説明

塩化ビニル樹脂組成物

【課題】熱安定性および加工性に優れかつ溶出性が小さい塩化ビニル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】塩化ビニル樹脂100重量部、ジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート10〜120重量部、および過酸化物価が5以下のエポキシ化植物油0.5〜20重量部を含む塩化ビニル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、熱安定性および加工性に優れかつ溶出性が小さく、したがって医療用チューブや医療用バック等の医療用器具に適する塩化ビニル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂に可塑剤が添加された塩化ビニル樹脂組成物は、上記可塑剤の量の多少により、広範囲な柔軟性の調整が可能であり、成形性、接着性、加工性、耐熱性および耐キンク性も良好であり、また低価格であることから、医療用器具、例えばカテーテル等の医療用チューブや、血液バッグ、薬液バッグおよびドレインバッグ等の医療用バックなどの材料として広く使用されている。しかし、可塑剤を含有する塩化ビニル樹脂組成物よりなる成形品を血液等の体液や、各種の水溶液等に接触させておくと、可塑剤やその他の添加剤が溶出される。
【0003】
一般に、医療用器具に供される樹脂組成物は、可塑剤等の添加剤が溶出しないことが望ましい。また、医療用器具は滅菌処理が不可欠であり、したがって、医療用器具に供される樹脂組成物は熱安定性であることが望ましい。
【0004】
溶出物の量を少なくするために、種々の提案がなされている。例えば、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DOP)を含む塩化ビニル樹脂組成物に特定のシリコーンオイルを添加することが知られている(特許文献1)。また、可塑剤として上記DOPを含む塩化ビニル樹脂組成物に過酸化物価が10以下であるエポキシ化植物油を添加することも提案されている(特許文献2)。しかし、実質的には過酸化物価が5より大きいエポキシ化植物油のみが記載されており、溶出物の量の低下が十分であるとは言えない。
【0005】
また、塩化ビニル系樹脂に添加する可塑剤として、従来のDOPに代えてテレフタル酸ビス2−エチルヘキシル(DOTP)を使用することが提案されている(特許文献3〜5)。これらの文献はいずれも、塩化ビニル系樹脂組成物を医療用器具へ適用することや溶出性を小さくすることについて何ら言及していない。また、これらの塩化ビニル系樹脂組成物は、熱安定性や加工性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−33343号公報
【特許文献2】特開平8−24329号公報
【特許文献3】特開2003−226788号公報
【特許文献4】特開2003−253072号公報
【特許文献5】特開昭63−75050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱安定性および加工性に優れかつ溶出性の小さい塩化ビニル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、塩化ビニル樹脂に可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)テレフタレートを配合し、かつ過酸化物価が5以下のエポキシ化植物油を配合すると、上記目的が達成されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、塩化ビニル樹脂100重量部、ジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート10〜120重量部、および過酸化物価が5以下のエポキシ化植物油0.5〜20重量部を含む塩化ビニル樹脂組成物である。本発明はまた、上記塩化ビニル樹脂組成物からなる医療用器具も提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、熱安定性および加工性に優れかつ溶出性が小さく、したがって医療用チューブや医療用バッグなどの医療用器具に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の塩化ビニル樹脂組成物について、詳細に説明する。本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂、可塑剤としてのジ(2−エチルヘキシル)テレフタレートおよび過酸化物価が5以下のエポキシ化植物油を含有する。
【0012】
塩化ビニル樹脂は、−CH−CHCl−で表される基を有するポリマーすべてを指し、塩化ビニルの単独重合体、及びエチレン−塩化ビニル共重合体等の、塩化ビニルと、酢酸ビニルを除く他の重合性モノマーとの共重合体、並びに後塩素化ビニル共重合体等の、単独重合体及び共重合体を改質したもの、さらには塩素化ポリエチレン等の、構造上塩化ビニル樹脂と類似の塩素化ポリオレフィンを包含する。
【0013】
塩化ビニル樹脂は、数平均重合度が300以上7000以下であるのが好ましく、更には500以上3000以下の重合度を有していることが望ましい。これらの塩化ビニル樹脂を単独で又は二種類以上を併用して本発明の塩化ビニル樹脂組成物における塩化ビニル樹脂成分とすることは何ら差し支えない。
【0014】
本発明で可塑剤として用いられるジ(2−エチルヘキシル)テレフタレートは、下記式で表わされる化合物である。この化合物は、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基がパラ位にあり、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基がオルト位にあるところのジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DOP)と異なる。
【0015】
【化1】

上記ジ(2−エチルヘキシル)テレフタレートは商業的に入手可能である。
【0016】
上記ジ(2−エチルヘキシル)テレフタレートの添加量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して10〜120重量部であり、好ましくは10〜100重量部、より好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは20〜65重量部である。上記下限未満では組成物の柔軟性が不十分である場合があり、上記上限を超えると組成物の強度が著しく低下したりブリードしたりする場合がある。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)テレフタレートを含むことにより、低下された溶出性が得られる。特に、後述するpH試験に記載されているように、本発明の樹脂組成物からなるシートを蒸留水に浸したとき、蒸留水のpHの変化が非常に小さいという効果を奏する。これは、pHに影響を及ぼす溶出物の量が少ないことを意味する。上記pHの変化が小さいことは、この樹脂組成物を医療用器具の材料として使用するとき、pHの影響を受け易い薬剤へも適用可能であることを意味する。
【0018】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、さらにエポキシ化植物油を含む。本発明で用いられるエポキシ化植物油は、天然に産する植物油を過酸化水素や過酢酸等の有機過酸によってエポキシ化する公知の方法により製造されるものであり、過酸化物価が5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下のものである。過酸化物価が5より大きいと、溶出物の量を低下させる効果が十分でない。
【0019】
上記エポキシ化植物油は、商業的に入手可能であり、あるいは、例えば以下のようにして製造することができる。植物油を酸化剤である有機過酸を用いて酸化処理を行い、過酸化物価が20〜40のエポキシ化植物油を得る。これを減圧下で加熱処理することによって、過酸化物価が5以下のエポキシ化植物油を製造することができる。加熱処理条件は、通常120℃〜250℃であり、好ましくは、130℃〜200℃であるのが好ましい。処理時間は数分〜数時間である。この処理時間が長いほど過酸化物価の小さいエポキシ化植物油を得ることができる。好ましくは1時間以上である。処理温度が120℃未満の場合には、処理に長時間要することになり、250℃を超えた場合には、エポキシ基重合等の副反応が生じるおそれがある。
【0020】
上記エポキシ化植物油のための植物油としては、大豆油、アマニ油、菜種油などが挙げられ、特に大豆油が好ましい。
【0021】
なお、上記過酸化物価とは、試料にヨウ化カリウムを加えた場合に遊離されたヨウ素の、試料1kgに対するミリ当量数を表わしたものであり、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」(朝倉書店発行、1966年)に記載された方法にしたがって決定される値である。上記過酸化物価が大きいほど、試料中に過酸化物基を多く含んでいることを表わす。
【0022】
上記エポキシ化植物油の配合量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して0.5〜20重量部であり、好ましくは1〜12重量部、より好ましくは1〜7重量部である。上記下限未満では、組成物の熱安定性が不十分であるとともに、溶出物量の低減効果が認められない場合がある。上記上限を超えるとブリードする場合があり、また、上記上限を超えて添加しても増量効果が認められない。
【0023】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、シリコーン油を含んでいてもよい。シリコーン油の配合量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して0.05〜10重量部であり、好ましくは0.1〜10重量部である。上記下限未満では、溶出物量の低減効果が認められない場合がある。上記上限を超えて添加しても増量効果が認められない。
【0024】
シリコーン油としては、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジメチルシロキサンおよびポリメチルハイドロジエンシロキサン、ならびにそれらをアミノ基またはカルボキシル基で変性したものが挙げられる。
【0025】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、食品用途や医療用途向け軟質塩化ビニル樹脂に通常用いられる安定剤をさらに配合してもよい。上記安定剤としては、例えば、バリウム−亜鉛系およびカルシウム−亜鉛系の安定剤、例えばカルシウムと亜鉛の複合ステアリン酸塩など、が挙げられる。安定剤の添加量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましい。安定剤の添加量が0.1重量部未満では安定剤としての効果が得られず、10重量部を超えて添加しても増量効果が認められない。
【0026】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、必要に応じて、他の可塑剤、顔料や染料、熱安定剤、酸化防止剤および滑剤等の添加剤を配合することができる。
【0027】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂、ジ(2−エチルヘキシル)テレフタレートおよびエポキシ化植物油を、必要ならば任意成分とともに、加圧ニーダーに投入し、樹脂温度150〜160℃で、5〜10分間溶融混練することにより得られる。
【0028】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、熱安定性に優れかつ溶出性が小さいので、医療用チューブ、医療用バッグおよび呼吸マスク等の各種医療用器具に好適に使用することが出来る。医療用チューブとしては、例えば、経管栄養チューブ、血液透析チューブ、呼吸器チューブ、カテーテル、圧モニターチューブおよびヘパリンチューブ等が挙げられる。医療用バッグとしては、血液バッグ、薬液バッグおよびドレインバッグ等が挙げられる。
【0029】
以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
【実施例】
【0030】
実施例1〜7および比較例1〜14
表1に示す量(重量部)の成分を、加圧ニーダーを用いて約160℃で溶融混練して塩化ビニル樹脂組成物を製造し、これをロールに通してシート状にした。次いで、プレス装置にて所定の大きさのシートに成形して試験片とし、以下の試験(1)および(2)を行った。また、上記塩化ビニル樹脂組成物を使用して以下の試験(3)を行った。結果を表1に示す。
【0031】
なお、表中の略号は以下を示す。
・PVC:塩化ビニル樹脂(平均重合度=1300)
・DOTP:ジ(2−エチルヘキシル)テレフタレート
・DOP :ジ(2−エチルヘキシル)フタレート
・TOTM:トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテート
・DINCH:ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート
・DOA:ジ(2−エチルヘキシル)アジぺート
【0032】
試験
(1)溶出物試験
「日本薬局方」に準拠して以下の試験を行った。厚さ1mmの試験片15.00gを水で洗い、室温で乾燥した。この試験片を内容量500mlの三角フラスコに入れ、蒸留水300mlを加え、シリコンゴム栓にて密封したものを、高圧蒸気滅菌器を用いて121℃で60分間加熱した。減圧した後、試験片の入った三角フラスコを高圧蒸気滅菌器から取り出し、室温になるまで放置した。試験片を蒸留水とともに300ml容のメスフラスコに移し、蒸留水を追加して正確に300mlとし、これを試験液とした。また、ブランク試験液として、試験片を含まない試験液を上記の方法にて調製した。試験液およびブランク試験液につき、下記試験(i)〜(v)を行った。
【0033】
(i)pH試験
試験液及びブランク試験液を20mlずつとり、これに塩化カリウム1.0gを水に溶かして1000mlとした液を1mlずつ加え、両液のpHを測定し、その差を算出した。この値が大きいほど、pHに影響を及ぼす物質の溶出量が多いことを意味する。
【0034】
(ii)スズ試験
スズ試験用検査液の調製
試験液10.0mlを25mlのメスフラスコに入れ、液の色がわずかに微赤色を呈するまで過マンガン酸カリウム試液を滴下したのち、脱色するまでL−アスコルビン酸を少量加えた。次に1N塩酸1.5ml、水で10倍に薄めたクエン酸溶液5.0ml、重合度2000のポリビニルアルコール2.5mlを順次加え、さらにフェニルフルオロンのエタノール溶液5.0ml及び水を加えて25.0mlとし、よくふり混ぜて約20分間静置し、これをスズ試験用検査液とした。
【0035】
希硝酸水溶液の調製
「日本薬局方第16改正」に準拠して希硝酸を調製した。すなわち、硝酸10.5mlに水を加えて100mlとしこれを10%の希硝酸とした。さらにこれを3倍に希釈して希硝酸水溶液(A)とした。
スズ試験用基準液
関東化学製のスズ標準液(1000ppm)を希釈して濃度1.0μg/mlにしたもの5.0mlを20mlの共栓付メスフラスコに入れ、液の色がわずかに微赤色を呈するまで過マンガン酸カリウム試液を滴下した後は上記検査液の調製と同様の処理をした後、上記で調製した希硝酸水溶液(A)を加えて20mlにしたものをスズ試験用基準液(0.25μg/ml)とした。同様にして、0.01μg/ml、0.05μg/mlおよび0.1μg/mlのスズ試験用基準液を調製した。
【0036】
スズの定量
上記スズ試験用基準液を、水を対照として波長510nmでの吸光度を測定し検量線を作成した。上記スズ試験用検査液についても同様に水を対照として同波長にて吸光度を測定し、検量線と照らし合わせてスズの定量を行った。なお、塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニルの製造工程における触媒や混入物としてスズを含み得る。
【0037】
(iii)過マンガン酸カリウム還元性物質試験
試験液20.0mlを共栓付三角フラスコにとり、0.002mol/Lの過マンガン酸カリウム液20.0ml及び希硝酸1mlを加え、3分間煮沸し、冷却した。これにヨウ化カリウム0.1gを加えて密栓し、ふり混ぜて10分間放置した後、指示薬としてデンプン試液を5滴加え、0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で滴定して、過マンガン酸カリウム液消費量(X)を求めた。ブランク試験液20.0mlについても同様に操作して、過マンガン酸カリウム液消費量(Y)を求めた。X−Yの値をΔKMnOとして表わした。この値が大きいほど、過マンガン酸カリウム還元性物質(主に有機物)の溶出量が多いことを意味する。
【0038】
(iv)蒸発残留物試験
試験液20mlを水浴上で蒸発凝固し、残留物を105℃で1時間乾燥し、その質量を量った。
【0039】
(v)紫外線吸収スペクトル試験
液厚10mmの石英セルに上記で調製したブランク試験液をとり、紫外可視分光光度計(日立製作所製、U−3010)の補正を行った後、上記で調製した試験液について同様に石英セルにとり、同試験機にて220〜350nmの波長での吸光度を測定し、その最大値を表1に示す。
【0040】
(2)熱安定性試験
JIS K6723にしたがって熱安定性試験を行い、170±3℃の条件で試験片が安定な状態を保持する時間(分)を測定した。上記試験は、試験片を試験紙(コンゴーレッド紙)とともに入れて密閉した試験管を、170±3℃の油浴中に入れ、試験片が変化するまでの時間を測定することにより行った。なお、コンゴーレッド紙の色が変化した時点を試験片が変化した時点とした。
【0041】
(3)加工性試験
塩化ビニル系樹脂組成物を、ラボプラストミル(東洋精機製作所製、30C150型)を用いて、試料量30g、セル温度160℃、回転数50rpm、予熱5分間の条件にて混練し、最高のトルク値に到達するまでの時間を測定し、これをゲル化時間として表した。ゲル化時間が短いほど加工性が良いことを示す。
【0042】
【表1】


【0043】
表1から明らかなように、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)テレフタレート(DOTP)を含み、かつエポキシ化大豆油として過酸化物価が5以下のものを含む本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、熱安定性および加工性に優れ、溶出性が小さく、pHの変化も小さかった。一方、エポキシ化大豆油の量が本発明の範囲未満である比較例1の組成物は、熱安定性および加工性に劣った。また、エポキシ化大豆油の過酸化物価が5より大きい比較例3〜6の組成物はそれぞれ、実施例1、3、5および6と比較して、蒸発残留物および紫外線吸収スペクトルの試験での値が大きかった。これは、溶出性が高いことを示す。また、これらの実施例と比較例との比較において、蒸発残留物および紫外線吸収スペクトルの試験結果が同レベルであるもの、例えば実施例3と比較例3を比較すると、実施例3の組成物は比較例3よりも熱安定性に優れる。DOTP以外の可塑剤を含む比較例7〜14の組成物は、pH試験でのpHの変化が大きかった。
【0044】
実施例8および比較例15〜23
表2に示す量(重量部)の成分を、加圧ニーダーを用いて約160℃で溶融混練して塩化ビニル樹脂組成物を製造し、これをロールに通してシート状にした。次いで、プレス装置にて所定の大きさのシートに成形して試験片とし、以下のGS−MS試験を行った。結果を表2に示す。
【0045】
GS-MS試験
(i)蒸留水による抽出試験
65mm×65mmの大きさの試験片(厚さ2mm)約10.00gを蒸留水で洗い、室温で乾燥した。この試験片を内容量500mlの硝子製密閉容器に入れ、蒸留水300mlを加え、37℃で5時間、振動浸漬した。この蒸留水を300ml容のメスフラスコに移し、新しい蒸留水を追加して正確に300mlとし、これを試験液とした。また、ブランク試験液を、試験片を用いなかったこと以外は上記試験液と同様の方法で調製した。
【0046】
得られた試験液およびブランク試験液をエバポレータを用いて濃縮乾燥固化させ、乾固物を得た。乾固物をアセトンにて溶解させながら10mlにメスアップした。この溶液をガスクロマトグラフ−質量分析装置(GC−MS装置)にて解析し、蒸留水中に抽出された可塑剤の量(mg/ml)を求めた。測定条件は次の通りである。なお、検量線作成は、DOTP、DOP、TOTMおよびDOAについては関東化学社製の標準物質を用いて、DINCHについてはBASF社製の製品を用いて行った。
【0047】
測定条件:
装置:GCMS−QP2010Plus(島津製作所社製)
カラム:DB−1 MS(アジレント・テクノロジー社製)φ0.25mm×30m×膜厚0.25μm
注入口温度:280℃
インターフェイス温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム(2mL/分)
試験液注入量:1μL(オートサンプラー使用)
カラム温度:100℃(1分)〜20℃/分〜230℃(0分)〜10℃/分〜300℃(15分)
【0048】
(ii)40vol/vol%エタノール水溶液による抽出試験:
上記試験(i)において、蒸留水を40vol/vol%エタノール水溶液に変えたこと以外は、試験(i)と同様にして、40vol/vol%エタノール水溶液中に抽出された可塑剤の量(mg/ml)を求めた。なお、上記エタノール水溶液は、関東化学社製の特級エタノールと蒸留水とを用いて調製した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から明らかなように、可塑剤がDOTPであり、かつエポキシ化大豆油の過酸化物価が5以下である実施例8の組成物は、これら2つの要件の一方または両方を満たさない比較例15〜23の組成物と比較して、蒸留水およびエタノール水溶液中への可塑剤の溶出量が少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂100重量部、ジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート10〜120重量部、および過酸化物価が5以下のエポキシ化植物油0.5〜20重量部を含む塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
さらにシリコーン油0.05〜10重量部を含む請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塩化ビニル樹脂組成物からなる医療用器具。
【請求項4】
医療用チューブまたは医療用バッグである請求項3記載の医療用器具。

【公開番号】特開2013−64113(P2013−64113A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182880(P2012−182880)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】