説明

圧延ロールのスラスト調節装置

【課題】調節機構の機械的剛性を向上して、圧延ロールを正確に位置決め固定し得る圧延ロールのスラスト調節装置を提供する。
【解決手段】調節機構58は、アーム部材56,56に夫々接続され、外周面にネジ部62aが形成された一対の調節ネジ棒62,62と、左右方向に延在するネジ孔72aが開設され、一対の調節ネジ棒62,62がネジ孔72aの両側から螺挿されたターンバックル66と、各調節ネジ棒62に配設された一対の固定手段68,68とを備える。固定手段68,68は、調節ネジ棒62に螺合するナット部78と、油圧により移動する固定部80とから構成される。固定部80は、ターンバックル66の回転を許容する解除位置と、該ターンバックル66の回転を規制する固定位置とを往復移動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延ロールのスラスト方向の位置を調節する圧延ロールのスラスト調節装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
棒鋼や線材等の被圧延材料の圧延を行う圧延機は、被圧延材料のパスラインを挟んで対向する一対の圧延ロールを備え、両圧延ロールの間に被圧延材料を通過させることにより所要の圧延を施すよう構成される。この場合に、対向する圧延ロールの位置が、規定位置よりもスラスト方向(軸方向)にズレていると、圧延された被圧延材料の寸法不良や捩れ等の不具合を生じ、品質低下を招く原因となる。このため、前記圧延機には、一対の圧延ロールをスラスト方向に相対的に位置調節させるスラスト調節装置が設けられ、圧延ロールの位置ズレが発生した場合には、スラスト調節装置で圧延ロールの位置を調節(スラスト調節)するよう構成されている。
【0003】
図6は、従来のスラスト調節装置10を示す平断面図である。このスラスト調節装置10は、圧延ロール12のロールチョック14に径方向に突出する一対の張出部16,16が形成されると共に、該張出部16に当接する第1押圧部18を備えた一対の引出用アーム部材20,20と、該張出部16に当接する第2押圧部22を備えた一対の押込用アーム部材24,24とを備えている。前記引出用アーム部材20および押込用アーム部材24は、圧延ロール12のスラスト方向に直交する共通の揺動軸26に軸支されている。前記一対の引出用アーム部材20,20の端部は、第1調節機構28を介して連結されており、該第1調節機構28全体の延在長さを変更することで、引出用アーム部材20,20が揺動する。同様に、前記一対の押込用アーム部材24,24の端部は、第2調節機構30を介して連結されており、該第2調節機構30全体の延在長さを変更することで、押込用アーム部材24,24が揺動する。
【0004】
前記第1調節機構28は、各引出用アーム部材20に回動自在に接続された第1接続ネジ棒32,32と、両第1接続ネジ棒32,32の間に設けられる第1連結ネジ棒34と、一方の第1接続ネジ棒32および第1連結ネジ棒34の間に介装された第1油圧シリンダ36と、該第1連結ネジ棒34および他方の第1接続ネジ棒32が螺挿された第1ターンバックル38とから構成される。また前記第2調節機構30は、各押込用アーム部材24に回動自在に接続された第2接続ネジ棒40,40と、両第2接続ネジ棒40,40の間に設けられる第2連結ネジ棒42と、一方の第2接続ネジ棒40および第2連結ネジ棒42の間に介装された第2油圧シリンダ44と、該第2連結ネジ棒42および他方の第2接続ネジ棒40が螺挿された第2ターンバックル46とから構成される。
【0005】
前記一方の第1接続ネジ棒32は、前記第1油圧シリンダ36に固定されている。また、第1油圧シリンダ36の内部には、第1油圧室36aが画成され、該第1油圧室36a内に第1ピストン36bが摺動自在に配設されている。そして、第1ピストン36bは、前記第1連結ネジ棒34の端部に固定されている。なお、前記第1連結ネジ棒34および他方の第1接続ネジ棒32は、互いに反対向きのネジが螺切されており、第1ターンバックル38が正逆方向に回転することで、第1連結ネジ棒34および他方の第1接続ネジ棒32が互いに近接または離間するよう構成される。同様に、前記第2調節機構30についても、一方の第2接続ネジ棒40が第2油圧シリンダ44に固定されている。また、第2油圧シリンダ44の内部に第2油圧室44aが画成され、該第2油圧室44a内に第2ピストン44bが摺動自在に配設されている。第2ピストン44bは、前記第2連結ネジ棒42の端部に固定されている。前記第2連結ネジ棒42および他方の第2接続ネジ棒40は、互いに反対向きのネジが螺切されており、第2ターンバックル46が正逆方向に回転することで、第2連結ネジ棒42および他方の第2接続ネジ棒40が互いに近接または離間するよう構成される。
【0006】
前記圧延ロール12をスラスト調節する際には、前記第1油圧シリンダ36および第2油圧シリンダ44を無負荷状態にしたもとで、前記第1ターンバックル38および第2ターンバックル46を回転させる。第1ターンバックル38および第2ターンバックル46が回転すると、前記第1連結ネジ棒34および第2連結ネジ棒42並びに他方の第1接続ネジ棒32および第2接続ネジ棒40が互いに近接または離間して、第1調節機構28および第2調節機構30が伸縮する。これにより、前記引出用アーム部材20および押込用アーム部材24が揺動して、圧延ロール12がスラスト方向に移動するよう構成される。スラスト調節後、第1油圧シリンダ36および第2油圧シリンダ44に油圧をかけて、第1ターンバックル38および第2ターンバックル46の回転を規制したもとで、圧延ロール12による圧延が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−161876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、圧延時には、圧延ロール12からの負荷が引出用アーム部材20や押込用アーム部材24を介して第1調節機構28および第2調節機構30に加わるようになっている。ところが、第1調節機構28および第2調節機構30は、両アーム部材20,20,24,24の負荷を第1油圧シリンダ36および第2油圧シリンダ44の第1ピストン36bおよび第2ピストン44bで受ける構成となっており、第1調節機構28および第2調節機構30全体の機械的な剛性が小さい難点がある。すなわち、第1油圧シリンダ36および第2油圧シリンダ44に大きな負荷が加わった際に、第1ピストン36bおよび第2ピストン44bが油圧に抗して変動し、第1調節機構28および第2調節機構30の延在長さが変化してしまう虞がある。これにより、圧延ロール12の位置がズレてしまい、圧延精度が低下する虞がある。しかも、第1油圧シリンダ36および第2油圧シリンダ44に負荷が加わることで、第1油圧室36aおよび第2油圧室44aのシール部等が破損して油漏れが発生したり、第1油圧シリンダ36および第2油圧シリンダ44が損傷等したりする可能性もある。
【0009】
すなわち、本発明は、従来技術に係る圧延ロールのスラスト調節装置に内在する前記問題に鑑み、これらを解決するべく提案されたものであって、調節機構の機械的剛性を向上して、圧延ロールの位置ズレを防止し得る圧延ロールのスラスト調節装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、本発明に係る圧延ロールのスラスト調節装置は、
圧延ロールの軸心を挟む両側に配置されて該圧延ロールのスラスト方向に直交する回動軸の夫々に揺動自在に配設され、該圧延ロールに当接する押圧部を備えた一対のアーム部材と、前記一対のアーム部材に連結され、両アーム部材が離間する方向に伸縮することで、該アーム部材を揺動させる調節機構とを備え、前記アーム部材の揺動により前記押圧部が変位して圧延ロールをスラスト方向に移動させる圧延ロールのスラスト調節装置において、
前記調節機構は、
前記アーム部材に夫々接続され、外周面にネジ部が形成された一対の調節ネジ棒と、
前記一対のアーム部材の離間方向に延在するネジ孔が開設され、前記一対の調節ネジ棒がネジ孔の両側から螺挿されたターンバックルと、
前記各調節ネジ棒の夫々に配設された固定手段とを備えると共に、
前記各固定手段は、前記調節ネジ棒に螺合するナット部と、前記一対のアーム部材の離間方向にスライド自在にナット部に設けられた固定部とから構成され、
前記固定部は、前記ターンバックルから離間して該ターンバックルの回転を許容する解除位置と、該ターンバックルに当接して該ターンバックルの回転を規制する固定位置とに流体圧によって位置決めされるよう構成され、
前記固定部を解除位置に保持したもとで、前記ターンバックルを回転させることで、前記調節ネジ棒が相互に近接または離間して前記調節機構が伸縮するよう構成したことを要旨とする。
請求項1の発明によれば、圧延ロールからの負荷をターンバックルおよび該ターンバックルに螺挿された調節ネジで受ける構成としたので、調節機構の機械的剛性を向上し得る。従って、圧延ロールからの負荷により調節機構が伸縮するのを抑制して、スラスト調節後の圧延ロールを確実に位置決め固定して精度のよい圧延を行い得る。また、圧延ロールからの負荷は、ターンバックルおよび調節ネジで受けて、固定手段に大きな負荷が加わることはないので、従来例のような油漏れ等の不具合や、固定手段が損傷するのを抑制することができる。しかも、調節機構の延在長さは、相互に螺合した調節ネジおよびターンバックルにより規定されるので、ターンバックルを回転させることで、調節機構の延在長さを正確に調節することが可能となる。従って、圧延ロールの位置を正確に設定することができ、被圧延材料の圧延品質を向上し得る。また、ターンバックルを両側から固定手段で挟んで固定する構成としたので、圧延時にターンバックルが回転するのを規制して、圧延ロールを確実に位置決め固定することができる。
【0011】
請求項2に係る圧延ロールのスラスト調節装置によれば、
前記固定部は、前記ナット部に外挿され、
前記固定部およびナット部は、該固定部が前記固定位置に位置した際に第1圧力室が画成されると共に、該固定部が前記解除位置に位置した際に第2圧力室が画成されるよう構成され、
前記固定部またはナット部に、前記第1圧力室に連通する第1通路および前記第2圧力室に連通する第2通路が形成され、
前記第1通路を介して第1圧力室に流体を充填すると共に、前記第2通路を介して第2圧力室から流体を吸引することで前記固定部が固定位置にスライドし、第1通路を介して第1圧力室から流体を吸引すると共に、第2通路を介して第2圧力室に流体を充填することで該固定部が解除位置にスライドするよう構成したことを要旨とする。
請求項2の発明によれば、固定手段は、第1圧力室および第2圧力室に流体を充填または吸引することで、固定部をスライドし得る構成としたので、固定手段をシンプルな構造とすることができ、故障等の発生頻度を抑制することが可能となる。また、流体圧により固定部をスライドさせる構成としたので、人手を介さずに固定部を移動させることができ、作業者の負担を軽減し得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る圧延ロールのスラスト調節装置によれば、機械的な剛性を向上して、圧延ロールを確実に位置決めし得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例に係る圧延ロールのスラスト調節装置を示す平断面図である。
【図2】実施例に係る圧延ロールのスラスト調節装置を示す正面図である。
【図3】実施例に係る圧延ロールのスラスト調節装置を示す平断面図であって、(a)は圧延ロールを後方へ移動させる様子を示し、(b)は圧延ロールを前方へ移動させる様子を示す。
【図4】実施例に係る固定手段を拡大して示す断面図であって、(a)は固定部が解除位置に位置した状態を示し、(b)は固定部が固定位置に位置した状態を示す。
【図5】変更例に係る固定手段を拡大して示す断面図であって、(a)は固定部が解除位置に位置した状態を示し、(b)は固定部が固定位置に位置した状態を示す。
【図6】従来例に係る圧延ロールのスラスト調節装置を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明に係る圧延ロールのスラスト調節装置につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「左」、「右」とは、図1に示すスラスト調節装置の平断面図を基準として、図1の下向きを前方として指称する。なお、以下の説明において、従来技術と同一の部材については、同じ符号を付して説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、実施例に係る圧延ロールのスラスト調節装置48を示す平断面図であって、このスラスト調節装置48は、圧延機50の前側に配設されている。図2に示すように、圧延機50は、スタンド52に対して一対の圧延ロール11,12が上下に対向して配設され、両圧延ロール11,12は、図示しない駆動源により相互に反対向きに回転駆動される。下方の圧延ロール12(以下、下圧延ロール12という)は、前記スタンド52に対してスラスト方向に移動可能に構成され、該圧延ロール12をスラスト調節装置48によりスラスト方向に移動することで、基準となる上方の圧延ロール11(以下、上圧延ロール11という)とのスラスト方向の相対位置が調節されるようになっている。下圧延ロール12のロールチョック14には、径方向に突出した張出部16,16が該圧延ロール12の回転中心を挟んで対向的に形成されている。また、スタンド52の前面には、上下に所定間隔離間した一組の支持部54,54が、下圧延ロール12を挟むよう左右に設けられている。上下の支持部54,54の間には、上下方向(スラスト方向に直交する方向)に延在する回動軸64が配設されている。
【0016】
図1に示すように、実施例に係るスラスト調節装置48は、下圧延ロール12の軸心Xを挟む両側に左右に離間して配設された一対のアーム部材56,56と、両アーム部材56,56に連結されて、左右方向(アーム部材56,56の離間方向)に伸縮可能な調節機構58とから基本的に構成される。前記アーム部材56は、後端部に押圧部60が設けられると共に、前端部側が前記調節機構58の後述する調節ネジ棒62と連結されている。また、アーム部材56の後端部側は、前記回動軸64を介して揺動自在に軸支されている。前記押圧部60は、前記張出部16の後側に当接する引出部60aと、該引出部60aの下方に設けられると共に張出部16の前側に当接する押出部60bとから構成され、図2に示すように、引出部60aおよび押出部60bは、上下にズレた位置関係で張出部16を把持している。そして、両アーム部材56,56が図3(a)の矢印の方向へ揺動することで、押出部60b,60bが張出部16を後方へ押圧し、下圧延ロール12が後方へ移動するよう構成される。また、両アーム部材56,56が図3(b)の矢印の方向へ揺動することで、前記引出部60a,60aが張出部16を前方へ押圧し、下圧延ロール12が前方へ移動するよう構成される。
【0017】
図1に示すように、前記調節機構58は、各アーム部材56に連結された一対の調節ネジ棒62,62と、両調節ネジ棒62,62が螺挿されるターンバックル66と、各調節ネジ棒62に配設された一対の固定手段68,68とから基本的に構成される。前記調節ネジ棒62は、左右方向に延在するパイプ状の棒体であって、左右の調節ネジ棒62,62は、略同一の寸法に設定されている。調節ネジ棒62の外周面には、ネジ部62aが螺刻されている。図1に示すように、調節ネジ棒62のネジ部62aの延在方向は、他方の調節ネジ棒62のネジ部62aと反対向きに設定されている。また、前記調節ネジ棒62の端部は、上下方向に延在する連結軸70を介して前記アーム部材56の前端部と回動自在に連結されている。
【0018】
前記ターンバックル66は、左右方向に延在する筒状のバックル本体72と、該バックル本体72の右端部に固着された従動ギヤ74とから構成される。前記バックル本体72には、前記調節ネジ棒62の外形と略同一の開口寸法でネジ孔72aが左右に貫通形成されている。前記ネジ孔72aの内周面には、左右に2つのネジ部72b,72bが螺刻されている。ネジ孔72aの2つのネジ部72b,72bは、対応する調節ネジ棒62,62のネジ部62a,62aに対応して延在方向が互いに反対向きとなっている。そして、バックル本体72のネジ孔72aに対して左右から調節ネジ棒62,62が螺挿されて、ターンバックル66に調節ネジ棒62,62が連結されている。調節ネジ棒62,62がターンバックル66に螺挿された状態で、両調節ネジ棒62,62は、バックル本体72のネジ孔72aの内部において所要間隔離間している。そして、ターンバックル66が正逆方向に回転することで、調節ネジ棒62,62が互いに近接離間して、両調節ネジ棒62,62の離間距離Lが変化するようになっている(図1参照)。
【0019】
前記ターンバックル66の従動ギヤ74は、図示しない制御装置により駆動制御されるモータMの回転軸に連結された駆動ギヤ76に噛合しており、該モータMが駆動することで、ターンバックル66が回転駆動されるようになっている。図3(a)に示すように、モータMによりターンバックル66が一方向に回転されると、前記調節ネジ棒62,62が相互に近接して、前記調節機構58の延在長さが収縮される。これにより、前記アーム部材56,56は、図3(a)の矢印の方向に揺動するよう構成される。一方、図3(b)に示すように、ターンバックル66が他方向に回転されると、前記調節ネジ棒62,62が相互に離間して、前記調節機構58の延在長さが伸長される。これにより、前記アーム部材56,56は、図3(b)の矢印の方向に揺動するよう構成される。
【0020】
図1に示すように、前記固定手段68は、前記ターンバックル66を左右から挟むように各調節ネジ棒62に配設されている。この固定手段68は、図4(a),(b)に示す如く、調節ネジ棒62に螺合するナット部78と、該ナット部78に左右方向(アーム部材56,56の離間方向)にスライド自在に設けられた固定部80とからなり、作動油の油圧(流体圧)により固定部80がスライドされるよう構成される。前記ナット部78は、左右方向に貫通する筒状に形成され、前記調節ネジ棒62が螺挿された状態で該調節ネジ棒62に固定されている。図4(a),(b)に示すように、ナット部78が調節ネジ棒62に固定された状態では、ナット部78のターンバックル66側の端面が該ターンバックル66から僅かに離間するようになっている。また、ナット部78の周面には、径方向に突出する凸部78aが環状に形成されている。
【0021】
前記固定部80は、左右方向に貫通するスライド孔80aが開設された筒状に形成され、該スライド孔80aに前記ナット部78が摺動自在に嵌挿されるようになっている。固定部80は、図4(a)に示す解除位置と、図4(b)に示す固定位置とに位置決めされるようになっている。固定部80におけるターンバックル66側の端面は、前記解除位置において、前記ナット部78の端面と略同一面上に位置して、該ターンバックル66から僅かに離間するよう構成される。また、前記固定位置では、前記固定部80におけるターンバックル66側の端面が、ナット部78の端面からターンバックル66側に突出して、ターンバックル66に当接するよう構成される。すなわち、図1に示すように、左側の固定部80は右側に突出して、バックル本体72の左側部に当接すると共に、右側の固定部80は左側に突出して、前記従動ギヤ74の右側部に当接するようになっている。また、固定部80のスライド孔80aの内周面には、前記ナット部78の凸部78aが臨む溝部80bが環状に凹設されている。この溝部80bに凸部78aが臨んだ状態では、該凸部78aの外周面が溝部80bに当接するようになっている。
【0022】
図4(a),(b)に示すように、溝部80bの左右方向の寸法は、凸部78aの左右方向の寸法より大きく設定されており、固定部80がスライドする際に、凸部78aが溝部80b内を移動するよう構成される。そして、図4(b)に示すように、固定部80が固定位置に位置した際に、前記溝部80bにおいて前記凸部78aのターンバックル66側に環状の第1圧力室82が画成されるようになっている。また、図4(a)に示すように、固定部80が解除位置に位置した際に、前記溝部80bにおいて前記凸部78aのターンバックル66とは反対側に環状の第2圧力室84が画成される。
【0023】
図4(a),(b)に示すように、前記固定部80には、作動油が流通可能な第1通路86および第2通路88が形成されている。第1通路86の一端側は、図4(b)に示すように、前記溝部80bにおける前記第1圧力室82が画成される部位で開口した第1開口部86aを介して該第1圧力室82に連通すると共に、第1通路86の他端側は、固定部80におけるターンバックル66とは反対側の端面で開口している(以下、この開口を第1接続口86bという)。図4(a)に示すように、第2通路88の一端側は、前記溝部80bにおける前記第2圧力室84が画成される部位で開口した第2開口部88aを介して該第2圧力室84に連通すると共に、第2通路88の他端側は、固定部80におけるターンバックル66とは反対側の端面で開口している(以下、この開口を第2接続口88bという)。前記第1接続口86bおよび第2接続口88bには、図示しない油圧ポンプが接続されている。この油圧ポンプは、前記制御装置により駆動制御されて、第1圧力室82または第2圧力室84の何れか一方に作動油を供給(充填)すると共に、第1圧力室82または第2圧力室84の何れか他方から作動油を吸引するようになっている。
【0024】
すなわち、図4(b)に示すように、第1通路86を介して第1圧力室82に作動油を充填すると共に、前記第2通路88を介して第2圧力室84から作動油を吸引することで、前記固定部80が固定位置にスライドするよう構成される。そして、固定位置に位置した固定部80,80によりターンバックル66が左右から挟持固定されて、ターンバックル66の回転が規制されるよう構成される。一方、図4(a)に示すように、第1通路86を介して第1圧力室82から作動油を吸引すると共に、第2通路88を介して第2圧力室84に作動油を充填することで、固定部80が解除位置にスライドするよう構成される。そして、2つの固定部80,80がターンバックル66から離間することで、該ターンバックル66の回転が許容されるよう構成される。
【0025】
〔実施例の作用〕
次に、実施例に係る圧延ロールのスラスト調節装置48の作用につき説明する。被圧延材料の圧延時には、前記固定手段68,68が前記ターンバックル66を固定して、該ターンバックル66の回転を規制した状態となる。すなわち、図4(b)に示すように、前記制御装置が油圧ポンプを駆動制御して、第1通路86を介して第1圧力室82に作動油を充填すると共に、前記第2通路88を介して第2圧力室84から作動油を吸引することで、固定部80を固定位置に位置させる。これにより、圧延時にターンバックル66が回転するのを抑制して、下圧延ロール12を確実に固定し得る。
【0026】
ここで、被圧延材料の圧延時には、下圧延ロール12に対してスラスト方向の負荷が生じ、この負荷がアーム部材56を介して、調節機構58に加わることとなる。しかしながら、実施例では、下圧延ロール12からの負荷をターンバックル66および該ターンバックル66に螺挿された調節ネジ棒62,62で受ける構成としたので、調節機構58の機械的剛性が向上されている。従って、下圧延ロール12からの負荷により調節機構58が伸縮するのを好適に抑制して、下圧延ロール12を確実に位置決め固定し得る。また、下圧延ロール12からの負荷は、ターンバックル66および調節ネジ棒62,62で支持するため、固定手段68,68に大きな負荷が加わることはない。従って、固定手段68,68から油漏れが発生したり、固定手段68,68が損傷したりするのを抑制することができる。
【0027】
次に、下圧延ロール12のスラスト調節を行う場合について説明する。先ず始めに、下圧延ロール12を後方に移動させる場合について説明する。制御装置により油圧ポンプを駆動して、固定手段68,68によるターンバックル66の固定を解除する。すなわち、図4(a)に示すように、第1通路86を介して第1圧力室82から作動油を吸引すると共に、第2通路88を介して第2圧力室84に作動油を充填することで、固定部80が解除位置に移動する。これにより、左右の固定部80,80がターンバックル66から離間して、該ターンバックル66の回転が許容される。次に、制御装置がモータMを駆動制御して、駆動ギヤ76を回転させる。これにより、駆動ギヤ76に噛合した従動ギヤ74が回転することで、ターンバックル66が一方向に回転され、左右の調節ネジ棒62,62が相互に近接する。すなわち、調節機構58が収縮して、アーム部材56,56が図3(a)の矢印の方向に揺動し、各アーム部材56の押出部60bが張出部16を後方に押圧する。これにより、前記下圧延ロール12が上圧延ロール11に対して後方に移動し、該下圧延ロール12のスラスト調節が行われる。
【0028】
下圧延ロール12が上圧延ロール11に対して適正な位置まで移動されると、制御装置はモータMの駆動を停止させて、ターンバックル66の回転が停止される。また、制御装置が油圧ポンプを駆動制御して、図4(b)に示すように、第1通路86を介して第1圧力室82に作動油を充填すると共に、第2通路88を介して第2圧力室84から作動油を吸引することで、固定手段68,68の固定部80,80を固定位置に移動させ、ターンバックル66を固定する。このように、実施例に係るスラスト調節装置48によれば、油圧ポンプにより作動油を充填または吸引するだけの簡単な構成で、固定部80,80を固定位置および解除位置に移動させ得るので、固定手段68,68の構成をシンプルにすることができ、不具合や故障等の発生を抑制し得る。しかも、ターンバックル66および固定手段68,68は、制御装置により統括して制御し得るので、下圧延ロール12のスラスト調節を人手を介さず行うことができ、作業者の負担を軽減することが可能となる。
【0029】
次に、下圧延ロール12を前方に移動させる場合について説明する。制御装置により油圧ポンプを駆動して、図4(a)に示すように、固定部80を解除位置に移動させ、固定手段68,68によるターンバックル66の固定を解除する。次に、制御装置がモータMを駆動制御して、ターンバックル66を他方向に回転させ、図3(b)に示すように、左右の調節ネジ棒62,62を相互に離間させる。すなわち、調節機構58の延在長さが伸長して、アーム部材56,56が図3(b)の矢印の方向に揺動し、各アーム部材56の引出部60aが張出部16を前方に押圧する。これにより、前記下圧延ロール12が上圧延ロール11に対して前方に移動され、下圧延ロール12のスラスト調節が行われる。下圧延ロール12が上圧延ロール11に対して適正な位置まで移動されると、制御装置はモータMの駆動を停止させて、ターンバックル66の回転を停止させる。また、制御装置が油圧ポンプを駆動制御して、図4(b)に示すように、固定手段68,68の固定部80,80を固定位置に移動させ、ターンバックル66を固定する。このように、圧延ロール12を前方に移動させる場合においても、ターンバックル66および固定手段68,68を制御装置により統括して制御し得るので、スラスト調節を人手を介さず行うことができ、作業者の負担を軽減することが可能となる。
【0030】
〔変更例〕
図5(a),(b)は、変更例に係る圧延ロールのスラスト調節装置に採用された固定手段90を示す拡大断面図である。なお、以下の説明では、実施例と同一の部材については、同じ符号を付して説明を省略する。変更例に係る固定手段90は、ナット部92の外周面に溝部92aが環状に凹設されると共に、固定部94の内周面に、径方向に突出する凸部94aが環状に形成されている。そして、図5(a)に示すように、固定部94が解除位置に位置した際に、前記溝部92aにおいて前記凸部94aのターンバックル66側に第2圧力室96が画成されると共に、図5(b)に示すように、固定部94が固定位置に位置した際に、溝部92aにおいて凸部94aのターンバックル66とは反対側に第1圧力室98が画成されるようになっている。また、変更例に係る固定手段90は、第1圧力室98に連通する第1通路100と、第2圧力室96に連通する第2通路102とが前記ナット部92に形成されている。
【0031】
そして、図5(b)に示すように、第1通路100を介して第1圧力室98に作動油を充填すると共に、前記第2通路102を介して第2圧力室96から作動油を吸引することで、前記固定部94が固定位置にスライドするよう構成される。これにより、固定部94,94がターンバックル66に当接して、該ターンバックル66が固定される。一方、図5(a)に示すように、第1通路100を介して第1圧力室98から作動油を吸引すると共に、第2通路102を介して第2圧力室96に作動油を充填することで、固定部94が解除位置にスライドするよう構成される。これにより、固定部94,94がターンバックル66から離間して、ターンバックル66の回転が許容される。このように、変更例においても、作動油を第1および第2圧力室96,98に充填または吸引するだけの簡単な構成で、固定部94を確実に移動させることができ、固定手段90の故障や不具合の発生を抑制することができる。
【0032】
なお、圧延ロールのスラスト調節装置の構成としては、実施例および変更例のものに限らず、種々の変更が可能である。
(1) 実施例および変更例では、アーム部材の押圧部を押出部および引出部で構成し、圧延ロールを前側に引き出す場合は引出部で張出部を押圧し、また、圧延ロールを後側に押し込む場合は押出部で張出部を押圧する構成とした。しかしながら、圧延機の機械的構造等により、圧延ロールに対し常に前方(スラスト調節装置側)への負荷が掛かった状態にある場合には、アーム部材の押圧部を押出部のみで構成してもよい。この場合、アーム部材の押出部で圧延ロールを後方に押し込むことで、該圧延ロールのスラスト調節が行われる。
(2) 実施例および変更例では、固定手段の固定部を作動油の圧力により移動させる構成としたが、固定部を移動させる流体としては、水等の他の液体や空気等の気体であってもよい。
(3) 実施例および変更例では、下側の圧延ロールをスラスト方向に位置調節する構成としたが、上側の圧延ロールを位置調節する構成としてもよい。更に、上下の圧延ロールの夫々にスラスト調節装置を設けて、両方の圧延ロールを位置調節する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
12 下圧延ロール(圧延ロール)
56 アーム部材
58 調節機構
60 押圧部
62 調節ネジ棒
62a ネジ部
64 回動軸
66 ターンバックル
68,90 固定手段
72a ネジ孔
78,92 ナット部
80,94 固定部
82,98 第1圧力室
84,96 第2圧力室
86,100 第1通路
88,102 第2通路
X 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ロール(12)の軸心(X)を挟む両側に配置されて該圧延ロール(12)のスラスト方向に直交する回動軸(64)の夫々に揺動自在に配設され、該圧延ロール(12)に当接する押圧部(60)を備えた一対のアーム部材(56,56)と、前記一対のアーム部材(56,56)に連結され、両アーム部材(56,56)が離間する方向に伸縮することで、該アーム部材(56,56)を揺動させる調節機構(58)とを備え、前記アーム部材(56,56)の揺動により前記押圧部(60)が変位して圧延ロール(12)をスラスト方向に移動させる圧延ロールのスラスト調節装置において、
前記調節機構(58)は、
前記アーム部材(56,56)に夫々接続され、外周面にネジ部(62a)が形成された一対の調節ネジ棒(62,62)と、
前記一対のアーム部材(56,56)の離間方向に延在するネジ孔(72a)が開設され、前記一対の調節ネジ棒(62,62)がネジ孔(72a)の両側から螺挿されたターンバックル(66)と、
前記各調節ネジ棒(62)の夫々に配設された固定手段(68,68,90,90)とを備えると共に、
前記各固定手段(68,90)は、前記調節ネジ棒(62)に螺合するナット部(78,92)と、前記一対のアーム部材(56,56)の離間方向にスライド自在にナット部(78,92)に設けられた固定部(80,94)とから構成され、
前記固定部(80,94)は、前記ターンバックル(66)から離間して該ターンバックル(66)の回転を許容する解除位置と、該ターンバックル(66)に当接して該ターンバックル(66)の回転を規制する固定位置とに流体圧によって位置決めされるよう構成され、
前記固定部(80,94)を解除位置に保持したもとで、前記ターンバックル(66)を回転させることで、前記調節ネジ棒(62,62)が相互に近接または離間して前記調節機構(58)が伸縮するよう構成した
ことを特徴とする圧延ロールのスラスト調節装置。
【請求項2】
前記固定部(80,94)は、前記ナット部(78,92)に外挿され、
前記固定部(80,94)およびナット部(78,92)は、該固定部(80,94)が前記固定位置に位置した際に第1圧力室(82,98)が画成されると共に、該固定部(80,94)が前記解除位置に位置した際に第2圧力室(84,96)が画成されるよう構成され、
前記固定部(80,94)またはナット部(78,92)に、前記第1圧力室(82,98)に連通する第1通路(86,100)および前記第2圧力室(84,96)に連通する第2通路(88,102)が形成され、
前記第1通路(86,100)を介して第1圧力室(82,98)に流体を充填すると共に、前記第2通路(88,102)を介して第2圧力室(84,96)から流体を吸引することで前記固定部(80,94)が固定位置にスライドし、第1通路(86,100)を介して第1圧力室(82,98)から流体を吸引すると共に、第2通路(88,102)を介して第2圧力室(84,96)に流体を充填することで該固定部(80,94)が解除位置にスライドするよう構成した請求項1記載の圧延ロールのスラスト調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−125836(P2012−125836A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282284(P2010−282284)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)