説明

培養用容器

【課題】非密閉状態と密閉状態を切り替えることができ、かつ段積みをされた場合であっても非密閉状態を確保することができる、培養用容器を提供する。
【解決手段】皿部材10と蓋部材14を含み、この皿部材10と蓋部材14に係合部11、15を有し、両部材が係合すると、皿部材10と蓋部材14の間に隙間が確保され、非密閉状態を維持でき、皿部材10と蓋部材14に螺合部もしくは嵌合部を有し、両部材が螺合もしくは嵌合すると、皿部材10および/または蓋部材14に形成されたエストラマー部材が押圧され、密閉を可能とする、培養用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非密閉状態と密閉状態を切り替えることができ、かつ段積みをされた場合であっても非密閉状態を確保することができる、培養用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞等を培養するためには、一般に内部と外部との間で空気や水分が出入可能な非密閉状態が必要とされる。一方、培養前や培養後に保存する場合には、水分蒸発を避けるために密閉状態であることが望ましい。また、培地交換を行うクリーンベンチと増殖させるインキュベータとの間を、培養用容器を移動させる場合は、不純物の混入を防ぐため密閉状態であることが望ましい。このように、細胞等を培養する容器は、非密閉状態と密閉状態の2つの状態を取る必要がある。
【0003】
培養用容器として使用される物に、シャーレ、マイクロプレートなどがある。これらの培養用容器は、通常、皿部材と蓋部材とからなり、皿部材を蓋部材に被せた状態では、皿部材と蓋部材の間にわずかな隙間があるため、培養用容器の内部と外部との間で空気や水分の出入が可能である。一方、保存する際は、密閉状態を保つ必要があるため、従来は、皿部材に蓋部材を被せた状態で、全体をラップでくるんで包装したり、皿部材と蓋部材の側面の隙間をテープでシールしたりしていた。しかしながら、これらの作業はかなり手間が掛かる上に、密閉が不完全な場合もある。さらに、ラップやシールの包装中または取り外す際に、内部の培地等が漏れる可能性があり、汚染の原因にもなる。
【0004】
これらの問題を解決するために、皿部材と蓋部材にネジを形成し、螺合により密閉状態にする技術がある(特許文献1)。また、蓋部材に支持脚を設け、皿部材に支持脚が係合される係止片を設ける技術もある(特許文献2)。しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、完全な密閉状態にするには蓋部材を何回も回す必要があり、開閉の作業性に問題があった。また、上記特許文献2に記載の技術では、支持脚が外部に露出するため体裁が悪く、形状が複雑であるためコストが掛かる。さらに、支持脚を係止片に係合させた後、解除するには、支持脚を切断する必要があり、密閉状態に維持できるのは1回限りであった。
【0005】
これらの問題を解決した技術として、非密閉状態と密閉状態を切り替えることができる培養用シャーレがある(特許文献3、4)。これらの技術は、縦方向に押圧を加えることで、蓋部材を皿部材に押し付け、非密閉状態から密閉状態に切り替えるというものである。
しかしながら、通常、非密閉状態は、CO2インキュベータ内等に静置し、細胞等を培養するときに必要であり、数多くの培養用シャーレが収められるため、段積みされることが一般的に広く行われている。このため、前記特許文献3および4に記載の技術では、培養用シャーレが段積みされた場合に、下段の培養用シャーレに、上段の培養用シャーレの重さが縦方向に加わり、蓋部材が皿部材に押圧されるため、通気状態が悪くなり、最悪の場合、非密閉状態を確保できない状態が生じていた。その結果、CO2インキュベータ内等での培養に障害が発生していた。
【特許文献1】実開平7−18264号公報
【特許文献2】実開平6−31500号公報
【特許文献3】特開2005−312317号公報
【特許文献4】特開2004−337079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、非密閉状態と密閉状態を簡便に切り替えることができ、かつCO2インキュベータ内等で段積みをされた場合であっても、非密閉状態を確保することができる培養用容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究を行ったところ、培養用容器の皿部材と蓋部材に、係合部および、螺合部もしくは嵌合部を設けることで、非密閉状態と密閉状態を、簡便に切り替えることができることを見出した。
また、本発明の係合部を設けることでは、皿部材と蓋部材の隙間を、縦方向にも横方向にもずれることなく、一定に保つことができるようになり、培養用シャーレが段積みをされた場合であっても、非密閉状態を確保できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の内容から構成される。
1.皿部材と蓋部材を含む、培養用容器であって:
1)皿部材と蓋部材に、係合部を有し、両部材の係合部が係合すると、皿部材と蓋部材の間に隙間が確保され、非密閉状態を維持でき;
2)皿部材と蓋部材に、螺合部もしくは嵌合部を有し、両部材が螺合もしくは嵌合すると、皿部材および/または蓋部材に形成されたエストラマー部材が螺合もしくは嵌合によって押圧され、密閉を可能とし;
非密閉状態と密閉状態を切り替えることができる、培養用容器。
2.周壁を有する皿部材と、周壁を有する蓋部材を含む、円形培養用容器であって:
1)皿部材に蓋部材を被せたときに蓋部材の周壁が、皿部材の周壁の外側に位置し;
2)皿部材の外周壁と、蓋部材の周壁自体に、非密閉状態を維持できる、係合部を有する;
請求項1に記載の培養用容器。
3.周壁を有する皿部材と、周壁を有する蓋部材を含む、円形培養用容器であって:
1)皿部材の周壁に段部を形成し、段部に内周壁が面一となるもしくは面一とならない肉薄の重ね合わせ周側壁を形成し;
2)皿部材の段部上であって重ね合わせ周側壁の外周と、蓋部材の下端部に、非密閉状態を維持できる、係合部を有する;
請求項1に記載の培養用容器。
4.前記係合部を3個以上有する、請求項1〜3のいずれかに記載の培養用容器。
5.側壁を有する皿部材と、側壁を有する蓋部材を含む、角形培養用容器であって:
1)皿部材に蓋部材を被せたときに、蓋部材の側壁が、皿部材の側壁の外側に位置し;
2)皿部材のいずれか一方の一対の外側壁と、蓋部材のいずれか一方の一対の側壁に、非密閉状態を維持できる、係合部を有し;
3)皿部材の他方の一対の外側壁と、蓋部材の係合部の内側面に、密閉状態を維持できる、嵌合部を有する;
請求項1に記載の培養用容器。
6.前記係合部をいずれか一方の一対の側壁に2個以上有する、請求項5に記載の培養用容器。
7.前記蓋部材の係合部を有しない他方の一対の側壁に、皿部材の係合部を避けるようにして形成された切欠きを有する、請求項5または6のいずれかに記載の培養用容器。
8.係合部が、着脱用嵌合部を有する蓋部材の周壁または側壁に、対応した形状の着脱用嵌合部を有する係合部材によって形成される、請求項1〜7のいずれかに記載の培養用容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の培養用容器は、非密閉状態と密閉状態を簡便に切り替えることができる。このため、培養、保存等の目的にあった状態に変更、維持することができる。
また、CO2インキュベータ内等で段積みをされた場合であっても、非密閉状態を確保することができる。これにより、狭い空間でも、空間を有効に活用でき、多数の培養用容器を使用できるため、培養の効率を格段に上昇させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、皿部材と蓋部材を含む、培養用容器であって:
1)皿部材と蓋部材に、係合部を有し、両部材の係合部が係合すると、皿部材と蓋部材の間に隙間が確保され、非密閉状態を維持でき;
2)皿部材と蓋部材に、螺合部もしくは嵌合部を有し、両部材が螺合もしくは嵌合すると、皿部材および/または蓋部材に形成されたエストラマー部材が螺合もしくは嵌合によって押圧され、密閉を可能とし;
非密閉状態と密閉状態を切り替えることができる、培養用容器である。
【0011】
本明細書において「培養用容器」とは、細胞、組織等の培養に用いる容器のことをいう。シャーレ、マイクロプレート等がある。
【0012】
本明細書において「皿部材」とは、培養用容器の皿部分をいう。液体培地や固形培地を入れ、細胞等を培養する培養部を形成する。後述にて定義する底部、枠部材または周壁(外周壁と内周壁)もしくは側壁(内側壁と外側壁)および、開口端をもつ開口部を有する。「蓋部材」とは、培養用容器の皿部材に被せる蓋部分をいう。後述にて定義する天板と周壁または側壁、周壁もしくは側壁の下側端および、開口端をもつ開口部を有する。「底部」とは、容器の底の壁を形成する部分をいう。「枠部材」とは、容器の枠を形成する部分をいい、一般的に壁を意味する。「周壁」とは、円形の円筒状の容器の側面の壁を形成する部分をいう。「外周壁」とは、前記周壁の外側部分をいい、「内周壁」とは、前記周壁の内側部分をいう。「側壁」とは、角形の容器の側面の壁を形成する部分をいう。「外側壁」とは、前記側壁の外側部分をいい、「内側壁」とは、前記側壁の内側部分をいう。「開口部」とは、容器の皿部材および蓋部材の周壁または側壁の口部分をいい、「開口端」とは、前記開口部の端部分をいう。「天板」とは、容器の蓋部材の天井部分をいう。「天板内面」とは、天板の内側の面部分をいう。「蓋部材の周壁または側壁の下側端」とは、蓋部材の周壁または側壁の一番下の端の部分をいう。
【0013】
本発明の培養容器は、皿部材と蓋部材に係合部を有する。特に複数の係合部を有することが好適に例示される。「係合部」とは、皿部材と蓋部材において、ひっかかってかかわり合う部分をいう。係合部の形状は特に限定されるものではなく、ひっかかってかかわり合あえばよく、例えば、凸凹形状、突起と穴等が好適に例示できる。図1に凸凹形状を11、15で示したが、態様の一つとして例示するものである。皿部材の係合部としては、外周壁または外側壁に付着した状態で、例えば上向きの凹みが形成される。皿部材の係合部のサイズは、0.5mm〜10mm程度の厚さが一般的であり、長さは1cm〜10cm程度、縦長は、4mm〜10mm程度、凹みの深さは2mm〜5mm程度が一般的である。蓋部材の周壁または側壁の下側端には、皿部材の係合部の例えば凹みに係合することができるように、蓋部材の係合部として例えば出っ張りが形成される。そのサイズは、0.5mm〜5mm程度の厚さが一般的であり、長さは1cm〜10cm程度、縦長は、5mm〜18mm程度、出っ張りの長さは2.5mm〜6mm程度が一般的である。係合部の個数は2個以上の複数個が好ましい。一般的には、2〜5個であり、より好ましくは3個以上である。複数個の係合部の場合、等間隔に設置されることが好ましい。さらに係合部は、皿部材と蓋部材に同数設置する必要はなく、天板のぐらつきをなくすためには、いずれか一方の係合部の少ないほう(例えば3個)の整数倍を他方に設置することが好ましい。
この両部材の係合部同士が合わさることにより、係合する。皿部材の係合部例えば凹みの上側の蓋の係合部を支える面を「受け面」という。蓋部材の周壁または側壁の下側端から天板内面までの深さ方向の長さ(A)は、皿部材の係合部の受け面から皿部材の開口端までの深さ方向の長さ(B)に対して、A>Bであることが必須である。このため、係合させると、皿部材と蓋部材の間に隙間が確保され、非密閉状態が維持される。該隙間の幅は約1〜2mm程度である。ここで「非密閉状態」とは、空気や水分の出入が可能な状態のことをいう。
係合部の相互に係りあう各角部の形状は、係合可能で、滑りが可能なように形状化されたものが好ましい。例えば凸凹形状ののり面が傾斜したものでもよい。傾斜は一般的には約45度程度で十分であるが限定はされない。あるいは、これらの組み合わせで、係合可能な形状を形成してもよい。なお、本発明で係合部、係合部材、嵌合部の記載において、実施例においては凸凹関係の形状を示すが、これらはいずれもこの定義が適用される代表例として例示したものである。
【0014】
本発明の培養用容器は、一般的には、円形培養用容器および角形培養用容器が好適に例示される。
【0015】
「円形培養用容器」とは、容器の形状が円形のものをいう。それに伴い、後述にて定義する皿部材および蓋部材が円形である。大きさ(直径、高さ、肉厚)は特に限定されず、一般的に培養に用いられる程度のものであればよい。皿部材は、底部、周壁(外周壁と内周壁)および開口端をもつ開口部を有し、蓋部材は、天板と周壁、周壁の下側端および開口端をもつ開口部を有する。皿部材に蓋部材を被せたときに、蓋部材の周壁(内周壁)が、皿部材の周壁の外側(外周壁)に位置した状態となる。
皿部材の外周壁と蓋部材の周壁(下側端)に係合部を有する。この係合部によって両部材が係合すると、皿部材と蓋部材の間に隙間が確保され、非密閉状態を維持可能となる。なお、蓋部材の係合部の下側端から天板内面までの深さ方向の長さ(A)は、皿部材の係合部の受け面から皿部材の開口端までの深さ方向の長さ(B)に対して、A>Bであることが必須である。
【0016】
本発明の培養用容器は、円形の場合、皿部材と蓋部材に相応する例えばネジ山を有する螺合部を設置する。両部材が螺合すると、両部材間の隙間がなくなり、密閉状態が確保される。「螺合部」とは、皿部材の外周壁または重ね合わせ周側壁の外周と、蓋部材の内周壁が、ねじ合わさる部分をいう。螺合部の形状は、ねじ合わせることができるような形状であればよく、通常の山と谷、双方出っ張り形状等が好適に例示できるが、特に限定されるものではない。例えば、一般的な螺合部として、約5mm〜50mmの長さの直線棒のネジ山を、皿部材の外周壁上と、蓋部材の内周壁上の接触面に斜めに設置する。ネジ山の高さは0.5mm〜2mmが一般的である。螺合部の個数は、複数個であることがより好ましく、2〜6個、好適には4個設置でき、等間隔に設置されることが好ましい。
ここで「密閉状態」とは、空気や水分の出入が不可能な状態のことをいう。両部材の螺合部が螺合すると、皿部材の周壁の開口端および/または蓋部材の天板内面に設置されたエストラマー部材が押圧され、両部材間の隙間がなくなり、密閉状態が、確保、維持される。「エラストマー部材」とは、ゴム状の弾性体でできた部材のことをいい、ゴム、熱可塑性エラストマー等の部材がよく知られている。エラストマーはシリコーン樹脂等であってもよく、弾力がある素材であれば、一般的なエラストマーの定義に拘束されることなく、本エラストマー部材として含まれる。また低密度ポリエチレン(LDPE)などの軟質プラスチックも含むものとする。皿部材、蓋部材自体の一部をエラストマー部材にしてもよいし、パッキン等の状態で貼り付けてもよい。エラストマー部材は、皿部材の周壁の開口端、蓋部材の周壁の開口端との接する部分、蓋部材の天板内面、後述の係合部材の溝部の底面などに設置が可能である。
【0017】
本発明の培養用容器は、円形の場合、皿部材の周壁の上側部分に周壁を廻る「段部」を設け、段部の上に蓋部材の周壁の厚さ相当長へこんだ周壁(重ね合わせ周側壁)を設けることができる。肉厚方向の段部の段差は、0.5mm〜4mmが一般的である。周壁の内側である内周壁は、段部の上下で面一であることが好ましい。但し所望により、内周壁面を面一とせず、例えば、重ね合わせ周側壁面部を内側に突出させることも可能である。ここで、「段部」とは、高低の差異が設けられ、段差が形成される部分をいい、「重ね合わせ周側壁」とは、段部上に設けられた蓋部材を被せるための肉薄状の周壁をいう。蓋部材の外周壁は、皿部材の外周壁と、蓋部材が皿部材に被さった状態で、面一であることが好ましいが、特に限定されるものではない。係合部は、皿部材の段部より上であって、重ね合わせ周側壁の外周壁および、蓋部材の下側端に設置することができ、例えば重ね合わせ周側壁の外周壁に上向きの凹みが、蓋部材の周壁の下側端に下向きの出っ張りが形成される。この係合部によって両部材が係合すると、皿部材と蓋部材の間に隙間が確保され、非密閉状態を維持可能となる。係合部の個数等は、上記と同様である。なお、蓋部材の係合部の下側端から天板内面までの深さ方向の長さ(A)は、皿部材の係合部の受け面から皿部材の重ね合わせ周側壁の開口端までの深さ方向の長さ(B)に対して、A>Bであることが必須である。
また、皿部材の重ね合わせ周側壁の外周壁には前記と同様に螺合部が形成される。その数、位置等は前記と同様である。螺合部によって両部材が螺合すると、両部材間の隙間がなくなり、密閉状態が確保される。
【0018】
「角型培養用容器」とは、容器の形状が四角形のものや四つ角の少なくとも一部を面取りしたものをいう。大きさ(底辺、高さ、肉厚)は特に限定されず、一般的に培養に用いられる程度のものであればよい。皿部材は、底部、側壁(外側壁と内側壁)および開口端をもつ開口部を有し、蓋部材は、天板と側壁、側壁の下側端および開口端をもつ開口部を有する。皿部材に蓋部材を被せたときに、蓋部材の側壁(内側壁)が、皿部材の側壁の外側(外側壁)に位置した状態となる。皿部材の角形のいずれか一方向の一対の外側壁と、蓋部材の角形のいずれか一方向の一対の側壁の下側端に、係合部を有する。この係合部によって両部材が係合すると、皿部材と蓋部材の間に隙間が確保され、非密閉状態を維持可能となる。係合部の個数は、皿部材の角形のいずれか一方向の一対の外側壁に1または2個以上有することができ、より好ましくは2つであり、1個の場合は長い直線状のものが好ましい。同様に、蓋部材のいずれか一方向の一対の側壁の下側端に同数の係合部をもうけることができる。なお、蓋部材の側壁の下側端から天板内面までの深さ方向の長さ(A)は、皿部材の係合部の受け面から皿部材の開口端までの深さ方向の長さ(B)に対して、A>Bであることが必須である。
【0019】
本発明の培養用容器は、角形の場合、皿部材の角形の他方向の一対の外側壁および、蓋部材の係合部の内側面に相応する嵌合部を設置する。両部材の嵌合部が嵌合するように蓋部材を回転させて(例えば90度向きをかえる)蓋部材を皿部材に被せると、両部材間の隙間がなくなり、密閉状態が確保される。「嵌合部」とは、皿部材と蓋部材において、形状があっているものがはめ合わさる部分をいう。嵌合部の形状は、嵌め合わせることができればよく、凹凸形状等が好適に例示できるが、特に限定されるものではない。例えば、一般的な嵌合部の形状として、皿部材の外周壁に凸部、蓋部材の係合部の内側に凹部を設置する。凸部または凹部の高さは0.5mm〜2mmが一般的である。嵌合部の個数は、複数個であることがより好ましく、2〜6個、好適には4個設置でき、等間隔に設置されることが好ましい。
この嵌合部によって両部材が嵌合すると、皿部材の側壁の開口端および/または蓋部材の天板内面に設置されたエストラマー部材が押圧され、両部材間の隙間がなくなり、密閉状態が確保される。ここで「密閉状態」、「エラストマー部材」とは、上記と同様である。
【0020】
本発明の培養用容器は、角形の場合、所望により、蓋部材にはその側壁に切欠きを設置してもよい。「切欠き」とは、蓋部材の向きを90度変えたときに、皿部材の係合部に蓋部材の側壁が当たらないようにするために切欠いたものをいう。このため、形状、サイズ、個数は皿部材の係合部と合わせる。設置の場所は、蓋部材の係合部が設置されない他方の一対の側壁のいずれかもしくは両方に設けることができる。
【0021】
本発明の培養用容器は、本発明の皿部材と蓋部材における各係合部および、螺合部もしくは嵌合部は各部材の同一線上に位置することができる。各部材の同一線上に位置することの意味は、各部材において、複数の係合部および、螺合部もしくは嵌合部が存在する場合、各係合および、螺合もしくは嵌合が何れの位置からでも可能なように、蓋部材の周壁または側壁の下側端において、最下端部が同一線上になるように形成されること、および皿部材の外周壁もしくは外側壁、または重ね合わせ周側壁に形成される係合部の受け面が、同一線上に形成されることを意味する。
【0022】
本発明の培養用容器は、所望により、着脱可能なまたはスライド可能な係合に使用する部材(係合部材)を、蓋部材の周壁または側壁に設置してもよい。この係合部材は、円形、角形等いずれの培養用容器にも使用することができ、好ましくは、蓋部材の向きを変更して被せることが難しい長方形、楕円形等の培養用容器に使用する。図4Aのように係合部を複数設けてもよいし、図4Bのように一続きにしてもよい。係合部材は、蓋部材に対応して、着脱用嵌合部を形成し、蓋部材の周壁または側壁に挟み込むような形状で取り付ける。ここで「着脱可能」とは、取り外しができることを意味し、「スライド可能」とは、培養用容器の周壁または側壁を移動できるという意味である。
【0023】
本発明において、より好ましくは、皿部材、蓋部材、および/または係合部材は、硬質材料によって製造される。「硬質材料」とは、硬さが硬く形状が変形しない材料のことをいう。一般に、医療用プラスチックとして広く使用されており、透明性、耐薬品性の高い材料は、ポリスチレンやガラスであり、皿部材と蓋部材のいずれもこのような硬質材料で構成することが好ましい。また、蓋部材の上から固形培地上のコロニー観察を容易にするためには、蓋部材は透明性の高い材料からなることが好ましい。
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を具体的に説明のためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0025】
(実施例1)円形培養用シャーレ(図1参照)
皿部材(10)は、開口部付近の外周壁に、係合部(11)が等間隔に4個形成される。この係合部には上向きの凹み(111)が形成される。また、皿部材の外周壁には、等間隔に4個のネジ山(12)が形成され、螺合部を形成する。さらに、開口端(13)にはエラストマー部材が取り付けられる。
【0026】
蓋部材(14)は、周壁に皿部材の係合部(11)と係合する係合部(15)が、等間隔で4個形成される。この係合部(15)の下側端(151)は、皿部材の係合部の凹み(111)に係合させることができるように、出っ張り(152)が形成される。また蓋部材の内周壁には、皿部材の外周壁に形成されたネジ山(12)とかみ合わせるネジ山(16)が、等間隔で4個形成され、螺合部を形成する。
【0027】
そして、皿部材と蓋部材の両係合部を係合させたときには、蓋部材の係合部下側端(151)から天板内面(17)までの深さ方向の長さ(A)は、皿部材の係合部の受け面(112)から皿部材の開口端(13)までの深さ方向の長さ(B)に対して、A>Bのため、皿部材の開口端(13)に形成されたエラストマー部材が蓋部材の天板内面(17)に押圧されず、シャーレ内部と外部とが、通気可能となり、非密閉状態となる。一方、皿部材に蓋部材を閉める際に、両ネジ山をかみ合わせ、螺合させたときには、皿部材の開口端(13)に形成されたエラストマー部材が、蓋部材の天板内面(17)に押圧され、密着するので、密閉状態となる。
【0028】
(実施例2)段部を設けた円形培養用シャーレ(図2参照)
皿部材(20)は、外周壁に段部(21)が形成される。その段部(21)には、内周壁が面一となる肉薄状の重ね合わせ周側壁(22)が形成され、その重ね合わせ周側壁(22)の外周で、かつ段部(21)上に等間隔に係合部(23)が4個形成される。この係合部には上向きの凹み(231)が形成される。また、重ね合わせ周側壁(22)の外周には、等間隔に4個のネジ山(24)が形成され、螺合部を形成する。さらに、開口端(25)にはエラストマー部材が取り付けられる。
【0029】
蓋部材(26)は、周壁に皿部材の係合部(23)と係合する係合部(27)が、等間隔に4個形成される。この係合部(27)の下側端(271)は、皿部材の係合部の凹み(231)に係合させることができるように、出っ張り(272)が形成される。また蓋部材の内周壁には、皿部材の外周壁に形成されたネジ山(24)とかみ合わせるネジ山(28)が、等間隔で4個形成され、螺合部を形成する。
【0030】
そして、皿部材と蓋部材の両係合部を係合させたときには、蓋部材の係合部の下側端から天板内面までの深さ方向の長さ(A)は、皿部材の係合部の受け面から皿部材の重ね合わせ周側壁の開口端までの深さ方向の長さ(B)に対して、A>Bのため、蓋部材の天板内面(29)に形成されたエラストマー部材が、皿部材の重ね合わせ周側壁の開口端(25)に押圧されず、シャーレ内部と外部とが、通気可能となり、非密閉状態となる。一方、皿部材に蓋部材を閉める際に、両ネジ山をかみ合わせ、螺合させたときには、蓋部材の天板内面(29)に形成されたエラストマー部材が、皿部材の重ね合わせ周側壁の開口端(25)に押圧され、密着するので、密閉状態となる。
【0031】
実施例2では、皿部材の内周壁を面一とするように、周壁部分を肉厚の異なるように形成したが、同肉厚で、周壁に段部を形成するようにしてもよい。すなわち、内周壁を面一とせず、重ね合わせ周側壁部分を内側に突出するようにしてもよい。
【0032】
実施例1および実施例2では、係合部を等間隔に4個形成したが、3個以上形成されていれば、培養用シャーレを積み重ねたときに、蓋部材の天板がぐらつかないので、3個以上形成されることが好ましい。また、蓋部材と皿部材の係合部の個数も異なってよいが、天板がぐらつかないように、いずれか一方の係合部の少ない方(3個以上)の整数倍とすることが好ましい。
【0033】
(実施例3)四角形培養用シャーレ(図3参照)
皿部材(30)は、対向する二対の側壁のいずれか一方の一対の側壁の外側壁に、それぞれ2個、計4個の係合部(31)が等間隔に形成される。この係合部には上向きの凹み(311)が形成される。また、他方の一対の外側壁には、横外向きの凸部(32)が形成されており、嵌合部を形成する。図3Bのように嵌合部を複数設けてもよいし、図3Cのように一続きにしてもよい。さらに、側壁の開口端(33)にはエラストマー部材が取り付けられる。
【0034】
蓋部材(34)は、対向する二対の側壁のいずれか一方の一対の側壁自体に、皿部材の係合部(31)と係合する係合部(35)が、それぞれ2個、計4個、等間隔に形成される。この係合部(35)の下側端(351)には、皿部材の係合部の凹み(311)に嵌めることができるように、出っ張り(352)が形成される。また、蓋部材の係合部の内側面には、横内向き凹部(36)が形成されており、嵌合部を形成する。
【0035】
そして、皿部材と蓋部材の両係合部を係合させたときには、蓋部材の係合部下側端(351)から天板内面(37)までの深さ方向の長さ(A)は、皿部材の係合部の受け面(312)から皿部材の開口端(33)までの深さ方向の長さ(B)に対して、A>Bのため、皿部材の開口端(33)に形成されたエラストマー部材が、蓋部材の天板内面(37)に押圧されず、シャーレ内部と外部とが通気可能となり、非密閉状態となる。一方、皿部材に蓋部材を被せる際に、蓋部材を回転させて(例えば90度向きをかえる)、皿部材の外側壁の凸部(32)と、蓋部材の係合部の内側面の凹部(36)とを嵌合させたときは、皿部材の開口端(33)に形成されたエラストマー部材が、蓋部材の天板内面(37)に押圧され、密着するので、密閉状態となる。
【0036】
実施例3では、蓋部材の他方の一対の側壁には、何も形成しなかったが、所望により皿部材の係合部を避けるようにして、切欠きを形成してもよい。
【0037】
(実施例4)蓋部材用係合部材(図4参照)
皿部材の係合部はそのままの状態で、蓋部材用の係合部を着脱可能な係合部材にすることにより、底部が長方形、楕円形等の蓋部材の向きを変更して被せることが難しい培養用容器においても、密閉状態および非密閉状態を維持することができる。当然、蓋部材の向きを変更して被せることができる、底部が円形、正方形等の培養用容器においても適用できる。
【0038】
蓋部材(40)の周壁および/または側壁の係合部の取り付け位置の内側面に横外向きの着脱用嵌合部の凹部(41)が形成され、外側面には横内向きの着脱用嵌合部の凸部(42)が形成される。
【0039】
蓋部材用係合部材(図4C)は、上部に蓋部材の周壁および/または側壁に挟み込むためのU字状の着脱用嵌合部の溝部(45)が形成され、この着脱用嵌合部の溝部(45)の一方の内面には、上記蓋部材の内側面の凹部(41)に嵌合する横内向きの着脱用嵌合部の凸部(46)が形成され、他方の内面には、上記蓋部材の外側面の凸部(42)に嵌合する横外向きの着脱用嵌合部の凹部(47)が形成される。また、着脱用嵌合部の溝部(45)の底面にはエラストマー部材が取り付けられている。
【0040】
そして、係合部材(44)を着脱用嵌合部の溝部(45)に挿入して取り付けるとき、エラストマー部材が押圧され、係合部材と蓋部材との間の隙間が無くなる。このため、蓋部材−係合部材を、皿部材の係合部と係合させたとき、蓋部材−係合部材の高さは上下せず、しっかりとはまる。また、培養用容器を積み重ねた場合でも、蓋部材−係合部材の高さが上下せず、良好な通気状態を維持することができる。
【0041】
尚、係合部材を着脱可能ではなく、蓋部材の表面上で水平方向にスライド可能とすることによって、係合部材の位置を変えて、培養用容器の密閉状態を達成させてもよい。
【0042】
(実施例5)つかみやすく、螺合しやすい円形培養用シャーレ(図5参照)
蓋部材(51)には、特許第3642445号(AGCテクノグラス株式会社)のように、外周壁に鉛直方向に縦長の突起を形成することにより(52)、特許第3642445号の持ちやすく、操作性に優れた効果も備えることができる。培養用シャーレの径が大きくなっても、縦長の突起を掴めば、容易に、蓋部材を持ち上げることができる。また、特に培養用シャーレが円形の場合には、この係合部に指がかかるので、ネジが閉めやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、非密閉状態と密閉状態を切り替えることができるため、培養、保存等の目的にあった状態に変更、維持することができる。このため、目的ごとに応じた複数の培養用容器を使用する必要が無く、経済的である。
また、CO2インキュベータ内等で段積みをされた場合であっても、非密閉状態を確保することができるため、狭い空間でも、空間を有効に活用することができ、多数の培養用容器を維持することが可能である。これにより、培養の効率を格段に上昇させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】円形培養用シャーレの正面図を示した図である。
【図2】段部を設けた円形培養用シャーレを示した図である。2A:正面図を示した図である。2B:非密閉時を示した図である。2C:密閉時を示した図である。
【図3】四角形培養用シャーレを示した図である。3A:正面図を示した図である。3B、3C:側面図の一例を示した図である。3D:蓋部材の係合部の内側を示した図である。
【図4】蓋部材用係合部材を示した図である。4A、4B:蓋部材および蓋部材用係合部材の正面図の一例を示した図である。4C:蓋部材用係合部材の側面図を示した図である。
【図5】つかみやすく、螺合しやすい円形培養用シャーレの正面図を示した図である。
【符号の説明】
【0045】
10 皿部材
11 皿部材の係合部
111 皿部材の係合部の凹み
112 皿部材の係合部の受け面
12 皿部材のネジ山
13 皿部材の開口端
14 蓋部材
15 蓋部材の係合部
151 蓋部材の係合部の下側端
152 蓋部材の係合部の出っ張り
16 蓋部材のネジ山(内側面に位置する)
17 蓋部材の天板内面
20 皿部材
21 段部
22 重ね合わせ周側壁
23 皿部材の係合部
231 皿部材の係合部の凹み
232 皿部材の係合部の受け面
24 皿部材のネジ山
25 皿部材の開口端
26 蓋部材
27 蓋部材の係合部
271 蓋部材の係合部の下側端
272 蓋部材の係合部の出っ張り
28 蓋部材のネジ山(内側面に位置する)
29 蓋部材の天板内面
30 皿部材
31 皿部材の係合部
311 皿部材の係合部の凹み
312 皿部材の係合部の受け面
32 皿部材の凸部(皿部材の嵌合部)
33 皿部材の開口端
34 蓋部材
35 蓋部材の係合部
351 蓋部材の係合部の下側端
352 蓋部材の係合部の出っ張り
36 蓋部材の係合部の内側面の凹部(蓋部材の嵌合部)
37 蓋部材の天板内面
40 蓋部材
41 蓋部材の着脱用嵌合部の凹部(内側面に位置する)
42 蓋部材の着脱用嵌合部の凸部
43 蓋部材用係合部材
44 蓋部材用の係合部
45 蓋部材用係合部材の着脱用嵌合部の溝部
46 蓋部材用係合部材の着脱用嵌合部の凸部
47 蓋部材用係合部材の着脱用嵌合部の凹部
48 蓋部材用係合部材の係合部の内側面の凹部(蓋部材の嵌合部)
50 皿部材
51 蓋部材
52 蓋部材の縦長突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皿部材と蓋部材を含む、培養用容器であって:
1)皿部材と蓋部材に、係合部を有し、両部材の係合部が係合すると、皿部材と蓋部材の間に隙間が確保され、非密閉状態を維持でき;
2)皿部材と蓋部材に、螺合部もしくは嵌合部を有し、両部材が螺合もしくは嵌合すると、皿部材および/または蓋部材に形成されたエストラマー部材が螺合もしくは嵌合によって押圧され、密閉を可能とし;
非密閉状態と密閉状態を切り替えることができる、培養用容器。
【請求項2】
周壁を有する皿部材と、周壁を有する蓋部材を含む、円形培養用容器であって:
1)皿部材に蓋部材を被せたときに蓋部材の周壁が、皿部材の周壁の外側に位置し;
2)皿部材の外周壁と、蓋部材の周壁自体に、非密閉状態を維持できる、係合部を有する;
請求項1に記載の培養用容器。
【請求項3】
周壁を有する皿部材と、周壁を有する蓋部材を含む、円形培養用容器であって:
1)皿部材の周壁に段部を形成し、段部に内周壁が面一となるもしくは面一とならない肉薄の重ね合わせ周側壁を形成し;
2)皿部材の段部上であって重ね合わせ周側壁の外周と、蓋部材の下端部に、非密閉状態を維持できる、係合部を有する;
請求項1に記載の培養用容器。
【請求項4】
前記係合部を3個以上有する、請求項1〜3のいずれかに記載の培養用容器。
【請求項5】
側壁を有する皿部材と、側壁を有する蓋部材を含む、角型培養用容器であって:
1)皿部材に蓋部材を被せたときに、蓋部材の側壁が、皿部材の側壁の外側に位置し;
2)皿部材のいずれか一方の一対の外側壁と、蓋部材のいずれか一方の一対の側壁に、非密閉状態を維持できる、係合部を有し;
3)皿部材の他方の一対の外側壁と、蓋部材の係合部の内側面に、密閉状態を維持できる、嵌合部を有する;
請求項1に記載の培養用容器。
【請求項6】
前記係合部をいずれか一方の一対の側壁に2個以上有する、請求項5に記載の培養用容器。
【請求項7】
前記蓋部材の係合部を有しない他方の一対の側壁に、皿部材の係合部を避けるようにして形成された切欠きを有する、請求項5または6のいずれかに記載の培養用容器。
【請求項8】
係合部が、着脱用嵌合部を有する蓋部材の周壁または側壁に、対応した形状の着脱用嵌合部を有する係合部材によって形成される、請求項1〜7のいずれかに記載の培養用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−104327(P2010−104327A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281756(P2008−281756)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】