説明

基板処理方法および基板処理装置

【課題】少ない薬液で、かつ短時間で基板上の膜を良好にエッチングする。
【解決手段】フェムト秒レーザービームLBを膜Fの加工対象部位に照射し、フェムト秒レーザービームLBが照射された表面領域に凹凸形状を有する加工部WRを形成する。この基板W上のレーザー処理済膜Fの表面に薬液が供給されてエッチング処理が実行される。このとき、加工部WRの表面は凹凸形状を有しているため、薬液の接液面積が増大し、その結果、レーザー加工処理が施されていない場合に比べ、エッチング処理に要する時間および薬液量を削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハなどの各種基板上に形成される膜をエッチングする基板処理方法および基板処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品の製造工程では、基板上に形成される膜を薬液によりエッチングする工程が含まれることがある。例えば特許文献1には、表面にポリシリコン膜が形成された基板をスピンチャックにより略水平姿勢で保持しながら回転させ、その回転されている基板上のポリシリコン膜に薬液を供給することで、ポリシリコン膜をエッチングする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−351805号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような薬液によるエッチング処理では、膜のエッチングに要する時間が長く、薬液消費量も多くなり、その結果、製造コストが増大するという問題があった。また、薬液の消費量の増大は環境に与える負荷を高めるという問題もあった。そこで、エッチング処理に要する時間の短縮および薬液消費量の削減が可能な技術が要望されている。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、少ない薬液で、かつ短時間で基板上の膜を良好にエッチングすることができる基板処理方法および基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる基板処理方法は、上記目的を達成するため、基板上に形成された膜に対し、フェムト秒レーザーを照射して膜のフェムト秒レーザーが照射された表面領域に凹凸形状を有する加工部を形成するレーザー照射工程と、加工部が形成された膜の表面に薬液を接液させてエッチングするエッチング工程とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、この発明にかかる基板処理装置は、基板上に形成された膜をエッチングする基板処理装置であって、上記目的を達成するため、膜に対し、フェムト秒レーザーを照射して膜のフェムト秒レーザーが照射された表面領域に凹凸形状を有する加工部を形成するレーザー加工手段と、加工部が形成された膜の表面に薬液を供給して膜をエッチングする薬液供給手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
このように構成された発明(基板処理方法および基板処理装置)では、膜の表面に薬液を接液させてエッチングする前に、フェムト秒レーザーが膜の全面または部分的に照射され、フェムト秒レーザーが照射された表面領域に凹凸形状を有する加工部が形成される。そして、薬液が膜の表面に供給されてエッチング処理が実行されるが、加工部では薬液が接液する面積が従来技術(エッチング前処理を行うことなく、単に薬液を用いてエッチング処理を行う発明)に比べて増大するため、エッチングに要する時間および薬液量が削減される。
【0009】
また、この発明では、膜の表面に加工部を形成するために、特にフェムト秒レーザーを用いているために、次のような作用効果が生じている。レーザーとしては、上記フェムト秒レーザー以外に、ピコ秒レーザーやYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザーなどを用いることも考え得るが、後述するように、清浄な加工部、つまりデブリ(レーザー加工時に発生する加工クズ)により汚染されていない加工部を形成し得るのはフェムト秒レーザーを用いた場合のみである。このように清浄な加工部が得られることから、その後の行われるエッチング処理を良好に行うことができる。
【0010】
ここで、膜の全面に対してフェムト秒レーザーを照射した後、膜全面に薬液を接液させることで、薬液の消費量を抑制しながら短時間で基板から膜を全面除去することができる。
【0011】
さらに、エッチングの目的は基板からの全面除去に限定されるものではなく、後述するようにエッチングしようとする厚みを膜の表面内において部分的に異ならせることが要望されることがある。そこで、膜の表面を複数の表面領域に区分けし、各表面領域に対するフェムト秒レーザーの照射量を相違さるとともに、フェムト秒レーザーの照射後に膜全面に薬液を接液させて各表面領域へのフェムト秒レーザーの照射量に応じたエッチング速度で各表面領域をエッチングするように構成してもよい。これによって、エッチングに要する時間および薬液消費量を低減することができるだけでなく、種々の要望に応じたエッチングを行うことができ、優れた汎用性が得られる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、膜へのフェムト秒レーザーの照射によってフェムト秒レーザーが照射された表面領域に凹凸形状を有する加工部を形成しているので、加工部では薬液の接液面積が広がりエッチングに要する時間および薬液量を削減することができる。その結果、製造コストおよび環境負荷を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる基板処理装置の第1実施形態を示す図である。
【図2】レーザー加工ユニットの構成を示す図である。
【図3】図1の基板処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】図1の基板処理装置の動作を示す模式図である。
【図5】膜表面の凹凸形状とレーザー照射との関係を示す図である。
【図6】本発明にかかる基板処理装置の第2実施形態の動作を模式的に示す図である。
【図7】本発明にかかる基板処理装置の第3実施形態の動作を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明にかかる基板処理装置の第1実施形態を示す図である。この基板処理装置は、レーザー加工ユニット1、基板搬送ユニット2、薬液エッチングユニット3および装置全体を制御する制御ユニット4を有している。そして、基板処理装置では、制御ユニット4が各ユニット1〜3を制御し、図示を省略する基板収容容器に収容された基板Wを基板収容容器から取り出し、基板の表面全体に形成されているポリシリコン膜などの膜に対してレーザー加工処理を施した後で、膜を全面的にエッチング除去する。
【0015】
図2は、レーザー加工ユニットの構成を示す図である。このレーザー加工ユニット1では、基板Wの表面に形成された膜Fを上方に向けた状態で基板Wを真空吸着方式で保持するスピンチャック11が設けられている。このスピンチャック11は回転軸AXを回転中心として回転自在となっており、その上面には、複数の吸着孔(図示省略)が設けられている。そして、図示を省略する負圧源から各吸着孔に与えられる負圧によってスピンチャック11の上面に載置される基板Wの裏面が真空吸着されて保持される。なお、スピンチャック11による基板Wの保持方式は真空吸着方式に限定されるものではなく、従来より周知の方式、例えばメカチャック方式などを採用してもよい。
【0016】
また、スピンチャック11の下面には、回転軸AXに延設された回転支軸12の上端部が連結されている。また、この回転支軸12の下端部には回転駆動機構13が連結されており、制御ユニット4との間でデータや制御信号などを授受しながらレーザー加工ユニット1全体を制御するユニット制御部14からの動作指令に応じて回転駆動機構13を駆動させることによりスピンチャック11が回転軸AX回りに回転する。更にレーザー加工ユニット1は、スピンチャック11を回転駆動機構13とともに一体的に図2中左右にスライド移動させる移動機構17を備える。このように、この実施形態では、ユニット制御部14からの制御指令によってスピンチャック11に保持される基板Wを種々の周速で回転軸AX回りに回転させることが可能となっている。更に、スピンチャック11の回転軸AXの位置を一方向に移動させることが可能となっている。
【0017】
本実施形態では、パルスレーザービームLBの発生源として、フェムト秒レーザービームLBを出力するレーザー光源(例えば、サイバーレーザー社製、製品名「IFRIT(イフリート)」)15が用いられている。また、このレーザー光源15から水平方向に出力されるフェムト秒レーザービームLBが照射部16によりスピンチャック11に保持された基板Wに照射される。
【0018】
この照射部16は、フェムト秒レーザービームLBを反射して下方に導光するミラー161と、ミラー161で反射されたフェムト秒レーザービームLBを整形する2枚のシリンドリカルレンズ162、163と、これらのシリンドリカルレンズ162、163により整形されたフェムト秒レーザービームLBを膜Fに集光させる集光レンズ164とを有している。このように、本実施形態では、照射部16によりフェムト秒レーザービームLBを所望のビーム形状に整形するとともに膜Fの表面に集光させて当該膜表面での照射ビームサイズ、つまり照射面積を調整して当該界面でのフェムト秒レーザービームLBのフルエンスを調整している。
【0019】
また、上記したようにユニット制御部14からの移動指令に基づいて移動機構17が作動すると、スピンチャック11全体がX方向にスライド移動し、それにより回転軸AXは基板Wの径方向Xに移動する。これに対し、照射部16は固定配置されている。このように、スピンチャック11は基板Wの回転中心を通る移動経路に沿って照射部16に対して径方向Xに相対移動可能となっている。また、レーザー加工処理を行わない間、移動機構17はスピンチャック11を照射部16から径方向Xに離れた位置に移動させ、この位置でスピンチャック11に対する基板Wの搬入および搬出が行われ、照射部16が基板Wと干渉するのを防止している。
【0020】
このように構成されたレーザー加工ユニット1によれば、スピンチャック11に保持された基板Wを回転させながらスピンチャック11を移動することで照射部16を少なくとも基板端縁部から基板Wの回転中央まで径方向Xに基板Wに対して相対移動させることで基板Wの表面全体に形成された膜Fに対してフェムト秒レーザービームLBが全面的に照射される。これによって、膜Fの全表面領域に凹凸形状を有する加工部が形成される。なお、以下の説明においては、このようにしてレーザー照射によって表面が凹凸形状に仕上げられた膜Fを「レーザー処理済膜F」と称するとともに、レーザー処理済膜Fを有する基板Wを「レーザー処理済基板W」と称し、また後述するようにしてレーザー処理済基板Wの膜Fがエッチングされた基板Wを「エッチング処理済基板」と称する。
【0021】
このように構成されたレーザー加工ユニット1のX方向側(図1の下方側)に基板搬送ユニット2が配設されるとともに、基板搬送ユニット2のY方向側(図1の右手側)に薬液エッチングユニット3が配設されている。
【0022】
基板搬送ユニット2は従来より多用されている多関節ロボットを有しており、制御ユニット4からの基板搬送指令に応じて
・基板収容容器からレーザー加工ユニット1への未処理基板Wのローディング、
・レーザー加工ユニット1からのレーザー処理済基板Wのアンローディング、
・薬液エッチングユニット3へのレーザー処理済基板Wのローディング、
・薬液エッチングユニット3からのエッチング処理済基板Wのアンローディング、
を選択的に行う。なお、基板搬送ユニット2では、基板搬送手段として多関節ロボットを用いているが、その他の基板搬送機構を用いてもよい。
【0023】
また、薬液エッチングユニット3としては、薬液を用いて膜Fをエッチングできるものであればよく、例えば特許文献1に記載の装置、あるいはこれに類似した構成を有する装置を用いることができる。なお、本実施形態では、薬液および純水リンス液の供給態様を除き特許文献1に記載の装置と同一な構成を有する薬液エッチングユニット3を用いている。すなわち、基板Wがスピンチャック(図示省略)により保持された状態で、スピンチャックとともに基板Wを一体的に回転させる機構が設けられている。そして、回転される基板Wに対して、互いに異なるノズル311、321から薬液および純水リンス液がそれぞれ基板Wの表面に向けて吐出される。すなわち、図1に示すように、スピンチャックに保持された基板Wのレーザー処理済膜Fに対してノズル311から薬液を供給して膜Fをエッチングする薬液供給部31が設けられるとともに、ノズル321からエッチング処理済基板Wの表面に純水リンス液を供給して薬液およびエッチング時の反応生成物などをエッチング処理済基板から洗い流すリンス液供給部32が設けられている。本実施形態では、例えばシリコン基板Wの表面にシリコン酸化膜(SiO)およびポリシリコン膜(Poly−Si)がこの順序で形成されており、その最上層であるポリシリコン膜をエッチング対象膜Fとしており、これをエッチングするために薬液中の濃度が5[wt%]、60℃の水酸化テトラメチルアンモニウム(Tetramethylammonium hydroxide:TMAH)を用いている。また、リンス処理に使用する純水リンス液として、DIW(脱イオン水:deionized water)を用いている。
【0024】
次に、上記のように構成された基板処理装置の動作について、図3および図4を参照しつつ説明する。図3は図1の基板処理装置の動作を示すフローチャートである。また、図4は図1の基板処理装置の動作を示す模式図である。なお、図4(および後で説明する図6、図7)では、膜Fに対する各種処理の内容を明示することを優先し、基板W、膜Fおよび加工部WRの厚さ関係については、実際の各部寸法と相違している。
【0025】
基板処理装置に対して処理開始命令がホスト装置やオペレータなどから与えられると、制御ユニット4は、レーザー加工ユニット1、基板搬送ユニット2および薬液エッチングユニット3を以下のように制御して基板W上の膜Fを全面的にエッチング除去する。
【0026】
基板搬送ユニット2は、制御ユニット4からのローディング指令に受けて基板収容容器から未処理基板Wを取り出し、膜Fを上方に向けた状態で未処理基板Wをレーザー加工ユニット1のスピンチャック11上にローディングする(ステップS1)。
【0027】
一方、未処理基板Wを受け取ったレーザー加工ユニット1では、ユニット制御部14がユニット1の各部を制御して膜Fの全面にフェムト秒レーザービームLBを照射して凹凸形状を有する加工部WRを形成する(ステップS2、S3)。すなわち、スピンチャック11による基板Wの吸着保持が完了すると、ユニット制御部14は回転駆動機構13に対して駆動指令を与え、回転駆動機構13によりスピンチャック11を回転させる。これによって、基板Wは膜Fを上方に向けた状態で水平姿勢のまま回転軸AXを回転中心として回転し始める(ステップS2)。そして、基板Wの周速が安定し、所定の周速V[mm/s]に達すると、ユニット制御部14は移動機構17に移動指令を与え、照射部16の直下位置に基板Wの表面周縁部が位置するまでスピンチャック11を移動させるとともに、ステップS3でレーザー光源15に点灯指令を与えてレーザー光源15からフェムト秒レーザービームLBを出射させる(図4(a))。これによって、フェムト秒レーザービームLBが照射された表面領域では、膜Fの表面が部分的に加工されて凹凸形状を有する加工部WRが形成される。
【0028】
また、本実施形態では、レーザー照射を継続させながら、基板Wを回転させて照射部16の直下位置を基板Wが一周すると、スピンチャック11を基板Wの径方向Xに駆動し、基板Wに対するフェムト秒レーザービームLBの照射位置を径方向Xに移動させる。この動作を繰り返すことで、照射部16からのレーザービームLBが照射される基板Wの表面領域が回転中心側に近づき、さらに回転中心を超えて回転軸AXに対して照射開始位置の反対側まで移動する。これによってフェムト秒レーザービームLBが照射される表面領域は膜Fの表面全体に広がり膜Fの表面全体が加工部WRとなる。つまり、膜Fの表面全体が凹凸形状に仕上げられたレーザー処理済基板Wが得られる(同図(b))。なお、同図(b)では、図示説明の便宜からレーザービームLBの照射位置をずらして図示しているが、この実施形態ではレーザービームLBの照射位置は固定されており、上記したように基板WをX方向(同図の左右方向)に移動させている。
【0029】
こうして所望のレーザー加工処理が完了すると、ユニット制御部14はレーザー光源15を消灯し、スピンチャック11を移動することで照射部16の直下位置から基板Wを離間させ、さらにスピンチャック11の回転を停止させる。その後、基板搬送ユニット2は、制御ユニット4からのアンローディング指令に受けてレーザー処理済基板Wをレーザー加工ユニット1からアンローディングする(ステップS4)。
【0030】
そして、薬液エッチングユニット3でのエッチング処理の準備が完了していることを確認すると、制御ユニット4は薬液エッチングユニット3へのレーザー処理済基板Wのローディング指令を与える。また、これを受けた基板搬送ユニット2は、レーザー処理済膜Fを上方に向けた状態でレーザー処理済基板Wを薬液エッチングユニット3のスピンチャック(図示省略)上にローディングする(ステップS5)。
【0031】
一方、レーザー処理済基板Wを受け取った薬液エッチングユニット3は、特許文献1に記載の装置を初めとする枚葉式のウェット洗浄装置と同様に、レーザー処理済基板Wを回転させながら(ステップS6)、図4(c)に示すようにレーザー処理済膜Fへの薬液供給によるエッチング処理(ステップS7)、図4(d)に示すようにエッチング処理された基板Wの表面へのリンス液供給によるリンス処理(ステップS8)およびスピン乾燥(ステップS9)をこの順序で実行する。これにより基板Wの表面から膜Fがエッチング除去されてエッチング処理済基板Wが得られる。
【0032】
こうして所望のエッチング処理が完了すると、基板搬送ユニット2は、制御ユニット4からのアンローディング指令に受けてエッチング処理済基板Wを薬液エッチングユニット3からアンローディングし、処理済基板Wを収容する基板収容容器(図示省略)に収容する(ステップS10)。
【0033】
以上のように、第1実施形態では、エッチング処理(ステップS7)を実行する前に、フェムト秒レーザービームLBを膜Fの全面に照射し、フェムト秒レーザービームLBが照射された表面領域に凹凸形状を有する加工部WRを形成している。このため、加工部WRでは薬液の接液面積が増大し、その結果、エッチング処理(ステップS7)に要する時間および薬液量を削減することができる。例えばシリコン基板Wの表面にシリコン酸化膜(SiO)を介して厚さ1000[nm]のポリシリコン膜がエッチング対象膜Fとして設けられたサンプル基板を複数枚準備し、各サンプル基板のエッチング対象膜Fを濃度5[wt%]、60℃の水酸化テトラメチルアンモニウムでエッチング処理する前に、以下の条件でレーザー加工処理を行った場合と、レーザー加工処理を全く行わなかった場合とで実験したところ、以下のような結果が得られた。
【0034】
上記サンプル基板を用いた具体例でのレーザー加工処理の条件は、
・上記レーザー光源15から出力されるフェムト秒レーザーの仕様
波長:800[nm]、
パルス幅:250[fs]、
平均出力:1[W]
・加工条件
照射ビームサイズ:3.5(基板Wの径方向Xの長さ)×0.01(基板Wの周方向の幅)[mm]
レーザービームLBのフルエンス:215[mJ/cm
レーザービームLBと基板Wの相対速度:2[mm/s]
である。ここで、レーザー加工処理の有無による膜Fの表面状態を観察したところ、レーザー加工処理を全く行わなかったサンプル基板(以下「イニシャル基板」という)の膜の表面形状は図5(a)に示すように平滑であるのに対し、レーザー加工処理を行うと、同図(b)に示すように、レーザー処理済基板に形成されている膜の表面全体が凹凸形状に加工されている。そして、イニシャル基板およびレーザー処理済基板からポリシリコン膜を除去するのに要するエッチング処理時間はそれぞれ240[sec]、150[sec]であった。このように、エッチング前処理としてレーザー加工処理を行うことでエッチング処理時間を90[sec]も短縮することが可能となっている。また、エッチング処理時間の短縮化によって薬液量も大幅に削減することができることがわかる。このように、この実施形態によれば、少ない薬液で、かつ短時間で基板W上の膜Fをエッチングすることができる。
【0035】
また、本実施形態のようにレーザービームLBと基板Wの相対速度が2[mm/s]であるのなら、レーザービームLBの照射位置が重ならないように基板Wを回転させながらスピンチャック11を移動することで膜Fの表面全体を加工するようにしてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、いわゆる「非熱プロセス」であるフェムト秒レーザーを用いて膜Fの表面に凹凸形状の加工部WRを形成するため、次の作用効果が得られる。すなわち、単に凹凸形状を膜表面に形成するためであれば、従来より周知のレーザーを利用することも考えられる。例えばTFT(薄膜トランジスタ:Thin Film Transistor)の製造プロセスで利用されているレーザーアニール法は、ガラス基板上に成膜されたアモルファスシリコンの表面をエキシマレーザーで加熱することで、ポリシリコンへと結晶化させる工程である。ポリシリコン膜に対してエキシマレーザーを照射して凹凸形状を形成するためには、エキシマレーザーの照射エネルギーを大きくして、アブレーション現象を利用することは可能である。しかしながら、同技術を用いた場合には、下地(基板)への熱的ダメージは避けられない。また、熱加工であるが故に溶融したシリコン屑が周辺に飛散して固着するデブリが発生してしまい、清浄な加工部が得られず、これが良好なエッチング処理を阻害する要因のひとつとなってしまう。一方、照射エネルギーを抑制してアブレーションしないレベルまで低下させたとしても、これでは単に結晶化を促進するだけで、後工程のエッチング処理時間を短縮できるような効果は得られない。
【0037】
また、他のレーザーとしてピコ秒レーザーを用いることも検討し、実際にピコ秒レーザーを上記したサンプル基板に照射したところ、図5(c)に示すように、凹凸形状が形成されるものの、デブリ発生により膜表面の清浄度が低下しており、フェムト秒レーザーを用いることの優位性が明らかになった。つまり、少ない薬液で、良好かつ短時間でエッチング処理を行うためには、フェムト秒レーザーによるレーザー加工処理が効果的であることがわかった。
【0038】
図6は本発明にかかる基板処理装置の第2実施形態の動作を模式的に示す図である。この第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、フェムト秒レーザービームLBの照射領域である。つまり、第1実施形態では膜Fの表面全体にフェムト秒レーザービームLBを照射して膜表面全体に凹凸形状を付与しているのに対し、第2実施形態では部分的にフェムト秒レーザービームLBを照射して膜Fの表面に加工部WRと、凹凸形状を付与していない非加工部NWRを設けている点である。以下、第2実施形態について図6を参照しつつ第1実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0039】
基板搬送ユニット2により未処理基板Wがレーザー加工ユニット1にローディングされた後、スピンチャック11による基板Wの吸着保持が完了すると、ユニット制御部14は、第1実施形態と同様に、スピンチャック11を回転させるとともに、移動機構17によって基板Wの表面周縁部を照射部16の直下位置、つまりレーザービームLBの照射位置まで移動させた後、レーザー光源15からフェムト秒レーザービームLBを出射させる(図6(a))。これによって、フェムト秒レーザービームLBが照射された表面領域では、膜Fの表面が選択的に加工されて凹凸形状を有する加工部WRが形成される。
【0040】
それに続いて、レーザー照射を継続させながら、基板Wを回転させるとともにスピンチャック11を移動することで照射部16に対して基板Wを径方向Xに相対駆動させるが、照射部16に対する基板Wの移動量、つまり相対移動量は基板Wの半径に比べて小さい値、例えばベベルエッチング幅程度に設定されている。これによって、膜Fに対して円環状の加工部WRが形成される一方、加工部WRよりも内側、つまり回転軸AX側の表面領域ではフェムト秒レーザービームLBが照射されず、非加工部NWRとなっている(図6(b))。
【0041】
こうして所望のレーザー加工処理が完了すると、第1実施形態と同様に、ユニット制御部14はレーザー光源15の消灯、照射部16の直下位置からのスピンチャック11の離間移動およびスピンチャック11の回転停止を実行し、それに続いて、基板搬送ユニット2はレーザー処理済基板Wをレーザー加工ユニット1から薬液エッチングユニット3に移送する。
【0042】
そして、レーザー処理済基板Wを受け取った薬液エッチングユニット3は、第1実施形態と同様に、レーザー処理済基板Wを回転させながらレーザー処理済膜Fの全面に薬液を供給してエッチング処理を実行する(図6(c))。ここで、第2実施形態での特徴は、レーザー処理済膜Fには2種類の表面領域、つまり加工部WRと非加工部NWRが存在し、各部でのエッチング速度が相違している点である。つまり、凹凸形状を有する加工部WRのエッチング速度が非加工部NWRのそれよりも高いため、加工部WRが非加工部NWRよりも早くエッチング除去されて基板Wの表面が露出する(図6(d))。このように部分的に膜Fを残存させながら基板Wの周縁部を露出させることができる。
【0043】
このエッチング処理が完了すると、第1実施形態と同様に、エッチング処理された基板Wの表面へのリンス液供給によるリンス処理(ステップS8)およびスピン乾燥(ステップS9)がこの順序で実行された後、エッチング処理済基板Wが基板搬送ユニット2により薬液エッチングユニット3からアンローディングされ、処理済基板Wを収容する基板収容容器(図示省略)に収容される。なお、エッチング処理を全面に薬液を供給して実行しているが、レーザー加工処理を行った加工部WRのみに部分的に薬液を供給するようにしてもよい。
【0044】
以上のように、第2実施形態では、フェムト秒レーザービームLBの照射領域を制御することで同一の膜内にエッチング速度の差を設けて多様なエッチング処理が可能となっており、上記第1実施形態の作用効果のみならず、高い汎用性を有している。
【0045】
また、同一膜内でもフェムト秒レーザービームLBを照射する領域と照射しない領域とを設けてエッチング処理の汎用化を図るという技術思想については、上記第2実施形態に限定されるものではなく、例えば図7に示すように膜の平坦化にも適用することができる。
【0046】
図7は本発明にかかる基板処理装置の第3実施形態の動作を模式的に示す図である。この第3実施形態では、膜Fのうち厚肉部分FFにフェムト秒レーザービームLBを照射して加工部WRとしてエッチング速度を高める一方、薄肉部分FTにはフェムト秒レーザービームLBを照射せず非加工部NWRとしてエッチング速度の差を設けている。すなわち、第3実施形態では、基板搬送ユニット2により未処理基板Wがレーザー加工ユニット1にローディングされた後、スピンチャック11による基板Wの吸着保持が完了すると、ユニット制御部14は、第1実施形態と同様に、スピンチャック11を移動機構17によって厚肉部分FFの周縁部が照射部16の直下位置に位置するまで移動させた後、レーザー光源15からフェムト秒レーザービームLBを出射させる(図7(a))。これによって、フェムト秒レーザービームLBが照射された表面領域では、膜Fの表面が選択的に加工されて凹凸形状を有する加工部WRが形成される。
【0047】
それに続いて、レーザー照射を継続させながら、基板Wを回転させるとともにスピンチャック11の移動により厚肉部分FFの各部を照射部16の直下位置に位置させて厚肉部分FFの表面領域全体に凹凸形状に仕上げてエッチング速度を高める。なお、厚肉部分FFへのレーザー照射が完了すると、レーザー照射を終了させる。これによって、厚肉部分FFは上記したように加工部WRとなり、薄肉部分FTは非加工部NWRとなる。
【0048】
こうして所望のレーザー加工処理が完了すると、第1実施形態と同様に、ユニット制御部14はレーザー光源15の消灯、照射部16の直下位置からのスピンチャック11の離間移動およびスピンチャック11の回転停止を実行し、また基板搬送ユニット2はレーザー処理済基板Wをレーザー加工ユニット1から薬液エッチングユニット3に移送する。
【0049】
そして、レーザー処理済基板Wを受け取った薬液エッチングユニット3は、第1実施形態と同様に、レーザー処理済基板Wを回転させながらレーザー処理済膜Fに薬液を供給してエッチング処理を実行する(図7(c))。これにより、レーザー処理済膜Fのうち厚肉部分FF(加工部WR)が薄肉部分FT(非加工部NWR)に比べて単位時間当たりのエッチング量が多く、エッチング進行に伴い膜厚差が縮小され、やがてゼロとなり、膜Fが平坦化される(図7(d))。
【0050】
このエッチング処理が完了すると、第1実施形態と同様に、エッチング処理された基板Wの表面へのリンス液供給によるリンス処理およびスピン乾燥がこの順序で実行された後、エッチング処理済基板Wが基板搬送ユニット2により薬液エッチングユニット3からアンローディングされ、処理済基板Wを収容する基板収容容器(図示省略)に収容される。
【0051】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、膜Fが単層である場合について説明したが、例えば具体例(ポリシリコン膜/シリコン酸化膜/シリコン基板)で説明したように、膜が多層構造である場合も同様である。つまり、多層構造の最上層がエッチング対象膜であり、本発明の「基板上に形成された膜」に相当する。
【0052】
また、上記実施形態では、薬液として濃度5[wt%]、60℃の水酸化テトラメチルアンモニウムを用いているが、薬液の種類、濃度や温度などについてはこれに限定されるものではなく、膜成分に応じて適切なものを採用すればよい。
【0053】
また、上記実施形態では、照射部16を固定配置する一方、基板Wを回転させながらスピンチャック11をX方向に移動させてレーザー照射領域、つまり膜Fの表面に凹凸形状を付与する加工部WRの範囲を制御しているが、照射部16のみを移動させる、あるいは照射部16およびスピンチャック11を移動させることによって、基板Wと照射部16とを相対的に移動させて加工部WRを形成する範囲を制御してもよい。
【0054】
また、上記第2実施形態および第3実施形態では、膜Fの表面を2つの表面領域、つまり加工部WRと非加工部NWRに区分けし、フェムト秒レーザービームLBの照射量をそれぞれ相違させることでエッチング速度を異ならせているが、表面領域の区分け数は「2」に限定されるものではなく、3以上であってもよい。また、区分け数がn(n≧3の自然数)である場合には、各表面領域での照射量を2段階ないしn段階の範囲で相違させてもよい。
【0055】
さらに、上記実施形態では、レーザー加工ユニット1と薬液エッチングユニット3とを分離して設けているが、両ユニット1、3を一体化し、単一筐体内でレーザー加工処理および薬液エッチング処理を連続的に実行するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明は、半導体ウエハなどの各種基板上に形成される膜をエッチングする基板処理方法および基板処理装置全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…レーザー加工ユニット(レーザー加工手段)
3…薬液エッチングユニット(薬液供給手段)
31…薬液供給部(薬液供給手段)
F…膜
LB…フェムト秒レーザービーム
NWR…非加工部
W…基板
WR…加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された膜に対し、フェムト秒レーザーを照射して前記膜の前記フェムト秒レーザーが照射された表面領域に凹凸形状を有する加工部を形成するレーザー照射工程と、
前記加工部が形成された前記膜の表面に薬液を接液させてエッチングするエッチング工程と
を備えることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記レーザー照射工程は前記膜の全面に対して前記フェムト秒レーザーを照射する工程であり、
前記エッチング工程は前記膜全面に前記薬液を接液させて前記基板から前記膜を除去する請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記レーザー照射工程は、前記膜の表面を複数の表面領域に区分けし、各表面領域に対するフェムト秒レーザーの照射量を相違させる工程であり、
前記エッチング工程は前記膜全面または部分的に薬液を接液させて各表面領域へのフェムト秒レーザーの照射量に応じたエッチング速度で各表面領域をエッチングする請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項4】
基板上に形成された膜をエッチングする基板処理装置であって、
前記膜に対し、フェムト秒レーザーを照射して前記膜の前記フェムト秒レーザーが照射された表面領域に凹凸形状を有する加工部を形成するレーザー加工手段と、
前記加工部が形成された前記膜の表面に薬液を供給して前記膜をエッチングする薬液供給手段と
を備えることを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−69978(P2013−69978A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208925(P2011−208925)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】