説明

塩化ビニル樹脂成形体の製造方法

【課題】
含水石膏(特に二水石膏)を無水石膏に転換せずに直接塩化ビニル樹脂に配合し、無駄なエネルギーコストをかけずに且つ結晶水に由来する発泡や成形不良を生じることなく、安定して外観不良のない塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体を製造する方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明の塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体を製造する方法は、結晶水含有石膏の粉末と塩化ビニル樹脂粉末とを混合し、得られた混合物を前記塩化ビニル樹脂の分解温度未満であって180℃以上の温度に加熱することにより、前記石膏の結晶水の除去及び成形を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体の製造方法に関するものであり、より詳細には、石膏(gypsum)が充填剤として配合されている塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボード(gypsum board)は、石膏芯材の両面を紙で張り合わせた複合材料であり、現在約400万トン生産されており、各種の分野で広く使用に供されている。一方、既に使用され廃棄された石膏ボード(廃石膏ボード)は、年間約100万トンにも達し、その排出量は今後さらに増加することが予想されている。
【0003】
上記廃石膏ボードの一部は、必要により、これから紙を分離し、回収石膏として、石膏ボードの再生原料や固化剤等にリサイクルされているものの、そのリサイクル率は低く、大半は埋立て処分されており、今後の廃石膏ボード排出量の増加、国内の最終処分場の逼迫、環境負荷の点から、新たな廃石膏ボードのリサイクル用途およびリサイクル方法が求められている。
【0004】
一方、塩化ビニル樹脂は汎用性の高い樹脂であり、かかる塩化ビニル樹脂には、その用途等に応じて、補強あるいは増量などを目的として適宜の量の無機充填剤が配合される。従って、上記の廃石膏ボードなどから回収される安価な回収石膏を無機充填剤として塩化ビニル樹脂に配合することにより、大量の回収石膏を再利用することができる。
【0005】
ところで、廃石膏ボードなどから回収される回収石膏は、二水石膏(CaSO・2HO)であり、結晶水を含有している。このため、このような二水石膏を、塩化ビニル樹脂製の発泡成形体に発泡剤として使用することが提案されている(特許文献1参照)。即ち、二水石膏は、塩化ビニル樹脂の成形時に脱水を生じるため、この水分を発泡に利用するわけである。
【0006】
従って、半水石膏を充填剤として塩化ビニル樹脂に配合した例もあるが、この場合にも得られる成形体は発泡体である(特許文献2参照)。
【0007】
また、硫酸カルシウムを充填剤として塩化ビニル樹脂に混合し、このような混合物を用いて非発泡の成形体を製造することも提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、ここで塩化ビニル樹脂に配合される硫酸カルシウム(CaSO)は、無水石膏(anhydrous gypsum)であり、二水石膏や半水石膏(CaSO・0.5HO)などの結晶水含有石膏(以下、単に含水石膏と呼ぶことがある)ではない。上記の特許文献1でも提案されているように、含水石膏では、成形段階で水分の生成に起因して発泡や成形不良などを生じてしまい、これらは何れも得られる成形体の外観不良に繋がるからである。従って、塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体を製造するに際して塩化ビニル樹脂に配合される硫酸カルシウムは無水石膏であり、含水石膏を使用する場合には、塩化ビニル樹脂への配合に先立って脱水処理を行って無水石膏としておくことが必要である。
【0009】
また、無水石膏にはI型、II型、III型があって、転移温度が最も低いIII型無水石膏の場合、吸湿性があって、大気中の水分と反応して容易に半水石膏となる。従って、二水石膏は、脱水によりII型あるいはI型の無水石膏(非吸湿性石膏)に転換させてから塩化ビニル樹脂に配合されることとなるが、二水石膏をII型の無水石膏に転換させるには400℃以上に加熱することが必要であり、I型の無水石膏に転換させるには、さらに高温に加熱することが必要であり、何れにしろ、著しく多大のエネルギーコストがかかってしまう。
【0010】
勿論、塩化ビニル樹脂の存在下で二水石膏を非吸湿性無水石膏(II型或いはI型)に転換させることはできない。転換のための加熱温度は最低でも400℃であり、塩化ビニル樹脂の熱分解開始温度(約210℃)をはるかに超えているからである。
【0011】
このように、回収石膏は安価であるといっても、二水石膏である回収石膏を無機充填剤として塩化ビニル樹脂に配合する場合は、発泡成形体を製造する場合に限られ、塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体を製造する場合には、多大なエネルギーコストがかかるため、回収石膏が使用されることはほとんどないというのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭50−95366号公報
【特許文献2】特開平7−118436号公報
【特許文献3】特表2010−533761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、含水石膏(特に二水石膏)を無水石膏に転換せずに直接塩化ビニル樹脂に配合し、無駄なエネルギーコストをかけずに且つ結晶水に由来する発泡や成形不良を生じることなく、安定して外観不良のない塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体を製造する方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、含水石膏の塩化ビニル樹脂製成形体への使用を通じて、廃石膏ボードなどから得られる安価な回収石膏のリサイクル性を高め、廃石膏ボードの排出量の増加、国内の最終処分場の逼迫、環境負荷等の問題解決に寄与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、
結晶水含有石膏の粉末と塩化ビニル樹脂粉末とを混合し;
得られた混合物を前記塩化ビニル樹脂の分解開始温度未満であって180℃以上の温度に加熱することにより、前記石膏の結晶水の除去及び成形を行うこと;
を特徴とする塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の製造方法においては、
(1)前記石膏の結晶水の除去を、前記石膏粉末と塩化ビニル樹脂粉末との混合に用いる混合機中及び/または前記混合物の成形に用いるベント式成形機中で行うこと、
(2)前記石膏粉末からの結晶水の除去を、前記混合機中で前記混合物を125℃以上の温度に加熱する第1段の加熱と、前記ベント式成形機中のシリンダー部で180℃以上の温度に前記混合物を加熱すること、
(3)前記石膏粉末を、塩化ビニル樹脂粉末100質量部当り、1乃至70質量部の量で使用すること、
(4)前記石膏粉末と共に、塩化ビニル樹脂粉末100質量部当り1乃至140質量部の量で可塑剤を該塩化ビニル樹脂粉末に混合すること、
(5)前記可塑剤の一部を前記石膏粉末及び前記塩化ビニル樹脂粉末と加熱混合し、得られた混合物を一旦冷却した後、残量の可塑剤を加熱混合すること、
(6)前記石膏が回収石膏であること、
という手段を好適に採用することができる。
【0017】
尚、回収石膏とは、廃棄された石膏ボード(廃石膏ボード)から紙を分離して回収された石膏に限定されず、種々の用途に使用されあるいは使用されずに廃棄された石膏や、石油や石炭の燃焼時に発生する硫黄酸化物を脱硫して副生石膏(主として火力発電所で生成する)として回収されたものも含む概念である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂を成形して非発泡成形体を製造するに際して、結晶水を有する石膏(含水石膏)の粉末を、脱水処理により無水石膏に変換せしめることなく、直接、塩化ビニル樹脂粉末に混合して成形を行うことができ、成形に際しての結晶水に由来する発泡や成形不良などの不都合を有効に回避し、外観不良のない塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体を安定して製造することができる。
【0019】
即ち、本発明においては、含水石膏の粉末をそのまま塩化ビニル樹脂粉末に配合しているが、成形に先立って、塩化ビニル樹脂の存在下で且つ塩化ビニル樹脂の分解温度未満であって180℃以上の温度での加熱により脱水が行われ、結晶水が除去されている。塩化ビニル樹脂の分解開始温度は熱重量解析(TGA)により測定でき、約210℃程度であるから、含水石膏は、III型無水石膏への転換に留まり、従って、400℃以上の加熱が必要なII型或いはI型への転換を行う場合に比して、熱エネルギーコストを大幅に低減させることができるばかりか、このような含水石膏の脱水処理(結晶水の除去)も、塩化ビニル樹脂との混合過程で行うことができ、熱エネルギーコストをさらに低減させることができる。
【0020】
上述したように、本発明においては、含水石膏からIII型の無水石膏が生成しているのであり、III型の無水石膏が吸湿性であり、吸湿によって容易に半水石膏に転換するという性質を有しており、しかも、このようなIII型の無水石膏が存在する混合物を成形機に投入し、その溶融混練物を押し出して成形を行うにもかかわらず、水分による発泡や成形不良などの不都合が有効に防止されている。この理由は、おそらく、含水石膏から生成したIII型の無水石膏は、撥水性の高い塩化ビニル樹脂により保護され、外気との接触が有効に抑制され、その吸湿が有効に防止されているためではないかと考えられる。
【0021】
本発明では、含水石膏を充填剤として、塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体の製造にかなり大量に使用することができるため、毎年、大量に排出される廃石膏ボードからの回収石膏を、リサイクルにより消費することができる。また、火力発電所などの排ガスの脱硫によって発生する副生石膏も同様に回収石膏として大量に消費することができる。従って、本発明の経済的効果は大きく、省資源や環境維持の観点からも本発明は極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例2で作成されたペレットから製造されたシートについて行われた硫化水素発生試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明にしたがって塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体を製造するには、成形に先立って、含水石膏の粉末が塩化ビニル樹脂粉末に混合される。この混合は、所定の混合機中で行われ、得られた混合物を成形機中に投入し、この成形機のシリンダー部で溶融混練され、次いで成形機から押し出し或いは射出されて成形が行われるわけであるが、混合から成形までの過程で含水石膏中の結晶水が除去され、これにより、水分による発泡や成形不良が回避され、外観不良のない非発泡成形体を得ることができる。
【0024】
<石膏粉末>
本発明において塩化ビニル樹脂に充填剤として配合される石膏粉末の粒子径は、塩化ビニル樹脂粉末と均一に混合し得るような大きさであれば特に制限されないが、一般的には、10mm以下、特に1〜500μmの粒子径を有する石膏粉末が好適である。特に、可塑剤が配合されていない硬質塩化ビニル樹脂の非発泡成形体を製造する場合には、累積体積が50%のときの平均粒径(D50)が1〜10μmであり、累積体積が90%での平均粒径(D50)が2〜20μm程度に粒度調整された微粉末を使用することが、樹脂への分散性を向上させるために好ましい。
【0025】
また、用いる石膏は、結晶水を有するものであれば特に限定されるものではなく、半水石膏、二水石膏或いはこれらの混合物であり、天然石膏や繊維状半水石膏であってよいが、一般的には、工業的な廃材から回収される回収石膏が使用される。即ち、回収石膏を使用することにより、不要なコストをかけることなく、石膏のリサイクル性を高めることができるからである。
【0026】
即ち、本発明に使用され得る回収石膏は、結晶水を含有するものであればどのような形態で回収されたものであってもよいが、工業的観点からは大量に発生するものが好適に使用される。例えば、廃石膏ボードから回収されたものが最も大量に発生するため、本発明においては最も好適に使用されるが、火力発電所などの排ガスから副生石膏として回収されたものも好適に使用することができ、これらの回収石膏は、粉砕、篩い分け等により、適宜、前述した粒子径に粒度調整されて使用に供される。
【0027】
ところで、廃石膏ボードは、二水石膏よりなる芯材の表面にボード原紙を接着させた構造を有するものであり、その多くは、室のリフォームや建築物の解体工事で発生するが、石膏ボードの生産工程や建築現場で端材や残材として発生するものなどもある。これらの廃石膏ボードは様々な大きさで回収される。
【0028】
従って、廃石膏ボードを石膏源として用いる場合、前述した粒子径の回収石膏を得るために、この廃石膏ボードを適度な大きさに粉砕するとともに、この廃石膏ボードからボード原紙を除去することが必要である。
【0029】
また、建材として使用される石膏ボードから発生する廃石膏ボードには、ビス等の金属片が付着している場合がある。かかる金属片は、磁選機等を用いて、粉砕に先立って除去される。粉砕に用いる装置の破損を防止するためである。
【0030】
廃石膏ボードの粉砕は、一般に乾式で行われる。湿式で粉砕を行うと、水分の除去などに余分な熱エネルギーが必要となってしまうからである。
【0031】
上記の粉砕は、例えば、廃石膏ボードを取り扱い易い適当な大きさにするための予備破砕と、原紙除去のために行われる選択的破砕とにより行われ、何れも乾式で行われる。
【0032】
予備粉砕は、芯材(石膏の硬化体)と同時に、これに接着しているボード原紙も適当な大きさに破砕する装置を用いて行われ、例えば、高速回転式衝撃破砕機、スクリューせん断式破砕機等を用いて行われる。このような予備粉砕により、廃石膏ボードは、粒径が15〜100mm程度の石膏塊状物(石膏硬化体)と、これに付着した5×10−4〜0.05m程度の大きさの紙片(ボード原紙)とからなる破砕塊に粉砕される。
【0033】
また、選択的破砕は、上記の破砕塊について行われ、紙片(ボード原紙)は破砕せず、石膏塊状物を選択的に破砕するものであり、紙片を破砕し難い圧縮式の破砕装置、例えば、ハンマーミル、ロールミル等を使用して行われる。これにより、石膏塊状物は、平均粒径20mm以下、好ましくは、10mm以下の大きさの粒状物となり、紙片(ボード原紙)はほとんど破砕されず、そのままの大きさを有しているため、これを石膏粒状物から容易に除去することが可能となる。
【0034】
選択的破砕により得られた石膏粒状物からの紙片の分離は、例えば、振動式或いは回転式の篩を用いて容易に行うことができる。かかる篩い目の大きさは、石膏粒状物が通過でき、紙片(ボード原紙)が通過し得ない大きさを選択すればよく、篩い目を適宜選択することにより、最大粒径が一定値以下に調整された石膏粉末を得ることも可能である。
【0035】
上記のようにして得られた石膏粒状物は、その粒径によっては、そのまま石膏粉末(回収石膏粉末)として塩化ビニル樹脂との混合に使用することができるが、さらに乾式で微粉砕し、例えば前述した範囲の粒子径の粉末としたのち、塩化ビニル樹脂との混合に使用される。このような微粉砕手段は特に制限されないが、一般には、高速回転衝撃粉砕機やジェットミルが使用される。
【0036】
<塩化ビニル樹脂粉末>
本発明において使用される塩化ビニル樹脂としては、公知のものが特に限定されず使用される。例えば、塩化ビニルモノマーの単独重合体のみならず、塩化ビニル樹脂としての特性や本発明の目的が損なわれない限りにおいて、他のモノマーが共重合された共重合体であっても良い。このような共重合可能なモノマーとしては、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、酢酸ビニル等のビニルエステル類等が一般に挙げられる。勿論、これらの塩化ビニル樹脂は単独で用いても良く、2種類以上を併用することもできる。
【0037】
用いる塩化ビニル樹脂の重合度は、成形性や物性を考慮して、目的とする特性の非発泡成形体が得られるように決定されるものであり、一概には限定できないが、一般的には、重合度が700〜2500の塩化ビニル樹脂が使用される。
【0038】
また、塩化ビニル樹脂は、粉末の形態、例えば、50〜200μmの粒子径を有する形態で使用される。即ち、粉末の形態で使用することにより、ペレットの形態で用いる場合に比して、石膏粉末との馴染みが良く、後述する結晶水の除去のための加熱を効率的に行うことができる。
【0039】
このような塩化ビニル樹脂粉末は、公知の懸濁重合法によって得ることができる。
【0040】
<他の配合剤>
本発明においては、上記塩化ビニル樹脂に前述した石膏粉末を混合するが、この際、石膏粉末以外にも、必要に応じて、それ自体公知の他の配合剤を混合することもできる。
【0041】
このような他の配合剤としては、成形体に柔軟性を付与する可塑剤が代表的である。即ち、可塑剤が配合されないか或いはその配合量が少ないもの(例えば塩化ビニル樹脂100重量部当り20質量部以下)は硬質塩化ビニル樹脂として知られ、可塑剤の量が多いもの(例えば20質量部より多い)は軟質塩化ビニル樹脂として知られている。
【0042】
本発明に使用される可塑剤は特に限定されるものではないが、例としては、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)等が挙げられる。
【0043】
可塑剤を配合する場合において、その配合量は、特に制限されるものではないが、一般的には、塩化ビニル樹脂粉末100質量部当り、1〜140質量部程度の量である。その配合量が過度に少ないと柔軟性の付与が不十分となり、一方、過度に配合すると、成形時に適度な粘度を保てず、結果としてドローダウンが発生し、成形が困難となるおそれが生じる。
【0044】
尚、この可塑剤の配合量が多くなると、ゲル化を生じやすくなるため、可塑剤量によっては、これを2回に分けて塩化ビニル樹脂及び石膏粉末と混合することとなる。この点については後述する。
【0045】
また可塑剤以外の配合剤も適宜使用することができ、例えば、石膏粉末以外のフィラー、熱安定剤、滑剤、強化剤、酸化防止剤、顔料等を配合することもできる。
【0046】
特に、熱安定剤は、成形時の加熱による塩化ビニル樹脂の劣化を防止するために、塩化ビニル樹脂の分野で広く使用されている配合剤である。このような熱安定剤としては、有機錫メルカプト、有機錫マレート等の有機錫系安定剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸系安定剤;アミノウラシル乃至その誘導体、アミノクロトン酸エステルなどのアミノ系安定剤に代表される非金属系安定剤などが知られており、これらは、それぞれ単独、或いは2種類以上の組み合わせで使用される。
【0047】
<混合>
前述した結晶水を有する石膏粉末と塩化ビニル樹脂粉末及び必要により配合される可塑剤等の他の配合剤との混合は、それ自体の公知の混合機、例えば、ヘンシェルミキサー等の開放系の混合機を使用して、塩化ビニル樹脂の粒子を崩壊させないように、具体的には、ゲル化を生じないような温度条件下で乾式で行われる。この段階でゲル化が生じると、混合機に必要以上の負荷がかかるばかりか、石膏粉末や他の配合剤を塩化ビニル樹脂に均一に分散させることが困難となり、場合によっては石膏粉末等の塊が形成され、成形不良などを生じてしまうからである。
【0048】
尚、この場合、石膏粉末の配合量が多すぎると、最終的に得られる非発泡成形体の機械的物性が低下するばかりか、該石膏に含まれる結晶水の除去が困難となるおそれがあるため、過度の量の配合は避けるべきである。このような石膏粉末の配合量の上限値は、併用される他の配合剤の使用量、用いる塩化ビニル樹脂の重合度、さらには石膏に含まれる結晶水の量によっても異なるため一概に規定することはできないが、一般に、廃石膏ボードから回収される回収石膏などの二水石膏の場合において、塩化ビニル樹脂粉末100質量部当り、70質量部以下、特に60質量部以下である。また、石膏粉末の配合量が少なすぎると、大量に発生する廃石膏ボードからの回収石膏のリサイクルという観点から望ましくない。従って、リサイクル性を高めるという観点からは、一般に、塩化ビニル樹脂粉末100質量部当り、1質量部以上、特に5質量部以上の量で石膏粉末を使用することが好ましい。
【0049】
また、適宜、配合される他の配合剤の配合量は、塩化ビニル樹脂の基本的特性が損なわれずに当該配合剤の基本的特性が損なわれない程度の量とすればよく、例えば、可塑剤については前述した量で配合される。
【0050】
尚、この混合機中では、ゲル化を生じない程度の温度に加熱することにより後述する石膏中の結晶水の少なくとも一部が脱水されるが、可塑剤を配合する場合、その量が多くなるにつれて塩化ビニル樹脂粒子のゲル化(粒子崩壊)が生じやすくなる。従って、ゲル化が生じるような量で可塑剤が配合される場合には、配合する可塑剤の一部のみを混合機に投入して混合を行い、この可塑剤が塩化ビニル樹脂粉末に吸収された後、一旦、得られた混合物をクールミキサーなどに投入して室温程度に冷却し、次いで、再びヘンシェルミキサー等の混合機を用いてこの混合物と残量の可塑剤とを混合することが好ましい。
【0051】
上記の場合において、混合機中でのゲル化の有無は、混合機に加わるトルクの増大などにより確認することができるので、予めラボ実験を行い、可塑剤の配合量に応じてゲル化温度を確認しておき、このデータに基づいて可塑剤を一気に投入するか或いは分割して投入するかを決定すればよい。
【0052】
<成形>
上記のようにして調製された塩化ビニル樹脂粉末及び石膏粉末を含む混合物は、ホッパーを介して成形機中に投入され、この成形機中のシリンダー部に設けられているヒータによる加熱によって溶融混練され、該成形機から押し出され或いは射出されての成形によって所定形状の非発泡成形体が得られる。
【0053】
上記の成形機としては、後述する脱水された水を放出するためのベント孔がシリンダー部の下流側に形成されているベント式の成形機、例えばベント式押出機が使用される。このような押出機には、一軸押出機、二軸押出機、3本以上のスクリューを備えた多軸押出機があり、ベント孔を少なくとも1個有している限り、何れも使用することができる。例えば押出成形に際しては、押出機のシリンダー部の先端のアダプタに取り付けられたダイス形状にしたがった形状の非発泡成形体が得られ、射出成形では、押出機先端のノズルに連なる成形型にしたがった形状の非発泡成形体が得られる。また、押出機からストランド状に溶融押出し、このストランドをペレタイザーでカットして成形体をペレットとすることも可能である。このようなペレットは、二次成形に付され、最終形状の成形品となる。
【0054】
<結晶水の除去>
本発明においては、上述した混合から成形の過程で石膏に含まれている結晶水を除去することが必要である。即ち、石膏に結晶水が結合したままの状態で成形機から押し出されてしまうと、得られる成形体が気泡を内蔵した発泡体となってしまい、成形体の物性低下や外観不良などが生じてしまうからである。また、成形機のシリンダー内での脱水により生成する水分によって、ホッパーから投入される混合物が塊状になってしまい、このため、成形機内(特に先端部)での目詰まりが生じて成形不良を生じてしまうこともある。このような不都合を防止し、発泡のない成形体を効率よく製造するために、結晶水の除去が行われることとなる。
【0055】
上記のような結晶水の除去は、上記の混合物中の含水石膏を塩化ビニル樹脂の熱分解開始温度未満での加熱により行われることとなる。このことから理解されるように、本発明では、結晶水の除去により含水石膏(二水石膏或いは半水石膏)はIII型の無水石膏となるのであり、従って、塩化ビニル樹脂の分解開始温度未満であることを条件として、混合物中の含水石膏を180℃以上、好ましくは185℃以上に加熱することにより結晶水の除去が行われる。この温度よりも低いと、成形時に一部の結晶水が残存してしまうため、発泡を防止することが困難となってしまう。また、結晶水の残存量がある程度少量であるならば、ペレットに成形する段階では水の存在をほぼ無視することができることがあるが、これを二次成形したときには、水による発泡が認識されるようになってしまい、外観不良を生じてしまう。
【0056】
また、本発明においては、結晶水の除去により生成する無水石膏は、吸湿性のIII型の無水石膏であるが、この無水石膏は疎水性の高い塩化ビニル樹脂で覆われており、この結果、生成したIII型無水石膏が吸湿して含水石膏に戻るという不都合は有効に抑制されている。
【0057】
本発明において、上記のような結晶水を除去するための加熱は、各成分を混合するための混合機内や混合物の溶融混練が行われる成形機内のシリンダー部で行うことができるが、基本的には、少なくとも混合機内での加熱により結晶水の除去を行うことが好ましく、成形機のみでの加熱による結晶水の除去は避けるほうがよい。即ち、理論的には、前述した温度範囲を満足するように加熱を行うことにより結晶水を除去することは可能であるが、成形機での加熱では、シリンダー内部に供給された混合物は加熱とともに成形機から押し出されていくため、結晶水を完全に除去するための十分な加熱時間を確保することができないからである。一方、混合機内での加熱には、十分な時間を確保することができ、その調整も容易である。従って、成形機のシリンダー部での加熱により結晶水の除去を行う場合には、その前に混合機内での加熱により、一部の結晶水を除去しておくことが好ましい。
【0058】
尚、ヘンシェルミキサー等の混合機は開放系であり、加熱により除去された水分は外気中に速やかに放出される。また、混合機内での混合物の加熱は、混合機に内蔵するヒータなどを用いて行うこともできるし、混合に際しての粒子同士の摩擦熱などを利用して加熱を行うこともできる。
【0059】
さらに、成形機での加熱により除去された水分は、該成形機に設けられているベント孔から放出される。
【0060】
結晶水の除去を、ヘンシェルミキサー等の混合機内で行う場合、留意すべきは、加熱温度を塩化ビニル樹脂粉末のゲル化が生じない程度にするということである。既に述べたように、この段階でゲル化が生じてしまうと、トルクの急激な増大によって種々の不都合を生じてしまい、場合によって混合機の作動が停止してしまったり、混合機からの混合物の排出が困難となってしまうこともあるからである。
【0061】
従って、可塑剤が配合されていない場合には、ゲル化温度は、おおよそ、塩化ビニル樹脂の融点に相当するので、前述した範囲で(180℃以上、特に185℃以上)且つこの融点未満の温度で加熱を行って、結晶水を除去すればよい。また、可塑剤が配合されている場合には、可塑剤の配合量と共にゲル化を生じ易くなるので、ゲル化が生じないような温度で結晶水の除去を行う必要がある。
【0062】
また、可塑剤の配合量が多くなるとゲル化温度が低下していくため、可塑剤は分割して混合機中に投入され、可塑剤の投入ごとに混合物はクールミキサーに投入されて冷却され、冷却後、再び加熱が行われる混合機中に残りの可塑剤と共に投入されて混合が行われることとなる。いずれの段階においても、ゲル化が生じないような温度で混合が行われる。
【0063】
また、本発明においては、混合物の水分量が多い場合には、混合機内での加熱によって結晶水の一部除去を行うことが効果的である。例えば、塩化ビニル樹脂100質量部当りの水分量が2質量部以上、好ましくは3質量部以上(二水石膏の量として10質量部以上、好ましくは15質量部以上)の場合には、前述した混合機中での第1段の加熱と、成形機中での第2段の加熱により結晶水の除去を行うことが好適である。
【0064】
即ち、結晶水の量が多いと、結晶水を完全に除去するためには、それだけ長時間の加熱が必要となるが、特に混合機内では、ゲル化を生じないようにするとの制限があるため、一層、長時間の加熱が必要となってしまう。しかるに、成形機内での加熱は、長時間とすることはできないが、ゲル化という制限はなく、塩化ビニル樹脂の融点以上で結晶水の除去を行うことができる。従って、混合機内で加熱と成形機内での加熱とを併用することにより、効率よく短時間で、結晶水を完全に除去することが可能となる。
【0065】
尚、上記のように2段での加熱により結晶水を除去する場合には、第1段の加熱(混合機内での加熱)は、ゲル化を生じないことを条件として、混合物(含水石膏)の温度を少なくとも125℃以上とすればよく、この温度範囲で適度な時間、加熱を行った後、残存する結晶水の脱水を、引き続いて行われる第2段の加熱(成形機内での加熱)により行うことにより、効率よく、脱水を行うことができる。第2段での加熱は、当然、前述した範囲(180℃以上、特に185℃以上)での条件を満足するように行われる。
【0066】
また、2段での加熱により結晶水を除去する場合には、1段目の加熱(混合機での加熱)の時間を調整することにより、効率の良い脱水を行うことができる。即ち、成形機内で行われる第2段の加熱では、成形条件が関連しているため、加熱温度や加熱時間(押出速度に相当)を変更し得る幅は極めて小さいが、混合機の加熱では、ゲル化を生じないという制限を除けば、加熱温度や加熱時間は極めて大きな範囲で変更し得るからである。
【0067】
尚、第2段での加熱は成形機のシリンダー部で行われるが、このシリンダーの上流側(混合物投入側)とシリンダーの下流側(溶融物排出側)とで独立して温度設定ができるようにヒータが設けられており、特に下流側で溶融物が排出されて成形が行われるため、下流側の温度が高く設定されており、また、下流側の1箇所もしくは複数カ所にベント孔が設けられている。従って、少なくとも、下流側で前述した範囲での加熱により脱水が行われ、脱水により発生した水分は、ベント孔から速やかに排出され、得られる成形体内部に残存しての発泡は確実に防止される。
【0068】
また、この場合、成形機のスクリューの回転速度を比較的低速として送り速度を低下させ、混合物のシリンダー部内での滞留時間を長くし、残存する結晶水を完全に除去するために十分な時間を確保するのがよい。
【0069】
尚、ポリ塩化ビニル樹脂成形体の製造において含水石膏を使用しない場合、塩化ビニル樹脂粉末と配合剤の混合を行う場合の温度、即ち、1段目の加熱に相当する温度は、一般に軟質塩化ビニル樹脂で90〜120℃、硬質塩化ビニル樹脂で80〜120℃であって、塩化ビニル樹脂の成形温度、即ち、本発明の第二段の加熱に相当する温度は、その樹脂のゲル化温度により決定されるものであるが、一般に軟質塩化ビニル樹脂で130〜170℃、硬質塩化ビニル樹脂で160〜200℃である。
【0070】
このように、本発明によれば、結晶水を含む石膏をフィラーとして塩化ビニル樹脂に配合しているにもかかわらず、水分による発泡を有効に防止し、非発泡の成形体を得ることができる。従って、著しく多量に発生する廃石膏ボードなどから回収される回収石膏を、そのままフィラーとして利用でき、回収石膏のリサイクル性が著しく高められているという点で本発明は工業的に極めて有用である。
【0071】
尚、本発明の非発泡成形体は、吸湿性のあるIII型無水石膏を内蔵しているため、表面に露出したIII型無水石膏は含水石膏に再転換することとなるが、このような再転換は成形後に生じるものであるし、また、極めて微量でもあることから、成形体の物性に与える影響は全く無視することができる。
【0072】
また、近年においては、家屋の建て替えなどにより発生した廃石膏ボードを廃棄物処理場に廃棄した場合、硫化水素を発生するという問題が生じている。即ち、廃棄物処理場の地下水や土壌などに生息する硫酸塩還元細菌が、石膏ボードに壁紙を貼付するための接着剤であるデンプンやその他廃棄物として処理場に持ち込まれる有機物、および、石膏と反応して、硫化水素が生じるものと考えられている。
【0073】
しかるに、本発明の成形体では、石膏は塩化ビニル樹脂で被覆されているため、これを廃棄したとしても硫化水素の発生はほとんどなく、環境に悪影響を与えることがないという利点も有している。
【実施例】
【0074】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1>
破砕機として細田企画製プラスターボシリーズを使用し、廃石膏ボードの破砕、石膏塊からのボード原紙との分離を行い、0.5mm以下の石膏(二水石膏)粉末を得た。次いで、該石膏粉末をジェットミル(サンレックス工業製ナノグラインディングミル)で微粉砕し、D50:1μm、D90:2μmのフィラー用回収石膏微粉末を得た。
【0076】
次に、重合度800の塩化ビニル樹脂粉末(新第一塩ビ製ZEST800Y)100質量部に対して、
前記回収石膏微粉末10質量部
炭酸カルシウム(白石工業製Vigot10)6質量部
強化剤8質量部
熱安定剤4.5質量部
滑剤2.4質量部
を配合したものを、ヘンシェルミキサーに投入し、室温から165℃に到達するまで加熱混合して、結晶水を除去した。混合後、クールミキサーに投入して、混合物を冷却した。
【0077】
該混合物をホッパーに投入し、スクリュー式フィーダーを使用して、ベント式コニカル押出機(シンシナティミラクロン製CMT45)に該混合物を投入後、脱気しながらストランド状に押し出した。次いでストランドを水冷した後、ペレタイザーによりカットした。配合条件および成形条件を表1に示す。
【0078】
その結果、無発泡の良好なペレットが得られた。該ペレットを使用して、試験片を作成し、諸物性を評価した。物性評価結果を表1に示す。尚、各種物性は、以下の方法で評価或いは測定した。
【0079】
(各種物性評価の測定)
1.成形性;
ホッパーからの原料の供給具合、目視による発泡の有無、ストランドにおけるドローダウン発生の有無を確認することにより評価した。
2.シート発泡;
シリンダー上流温度が150℃、シリンダー下流温度が170℃、ダイス温度が180℃の20mmノーベント式単軸押出機に投入し、該ペレットを投入して成形したシートの発泡を目視で確認した。
3.曲げ弾性率;
JISK7171に従い測定した。
4.曲げ強度;
JISK7171に従い測定した。
5.シャルピー衝撃強度;
JISK7111に従い測定した。
6.ビカット軟化点;
JISK7206に従い測定した。
【0080】
<参考例>
回収石膏微粉末を配合しなかった以外は実施例1と同様に、作成した塩化ビニル樹脂成形体(ペレット)の諸物性を評価した。物性評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
<実施例2>
重合度1000の塩化ビニル樹脂粉末(新第一塩ビ製ZEST1000Z)100質量部に対して、
実施例1記載の0.5mm以下の回収石膏(二水石膏)粉末50質量部
可塑剤(DINP)40質量部
熱安定剤6質量部
滑剤1.5質量部
をヘンシェルミキサーに投入し、室温から165℃に到達するまで加熱混合して、結晶水を除去した。混合後、クールミキサーに投入して、混合物を冷却した。
【0083】
該混合物をホッパーに投入し、スクリュー式フィーダーを使用して、ベント式コニカル押出機に該混合物を投入後、脱気しながらストランド状に押し出した。次いでストランドを水冷した後、ペレタイザーによりカットした。配合条件および成形条件を表2に示す。
【0084】
その結果、ストランドは適度な粘度を保ち、ペレタイザーまで誘導できた。さらに、回収石膏粉末の脱水により、押出機内で発生した水蒸気は脱気され、無発泡のペレットが得られた。
【0085】
得られたペレットをシリンダー上流温度が150℃、シリンダー下流温度が170℃、ダイス温度が180℃の20mmノーベント式単軸押出機に投入し、シートを成形したところ、無発泡の良好なシートが得られた。
【0086】
<実施例3>
回収石膏(二水石膏)粉末の配合量を5質量部とし、ヘンシェルミキサーでの混合の際の到達加熱温度を100℃に変更し、さらに、得られた混合物をベント式コニカル押出機に直接投入した以外は、実施例2と同様の操作を行った。配合条件および成形条件を表2に示す。
【0087】
その結果、ストランドは適度な粘度を保ち、ペレタイザーまで誘導できた。さらに、回収石膏粉末の脱水により、押出機内で発生した水蒸気は脱気され、無発泡のペレットが得られた。
【0088】
得られたペレットをシリンダー上流温度が150℃、シリンダー下流温度が170℃、ダイス温度が180℃の20mmノーベント式単軸押出機に投入し、シートを成形したところ、無発泡の良好なシートが得られた。
【0089】
<実施例4>
可塑剤の配合量を60質量部とし、40重量部と20重量部とに分けて2回に分割して投入した以外は、実施例2と同様の操作を行った。配合条件および成形条件を表2に示す。
その結果、ストランドは適度な粘度を保ち、ペレタイザーまで誘導できた。さらに、回収石膏粉末の脱水により、押出機内で発生した水蒸気は脱気され、無発泡のペレットが得られた。
【0090】
得られたペレットをシリンダー上流温度が150℃、シリンダー下流温度が170℃、ダイス温度が180℃の20mmノーベント式単軸押出機に投入し、シートを成形したところ、無発泡の良好なシートが得られた。
【0091】
<実施例5>
塩化ビニル樹脂粉末を重合度が2500の新第一塩ビ製ZEST2500Zに変更し、さらに、可塑剤の量を75質量部に変更した以外は、実施例2と同様の操作を行った。配合条件と成形条件を表2に示す。
【0092】
その結果、ヘンシェルミキサー内の混合物は、押出機に投入可能であり、ストランドは適度な粘度を保ち、ペレタイザーまで誘導できた。さらに、回収石膏粉末の脱水により、押出機内で発生した水蒸気は脱気され、無発泡のペレットが得られた。
【0093】
得られたペレットをシリンダー上流温度が150℃、シリンダー下流温度が170℃、ダイス温度が180℃の20mmノーベント式単軸押出機に投入し、シートを成形したところ、無発泡の良好なシートが得られた。
【0094】
<実施例6>
実施例5において、可塑剤の配合量を130質量部とし、75重量部と55重量部とに2回に分割して投入した以外は、実施例2と同様の操作を行った。配合条件と成形条件を表2に示す。
【0095】
その結果、ストランドは適度な粘度を保ち、ペレタイザーまで誘導できた。さらに、回収石膏粉末の脱水により、押出機内で発生した水蒸気は脱気され、無発泡のペレットが得られた。
【0096】
得られたペレットをシリンダー上流温度が150℃、シリンダー下流温度が170℃、ダイス温度が180℃の20mmノーベント式単軸押出機に投入し、シートを成形したところ、無発泡の良好なシートが得られた。
【0097】
<比較例1>
実施例2において、ベント式コニカル押出機のシリンダー上流温度を150℃、シリンダー下流温度を175℃とした以外は、実施例2と同様の操作を行った。配合条件および成形条件を表3に示す。
【0098】
その結果、ストランドは適度な粘度を保ち、ペレタイザーまで誘導でき、発泡が見られないペレットが得られた。しかしながら、このペレットをシリンダー上流温度が150℃、シリンダー下流温度が170℃、ダイス温度が180℃の20mmノーベント式単軸押出機に投入し、シートを成形したところ、発泡したシートが得られた。
【0099】
<比較例2>
ヘンシェルミキサーでの混合の際、到達混合加熱温度を100℃に変更した以外は、実施例2と同様の操作を行った。配合条件および成形条件を表3に示す。
【0100】
その結果、回収石膏粉末の脱水により、大量の水蒸気が押出機内で発生し、該水蒸気が原料投入口に逆流して、水分が付着した混合物が塊状となって原料投入口に付着し、押出機への配合どおりの原料供給が不可能であった。また、塊状の混合物が押出機内に混入し、ダイスを詰まらせ、ストランドが得られなかった。
【0101】
<比較例3>
可塑剤の配合量を80質量部とした以外は、実施例4と同様の操作を行った。配合条件、および成形条件を表3に示す。
【0102】
その結果、ドローダウンが発生し、安定的な製造が不可能であった。
【0103】
<比較例4>
可塑剤の配合量を150質量部とした以外は、実施例6と同様の操作を行った。配合条件および成形条件を表3に示す。
【0104】
その結果、ドローダウンが発生し、安定的な製造が不可能であった。
【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
<硫化水素発生の評価>
全容500mLのデュラン瓶2本に、実施例2のペレットより製造した厚さ4mmのシート50gと上記シート50gに含まれる回収石膏粉末量に相当する回収石膏粉末12.7gをそれぞれ投入した後、各瓶に純水200mLと硫酸塩還元菌を添加した。
【0108】
さらに、壁紙用接着剤等に使用されるデンプン0.1gを各瓶に添加後、該水溶液中に高純度窒素ガスを吹き込み、水溶液中の溶存酸素を脱気しつつ、ヘッドスペースガスを窒素置換した。ガス置換後は直ちにシリコン栓で密栓し、35℃の恒温槽に静置して、硫化水素の発生を促進させ、評価開始から1ヶ月間は、1週間ごとにデュラン瓶内のガスを採取し、評価開始から1ヶ月以降は、さらに1ヶ月間恒温槽に静置した後、デュラン瓶内のガスを採取して、ガスクロマトグラフィーで硫化水素濃度を測定した。その結果は、図1に示した。
【0109】
結果から、回収石膏単独では、評価開始から1週間後に硫化水素が110ppm発生した。回収石膏が配合された塩化ビニル樹脂シートでは、評価開始から2ヶ月間放置しても、硫化水素濃度はガスクロマトグラフィーの検出下限(0.01ppm)以下であった。
【0110】
上記結果より、回収石膏が配合された塩化ビニル樹脂シートは、回収石膏単独と比較して、発生した硫化水素濃度は、大幅に抑制される結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶水含有石膏の粉末と塩化ビニル樹脂粉末とを混合し;
得られた混合物を前記塩化ビニル樹脂の分解開始温度未満であって180℃以上の温度に加熱することにより、前記石膏の結晶水の除去及び成形を行うこと;
を特徴とする塩化ビニル樹脂製の非発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記石膏の結晶水の除去を、前記石膏粉末と塩化ビニル樹脂粉末との混合に用いる混合機中及び/または前記混合物の成形に用いるベント式成形機中で行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記石膏粉末からの結晶水の除去を、前記混合機中で前記混合物を125℃以上の温度に加熱する第1段の加熱と、前記ベント式成形機中のシリンダー部で180℃以上の温度に前記混合物を加熱する第2段の加熱とにより行う請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記石膏粉末を、塩化ビニル樹脂粉末100質量部当り、1乃至70質量部の量で使用する請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記石膏粉末と共に、塩化ビニル樹脂粉末100質量部当り1乃至140質量部の量で可塑剤を該塩化ビニル樹脂粉末に混合する請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記可塑剤の一部を前記石膏粉末及び前記塩化ビニル樹脂粉末と加熱混合し、得られた混合物を一旦冷却した後、残量の可塑剤を加熱混合する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記石膏が回収石膏である請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149236(P2012−149236A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280755(P2011−280755)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(501411466)サン・アロー化成株式会社 (1)
【Fターム(参考)】