまで水を添加することによって、容量を一定に保つ。一旦完了すると、溶液は、20-23%の固形分に濃縮され、25℃における粘度は1700-3400 cPとなる。ネルフィルコンは、GFC、NMR、および粘度によって特徴付けられる。
【0047】
===微小球合成===
球は、懸濁重合法によって合成する。すなわち、水相(ネルフィルコンB)を、有機相(酢酸ブチル)に両相が混和しない状態において加える。急速混合法を用いて、水相を分散させ、小滴を形成させることが可能であり、しかも、そのサイズおよび安定性を、攪拌速度、粘度、水相の有機相に対する比、および、両相の間の界面エネルギーに影響を及ぼす安定化剤と界面活性剤の使用、等の因子によって調節することが可能である。低AMPSシリーズおよび高AMPSシリーズの、二つのシリーズの微小球を製造する。これらのシリーズの処方は下記の通りである。
A. 高AMPS
水相:およそ21%w/w(重量/重量)のネフィリコンB液(約400±50 g)
およそ50%w/wの2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルフォネートNa塩
(140±10 g)
純水
過硫酸カリ(5.22±0.1 g)
テトラメチルエチレンジアミンTMEDA(6.4±0.1 ml)
有機相:n-ブチルアセテート(2.7±0.3 L)
10%w/wセルロースアセテートブチレートの酢酸エチル溶液(4.6±0.5 g)
(安定化剤)
純水(19.0±0.5 ml)
B. 低AMPS
水相:およそ21%w/wのネフィリコンB液(約900±100 g)
およそ50%w/wの2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルフォネートNa塩
(30.6±6 g)
純水(426±80 g)
過硫酸カリ(20.88±0.2 g)
TMEDA(25.6±0.5 ml)
有機相:n-ブチルアセテート(2.2±0.3 L)
10%w/wセルロースアセテートブチレート(CAB)の酢酸エチル溶液
(92±1.0 g)
純水(16.7±0.5 ml)
【0048】
ジャケット付き4000ml反応容器を、コンピュータ制御浴(Julabo PN 9-300-650)を用いて加熱する。該容器には、反応温度を連続的に監視するフィードバックセンサーが備えられる。
【0049】
酢酸ブチルを25℃で反応容器に加え、次いでCAB液と水を加える。システムに15分窒素を通じて清掃して後、PVAマクロマーを添加する。分散PVA液の架橋は、TMEDAを添加し、窒素下において温度を55℃に上げて3時間加熱することによって起動する。架橋反応は、レドックス起動重合によって行う。この重合では、TMEDAのアミノ基が過硫酸カリの過酸化基と反応してラジカル分子種が形成される。次に、このラジカルが、PVAとAMPS上の二重結合について重合および架橋を起動し、分散したPVA-AMPS小滴を不溶のポリマー微小球に変形させる。25℃に冷却した後、産物を、精製のためにフィルター反応器に転送し、そこで、酢酸ブチルを濾過によって除去した後、下記の処理を行う。すなわち、
*2 x 300 mlの酢酸エチルで洗浄し、酢酸ブチルとCABを除去する。
*酢酸エチルで30分平衡させ、次に濾過。
*減圧濾過の下で2 x 300 mlの酢酸エチルで洗浄。
*アセトンで30分平衡させ、濾過して、酢酸エチル、CAB、および水を除去する。
*減圧濾過の下で2 x 300 mlのアセトンで洗浄。
*アセトンで一晩平衡させる。
*減圧下で2 x 300 mlのアセトンで洗浄。
*真空乾燥、2時間、55℃で残余の溶媒を除去する。
【0050】
===染色===
この工程は必要であれば随意に行ってもよいが、薬剤に有色の活性成分が負荷されている場合は(これが色を与えるため)、一般に不要である。水和されると、微小球は、約90%(w/w)の水を含むので、それと見て取るのが難しい。臨床環境における可視性を助けるために、小球は、反応性の青色#4染料(RB4)を用いて青く染める。RB4は、水溶性クロロトリアジン染料であり、アルカリ性条件下でPVAバックボーンのペンダントヒドロキシル基と反応して、エーテル共有結合を形成する。この反応はpH12(NaOH)で実行され、生成されたHClは中和されてNaClになる。
【0051】
染色前に、小球は改めて十分に水和し、35 g分液に分割する(それぞれに処理する)。染色液は、0.8 gのRB4を2.5M NaOH液(25 ml)と水(15 ml)に溶解し、次に、小球を80 g/l-1生食液に加えて調製する。20分間混合した後、産物を32 μmの篩で回収し、濯ぐことによって、未反応の染料バルクを除去する。
【0052】
===抽出===
広範な抽出過程を用いて、未結合の、または、非特異的に吸収されたRB4を除去する。順守したプロトコールは下記の通りである。
*2 lの水で5分間平衡させる。篩で回収し、濯ぐ。5度繰り返す。
*80 mMのリン酸水素二ナトリウムの、0.29%(w/w)生食液の2 l溶液中で平衡させる。30分間沸騰加熱する。冷却し、篩で回収し、1 l生食液で洗浄する。さらに2回繰り返す。
*平衡産物を篩上で回収し、2 l水にて10分間洗浄する。
*回集し、1 lアセトンにて30分脱水する。
*全ての分液を合わせて、2 lアセトンにて一晩平衡させる。
【0053】
===篩分け===
製造された微小球は、そのサイズが100から1200ミクロンに渡るので、下記に掲げる指定の分布を得るために、ある範囲のメッシュサイズを用いる篩工程によって分画しなければならない。
1. 100-300 μm
2. 300-500 μm
3. 500-700 μm
4. 700-900 μm
5. 900-1200 μm
【0054】
篩分けの前に、小球は真空乾燥して完全に溶媒を除去し、次に60℃で水に平衡させて十分に再水和させる。この小球を、メッシュサイズが32から1000 μm範囲の15’’ステンレススチール篩トレーを備えた316Lステンレススチールvortisieveユニット(MM Industries、サーレム、オハイオ州)にて濾す。濾過された生食液はユニットを再度循環して分画を支援する。32ミクロン篩で回収された小球は廃棄する。
【0055】
[実施例2: ドキソルビシンの負荷]
本実験のために、実施例1のように調製した低AMPS微小球を用いた。使用する各サイズのビーズについて、0.5 mlを、2本の、1 ml注射筒に移した。1本は薬剤取り込みのため、2本目は対照として用いるためである。実験のために選んだサイズは、106-300 μm, 300-500 μm, 500-710 μmおよび850-1000 μmである。工程の有効性を確認するために500-710 μmのさらに3本の注射筒を準備した。実験の持続時間において光によってドキソルビシンが変性されるのを防ぐために、11本の、10 mlガラス瓶をフォイルで被った。標準曲線を作成した。20 mg/mlの薬剤液80 mlを用いて、下記の濃度を調製し、その吸光度(483 nmにおける)を測定した。すなわち、100 μg/ml, 50 μg/ml, 25 μg/ml, 12.5 μg/ml, 6.25 μg/mlおよび3.125 μg/mlである。得られた吸光度をグラフにプロットし、線の等式を用いて、実験においてビーズに取り込まれた薬剤の濃度を計算した。瓶の内の4本には5 mlの蒸留水(ROMIL)を満たし、ビーズを加えたときの対照として用いた。残りの7本の瓶には、所望の濃度で5 mlの薬液を加えた。開始の吸光度、従って溶液の濃度は、標準曲線の作成から既知である。(20 mg/ml溶液の吸光度を測定するためには、その溶液を200倍に希釈し、100 μg/ml濃度を用いる必要があった。この1:200希釈は、ビーズによる溶液の取り込みを測定する間中実行した。)第1セットの微小球を第1薬剤液を含む瓶に添加した直後にストップウォッチをスタートさせ、微小球を、最小から最大のものへと、残りの6本の瓶のそれぞれに加えた。キャップを用いて封印した後、それらの瓶を回転式ミキサー上に設置した。この過程を、対照サンプルについても繰り返した。瓶を設定したのと同じ順序で、0.167時間(10分)、0.5時間、1時間、2時間、24時間、および96時間間隔で吸光度を測定した。データから、1 mlの微小球当たりの薬剤量(mgで表した)、および、1 mlの微小球による薬剤の取り込み%が計算可能であった。結果を図1に示す。
【0056】
[実施例3: 薬剤濃度の負荷に対する効果]
実施例2に略述した処理過程に従って、ある範囲の異なる濃度のドキソルビシンを、高AMPS微小球処方に負荷することが可能であった。薬剤の大部分は、数時間内に微小球(500-710 μmのサイズ範囲)中に負荷するのが見られた(図2参照)。負荷は、重量に基づくと、高AMPS処方の方が、低AMPS処方よりもはるかに高いことが見て取れる。
【0057】
[実施例4: 微小球サイズの負荷に対する効果]
ドキソルビシンの負荷を、取り込み量の比較を実行するために、いくつかの異なるサイズの範囲の微小球について行った。小さい微小球の方が、比較的速く薬剤を負荷させるのが見られる一方、24時間に渡る連続負荷では、等重量の微小球は、ほぼ同じ薬剤負荷に平衡することを示した。この比較的速い取り込みは、小さい微小球では表面積が増すためである(図3参照)。
【0058】
[実施例5: 負荷の再現性]
ドキソルビシン負荷の再現性を測定するために、実施例2で略述した負荷実験を数回繰り返した。500-710 μmサイズ範囲の高AMPS微小球を、20 mg/mlの薬剤水溶液で負荷し、薬剤取り込みの時間変化を監視した(図4)。
【0059】
[実施例6: 微小球からのドキソルビシンの溶出]
高AMPS微小球を、各種濃度のドキソルビシンで負荷し、その微小球を250 mlの蒸留水に溶出させた(図5)。
【0060】
133.2 μg/mlおよび2 mg/mlで負荷した微小球から溶出した薬剤は、3時間でも依然として検出限界以下であった。それより高濃度の薬剤負荷では、バースト作用が、最初の数分間に明らかであり、その後、長時間のよりゆっくりした放出が続く。バーストは、微小球の中に保持されていた水からの遊離薬剤の放出を表し、一方、持続的溶出は、微小球の中で、基本的に荷電基の間のイオン相互作用によって「結合」されている薬剤によるものと推測される。薬剤最大負荷の場合(20 mg/mlの負荷液による)、バースト作用は、小球の全体薬剤負荷のほぼ45%を表し、残余のものは、担体から完全に溶出するためには数日を要する。実験は、100%の薬剤が、最終的には微小球から溶出することを示した。
【0061】
[実施例7: 高AMPS微小球によるドキソルビシン捕獲の可視化]
サイズ範囲850-1000 μm(手で篩にかけたもの)の高AMPS微小球約0.5 gを含む瓶に、リン酸バッファー生食液PBS(66.6 μg/ml)に溶解させたドキソルビシン1 mlおよび3 mlのPBSを加えた。この微小球をCCDカメラの下に設置し、2分に1回2.5時間に渡って映像を取った。この期間にサンプルの煽動は見られなかったが、光源からの局所的な加熱のために小さな動きが観察された。従って、最初と最後の微小球は同一であり、この期間を通して比較が可能である。薬剤の取り込みは、微小球における赤色の増加、および、周囲の溶液における赤色の喪失によって観察された(図6)。
【0062】
[実施例8: 乾燥薬剤負荷微小球の調製]
微小球は、実施例2に概説した方法によってドキソルビシンを負荷することも可能である。微小球は、下記の処理過程を用いて脱水した。脱水される微小球を、プラスチック容器に入れ、PBSで製造した10%アセトン(ROMIL)液(Inverclyde Biologicals)で被った。微小球を、溶液中に10分間放置し、この間、30秒間、数回に渡って振とうした。次に、溶液を傾寫除去し、前記過程をさらに2回繰り返した。この過程を、アセトン濃度を25%、50%、75%、および最後に100%と増加させて繰り返した。最後の100%脱水工程の後、アセトンを傾寫除去し、ビーズを、50℃に設定したオーブンに入れて、定常質量となるまで乾燥した。
【0063】
得られた乾燥産物は、塞栓化処置の前に、生食液/造影剤中に再懸濁/再水和することが可能である。水和は急速に起こり、数分だけで完全水和サイズの>80%まで膨潤する。
【0064】
[実施例9: 微小球スラリーの調製]
上記実施例1によって生産された高AMPS微小球を、20 mg/mlのドキソルビシン水溶液中で30分膨潤させた。この期間の後、余分の粒状液体は、実質的に脱色されて見え、色(赤)は、実質的に微小球内部に局在していた。この懸濁液を、焼結ガラス漏斗を通じて濾過して上清を除去した。微小球を、2倍容量の蒸留水で洗浄する一方、僅かな陰圧の下に濾過した。次に、微小球をジャーに移し、ジャーから、ペリスタルティックポンプによってガラス注射筒に汲み上げた。ポンプを取り外して後、注射筒を注射筒ロックにて閉鎖し、ガンマ線放射によって滅菌した。
【0065】
[実施例10: 負荷−標的負荷用量対実際負荷用量]
22-80 mg/ml水溶液から一連のドキソルビシン溶液を調製した。これらの溶液の1 mlを、1 mlの高AMPS微小球に加え、取り込みをUVで監視した。サンプルは、ローラーミキサーにて攪拌した。終了時点を、10、20、30、60分、次に、2時間、最長24時間に取った。取り込みは、溶液に残っているドキソルビシンから計算した。微小球には、水和化微小球1 ml当たり最大80 mgまで様々の用量を負荷することが可能であった。そして、30分未満で、薬剤溶液の90%が微小球に局在した。
【0066】
[実施例11: 高用量ドキソルビシン]
実施例10で、ドキソルビシンの80 mg/ml溶液を調製した。これは、粘ちょうな、ゼラチン状混合物で、日常的使用には適当ではないと思われた。この高用量を、今度は20 mg/mlのドキソルビシン液4 mlを用いて再現した。取り込みは、UVで監視し、最終的に、水和化高AMPS微小球に対し80 mgの薬剤負荷が再び達成された。
【0067】
[実施例12: 負荷−薬剤供給源]
ドキソルビシン25 mg/ml負荷の本発明の微小球を調製するために、3種類のドキソルビシン供給源が用いられた。
*アドリアマイシン(商標)PFSは、2 mg/ml溶液として市販される(Pharmacia and Upjohn)。
*アドリアマイシン(商標)RDFは、可溶性を促進するためにラクトースを添加した粉末処方として市販される(Pharmacia and Upjohn)。
*ドキソルビシンEP。
【0068】
アドリアマイシンRDFおよびドキソルビシンEP液について、2 mlを微小球2 mlに加え、取り込みをUVで監視した。アドリアマイシンPFS液については、2 mg/ml溶液50 mlを微小球2 mlに添加し、取り込みを監視した。30分後、これら25 mg/ml溶液は両方とも完全に負荷され、2 mg/ml溶液は24時間追跡したところ完全な取り込みを示した(図8)。
【0069】
[実施例13: 他のアントラサイクリン類の負荷]
8 mlガラス容器において、水和化高AMPS微小球(900-1200 μm)1 mlから成る4個のサンプルを調製した。リン酸バッファー生食液(PBS)に溶解した微小球を、10 mlガラスシリンダーで1 mlを測りとってガラス容器に移した。この後、全てのPBSを、各サンプルにおいて、ガラスパスツールピペットで除去した。負荷液を下記のように調製した。すなわち、ダウノルビシン(Beacon Pharmaceuticals) 20 mg入り1瓶は、1 mlの水(ROMIL)で再構成し、最終的に20 mg/mlの濃度を得た。エピルビシン急速溶解物(Pharmacia)50 mg入り1瓶は、2.5 mlの水で再構成し、最終的に20 mg/mlの濃度を得た。20 mg/mlドキソルビシン液(Dabur Oncology)を、比較のために、前の実施例のように調製した。調製後、これらの溶液の吸光度を483 nmのUVで読み取り、希釈を行って、各薬剤液について標準曲線を作成した。
【0070】
各負荷液1 mlおよび水1 ml(対照として)を、上記のように調製した1 mlの微小球を含む各瓶に加え、時間測定を開始した。瓶は、全ての実験においてローラーミキサーに設置した。指定の時点(0、10、20、30、45、および60分)で、50 μlを取り出し、必要に応じて希釈し、483 nmで読み取った。これらの読み取り値から、各時点における溶液の濃度を、各場合における対応標準曲線から計算した。微小球に負荷された薬剤の量は、装置によって抽出された時の、溶液の薬剤の消失によって測定した。データから、水和微小球1 ml当たりの薬剤のmg負荷量が計算され、グラフにプロットされた(図9)。グラフは、調べたアントラサイクリン類は同様に負荷することを示す。
【0071】
[実施例14: 他のアントラサイクリン類の溶出]
薬剤放出プロフィールを求めるために、実施例13で記述するように負荷した微小球を用いた。各薬剤負荷微小球タイプ1 mlを、100 mlのPBSで満たした褐色ガラス容器に移し、時間測定を開始した。全実験を通じて容器は、37℃の水浴に設置した。指定の時点(0、0.16、0.5、1、2、および72時間)に、溶液1 mlを取り出し、読み取り、容器に戻し容量を定常に保った。サンプルを483 nmで読み取り、濃度を、実施例12で求めたそれぞれの標準曲線の等式から計算した。データから、水和微小球1 mlから溶出される薬剤のmg量が計算され、グラフにプロットされた(図10と11)。グラフは、調べたアントラサイクリン類は同様の溶出プロフィールを描いて微小球から溶出することを示す。
【0072】
[実施例15: アントラサイクリンの微小球サイズに及ぼす効果]
実施例13で記述した微小球を用い、CCDカメラと顕微鏡によって撮影した微小球の画像を用い、Image Pro Plus 4.05で直径を割り出してサイズ分布を求めた。様々のアントラサイクリンで負荷した微小球を、小さな細胞培養フラスコに移し、画像毎に50から1500個の微小球を撮影した。Image Pro Plus 4.05は、100から1500個の微小球の直径を、サイズ範囲に応じて分解した。直径を表にまとめ、サイズ範囲対頻度のヒストグラムに変換し、正規化し、Excelを用いてグラフに表した(図12)。グラフは、これらのアントラサイクリンは、微小球サイズに対して同じ効果を及ぼすことを示す。
【0073】
[実施例16: 他の市販の微小球に対する薬剤負荷]
別の市販の塞栓性微小球(Embosphere(登録商標)、コラーゲンでコートされたトリスアクリル微小球)に対し、本発明の微小球におけるドキソルビシン負荷について、前述の実施例で概説した手順を用いて比較を行った。図15から明らかなように、本発明の微小球は、薬剤を捕獲する能力を示したのに対し、標準的市販製品はそのような能力を示さない。
【0074】
[実施例17: 負荷−物理効果]
ドキソルビシンの高AMPS微小球に対する負荷および溶出の効果を、薬剤の負荷および溶出後のサイズおよび圧縮性、および、ドキソルビシン負荷微小球の送達性を測定することによって評価した。薬剤の負荷は、薬剤が、水和状態の小球から水分を効果的に移動させるので、サイズの全体範囲において僅かな減少をもたらした(図14)。これは、圧縮性における僅かな減少を伴っていた。溶出では、サイズは恒久的に影響されず、圧縮性も同様であった(Instron張力テスターによるヤング率測定によって求めた)。標準カテーテルを通じての小球の送達性は、薬剤負荷過程によって変えられなかった。
【0075】
[実施例18: 溶出−ビーズサイズの効果]
各サイズの、本発明の微小球に、ドキソルビシン液70 mg/mlを負荷した。次に、微小球を、500 mlのリン酸バッファー生食液に移し、放出をUVによって測定した。インビトロ溶出プロフィールは、負荷されたドキソルビシンの最大40%が、バーストとして溶出の最初の2時間で放出され、次に残余の薬剤が、少なくとも12日間に渡って溶出した。全てのサイズ範囲が、同様の特性を示し、±5%内にて放出された(図15)。
【0076】
[実施例19: 溶出−溶媒の効果]
25 mg/mlのドキソルビシンを負荷した本発明の微小球を、様々な媒体中に入れ、溶出を60分間にわたって監視した。血漿とPBSは最初の60分放出を示した。水への放出は、UVの検出限界以下であった。これは、薬剤放出は、陰イオン荷電ポリマー基質からイオン性に結合した薬剤を移動するイオンの存在に決定的に依存することを示唆している(図16)。
【0077】
[実施例20: ドキソルビシンの安定性]
負荷および放出過程が薬剤の安定に及ぼす効果を求めた。様々な条件で保存した場合のドキソルビシン液の安定性を求めた。本発明の微小球に対してドキソルビシンを負荷、および放出させ、その後USP法によるHPLCを行い、ドキソルビシンがこの過程によって影響されるかどうかを調べた。得られたクロマトグラムは全て、同じ保持時間を持つ単一ピークを示し、微小球に対する負荷、および微小球からの放出の間、ドキソルビシンに対する有害作用が無いことが示された。
【0078】
[実施例21: ドキソルビシン負荷微小球−材料との適合性]
本発明の微小球に25 mg/mlのドキソルビシンを負荷した。次に、その微小球を造影剤および生食液に懸濁し、次に、送達カテーテル(Progreat(登録商標), Terumo)および注射筒(Merit)中に24時間放置した。様々な時点で、ドキソルビシン、および成分の安定性を測定した(ドキソルビシンについてはUV/HPLC、成分については目視/SEM)。室温で24時間に渡って、成分にも薬剤にも変性は観察されなかった。
【0079】
[実施例22: 事前負荷産品−負荷用量]
本発明の微小球のサイズ範囲全体に渡って、設定用量5、10、20、45 mg/mlでサンプルを調製した。各サンプルに対する負荷をUV測定で求めた。25回の独立試行のデータを下記の表に示す。
【0080】
表1: 負荷液のUV測定に基づく実際用量
【0081】
測定された用量範囲は、
45 mg/ml: 44.37-45.77 mg/ml (3.11%範囲)
20 mg/ml: 21.11-21.32 mg/ml (1.05%範囲)
10 mg/ml: 9.93-9.98 mg/ml(0.5%範囲)
5 mg/ml: 4.98-5.14 mg/ml (3.2%範囲)
これらのデータは、複数の試行間にほとんど変動が無いこと、および、厳密で正確な薬剤負荷の実現が可能であることを示す。
【0082】
[実施例23: 事前負荷産品−凍結乾燥による重量損失]
本発明のドキソルビシン負荷微小球を特許サイクルを用いて凍結乾燥した。全ての微小球範囲について、25回の独立試行で、5、10、20および45 mg/ml用量について重量損失パーセントを求めた(負荷微小球の%で表した、表2)。一貫した重量損失が得られた。これは、凍結乾燥前の負荷微小球の重量変動は、凍結乾燥後の産品に効果を及ぼさないことを示す。図17のデータは、凍結乾燥の際、一貫して82%を越える水分消失による重量減少があることを示す。
【0083】
表2: ドキソルビシン負荷微小球における凍結乾燥による重量損失
【0084】
[実施例24: 事前負荷産品−残留水分含量]
全サイズ範囲に渡って5、10、20、および45 mg/mlのドキソルビシンで負荷した本発明の微小球を調製し、凍結乾燥し、次に、滅菌のためにガンマ線放射した。次に、これらのサンプルの残留水分含量を、70℃で微小球を定常重量が実現されるまで加熱することを含む、重量定量法によって定めた。全てのサンプルについて、5%未満の残留水分含量が求められた。
【0085】
表3
【0086】
[実施例25: 事前負荷産品−再水和後の放出]
全サイズ範囲に渡って5、20、および45 mg/mlのドキソルビシンで負荷した本発明の微小球を調製し、凍結乾燥し、次に、滅菌のためにガンマ線放射した。次に、サンプルを再び水和し、薬剤のPBSへの放出を、UVにて100時間まで監視した(図18)。
【0087】
[実施例26: 再水和したドキソルビシン負荷微小球のサイズ]
20 mg/mlのドキソルビシンで負荷した本発明の微小球(300-500 μm)を調製し、凍結乾燥し、次に、いくつかのサンプルを滅菌のためにガンマ線放射した。サンプルを再度水和し、較正された画像分析装置(Image Pro-Plus)を用いてサイズ測定を行った(図19)。
【0088】
非薬剤負荷サンプルを同様に処理し、サイズ測定した。図19のデータは、各種処理後のサイズに若干のシフトが見られるが、産品を250-500 μmの受容可能な特定範囲の外側に押しやるほどではないことを示す。
【0089】
[実施例27: ウサギ肝臓ガンモデル(Vx-2)における経カテーテル化学的動脈塞栓形成後の、ドキソルビシン負荷微小球からのドキソルビシンの持続放出]
本実験の目的は、ウサギ肝臓ガンモデルにおいて、経カテーテル化学的動脈塞栓形成(TACE)を介して送達される本発明のドキソルビシン負荷微小球のパフォーマンスを評価することである。実験は、ジョンズホプキンス大学、バルチモアで実施された。
【0090】
===27.1 材料および方法===
動物は、それぞれ5匹の動物(実験動物4匹、対照1匹)から成る6グループ(グループ1、2、3、4、5、6)に分けた。全てのグループにおいて、対照動物にはドキソルビシン(治療動物と同じ濃度)を動脈内注入した。一方、治療動物は、ドキソルビシンを含む薬剤溶出球を用いる、化学的塞栓形成の修正プロトコールによって治療した。下記の三つの時点で各種グループの動物を屠殺した。すなわち、
グループ1: 化学的塞栓形成処置後1時間
グループ2: 化学的塞栓形成処置後12時間
グループ3: 化学的塞栓形成処置後24時間
グループ4: 化学的塞栓形成処置後3日
グループ5: 化学的塞栓形成処置後7日
グループ6: 化学的塞栓形成処置後14日
【0091】
===27.2 動物の準備===
VX2腫瘍細胞系統を、キャリヤーウサギ(ニュージーランドホワイト種)の後肢に注入し、14日間育成した。得られた腫瘍を、各キャリヤーウサギから回収し、生きた腫瘍組織を切り出し、無菌的に細切し、ステンレススチール篩を通過させて、それぞれから粥状腫瘍サンプルを調製した。ウサギを、アセプロマジン(1 mg/kg)と塩酸ケタマイシン(20 mg/kg)の混合物筋注によって麻酔前処置した。約15分後、静脈内導通を耳の辺縁静脈を通じて確立し、動物にナトリウムペントタール(40 mg/kg)を静注し、外科的麻酔深度を維持した。下腹を剃毛し、ベンジジンを塗布し、正中切開を行った。各ウサギの肝臓を、正中腹部切開によって露出し、周囲を十分な肝臓実質に囲まれた孤立病巣を発達させるために、粥状腫瘍サンプルの分液(0.2 ml)を、21G血管造影カテーテルを用いて露出肝臓の左葉に直接注入した。各2匹の試験ウサギについて一つの腫瘍粥を用いた。腫瘍は、ウサギ肝臓において14日間育成させた。これは、以前の実験に基づいて、直径2.5から3.5 cmの範囲のサイズに成長すると期待される期間である。出血は全て電気焼灼によってコントロールした。次に、下腹を走行縫合にて閉じ、皮膚は縫合にて閉じ、包帯した。処置の間、適正な無菌技法が順守された。手術後、動物をケージに入れ、毛布で保温し、麻酔から回復するまで呼気終末CO2濃度で監視した。動物が痛がっていたり、身体的に不調なことが明らかである場合は、鎮痛剤ブプレノルフィン0.02-0.05 mg/kgを皮下に12時間おきに3日間投与した。
【0092】
===27.3 ドキソルビシン溶出微小球の調製===
サイズ範囲が100-300ミクロンで、45 mg/mlのドキソルビシンを負荷した本発明の微小球を、実施例22のように調製し、実施例23のように凍結乾燥し、ガンマ線放射して滅菌した。使用直前に、微小球を1 mlの無菌水で水和し、それに2 mlのオムニパークと1 mlの生食液を加えた。溶液は、注入予定の少なくとも10分前に調製し、全体溶液の1 mlを、各ウサギについて動脈内注入した(後述の通り)。
【0093】
===27.4 化学的塞栓形成過程===
ウサギ肝臓に腫瘍の移植2週間後に、動物を「化学的塞栓形成」のために戻した。麻酔前の投与、静脈内導通、およびナトリウムペントタール麻酔は前述のように行った。導通を、総大腿動脈に確保し、その後、カテーテルを操作して総肝動脈に挿入した。造影剤の注入によって腫瘍の位置が示され、その後、2F JB1 カテーテルをできるだけ腫瘍近くに進めた。要すれば、標的動脈にカテーテルを導くためにTranssendガイドワイヤーを用いた。カテーテルが適切に配置されたならば、ドキソルビシン溶出小球を、前述のようにして腫瘍ベッドに注入した。対照には、塞栓形成無しに等価濃度のドキソルビシンのみを注入した。「化学的塞栓形成」の完了後に、カテーテルを除去し、止血を実現するために、動脈を再吸収可能な縫合材料によって縫い閉じた。処置および処置後を通じて、適正な無菌技法が順守された。不快と苦痛を最小にするためにあらゆる努力、例えば、腫瘍移植のための外科切開を限局すること、苦痛を最小とするためのブプレノルフィンの皮下注射、動物の状態、苦痛・不快レベルの評価が必要な場合にいつでも即応できる臨床コールの設置を含む努力が取られた。動物はその後飼育ケージに戻した。動物は全て前述の時点で屠殺した。
動物は、獣医学統制規則に従って屠殺した。各動物グループの動物は全て、治療後のそれぞれ指定の時点毎に、100 mg/mlのチオペンタール静注から成る静注深麻酔の下で殺した。
【0094】
===27.5 病理学的および組織学的評価===
ウサギの肝臓を剖出し、注意深く取り出し、5%フォルムアルデヒドを含む容器に入れた。肝臓は、肉眼検査のために5 mm間隔でスライスした。各薄切部を完全にパラフィンに包埋し、その後4 μ厚に薄切し、H&E染色で処理した。腫瘍の生存率は目視で評価し、各スライスについて生存腫瘍面積のパーセントで表した。腫瘍内および非腫瘍肝臓組織におけるドキソルビシンの濃度はHPLCによって定量した。
【0095】
===27.6 ドキソルビシン分析用血液採取===
3 mlの全血を、薬剤溶出ビーズ注入時点から、それぞれ、20分、40分、60分、120分、および180分後に耳から挿入された動脈カテーテルを通じて採取した。次に、血液を、ヘパリン添加真空容器に移し、室温で2000gで10分遠心した。血漿を分離し、ラベル添付ポリプロピレンのキャップ付き管に移した。これを、メタノール/氷で急速冷凍し、分析の時点まで-20℃で保存した。
【0096】
===27.7 腫瘍、および非腫瘍肝臓組織におけるドキソルビシン濃度定量のための組織処理===
腫瘍および非腫瘍肝臓組織(約100 mg)を摘出し、上を被っている皮膚と雑物を除去した。組織の重量を、あらかじめ重量を測定した管を用いて正確に定量・記録し、直ちに、ドライアイスの上に置き、その後分析の時まで-80℃に保存した。
【0097】
===27.8 結果===
<薬剤分布要約>
1. 腫瘍内部におけるドキソルビシンの最大濃度は、治療後7日目に得られ、それに続くのは3日目グループであった(図20)。
2. 腫瘍内部におけるドキソルビシンの濃度は14日グループでも高いままであった。これは、ビーズからドキソルビシンが連続的に溶出することを示している(図20)。
3. 全ての時点で血漿中のドキソルビシンおよび分解産物(ドキソルビチノール)の濃度は極少であった。これは、特に投与後20分において目覚しく、血漿におけるドキソルビシン濃度は、20分から180分にかけてほぼ直線的に減少し続ける。ドキソルビシン濃度は、ビーズ無しで動脈内注入した場合血漿で10から17倍高い(図21)。
【0098】
<組織学的観察>
1. 腫瘍壊死は7-14日目に最大であった(図22)。
2. 1および12時間グループは対照と考えられることに注意。なぜなら、この時間は、化学療法剤が細胞殺傷を始めるにはあまりにも早すぎるからである。
3. 最終的に、3日グループと7日グループでは、それぞれ、ガン細胞の50%および37%が完全に死滅もしなければ、完全に生存もしていない状態であった。これらの細胞は「損傷している」、または、恐らくアポトーシス性でさえあると思われる。
4. ビーズの分布に関しては、期待した通り、対照動物では全く見られなかった。実験動物では、ビーズは全て、小動脈内の、予想した血管サイズ、すなわち、100から300ミクロンにおいて残存していたことが判明した。血管内スペースから逸出したビーズは無かった。
5. 14日グループでは、腫瘍を移植した左側において肝臓組織の大部分が壊死しているようであった。死滅したガンと正常細胞との区別を確立するのが極めて困難であった。従って、我々は、薬剤溶出ビーズの効力は、14日以降にその最大値に達するものと仮定することが可能である。これらの結果は一貫していた。
6. 組織学的分析も、薬剤溶出ビーズがガン細胞を殺傷する有効性を明らかにした。我々は、以前の複数の実験から、ドキソルビシンまたはカルボプラチンの動脈内注入(同じ濃度で)は、腫瘍の僅かに30%の壊死しかもたらさないことを知っていた。これは、未処置(すなわち、対照)動物の壊死率とほぼ等しい。それとは対照的に、薬剤溶出ビーズでウサギを治療すると、50から100%の壊死をもたらし、14日でもっとも完全であり、その壊死率は、動脈内注入のみの場合よりも有意に大きかった(図22)。
【0099】
[実施例28: 臨床治験]
実施例9に従って製造した微小球スラリーを用いて、切除不能肝細胞ガン(HCC)を患う患者の治療における安全性、薬理動態プロフィール、および効力を評価した。実験に参加資格のある患者は、18から75歳で、切除、肝移植、経皮治療のような重い治療に適しないHCCを持つが、肝機能はよく保存されており(Child-PughのAクラス)、肝代償不全を持たない患者である。除外されたのは、
a)HCCについて以前に何らかの抗ガン治療を受けた患者、
b)別の一次腫瘍を抱える患者、
c)進行した肝臓病を持つ患者:Child-PughのB-Cクラス、または活発な消化管出血、脳障害または腹水、ビリルビン濃度>3 mg/dL、
d)腫瘍性疾患を持つ患者:BCLCクラスC(血管侵襲であって、分節性門脈閉塞、肝臓外拡散、または、ガン関連性症状=PST1-4を含むもの)、またはクラスD(WHOパフォーマンス状態3または4、オクダのIII段階)、
e)肝臓塞栓形成処置にたいして何らかの不適応を持つ患者:門脈-体循環シャント、遠肝性血流、不良な凝固試験結果(血小板数< 50,000/mm3、または、プロトロンビン活性 < 50%)、腎不全、重度のアテローム症、および、
f)ドキソルビシン投与に対して何らかの不適応を持つ患者(血清ビリルビン ≧ 5 mg/dL、白血球数 ≦ 3.000 細胞/mm3、心臓駆出率 < 50パーセント)、
である。
【0100】
化学的塞栓形成は、時点0および2月目に実行する。治療は、いずれかの除外基準の発生と共に、または、患者の決定により停止する。塞栓形成は、投与直前に造影剤と混合したドキソルビシン負荷微小球を注入し、血流停滞を実現するまで注入を持続することによって行う。PVA微小球の直径は医師によって選ばれるが、大部分は500 μm周辺のサイズを持つ。抗生物質による予防治療は行わない。
【0101】
ドキソルビシン微小球の薬理動態プロフィールを分析するための増進用量は、ビリルビン濃度< 1.5 mg/dLでは、治療当たり25 mg/m2(2名の患者)、50 mg/m2(2名の患者)、75 mg/m2(2名の患者)、100 mg/m2(2名の患者)から開始する。ビリルビン濃度が1.5-3 mg/dLの患者では、用量は、治療当たり25 mg/m2(2名の患者)、50 mg/m2(2名の患者)、75 mg/m2(2名の患者)、100 mg/m2(2名の患者)から開始する。ある用量レベルで用量限定性の毒性が見られない場合、用量は、次のグループでは増大され、単一治療における全体最大用量を150 mgのドキソルビシンとする。
【0102】
薬理動態評価:ドキソルビシン濃度測定用サンプルを、処置後、1時間、6時間、24時間、48時間、および7日に、入院時に、または外来クリニックにおいて末梢血から採取する。
【0103】
安全性:6ヶ月の試験期間を通じて、治療関連の合併症を記録し、分析する。0月目および2月目では、副作用は入院時(4日間)に記録する。7日目、14日目、1月目、3月目、および6月目に、患者は、診察と検査パラメータのために外来クリニックを訪問する。治療後の全ての外来訪問時に不快事象を調べる。そのようなものとしては、骨髄機能低下を初めとするドキソルビシン関連毒性の記録、肝不全、腎不全、感染症-胆のう炎、肝膿瘍、自発性細菌性腹膜炎、菌血症、虚血性肝炎または胆管狭窄、消化管出血が挙げられる。
【0104】
効力:3月目および6月目に、コントラスト強調螺旋型CT画像法によって客観的反応を評価する。その大きさは、EASL共通基準に従って定義される。完全反応:新生物病の兆候無し、部分的反応:> 50%の全体腫瘍負荷の減少、変化無し:< 50%の減少、または< 25%の増加、病気進行:> 25%の増加。結果は、客観的反応は、完全および部分的反応で占められた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水膨張性で水に不溶のポリマーの基質と、該基質に吸収される水溶性治療剤とを有する粒子を含む組成物であって、前記ポリマーは、6から8の範囲のpHにおいて全体に陰イオン性電荷を持ち、前記粒子は水中で平衡に達するまで膨張すると40-1500 μm範囲の粒子サイズを持ち、前記治療剤は少なくとも一つのアミン基を持つアントラサイクリン化合物であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ポリマーは共有結合により架橋されることを特徴とする、請求項1による組成物。
【請求項3】
前記ポリマーは、架橋されたポリ(ビニルアルコール)を含むことを特徴とする、請求項1または2による組成物。
【請求項4】
1分子当たり少なくとも2個のエチレン的に不飽和なペンダント基を有するポリ(ビニルアルコール)マクロマーと、陰イオン性モノマーを含むエチレン的に不飽和なモノマーとの共重合によって形成されることを特徴とする、請求項3による組成物。
【請求項5】
前記陰イオン性モノマーは一般式I:
【化1】
を持ち、式中Y1は、下記から選ばれ、
【化2】
CH2=C(R)-CH2-O-、 CH2=C(R)-CH2OC(O)-、 CH2=C(R)OC(O)-、 CH2=C(R)-O-、CH2=C(R)CH2OC(O)N(R1)-、 R2OOCCR=CRC(O)-O-、 RCH=CHC(O)O-, RCH=C(COOR2)CH2-C(O)-O-、
【化3】
式中、Rは、水素またはC1-C4アルキル基であり、
R1は、水素またはC1-C4アルキル基であり、
R2は、水素またはC1-C4アルキル基、またはBQであり、ここにBおよびQは下記に定義され、
Aは、-O-または-NR1-であり、
K1は、基-(CH2)rOC(O)-、 -(CH2)rC(O)O-、 -(CH2)rOC(O)O-、 -(CH2)rNR3-、 -(CH2)rNR3C(O)-、 -(CH2)rC(O)NR3-、 -(CH2)rNR3C(O)O-、 -(CH2)rOC(O)NR3- -(CH2)rNR3C(O)NR3-(式中、複数の基R3は同じであるか、異なる)、-(CH2)rO-、 -(CH2)rSO3-、または、要すれば随意にB1と結合した原子価結合でもよく、rは1から12であり、R3は水素またはC1-C4アルキル基であり、
Bは、直鎖または分枝鎖の、アルカンジイル、オキサアルキレン、アルカンジイルオキサアルカンジイル、または、アルカンジイルオリゴ(オキサアルカンジイル)鎖であって、要すれば随意に、1個以上のフッ素原子を、過フッ化鎖以下の数まで含んでもよく、あるいは、QまたはY1が、Bと結合する末端炭素原子を含む場合、原子価結合を含んでもよく、
Qは陰イオン基である、
ことを特徴とする、請求項4による組成物。
【請求項6】
Y1はCH2=CRCOAで、式中RはHまたはメチルで、AはNHであり、かつ、BはC1-12アルカンジイルであることを特徴とする、請求項5による組成物。
【請求項7】
Qは、カルボン酸、炭酸、スルフォン酸、硫酸、硝酸、フォスフォネート、またはリン酸基であってよく、好ましくはスルフォン酸基であることを特徴とする、請求項5による組成物。
【請求項8】
前記PVAマクロマーは、1,000から500,000 D、好ましくは10,000から100,000 D範囲の平均分子量を持つことを特徴とする、請求項3から7のいずれか1項による組成物。
【請求項9】
前記ペンダントエチレン基は、通常はジアルキルアセタール、好ましくはN-アクリルアミノアセトアルデヒド・ジメチルアセタールの形を取る、N-(アルク)アクリルアミノ-置換アルデヒドの反応によって好ましくは形成される、環状アセタール結合を介して、隣接ヒドロキシル基由来の酸素原子と結合されることを特徴とする、請求項3から8のいずれか1項による組成物。
【請求項10】
前記アントラサイクリンは、下記の一般式IIの化合物で、
【化4】
好ましくはドキソルビシンであることを特徴とする、前記いずれか1項による組成物。
【請求項11】
前記粒子は微小球であることを特徴とする、前記いずれか1項による組成物。
【請求項12】
前記粒子は、水性液体によって膨張し、該液体中にて懸濁することを特徴とする、前記いずれか1項による組成物。
【請求項13】
造影剤、好ましくは、X線不透過剤をさらに含むことを特徴とする、請求項12による組成物。
【請求項14】
前記粒子は、水性液体で膨張し、余分な粒状液体を実質的に含まない粒子を含む、注入可能なスラリーの形を取ることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項による組成物。
【請求項15】
保存容器、好ましくは注射筒に充填され、無菌的であることを特徴とする、請求項14による組成物。
【請求項16】
実質的に乾燥していることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項による組成物。
【請求項17】
塞栓形成による固形腫瘍治療で使用される、前記いずれか1項による組成物の製造における、アントラサイクリンの使用法。
【請求項18】
水膨張性で、水に不溶のポリマーの粒子を、水の存在下にアントラサイクリン溶液に接触させ、アントラサイクリンをポリマー基質中に吸収させることを特徴とする、請求項1から16のいずれか1項による組成物の製造工程。
【請求項19】
前記接触は、前記ポリマー粒子を前記アントラサイクリンの水溶液に懸濁させることによって実行されることを特徴とする、請求項18による工程。
【請求項20】
前記基質に吸収されるアントラサイクリンを有するポリマー粒子は、前記懸濁液から回収され、好ましくは凍結乾燥によって、乾燥されることを特徴とする、請求項19による工程。
【請求項21】
前記膨潤粒子は、上清液から分離され、膨潤液によって依然として膨張されている状態で保存容器、好ましくは注射筒に移され、滅菌され、該容器に保存されることを特徴とする、請求項19による工程。
【請求項22】
塞栓形成による固形腫瘍治療で使用される組成物製造におけるアントラサイクリンの使用法であって、前期治療において、前記アントラサイクリンは、1分子当たり少なくとも2個のエチレン的に不飽和なペンダント基を有するポリ(ビニルアルコール)と、エチレン的に不飽和な陰イオン性モノマーとの共重合によって形成されるポリマー基質から送達されることを特徴とする使用法。
【請求項23】
前記ポリマー基質は、マクロマーとモノマーを含む液体組成物を循環中に導入し、重合を起動することによって、体内的に、患者の血管において形成されることを特徴とする、請求項22による使用法。
【請求項24】
請求項1から12および14から16のいずれか1項による組成物を造影剤と混ぜ、次にその混合物を患者の血管に投与して固形腫瘍に塞栓形成することを特徴とする治療法。
【請求項25】
請求項13による組成物を患者の血管に投与して固形腫瘍に塞栓形成することを特徴とする治療法。
【請求項26】
前記腫瘍は肝細胞ガンであることを特徴とする、請求項24または25による方法。
【請求項1】
水膨張性で水に不溶のポリマーの基質と、該基質に吸収される水溶性治療剤とを有する粒子を含む組成物であって、前記ポリマーは、6から8の範囲のpHにおいて全体に陰イオン性電荷を持ち、前記粒子は水中で平衡に達するまで膨張すると40-1500 μm範囲の粒子サイズを持ち、前記治療剤は少なくとも一つのアミン基を持つアントラサイクリン化合物であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ポリマーは共有結合により架橋されることを特徴とする、請求項1による組成物。
【請求項3】
前記ポリマーは、架橋されたポリ(ビニルアルコール)を含むことを特徴とする、請求項1または2による組成物。
【請求項4】
1分子当たり少なくとも2個のエチレン的に不飽和なペンダント基を有するポリ(ビニルアルコール)マクロマーと、陰イオン性モノマーを含むエチレン的に不飽和なモノマーとの共重合によって形成されることを特徴とする、請求項3による組成物。
【請求項5】
前記陰イオン性モノマーは一般式I:
【化1】
を持ち、式中Y1は、下記から選ばれ、
【化2】
CH2=C(R)-CH2-O-、 CH2=C(R)-CH2OC(O)-、 CH2=C(R)OC(O)-、 CH2=C(R)-O-、CH2=C(R)CH2OC(O)N(R1)-、 R2OOCCR=CRC(O)-O-、 RCH=CHC(O)O-, RCH=C(COOR2)CH2-C(O)-O-、
【化3】
式中、Rは、水素またはC1-C4アルキル基であり、
R1は、水素またはC1-C4アルキル基であり、
R2は、水素またはC1-C4アルキル基、またはBQであり、ここにBおよびQは下記に定義され、
Aは、-O-または-NR1-であり、
K1は、基-(CH2)rOC(O)-、 -(CH2)rC(O)O-、 -(CH2)rOC(O)O-、 -(CH2)rNR3-、 -(CH2)rNR3C(O)-、 -(CH2)rC(O)NR3-、 -(CH2)rNR3C(O)O-、 -(CH2)rOC(O)NR3- -(CH2)rNR3C(O)NR3-(式中、複数の基R3は同じであるか、異なる)、-(CH2)rO-、 -(CH2)rSO3-、または、要すれば随意にB1と結合した原子価結合でもよく、rは1から12であり、R3は水素またはC1-C4アルキル基であり、
Bは、直鎖または分枝鎖の、アルカンジイル、オキサアルキレン、アルカンジイルオキサアルカンジイル、または、アルカンジイルオリゴ(オキサアルカンジイル)鎖であって、要すれば随意に、1個以上のフッ素原子を、過フッ化鎖以下の数まで含んでもよく、あるいは、QまたはY1が、Bと結合する末端炭素原子を含む場合、原子価結合を含んでもよく、
Qは陰イオン基である、
ことを特徴とする、請求項4による組成物。
【請求項6】
Y1はCH2=CRCOAで、式中RはHまたはメチルで、AはNHであり、かつ、BはC1-12アルカンジイルであることを特徴とする、請求項5による組成物。
【請求項7】
Qは、カルボン酸、炭酸、スルフォン酸、硫酸、硝酸、フォスフォネート、またはリン酸基であってよく、好ましくはスルフォン酸基であることを特徴とする、請求項5による組成物。
【請求項8】
前記PVAマクロマーは、1,000から500,000 D、好ましくは10,000から100,000 D範囲の平均分子量を持つことを特徴とする、請求項3から7のいずれか1項による組成物。
【請求項9】
前記ペンダントエチレン基は、通常はジアルキルアセタール、好ましくはN-アクリルアミノアセトアルデヒド・ジメチルアセタールの形を取る、N-(アルク)アクリルアミノ-置換アルデヒドの反応によって好ましくは形成される、環状アセタール結合を介して、隣接ヒドロキシル基由来の酸素原子と結合されることを特徴とする、請求項3から8のいずれか1項による組成物。
【請求項10】
前記アントラサイクリンは、下記の一般式IIの化合物で、
【化4】
好ましくはドキソルビシンであることを特徴とする、前記いずれか1項による組成物。
【請求項11】
前記粒子は微小球であることを特徴とする、前記いずれか1項による組成物。
【請求項12】
前記粒子は、水性液体によって膨張し、該液体中にて懸濁することを特徴とする、前記いずれか1項による組成物。
【請求項13】
造影剤、好ましくは、X線不透過剤をさらに含むことを特徴とする、請求項12による組成物。
【請求項14】
前記粒子は、水性液体で膨張し、余分な粒状液体を実質的に含まない粒子を含む、注入可能なスラリーの形を取ることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項による組成物。
【請求項15】
保存容器、好ましくは注射筒に充填され、無菌的であることを特徴とする、請求項14による組成物。
【請求項16】
実質的に乾燥していることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項による組成物。
【請求項17】
塞栓形成による固形腫瘍治療で使用される、前記いずれか1項による組成物の製造における、アントラサイクリンの使用法。
【請求項18】
水膨張性で、水に不溶のポリマーの粒子を、水の存在下にアントラサイクリン溶液に接触させ、アントラサイクリンをポリマー基質中に吸収させることを特徴とする、請求項1から16のいずれか1項による組成物の製造工程。
【請求項19】
前記接触は、前記ポリマー粒子を前記アントラサイクリンの水溶液に懸濁させることによって実行されることを特徴とする、請求項18による工程。
【請求項20】
前記基質に吸収されるアントラサイクリンを有するポリマー粒子は、前記懸濁液から回収され、好ましくは凍結乾燥によって、乾燥されることを特徴とする、請求項19による工程。
【請求項21】
前記膨潤粒子は、上清液から分離され、膨潤液によって依然として膨張されている状態で保存容器、好ましくは注射筒に移され、滅菌され、該容器に保存されることを特徴とする、請求項19による工程。
【請求項22】
塞栓形成による固形腫瘍治療で使用される組成物製造におけるアントラサイクリンの使用法であって、前期治療において、前記アントラサイクリンは、1分子当たり少なくとも2個のエチレン的に不飽和なペンダント基を有するポリ(ビニルアルコール)と、エチレン的に不飽和な陰イオン性モノマーとの共重合によって形成されるポリマー基質から送達されることを特徴とする使用法。
【請求項23】
前記ポリマー基質は、マクロマーとモノマーを含む液体組成物を循環中に導入し、重合を起動することによって、体内的に、患者の血管において形成されることを特徴とする、請求項22による使用法。
【請求項24】
請求項1から12および14から16のいずれか1項による組成物を造影剤と混ぜ、次にその混合物を患者の血管に投与して固形腫瘍に塞栓形成することを特徴とする治療法。
【請求項25】
請求項13による組成物を患者の血管に投与して固形腫瘍に塞栓形成することを特徴とする治療法。
【請求項26】
前記腫瘍は肝細胞ガンであることを特徴とする、請求項24または25による方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
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【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−178784(P2011−178784A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−34961(P2011−34961)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【分割の表示】特願2006−500252(P2006−500252)の分割
【原出願日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(303039785)バイオコンパティブルズ ユーケー リミテッド (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34961(P2011−34961)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【分割の表示】特願2006−500252(P2006−500252)の分割
【原出願日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(303039785)バイオコンパティブルズ ユーケー リミテッド (23)
【Fターム(参考)】
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