説明

圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置

【課題】圧縮自己着火式エンジンを自動停止させる際に、停止時圧縮行程気筒のピストンを高い精度で下死点寄りに停止させることにより、エンジンを再始動させる際に、1圧縮始動で迅速に再始動させる。
【解決手段】エンジンを自動停止させる際に、全気筒におけるエンジン停止直前の最後の上死点である最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)から最終TDCまでが吸気行程である停止時圧縮行程気筒2Cに対する吸気流量が、最終TDCの2つ前の上死点(3TDC)から最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)までが吸気行程である停止時膨張行程気筒2Aに対する吸気流量よりも増大するように、吸気絞り弁の開度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内に噴射された燃料を自己着火により燃焼させる圧縮自己着火式エンジンに設けられ、所定の自動停止条件が成立したときに上記エンジンを自動停止させるとともに、その後所定の再始動条件が成立したときに、スタータモータを用いて上記エンジンに回転力を付与しつつ、エンジン停止時に圧縮行程にある停止時圧縮行程気筒に対して燃料噴射を実行することにより、上記エンジンを再始動させる圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンに代表される圧縮自己着火式エンジンは、一般に、ガソリンエンジンのような火花点火式エンジンよりも熱効率に優れ、排出されるCOの量も少ないことから、近年、車載用エンジンとして広く普及しつつある。
【0003】
上記のような圧縮自己着火式エンジンにおいて、より一層のCOの削減を図るには、アイドル運転時等にエンジンを自動的に停止させ、その後車両の発進操作等が行われたときにエンジンを自動的に再始動させる、いわゆるアイドルストップ制御の技術を採用することが有効であり、そのことに関する種々の研究もなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、所定の自動停止条件が成立したときにディーゼルエンジンを自動的に停止させ、所定の再始動条件が成立すると、スタータモータを駆動してエンジンに回転力を付与しつつ燃料噴射を実行してディーゼルエンジンを再始動させるディーゼルエンジンの制御装置が開示されている。そして、エンジンの停止時(停止完了時)に圧縮行程にある気筒(停止時圧縮行程気筒)のピストン停止位置に基づき、最初に燃料を噴射する気筒を可変的に設定することが記載されている。
【0005】
より具体的には、ディーゼルエンジンが自動停止されると、その時点で圧縮行程にある停止時圧縮行程気筒のピストン位置を求め、そのピストン位置が相対的に下死点寄りに予め設定された基準停止位置範囲内にあるか否かを判定し、基準停止位置範囲内にあるときには、エンジンを再始動させる際に、上記停止時圧縮行程気筒に最初に燃料を噴射する一方、基準停止位置範囲よりも上死点側にあるときには、エンジン全体として1つ目の上死点を越えて、停止時吸気行程気筒(エンジンの停止時に吸気行程にある気筒)が圧縮行程を迎えたときに、該気筒に最初に燃料を噴射するようにしている。
【0006】
このような構成によれば、停止時圧縮行程気筒のピストンが上記基準停止位置範囲内にあるときには、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射することにより、その燃料を確実に自己着火させることができ、比較的短時間でエンジンを迅速に再始動させることができる(これを便宜上「1圧縮始動」という)。一方、停止時圧縮行程気筒のピストンが上記基準停止位置範囲から上死点側に外れているときには、そのピストンによる圧縮ストローク量(圧縮代)が少なく気筒内の空気が十分に高温化しないことから、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射しても失火が起きるおそれがある。そこで、このような場合には、停止時圧縮行程気筒ではなく停止時吸気行程気筒に燃料を噴射することにより、筒内の空気を十分に圧縮して確実に燃料を自己着火させることができる(これを便宜上「2圧縮始動」という)。
【0007】
また、エンジンの自動停止制御に関しては、例えば特許文献2には、エンジンの自動停止制御の前半期間では吸気弁の開弁を抑制することにより、気筒内への新気の導入を抑制して、筒内温度の低下を抑制し、エンジン再始動時のグロー通電を抑制し得るディーゼルエンジンが開示されている。なお、エンジンの自動停止制御の後半期間では吸気弁が開弁されて、気筒内に新気が導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−062960号公報(段落0048)
【特許文献2】特開2009−222002号公報(段落0047)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、停止時圧縮行程気筒のピストンが基準停止位置範囲内にあるときには速やかにエンジンを再始動できるものの、上記基準停止位置範囲から上死点側に外れてしまった場合には、停止時吸気行程気筒に燃料を噴射する必要があるため、停止時吸気行程気筒のピストンが圧縮上死点付近に到達するまでは(つまりエンジン全体として2つ目の上死点を迎えるまでは)、燃料噴射に基づく自己着火を行わせることができず、再始動時間(スタータモータの駆動開始から完爆までの時間)が長くなってしまうという問題がある。
【0010】
そこで、再始動時間の短縮化に寄与する1圧縮始動を安定して実現するためには、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置を安定して下死点寄りに停止させる必要がある。そのための技術として、例えば、従来の火花点火式エンジンの自動停止制御で行われているように、オルタネータの吸収トルク(発電量)を調節することにより、エンジンの自動停止制御中の各気筒の上死点通過回転数を制御し、結果として所望のピストン停止位置を実現することが提案される。しかし、圧縮自己着火式エンジンは、一般に回転系の慣性重量が大きいため、オルタネータを緻密に制御して、ピストン停止位置を狙いの停止位置に精度よく収束させることが困難である。特に、手動変速機(MT)を搭載している車両では、デュアルマスフライホイール(DMF)が組み込まれることが多いので、回転系の慣性重量がより一層大きくなり、オルタネータの制御でピストン停止位置を狙いの停止位置に収めることはなおさら困難となる。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、圧縮自己着火式エンジンを自動停止させる際に、停止時圧縮行程気筒のピストンを高い精度で下死点寄りに停止させることにより、エンジンを再始動させる際に、停止時圧縮行程気筒に噴射した燃料を確実に自己着火させ、エンジンを1圧縮始動で迅速に再始動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、気筒内に噴射された燃料を自己着火により燃焼させる圧縮自己着火式エンジンに設けられ、所定の自動停止条件が成立したときに上記エンジンを自動停止させるとともに、その後所定の再始動条件が成立したときに、エンジンの停止時に圧縮行程にある停止時圧縮行程気筒のピストンの停止位置が相対的に下死点寄りに設定された基準停止位置範囲内にある場合は、スタータモータを用いて上記エンジンに回転力を付与しつつ、上記停止時圧縮行程気筒に燃料噴射を実行することにより、上記エンジンを再始動させる圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置であって、気筒内への吸気流量を調整する吸気流量調整手段と、エンジンを自動停止させる際に、全気筒におけるエンジン停止直前の最後の上死点である最終上死点(便宜上「最終TDC」という)の1つ前の上死点(同じく「2TDC」という)から上記最終TDCまでが吸気行程である気筒に対する吸気流量が、上記最終TDCの2つ前の上死点(同じく「3TDC」という)から上記最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)までが吸気行程である他の気筒に対する吸気流量よりも増大するように、上記吸気流量調整手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである(請求項1)。
【0013】
上記構成において、2TDCから最終TDCまでが吸気行程である気筒は、最終TDC以後に圧縮工程を迎える停止時圧縮行程気筒であり、3TDCから2TDCまでが吸気行程である他の気筒は、上記停止時圧縮行程気筒よりも1行程先行する停止時膨張行程気筒(エンジンの停止時に膨張行程にある気筒)である。したがって、本発明によれば、圧縮自己着火式エンジンが自動停止する直前に、停止時圧縮行程気筒内への筒内吸気量が停止時膨張行程気筒内への筒内吸気量よりも多くなる。これにより、エンジンが停止したときには、停止時圧縮行程気筒の圧縮反力(圧縮された空気の正圧による反力)が相対的に大きくなり、停止時膨張行程気筒の膨張反力(膨張した空気の負圧による反力)が相対的に小さくなる。そのため、停止時圧縮行程気筒のピストンの停止位置が自ずと下死点寄りとなり、停止時膨張行程気筒のピストンの停止位置が自ずと上死点寄りとなる。結果として、停止時圧縮行程気筒のピストンを高い精度で下死点寄りに停止させることができ、圧縮自己着火式エンジンを安定して1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。
【0014】
本発明において、好ましくは、上記吸気流量調整手段は、吸気通路に設けられた吸気絞り弁であり、上記制御手段は、上記最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)の近傍までは、上記吸気絞り弁の開度を吸気流量が第1の吸気流量となる開度とし、上記最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)の近傍を過ぎると、上記吸気絞り弁の開度を吸気流量が上記第1の吸気流量よりも多い第2の吸気流量となる開度とする(請求項2)。
【0015】
この構成によれば、吸気絞り弁の開度を制御することにより、安定、確実に、停止時圧縮行程気筒内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒内への筒内吸気量よりも多くすることができ、停止時圧縮行程気筒のピストンを高い精度で下死点寄りに停止させることができる。しかも、吸気絞り弁はもともとエンジンに備えられることが多い部材であるから、当該始動制御装置の構成が複雑化することもない。また、2TDCの近傍までのエンジン自動停止制御の大部分の期間は吸気流量が相対的に少ないので、圧縮反力が相対的に小さくなり、エンジン自動停止制御中におけるNVH(ノイズ(騒音)・バイブレーション(振動)・ハーシュネス(乗り心地))が良好となる。さらに、2TDCの近傍までのエンジン自動停止制御の大部分の期間は新気導入が相対的に少ないので、筒内冷却が抑制され、再始動時の燃料自己着火性が確保される。
【0016】
なお、2TDCの近傍とは、2TDCよりも所定時間前の時点から2TDCよりも所定時間後の時点までの範囲をいう。このように規定した理由は、2TDCで吸気絞り弁の開度を切り替える場合のみならず、2TDCよりも所定時間前の時点で吸気絞り弁の開度を切り替える場合、及び2TDCよりも所定時間後の時点で吸気絞り弁の開度を切り替える場合においても、停止時圧縮行程気筒内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒内への筒内吸気量よりも多くすることができるからである。
【0017】
本発明において、好ましくは、上記吸気流量調整手段は、吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を変更する可変バルブ機構であり、上記制御手段は、上記最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)の近傍までは、上記吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を吸気流量が第1の吸気流量となる値とし、上記最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)の近傍を過ぎると、上記吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を吸気流量が上記第1の吸気流量よりも多い第2の吸気流量となる値とする(請求項3)。
【0018】
この構成によれば、可変バルブ機構を介して吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を制御することにより、安定、確実に、停止時圧縮行程気筒内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒内への筒内吸気量よりも多くすることができ、停止時圧縮行程気筒のピストンを高い精度で下死点寄りに停止させることができる。しかも、可変バルブ機構はもともとエンジンに備えられることが多い部材であるから、当該始動制御装置の構成が複雑化することもない。また、2TDCの近傍までのエンジン自動停止制御の大部分の期間は吸気流量が相対的に少ないので、圧縮反力が相対的に小さくなり、エンジン自動停止制御中におけるNVH(ノイズ(騒音)・バイブレーション(振動)・ハーシュネス(乗り心地))が良好となる。さらに、2TDCの近傍までのエンジン自動停止制御の大部分の期間は新気導入が相対的に少ないので、筒内冷却が抑制され、再始動時の燃料自己着火性が確保される。
【0019】
なお、2TDCの近傍とは、2TDCよりも所定時間前の時点から2TDCよりも所定時間後の時点までの範囲をいう。このように規定した理由は、2TDCで吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を切り替える場合のみならず、2TDCよりも所定時間前の時点で吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を切り替える場合、及び2TDCよりも所定時間後の時点で吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を切り替える場合においても、停止時圧縮行程気筒内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒内への筒内吸気量よりも多くすることができるからである。
【0020】
本発明において、好ましくは、上記制御手段は、上記最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)の近傍までは、上記吸気弁を下死点前に閉じ、上記最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)の近傍を過ぎると、上記吸気弁を下死点後に閉じる(請求項4)。
【0021】
この構成によれば、吸気弁の閉弁(IVC)タイミングを変更することにより、簡単、確実に、停止時圧縮行程気筒内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒内への筒内吸気量よりも多くすることができ、停止時圧縮行程気筒のピストンを高い精度で下死点寄りに停止させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、圧縮自己着火式エンジンを自動停止させる際に、停止時圧縮行程気筒のピストンを高い精度で下死点寄りに停止させることができ、その結果、エンジンを再始動させる際に、停止時圧縮行程気筒に噴射した燃料を確実に自己着火させることができ、エンジンを1圧縮始動で迅速に再始動させることができる。そのため、エンジンの再始動に長い時間がかかるという違和感が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る始動制御装置が適用されたディーゼルエンジンの全体構成を示すシステム構成図である。
【図2】上記エンジンの自動停止制御時における各状態量の変化を示すタイムチャートである。
【図3】上記自動停止制御の作用を示すための、(a)エンジンの自動停止直前における各気筒内の状態を示す図、(b)エンジンの自動停止後における各気筒のピストン位置を示す図である。
【図4】最終上死点(TDC)通過時のエンジン回転数と停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置との関係を示すグラフである。
【図5】上記エンジンの自動停止制御の具体的動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】上記エンジンの再始動制御の具体的動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る始動制御装置が適用されたディーゼルエンジンの全体構成を示すシステム構成図である。本図に示されるディーゼルエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、いわゆる直列4気筒型のものであり、紙面に直交する方向に列状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dにそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
【0025】
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、後述する燃料噴射弁15から噴射される燃料(軽油)が供給される。そして、噴射された燃料が、ピストン5の圧縮作用により高温・高圧化した燃焼室6で自着火し(圧縮自己着火)、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動するようになっている。
【0026】
上記ピストン5は図外のコネクティングロッドを介してクランクシャフト7と連結されており、上記ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて上記クランクシャフト7が中心軸回りに回転するようになっている。
【0027】
ここで、図示のような4サイクル4気筒のディーゼルエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、各気筒2A〜2Dでの燃焼(燃料噴射)のタイミングは、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、気筒2A,2B,2C,2Dの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる(図2参照)。
【0028】
上記シリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、各ポート9,10を開閉可能に閉止する吸気弁11および排気弁12とが設けられている。なお、吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト等を含む動弁機構13,14により、クランクシャフト7の回転に連動して開閉駆動される。吸気弁11の動弁機構13には、吸気弁11のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を変更する可変バルブ機構13aが備えられている。この可変バルブ機構13aは、気筒内への吸気流量を調整する点で、本発明に係る吸気流量調整手段に相当する。
【0029】
また、上記シリンダヘッド4には、燃料噴射弁15が各気筒2A〜2Dにつき1つずつ設けられている。各燃料噴射弁15は、蓄圧室としてのコモンレール20と分岐管21を介してそれぞれ接続されている。コモンレール20には、燃料供給ポンプ23から燃料供給管22を通じて供給された燃料(軽油)が高圧状態で蓄えられており、このコモンレール20内で高圧化された燃料が分岐管21を通じて各燃料噴射弁15にそれぞれ供給されるようになっている。
【0030】
各燃料噴射弁15は、複数の噴孔を有する噴射ノズルが先端部に設けられた電磁式のニードル弁からなり、その内部に、上記噴射ノズルに通じる燃料通路と、電磁力により作動して上記燃料通路を開閉するニードル状の弁体とを有している(いずれも図示省略)。そして、通電による電磁力で上記弁体が開方向に駆動されることにより、コモンレール20から供給された燃料が上記噴射ノズルの各噴孔から燃焼室6に向けて直接噴射されるようになっている。
【0031】
上記シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
【0032】
また、上記シリンダブロック3には、クランクシャフト7の回転角度および回転速度を検出するためのクランク角センサSW2が設けられている。このクランク角センサSW2は、クランクシャフト7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力する。
【0033】
具体的に、上記クランクプレート25の外周部には、一定ピッチで並ぶ多数の歯が突設されており、その外周部における所定範囲には、基準位置を特定するための歯欠け部25a(歯の存在しない部分)が形成されている。そして、このように基準位置に歯欠け部25aを有したクランクプレート25が回転し、それに基づくパルス信号が上記クランク角センサSW2から出力されることにより、クランクシャフト7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
【0034】
一方、上記シリンダヘッド4には、動弁用のカムシャフト(図示省略)の角度を検出するためのカム角センサSW3が設けられている。カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じて、気筒判別用のパルス信号を出力するものである。
【0035】
すなわち、上記クランク角センサSW2から出力されるパルス信号の中には、上述した歯欠け部25aに対応して360°CAごとに生成される無信号部分が含まれるが、その情報だけでは、例えばピストン5が上昇しているときに、それがどの気筒の圧縮行程または排気行程にあたるのか判別することができない。そこで、720°CAごとに1回転するカムシャフトの回転に基づきカム角センサSW3からパルス信号を出力させ、その信号が出力されるタイミングと、上記クランク角センサSW2の無信号部分のタイミング(歯欠け部25aの通過タイミング)とに基づいて、気筒判別を行うようにしている。
【0036】
上記吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された排気ガス(燃焼ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
【0037】
上記吸気通路28のうち、エンジン本体1から所定距離上流側までの範囲は、気筒2A〜2Dごとに分岐した分岐通路部28aとされており、各分岐通路部28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに接続されている。このサージタンク28bよりも上流側には、単一の通路からなる共通通路部28cが設けられている。
【0038】
上記共通通路部28cには、各気筒2A〜2Dに流入する空気量(吸気流量)を調節するための吸気絞り弁30が設けられている。吸気絞り弁30は、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路28を遮断するように構成されている。この吸気絞り弁30は、気筒内への吸気流量を調整する点で、本発明に係る吸気流量調整手段に相当する。
【0039】
上記サージタンク28bには、吸気圧力を検出するための吸気圧センサSW4が設けられており、上記サージタンク28bと吸気絞り弁30との間の共通通路部28cには、吸気流量を検出するためのエアフローセンサSW5が設けられている。
【0040】
上記クランクシャフト7には、タイミングベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルの電流を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる発電量の目標値(目標発電電流)に基づき、クランクシャフト7から駆動力を得て発電を行うように構成されている。
【0041】
上記シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。上記ピニオンギア34bは、クランクシャフト7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、上記スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動して上記リングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランクシャフト7が回転駆動されるようになっている。
【0042】
(2)制御システム
以上のように構成されたエンジンは、その各部がECU(電子制御ユニット)50により統括的に制御される。ECU50は、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されたマイクロプロセッサであり、本発明に係る制御手段に相当する。
【0043】
上記ECU50には、各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU50は、エンジンの各部に設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、吸気圧センサSW4、およびエアフローセンサSW5と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW5からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別、吸気圧力、吸気流量等の種々の情報を取得する。
【0044】
また、ECU50には、車両に設けられた各種センサ(SW6〜SW9)からの情報も入力される。すなわち、車両には、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル36の開度を検出するためのアクセル開度センサSW6と、ブレーキペダル37のON/OFF(ブレーキの有無)を検出するためのブレーキセンサSW7と、車両の走行速度(車速)を検出するための車速センサSW8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するためのバッテリセンサSW9とが設けられている。ECU50は、これら各センサSW6〜SW9からの入力信号に基づいて、アクセル開度、ブレーキの有無、車速、バッテリの残容量といった情報を取得する。
【0045】
上記ECU50は、上記各センサSW1〜SW9からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。具体的に、ECU50は、上記燃料噴射弁15、吸気絞り弁30、オルタネータ32、スタータモータ34、および吸気弁11の動弁機構13に備えられた可変バルブ機構13aと電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
【0046】
上記ECU50が有するより具体的な機能について説明する。ECU50は、例えばエンジンの通常運転時に、運転条件に基づき定められる所要量の燃料を燃料噴射弁15から噴射させたり、車両の電気負荷やバッテリの残容量等に基づき定められる所要発電量をオルタネータ32に発電させる等の基本的な機能を有する他、予め定められた特定の条件下でエンジンを自動的に停止させ、または再始動させる機能をも有している。このため、ECU50は、エンジンの自動停止または再始動制御に関する機能的要素として、自動停止制御部51および再始動制御部52を有している。
【0047】
上記自動停止制御部51は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
【0048】
例えば、車両が停止状態にあること等の複数の条件が揃い、エンジンを停止させても支障のない状態であることが確認された場合に、自動停止条件が成立したと判定する。そして、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止(燃料カット)する等により、エンジンを停止させる。
【0049】
上記再始動制御部52は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを再始動させる制御を実行するものである。
【0050】
例えば、車両を発進させるために運転者がアクセルペダル36を踏み込むなどして、エンジンを始動させる必要が生じたときに、再始動条件が成立したと判定する。そして、スタータモータ34を駆動してクランクシャフト7に回転力を付与しつつ、燃料噴射弁15からの燃料噴射を再開させることにより、エンジンを再始動させる。
【0051】
(3)自動停止制御
次に、上記ECU50の自動停止制御部51により実行されるエンジンの自動停止制御の内容をより具体的に説明する。図2は、エンジンの自動停止制御時における各状態量の変化を示すタイムチャートである。本図では、エンジンの自動停止条件が成立した時点をt1としている。
【0052】
図2に示すように、エンジンの自動停止制御の際には、まず、自動停止条件の成立時点t1で、吸気絞り弁30の開度が全閉(0%)に設定される。そして、開度を全閉にしたまま、時点t2で、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する制御(燃料カット)が実行される。
【0053】
次いで、燃料カットの実行後、エンジン回転数が徐々に低下する途上で、4つの気筒2A〜2Dのいずれかのピストン5が上死点(TDC)を通過するときのエンジン回転速度(上死点回転速度)が所定範囲内にまで低下した時点t4で、吸気絞り弁30の開度が30%に設定される。なお、この時点t4でのエンジン回転速度は極低速であるため、吸気絞り弁30の開度30%は、吸気絞り弁30の略全開に相当する(つまり、吸気絞り弁30の開度を30%まで開けば、全開時と同程度の新気が流入する)。また、上記所定範囲は、全気筒2A〜2Dにおけるエンジン停止直前の最後の上死点である最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)を通過するときのエンジン回転速度の範囲として予め実験的に求められたものである。つまり、上記時点t4は、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)(ii)を迎えた時点である。なお、時点t4よりも前の時点t3は、最終TDCの2つ前の上死点(3TDC)(iii)を迎えた時点を示す。
【0054】
その後、時点t5で最終TDC(i)を迎えた後は、エンジンは、一時的にピストンの揺れ戻しにより逆回転するも、一度も上死点を越えることなく、時点t6で完全停止状態に至る。
【0055】
このような制御を実行するのは、エンジンが完全停止したときに圧縮行程にある気筒、すなわち停止時圧縮行程気筒(図2では3番気筒2C)のピストン停止位置を高い精度で基準停止位置範囲内に収めるためである。この基準停止位置範囲は、例えば相対的に下死点(BDC)寄りの圧縮上死点前83°CA〜180°CAの範囲等に予め定められたものである。停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がこのような下死点寄りの位置に停止していれば、エンジンの再始動時に、上記停止時圧縮行程気筒2Cに最初の(エンジン全体として最初の)燃料を噴射することにより、エンジンを1圧縮始動で迅速かつ確実に再始動させることができる。つまり、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が上記基準停止位置範囲内にあれば、気筒2C内に比較的多くの空気が存在するため、エンジン再始動時のピストン5の上昇に伴い、ピストン5による圧縮ストローク量(圧縮代)が多くなり、気筒2C内の空気は十分に圧縮されて高温化する。このため、再始動時の最初の燃料を停止時圧縮行程気筒2C内に噴射すると、この燃料は気筒2C内で確実に自着火して燃焼するのである。
【0056】
これに対し、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が基準停止位置範囲から上死点側に外れていると、ピストン5による圧縮ストローク量が少なくなり、気筒2C内の空気が十分に高温化しないことから、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射しても失火が起きるおそれがある。そこで、このような場合には、停止時圧縮行程気筒2Cではなく停止時吸気行程気筒(エンジンが完全停止したときに吸気行程にある気筒:図2では4番気筒2D)に燃料を噴射することにより、筒内2Dの空気を十分に圧縮して確実に燃料を自己着火させる(2圧縮始動)。
【0057】
このように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が基準停止位置範囲内にあるときにはエンジンを1圧縮始動で速やかに再始動できるものの、基準停止位置範囲から上死点側に外れてしまったときには、2圧縮始動で停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射する必要があるため、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が圧縮上死点付近に到達するまでは(つまりエンジン全体として2つ目の上死点を迎えるまでは)、燃料噴射に基づく自己着火を行わせることができず、再始動時間(本実施形態では、スタータモータ34の始動時点から、エンジン回転速度が750rpmになるまでの時間をいう)が長くなってしまう。
【0058】
この点、上記制御によれば、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)(ii)までは(時点t4までは)、吸気絞り弁30の開度が0%とされ、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)(ii)を過ぎると(時点t4を過ぎると)、吸気絞り弁30の開度が30%とされる。これにより、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)(ii)から最終TDC(i)までが(時点t4〜t5)吸気行程である停止時圧縮行程気筒2Cに対する吸気流量(第2の吸気流量)が、最終TDCの2つ前の上死点(3TDC)(iii)から最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)(ii)までが(時点t3〜t4)吸気行程である停止時膨張行程気筒(エンジンが完全停止したときに膨張行程にある気筒:図2では1番気筒2A)に対する吸気流量(第1の吸気流量)よりも増大する。
【0059】
つまり、図3(a)に示すように、エンジンが自動停止する直前に、停止時圧縮行程気筒2C内への筒内吸気量が停止時膨張行程気筒2A内への筒内吸気量よりも多くなる。したがって、図3(b)に示すように、エンジンが停止したときには、停止時圧縮行程気筒2Cの圧縮反力(圧縮された空気の正圧による反力)が相対的に大きくなり、停止時膨張行程気筒2Aの膨張反力(膨張した空気の負圧による反力)が相対的に小さくなる。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の停止位置が自ずと下死点寄りとなり、停止時膨張行程気筒2Aのピストン5の停止位置が自ずと上死点寄りとなる。結果として、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を高い精度で下死点寄りに停止させることができ、圧縮自己着火式エンジンを安定して1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。
【0060】
図4は、エンジンの自動停止制御において、上記時点t4で吸気絞り弁30の開度を30%に開いた場合(◆マーク)と、上記時点t4を過ぎても吸気絞り弁30の開度を0%に閉じた場合(○マーク)とで、最終TDC(i)を迎えたとき(時点t5)のエンジン回転速度(最終TDC通過回転速度)と、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置との関係がどのように変わるかを示すグラフである。
【0061】
このグラフから明らかなように、2TDC(ii)を迎えた時点t4で吸気絞り弁30の開度を30%に開くと(◆マーク)、最終TDC通過回転速度に関係なく、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5は、安定して下死点寄りに停止する。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が基準停止位置範囲(例えば圧縮上死点前83°CA〜180°CAの範囲等)内に安定して収まり、迅速始動性に優れる1圧縮始動が高い確率で可能となる。
【0062】
これに対し、2TDC(ii)を迎えた時点t4を過ぎても吸気絞り弁30の開度を0%に閉じておくと(○マーク)、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置は、最終TDC通過回転速度に大きく依存し、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5は、高い頻度で上死点寄りにも停止する。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が基準停止位置範囲よりも上始点側に外れる可能性が大きくなり、迅速始動性に劣る2圧縮始動を高い確率で行わなければならなくなる。
【0063】
次に、以上のようなエンジン自動停止制御を司るECU50の自動停止制御部51の具体的制御動作の一例について、図5のフローチャートを用いて説明する。図5のフローチャートに示す処理がスタートすると、自動停止制御部51は、各種センサ値を読み込む(ステップS1)。具体的には、水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、吸気圧センサSW4、エアフローセンサSW5、アクセル開度センサSW6、ブレーキセンサSW7、車速センサSW8、およびバッテリセンサSW9からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別、吸気圧力、吸気流量、アクセル開度、ブレーキの有無、車速、バッテリの残容量等の各種情報を取得する。
【0064】
次いで、自動停止制御部51は、上記ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、車両が停止していること(車速=0km/h)、アクセルペダル36の開度がゼロ(アクセルOFF)であること、ブレーキペダル37が操作中(ブレーキON)であること、エンジンの冷却水温が所定値以上(温間状態)にあること、バッテリの残容量が所定値以上であること、等の複数の条件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する(時点t1)。なお、車速については、必ずしも完全停止(車速=0km/h)を条件とする必要はなく、所定の低車速以下(例えば3km/以下)という条件を設定してもよい。
【0065】
上記ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部51は、吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定する(ステップS3)。すなわち、図2のタイムチャートに示すように、上記自動停止条件が成立した時点t1で、吸気絞り弁30の開度を、アイドル運転時に設定される所定の開度(図例では30%)から、全閉(0%)まで低下させる。
【0066】
次いで、自動停止制御部51は、燃料噴射弁15を常に閉状態に維持することにより、燃料噴射弁15からの燃料の供給を停止する(ステップS4)。図2に示すタイムチャートでは、時点t2で、上記燃料供給の停止(燃料カット)が実行される。
【0067】
次いで、自動停止制御部51は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかのピストン5が上死点を迎えたときのエンジン回転速度(上死点回転速度)の値が、予め定められた所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS5)。なお、図2に示すように、エンジン回転数は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかが圧縮上死点を迎える度に一時的に落ち込み、圧縮上死点を越えた後に再び上昇するというアップダウンを繰り返しながら徐々に低下していく。よって、上死点回転速度は、エンジン回転数のアップダウンの谷のタイミングにおける回転速度として測定することができる。
【0068】
上記ステップS5での上死点回転速度に関する判定は、エンジン停止直前の最後の上死点(最終TDC)の1つ前の上死点(2TDC)の通過タイミング(図2の時点t4)を特定するために行われる。すなわち、エンジンが自動停止する過程で、エンジン回転数の低下の仕方には一定の規則性があるため、上死点の通過時にそのときの回転速度(上死点回転速度)を調べれば、それが最終TDCの何回前の上死点にあたるのかを推定することができる。そこで、上死点回転速度を常時測定し、それが予め設定された所定範囲、すなわち、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)を通過するときの回転速度の範囲として実験等により予め求められた範囲の内に入るか否かを判定することにより、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)の通過タイミングを特定する。
【0069】
上記ステップS5でYESと判定されて、現時点が2TDCの通過タイミングであることが確認された場合、自動停止制御部51は、吸気絞り弁30の開度を30%まで開く(ステップS6)。これにより、2TDCから最終TDCまでが(時点t4〜t5)吸気行程である停止時圧縮行程気筒2Cに対する吸気流量(第2の吸気流量)が、3TDCから2TDCまでが(時点t3〜t4)吸気行程である停止時膨張行程気筒2Aに対する吸気流量(第1の吸気流量)よりも増大する。
【0070】
その後、自動停止制御部51は、エンジン回転速度が0rpmであるか否かを判定することにより、エンジンが完全停止したか否かを判定する(ステップS7)。そして、エンジンが完全停止していれば、自動停止制御部51は、例えば、吸気絞り弁30の開度を、通常運転時に設定される所定の開度(例えば80%等)に設定する等して、この自動停止制御はエンドとなる。エンジン停止後は、停止時圧縮行程気筒2Cの圧縮反力が、停止時膨張行程気筒2Aの膨張反力よりも大きいことにより、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が自ずと下死点寄りとなり、高い精度で基準停止位置範囲(例えば圧縮上死点前83°CA〜180°CAの範囲等)内に収まる。
【0071】
(4)再始動制御
次に、エンジン再始動制御を司るECU50の再始動制御部52の具体的制御動作の一例について、図6のフローチャートを用いて説明する。
【0072】
図6のフローチャートに示す処理がスタートすると、再始動制御部52は、各種センサ値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS21)。例えば、車両発進のためにアクセルペダル36が踏み込まれたこと(アクセルON)、バッテリの残容量が低下したこと、エンジンの冷却水温が所定値未満(冷間状態)になったこと、エンジンの停止継続時間(自動停止後の経過時間)が所定時間を越えたこと、等の条件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。
【0073】
上記ステップS21でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部52は、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が上記基準停止位置範囲(例えば圧縮上死点前83°CA〜180°CAの範囲等)内にあるか否かを判定する(ステップS22)。
【0074】
ここで、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置は、上述した自動停止制御の作用により、ほとんどの場合において、上記基準停止位置範囲内に収まっているはずである。ただし、何らかの原因で、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が上記基準停止位置範囲から上死点側に外れるケースもあり得る。そこで、念のために上記ステップS22の判定を行っている。
【0075】
上記ステップS22でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が基準停止位置範囲内にあることが確認された場合、再始動制御部52は、停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射してエンジンを再始動させる制御(1圧縮始動)を実行する(ステップS23)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランクシャフト7に回転力を付与しつつ、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として1つ目の上死点を迎えた時点から燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。
【0076】
一方、可能性としては少ないが、上記ステップS22でNOと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が基準停止位置範囲から外れていることが確認された場合、再始動制御部52は、停止時吸気行程気筒2Dに最初の燃料を噴射してエンジンを再始動させる制御(2圧縮始動)を実行する(ステップS24)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランクシャフト7に回転力を付与しつつ、エンジン全体として1つ目の上死点を越えて、停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程を迎えたときに、停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として2つ目の上死点を迎えた時点から燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。
【0077】
(5)作用効果
以上説明したように、本実施形態に係るディーゼルエンジン(圧縮自己着火式エンジン)の始動制御装置は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立したときに、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の停止位置が相対的に下死点寄りに設定された基準停止位置範囲内にある場合は、スタータモータ34を用いてエンジンに回転力を付与しつつ、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射することにより、エンジンを再始動させる制御手段50を備えている。制御手段50は、エンジンを自動停止させる際に、全気筒2A〜2Dにおけるエンジン停止直前の最後の上死点である最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)から最終TDCまでが吸気行程である停止時圧縮行程気筒2Cに対する吸気流量(第2の吸気流量)が、最終TDCの2つ前の上死点(3TDC)から2TDCまでが吸気行程である停止時膨張行程気筒2Aに対する吸気流量(第1の吸気流量)よりも増大するように、吸気絞り弁30の開度を制御する。
【0078】
エンジンが自動停止する直前に、停止時圧縮行程気筒2C内への筒内吸気量が停止時膨張行程気筒2A内への筒内吸気量よりも多くなることにより、エンジンが停止したときには、停止時圧縮行程気筒2Cの圧縮反力が相対的に大きくなり、停止時膨張行程気筒2Aの膨張反力が相対的に小さくなるため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の停止位置が自ずと下死点寄りとなり、停止時膨張行程気筒2Aのピストン5の停止位置が自ずと上死点寄りとなる。その結果、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を高い精度で下死点寄りに停止させることができ、エンジンを安定して1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。
【0079】
本実施形態では、制御手段50は、自動停止制御中、2TDC(時点t4)までは、吸気絞り弁30の開度を第1の吸気流量となる開度(0%)とし、2TDC(時点t4)を過ぎると、吸気絞り弁30の開度を第1の吸気流量よりも多い第2の吸気流量となる開度(30%)とする。
【0080】
吸気絞り弁30の開度を制御することにより、安定、確実に、停止時圧縮行程気筒2C内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒2A内への筒内吸気量よりも多くすることができ、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を高い精度で下死点寄りに停止させることができる。しかも、吸気絞り弁30はもともとエンジンに備えられていた部材であるから、当該始動制御装置の構成が複雑化することもない。また、2TDC(時点t4)までの自動停止制御の大部分の期間は、吸気絞り弁30の開度が0%で、吸気流量が相対的に少ないので、圧縮反力が相対的に小さくなり、自動停止制御中におけるNVHが良好となる。さらに、2TDC(時点t4)までの自動停止制御の大部分の期間は、吸気絞り弁30の開度が0%で、新気導入が相対的に少ないので、筒内冷却が抑制され、再始動時の燃料自己着火性が確保される。
【0081】
(6)他の実施形態
上記実施形態では、吸気流量調整手段として、吸気絞り弁30を用いたが、これに代えて、吸気弁11の可変バルブ機構13aを用いてもよい。その場合、制御手段50は、自動停止制御中、2TDC(時点t4)までは、吸気弁11のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を第1の吸気流量となるリフト量(相対的に小さいリフト量)及び開閉タイミング(吸気弁11の開弁期間が相対的に短くなる開閉タイミング)の少なくとも一方とし、2TDC(時点t4)を過ぎると、吸気弁11のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を第1の吸気流量よりも多い第2の吸気流量となるリフト量(相対的に大きいリフト量)及び開閉タイミング(吸気弁11の開弁期間が相対的に長くなる開閉タイミング)の少なくとも一方とする。
【0082】
可変バルブ機構13aを介して吸気弁11のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を制御することにより、安定、確実に、停止時圧縮行程気筒2C内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒2A内への筒内吸気量よりも多くすることができ、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を高い精度で下死点寄りに停止させることができる。しかも、可変バルブ機構13aはもともとエンジンに備えられていた部材であるから、当該始動制御装置の構成が複雑化することもない。また、2TDC(時点t4)までの自動停止制御の大部分の期間は、吸気弁11のリフト量が相対的に小及び吸気弁11の開弁期間が相対的に短の少なくとも一方で、吸気流量が相対的に少ないので、圧縮反力が相対的に小さくなり、自動停止制御中におけるNVHが良好となる。さらに、2TDC(時点t4)までの自動停止制御の大部分の期間は、吸気弁11のリフト量が相対的に小及びは吸気弁11の開弁期間が相対的に短の少なくとも一方で、新気導入が相対的に少ないので、筒内冷却が抑制され、再始動時の燃料自己着火性が確保される。
【0083】
吸気流量調整手段として吸気弁11の可変バルブ機構13aを用いる場合、制御手段50は、例えば、自動停止制御中、2TDC(時点t4)までは、吸気弁11を吸気下死点前に早閉じし、2TDC(時点t4)を過ぎると、吸気弁11を吸気下死点後に遅閉じする。こうすれば、吸気弁11の閉弁(IVC)タイミングを変更することにより、簡単、確実に、停止時圧縮行程気筒2C内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒2A内への筒内吸気量よりも多くすることができ、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を高い精度で下死点寄りに停止させることができる。
【0084】
なお、以上の実施形態では、吸気絞り弁30の開度を切り替える時期や、吸気弁11のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を切り替える時期を、2TDC(時点t4)としたが、これに限らず、停止時圧縮行程気筒2C内への筒内吸気量を停止時膨張行程気筒2A内への筒内吸気量よりも多くすることができる限り、2TDCよりも所定時間前の時点で吸気絞り弁30の開度を切り替えたり、2TDCよりも所定時間前の時点で吸気弁11のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を切り替えてもよく、また、2TDCよりも所定時間後の時点で吸気絞り弁30の開度を切り替えたり、2TDCよりも所定時間後の時点で吸気弁11のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を切り替えてもよい。つまり、吸気絞り弁30の開度を切り替える時期や、吸気弁11のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を切り替える時期を、2TDCの近傍としてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、自動停止条件の成立時点t1で吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定し、その後、ある程度の吸気圧力の低下が見られる時点t2で、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行するようにしたが、吸気絞り弁30を全閉にするのと同じ時点t1で燃料カットを実行してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、圧縮自己着火式エンジンの一例としてディーゼルエンジン(軽油を自己着火により燃焼させるエンジン)を用い、ディーゼルエンジンに本発明に係る自動停止・再始動制御を適用した例を説明したが、圧縮自己着火式エンジンであれば、ディーゼルエンジンに限定されない。例えば、最近では、ガソリンを含む燃料を高圧縮比で圧縮して自己着火させる(HCCI:Homogeneous−Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)タイプのエンジンが研究、開発されているが、このような圧縮自己着火式のガソリンエンジンに対しても、本発明に係る自動停止・再始動制御は好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
2A 停止時膨張行程気筒
2C 停止時圧縮行程気筒
2D 停止時吸気行程気筒
5 ピストン
13a 可変バルブ機構(吸気流量調整手段)
15 燃料噴射弁
30 吸気絞り弁(吸気流量調整手段)
34 スタータモータ
50 ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に噴射された燃料を自己着火により燃焼させる圧縮自己着火式エンジンに設けられ、所定の自動停止条件が成立したときに上記エンジンを自動停止させるとともに、その後所定の再始動条件が成立したときに、エンジンの停止時に圧縮行程にある停止時圧縮行程気筒のピストンの停止位置が相対的に下死点寄りに設定された基準停止位置範囲内にある場合は、スタータモータを用いて上記エンジンに回転力を付与しつつ、上記停止時圧縮行程気筒に燃料噴射を実行することにより、上記エンジンを再始動させる圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置であって、
気筒内への吸気流量を調整する吸気流量調整手段と、
エンジンを自動停止させる際に、全気筒におけるエンジン停止直前の最後の上死点である最終上死点の1つ前の上死点から上記最終上死点までが吸気行程である気筒に対する吸気流量が、上記最終上死点の2つ前の上死点から上記最終上死点の1つ前の上死点までが吸気行程である他の気筒に対する吸気流量よりも増大するように、上記吸気流量調整手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置において、
上記吸気流量調整手段は、吸気通路に設けられた吸気絞り弁であり、
上記制御手段は、上記最終上死点の1つ前の上死点の近傍までは、上記吸気絞り弁の開度を吸気流量が第1の吸気流量となる開度とし、上記最終上死点の1つ前の上死点の近傍を過ぎると、上記吸気絞り弁の開度を吸気流量が上記第1の吸気流量よりも多い第2の吸気流量となる開度とすることを特徴とする圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置において、
上記吸気流量調整手段は、吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を変更する可変バルブ機構であり、
上記制御手段は、上記最終上死点の1つ前の上死点の近傍までは、上記吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を吸気流量が第1の吸気流量となる値とし、上記最終上死点の1つ前の上死点の近傍を過ぎると、上記吸気弁のリフト量及び開閉タイミングの少なくとも一方を吸気流量が上記第1の吸気流量よりも多い第2の吸気流量となる値とすることを特徴とする圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置において、
上記制御手段は、上記最終上死点の1つ前の上死点の近傍までは、上記吸気弁を下死点前に閉じ、上記最終上死点の1つ前の上死点の近傍を過ぎると、上記吸気弁を下死点後に閉じることを特徴とする圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−72280(P2013−72280A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209446(P2011−209446)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】