説明

培養器の夾雑物遮断構造

【課題】 培養物を収容する容器の蓋の単純な手回し操作によってその容器内部を外界から遮断して夾雑物の混入を的確に防止することができる実用的な培養器の夾雑物遮断構造を提供すること。
【解決手段】 対象とする培養物を収容すべき有底筒状の容器であって、上部外周面には螺旋リブが形成され、かつ、弾性材で成形された器本体と;この器本体の螺旋リブを着脱自在に螺合可能な雌ネジが下部内周面に形成され、かつ、弾性材で成形された蓋体とから構成されており、この蓋体の雌ネジに前記器本体の螺旋リブを弾圧的に螺着することによって、器本体内部を遮閉可能とするという手段を採用した。
【効果】 優れた遮閉性と開閉操作性とを兼ね備えた実用的な培養器を得ることができる。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、培養器の改良、更に詳しくは、細胞、微生物、動植物などの培養物を収容する容器の蓋の単純な手回し操作によってその容器内部を外界から遮断して夾雑物(微生物や埃など)の混入を的確に防止することができる実用的な培養器の夾雑物遮断構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近のバイオテクノロジーの進歩は目覚ましいものがあり、農産物、水産物、医薬品などの各種分野において、バイオテクノロジーが大いに活用されている。
例えば、植物の組織培養においては、植物の品種改良によって耐病性や耐候性に優れた新種が次々と開発されている。
【0003】
ところで、上記の植物組織培養においては、培養対象とする植物の組織片を培養器に入れた後、培養阻害が起きないようにその培養器内部へ外界から微生物や埃などの夾雑物が混入するのを防止する必要がある。かゝる培養に用いる培養器としては、フラスコにゴム栓をして密閉するタイプや、有底円筒状の容器に蓋を嵌合状態に被せて密閉するタイプ等がある。
【0004】
ところが、前者の密栓式培養器にあっては、フラスコの開口部にゴム栓を強く押し込んで閉塞することによりフラスコの遮閉性を高めることは可能であるが、そのゴム栓の抜き差し操作に大きな力を要するため、フラスコの開閉操作に手間が掛かるという問題があった。また、ガラス製のフラスコは、プラスチック容器に比して一般的に高価であるうえに、落として破損することのないよう慎重な取扱いが必要である等といった難点もあった。
【0005】
一方、後者の蓋嵌合式培養器にあっては、円筒容器と蓋との嵌まり具合を緩くすれば上記の如き開閉操作の問題は解消するけれども、円筒容器の遮閉性が悪くなって容器内の無菌状態を保持することができない。かといって、遮閉性を高めようとすれば、容器と蓋の嵌合部を各々高精度で加工して嵌まり寸法の精度を上げる必要があるため、加工コストが増大するうえに、容器の開閉操作性も悪くなってしまう。
【0006】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、従来の培養器に上記の如き問題があったことに鑑みて為されたものであり、培養物を収容する容器の蓋の単純な手回し操作によってその容器内部を外界から遮断して夾雑物の混入を的確に防止することができる実用的な培養器の夾雑物遮断構造を提供することを技術的課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本考案者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添附図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0008】
即ち、本考案は、対象とする培養物を収容すべき有底筒状の容器であって、上部外周面には螺旋リブが形成され、かつ、弾性材で成形された器本体と;この器本体の螺旋リブを着脱自在に螺合可能な雌ネジが下部内周面に形成され、かつ、弾性材で成形された蓋体とから構成されており、この蓋体の雌ネジに前記器本体の螺旋リブを弾圧的に螺着することによって、器本体内部を遮閉可能とするという手段を採用することによって、上記課題を解決した点に特徴がある。
【0009】
【考案の実施の形態】
以下、本考案を添附図面に示す実施形態に基いて更に詳しく説明する。なお、図1は本考案の実施形態である培養器の分解正面図、図2は図1の線X−Xに関する断面図、図3は図1の線Y−Yに関する断面図、図4は本実施形態培養器の内部で植物を培養した状態を示す断面説明図である。
【0010】
まず、本考案の実施形態である培養器を図1〜図3に基いて説明する。図中、符号1で指示するものは、対象とする培養物を収容すべき器本体である。この器本体1は、ポリカーボネート合成樹脂材をブロー成形して透明の有底円筒状に成形してあり、優れた弾性を有すると共に、耐熱性や耐候性にも優れている。そして、円筒状の器本体1の上部外周面には、雄ネジとして機能する螺旋リブ11・11・・・・が刻設されており、これら螺旋リブ11・11・・・・の間には不連続部12・12・・・・が各々形成されている。
【0011】
符号2で指示するものは、上記器本体1に上方から螺合させて器本体1を遮閉する蓋体である。この蓋体2も器本体1と同様、ポリカーボネート合成樹脂材をブロー成形して所定形状に成形してあり、優れた弾性を有する。そして、蓋体2の下部内周面には、前記器本体1の螺旋リブ11・11・・・・を着脱自在に螺合可能な雌ネジ21・21・・・・が不連続的な螺旋状に刻設されており、これら雌ネジ21・21・・・・の間には不連続部22・22・・・・が各々形成されている。また、蓋体2の各雌ネジ21より上部の内周面には、1条の環状凸部23が形成されており、この環状凸部23の山部が器本体1の上部外周面に密接可能となっている。さらに、蓋体2の上部外周面には、複数の凸状引掛部24・24・・・・が所定間隔をもって形成されており、任意の凸状引掛部24・24・・・・を指先で掴持すれば、滑ることなく蓋体2を容易に正逆回転させることができる。なお、本実施形態においては、凸状の引掛部24が形成されているが、引掛部24を凹状に形成して指先が引っ掛かるようにしても良い。
【0012】
上記の如く形成された蓋体2を上方から手回し操作して器本体1に螺合させると、蓋体2の雌ネジ21・21・・・・に器本体1の螺旋リブ11・11・・・・が弾圧的に螺着されて器本体1の内部が遮閉される。こうして遮閉された器本体1にあっては、その内部に外界からダニ、細菌、埃などの夾雑物が侵入するのを遮断してこれら夾雑物の混入を的確に防止できるので、培養阻害を起すことなく、器本体1内の培地Mに移植された植物P・P・・・・の組織片を無菌状態で良好に培養することが可能となる(図4参照)。なお、本実施形態においては、固体培地Mを使用しているが、対象とする培養物に応じて固体または液体の培地Mを適宜選択する。また、培養物が好気性の微生物等である場合には、外界の夾雑物を遮断して空気の通過のみを許容する孔径のフィルターを、蓋体2に開設した開口部に装着することにより、器本体1内部に夾雑物が混入することのない培養が可能である。
【0013】
本考案の最大の特徴は、培養器を構成する器本体1および蓋体2を弾性材で成形し、かつ、これら器本体1と蓋体2とを簡単な手回し操作で弾圧的に螺着して器本体1内部を外界の夾雑物から遮断するという夾雑物遮断構造を採用した点に存する。即ち、蓋体2を手回しして器本体1に螺合させるという簡単な操作によって、器本体1の螺旋リブ11・11・・・・と蓋体2の雌ネジ21・21・・・・との螺着による締付力と、弾性材による弾圧力とを相乗的に作用せしめて器本体1内部の遮閉性を大幅に高めることができ、その結果、外界から夾雑物が器本体1内部に混入するのを的確に防止可能となったのである。
【0014】
また、本実施形態培養器にあっては、プラスチック成形の一種であるブロー成形によって、複雑な形状の螺旋リブ11・11・・・・や雌ネジ21・21・・・・を有する器本体1および蓋体2を成形しているので、フラスコ等のガラス製容器に比して安価な器本体1および蓋体2を大量に製造することができる。なお、本実施形態においては、ブロー成形を使用しているが、培養器の形態に応じて射出成形やその他のプラスチック成形を採用しても良い。
【0015】
さらに、本実施形態培養器にあっては、蓋体2の雌ネジ21・21・・・・より上部の内周面に形成された環状凸部23が器本体1の上部外周面に密接しているので、この環状凸部23にて器本体1内部を隔絶遮閉せしめることにより、上記の螺旋リブ11・11・・・・と雌ネジ21・21・・・・との螺着構造による遮閉との複合的な遮閉が実現されており、たとえ螺着遮閉部の隙間を外界の夾雑物が通って侵入してきたとしても環状凸部23の遮閉部で遮断することができ、その結果、器本体1内部への夾雑物の混入防止効果を一層高めることが可能となる。なお、本実施形態においては、蓋体2の内周面に1条の環状凸部23を形成してあるけれども、複数条の環状凸部23・23・・・・を形成したり、器本体1の螺旋リブ11・11・・・・より上部の外周面に環状凸部を形成したりすることもできる。
【0016】
更にまた、本実施形態培養器にあっては、器本体1の螺旋リブ11・11・・・・および蓋体2の雌ネジ21・21・・・・の螺旋形状が不連続的に刻設されているので、任意の不連続部12・12・22・22・・・・から双方の螺旋部同士を自在に螺合できて、蓋体2の手回し操作が容易となる。また、連続的な通常の螺旋形状でなく不連続的な螺旋形状であるので、そのネジ加工の精度は連続的な螺旋形状の加工精度よりも要求されず、加工コストを低減することができる。さらに、蓋体2の上部外周面に複数の凸状引掛部24・24・・・・が形成されているので、任意の引掛部24・24・・・・を掴持して蓋体2を正逆回転させることによって、器本体1の開閉操作が一層容易となる。
【0017】
本考案の実施形態は概ね上記のとおりであるが、本考案は前述の実施形態に限定されるものでは決してなく、「実用新案登録請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、器本体1および蓋体2の素材としては、ポリカーボネート合成樹脂材以外にポリアミド、ポリアセタール、ABS等のエンジニアリングプラスチックを採用することも可能であり、また、器本体1の螺旋リブ11・11・・・・および蓋体2の雌ネジ21・21・・・・を不連続的でなく通常の連続的な螺旋形状に刻設することも当然可能であり、これら何れの変更態様も本考案の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0018】
【考案の効果】
以上実施形態を挙げて説明したとおり、本考案にあっては、培養器を構成する器本体および蓋体を弾性材で成形し、かつ、これら器本体と蓋体とを簡単な手回し操作で弾圧的に螺着しているので、器本体の雄ネジと蓋体の雌ネジとの螺着による締付力と弾性材による弾圧力とを相乗的に作用せしめて器本体内部を外界から隙間無く遮断して、外界の夾雑物が器本体内部に混入するのを簡単な手回し操作で的確に防止することが可能となる。また、本考案培養器を構成する器本体および蓋体をプラスチック成形によって成形しているので、フラスコ等のガラス製容器に比して安価な培養器を大量に製造することができる。
【0019】
さらに、本考案にあっては、雌雄ネジの螺着構造による遮閉と、この雌雄ネジより上部の周面に形成された少なくとも1条の環状凸部による遮閉との複合的な遮閉構造を採用しているので、器本体内部の遮閉性を一層高めることが可能となる。また、器本体および蓋体の雌雄ネジの螺旋形状を不連続的に刻設したり、蓋体の上部外周面に複数の引掛部を形成したりするという成形加工を施してあるので、蓋体の手回し操作が一層容易となる。したがって、上記の如く多数の効果を奏し、バイオテクノロジー分野における実用価値は頗る大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の実施形態である培養器の分解正面図である。
【図2】図1の線X−Xに関する断面図である。
【図3】図1の線Y−Yに関する断面図である。
【図4】本実施形態培養器の内部で植物を培養した状態を示す断面説明図である。
【符号の説明】
1 器本体
11 螺旋リブ
12 不連続部
2 蓋体
21 雌ネジ
22 不連続部
23 環状凸部
24 引掛部
M 培地
P 植物

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 対象とする培養物を収容すべき有底筒状の容器であって、上部外周面には螺旋リブが形成され、かつ、弾性材で成形された器本体と;この器本体の螺旋リブを着脱自在に螺合可能な雌ネジが下部内周面に形成され、かつ、弾性材で成形された蓋体とから構成されており、この蓋体の雌ネジに前記器本体の螺旋リブを弾圧的に螺着することによって、器本体内部を遮閉可能としたことを特徴とする培養器の夾雑物遮断構造。
【請求項2】 器本体の螺旋リブより上部の外周面と蓋体の雌ネジより上部の内周面の双方または何れか一方に少なくとも1条の環状凸部を形成して、この環状凸部にて器本体内部を隔絶遮閉せしめることにより、螺旋リブおよび雌ネジの螺着による遮閉と複合的に遮閉可能とした請求項1記載の、培養器の夾雑物遮断構造。
【請求項3】 器本体の螺旋リブおよび蓋体の雌ネジの螺旋形状が不連続的に刻設されており、任意の不連続部から双方の螺旋部同士を自在に螺合可能とした請求項1または2記載の、培養器の夾雑物遮断構造。
【請求項4】 蓋体の外周面には引掛部が凹凸形成されており、この凹凸状引掛部を掴持して正逆回転させることによって器本体の開閉操作が容易である請求項1〜3の何れか一つに記載の、培養器の夾雑物遮断構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【登録番号】第3051314号
【登録日】平成10年(1998)6月3日
【発行日】平成10年(1998)8月21日
【考案の名称】培養器の夾雑物遮断構造
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平10−472
【出願日】平成10年(1998)2月10日
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)