説明

堤防の胸壁構造

【課題】防潮堤の堤防の嵩上げに適した新規な構成の胸壁構造を提供する。
【解決手段】胸壁構造は胸壁骨組26と、該胸壁骨組26に組み付けられる胸壁本体とを備えている。胸壁骨組26は、複数本の支柱30と該支柱30の前面側又は後面側に取り付けられる横梁32とを有する。胸壁本体は、横梁32の下側に沿って複数個の窓開口部36aを備えた前面パネル36と、該前面パネル36の前記開口部を左右方向に吊り下げ状態でスライドして開閉可能な後面パネル(透明窓板等)38とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な堤防の胸壁構造に関し、特に、海岸等に施工される防潮堤の嵩上げ構造として好適なものである。
【0002】
ここでは、防潮堤を例に採り説明するが、河川堤防の嵩上げにも適用できる。また、本発明の堤防の胸壁構造は、既設の堤防嵩上げばかりでなく、新規な堤防を施工する際にも適用できるものである。
【背景技術】
【0003】
昨今の地球温暖化の影響で、地球全体に渡り海面が上昇傾向にある。このため、防潮堤(以下「堤防」という。)の嵩上げを(更に高く)する必要とする場合が多くなってきている。
【0004】
「そして、堤防を更に高くする手段には、堤防全体を大きくして高くする場合と、堤防の天端に胸壁を設けて高くする場合がある。堤防の天端に胸壁を設ける方法は、河川堤防に対して十分な敷地を確保できない地形などで利用されている。この胸壁には固定式と可動式のものがある。」(以上、特許文献1の従来技術の項から引用)。
【0005】
そして、固定式の場合は視界の妨げとなり、且つ、解放感ないし風通しを妨げる。このような問題点を解決するために、前記特許文献1では、下記構成の可動堤防が提案されている。
【0006】
「堤防の天端上方に胸壁を堤防の断面廻りに回動自在に設け、上記胸壁を堤防の断面方向に複数連接すると共に、平常時は上記胸壁を堤防の天端上方に保持して雨よけ、日よけ等とし、洪水時は上記胸壁を転倒して堤防としたことを特徴とする。」
【0007】
しかし、当該構成の可動胸壁は、モータ等の機械力で可動させる必要があり、装置が大掛かりとなり、防潮堤のような距離の長い部位には、必ずしも、適しているとはいえなかった。
【0008】
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、堤防の天端に(可動)胸壁を設けて堤防の嵩上げをする技術に関連する先行技術文献として、特許文献1の他に、特許文献2〜4等を挙げることができる。
【特許文献1】特許2566458号公報
【特許文献2】特開平8−209654号公報
【特許文献3】特開2001−81751号公報
【特許文献4】特開2002−220822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術に開示若しくは示唆されていない、堤防の嵩上げに適した新規な構成の堤防の胸壁構造を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の胸壁構造は、上記目的(課題)を下記構成により解決するものである。
【0011】
胸壁骨組と、該胸壁骨組に組み付けられる胸壁本体とを備え、
前記胸壁骨組は、所定ピッチで配された支柱と該支柱の前面側又は後面側に取り付けられる横梁とを有し、
前記胸壁本体は、前記横梁の下側に沿って所定ピッチで開口部を備えた前面パネルと、該前面パネルの前記開口部を左右方向にスライドして開閉可能に配された後面パネル(窓板)とを有している、ことを特徴とする。
【0012】
上記構成とすることにより、従来に比べて、軽量化が図れ、施工性が改善されるとともに、平時は窓開とすることにより、海面側乃至陸地側を透視することができ、圧迫感をなくすことができるとともに、景観に対する影響が少ない。
【0013】
上記構成において、横梁の下側に沿ってレールを配し、該レールに前記後面パネルを移動可能に吊り下げる構造とすることが望ましい。胸壁構造の施工性が更に向上する。
【0014】
上記各構成において、前面パネル及び前記後面パネルを透明パネルで形成することが望ましい。窓開閉に関係なく、海面側乃至陸地側の双方からの透視性が更に向上することにより、景観における圧迫感が更に低減する。
【0015】
上記各構成において、前面パネル及び後面パネル(窓板)の垂直断面を、円弧状とすること、が望ましい。
【0016】
胸壁本体に必要な断面性能(断面係数、慣性二次モーメント)を、より薄肉のパネルで得ることができ、より経済的な設計が可能となる。
【0017】
ここで円弧状の突出方向は、図例の受圧面側でも、逆の非受圧面側でもよい。
【0018】
受圧面側を凸面とした場合は、受圧面を小さくでき胸壁構造を相対的に小さくできるのに対し、非受圧面側を凸面とした場合は、受圧面側が凹面となり波返し効果が期待できる。
【0019】
さらに、上記前面パネル及び後面パネルは、板を曲げ加工して製作することもできるが、既製品の大径管を用いて、必要断面性能を確保できる半円未満の円弧状の部材に切断して使用することにより、更に経済的な設計が可能となる。
【0020】
上記各構成の堤防の胸壁構造は、嵩上げ堤防の切欠き部に配設することにより、堤防の嵩上げを短期間で施工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の胸壁構造の一例を適用した嵩上げ堤防の概略断面図である。
【図2】図1の2−2線概略矢視図である。
【図3】同じく3−3線概略矢視図である。
【図4】図2の4−4線概略矢視断面図である。
【図5】同じく5−5線矢視断面図(背景一部省略)である。
【図6】同じく6−6線概略矢視断面図である。
【図7】本発明の別の実施形態における、図4に対応する概略断面図である。
【図8】本発明の基本的な実施形態における、図4に対応する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の望ましい形態の胸壁構造について説明する。
【0023】
本発明者(ら)は、上記課題を解決するために、胸壁の一部を開閉窓とし、更に、胸壁本体の保持構造をパイプ等の構造材を使用した骨組とすればよいことに着目して、鋭意開発に努力をした結果、下記のような構成の胸壁構造に想到した。以下、図例に基づいて、詳細に説明をする。
【0024】
ここでは、図1に示すような、海岸線に沿って施工された防波堤12の天端12aにコンクリートで形成する嵩上げ堤防(コンクリート堤防)14に組み込む胸壁構造16を例に採り説明する。
【0025】
コンクリート堤防14の切り下げ部24に適用する本発明の胸壁構造16は、基本的には、胸壁骨組26と、該胸壁骨組26に組み付けられる胸壁本体28とを備えている。
【0026】
なお、図2の左側は窓閉状態(図4参照)を、右側は窓開状態(図5・6参照)を、それぞれ示す。
【0027】
胸壁骨組26は、所定ピッチで配されたパイプ支柱30と、該パイプ支柱30の上端部に沿って配され、前面側に取り付けられる流木止を兼ねるパイプ横梁32とを有する。
【0028】
ここで、パイプ支柱30及びパイプ横梁32のパイプ材の種類(仕様)及び支柱の配設ピッチは、所定の構造強度を確保できれば、特に限定されない。パイプ材は、通常、165〜600mmφ×4.5〜16mmt程度の鋼管を使用する。支柱30及び横梁32は同一径でも異径でもよい。また、上記仕様のパイプ材を使用する場合、支柱の配設ピッチは、通常、1500〜5000mmとする。
【0029】
パイプ横梁32のパイプ支柱30への取り付け態様は、溶接及び/又はボルト結合等、特に限定されない。例えば、下記の如く行う。
【0030】
パイプ支柱30の上端部前面側又は後面側(図例では前面側)に横梁受け座33を、上・下溶接脚部33a、33aを介して溶接結合する。そして、該横梁受け座33に対応して左・右結合板部34a、34aを介して溶接固定した取付け座34にボルト結合等により固定する。
【0031】
胸壁本体28は、パイプ横梁32の下側に沿って所定ピッチ(例えば、1500〜2500mm)で開口部36aを備えた前面パネル36と、該前面パネルの前記開口部を左右方向にスライドして開閉可能に配される後面パネル(窓板)38とを有する。
【0032】
前面パネル36及び後面パネル38の双方とも、非透明(鋼材で形成する。)でもよいが、通常、透視性(視界性・景観性)の見地から、双方とも透明パネルとする。ここで、透明パネルは無機ガラスでもよいが、操作性(窓の開閉)の見地から、少なくとも後面パネル38のみ軽量な透明プラスチック(有機ガラス)とする。有機ガラスとしては、アクリル、ポリカーボネート等を挙げることができる。透明パネルは、自己浄化作用を有するもの(例えば、光触媒)を添加した成形材料で形成することにより、透明性の維持管理が容易となる。
【0033】
このときの前面パネル36及び後面パネル38の肉厚は、使用材料及び/又はパネル断面形状により異なる。本実施形態では、胸壁本体の前面パネル36および後面パネル(透明窓板)38の垂直断面が、受圧面側に突出する円弧状(図例では半円未満)とされているため、相対的に薄肉とすることができる。例えば、アクリル板で平板状とするときは、100mm前後の肉厚が必要な場合、円弧状とするときは、40mm程度とすることができる。円弧状のパネルは、製作可能な大径パイプを等分割(例えば、2・3・4分割)で母線方向にカットすることにより、既製品を利用して、容易且つ安価に製造できる。
【0034】
そして、これらの前面パネル36及び後面パネル38の取り付け態様は、特に限定されない。例えば、下記のように取り付ける。
【0035】
先ず、受圧板(アングル等)40を、パイプ横梁32の下面の所定ピッチで配された結合板部対41、41を介して取り付ける。ここで、受圧板40を連続体とするのは、止水性の見地からである。なお、受圧板40とパイプ横梁38との前面側隙間は、適切な帯状の止水板43等で閉じて止水線を確保する。
【0036】
そして、受圧板40および下側コンクリート段部14aに前面パネル36の上・下フランジ部36b、36bを当接させて、前面パネルを堤防切欠き部に形成された胸壁骨組26にボルト等により取り付ける。このとき、下側コンクリート段部14aにもパイプ横梁32の下面に配したものと対をなす受圧板40Aを配して止水線を確保する。
【0037】
他方、後面パネル(窓板)38は、下記の如く、前面パネル36の裏面側をスライド可能に取り付ける。
【0038】
パイプ横梁32の後側下面および受圧板40に溶接固定された所定ピッチでブラケット対(平面逆L字形)42、42に棒材(例えば、丸棒)からなるレール部材44が保持されている。該ブラケット対42、42は、図例では、パイプ支柱30の前面部位に配設されるとともに、中間の2箇所で、後面扉の開・閉の各位置決めストッパとなるように配されている。
【0039】
そして、後面パネル38の裏面(断面円弧状凹面)には、割円板部46aと帯板部46bとからなる断面T字形の補強リブ(例えばアルミ鋳物製)46が取り付けられ、該補強リブ46の帯板部46bの裏面側に、走行子48が取り付けられている。
【0040】
そして、該走行子48を介して、後面パネル(窓板)38がレール部材に吊り下げられて、開位置と閉位置との間を往復移動可能とされている。なお、後面パネル38の閉位置には、固定ストッパ部材50に配されたボルト52等で、後面パネル38を固定可能とされている。
【0041】
なお、必然的ではないが、前面パネル36にも、図例の如く、後面パネル38と同様の補強リブ46Aを接着結合又は機械結合して形状を保持することで前面パネルの受圧強度を高めておくことが望ましい。
【0042】
次に、実施形態の使用態様は、下記の如くである。
【0043】
平常時は、後面パネルを開位置に配し、高潮のおそれがあるような非常時には、後面パネルを閉位置にスライドさせる。そして、固定ストッパ部材に配されたボルト等により、スライド移動不能とする。こうして、平常時には開状態とした開口部を介して風通しと見晴らしが良好であり、非常時には、高潮等による浸水を防止できる。なお、上記開口部は、メインテナンスや緊急時の出入り口としても利用可能である。
【0044】
なお、図7に示す実施形態は、パイプ横梁の強度を同一重量のままで増大させるとともに、胸壁本体の耐圧性を同一重量のままで増大させたものである。上記実施形態と同一部分については、百の位を「1」とした対応図符号を付してそれらの説明の全部又は一部を省略する。
【0045】
パイプ横梁132は、三本の横パイプ132a、132a、132aを、所定ピッチで3本の結合パイプ132b、132bで結合させてトライアングル構造としたものである。なお、該パイプ横梁132のパイプ支柱130への結合は取り付けブラケット等(図示せず)を介して行う。
【0046】
また、コンクリート堤防114の切欠き部の垂直段部に溝形鋼からなる受圧材140を埋め込み、該受圧材140に、前面パネル136の下端を保持するものである。当該構成とした場合は、パイプ横梁132の剛性が高くなるため、パイプ支柱130のピッチを相対的に長くすることが可能となり、施工性も向上する。さらに、胸壁本体128(136、138)のように、大径パイプの円弧断面材(曲面材)を、図例の如く、下方を斜め前方へ傾斜させることにより、胸壁体に必要な断面性能を相対的に薄肉で得ることが可能となる。
【0047】
設計高さ・寸法にもよるが、例えば、1/4円弧の場合で、10°傾けると約6%、15°傾けると約35%、断面係数(Zy)が向上する。
【0048】
表1にそれらの計算結果を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
また、図8に示す実施形態は、胸壁本体228の前面パネル236および後面パネル(窓板)238の垂直断面を、共に平板状としたもので、本発明の最も基本的な形態である。前記最初の実施形態と同一部分については、百の位を「2」とした対応図符号を付してそれらの説明の全部又は一部を省略する。
【0051】
すなわち、前面パネル236は、溝形鋼254、254で保持され、後面パネル238は、窓枠253を介して、レール244を走行可能とされている。そして、前面パネル236の開口部236aの周囲位置の後面側には、後面パネル238が窓閉状態に位置したとき、前面パネル236の裏面と後面パネル238の前面を塞ぐシール枠部材255が配されている。なお、図例中、256、257、258は、それぞれ、水密用パッキンである。
【0052】
なお、上記において、胸壁骨組の支柱や横梁は、双方とも構造材としての丸パイプ材(強度的に有利で軽量化を図り易い。)で形成したが、適宜、支柱や横梁の一方又は双方を構造材としての角パイプ(三角〜八角)や型構造材(H型、C型、L型等)で形成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
14・・・コンクリート堤防、
16・・・胸壁構造、
26・・・胸壁骨組
28・・・胸壁本体
30・・・パイプ支柱(支柱)
32・・・パイプ横梁(横梁)
36・・・前面パネル
36a・・・前面パネル開口部
38・・・後面パネル(窓板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸壁骨組と、該胸壁骨組に組み付けられる胸壁本体とを備えた堤防の胸壁構造であって、
前記胸壁骨組は、所定ピッチで配された支柱と該支柱の前面側又は後面側に取り付けられる横梁とを有し、
前記胸壁本体は、前記横梁の下側に沿って所定ピッチで開口部を備えた前面パネルと、該前面パネルの前記開口部を左右方向にスライドして開閉可能に配された後面パネル(窓板)とを有する、ことを特徴とする堤防の胸壁構造。
【請求項2】
前記横梁の下側に沿ってレールが配され、該レールに前記後面パネルが移動可能に吊り下げられていることを特徴とする請求項1記載の堤防の胸壁構造。
【請求項3】
前記前面パネル及び前記後面パネルが透明パネルで形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の堤防の胸壁構造。
【請求項4】
前記前面パネル及び前記後面パネル(窓板)の垂直断面が、円弧状とされている、ことを特徴とする請求項1、2又は3記載の堤防の胸壁構造。
【請求項5】
前記円弧状が半円未満とされ、前記前面パネル及び前記後面パネルが止水面側に下側に傾斜して配されることを特徴とする請求項4記載の堤防の胸壁構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の堤防の胸壁構造が、嵩上げ堤防の切欠き部に配設されていることを特徴とする嵩上げ堤防。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−7453(P2010−7453A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102246(P2009−102246)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(597142505)NTCコンサルタンツ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】