説明

塩化ビニル系樹脂シート

【課題】透明性を損なわず、デスクやテーブル等の被覆体と密着することによる見栄えの悪化がない塩化ビニル系樹脂シートを提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂からなる基材シート2の少なくとも片面に可塑剤移行防止被膜3を設けた塩化ビニル系樹脂シート1において、可塑剤移行防止被膜に球状粒子4を含有させ、可塑剤移行防止被膜の厚みと球状アクリル樹脂粒子の粒子径を特定の組合せにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に可塑剤移行防止被膜が形成された塩化ビニル系樹脂シートに関するものであり、デスクマットやテーブルマットとして好適に使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりデスクマット、テーブルマットには、塩化ビニル系樹脂シートが使用されている。このような塩化ビニル系樹脂シートには、可塑剤の移行を防止するために塩化ビニル系樹脂シートの片面もしくは両面に可塑剤移行防止被膜が設けたものが知られている。
【0003】
可塑剤移行防止被膜の形成された塩化ビニル系樹脂シートは、可塑剤移行防止被膜の表面が平滑なために、デスクやテーブル等に密着して、その密着部に空気が入り不定形の斑紋状に現れるため、見栄えが悪くなるという問題があった。この現象は塩化ビニル系樹脂シートが透明または半透明であって、デスクやテーブルがガラス天板である場合顕著である。
【0004】
このような塩化ビニル系樹脂シートの問題を解決するために、本出願人は塩化ビニル系樹脂からなる基材シートまたは可塑剤移行防止被膜をエンボス加工して塩化ビニル系樹脂シートの表面を凹凸形状とすることによって、デスクマットやテーブルマットとの密着を防止する技術を提案している(特許文献1)。
【0005】
特許文献1の方法によれば、デスクやテーブル等の被覆体と密着することによる見栄えの悪化を防止することは可能であるが、エンボス加工によって表面を凹凸形状にすることから、塩化ビニル系樹脂シート本来の透明性が低下してしまう問題があった。
【特許文献1】特開平8−118564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであって、透明性を損なわず、デスクやテーブル等の被覆体と密着することによる見栄えの悪化がない塩化ビニル系樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討を重ねた結果、可塑剤移行防止被膜に球状粒子を含有させ、可塑剤移行防止被膜の厚みと球状アクリル樹脂粒子の粒子径を特定の組合せにすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、塩化ビニル系樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に可塑剤移行防止被膜を設けた塩化ビニル系樹脂シートであって、可塑剤移行防止被膜が球状粒子を含有しており、可塑剤移行防止被膜の厚み/球状粒子の重量平均粒子径=1/0.8〜10.0であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂シートを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塩化ビニル系樹脂シートにおいて、可塑剤移行防止被膜中に球状粒子が含有され、可塑剤移行防止被膜厚みと球状粒子径を特定の組合せに設定することによって、可塑剤移行防止被膜の表面が微細凹凸状になり、デスクやテーブル等の被膜体との密着が防止できる。そのため、塩化ビニル系樹脂シートと被膜体との間に空気が入って不定形の斑紋状に現れることがなく、外観を損ねることがない。
また、本発明の塩化ビニル系樹脂シートは、不定形の斑紋状が非常に目立ちやすい、表面が平滑で透明性の高いガラス天板等のデスクやテーブルの場合に特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。本発明の塩化ビニル系樹脂シートは、塩化ビニル系樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に可塑剤移行防止被膜を設けた塩化ビニル系樹脂シートであって、可塑剤移行防止被膜には球状粒子が含有されている。
【0011】
本発明の基材シートを構成する塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル、あるいは塩化ビニルと他のモノマー、例えばエチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸、アクリロニトリル、アルキルビニルエーテルなどとの共重合体、あるいはこれらの樹脂の混合物等が使用できる。
【0012】
上記塩化ビニル系樹脂には可塑剤が含有され、具体的にはジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジラウリルフタレート、ジデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジトリデシルフタレートなどのフタル酸系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジトリノニルアジペート、ジイソデシルアジペートなどのアジピン酸エステル系可塑剤;トリクレジルホスフェート、トリキシリルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェートなどのリン酸エステル系可塑剤;セバチン酸エステル系可塑剤;ポリエステル系可塑剤;トリメリット酸エステル系可塑剤;エポキシ系可塑剤などの公知の可塑剤が使用できる。上記の可塑剤の含有量としては、用途などによっても異なるが、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、30〜70重量部程度である。
【0013】
基材シートは上記塩化ビニル系樹脂に可塑剤および必要に応じて添加される各種添加剤、例えば安定剤、滑剤、粘着防止剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、光安定剤、無機充填剤、着色剤などを添加した塩化ビニル系樹脂組成物をカレンダー法、押出法などの公知の手段で成形することにより得られる。基材シートの厚さは、用途によって異なるが、一般的には0.1〜5.0mm程度が好ましい。
【0014】
本発明の塩化ビニル系樹脂からなる基材シートは、単層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。基材シートが複数層からなる場合、それぞれの層は同一の組成からなるものであってもよいし、例えば各層に含有させる可塑剤量を変えて各層の硬さに変化を持たせたものなど、各層の組成が異なるものであってもよい。
【0015】
本発明においては、上記塩化ビニル系樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に可塑剤移行防止被膜が設けられる。可塑剤移行防止被膜を形成する樹脂としては、可塑剤移行防止効果を奏するものであれば特に限定されないが、紫外線硬化型樹脂が好ましい。紫外線硬化型樹脂としては、ポリエーテルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、チオール・ジエン反応型系樹脂などが用いられるが、基材シートとの密着性の観点からウレタンアクリレート系樹脂が好ましい。
【0016】
可塑剤移行防止被膜の厚みは、5〜30μmであることが好ましく、より好ましくは5〜20μmである。5μm未満であると、可塑剤移行防止効果が得られないおそれがある。また30μmを超えると塩化ビニル系樹脂シートを曲げた時にクラックが入るおそれがある。
【0017】
本発明において、可塑剤移行防止被膜には球状粒子が含有されており、可塑剤移行防止被膜の厚み/球状粒子の重量平均粒子径=1/0.8〜10.0であることを必須の要件としている。可塑剤移行防止被膜の厚み/球状粒子の重量平均粒子径=1/0.8〜10.0とすることで、塩化ビニル系樹脂シートをデスクマットやテーブルマットとして使用した場合のデスクやテーブルとの密着による見栄えの悪化を防止することが可能となる。可塑剤移行防止被膜の厚み/球状粒子の重量平均粒子径=1/0.8〜10.0の条件を満たす球状粒子が可塑剤移行防止被膜中に含有されることにより、球状粒子が部分的に被膜上に突出し微細な凹凸面が形成される。そのため、塩化ビニル系樹脂シートをデスクマットやテーブルマットとして使用した場合、塩化ビニル系樹脂シートとデスクやテーブルとが、可塑剤移行防止被膜上に突出した球状粒子において接するため、塩化ビニル系樹脂シートをデスクやテーブルに載置する際に巻き込んだ空気の抜け道ができ、エアーマークの発生を防止することができるのである。また、上記構成を有しても塩化ビニル系樹脂シートが本来有する透明性を損なうことはない。
【0018】
球状粒子の重量平均粒子径は可塑剤移行防止被膜の厚みと同程度若しくは被膜厚みよりも若干小さい場合であっても上記効果は得られる。これは、被膜の厚みと同程度若しくは被膜厚みよりも小さい球状粒子の全てが被膜中に埋没するのではなく、被膜の硬化工程や球状粒子の比重等が起因して、添加した一部の球状粒子は被膜上に突出するためである。
【0019】
ただ、可塑剤移行防止被膜に球状粒子を添加し、エアーマークの発生を防止する効果は、球状粒子の重量平均粒子径が可塑剤移行防止被膜の厚みよりも大きいほうが顕著に現れる。また、可塑剤移行防止被膜の厚みよりも球状粒子の重量粒子径が大きくなりすぎると、球状粒子の落下や塗工性が悪化するおそれがあるため、可塑剤移行防止被膜の厚み/球状粒子の重量平均粒子径は1/1.5〜6であることが好ましい。
【0020】
本発明に用いる球状粒子としては、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等使用できる。分散性の観点から、球状粒子は可塑剤移行防止被膜と同系の樹脂であることが好ましく、可塑剤移行防止被膜としてウレタンアクリレート系塗料を用いた場合はアクリル樹脂、ウレタン樹脂が好ましい。なお、上記球状粒子が架橋しているものであると、可塑剤の移行防止効果が高く、耐溶剤性に優れるため好ましい。
【0021】
球状粒子の粒子径は、可塑剤移行防止被膜の厚みによって決まるが、実質的には、4〜30μmである。4μm未満であると、可塑剤移行防止被膜の厚みを薄くする必要があるため、基材シートに含有されている可塑剤の移行防止効果が充分でないおそれがある。また30μmを超えると、球状粒子の分散性が悪化するおそれがある。また、球状粒子はその粒度分布が狭いほうが好ましい。球状粒子の大きさが不均一であると、デスクやテーブル等の被膜物を傷つけるおそれがある。
【0022】
球状粒子は可塑剤移行防止被膜の固形分100重量部に対して0.1〜5.0重量部添加されていることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜3.0重量部である。0.1重量部未満であると、デスクやテーブル等の被覆体との間に不定形の斑紋状のエアーマークが見られる傾向にある。また、5.0重量部を超えても球状粒子を添加する効果は飽和し、透明性が低下する傾向にある。
【0023】
また、可塑剤移行防止被膜は、有意に透明性を低下させない範囲で重量平均粒子径が0.5μm未満の無機物を含有していてもよい。重量平均粒子径が0.5μm未満の無機物を添加することにより、被膜体との密着性をさらに低下させることができる。これは、塩化ビニル樹脂シートに荷重がかかって球状粒子以外の面で被覆体と接触した場合であっても、重量平均粒子径が0.5μm未満の無機物が被膜中に分散されていると、密着することなく塩化ビニル系樹脂シートが復元できるためである。なお、重量平均粒子径が0.5μmを超える無機物は透明性が悪化するため好ましくない。
【0024】
本発明において、球状粒子を含有する可塑剤移行防止被膜は、片面にのみ形成してもよいし、両面に形成してもよい。また、片面にのみに球状粒子を含有する可塑剤移行防止被膜を設け、もう一方の面には球状粒子を含有しない可塑剤移行防止被膜を設けてもよい。
【0025】
本発明の塩化ビニル系樹脂シートは、ナイフコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、リバースロールコーティング、ディップコーティング、スクリーン印刷などの公知の手段を採用して、塩化ビニル系樹脂からなる基材シートに可塑剤移行防止性被膜を形成する樹脂を塗布し、硬化させることにより得られる。この際、必要応じて樹脂を溶剤等で希釈して塗布してもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0027】
<実施例1〜12、比較例1>
両面が平滑な塩化ビニル系樹脂からなる基材シート(厚み2mm)の片面に表1に記載の配合で可塑剤移行防止被膜を設けて塩化ビニル系樹脂シートを作成した。具体的には、被膜構成樹脂と球状粒子とイソプロピルアルコールとからなる被膜構成塗料をグラビアコーティングにより基材シートの片面に塗布し、紫外線硬化させることにより可塑剤移行防止被膜を設けた塩化ビニル系樹脂シートを得た。
【0028】
<比較例2>
球状粒子を添加しなかった以外は上記実施例1〜12、比較例1と同様に塩化ビニル系樹脂シートを得た。
【0029】
<比較例3>
可塑剤移行防止被膜を設けず、基材シートのみで塩化ビニル系樹脂シートを構成した。
【0030】
<参考例1>
エンボス加工によって片面に微細凹凸が形成された塩化ビニル系樹脂からなる基材シート(厚み2mm)の微細凹凸の形成面側に表1に記載の配合で可塑剤移行防止被膜を設けて塩化ビニル系樹脂シートを作成した。
【0031】
上記実施例1〜12、比較例1〜3、参考例1で得られた塩化ビニル系樹脂シートについて、以下の評価を行なった。
【0032】
<表面外観>
ガラス天板に塩化ビニル系樹脂シートを載せて両面テープで固定し、常温にて3ヶ月後のガラス天板と塩化ビニル系樹脂シートとの密着性について目視にて評価した。なお、実施例1〜12および比較例1〜2、参考例1においては、被膜面がガラス天板側になるように載置した。
◎:良好
〇:極僅かにエアーマークが見られる
×:エアーマークが多数見られる
【0033】
<透明性>
ヘイズメーター(スガ試験機(株)社製)を用いて塩化ビニル系樹脂シートヘイズ値を測定した。なお、ヘイズ値が小さいほうが透明性に優れると言える。
【0034】
<可塑剤移行性>
ガラス天板と塩化ビニル系樹脂シートの間にカーボンコピーした書類を50℃、24時間、3kgの条件で挟み、塩化ビニル系樹脂シートへの転写について目視にて評価した
◎:転写なし
〇:極僅かに転写が見られる
×:転写が顕著に見られる
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表中:
被膜構成樹脂1:紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(樹脂100重量部に対し、粒子径0.2μmのシリカを3重量部含有)
被膜構成樹脂2:紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(シリカの含有なし)
球状粒子1:架橋アクリル樹脂 重量平均粒子径12μm 積水化成品工業社製 テクポリマーMBX−12
球状粒子2:架橋アクリル樹脂 重量平均粒子径30μm 積水化成品工業社製 テクポリマーMBX−30
球状粒子3:ベンゾグアナミン系樹脂 重量平均粒子径10μm 日本触媒社製 エポスターL15
球状粒子4:架橋アクリル樹脂 重量平均粒子径50μm 積水化成品工業社製 テクポリマーMBX−50
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の塩化ビニル系樹脂シートの側面図である。
【符号の説明】
【0039】
1・・・塩化ビニル系樹脂シート
2・・・基材シート
3・・・可塑剤移行防止被膜
4・・・球状粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に可塑剤移行防止被膜を設けた塩化ビニル系樹脂シートであって、可塑剤移行防止被膜が球状粒子を含有しており、可塑剤移行防止被膜の厚み/球状粒子の重量平均粒子径=1/0.8〜10.0であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項2】
可塑剤移行防止被膜の厚みが5〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項3】
球状粒子が可塑剤移行防止被膜の固形分100重量部に対して0.1〜5.0重量部添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載の塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項4】
可塑剤移行防止被膜がウレタンアクリレート系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂シート。
【請求項5】
球状粒子がアクリル系樹脂またはウレタン系樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の塩化ビニル系樹脂シート。



【図1】
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【公開番号】特開2009−209168(P2009−209168A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50391(P2008−50391)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】