説明

圧電素子の変位拡大機構

【課題】 圧電素子に十分な圧縮力を付与することができ、かつ、圧縮コイルバネのような振動を生じない与圧構造を備えた、圧電素子の変位拡大機構を提供する。
【解決手段】 変位拡大機構が、U字形の部材であって、その底部で圧電素子の一端に当接する第1の当接部材と、圧電素子の他端に当接する第2の当接部材と、第1の当接部材のU字形の先端部に設けられたヒンジ及び第2の当接部材の圧電素子に当接する面とは反対の面に設けられたヒンジと接続し、圧電素子の伸縮方向を中心軸として左右対称に隙間を開けて配置された2本のアームと、その2本のアームのそれぞれの先端に接続する2本の弾性材と、その弾性材の他端に接続され、対象物に変位を作用させる結合部材と、2本のアームのそれぞれと接続し、2本のアームの隙間を狭める方向に作用することで、前記圧電素子に圧縮力を付与する与圧構造と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に圧縮力を与えつつ、圧電素子の伸縮変位を拡大して対象物に作用させる変位拡大機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電効果によって電気エネルギーから機械エネルギーへのエネルギー変換を行う圧電素子は、変換効率が高く、小型で、微小変位の制御に優れていることから、圧電アクチュエータとして位置決め等に広く用いられている。ただし、圧電素子そのものの変位量はあまり大きくないことから、変位拡大機構を備えて使用されることがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
図2は、特許文献1に記載された変位拡大機構と同様の変位拡大機構を有する圧電アクチュエータを示す図である。このような変位拡大機構100を有する圧電アクチュエータは、圧電素子50が長さ方向の一端部に当接する第1の当接部材52と他端部に当接する第2の当接部材53の間に取り付けられており、電気端子51,51間に電圧が印加されることにより、圧電素子50に軸方向の変位が生じ、その発生変位がヒンジ54,55を介して左右のアーム56,56に伝達され、さらにアーム56の先端に取り付けられた弾性材57を介し、対象物に当接する結合部材58に拡大した変位を与える構成になっている。
【0004】
ところで、圧電素子50は一般的にセラミック材料からなるため、陶器のように脆性を有しており、圧縮力に対しては強いが引張力に対しては弱いという特性がある。このため、圧電素子50をアクチュエータとして用いる場合には、一般に圧電素子50から生じる力に対して20〜50%程度の圧縮力を与えておくことが要求される。
【0005】
そこで特許文献2では、圧電素子に引張力が作用しないように、予め圧電素子に圧縮力を付与する圧電アクチュエータが提案されている。図3は、与圧構造として圧縮コイルバネを用いた変位拡大機構を示す図である。この与圧構造は、圧縮コイルバネ60の作用により、アーム56が第1の当接部材52から離される向きに力を受けることで、ヒンジ54,55を介して、圧電素子50に圧縮力が付与される構成になっている。しかし、このような変位拡大機構101では、圧電素子50に電圧を印加して動作させたとき、圧縮コイルバネ60の持つ自己共振周波数に伴う、圧縮コイルバネ60の振動が励起される。そのため、圧縮コイルバネ60の自己共振周波数成分の微細な動きが、圧電素子50に印加された電圧に伴う変位拡大機構動作に重畳されて現れることとなる。つまり、圧縮コイルバネ60を用いたときは、ノイズが発生し、変位拡大機構101の本来持つべき動作を損なうことになる。
【0006】
また、特許文献2には、変位拡大機構101の圧電素子50が入る部分の長さを圧電素子50の長さよりも若干短くし、組立時には第1の当接部材52と第2の当接部材53との間をこじ開けて圧電素子50を入れることにより、圧電素子50に圧縮力を付与することも提案されている。このとき、圧電素子50に与える与圧力の原動力となるのはヒンジ54,55の曲げ変形である。圧電素子50に対する与圧力とヒンジ54,55に加わる曲げ応力は比例関係になるが、有限要素法を用いて計算した両者の関係の計算値は、例えば、圧電素子に与圧力55.3kgを加える場合のヒンジ応力値は32.7kg/mmとなった。この応力値は材料の限界値に近く、これ以上与圧力を高めることは難しい。ここで、圧電素子50に対する与圧力として、圧電素子発生力の20〜50%を目安とすると、上記の前提になっている圧電素子50(10mm×10mm×40mm)の発生力は約350kgなので、20%とした場合には70kg、50%では175kgの圧縮力を与えることが望ましいことになる。しかし、前記の通り、変位拡大機構の構成材料応力限界からすると20%相当の圧縮力でさえ与えることは難しいので、圧電素子50が入る部分の長さを圧電素子50の長さより短くするという方法では、対応できないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−505548号公報
【特許文献2】特開2008−99399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、斯かる事情に鑑み、圧電素子に十分な圧縮力を付与することができ、かつ、圧縮コイルバネのような振動を生じない与圧構造を備えた、圧電素子の変位拡大機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る圧電素子の変位拡大機構は印加電圧に応じて伸縮する圧電素子の変位を拡大して対象物に作用させる圧電素子の変位拡大機構であって、U字形の部材であって、その底部で前記圧電素子の一端に当接する第1の当接部材と、前記圧電素子の他端に当接する第2の当接部材と、前記第1の当接部材のU字形の先端部に設けられたヒンジ及び前記第2の当接部材の前記圧電素子に当接する面とは反対の面に設けられたヒンジと接続し、前記圧電素子の伸縮方向を中心軸の左右に隙間を開けて配置された2本のアームと、前記2本のアームの先端間に設けられ対象物に変位を作用させる結合部材と、前記2本のアームの隙間を狭める方向に作用することで、前記圧電素子に圧縮力を付与する与圧構造と、を有することを特徴とするものである。そして、与圧構造としては板バネを使用することができる。
【0010】
また、前記2本のアームのそれぞれの先端に2本の弾性材の各一端を結合し、前記2本の弾性材の他端に、前記結合部材を設けた構成としたり、前記2本のアームが、前記圧電素子の伸縮方向を中心軸としてその左右に対称に設けられている構成としたり、前記与圧構造がU字状の板バネであり、両端がそれぞれ前記左右のアームに一体的に接続している構成としたり、第2の当接部材が上下に分割されており、その分割面が接触しているだけで接合されていないことにしたり、圧電素子と第1の当接部材及び/又は第2の当接部材との当接面が、接触しているだけで接合されていないことにしても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧電素子に十分に大きな圧縮力を付与することができるため、圧電素子には引張力が働かないという効果がある。また、従来の圧縮コイルバネを用いた与圧構造とは異なり、振動によるノイズの発生を防ぐことができる。
【0012】
さらに、圧電素子に圧縮力を与えることができるため、変位拡大機構と圧電素子とは接触しているだけで良く、それによって、圧電素子に引張、曲げ及び捻り応力が作用することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の与圧構造を備えた圧電素子の変位拡大機構を示す図である。
【図2】変位拡大機構を有する圧電アクチュエータを示す図である。
【図3】与圧構造として圧縮コイルバネを用いた変位拡大機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の与圧構造を備えた圧電素子の変位拡大機構を示す図である。この変位拡大機構1は、アーム16同士の間に与圧構造20を設けたものである。
【0016】
変位拡大機構1の構成は、従来と同様に、圧電素子10が長さ方向の一端部に当接するU字形の第1の当接部材12と他端部に当接する第2の当接部材13の間に取り付けられており、電気端子11,11間に電圧が印加されることにより、圧電素子10に軸方向の変位が生じ、その発生変位がヒンジ14,15を介して左右のアーム16,16に伝達され、さらにアーム16の先端に取り付けられた弾性材17を介し、対象物に当接する結合部材18に拡大した変位を与える構成になっている。
【0017】
ここで、図1の実施例に示す与圧構造20は、U字状の板バネであり、両端が左右のアーム16,16に一体につながっている。すなわち、U字状の与圧構造20と、U字形の第1の当接部材12と、左右対称形状のアーム16,16とは、ヒンジで結合した一体構造となっている。この一体構造には、さらに、ヒンジ14,14を介して第2の当接部材13に当接する部分も含まれている。
【0018】
与圧構造20は、左右のアーム16,16を互いに接近させる向きに力を付与することにより、ヒンジ14,15を伝わり、第1の当接部材12と第2の当接部材13との間に挟持されている圧電素子10に圧縮力を作用させる。このような与圧構造20としては、板バネが考えられるが、それ以外でも、アーム16同士を引きつけるようなものであればよい。また、ヒンジ14,15の曲げ変形とは別に、圧電素子10に圧縮力を付与するものであるから、十分に大きな圧縮力を付与することが可能である。ただし、コイルバネのように振動が励起されやすいものは、避けるべきである。
【0019】
図1のような与圧構造20が前記左右のアーム16,16に一体的にヒンジ結合している構成にすると、前記と同じ32.7kg/mmの曲げ応力をヒンジ14,15及びU字状の板バネからなる与圧構造20に許容した場合に圧電素子10に加えることができる与圧力の値を110.1kgにすることができた。つまり、本発明の与圧構造にすると、従来構造の2倍の与圧力が実現できることになる。この値は、圧電素子10の発生力(約350kg)に対する20%を優に越えており、望ましい値を得ることができた。
【0020】
本発明のような変位拡大機構1の場合は、圧電素子10と第1の当接部材12及び/又は第2の当接部材13との当接面は、接触しているだけで接合されている必要はない。また、第2の当接部材13を上下に分割し、その分割した断面Sにおいても接触しているだけで接合させる必要はない。これは、今回の与圧構造20により与圧力として高い値が実現できるため、接合せずに接触するのみで変位拡大機構1として所要の性能を発揮することができるようになるからである。
【0021】
圧電素子10は全体を構成する材料が脆性材料である圧電性セラミックであるため、引張、曲げ、捻り等の過大な応力を受けると割れを生じる可能性がある。本発明の与圧構造20では圧電素子10に対する与圧力が大きいため引張力は余程のことが無い限り加わることはないが、それでも、絶対にかからないとは言い切れないし、また、曲げ、捻り応力に関しては、変位拡大機構1の圧電素子10の周りにある第1の当接部材12のU字形が仮に変形を受けた場合には、圧電素子10に曲げ或いは捻り応力が加わる可能性がある。例えば、このU字形の部分を他の装置に取り付けた場合にその取り付け面が平坦でなかったことを想定すればその様なことが起こる可能性は大きい。
【0022】
しかし、本発明の構造では、圧電素子10と第1の当接部材12及び/又は第2の当接部材13との当接面が、接触しているだけで接合されていないので、上記問題の発生を回避することが可能である。
【符号の説明】
【0023】
1,100,101 変位拡大機構
10,50 圧電素子
11,51 電気端子
12,52 第1の当接部材
13,53 第2の当接部材
14,15,54,55 ヒンジ
16,56 アーム
17,57 板バネ
18,58 結合部材
20 与圧構造
60 圧縮コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧に応じて伸縮する圧電素子の変位を拡大して対象物に作用させる圧電素子の変位拡大機構であって、
U字形の部材であって、その底部で前記圧電素子の一端に当接する第1の当接部材と、
前記圧電素子の他端に当接する第2の当接部材と、
前記第1の当接部材のU字形の先端部に設けられたヒンジ及び前記第2の当接部材の前記圧電素子に当接する面とは反対の面に設けられたヒンジと接続し、前記圧電素子の伸縮方向を中心軸の左右に隙間を開けて配置された2本のアームと、
前記2本のアームの先端間に設けられ対象物に変位を作用させる結合部材と、
前記2本のアームの隙間を狭める方向に作用することで、前記圧電素子に圧縮力を付与する与圧構造と、
を有することを特徴とする圧電素子の変位拡大機構。
【請求項2】
前記2本のアームのそれぞれの先端に2本の弾性材の各一端を結合し、前記2本の弾性材の他端に、前記結合部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の変位拡大機構。
【請求項3】
前記2本のアームが、前記圧電素子の伸縮方向を中心軸としてその左右に対称に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の変位拡大機構。
【請求項4】
前記与圧構造がU字状の板バネであり、両端がそれぞれ前記左右のアームに一体的に接続していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の圧電素子の変位拡大機構。
【請求項5】
前記第2の当接部材が上下に分割されており、その分割面が接触しているだけで接合されていないことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の圧電素子の変位拡大機構。
【請求項6】
前記圧電素子と前記第1の当接部材及び/又は前記第2の当接部材との当接面が、接触しているだけで接合されていないことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の圧電素子の変位拡大機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−139028(P2012−139028A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289590(P2010−289590)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(502254796)有限会社メカノトランスフォーマ (22)