説明

圧入式スペーサナット

【課題】基板に対して容易に、確実に固定された圧入式スペーサナット。
【解決手段】圧入式スペーサナット(10)は、内側に雌ネジ(16)を有する円筒形の胴部(15)を備える。胴部の端部に胴部より外径が大きく上面が平坦なフランジ(11)を備える。フランジの下で、胴部の円周上に設けられた複数のリブ(12)を備える。金属基板(20)の孔にスペーサナットの胴部を挿入し、スペーサナットの上面をプレス(40)で加圧して、スペーサナットを金属基板に押し込み、スペーサナットのリブとフランジが、金属基板の一部を塑性変形させて、リブの間と溝(13)の中に充填し、スペーサナットの端面が金属基板と同一平面になってスペーサナットが金属基板に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基板にプレス加工により一端部を埋設する圧入式スペーサナットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧入式スペーサナットは、一端部を金属基板等の母材に圧入し、この母材から離れた位置に別の部品を固定するのに使用される。図10に示す従来の圧入式スペーサナットは、円筒形の胴部15の一端部にフランジ11が一体に形成されている。フランジ11に隣接して胴部15の外周上に溝13が設けられている。円筒形の胴部の内側には雌ネジ16が設けられていて、この雌ネジにボルトを係合させ、別の部品を固定することが出来るようになっている。
【0003】
図11は、従来の圧入式スペーサナット10を金属基板20に圧入し固定した状態を示す。この圧入式スペーサナットをプレス加工により、上面11aが金属基板20の上面と同一平面になるように圧入して、金属基板の塑性変形した部分が溝13に入るようにして、金属基板20に取付ける。そして、このスペーサナットのフランジ11と反対側の端部にボルト等により他の部品を固定する。
【0004】
しかし、この従来の圧入式スペーサナットは、金属基板に取付けるとき塑性変形した金属基板の部分が入り込むのは、溝部のみである。そのため、金属基板の材料が溝に入りきらない場合があり、これがスペーサナットの周囲のはみ出すことがあった。また、スペーサナットのフランジ部が十分に金属基板に埋め込まれず、金属基板と同一面にならない場合があった。また、圧入には大きな圧力を必要とした。
このように、従来のスペーサナットは、金属基板に十分に埋め込まれないと、固定が不十分で金属基板から脱落し易いと言う欠点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためなされたものであり、基板に対して容易に固定でき、外観が良く、また回転せず、抜け落ちることがないように確実に固定された圧入式スペーサナットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の圧入式スペーサナットは、金属基板に一端部をプレス加工により埋設して取付ける圧入式スペーサナットである。
この圧入式スペーサナットは、内側に雌ネジを有する円筒形の胴部と、胴部の一端部に設けられ端面が平面のフランジと、フランジに隣接して、胴部の外周上に設けられた複数のリブとを備える。スペーサナットを金属基板に圧入して取付けるとき、塑性変形する金属基板の材料がリブの間に充填されるようになっている。
【0007】
リブに隣接して胴部の外周上に溝を有し、金属基板の塑性変形する部分が溝にも充填されるようになっていてもよい。
リブは、直方体形状であり、胴部の外周上に等間隔で設けられていてもよい。
フランジは、多角形でもよく、六角形でもよい。又は、フランジは、円形で一部が直線で構成されていてもよい。
【0008】
又、本発明は、円筒形の胴部と、胴部の一端部のフランジと、フランジに隣接して胴部の外周上に設けられた複数のリブとを有する圧入式スペーサナットを、フランジが金属基板に埋設されるように金属基板に取付ける方法に関する。
この方法では、治具の孔に金属基板の孔が合うように治具の端面に金属基板を置き、スペーサナットを金属基板上に置き、金属基板の孔にスペーサナットの胴部を挿入する。
又は、スペーサナットを金属基板上に置いたものを治具の上面に置いても良い。
【0009】
次に、プレスを治具に向かって移動させ、スペーサナットの一端部をプレスの一端面で加圧して、金属基板内へ押し込む。
このとき、スペーサナットのリブとフランジが、金属基板の一部を塑性変形させて、塑性変形する金属基板の材料は、隣接するリブ間の空間と溝内に充填され、フランジの端面が金属基板の表面と同一平面になって、スペーサナットが金属基板に固定される。
治具の上側内周部は、面取りされていて、プレスによりスペーサナットを金属基板に押し込むとき、金属基板の材料が面取り部に入るようにしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スペーサナットを比較的小さいプレス圧力で押込むことが出来る。塑性変形した材料がはみ出すことなく、固定された部分の外観は良好である。また、スペーサナットは回転せず抜け落ちることがなく確実に固定出来る。本発明によれば、プレス加工という簡単な加工方法により、確実にスペーサナットを金属基板に取り付けることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は本発明の第1の実施の形態による圧入式スペーサナットの一部を断面にした側面図、(b)は下側平面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態による圧入式スペーサナットの斜視図。
【図3】プレスによりスペーサナットを金属基板に取付ける状態を示す断面図。
【図4】スペーサナットを金属基板に取付けた状態を示す断面図。
【図5】金属基板に取付けたスペーサナットに他の部品を取付けた状態を示す断面図。
【図6】第2の実施の形態により、プレスによりスペーサナットを薄い金属基板に取付ける状態を示す断面図。
【図7】第2の実施の形態により、スペーサナットを薄い金属基板に取付けた状態を示す断面図。
【図8】(a)は第3の実施の形態による圧入式スペーサナットの一部を断面にした側面図、(b)は下側平面図。
【図9】(a)は第4の実施の形態による圧入式スペーサナットの一部を断面にした側面図、(b)は下側平面図。
【図10】従来の圧入式スペーサナットの側面図。
【図11】従来の圧入式スペーサナットを金属基板に取付けた状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態による圧入式スペーサナット10の(a)一部を断面にした側面図と、(b)下側平面図である。図2は、圧入式スペーサナット10の斜視図である。この明細書の圧入式スペーサナット10の説明において、上とは図1の上方向、即ちフランジ11の方向を言う。このスペーサナット10は、円筒形の胴部15を備える。胴部15の一端部にフランジ11が形成され、フランジ11の上面11aは平面である。胴部15の外径はフランジ11の外径より小さい。円筒形の胴部15の内側の孔は胴部15とフランジ11との全体を貫通し、内側には雌ネジ16が設けられて、この雌ネジにボルトを固定することが出来るようになっている。
【0013】
フランジ11の下の胴部15の外周上には、複数のリブ12が適当な間隔で設けられ、隣接するリブ12との間に空間が形成されている。外周上に並んだ複数のリブ12の外径は、フランジ11の外径より小さい。
リブ12の形状はこの実施の形態では直方体であり、外周上に等間隔で設けられている。後述するようにプレスでスペーサナット10を圧入するとき、金属基板20に容易に押込むことが出来る形状である。しかし、リブ12は、他の形状とすることも出来る。
リブの間の部分には、胴部の外周上に段部14を設けることも出来る。
【0014】
胴部15のフランジ11の下には、外周上に溝13が設けられている。この溝13を設けないことも出来る。
スペーサナット10を形成するフランジ11と、複数のリブ12と、段部14と、胴部15とは、一体に形成されている。
スペーサナット10は、例えば洋白等の金属材料で出来ている。
【0015】
図3を参照すると、スペーサナット10を取付ける金属基板20は、金属材料で出来ていて、スペーサナット10より硬度が低く、スペーサナット10を取付けるとき、金属基板の材料が変形して隣接するリブ12の間と溝13の中に入ることが出来るようになっている。金属基板20のスペーサナット10を取付ける部分に孔21があいている。孔21の内径は、スペーサナット10の胴部15の外径より大きく、胴部15を挿入することが出来る。孔21の内径は、リブ12の外径より小さく、スペーサナット10を金属基板20の孔21に挿入すると、リブ12の下面が金属基板20の上面20aに当接して止まるようになっている。
【0016】
図3により、スペーサナット10を金属基板20に取付ける動作を説明する。治具30は、胴部15の外径よりやや大きい内径の孔31を有し、治具30の上面は平面である。プレス40は、その下面が平面で、孔31に対して上下動し、スペーサナット10を金属基板20に押込むことが出来る。治具30の上面に金属基板20を載せ、治具30の孔31に金属基板20の孔21が合うように置く。金属基板20の孔21にスペーサナット10を挿入し、スペーサナット10の胴部15が治具30の孔31まで入るようにする。このとき、スペーサナット10のリブ12の下面が金属基板20の上面20aに当接して止まる。
【0017】
その後、プレス40を下降させ、スペーサナット10の上面11aをプレス40の下面41で加圧して、スペーサナット10を金属基板20に取り付ける。
このとき、プレス40の加圧により、スペーサナット10のリブ12が、金属基板20の一部を塑性変形させながら、金属基板20の中に入り込む。さらにプレス40が下降すると、フランジ11も金属基板20に当接し、金属基板20の一部を塑性変形させながら、金属基板20の中に入り込む。金属基板20の変形させられた部分は、1つのリブ12と隣接するリブ12との間、及び溝13の中に入り込んで、これらの部分に充填される。プレス40は、フランジ11の上面11aが金属基板20の上面20aと同一面になるまで下降する。こうして、スペーサナット10が金属基板20に固定される。
【0018】
図4は、スペーサナット10が金属基板20に固定された状態を示す断面図である。スペーサナット10のフランジ11の上面11aが、金属基板20の上面20aと同一面になり、リブ12の間と溝13は、塑性変形した金属基板20の材料で充填されている。
【0019】
この実施の形態によれば、プレス加工という簡単な加工方法により、確実にスペーサナット10を金属基板20に取り付けることが出来る。塑性変形した金属基板の材料は、リブ12の間と溝13に入るので、比較的小さいプレス圧力で押込むことが出来る。塑性変形した材料が入る空間が十分あるので、塑性変形した材料が金属基板の上面にはみ出すことはない。フランジの上面が金属基板の上面と同一平面になるまで十分に押込むことが出来、固定された部分の外観は良好である。また、リブ12の間に材料が入るため、スペーサナット10は回転しないように固定され、溝13に材料が入るため、スペーサナット10は抜け落ちないように固定される。このように、確実な固定構造を得ることが出来る。
【0020】
図5は、本発明の実施の形態によるスペーサナット10を金属基板20に取付けたものの使用法を示す。スペーサナット10の金属基板20と反対側の端部に、他の部品例えば、孔71を設けた基板70を、孔71がスペーサナット10の孔と合うように置き、基板70の孔71を通してボルト80を挿入し、ボルト80のネジをスペーサナット10の雌ネジ16と係合させ、基板70をスペーサナット10に固定する。こうして、金属基板20と距離をおいて基板70を取付けることが出来る。
【0021】
図6は、本発明の第2の実施の形態により、圧入式スペーサナット10を金属基板50に取付ける動作を示す。第2の実施の形態では、金属基板50は、金属基板20より厚さが薄い。そのため、プレスにより圧入式スペーサナット10を金属基板50に押込むとき、薄い金属基板50内で塑性変形した部分を吸収できない場合がある。第2の実施の形態では、治具30の孔31の上部に面取り部35を設けてあり、この部分に金属基板50の塑性変形した材料が入ることが出来るようになっている。プレスによりスペーサナット10を金属基板50に押込んで行くと、塑性変形した材料が面取り部35入っていき、更に材料の一部は溝13内に入り、スペーサナット10は金属基板50に固定される。
【0022】
図7は、本発明の第2の実施の形態により、面取り部35を有する治具30を使用して、スペーサナット10を薄い金属基板50に取り付けた状態を示す断面図である。治具30の面取り部35の空間に金属基板50の材料が充填され、金属基板50に傾斜部分51が形成され、金属基板50の材料の一部はスペーサナット10の溝13の部分に充填されて、スペーサナット10は金属基板50に固定される。面取りがあることにより、金属基板50の歪みを吸収することが出来る。
また、金属基板50の端部近傍にスペーサナット10を圧入すると、金属基板50の端部が歪む場合があったが、面取りが形成された治具30を使用すると、金属基板50の端部の歪みを無くすことができ、金属基板の端部近傍へスペーサナット10を圧入することが可能となる。
第2の実施の形態によれば、薄い金属基板にも圧入式スペーサナットを固定することが出来る。また、面取り部35を有する治具30を用いるのは、薄い金属基板の固定する場合だけでなく、通常の厚さの金属基板20に用いることも出来る。
【0023】
図8は、本発明の第3の実施の形態によるスペーサナットを示す。第3の実施の形態では、スペーサナットのフランジ61は、上面から見て円形ではなく六角形である。他は、第1の実施の形態と同様である。第1の実施の形態と同様の治具30とプレス40を使用して、スペーサナットを金属基板に固定する。
第3の実施の形態によれば、六角形のフランジ61が金属基板に圧入されるので、スペーサナットは回転方向に対して、より確実に固定される。
【0024】
図9は、本発明の第4の実施の形態によるスペーサナットを示す。第4の実施の形態では、スペーサナットのフランジ62は、円周上の2つの面が平面62aになっている。他は、第1の実施の形態と同様である。第1の実施の形態と同様の治具30とプレス40を使用して、スペーサナットを金属基板に固定する。
第4の実施の形態によれば、平面62aを有するフランジ62が金属基板に圧入されるので、スペーサナットは回転方向に対して、より確実に固定される。
【符号の説明】
【0025】
10 スペーサナット
11 フランジ
12 リブ
13 溝
14 段部
15 胴部
16 雌ネジ
20 金属基板
30 治具
31 孔
35 面取り
40 プレス
50 金属基板
51 傾斜部分
61,62 フランジ
70 基板
71 孔
80 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板に一端部をプレス加工により埋設して取付ける圧入式スペーサナットにおいて、
内側に雌ネジを有する円筒形の胴部、
前記胴部の一端部に設けられ端面が平面のフランジ、及び、
前記フランジに隣接して、前記胴部の外周上に設けられた複数のリブ、
を備え、金属基板に圧入して取付けるとき、前記フランジ又は前記リブに押されて塑性変形する前記金属基板の材料が、前記リブの間に充填され、
前記リブに隣接して前記胴部の外周上に溝を有し、塑性変形する前記金属基板の材料が前記溝にも充填され、前記フランジが前記金属基板に埋設され、前記フランジの端面が前記金属基板の表面と同一平面になって、前記スペーサナットが前記金属基板に固定されるようになったことを特徴とする圧入式スペーサナット。
【請求項2】
前記リブは、直方体形状であり、前記胴部の外周上に等間隔で設けられた請求項1記載の圧入式スペーサナット。
【請求項3】
前記フランジは、多角形である請求項1記載の圧入式スペーサナット。
【請求項4】
前記フランジは、円形で一部が直線で構成される請求項1記載の圧入式スペーサナット。
【請求項5】
円筒形の胴部と、前記胴部の一端部のフランジと、前記フランジに隣接して前記胴部の外周上に設けられた複数のリブとを有する圧入式スペーサナットを、前記フランジが金属基板に埋設されるように取付ける方法において、
治具の孔に前記金属基板の孔が合うように治具の上面に前記金属基板を置き、
前記スペーサナットを前記金属基板上に置き、
前記金属基板の前記孔に前記スペーサナットの前記胴部を挿入し、
プレスを前記治具に向かって移動させ、前記スペーサナットの一端部を前記プレスの端面で加圧して、前記金属基板内へ押し込み、
このとき、前記スペーサナットの前記リブと前記フランジが、前記金属基板の一部を塑性変形させて、塑性変形する前記金属基板の材料は、隣接する前記リブの間の空間と前記溝内に充填され、
前記フランジの端面が前記金属基板の表面と同一平面になって、前記スペーサナットが前記金属基板に固定されることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記治具の上側内周部は、面取りされていて、前記プレスにより前記スペーサナットを前記金属基板に押し込むとき、前記金属基板の材料が前記面取り部に入る請求項5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−107047(P2010−107047A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287865(P2009−287865)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【分割の表示】特願2001−58264(P2001−58264)の分割
【原出願日】平成13年3月2日(2001.3.2)
【出願人】(390025243)ポップリベット・ファスナー株式会社 (159)
【Fターム(参考)】