説明

培土支持型水耕装置

【課題】いろいろな植物に対し、根にストレスを生むことなく支持培土のない水耕もしくは水気耕環境下での生育を導入することが可能な水耕装置を提供し、さらには、地上部の成長にも対応出来る柔軟性を持った培土支持型水耕装置を提供する。
【解決手段】液肥が溶け込んだ水を蓄えた耐水性容器の中に、多孔質セラミック球より成る水耕培土を入れた容器をこの容器底面と前記耐水性容器底面の間に空間が出来るよう設置し、この水耕培土容器底面に多数の穴を開け、穴の上の領域に配置された、上面に向かって伸びる棒状もしくは板状の柔軟素材領域により前記多孔質セラミック球培土が穴から落下するのを防ぐ一方、根はこの穴から下に向かって生育させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面をコンクリートやアスファルトに被われたの土壌のない場所を緑化するための屋外用緑化装置に関し、特に、低コストで設置可能でありながらメンテナンス性に優れた水耕装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市のヒートアイランド現象対策や、アメニティ空間の創出といった観点から、建築物の屋上等の土壌のない場所の緑化が注目されている。
【0003】
このような緑化を行う屋外用緑化装置として、特許文献1には、給水システムを組み合わせることによりメンテナンスフリー化を可能とした屋上緑化システムが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、水盤を使い、水生植物を育成させる緑化装置が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、液肥を循環させ、蔓性植物を植栽させる屋上緑化装置及び屋上緑化方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、上記の各従来技術においては、育成する植物の種類、または、背丈等が限定されるという問題がある。いろいろな植物を育成できるようにするには、高度なシステムが必要になり、高価な装置になってしまう。このような制約のため、非土壌面の緑化が普及しないのが現状である。
【0007】
そうした問題を解決すべく本発明者は、特許文献4に記載の屋外用緑化システムを発明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−298140公報
【特許文献2】特開2004−305114公報
【特許文献3】特開2005−110563公報
【特許文献4】特開2008−200027公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記発明により植物苗が小さい間は順調に栽培出来るものの、多くの植物において、ある程度まで生育するとそこで成長が止まり、場合によってはその時点で枯死してしまうという現象が見られ、苗の生長にも対応出来る柔軟な機構が必要であることが判明した。
【0010】
そこで本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、いろいろな植物を育成でき、かつ、植物が大きく生育しても継続して使用可能な受容能力の高い水耕装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、植物の生育に伴いその根が、支持培土の入った容器から容易にその外側に伸び、支持培土のない水耕もしくは水気耕環境下での生育状態にストレスを生むことなく移行することが可能な培土支持型水耕装置を提供するものである。さらには、根だけでなく地上部の成長にも対応出来る柔軟性を持った培土支持型水耕装置を提供するものである。
【0012】
具体的には、請求項1に記載の培土支持型水耕装置は、液肥が溶け込んだ水を蓄えた耐水性容器の中に、多孔質セラミック球より成る水耕培土を入れた容器をこの容器底面と前記耐水性容器底面の間に空間が出来るよう設置した水耕装置において、この水耕培土を入れた容器底面の少なくとも一部に多数の穴が開けられ、この穴の径が少なくとも一部の前記多孔質セラミック球より大きいにもかかわらず、穴の開けられた領域上に配置された、上面に向かって伸びる棒状もしくは板状の柔軟素材領域により前記多孔質セラミック球が容器から落下せずに保持されることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2に記載の培土支持型水耕装置は、請求項1に記載の水耕装置に、液肥が溶け込んだ水を蓄える外部タンク及び水位調整機構を設け、前記外部タンクから前記耐水性容器へ送水及び回収を繰り返すことで容器中の水位を周期的に上下させることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3に記載の培土支持型水耕装置は、請求項2に記載の水耕装置の水位が、前記水耕培土の少なくとも一部が水没する高水位状態と、水耕培土より下となる低水位状態との間を往復し、低水位状態にある時間が高水位状態にある時間より長いことを特徴とするものである。
【0015】
請求項4に記載の培土支持型水耕装置は、請求項2、3のいずれかに記載の水耕装置において、少なくとも筒の一部が前記水耕培土に埋まるよう設置した下面の開いた筒状容器に植物苗を定植し生育することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の培土支持型水耕装置によれば、多孔質セラミック球より成る水耕培土に植栽された植物苗は、通気性、保水性に優れた培土と液肥が溶け込んだ水により生育し、その根は容易に水耕培土の入れてある容器底面に到達する。一般に培土を用いる水耕容器の底面には排水のため、細孔やスリットが設けられ、その上を透水性の不織素材で被う等の方法で培土の落下を防いでいる。容器底面に到達した根は、この排水のために設けられた小さな隙間からしか容器外に伸びることは出来ないため、ごく細い根がその先端部分を容器外まで伸ばす以外、多くの根は容器底部に成長先を見つけられずに密集し、最後は根腐れを起こし衰弱してしまうことが殆どである。要するに、根が水耕培土を入れた容器内で生育出来る範囲でしか植物苗は生育出来ず、栽培可能な植物種及びサイズには限界があった。それに対し本発明では、容器底面に従来よりはるかに大きな穴を設けることが可能である。市販されている多孔質セラミック球水耕培土には、平均粒径が1センチメートル程度の大粒のものまであり、こうした培土を選択すれば、容器底面に1センチメートル以上の穴を多数設けることが出来、太い根まで容器外に伸びて行くことが可能である。容器外まで伸びた根は耐水性容器に蓄えられた液肥が溶け込んだ水に到達し、水中根となってさらに生長していくことが出来る。また、水耕培土を入れた容器の底面とその下に位置する耐水性容器の底面との間にはこうして根が生長出来るよう、予め空間を設けておくのである。要するに本発明では、植物苗は生長に従い土中根のみでの生長から土中根+水中根での生長、すなわち半水耕状態に自然に移行していくことが可能である。容器底面には多孔質セラミック球より大きい穴が設けられるが、穴の開けられた領域上には、上面に向かって伸びる棒状もしくは板状の柔軟素材領域が設けられ、この柔軟性素材が上に載る多孔質セラミック球の重量で横倒しに変形して穴の上を遮るため、穴径より小さい多孔質セラミック球でも殆ど穴から落下することがない。その一方、穴は完全に塞がれるわけではないので、細い根が穴から容器外へ伸びる妨げにはならない。さらに、柔軟性素材は力を加えれば容易に変形していくので、穴上の空間は再度拡大する余地が残されている。すなわち、根が生長し太く硬くなって柔軟性素材及びその上に載る多孔質セラミック球を少しずつ押し返すに従い穴上の空間が拡大し、最終的に根はちょうど穴径の太さまで生育することが出来るのである。もし穴上に柔軟性素材領域が存在しない場合は、多孔質セラミック球より小さな穴しか設けることが出来ないうえ、穴の多くは上にピッタリと多孔質セラミック球が載って塞がってしまい、穴から根が外に向かって伸びることが出来なくなってしまうのである。また、柔軟性素材の代わりに不織布等の透水性素材を用いることも考えられるが、この場合は最初に存在する穴もしくは空間が狭すぎるため根が通り抜けることが出来なかったり、ごく細い根しか通り抜けることが出来ず、空間を押し広げることが出来るまで太く生育出来ない、といった現象が発生し、やはりうまく容器外まで根を大きく生育させることは出来ないのである。
【0017】
さらに、請求項2に記載の培土支持型水耕装置によれば、液肥が溶け込んだ水の水位が周期的に上下するので、耐水性容器中の水が特定の場所に滞留し酸欠状態の溜まり水となることがないので、根の生長を促進することが出来る。さらに、低水位時には多孔質セラミック球培土の少なくとも一部が空気中に露出することになるが、この時多孔質セラミック球は微細孔に空気を取り込むので、高水位時に水没した後も周囲の根に酸素を供給することが可能となり、根の呼吸を助け生長を促す効果が生まれるのである。
【0018】
また、請求項3に記載の培土支持型水耕装置では、請求項2に記載の水耕装置が有する効果を一段と高めることが出来る。すなわち、高水位状態では培土の少なくとも一部が水没するので、多孔質セラミック球培土に確実に液肥の溶け込んだ水が浸透し、根に養分を補給出来る。一方、低水位状態では多孔質セラミック球培土は全て空気中に露出し、しかもこの低水位状態にある時間の方が長いので、培土中の根は全て基本的に通常の土壌中と同じ土中根とすることが出来る。一方、容器から外に伸びた根は低水位時に耐水性容器底部に残る水に到達し水中根となり、さらに生育することが出来る。このように本発明は基本的に、培土を使った土耕栽培(所謂ハイドロカルチャー)から土中根と水中根が並存する半水耕にスムーズに移行させつつ植物を生育させる装置である。さらに請求項3は、低水位時に培土容器底面と耐水性容器底の水面との間に出来る空間を積極利用することも意図している。すなわち、培土容器底面から下方に伸びた根は低水位時に耐水性容器底に残る水に到達するまで培土容器内から少しずつ滴り落ちて来る水を吸収しつつ生長し、先端が水面に到達した後も、培土容器底面と耐水性容器底の水面との間の空間は、滴り落ちる水滴で水分を補給しつつ根がさらに生育する水気耕生育領域として活用されるのである。それにより、多孔質セラミック球培土の使用量を節約し、装置の軽量化、低コスト化を図ることが出来る。また、液肥の溶け込んだ水を一つのタンクから複数の装置に時間差を設けて送水及び回収することで水の使用量も減らすことも出来るのである。
【0019】
さらに、請求項4に記載の培土支持型水耕装置によれば、請求項2、3のいずれかに記載の水耕装置において、少なくとも筒の一部が前記水耕培土に埋まるよう設置した下面の開いた筒状容器に植物苗を定植しすることで、植物苗の保持という面で改善を図ると同時に、装置の取り扱いも容易にするものである。すなわち、多孔質セラミック球培土は球同士の接触面積が少なく、球と球の間にかなりの空間が存在することもあり、個々の球は外力により容易に移動してしまう。そのため、たとえ植物苗が培土中に広く根を張っていても、通常の土壌中に根を張る場合と異なり、風などの外力で容易に倒れたり培土から引き抜かれてしまうのである。それを防止するため、筒状容器に植物苗を定植した上で培土中に設置することで、容器内での多孔質セラミック球培土の移動を制限するのである。この場合、筒の下面が開いており、下面で周囲の多孔質セラミック球培土と繋がっており、根は下面から伸びて培土中に広がっていくことが可能であり、さらには苗の生育に伴いより大きな筒に移植していくことで、横方向への生育にも対応することが出来る。また、筒状容器内には必ずしも多孔質セラミック球培土を使用する必要はなく、通常の土壌で生育した植物苗を、土壌ごとこの筒状容器に移植し、この筒状容器を多孔質セラミック球培土に埋めて使用することも可能である。すなわち、高水位時の水位を適当な位置に調整することで、筒状容器内の土壌を過湿状態にすることなく植物苗を生育させることが出来るのである。このように、筒状容器を用いることで通常土壌での栽培から最終形態である水気耕栽培までスムーズに移行していくことが可能である。またこの際、筒状容器は必ずしも培土と上面が一致するように深く埋める必要はない。むしろ培土から飛び出す形で、筒部が半分程度培土に埋まっている状態で使用する方が取り扱いが容易である。すなわち、筒状容器内で水平方向への根の伸長が進む一方、下方へは根が筒状容器から飛び出して多孔質セラミック球培土中へ伸長し、最終的には耐水性容器底部の水中まで伸びていくのである。水平方向への根の伸長に伴い筒状容器を順次より径の大きなものに置き換えていけば、植物苗が大きく生育しても、同一の水耕装置で継続して栽培可能である。この栽培法によれば容器上面で植物の根が伸びていない領域に多孔質セラミック球培土を置かずに済むので多孔質セラミック球培土の使用量を削減しつつ、植物苗の生育に柔軟に対応可能な水耕装置とすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る培土支持型水耕装置の構成を説明する断面構造図である。
【図2】本発明で使用する柔軟素材製マットの設置状態を説明する断面構造図である。
【図3】本発明で使用する外周に安定板を備えた筒状容器を説明する図である。
【図4】本発明で使用する柔軟素材製マットの構造を説明する図である。
【図5】本発明で使用する別の柔軟素材製マットの構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
〔培土支持型水耕装置の第1の実施の形態〕
図1は、本発明に係る培土支持型水耕装置の構成を説明する断面構造図である。
【0023】
この培土支持型水耕装置では、図1に示すように、耐水性容器1内に、架台2を置き、その上に、多孔質セラミック球培土5を入れた容器3が置かれる。架台2は耐水性容器1と容器3の間に空間を設けるためのものである。容器3の底面には後述する柔軟素材製マット4が敷かれ、その上に多孔質セラミック球培土5が入っている。筒状容器6が多孔質セラミック球培土5上に、筒部を半分ほどセラミック球培土5に埋めた状態で設置され、この筒状容器6中に、培土7とともに植物苗8が入っている。耐水性容器1底部には液肥が溶け込んだ水14が入っており、貯水タンク13を設け、ポンプ10、11により、耐水性容器1との間で液肥が溶け込んだ水を移動させて、周期的に水位を上下させるものである。制御ボックス12内のタイマーによりポンプ10、11を周期的に動作させ、液面センサ9で検出される水位下限で所定時間保持した後、液面センサ18で検出される水位上限まで水位を移動して所定時間保持し、再度水位下限へと移動し、と動作を繰り返していく。ちなみに図1は水位下限の図である。耐水性容器1及び培土容器3の上面が広く開いていると水分の蒸発が激しく、屋外設置の場合には雨よけの必要もあるため、それぞれ蓋16と蓋17を設ける。
【0024】
以下、本発明の水耕装置の詳細を動作に即して説明する。
【0025】
本発明で使用する柔軟素材製マット4の詳細を図2、図4、図5により説明する。使用する素材はポリエチレン、ポリプロピレン、軟質塩ビ等、特に問わないが、可逆的に変形することが必須であり脆い素材は適用不可である。素材が軟らかすぎても変形しすぎて機能を果たさない場合があり、その場合はマットの構造を工夫して変形の程度を調整する必要がある。本実施例においては図2に示すように、容器21(図1の容器3に当たる)の底面は多孔質セラミック球培土が容易に通り抜ける程度の非常に粗い網目状であり、柔軟素材製マット24を支えるのみである。柔軟素材製マットは第4図にあるように、ちょうど多孔質セラミック球が抜け落ちる程度の大きさの網目部分42の上に細い柱状の突起41が突き出した構造を有する。突起は網目の径と同程度もしくはそれ以上の高さを有することが望ましい。この柔軟素材製マットの上にセラミック球培土を載せると、培土の重量で突起が倒れ網目の上を遮ることになる。そのため、網目とほぼ同サイズであるセラミック球培土はこの網目を通り抜けることが出来ないのである。この突起が短すぎると、セラミック球培土の落下を妨げるのではなく、むしろ網目の中へ導くガイドとなってセラミック球培土の落下を促すことにもなるので注意が必要である。突起を十分な高さにすることはもちろんだが、この突起の効果をより確実なものとするには、突起の頂部を折り曲げたり、頂部を板状構造にすることが非常に効果的である。こうすることにより、より確実に突起上にセラミック培土が乗り突起を変形させることが出来る。また、突起がより確実に網目上を遮るよう、第5図のように板状の突起43とすることも可能である。当然ながらこの場合も、突起は網目の径と同程度もしくはそれ以上の高さを有することが望ましく、低すぎる場合はセラミック球を網目の中へ導くガイドになってしまう。
【0026】
本発明では、使用する水耕培土を多孔質セラミック培土としているが、当然ながらこれは素材をセラミックに厳しく限定するものではない。通気性、透水性のある素材を使った、十分な強度を有する径の揃った粒より成る培土であれば使用可能である。現状では、ハイドロボール等の商品名で市販されている多孔質セラミック球培土しか適用可能な素材が見当たらないため、本発明ではこれに限定して使用しているものである。
【0027】
セラミック球培土に埋めて置かれる筒状容器6も、本発明の重要な構成要素である。この筒状容器内に培土を入れ、そこに植物苗を定植する。ここで使用する培土は外側の多孔質セラミック球培土と異なる培土であっても良い。ポット苗等の市販の植物苗をそのまま土壌ごと筒状容器に移し、本水耕装置での生育を開始することも出来るのである。この筒状容器は全く底のない単なる筒、もしくは、植物苗がストンと下に抜け落ちないよう多少底部が内側に絞られ開口径が小さくなっている程度の、底面に広い開口のある形状をしており、根が下方に生育していくとそのまま筒の下の多孔質セラミック球培土中に伸びていくことが出来るようになっている。一方、水平方向の生育に対しては、筒状容器の壁面がいずれ根の伸長の邪魔になるため、生育に伴い順次大きな筒に置き換えていくのが良い。置き換えを容易にするため、筒状容器は予め縦に二分したものを一体に組み合わせて使用し、置き換え時に二分して外し、より大きな筒状容器を左右に分割して所定位置に設置後、合体させて使うのである。この筒状容器は、植物苗を安定して保持する上でも重要である。すなわち、培土を構成する多孔質セラミック球は容易に動かすことが出来る上、根は培土の多孔質セラミック球の間の隙間を伸びるだけなので、筒状容器を使用しない場合には風に煽られたりするだけで容易に培土から引き抜かれてしまう。それに対し筒状容器を設けた場合には、筒状容器内の土壌もしくは培土は容器側壁により移動を妨げられるため、多少の風で動くことはなく、植物苗を固定することが出来る。風に対しさらに安定させるために、図3に示すような安定板32を筒状容器31の外周に設けることも有効である。この安定板により筒状容器は大量の培土で支えられることになり、もし筒状容器ごと風に押された場合でも容易に動くことはない。
【0028】
筒状容器中に多孔質セラミック球培土と異なる培土を入れる場合は、特に水位設定に注意が必要である。通常の土壌は水耕用培土に比べ保水力が高いことが多く、高水位時に水没する量が多いと水分過剰となり、根腐れを引き起こす危険がある。そのため筒状容器中に通常の土壌を使用する場合は高水位時の水位を、筒状容器底部が僅かに水面下になる程度の位置に調整するのが良い。一方、低水位時の水位については本発明にはそれ程大きな制約条件はないが、多孔質セラミック球培土の有効利用という観点から、培土容器底面より下、より正確には培土下面より下に設定するのが望ましい。使用状態では培土容器内を直接見ることは困難なので、容易に判断が可能な目安として培土容器底面を低水位面の目安とするのである。もし低水位時の水位が培土容器底面より上にある場合は、培土容器内の多孔質セラミック球培土の一部が常時水没していることになり、水没部分についてはこの培土の特長である通気性、透水性といった点を生かすことが出来ない。そこで低水位時の水位についてはむしろ、培土容器底面よりはるか下(といっても、実用上はせいぜい5〜10センチメートル下)に設定する方が良い。すると培土容器底面と低水位時水面の間に空間が出来ることになる。
【0029】
この空間には、培土容器底面から断続的に水が滴り落ちており、培土容器底面から伸びてきた根はその水滴より水分及び養分を吸収してさらに生育し、いずれ耐水性容器底部の水面に到達するのである。このように、この空間は通気性という面で優れるばかりでなく、十分な水分補給もあることから、水気耕環境にあると言える。この水気耕環境下で成長した根が、最後は耐水性容器底部の水面に届き、水中に伸びて水中根へとなっていくのである。ここでわざわざ水気耕環境の空間を設けているのは、水中根が多い場合より土中根及び水気耕根が多い場合の方が植物苗の生長が順調であること、より少量の水で生育可能なこと、の二点による。前者は、植物が本来育ってきた環境により近い状態の方が生育に適すると考えると理解出来る。この空間はそうした環境を水耕培土を用いることなく実現するものである。一方、後者は本水耕装置を運用する上での利点である。すなわち、低水位時に水耕装置により少ない水量しか残さないということは、大半の水は貯水タンクに置かれることを意味する。そこで、貯水タンクを複数の本発明水耕装置で共用し、時間差を設けて各水耕装置に送水/回収することが可能となる。また、使用する水は液肥を所定量含んでいるが、その組成は植物に吸収される等で、使用に伴いずれていく。そのため適宜、成分調整もしくは一部を新しい液に交換する必要があるが、そうした作業も大半の水が貯水タンクに置かれているので容易に実行出来るのである。
【0030】
上述の本水耕装置の動作より分かるように、本装置では、制御ボックス12内のタイマーにより一定時間間隔で、貯水タンクより水を供給して短時間だけ高水位状態をつくり、それにより培土容器内の多孔質セラミック球培土に給水し、それ以外の時間は大半の水を貯水タンクに回収して低水位状態に保っている。高水位状態での保持時間は、多孔質セラミック球培土が水を吸収するのに十分であれば足り、1分から5分程度あれば十分である。それに対し、低水位状態での保持時間はより慎重に決めなければならない。すなわち、低水位状態で発生する培土容器底面と低水位時水面の間の空間が水気耕環境として使える程度に培土容器底面から水滴が滴り落ちている必要がある。低水位状態での保持時間が長すぎて培土容器底面と低水位時水面の間の空間への水分供給が不十分となり、根の生育に支障を来たすことのないよう保持時間を決定しなければならない。一方、低水位状態での保持時間が短くなることは、頻繁に高水位状態となることを意味し、多孔質セラミック球培土への水分補給が過剰となり根腐れの懸念が生まれるだけでなく、ポンプの動作頻度及び延べ動作時間が増し、消費電力が多くなってしまうというデメリットも伴う。実用上は低水位状態での保持時間を、水分の蒸発の激しい夏季で1〜6時間、それ以外の期間は2〜12時間程度とするのが妥当である。この程度の間歇動作だと、ポンプの消費電力は連続稼動時の1/5〜1/20程度とすることが出来、消費電力削減に留まらず、バッテリー駆動での運用も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、表面をコンクリートやアスファルトに被われたの土壌のない場所を緑化するための屋外用緑化装置に適用され、特に、低コストで設置可能でありながらメンテナンス性に優れた水耕装置に適用される。
【符号の説明】
【0032】
1 耐水性容器
2 架台
3 容器
4 柔軟素材製マット
5 多孔質セラミック球培土
6 筒状容器
7 培土
8 植物苗
9 液面センサ
10 ポンプ
11 ポンプ
12 制御ボックス
13 貯水タンク
14 液肥が溶け込んだ水
15 水面
16 蓋
17 蓋
18 液面センサ
21 容器
22 底部の網の部分
23 孔
24 柔軟性素材マット
31 筒状容器
32 安定板
33 縦に二分したものを一体に組み合わせた繋ぎ目
41 柱状の突起
42 柔軟素材製マットの網目部分
43 板状の突起
44 柔軟素材製マットの網目部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液肥が溶け込んだ水を蓄えた耐水性容器の中に、多孔質セラミック球より成る水耕培土を入れた容器をこの容器底面と前記耐水性容器底面の間に空間が出来るよう設置し、この容器内で植物苗を生育する水耕装置において、
前記水耕培土を入れた容器底面の少なくとも一部に多数の穴が開けられ、この穴の径が少なくとも一部の前記多孔質セラミック球より大きいにもかかわらず、穴の開けられた領域上に配置された、上面に向かって伸びる棒状もしくは板状の柔軟素材領域により前記多孔質セラミック球が容器から落下せずに保持される
ことを特徴とする培土支持型水耕装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水耕装置に、液肥が溶け込んだ水を蓄える外部タンク及び水位調整機構を設け、前記外部タンクから前記耐水性容器へ送水及び回収を繰り返すことで、容器中の水位を周期的に上下させる
ことを特徴とする培土支持型水耕装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水耕装置の水位が、前記水耕培土の少なくとも一部が水没する高水位状態と、水耕培土より下となる低水位状態との間を往復し、低水位状態にある時間が高水位状態にある時間より長い
ことを特徴とする培土支持型水耕装置。
【請求項4】
請求項2、3のいずれかに記載の水耕装置において、少なくとも筒の一部が前記水耕培土に埋まるよう設置した下面の開いた筒状容器に植物苗を定植し生育する
ことを特徴とする培土支持型水耕装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−250762(P2011−250762A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128142(P2010−128142)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【特許番号】特許第4643753号(P4643753)
【特許公報発行日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(506035658)
【Fターム(参考)】