説明

圧電アクチュエータおよび連結型圧電アクチュエータ

【課題】複数の圧電アクチュエータを連結して接着した際に接着面に発生する引張応力を緩和できる圧電アクチュエータおよび連結型圧電アクチュエータを提供する。
【解決手段】積層方向に沿って直列に連結して用いられる積層型の圧電アクチュエータ100であって、分極された圧電層111と内部電極117とが交互に積層されて形成された活性層110と、活性層110の積層方向両端に設けられ、未分極の圧電層121で形成された保護層120と、を備え、内部電極117のうち、保護層付近の内部電極117bは、中央に孔180を有する。これにより、電圧印加時の変位に対して両端面130が平坦になり、圧電アクチュエータ100を連結して用いる場合、接着により保護層120と活性層110との界面に上乗せして生じる引張応力を緩和できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層方向に沿って直列に連結して用いられる積層型の圧電アクチュエータおよび連結型圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
積層型圧電アクチュエータは、圧電体と内部電極とが交互に積層され、電圧印加により変形する活性層と活性層に接し電圧印加により変形しない保護層とを備え、従来、電圧印加時に内部電極付近において応力が発生することが知られている。この応力は積層型圧電アクチュエータの耐久性に悪影響を与えるため、保護層との界面に近い活性層を幾層か、変位の小さいものに変更し、応力を緩和する技術が提案されている(たとえば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1記載の電歪効果素子は、電歪効果層と、これとほぼ同じ接触面積を有する内部電極とを交互に積層し、その両端の内部電極にこれとほぼ同じ接触面積の電歪材料から成る保護層を接触させ、内部電極によって電歪効果層に電界を印加するものである。そして、中央部の電歪効果層の厚さを最小にし、保護層に近い電歪材料層ほど層厚を大きくした電歪効果素子が開示されている。これにより剪断応力の集中を緩和し、寿命信頼性を高くしようとしている。
【0004】
特許文献2記載の積層型圧電アクチュエータは、実際に伸縮する積層体と、その積層方向の両端面に設けられ、伸縮しないセラミック体とを有している。そして、積層体中央部の両側に形成された応力緩和部における複数の圧電体について、単位長さあたりの発生応力をセラミック体側に向けて徐々に低下させて全体として分散するよう設計している。このようにして、積層体と、セラミック体との間における応力を緩和している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−10596号公報
【特許文献2】特許第3881484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来技術では、保護層と活性層との界面に発生する応力を緩和している。図5(a)は、電圧を印加されていない従来の圧電アクチュエータ500の側面図である。図5(b)は、電圧を印加された従来の圧電アクチュエータ500の側面図である。圧電アクチュエータ500は、活性層510および保護層520を有しており、図5(b)に示すように、圧電アクチュエータ500内の界面Aに応力が生じている。
【0007】
しかし、ポジショナ等の圧電アクチュエータを連結して構成される製品は、圧電アクチュエータ同士が端面で接着されており、接着により、保護層520と活性層510との界面に従来の応力にさらに応力を上乗せされて大きな応力が生じる。図6(a)は、従来の圧電アクチュエータ500を接着せずに積み重ねたと仮定した場合の変位図であり、図6(b)は、圧電アクチュエータ500を接着して連結した従来の連結型圧電アクチュエータ600の変位図である。
【0008】
圧電アクチュエータ500同士が接着されていない場合、図6(a)に示すように、それぞれの圧電アクチュエータ500が鼓状に変位する。この状態では、各端面530は、弧を描いて自由に変位できる。しかし、実際の圧電アクチュエータ500は接着されて連結型圧電アクチュエータ600として使用され、図6(b)に示すように、接着面610を平行に保ちながら変位する。
【0009】
図6(b)に示す従来の連結型圧電アクチュエータ600の状態は、接着がなされていない場合に弧を描いて自由に変位できたそれぞれの端面530が、接着面610として平行に拘束され変形を妨げられており、圧電アクチュエータ500同士がお互いに引張合っている。この状態では、保護層520と活性層510の界面において、圧電アクチュエータ500が単独で変位する際に発生する応力に加え、更に上乗せされて引張応力が発生する。
【0010】
上記の従来技術では、圧電アクチュエータ内の保護層と活性層の界面に発生する応力を緩和しているが、複数の圧電アクチュエータを連結して接着した際に、保護層と活性層との界面に上乗せして発生する引張応力までは緩和できない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、複数の圧電アクチュエータを連結して接着した際に保護層と活性層の界面に上乗せして発生する引張応力を緩和できる圧電アクチュエータおよび連結型圧電アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電アクチュエータは、積層方向に沿って直列に連結して用いられる積層型の圧電アクチュエータであって、分極された圧電層と内部電極とが交互に積層されて形成された活性層と、前記活性層の積層方向両端に設けられ、未分極の圧電層で形成された保護層と、を備え、前記内部電極のうち、前記保護層付近の内部電極は、中央に孔を有することを特徴としている。
【0013】
このように、本願発明の圧電アクチュエータは、保護層付近の内部電極が中央に孔を有するため、圧電アクチュエータが駆動により鼓状に変位しようとするとき、端面の変形を平坦にし、圧電アクチュエータ同士の接着面を平行に保ちながら変位させることができ、引張応力を緩和することができる。このように電圧印加時の変位に対して両端面が平坦になるため、圧電アクチュエータを連結して用いる場合、保護層と活性層との界面に上乗せして生じる引張応力を緩和できる。
【0014】
(2)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記内部電極の孔が、円形であることを特徴としている。これにより、内部電極の孔の一部に応力が集中するのを避けることができる。
【0015】
(3)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記保護層に最も近い内部電極から、1より大きく全数の1/10より小さい層数目までの内部電極が、中央に孔を有することを特徴としている。このように、1より大きい層数目までの内部電極まで孔を有することで、引張応力を緩和する効果を維持できる。また、全数の1/10以下となる内部電極まで孔を有することで、圧電アクチュエータ本来の駆動性を損なうことなく応力を緩和できる。
【0016】
(4)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記内部電極の孔が、前記内部電極の大きさの1/3より大きく、前記内部電極の大きさより小さいことを特徴としている。これにより、圧電アクチュエータの伸縮の駆動性を維持しつつ、十分に応力を緩和できる。
【0017】
(5)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記内部電極の孔が、前記保護層に近い内部電極ほど大きいことを特徴としている。これにより、応力を段階的に緩和することが可能となるため、伸縮方向について急激な応力の変化が無くなり、破壊確率を減少させることができる。
【0018】
(6)また、本発明の連結型圧電アクチュエータは、前記積層方向の端面同士を接着することで、上記の圧電アクチュエータを直列に複数連結して形成されていることを特徴としている。これにより、連結型圧電アクチュエータは、各圧電アクチュエータの保護層と活性層との界面に上乗せして生じる引張応力を緩和できる。その結果、不良品率を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、連結された圧電アクチュエータの接着面を平行に保ちながら変位させることができ、引張応力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)〜(c)それぞれ本発明に係る圧電アクチュエータを示す側断面図、平断面図、平断面図である。
【図2】(a)、(b)それぞれ本発明係る圧電アクチュエータの電圧未印加状態、電圧印加状態を示す側面図である。
【図3】本発明に係る連結型圧電アクチュエータを示す側面図である。
【図4】(a)、(b)それぞれ従来の圧電アクチュエータ、本発明の圧電アクチュエータを示す概略図である。
【図5】(a)、(b)いずれも従来の圧電アクチュエータを示す側面図である。
【図6】(a)、(b)いずれも従来の圧電アクチュエータを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
(圧電アクチュエータの構成)
図1(a)〜(c)は、それぞれ圧電アクチュエータ100を示す側断面図、平断面図、平断面図である。圧電アクチュエータ100は、積層型の圧電アクチュエータ100であり積層方向に沿って直列に連結して用いられる。直列の連結とは、主に伸縮する方向に連結することをいう。圧電アクチュエータ100が連結されて形成された連結型圧電アクチュエータ200については後述する。
【0023】
圧電アクチュエータ100は、活性層110および保護層120により構成されている。活性層110は、分極された圧電層111と内部電極117とが交互に積層されて形成されており、電圧の印加により変形する。内部電極117のうち、保護層120付近の内部電極117bは、中央に孔118を有しており、保護層120から離れ中心付近の内部電極117aは、一様に形成され孔が無い。保護層120は、活性層110の積層方向両端に設けられ、未分極の圧電層121で形成されている。
【0024】
上記のように、圧電アクチュエータ100は、保護層120付近の内部電極117bが中央に孔118を有し、電圧印加時の変位の際に内部電極117の両端面130が均等に平坦になる。そして、圧電アクチュエータ100が駆動により鼓状に変位しようとするとき、端面130の変形を平坦にし、圧電アクチュエータ100同士の接着面210を平行に保ちながら変位させることができ、引張応力を緩和できる。このようにして、圧電アクチュエータ100を連結している接着面210により生じる引張応力を緩和できる。
【0025】
内部電極117bの孔118は、円形であることが好ましい。これにより、内部電極117bの孔の一部に応力が集中するのを避けることができる。また、六角形、八角形など円に近い偶数角形も好ましい。なお、四角形の孔でも応力緩和が見込めるが角部に応力が集中するため、円形の孔の方が応力緩和に優れている。ただし、四角形のような角が立った形状でも、積層方向に垂直な断面における内部電極117bの断面外形に相似した形であれば、顕著な応力緩和を見込める。
【0026】
孔118を有する内部電極117bは複数設けられていることが好ましい。特に、保護層120に最も近い内部電極117bから、1より大きく全数の1/10より小さい層数目までの内部電極117bが、中央に孔118を有することが好ましい。このように、1より大きい層数目までの内部電極117bまで孔118を有することで、引張応力を緩和する効果を維持できる。また、全数の1/10以下となる内部電極117bまで孔118を有することで、圧電アクチュエータ100本来の駆動性を損なうことなく応力を緩和できる。
【0027】
内部電極117bの孔118は、内部電極117bの大きさの1/3より大きく、内部電極117bの大きさより小さいことが好ましい。孔118の大きさを内部電極の一辺の長さ程度とすると発生力が大きく低下しうる。また、孔118の長さを一辺の長さの1/3以下としてしまうと、応力緩和の効果が薄くなる。孔118を内部電極117bの大きさの1/3より大きく、内部電極117bの大きさより小さくすることで、圧電アクチュエータ100の伸縮の駆動性を維持しつつ、十分に引張応力を緩和できる。
【0028】
内部電極117bの大きさとは、内部電極117bの外形が長方形である場合には、長手の一辺の長さ、円形である場合には直径の長さを指す。また、孔118の大きさは、孔118の形状が長方形のときには長手の一辺の長さを指し、円のときは直径の長さを指す。特に、内部電極117bの外形が正方形で、孔118が円のときには、孔118の直径は、内部電極117bの外形の一辺の長さの1/2程度が好ましい。
【0029】
たとえば、圧電アクチュエータ100の断面形状が縦6mm×横6mmである場合には、孔118の直径として3.0mmを設定することができる。直径3.0mm程度の孔であれば、スクリーン印刷による作製も容易であり、十分な変位が見込める。
【0030】
また、孔118を、活性層110の中央側に向けて、たとえば、1層目の大きさ>2層目の大きさ>3層目の大きさとなるように、保護層120側から圧電アクチュエータ100の中央側に行くに連れて段階的に小さくすることもできる。すなわち、内部電極117bの孔118は、保護層120に近いほど大きい。このような構成により、応力の緩和量を伸縮方向に対して段階的に変化させるよう設計することが可能である。その結果、急激な応力の変化を防止でき、破壊確率を減少させることができる。
【0031】
(圧電アクチュエータの製造方法)
まず、圧電セラミックスのグリーンシートを準備する。そして、AgやAg/Pd等の電極ペーストをスクリーン印刷する。その際に、形状を調整したスクリーンを用いて円形等の孔の形状を避けながら印刷する。そして、得られたシートを設計に応じて積層、圧着し、焼成する。さらに内部電極に接続された外部電極を形成し、分極処理を行うことで圧電アクチュエータ100を得ることができる。
【0032】
(圧電アクチュエータの動作)
図2(a)、(b)は、それぞれ圧電アクチュエータ100の電圧未印加状態、電圧印加状態を示す側面図である。図2(a)に示すように、圧電アクチュエータ100は、電圧を印加していない状態では、矩形である。圧電アクチュエータ100に電圧を印加すると、圧電アクチュエータ100は伸縮する。図2(b)に示すように、圧電アクチュエータ100が積層方向に伸びるように変位したとき、保護層120付近の内部電極117bに孔118があるため、伸縮方向に垂直な断面の中央の変位が小さくなる。したがって、圧電アクチュエータ100は、幅が小さくなり長さが大きくなって外形が鼓状に変形するが、その端面130は平坦なまま維持される。
【0033】
(連結型圧電アクチュエータ)
図3は、連結型圧電アクチュエータ200を示す側面図である。連結型圧電アクチュエータ200は、積層方向の端面130同士を接着することで、圧電アクチュエータ100を直列に複数連結して形成されている。これにより、連結型圧電アクチュエータ200は、各圧電アクチュエータ100の保護層120と活性層110との界面に生じる引張応力を緩和できる。その結果、不良品率を低減することができる。このような連結型圧電アクチュエータ200は、ポジショナ等に用いられる。
【0034】
(対比)
上記のように構成される連結型圧電アクチュエータ200と従来の連結型アクチュエータ600との引張応力について対比説明する。図4(a)、(b)は、それぞれ従来の圧電アクチュエータ500、本発明の圧電アクチュエータ100を示す概略図である。図4(a)に示すように、仮に従来の連結型圧電アクチュエータ600を構成する個々の圧電アクチュエータ500が接着されていないとすれば、大きく鼓状に変形する。したがって、これらを端面で接着し連結した場合には伸縮の変形により大きな引張応力が発生する。
【0035】
これに対し、図4(b)に示すように、仮に連結型圧電アクチュエータ200を構成する個々の圧電アクチュエータ100が接着されていないとしても、変形は限定的であり、特に両端面は平坦に維持される。したがって、これらを端面で接着し連結した場合であっても伸縮の変形により生じる引張応力は小さい。このように、保護層付近の内部電極を全面形成した従来の圧電アクチュエータ500と比較し、本発明の圧電アクチュエータ100は、変形時に両端面が平坦になった分、変位による引張応力を緩和できる。
【0036】
(シミュレーション)
また2つの圧電アクチュエータ100を積層方向に連結して接着した連結型圧電アクチュエータ200についてFEM解析を行った。保護層120付近の3層の内部電極117bに直径3.0mmの円形の孔118を形成し、変位時に保護層120と活性層110の界面における引張応力を算出した。また、従来構造として、同じ寸法で内部電極が円形の孔を有さない2つの圧電アクチュエータ500を積層方向に連結して接着した連結型圧電アクチュエータ600についてもFEM解析を行った。その結果、連結型圧電アクチュエータ200に生じる応力は、従来構造に生じる応力の2/3へ緩和されたのを確認した。圧電アクチュエータの破壊確率低減に効果があるといえる。
【符号の説明】
【0037】
100 圧電アクチュエータ
110 活性層
111 圧電層
117 内部電極
117a 内部電極
117b 内部電極
118 孔
120 保護層
121 圧電層
130 端面
200 連結型圧電アクチュエータ
210 接着面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向に沿って直列に連結して用いられる積層型の圧電アクチュエータであって、
分極された圧電層と内部電極とが交互に積層されて形成された活性層と、
前記活性層の積層方向両端に設けられ、未分極の圧電層で形成された保護層と、を備え、
前記内部電極のうち、前記保護層付近の内部電極は、中央に孔を有することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記内部電極の孔は、円形であることを特徴とする請求項1記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記保護層に最も近い内部電極から、1より大きく全数の1/10より小さい層数目までの内部電極が、中央に孔を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記内部電極の孔は、前記内部電極の大きさの1/3より大きく、前記内部電極の大きさより小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記内部電極の孔は、前記保護層に近い内部電極ほど大きいことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
前記積層方向の端面同士を接着することで、請求項1から請求項5のいずれかに記載の圧電アクチュエータを直列に複数連結して形成されていることを特徴とする連結型圧電アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−182214(P2012−182214A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42636(P2011−42636)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)