説明

圧延材のガイド装置

【課題】簡単な構成で案内部材を圧延ロールに対し近接・離間させ得ると共に、孔型に干渉することなく案内部材を圧延ロールの軸方向に移動させ得るガイド装置を提供する。
【解決手段】ガイド装置10は、圧延材Aを案内する一対の案内部材20,22と、案内位置と退避位置とに案内部材20,22を平行移動する平行移動手段24,26とを備える。更に、ガイド装置10は、退避位置に位置した案内部材20,22を圧延ロール12,14の軸方向に移動させる軸方向移動手段28を備える。退避位置における案内部材20,22の先端部48,48は、案内部材20,22が軸方向に移動した際に圧延ロール12,14の溝部12a,12b,14a,14bに干渉しないよう設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延ロールの出口側に配設されて圧延材を案内する圧延材のガイド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、複数の孔型を有する上下一対の圧延ロールの入口側および出口側に配設され、圧延材を案内する左右一対のサイドガイドを各孔型に対応して複数組備えたガイド装置が開示されている。各サイドガイドは、圧延ロール側の端部(先端部)が孔型に臨むよう配設されており、両サイドガイドにより圧延材を左右方向から挟むように案内するようになっている。また、サイドガイドは、圧延ロールとは反対側の端部(基端部)が上下方向に延在する軸を介して揺動自在に軸支されており、サイドガイドを揺動することで該サイドガイドの両先端部の離間間隔を変更し得るよう構成されている。また、特許文献1のガイド装置は、各孔型に対応して上下に対向する上フンドおよび下フンドが配設され、圧延ロールで圧延された圧延材を上下のフンドで上下方向から案内するよう構成される。
【0003】
また、他のガイド装置の例として、特許文献2には、上下一対の圧延ロールの入口側および出口側に、上フンドおよび下フンドが上下に対向して設けられ、上フンドおよび下フンドで圧延材を上下方向から挟むようにして案内するガイド装置が開示されている。このガイド装置は、上フンドを上下方向にスライドさせる上駆動装置と、下フンドを上下方向にスライドさせる下駆動装置とを備え、上フンドおよび下フンドを上下方向にスライドさせることで、両フンドの離間間隔を変更し得るよう構成されている。更に特許文献2のガイド装置は、上フンドおよび下フンドを圧延ローラに対し近接・離間(前後)させる前後駆動装置を備えており、該前後駆動装置により上フンドおよび下フンドの圧延ローラに対する離間間隔を変更し得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−136121号公報
【特許文献2】特開平6−292919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1のガイド装置では、複数の孔型にサイドガイドや上下のフンドが1組ずつ設けられているため、部品点数が多くなって製造コストが嵩む難点がある。また特許文献2のガイド装置では、上フンドおよび下フンドをスライドさせる駆動装置として、上駆動装置、下駆動装置および前後駆動装置の3つの駆動装置を必要とするため、構造が複雑になると共にガイド措置が大型化する難点がある。その結果、装置全体の製造コストが嵩むと共に、不具合等の発生頻度が大きくなり、メンテナンス費が増大する問題がある。しかも、特許文献1,2のガイド装置は、何れも案内部材(サイドガイド、フンド)を圧延ロールの軸方向に移動させることができず、孔型に対する案内部材の軸方向への位置調整を自動で行うことができなかった。
【0006】
すなわち、本発明は、従来技術に係る圧延材のガイド装置に内在する前記問題に鑑み、これらを解決するべく提案されたものであって、簡単な構成で案内部材を圧延ロールに対し近接・離間する方向へ移動させ得ると共に、圧延ロールの溝部に干渉することなく案内部材を圧延ロールの軸方向へ移動させ得る圧延材のガイド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、本発明に係る圧延材のガイド装置は、
孔型を画成する溝部が形成された一対の圧延ロールの出口側に配設され、該圧延ロールで圧延された圧延材を案内する圧延材のガイド装置であって、
一対の圧延ロールの離間方向に対向するよう設けられ、前記圧延材の送り方向に延在して圧延材を案内する一対の案内部材と、
前記案内部材の先端部が対応する圧延ロールの溝部に臨んだ案内位置と、該案内部材の先端部が溝部から離間すると共に両案内部材が互いに近接した退避位置とに案内部材を平行移動させる平行リンク機構と、
前記平行リンク機構を作動する駆動手段と、
退避位置に位置した前記案内部材を圧延ロールの軸方向に移動させる軸方向移動手段とを備え、
退避位置における案内部材の先端部は、前記軸方向移動手段により案内部材が軸方向に移動する際に圧延ロールの溝部に干渉しないよう設定されることを要旨とする。
請求項1の発明によれば、平行リンク機構により案内部材を案内位置と退避位置とに平行移動させると共に、軸方向移動手段で案内部材を圧延ロールの軸方向へ移動させる構成としたから、退避位置に位置した案内部材を溝部に干渉することなく軸方向へ移動させることができる。従って、案内部材が圧延ロールの溝部に接触するのが防止されて、案内部材や圧延ロールが接触により疵付くのを防止し得る。また、案内部材は、平行リンク機構により平行移動されるから、案内部材を相互に近接・離間させる機構および案内部材を圧延ロールに近接・離間させる機構を別々に設ける必要がなく、構造を簡単にし得る。しかも、平行リンク機構により案内部材を平行移動させる構成とすることで、案内部材を互いに平行姿勢のまま移動させて案内位置に位置させ得るから、圧延材を直線的に案内することができる。
【0008】
請求項2に係る圧延材のガイド装置では、前記圧延ロールには、異なる径の孔型を画成する複数の溝部が該圧延ロールの軸方向に並んで形成され、退避位置における案内部材の先端部は、前記軸方向移動手段により案内部材が軸方向に移動する際に最も径の小さい孔型を画成する溝部に干渉しないよう設定されることを要旨とする。
請求項2の発明によれば、退避位置における案内部材の先端部は、最も径の小さい孔型を画成する溝部に干渉しないよう設定されるので、案内部材を圧延ロールの軸方向に移動させる際に、該案内部材が当該溝部に接触するのを防止することができる。また、案内部材は、軸方向移動手段により圧延ロールの軸方向に移動させることができるから、一対の案内部材で複数の孔型に対応することができる。従って、各孔型毎に案内部材を設ける必要がなく、部品点数を抑えることができるので、製造コストが嵩むのを防止し得る。
【0009】
請求項3に係る圧延材のガイド装置では、前記駆動手段は、エアシリンダーであることを要旨とする。
請求項3の発明によれば、駆動手段としてエアシリンダーを採用したので、油圧式のシリンダー等を採用した場合に較べ重量を抑えることができ、軸方向移動手段による圧延ロールの軸方向への移動を負荷なく実行し得る。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る圧延材のガイド装置によれば、簡単な構成で案内部材を平行移動させ得ると共に、圧延ロールの溝部に干渉することなく案内部材を圧延ロールの軸方向に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る圧延材のガイド装置を示す縦断側面図であって、図3のI−I線断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る圧延材のガイド装置を示す縦断側面図であって、図3のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線縦断面図である。
【図4】実施例に係る圧延ロールの正面図である。
【図5】実施例に係る案内部材が平行移動する状態を拡大して示す説明図である。
【図6】実施例に係る案内部材の先端部と圧延ロールの孔型との位置関係を示す説明図であって、(a)は左側の孔型に対して案内部材が案内位置にある状態を示し、(b)は左側の孔型に対して案内部材が退避位置にある状態を示し、(c)は右側の孔型に対して案内部材が退避位置にある状態を示し、(d)は右側の孔型に対して案内部材が案内位置にある状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る圧延材のガイド装置につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。なお、実施例では、断面矩形状の鋼材(平板材)を圧延材として採用した場合で説明する。また、以下の説明では、図1を基準として、ガイド装置から見て圧延ロール側を「前」、圧延ロールとは反対側を「後」とし、また、図3に示す如く、ガイド装置の後方側から見て圧延ロールの軸方向を「左」、「右」と指称する。そして、圧延材は、前側から後側へ向けて送られるものとする(図1参照)。
【実施例】
【0013】
図1,図2は、実施例に係るガイド装置10の縦断側面図、図3は、図1のIII−III線断面図であって、ガイド装置10は、上下方向に対向するよう配設された一対の圧延ロール12,14の出口側(後側)に設置されている。図4に示すように、実施例の圧延ロール12,14は、互いに僅かに離間するよう配設され、左右方向に延在する回転軸R,Rを中心に回転自在に構成される。各圧延ロール12,14には、周方向に延在する溝部12a,12b,14a,14bが左右に並んで複数(実施例では2つ)連続して形成されており、上下の圧延ロール12,14の対応する溝部12a,12b,14a,14bにより異なる径の孔型16,18が複数(実施例では2つ)画成されている。図4に示すように、各溝部12a,12b,14a,14bは左右方向に平坦な周面を有する断面台形状に形成されており、上下の圧延ロール12,14の溝部12a,12b,14a,14bにより画成される孔型16,18は、矩形状をなしている。実施例では、右側の溝部12b,14bは、左側の溝部12a,14aより浅く形成されており、右側の孔型18(最も小さい径の孔型)は、左側の孔型16よりも径が小さくなっている。
【0014】
図1〜図3に示すように、ガイド装置10は、一対の案内部材20,22と、各案内部材20,22に対応して設けられた平行移動手段24,26と、該案内部材20,22を左右方向(圧延ロール12,14の軸方向)に移動させる軸方向移動手段28とから基本的に構成される。また、ガイド装置10は、左右に分離した第1半体30aおよび第2半体30bから構成された本体部30を備え、第1半体30aおよび第2半体30bに、圧延材Aを左右方向から案内する第1サイドガイド31および第2サイドガイド33が夫々設けられている。そして、実施例では、第1半体30aに設けた第1サイドガイド31の右側部に前記案内部材20,22および平行移動手段24,26が配設されて、両第1,第2サイドガイド31,33の間に案内部材20,22および平行移動手段24,26が位置している(図3参照)。第1サイドガイド31および第2サイドガイド33には、前後方向に離間する一対のローラ設置部34,34が夫々設けられている。第1,第2サイドガイド31,33の前側のローラ設置部34,34および第1,第2サイドガイド31,33の後側のローラ設置部34,34は、夫々、左右方向に並んで対向している。各ローラ設置部34は、左右に貫通しており、各ローラ設置部34に、上下方向に延在するローラ支軸36aを介して送りローラ36が回転自在に配設されている。図3に示すように、前記送りローラ36は、その周面がローラ設置部34から対向するサイドガイド31,33側に僅かに突出しており、圧延ロール12,14で圧延された圧延材Aを左右の送りローラ36,36で挟持した状態で後方へ案内する。
【0015】
図2に示すように、前記第1半体30aには、上下に離間して一対の第1ナット設置孔35,35が左右に貫通して形成され、該第1ナット設置孔35,35に前記軸方向移動手段28の一部を構成する第1ナット部38,38が固定されている。また、第1半体30aには、第1ナット設置孔35,35の後方(図2では左方)に離間して、上下に第1挿通孔41,41が貫通形成されている。各第1挿通孔41には、後述する第2ネジ軸69が挿通されるようになっている。図1に示すように、前記第2半体30bには、上下に離間して一対の第2ナット設置孔37,37が左右に貫通して形成され、該第2ナット設置孔37,37に前記軸方向移動手段28の一部を構成する第2ナット部39,39が夫々固定されている。また、第2半体30bには、第2ナット設置孔37,37の前方(図1では左方)に離間して、上下に第2挿通孔43,43が左右に貫通して形成されている。各第2挿通孔43には、後述する第1ネジ軸68が挿通されるようになっている。
【0016】
図5に示すように、上下の案内部材20,22および平行移動手段24,26は、前後方向に延在する直線に対して線対称の関係で第1半体30aおよび第2半体30bの間に設けられており、各部材の構成は同一である。そこで、以下の説明では、主に下側の案内部材22および平行移動手段26について説明をし、上側の案内部材20および平行移動手段24については、同じ符号を付して説明を省略する場合がある。案内部材22は、平行移動手段26に支持されたガイド本体40と、該ガイド本体40に着脱自在に配設されたガイド板42とから基本的に構成され、前記第1サイドガイド31に配設した平行リンク機構56(後述)に支持されて構成される。ガイド本体40の前端側には、対向する案内部材20に対し離間する方向(下方)へ突出する前側連結部44が形成されると共に、ガイド本体40の後端側には、対向する案内部材20に対し離間する方向(下方)へ突出する後側連結部46が形成されている。図1に示すように、前記ガイド板42は、前記第1半体30aおよび第2半体30bの間から一方の端部(先端部48)が前方へ突出して下側の圧延ロール14に臨んでいる。前記ガイド板42における対向する案内部材20側の面(上面)には、前後方向(圧延材Aの送り方向)に延在して圧延材Aを摺動案内する案内面50が形成されている。また、前記案内面50における案内部材22の先端部48側には、該先端部48から後方(圧延ロール14に離間する方向)に向かうにつれて対向する案内部材20側(上側)へ傾斜した受け面部51が形成されている。
【0017】
図5に示すように、平行移動手段26は、圧縮空気によりピストンロッド52を直線運動させるエアシリンダー(駆動手段)54と、該ピストンロッド52の直線運動を平行運動に変換する平行リンク機構56とを備えている。前記エアシリンダー54は、シリンダ部58と、該シリンダ部58に伸縮自在に収容された前記ピストンロッド52とから構成される。前記シリンダ部58の後端部側は、左右方向に延在する揺動軸58aを介して前記第1サイドガイド31に軸支されており、エアシリンダー54は、第1サイドガイド31(本体部30)に対し揺動自在に配設される。なお、上下のエアシリンダー54,54は、図示しない制御手段の制御により略同一のタイミングで作動されるようになっている。
【0018】
前記平行リンク機構56は、前記エアシリンダー54の駆動力を案内部材20に伝達する主リンク体60と、案内部材22が平行移動する際に追従的に作動する従動リンク体62とから構成される。前記主リンク体60は、図5に示す如く、略への字状に形成されており、その屈曲部分が左右方向に延在する主軸部60aを介して前記第1サイドガイド31に回動自在に軸支されている。主リンク体60の一端部は、左右方向に延在する接続軸60bを介してピストンロッド52の開放端部に回動自在に接続されている。また、主リンク体60の他端部は、左右方向に延在する第1連結軸60cを介して案内部材22の前側連結部44に回動自在に接続されている。そして、主リンク体60は、ピストンロッド52が伸縮することで、前記主軸部60aを中心として回動し、案内部材22を移動させるようになっている。前記従動リンク体62は、その一端部側(後端部側)が左右方向に延在する副軸部62aを介して第1サイドガイド31に回動自在に軸支されている。また、従動リンク体62の他端部側(前端部側)は、左右方向に延在する第2連結軸62bを介して案内部材22の後側連結部46に回動自在に接続されている。そして、従動リンク体62は、案内部材22が移動した際に、副軸部62aを中心として従動的に回動して、案内部材22の移動を補助するよう構成されている。ここで、主リンク体60における主軸部60aおよび第1連結軸60cの離間距離は、従動リンク体62における副軸部62aおよび第2連結軸62bの離間距離と略一致している。また、主軸部60aおよび第1連結軸60cを結ぶ線分の延在方向は、副軸部62aおよび第2連結軸62bを結ぶ線分の延在方向と略一致している。そして、主リンク体60がエアシリンダー54により回動されると、従動リンク体62も同期的に回動して、案内部材22を平行移動させるようになっている。
【0019】
ここで、エアシリンダー54,54の非作動時では、図5の実線で示すように、ピストンロッド52,52がシリンダ部58,58内に退縮し、上下の案内部材20,22は、先端部48,48が圧延ロール12,14の溝部12a,12b,14a,14b(図5の実線は左側の溝部12a,14a)に臨んだ案内位置に位置するよう設定される。すなわち、案内位置では、下側の案内部材22については、下側の圧延ロール14の溝部14a,14bの周面に先端部48が当接し、上側の案内部材20については、上側の圧延ロール12の溝部12a,12bの周面に先端部48が当接する。また、案内位置では、上下の案内部材20,22の先端部48,48が圧延ロール12,14の孔型16,18の奥側(前側)に位置するようになる。このため、圧延時に圧延ロール12,14の周面に圧着した圧延材Aを、案内部材20,22の受け面部51,51で受け止めて、圧延材Aを圧延ロール12,14の周面から剥離するようになっている。
【0020】
ここで、上下の案内部材20,22の案内位置は、圧延ロール12,14の孔型16,18(溝部12a,12b,14a,14b)に応じて相違している。すなわち、図5の実線および図6(a)に示すように、左側の孔型16に対する案内位置では、案内部材20,22の先端部48,48が前側(奥側)に臨んで左側の溝部12a,14aに当接すると共に、両先端部48,48の離間距離が大きくなる。一方、右側の孔型18に対する案内位置では、図5の破線および図6(d)に示すように、左側の孔型16に対する案内位置に較べ、案内部材20,22の先端部48,48が若干後側(手前側)に位置して、右側の溝部12b,14bに当接すると共に、両先端部48,48の離間距離も小さくなる。なお、案内部材20,22の先端部48,48の位置は、ガイド板42,42の延在長さを変えることで変更することも可能である。すなわち、圧延ロール12,14の径や圧延材Aのサイズ・性状に応じて、案内部材20,22の先端部48,48が最適な位置に位置するよう延在長さの異なるガイド板42,42(案内部材20,22)が選択的に用いられる。
【0021】
図5の二点鎖線で示すように、エアシリンダー54,54の作動時では、ピストンロッド52,52がシリンダ部58,58から伸張し、案内部材20,22は、先端部48,48が圧延ロール12,14の溝部12a,12b,14a,14bから離間すると共に、案内部材20,22同士が近接した退避位置に位置するよう構成される。すなわち、下側の案内部材22は、先端部48が下側の圧延ロール14の溝部14a,14bから後方および上方に離間すると共に、上側の案内部材20は、先端部48が上側の圧延ロール12の溝部12a,12bから後方および下方に離間するよう移動する。この退避位置では、図5に示すように、案内部材20,22の先端部48,48が最も径の小さい孔型18(実施例では右側の孔型18)の溝部12b,14bに対し、側面視で外側に位置するよう設定される(すなわち、先端部48,48が右側の溝部12b,14bの周面に重ならない)。これにより、前記軸方向移動手段28によって案内部材20,22が圧延ロール12,14の軸方向に移動する際に、案内部材20,22の先端部48,48が何れの孔型16,18(溝部12a,12b,14a,14b)にも干渉しないようになっている。なお、案内部材20,22の退避位置は、孔型16,18の種類の拘わらず一定である。
【0022】
図1〜図3に示すように、前記軸方向移動手段28は、前記第1半体30aの駆動源をなす第1駆動モータ64と、前記第2半体30bの駆動源をなす第2駆動モータ65と、第1駆動モータ64に回転される一対の第1駆動軸66,66と、第2駆動モータ65に回転される一対の第2駆動軸67,67と、前記第1,第2ナット部38,38,39,39と、各第1ナット部38,38に螺挿された上下一対の第1ネジ軸68,68と、各第2ナット部39,39に螺挿された上下一対の第2ネジ軸69,69とを備える。前記第1駆動軸66,66は、第1駆動モータ64から上方または下方に導出する軸材であって、各第1駆動軸66,66の開放端部に、第1ベベルギヤ70,70が設けられている。両第1駆動軸66,66は、第1駆動モータ64により同時に回転されるようになっている。なお、第1駆動モータ64は、前記制御手段により制御される。前記第1ネジ軸68,68は、左右方向に延在すると共に外周面にネジが螺設されており、各第1ネジ軸68,68の一端に前記第1ベベルギヤ70,70に噛合した第2ベベルギヤ72,72が設けられている。上側の第1ネジ軸68は、上側の第1ナット部38に螺挿されると共に、第2半体30bの上側の第2挿通孔43に回転自在に挿通されている。図1,図2に示すように、下側の第1ネジ軸68は、下側の第1ナット部38に螺挿されると共に、第2半体30bの下側の第2挿通孔43に回転自在に挿通されている。そして、第1ネジ軸68,68は、第1駆動軸66,66と共に回転されて、第1ナット部38,38(第1半体30a)を左右方向(圧延ロール12,14の軸方向)へ移動させるようになっている。すなわち、上下の第1ネジ軸68,68が一方向に回転すると、第1半体30aが右方向へ移動し、また、上下の第1ネジ軸68,68が他方向に回転すると、第1半体30aが左方向へ移動するよう構成される。
【0023】
前記第2駆動軸67,67は、第2駆動モータ65から上方または下方に導出する軸材であって、各第2駆動軸67,67の開放端部に、第3ベベルギヤ73が設けられている(図3に下側の第3ベベルギヤ73のみ図示)。両第2駆動軸67,67は、第2駆動モータ65により同時に回転されるようになっている。なお、第2駆動モータ65は、第1駆動モータ64と同じく、前記制御手段により制御される。前記第2ネジ軸69,69は、左右方向に延在すると共に外周面にネジが螺設されており、各第2ネジ軸69,69の一端に前記第3ベベルギヤ73,73に噛合した第4ベベルギヤ74が設けられている(図3に下側の第4ベベルギヤ74のみ図示)。図1,図2に示すように、上側の第2ネジ軸69は、上側の第2ナット部39に螺挿されると共に、第1半体30aの上側の第1挿通孔41に回転自在に挿通されている。下側の第2ネジ軸69は、下側の第2ナット部39に螺挿されると共に、第1半体30aの下側の第1挿通孔41に回転自在に挿通されている(図3参照)。そして、第2ネジ軸69,69は、第2駆動軸67,67と共に回転されて、第2ナット部39,39(第2半体30b)を左右方向(圧延ロール12,14の軸方向)へ移動させるようになっている。すなわち、上下の第2ネジ軸69,69が一方向に回転すると、第2半体30bが右方向へ移動し、また、上下の第2ネジ軸69,69が他方向に回転すると、第2半体30bが左方向へ移動するよう構成される。
【0024】
すなわち、案内部材20,24を右方に移動させる際には、制御手段が第1駆動モータ64および第2駆動モータ65を同時に駆動して、第1ネジ軸68,68および第2ネジ軸69,69を一方向に回転させる。これにより、第1半体30aおよび第2半体30bが右方へ等速度で移動して、案内部材20,22を移動させるようになっている。一方、案内部材20,22を左方に移動させる際には、制御手段が第1駆動モータ64および第2駆動モータを逆回転させて、第1ネジ軸68,68および第2ネジ軸69,69を他方向に回転させる。これにより、第1半体30aおよび第2半体30bが右方へ等速度で移動して、案内部材20,22を移動させるようになっている。なお、第1駆動モータ64および第2駆動モータ65を互いに反対方向へ回転させることで、第1半体30aおよび第2半体30bの相対距離を変更することができ、第1サイドガイド31および第2サイドガイド33の左右方向の間隙調整を行い得るようになっている。
【0025】
(実施例の作用)
次に、実施例に係るガイド装置10の作用について以下説明する。なお、ガイド装置10は、予め左側の孔型16に対してセットされ、図6(a)に示すように、案内部材20,22が案内位置に位置しているものとする。左側の孔型16による圧延が開始されると、圧延材Aが圧延ロール12,14を通過する間に圧延されて、孔型16,18の出口側(後側)から排出される。ここで、圧延ロール12,14による圧力によって圧延材Aが下側の圧延ロール14の周面に圧着した場合、圧延材Aの端部が圧延ロール14の周面に沿って湾曲される(図5参照)。しかしながら、案内位置の案内部材20,22は、先端部48,48が圧延ロール12,14の左側の溝部12a,14aに当接した状態で孔型16に臨むから、下側の圧延ロール14の周面に圧着した圧延材Aの端部が案内部材22の受け面部51で受け止められる。これにより、圧延材Aが圧延ロール14から剥離して、案内部材20,22の案内面50,50に沿って後方へ案内される。しかも、案内部材20,22は、案内面50,50が常に平行姿勢となるよう保持されているから、圧延材Aを真っ直ぐ後方へ送ることができる。更に、圧延材Aは、左右方向から送りローラ36,36に挟持された状態で案内されるから、圧延材Aは、左右方向に対してもズレることがなく、安定的に後方へ送られる。
【0026】
次に、ガイド装置10で案内する孔型16,18を変更する場合には、先ず始めに、案内部材20,22を案内位置から退避位置に移動させる。すなわち、上下のエアシリンダー54,54が同時に作動して、ピストンロッド52,52を伸張させる。これにより、主リンク体60,60が主軸部60a,60aを中心として回動する。また、主リンク体60,60に従動して従動リンク体62,62が副軸部62a,62aを中心として回動し、案内部材20,22が平行移動を開始する。すなわち、図5に示すように、下側の案内部材22については、先端部48が上側後方へ弧状に移動すると共に、上側の案内部材20については、先端部48が下側後方へ弧状に移動して、両案内部材20,22は互いに近接する。そして、案内部材20,22が退避位置に位置すると、エアシリンダー54,54が作動停止して、案内部材20,22が退避位置に保持される。このとき、図6(b)に示すように、案内部材20,22の先端部48,48は、圧延ロール12,14の左側の溝部12a,14aから後方に離間する。更に、図5の2点鎖線で示すように、案内部材20,22の先端部48,48は、圧延ロール12,14の右側の溝部12b,14bに対しても、側面視において外側(干渉しない位置)に退避している。
【0027】
次に、上下の案内部材20,22を退避位置に保持した状態で、制御手段が軸方向移動手段28を作動させ、本体部30(第1,第2半体30a,30b)を圧延ロール12,14に対し右方へ移動させる。すなわち、第1,第2駆動モータ64,65が駆動して、上下の第1駆動軸66,66および第2駆動軸67,67が同時に回転される。これにより、上下の第1ネジ軸68,68および第2ネジ軸69,69が同時に一方向へ回転されて、第1半体30aおよび第2半体30bが等速度で右方へ移動する。このとき、前述のように、案内部材20,22の先端部48,48は、圧延ロール12,14の右側の溝部12b,14bに干渉しないよう位置しているから、図6(b),(c)に示すように、案内部材20,22が右方へ移動する間に、先端部48,48が右側の溝部12b,14b(孔型18)に接触することはない。従って、案内部材20,22が圧延ロール12,14に接触することで両部材12,14,20,22が疵付いたり、破損したりするのを回避し得る。ここで、実施例では、平行リンク機構56を駆動させる駆動手段としてエアシリンダー54を採用している。従って、油圧式のシリンダー等に較べて重量を抑えることができるから、本体部30全体の重量が軽くなって、軸方向移動手段28によって本体部30をスムーズに移動させることができる。
【0028】
図6(c)に示すように、案内部材20,22が右側の孔型18の前方に位置すると、制御手段が第1,第2駆動モータ64,65を停止させて、本体部30(第1,第2半体30a,30b)の移動を停止させる。次に、制御手段は平行移動手段24,26を作動させて、案内部材20,22を退避位置から案内位置へ平行移動させる。すなわち、上下のエアシリンダー54,54が同時に作動して、ピストンロッド52,52を縮退させ、主リンク体60,60を回動させる。主リンク体60,60が回動することで、従動リンク体62,62が従動的に回動し、案内部材20,22が平行移動する。すなわち、下側の案内部材22は、先端部48を前側下方へ円弧状に移動させると共に、上側の案内部材20は、先端部48を前側上方へ円弧状に移動させ、両案内部材20,22は互いに離間する。そして、案内部材20,22が案内位置に位置すると、上下のエアシリンダー54,54が同時に停止して、案内部材20,22の平行移動が停止される。右側の孔型18(右側の溝部12b,14b)に対する案内位置では、図5の破線および図6(d)に示すように、案内部材20,22の先端部48,48は、右側の溝部12b,14bに当接した位置に保持される。従って、右側の孔型18による圧延が行われた場合にも、案内部材20,22の受け面部51,51で圧延材Aを確実に受け止めることができ、圧延材Aが湾曲するのを防止することができる。しかも、上下の案内部材20,22は、常に平行姿勢に保持されるから、圧延材Aを真っ直ぐ後方へ送ることが可能となる。
【0029】
このように、実施例に係るガイド装置10では、平行リンク機構56,56により案内部材20,22を圧延ロール12,14に対して近接・離間させ得るから、案内部材20,22を前後方向および上下方向に移動させる機構を別々に設けた場合に較べて構造がコンパクトとなり、製造コストを抑えることができる。また、構造がシンプルになることで、ガイド装置10に不具合が発生し難くなり、メンテナンス費を抑制することが可能となる。また、実施例に係るガイド装置10は、軸方向移動手段28により案内部材20,22を圧延ロール12,14の軸方向に移動させることができるから、圧延を行う孔型16,18が変更された場合にも即座に対応することができ、作業者の負担を軽減し得る。
【0030】
なお、前述した実施例のガイド装置は、以下に示す如く種々の変更が可能である。
(1) 実施例では、径の異なる孔型を複数画成する圧延ロールに対してガイド装置を用いた場合を示したが、単一の孔型(溝部)を有する圧延ロールに対して、本発明に係るガイド装置を用いることが可能である。この場合、案内部材を圧延ロールの軸方向に移動させて当該孔型に対する案内部材の相対位置を変更する際に、案内部材を退避位置に移動させることで、案内部材が孔型(溝部)に干渉するのを防止するよう構成される。すなわち、退避位置での案内部材の先端部は、案内部材を圧延ロールの軸方向に移動させる際に、孔型に干渉しない位置に設定される。このように、単一の孔型に対して圧延ロールの軸方向に案内部材を移動させることで、圧延ロールの溝部に当接する案内部材の位置を変更することができる。従って、溝部の一定の箇所に案内部材が当接するのを回避して、溝部が摩耗するのを抑制し得る。
(2) 実施例では、上下の圧延ロールに2つの溝部を夫々形成したが、圧延ロールに3つ以上の溝部を形成してもよい。また、実施例では、圧延ロールの溝部は、左右方向(軸方向)に平坦な周面を有する断面台形状としたが、半円弧形状の溝部により所謂オーバル孔型を画成する圧延ロールに対して本発明のガイド装置を用いることも可能である。
(3) 実施例では、圧延ロールに複数の溝部を連続的に形成したが、溝部同士を所定間離間させて形成してもよい。この場合、退避位置における案内部材の先端部は、圧延ロールの軸方向に移動する際、圧延ロールにおける溝部間の周面に干渉しないよう位置させればよい。
(4) 実施例では、左右方向(水平方向)の軸を回転軸とする圧延ロールに対してガイド装置を用いたが、上下方向に延在する回転軸や水平面に対し所定角度傾斜した回転軸を有する圧延ロールに対し、本発明のガイド装置を用いることができる。例えば、上下方向の回転軸を有する圧延ロールに対しては、一対の案内部材を左右方向(圧延ロールが対向する方向)に配設し、平行移動手段により両案内部材を水平面上で平行移動させる構成とされる。また、軸方向移動手段は、案内部材を上下方向に移動させる構成とすればよい。
(5) 実施例で説明した平行移動手段や軸方向移動手段は、一例を示したものであり、同じ機能を奏する構成であれば、他の構成を採用してもよい。
(6) なお、実施例で示したガイド装置を圧延ロールの入口側にも配設して、圧延材を入口側および出口側の双方から案内することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
12 圧延ロール(上),12a 溝部(左),12b 溝部(右),14 圧延ロール(下)
14a 溝部(左),14b 溝部(右),16 孔型(左),18 孔型(右),
20 案内部材(上), 22 案内部材(下),28 軸方向移動手段,48 先端部
54 エアシリンダー(駆動手段),60 主リンク体(平行リンク機構)
62 従動リンク体(平行リンク機構),A 圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔型(16,18)を画成する溝部(12a,12b,14a,14b)が形成された一対の圧延ロール(12,14)の出口側に配設され、該圧延ロール(12,14)で圧延された圧延材(A)を案内する圧延材のガイド装置であって、
一対の圧延ロール(12,14)の離間方向に対向するよう設けられ、前記圧延材(A)の送り方向に延在して圧延材(A)を案内する一対の案内部材(20,22)と、
前記案内部材(20,22)の先端部(48,48)が対応する圧延ロール(12,14)の溝部(12a,12b,14a,14b)に臨んだ案内位置と、該案内部材(20,22)の先端部(48,48)が溝部(12a,12b,14a,14b)から離間すると共に両案内部材(20,22)が互いに近接した退避位置とに案内部材(20,22)を平行移動させる平行リンク機構(60,62)と、
前記平行リンク機構(60,62)を作動する駆動手段(54)と、
退避位置に位置した前記案内部材(20,22)を圧延ロール(12,14)の軸方向に移動させる軸方向移動手段(28)とを備え、
退避位置における案内部材(20,22)の先端部(48,48)は、前記軸方向移動手段(28)により案内部材(20,22)が軸方向に移動する際に圧延ロール(12,14)の溝部(12a,12b,14a,14b)に干渉しないよう設定される
ことを特徴とする圧延材のガイド装置。
【請求項2】
前記圧延ロール(12,14)には、異なる径の孔型(16,18)を画成する複数の溝部(12a,12b,14a,14b)が該圧延ロール(12,14)の軸方向に並んで形成され、退避位置における案内部材(20,22)の先端部(48,48)は、前記軸方向移動手段(28)により案内部材(20,22)が軸方向に移動する際に最も径の小さい孔型(18)を画成する溝部(12b,14b)に干渉しないよう設定される請求項1記載の圧延材のガイド装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、エアシリンダー(54)である請求項1または2記載の圧延材のガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86128(P2013−86128A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228551(P2011−228551)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)