説明

基板の洗浄装置及び洗浄方法

【課題】半導体装置等の製造に用いる基板、例えばフォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体等を洗浄した場合に、異物の発生を極めて少なくすることができる基板の洗浄装置及び洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも、超純水により基板を洗浄する際に超純水を噴出するための超純水噴出ノズルと、該超純水噴出ノズルから超純水を噴出して基板の洗浄を行う基板洗浄室とを有する、基板の洗浄を行うための洗浄装置であって、少なくとも、超純水による基板の洗浄の前後の待機中に前記超純水噴出ノズルを待機させるための、前記基板洗浄室とは隔壁により仕切られた超純水噴出ノズル待機室を有し、該待機室は、排水機構と前記超純水噴出ノズル待機室から前記基板洗浄室へのミスト拡散防止機構を具備するものであることを特徴とする基板の洗浄装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置等の製造に用いる基板の洗浄方法に関し、特に、リソグラフィーで用いるフォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体を洗浄するための洗浄装置及びそれを用いた洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI又はVLSI等の半導体集積回路の製造をはじめとして、広範囲な用途に用いられているフォトマスクは、基本的には透光性基板(フォトマスク用基板)上に金属または金属化合物を含む薄膜による遮光膜を成膜したフォトマスクブランクの該遮光膜を、電子線フォトリソグラフィー法等を用いて、所定の遮光膜パターンに加工することにより得られる。
【0003】
上記LSI等の精密電子材料を作成する工程で使用するリソグラフィー法では、例えば電子回路の図が描画されたフォトマスクを原図として、光照射によって感光材料に図を焼き付け、パターン形成を行う。近年では半導体集積回路の高集積化等の市場要求に伴ってパターンの微細化が急速に進み、露光に使用するマスクの高精度化が要求されるようになり、フォトマスクブランクの欠陥に関する要求も高いものとなってきている。
【0004】
このため、フォトマスクブランクを製造するための石英、CaF等の基板や、フォトマスクブランクの洗浄は極めて精密に行われることが要求される。そこで、通常、界面活性剤を用いた洗浄に加え、水素水やオゾン水を用いた多段の洗浄が行われ、必要に応じ、超純水を用いたリンスが各段階で行われる(例えば特許文献1、2等参照)。
【0005】
一方、上記のような多段の洗浄を行った場合にも、得られる基板は無条件に清浄なものが得られることはなく、例えば、洗浄液の管理や乾燥方法が適切でない場合には、水滴の乾燥時にパーティクル汚染(微小異物による汚染)が生じる場合もある(例えば特許文献3、4等参照)。さらに、洗浄時の汚染の原因として、洗浄液より発生するミストの問題がある。特許文献5に開示されているように、洗浄水の使用により洗浄装置内に発生するミストの基板への再付着も汚染の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−96241号公報
【特許文献2】特開2002−151453号公報
【特許文献3】特開2009−21448号公報
【特許文献4】特開2004−19993号公報
【特許文献5】特開2005−252137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような汚染は、洗浄により得られた基板を例えばレーザー光を用いた検査を行った場合、パーティクル汚染として観測される。より微細なパターンの露光を行うために、より清浄なフォトマスク製造用基板が要求されているが、上記のようなパーティクル汚染が透明基板上や成膜中間膜に発生したものである場合、積層膜の剥がれや、エッチング加工時の異常挙動を示す原因となる可能性があり、またマスクブランク上である場合には、エッチング加工時の異常挙動やレジスト膜の剥がれや、レジストパターンの異常形状を与える可能性がある。
【0008】
そこで、フォトマスク用基板およびフォトマスクブランク中間体、フォトマスクブランクの洗浄工程では上記のようなパーティクル汚染が発生しないよう細心の注意がはらわれるが、特にマスク加工用のレジスト膜塗布直前での洗浄では、極めて高度に汚染を防止する必要がある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、半導体装置等の製造に用いる基板、特には、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体等を洗浄した場合に、異物の発生を極めて少なくすることができる基板の洗浄装置及び洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、少なくとも、超純水により基板を洗浄する際に超純水を噴出するための超純水噴出ノズルと、該超純水噴出ノズルから超純水を噴出して基板の洗浄を行う基板洗浄室とを有する、基板の洗浄を行うための洗浄装置であって、少なくとも、超純水による基板の洗浄の前後の待機中に前記超純水噴出ノズルを待機させるための、前記基板洗浄室とは隔壁により仕切られた超純水噴出ノズル待機室を有し、該待機室は、排水機構と前記超純水噴出ノズル待機室から前記基板洗浄室へのミスト拡散防止機構を具備するものであることを特徴とする基板の洗浄装置を提供する。
【0011】
このような装置を用いることにより、超純水による基板の洗浄の前後の待機中に超純水噴出ノズルから超純水を排出して、超純水ライン中で発生する気泡の除去操作を行なうことができると共に、排出された超純水によるミストが基板洗浄室に拡散して被洗浄基板表面にミスト由来のパーティクルが発生することを防止できる。
【0012】
また、前記ミスト拡散防止機構は、前記超純水噴出ノズル待機室に発生したミストを該待機室外へ排気する排気機構とすることができ、この場合前記ミストを排気する機構を、前記超純水噴出ノズル待機室中の気体を吸引する装置とすることができる。
【0013】
このように、発生したミストが基板洗浄室に拡散する前に、超純水噴出ノズル待機室より排気されてしまえば、基板洗浄室でのミストによる基板のパーティクル汚染が防止でき、ミストを排気する機構として超純水噴出ノズル待機室中の気体を吸引する装置を用いれば、簡単かつ確実にミストを排気することができる。
【0014】
また、前記ミスト拡散防止機構は、前記超純水噴出ノズル待機室の開口部を閉鎖する機構とすることもできる。
この機構では、具体的には、例えば超純水噴出ノズルが待機室外にある時は、シャッターで待機室の開口部を閉じ、ノズルが待機室にある時には、ノズルを待機室の開口部に密着させ、開口部を封鎖することによって達成される。
【0015】
また、本発明は、前記基板の洗浄装置を用いて、前記待機室から前記基板洗浄室へのミストの拡散を防止しつつ、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体を洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法を提供する。
このように、本発明の洗浄方法は、特に、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体を洗浄する際に、好ましく用いることができる。
【0016】
また、基板を洗浄する工程が、少なくとも、(A)前記超純水噴出ノズル待機室内に、前記超純水噴出ノズルより超純水を排出する工程、(B)前記超純水噴出ノズルを前記超純水噴出ノズル待機室より前記基板洗浄室に移動させる工程、(C)前記超純水噴出ノズルより超純水を噴出させて基板の洗浄を行う工程を含むものであることが好ましい。
【0017】
上述のように超純水噴出ノズル待機室内で超純水を排出させた後、超純水噴出ノズルを洗浄室に移動し、被洗浄基板の洗浄を開始することにより、洗浄室に多量のミストが発生することが防止され、被洗浄基板がミスト汚染される可能性を大きく引き下げることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の洗浄装置によれば、超純水噴出ノズル待機室で、待機中に超純水噴出ノズルより超純水を排出することによって、超純水ライン中に超純水の供給停止によって生じる気泡の発生を抑制する、あるいは発生してしまった気泡を排出することができると共に、排出時に発生するミストが待機室から洗浄室に拡散して基板洗浄室にミストをもたらすことを防止できる。そして、本発明の装置を用いた基板の洗浄方法によれば、洗浄室内のミスト量を減らすことによって、被洗浄基板がミストの付着を原因とするパーティクル汚染を受ける機会を大きく抑制することができ、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体の洗浄歩留まりを大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の基板の洗浄装置の一例を示した概略図である。
【図2】本発明の基板の洗浄装置におけるミスト拡散防止機構の一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述のように、現在、特に半導体等の極めて微細なパターン形状を持つ製品のリソグラフィー加工に用いるフォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはフォトマスクブランクやフォトマスクの製造中間体の洗浄では、極めて微細なパーティクルによる異物汚染も排除されることが望ましく、従来技術として挙げたような洗浄液の改良や乾燥方法の改良を含め、種々の提案がされてきている。しかし、何れの方法も一定の効果は見出されるものの、微細異物の問題は依然として突発的に発生してきた。
【0021】
本発明者らは、突発的に発生する微細異物による汚染の問題を解決するため、発生原因を種々仮定して、その原因を排除する操作を加えることによって、汚染発生状況がどのような変化をするかという手法をもって問題の発生原因と解決方法の検討を行ったところ、すでにその原因として、上述のように、洗浄作業中、洗浄液の供給が停止している間にフィルターハウジング中で微細気泡が発生し、それが洗浄液中に混入してしまうことによるもの(特許文献3)、洗浄を行う空間内に洗浄中に発生するミスト(微小な飛沫であり、通常の水滴のような重力落下をしないもの)によるもの(特許文献5)などがあることを明らかにしてきた。しかし、次世代の0.2μmよりも小さなパーティクル汚染の数を低く抑えようとした場合、突発的なパーティクル発生数の増加を抑制するためには、更に洗浄装置の改良が必要であった。
【0022】
本発明は、上記の課題を解決するための装置の改良および洗浄方法の改良を行ったものである。
特許文献3に開示されているように、洗浄に用いる超純水は、パーティクル欠陥を引き起こさないよう微細な異物を除去するためのフィルターが用いられているが、本発明者らの検討によれば、ここで洗浄に使用する超純水の洗浄液噴出ノズルへの供給を一旦停止した場合、超純水の供給を待機している間に気泡が発生し、この超純水中に発生した微細気泡の基板表面への付着に由来すると考えられるパーティクル問題が発生することが判明した。
上記気泡の発生は、超純水製造装置に気泡排除装置を導入した場合にも、完全に抑制されることはなく、特許文献3のように、気泡排除装置を超純水ラインの最下流部に設けても、気泡排除装置から超純水噴出ノズルの間で超純水の供給を待機している間に気泡が発生する可能性がある。
【0023】
このような新たに発生する気泡によるパーティクル汚染発生を防止するためには、気泡除去装置から超純水噴出ノズル間に滞留した超純水を、洗浄前に一旦排出してしまうことが解決方法としては最も簡単な方法であるが、実際に基板洗浄を行う基板洗浄室で超純水を大量に排出した場合、洗浄室が飛沫の飛散や多量に発生したミストにより汚染され、それによるパーティクル汚染が発生してしまうことが判明した。
【0024】
そこで、上記気泡によるパーティクル発生を防止するため、洗浄装置に基板洗浄室とは別に、超純水噴出ノズルから、超純水を使用する前に一旦滞留している超純水を排出してしまう工程用の、パーティションで区切られ排水機構を具備する超純水噴出ノズル待機室を設け、そこで超純水を排出した後に、超純水噴出ノズルを基板洗浄室に移動させ、基板を洗浄できるよう、超純水噴出ノズルを可動式とし、超純水を排出する工程は洗浄室とは別の場所で行う装置とした。
【0025】
ところが、上記の装置を用いた場合にも予想外にパーティクルの防止効果が低かったため、本発明者らはその原因について更に検討を行ったところ、次の点に問題があることが想到された。上記被洗浄基板の洗浄室では、洗浄中に発生する洗浄液のミストが滞留して基板上に再付着することを防止するために、洗浄室内で乱流が発生しない程度の大きさで、洗浄室中の気体を排気するための吸引をかけているが、この吸引により超純水噴出ノズル待機室で発生したミストが、洗浄室に拡散している可能性がある。また、この洗浄室の吸引を行わなかった場合にも、洗浄機中で基板を回転させた場合には、洗浄室中に渦を巻く気流が形成され、洗浄室周囲で発生したミストは洗浄室中に引き込まれる形で拡散する可能性がある。即ち、待機室での超純水排出により発生するミストも汚染の原因となることをつきとめ、洗浄装置全体に渡って高度なミスト管理の必要性があることを見出した。
【0026】
そこで本発明者らは、実際に基板の洗浄を行う基板洗浄室と基板の洗浄の前後の待機中に超純水噴出ノズルを待機させる場所との間に隔壁を設けて超純水ノズル待機室とし、さらに該待機室にミストの拡散を防止する機構を設けることにより、ミスト汚染の問題が解決でき、検査によって検出されるパーティクル汚染された製品数を大幅に減少させることができることに想到し、本発明をなすに至った。
【0027】
即ち、本発明の洗浄装置は、少なくとも、超純水により基板を洗浄する際に超純水を噴出するための超純水噴出ノズルと、該超純水噴出ノズルから超純水を噴出して基板の洗浄を行う基板洗浄室とを有する、基板の洗浄を行うための洗浄装置であって、少なくとも、超純水による基板の洗浄の前後の待機中に前記超純水噴出ノズルを待機させるための、前記基板洗浄室とは隔壁により仕切られた超純水噴出ノズル待機室を有し、該待機室は、排水機構と前記超純水噴出ノズル待機室から前記基板洗浄室へのミスト拡散防止機構を具備するものであることを特徴とする。
【0028】
このような本発明の洗浄装置によれば、超純水噴出ノズル待機室で、待機中に超純水噴出ノズルより超純水を排出することによって、超純水ライン中に超純水の供給停止によって生じる気泡の発生を抑制する、あるいは発生してしまった気泡を排出することができると共に、排出時に発生するミストが待機室から洗浄室に拡散して基板洗浄室にミストをもたらすことを防止できる。
【0029】
以下、本発明の基板の洗浄装置について図面を参照にしながらさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明の基板の洗浄装置の一例を示す概略図である。
本発明の基板の洗浄装置12は、超純水により基板を洗浄する際に超純水を噴出するための超純水噴出ノズル1と、超純水噴出ノズル1から超純水を噴出して基板の洗浄を行う基板洗浄室3と、超純水による基板の洗浄の前後の待機中に超純水噴出ノズル1を待機させるための超純水噴出ノズル待機室2を有している。
【0030】
基板洗浄室3と超純水噴出ノズル待機室2は隔壁11により仕切られており、さらに、超純水噴出ノズル待機室2には、排水機構としての待機室排水ライン5と、基板洗浄室3へのミスト拡散防止機構として、待機室気体排気ライン4が具備されている。この隔壁11及び待機室気体排気ライン4により、ノズル1が待機室2で排出したミストの洗浄室への拡散を効果的に防止できる。
【0031】
基板洗浄室3内には洗浄される被洗浄基板7を吸着固定して回転することができるスピナー6が設置されている。また、基板洗浄室3にも、洗浄室中で発生したミストの再付着による基板のパーティクル汚染を防ぐため基板洗浄室ミスト排気ライン9、及び洗浄に用いられた超純水を排出するための洗浄液排水ライン8が具備されている。
【0032】
超純水噴出ノズル待機室2にも超純水を排出するための待機室排水ライン5が具備されおり、待機室2でノズル1から排出された超純水はここから排水される。この待機室排水ライン5は、不図示の排水口と排水管からなり、ポンプで吸引するようにしてもよい。
装置の適正な排気量を設計するためのデータ取得には、超純水噴出ノズルから超純水が排出された時のミスト発生量を、ミストパーティクル計測用吸引ノズル10を超純水噴出ノズル待機室2の開口部に設置して計測することでできる。
【0033】
超純水噴出ノズル待機室から基板洗浄室へのミスト拡散防止機構のうち、簡単な装置の改造によって達成する方法としては、上記のように、超純水噴出ノズル待機室で発生したミストを排気する機構を設ける方法が考えられる。更に、上記洗浄装置の超純水噴出ノズル待機室のミストを排気するためには、最も簡単かつ確実に実施できる機構として、超純水噴出ノズル待機室に排気用の吸引装置(ポンプ)を接続し、超純水噴出ノズル待機室内にミストが良好に排気できるような気流を作ってやる機構を挙げることができる。
【0034】
そして、本発明者らは、上記超純水噴出ノズル待機室に排気用の吸引装置を設置し、ミストが開口部より拡散せずに排気される気流を作ったうえで、超純水噴出ノズル待機室内で超純水の排出操作を行った後に、基板の洗浄を行ったところ、洗浄された基板のパーティクル汚染数を大きく低下させることに成功した。この装置における超純水噴出ノズル待機室中に設けるミストを排気するための気流は、上記ノズル待機室の開口部において、問題を引き起こすミスト拡散方向と逆方向、即ち上記ノズル待機室開口部より該待機室の内部方向に、ミストが拡散する速度よりも大きい線速度を持つように設計してやれば良いものと考えられる。また、過度の吸引は乱流を作る可能性があることから好ましくない。そこで、この吸引の大きさは、基本的には装置の上記超純水噴出ノズル待機室の開口部の開口部面積に依存し、さらに形状にも影響を受けるものと考えられるが、例えば最も簡単な形状として柱状の超純水噴出ノズル待機室を設けた場合、本発明者らの取得したデータからは、断面積約4cmの空間に対して25〜80L/分の吸引を行なってやることが好ましく、更に好ましくは30〜50L/分である。そこで、上記好ましい流速としては乱流を起こさず、かつ6250〜20000cm/minの流速が好ましいと考えられる。
【0035】
また、ミストを待機室の開口部より拡散させずに待機室外へ排気させる機構として、上記に限られず、例えば、開口部から清浄な気体を待機室内へ流すことにより気流を作り、清浄な気体をかけ流すことにより、その気流と共に排気ラインよりミストを排気させることも可能である。
【0036】
一方、上記のような超純水噴出ノズル待機室に気流を作る方法によるものとは異なる機構として、前記超純水噴出ノズルが待機室外にある時はシャッターで待機室の開口部を閉じ、ノズルが前記超純水噴出ノズル待機室で待機する際には、該待機室と前記基板洗浄室との間でのミストの移動ができないよう、開口部を閉鎖する機構を挙げることができる。この機構による方法を実施するための具体的装置構造としては、例えば、図2に示すように、前記超純水噴出ノズルが待機室にある時には、該ノズルの先端部材が待機室の開口部に差し込まれて密着し、該待機室の開口部を前記超純水噴出ノズルで塞いでしまうことにより、前記超純水噴出ノズル待機室と前記洗浄室を遮断してしまい、ノズルが開口部から移動する際に、ミスト拡散防止用閉鎖装置13によりシャッター14を作動させることにより、開口部を閉鎖してしまう方法が挙げられる。
【0037】
このような機構の中でも、装置自体の機構の簡便さや、メンテナンスの点からすると、待機室に発生したミストを吸引装置を用いて作った気流により待機室外へ排気し、ミストの拡散を防止する機構が、より容易な解決法であり、より好ましい方法であると言える。
ただし、上記排気機構と閉鎖機構とを両方備え、より確実にミストの拡散を防止するようにしてもよい。
【0038】
また、本発明は、前記本発明の洗浄装置を用いて、前記待機室から前記基板洗浄室へのミストの拡散を防止しつつ、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体を洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法を提供する。
【0039】
この場合、基板を洗浄する工程が、少なくとも、(A)前記超純水噴出ノズル待機室内に、前記超純水噴出ノズルより超純水を排出する工程、(B)前記超純水噴出ノズルを前記超純水噴出ノズル待機室より前記基板洗浄室に移動させる工程、(C)前記超純水噴出ノズルより超純水を噴出させて基板の洗浄を行う工程を含むものであることが好ましい。
【0040】
上記本発明の基板の洗浄方法について、上述したミストの排気機構を設けた洗浄装置を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。このような装置とする理由、装置による作用は基本的にはその他のミスト拡散を防止する機構でも同様である。
【0041】
洗浄を行なう被洗浄基板7としては、具体的には、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体等とすることができ、上記超純水による洗浄は、洗浄剤等を用いた洗浄後の、最終洗浄であり、本超純水による洗浄後に乾燥が行われ、各製品あるいは中間体の洗浄工程が終了するものとすることができる。
【0042】
用いる超純水は、公知の超純水製造装置で製造されるものであり、通常イオン交換、異物除去と共に気泡除去もシステムに含まれる。この超純水製造装置で製造された超純水は、超純水ラインを通じて本発明の基板洗浄装置に供給されるが、一般には超純水の製造装置が基板洗浄装置の近傍にセットされることはない。そして、原因は明らかでないものの、気泡が除去された超純水であっても、経時的、あるいは供給ライン径の変化等による圧力変動等によって、ライン中に気泡が発生し、特にラインを流す超純水を停止させ、滞留時間を作るとライン中に気泡が発生し易くなる。このため、特許文献3のように、洗浄装置の近傍に脱気装置を別に設ければ、上述のような原因で発生する気泡による問題が軽減される。また、この洗浄装置近傍に脱気装置を設けることにより、より完全に気泡を除きたい場合には、洗浄のための超純水の供給開始時に、前記別に設けた脱気装置の下流で発生した気泡を除去すればよいことになり、超純水の供給開始時における排気すべき気泡を含んだ超純水の排出量を少なくすることができる。
しかし、このような方法でも、すべての気泡を除去するには限界があり、現実に気泡が原因のパーティクルが発生していた。
【0043】
本発明の洗浄方法では、上記超純水噴出ノズル1が、超純水噴出ノズル待機室2と、基板洗浄室3の間を移動可能な機構とされ、かつ超純水噴出ノズル待機室2には、排水機構と超純水噴出ノズル1から超純水を排出した際に発生するミストを基板洗浄室3に拡散させない機構、好ましくは前記超純水噴出ノズル待機室2で発生したミストを排気するミスト排気装置が設けられた基板洗浄装置を用い、下記の洗浄操作が実施される。
【0044】
上述の通り、洗浄装置には被洗浄基板7がセットされ、場合によっては別の薬液による洗浄が行われるが、この被洗浄基板7のセットの間、あるいは別の薬液による洗浄の間、上記超純水噴出ノズル1は、上記超純水噴出ノズル待機室2で待機する。この際、待機時間中に超純水ライン中に気泡が新たに発生しないよう、超純水を排出し続けても良いし、超純水の排出を一旦止めても良い。一旦超純水の排出を停止する場合には、超純水の超純水噴出ノズル1を待機室2中の待機位置から洗浄室3に移動させるに先立ち、超純水噴出ノズル待機室2で超純水を排出させて、ライン中に発生した気泡を超純水ライン中より排除する。この際、待機室2中では、排水機構の排水ライン5より超純水が排出されるとともに、前記超純水の排出操作によってミストが発生するが、待機室2では、ミスト排気機構4により一定方向の気流が作られ、ミストはその気流によって排気され、洗浄室3内には拡散しない機構が作動する。この気流は、装置運転時に常に作られるものでもよく、また超純水の排出と同時に開始され、超純水噴出ノズル待機室2での超純水の排出が停止された後、ミストが全て排気される時間を取った後に停止しても良い。
【0045】
次に、被洗浄基板7を超純水により洗浄するに先立ち、上記超純水噴出ノズル1を待機位置から基板洗浄室3に移動させる。上述の通り、移動前には超純水噴出ノズル1より超純水が排出するが、この移動時に超純水が噴出していると、待機室2と洗浄室3を隔てる隔壁11に超純水が当たって飛散してしまうため、一旦超純水の噴出を停止することが好ましい。
尚、待機室2から洗浄室3へのノズル1の移動は僅かな時間で行われるため、超純水の噴出を停止させてもライン中に気泡が発生することはない。
【0046】
更に、超純水噴出ノズル1が被洗浄基板7上に移動した後、超純水がノズル1より噴出され、被洗浄基板7が洗浄される。上述の通り、この洗浄室3でのミストの制御も重要であり、例えば特許文献5のような方法により、排気等の機構を設けることによってこの洗浄室3内で発生したミストの被洗浄基板7への再付着も防止されることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
[実験例1]
図1のように、基板を吸着固定して回転することができるスピナー6が設置され、固定された基板に洗浄用薬液および超純水を供給して基板を洗浄するスピン洗浄・乾燥機に、実際に洗浄が行われる基板洗浄室3とは隔壁で区切られ、その空間で超純水を排水できるよう空間下面に排水口を持つ超純水噴出ノズル待機室2を設け、更に吸引によって該超純水噴出ノズル待機室内の気体を吸引排気できる排気装置を装着した。また、超純水噴出ノズルは、予め定められた洗浄プロセスに従って、被洗浄基板上と前記超純水噴出ノズル待機室の間を移動できるように調整した。なお、この時、前記超純水噴出ノズル待機室は、排出した超純水が落下して飛散し、ノズルを汚染しないように十分な高さ(13cm)を持つ四角柱状の空間とし、その上部開口部面積は4cmであった。
超純水噴出ノズル待機室の開口部には、超純水が前記超純水噴出ノズル待機室で排出された時に発生するミスト量を計測するため、雰囲気気体の吸入ノズル(ミストパーティクル計測用吸引ノズル)を設置し、毎秒0.481L(0.017ft3)の気体を吸引して、吸引された気体中のパーティクルをパーティクルカウンター(トランステック社製A2100C:またはHe−Neレーザーによる計測方式)で計測できるようにした。
【0048】
まず始めに、前記超純水噴出ノズル待機室内の気体を吸引排気できる排気装置を作動させない状態で超純水噴出ノズルより超純水を噴出させて、超純水噴出ノズル待機室内のパーティクル数を測定したところ、10秒間に観測された0.1μm以上の径を持つパーティクル総数は432個(89.8個/L)であった。
次に、前記超純水噴出ノズル待機室の気体の排気装置により毎分20L吸引排気を行った状態で超純水噴出ノズル待機室内のパーティクル数を測定したところ、10秒間に観測された0.1μm以上の径を持つパーティクル総数は106個(22.0個/L)であり、吸引排気量を25Lに上げて測定したところ、パーティクル総数は数個程度であり、更に吸引排気量を30Lに上げて測定したところパーティクルカウンターではパーティクルは観測されなかった。
尚、吸引排気量を徐々に上げていったところ、吸引排気量が80Lを超えた時点で、乱流が発生した。
【0049】
この結果から、断面積4cmの空間に対して25〜80L/分の吸引を行うことで、乱流を発生させることなくミストの拡散を防止できることが確認できた。そして、線速度=流量/断面積の関係式より、線速度を求めた結果、超純水噴出ノズル待機室に約6250(25L/4cm)〜20000(80L/4cm)cm/分の線速度を持つ気流を作る排気を行ってやれば、乱流を発生させることなく、超純水噴出ノズル待機室から基板洗浄室へのミストの拡散を防止できることが確認できた。
【0050】
[実施例および比較例]
一辺が152mmの正方形であり、最表面材料としてCrONが成膜されたフォトマスク用基板53枚を用意し、本発明の洗浄装置を用いて連続的に洗浄・乾燥操作を行った。この際、洗浄サイクルは、(1)上記被洗浄基板を洗浄装置に固定する、(2)超純水ノズルを用いて被洗浄基板上に毎分1Lの超純水を9分間供給して、かけ流し洗浄を行う、(3)1000rpmで60秒間スピン乾燥を行う、(4)乾燥操作終了後、被洗浄基板を取りだし、次の被洗浄基板を固定する、とした。
また、洗浄装置の超純水噴出ノズルは、始めの1枚の洗浄開始前に超純水噴出ノズル待機位置で毎分1Lの超純水を1分間排出した後に、(1)一旦超純水の排出を停止する、(2)超純水噴出ノズルを待機室から基板洗浄室に移動する、(3)超純水を噴出して被洗浄基板上に超純水を供給する、(4)洗浄時間が終了後、超純水の噴出を停止して、超純水噴出ノズルを待機位置に移動する、(5)超純水噴出ノズル待機位置に戻った時点で再び超純水を排出する、とし、以下、被洗浄基板の交換に併せて(1)から(5)の工程を繰り返した。また、被洗浄基板を交換するための待機時間中、超純水噴出ノズルからの超純水の排出は停止しなかった。
【0051】
上述のような洗浄サイクルと超純水噴出ノズル稼働サイクルを用いて53枚のフォトマスク用基板を連続的に洗浄していったが、この際、29枚目までは、前記超純水噴出ノズル待機室の気体の排気装置による排気を行わず、29枚目のフォトマスク用基板の洗浄が終了した段階で、前記超純水噴出ノズル待機室の気体の排気装置による毎分30Lの排気を開始して、53枚目のフォトマスク用基板の洗浄が終了するまで排気を継続した。なお、基板洗浄室側ではすべての基板の洗浄において、洗浄室中で発生したミストの再付着による基板のパーティクル汚染を防ぐため、毎分405Lでの吸引を行った。
また、洗浄後の基板が持つパーティクル欠陥数は、(装置名GM1000A)を用い、ポリスチレン粒子を標準に用いて測定した。
【0052】
上記53枚のフォトマスク用基板の洗浄が終了した後、53枚の基板全てに対して新たに観測された合計の欠陥数は次の通りであった。
【表1】

【0053】
また、洗浄後の基板が持つ平均のパーティクル欠陥数の平均で比較した場合には、次の通りであった。
【表2】

【0054】
表1及び表2の結果より、超純水噴出ノズル待機室から基板洗浄室へのミストの拡散を防止することによって、超純水噴出ノズルを洗浄サイクルの間で被洗浄基板に超純水を供給する操作を待機している間に、気泡排除のため超純水噴出ノズルより超純水を排出した場合においても、洗浄によってパーティクル欠陥数が増加することを防止することができることが確認できた。
【0055】
即ち、本発明の洗浄装置によれば、超純水噴出ノズル待機室で、待機中に超純水噴出ノズルより超純水を排出することによって、超純水ライン中に超純水の供給停止によって生じる気泡の発生を抑制する、あるいは発生してしまった気泡を排出することができると共に、排出時に発生するミストが待機室から洗浄室に拡散して基板洗浄室にミストをもたらすことを防止でき、また、本発明の装置を用いた基板の洗浄方法によれば、洗浄室内のミスト量を減らすことによって、被洗浄基板がミストの付着を原因とするパーティクル汚染を受ける機会を大きく抑制することができ、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体の洗浄歩留まりを大きく向上させることができることが実証されたと言える。
【0056】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
1…超純水噴出ノズル、 2…超純水噴出ノズル待機室、 3…基板洗浄室、 4…待機室排気ライン、 5…待機室排水ライン、 6…スピナー、 7…被洗浄基板、 8…洗浄液排水ライン、 9…洗浄室ミスト排気ライン、 10…ミストパーティクル計測用吸引ノズル、 11…隔壁、 12…基板洗浄装置、 13…ミスト拡散防止用閉鎖装置(シャッター装置)、 14…シャッター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、超純水により基板を洗浄する際に超純水を噴出するための超純水噴出ノズルと、該超純水噴出ノズルから超純水を噴出して基板の洗浄を行う基板洗浄室とを有する、基板の洗浄を行うための洗浄装置であって、少なくとも、超純水による基板の洗浄の前後の待機中に前記超純水噴出ノズルを待機させるための、前記基板洗浄室とは隔壁により仕切られた超純水噴出ノズル待機室を有し、該待機室は、排水機構と前記超純水噴出ノズル待機室から前記基板洗浄室へのミスト拡散防止機構を具備するものであることを特徴とする基板の洗浄装置。
【請求項2】
前記ミスト拡散防止機構は、前記超純水噴出ノズル待機室に発生したミストを該待機室外へ排気する排気機構であることを特徴とする請求項1に記載の基板の洗浄装置。
【請求項3】
前記ミストを排気する機構は、前記超純水噴出ノズル待機室中の気体を吸引する装置であることを特徴とする請求項2に記載の基板の洗浄装置。
【請求項4】
前記ミスト拡散防止機構は、前記超純水噴出ノズル待機室の開口部を閉鎖する機構であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の基板の洗浄装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の基板の洗浄装置を用いて、前記待機室から前記基板の洗浄室へのミストの拡散を防止しつつ、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはそれらの製造中間体を洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項6】
基板を洗浄する工程が、少なくとも、(A)前記超純水噴出ノズル待機室内に、前記超純水噴出ノズルより超純水を排出する工程、(B)前記超純水噴出ノズルを前記超純水噴出ノズル待機室より前記基板洗浄室に移動させる工程、(C)前記超純水噴出ノズルより超純水を噴出させて基板の洗浄を行う工程を含むものであることを特徴とする請求項5に記載の基板の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−43584(P2011−43584A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190467(P2009−190467)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】