説明

壁面緑化システム

【課題】壁面緑化を施しつつ構造物(建物の室内)への採光を可能にするとともに、冬場などの低温時に植物の育成を促進させることを可能にした壁面緑化システムを提供する。
【解決手段】植栽が施される基盤1aを備えた緑化ユニット1を構造物Tの壁面T1に沿って並設して構造物Tに緑化を施す壁面緑化システムにおいて、緑化ユニット1を壁面T1に対して傾動自在に設ける。また、第1伝動部材3を回動させるとともに複数の緑化ユニット1のそれぞれの歯車8を回転させることによって、複数の緑化ユニット1が同時に傾動するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の壁面に緑化を施すための壁面緑化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市部におけるヒートアイランド現象の緩和や大気中の炭酸ガスの吸収、アメニティ空間の創出などを目的として、建物や土木構造物(構造物)の壁面に植栽を施す壁面緑化が行なわれている。
【0003】
そして、この種の壁面緑化システムAには、例えば図2及び図3に示すように、植栽が施される培土基盤(基盤)1aとこの培土基盤1aを保持する枠部材1bを備える緑化ユニット1を構造物Tの壁面T1に沿って並設して構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−222015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の壁面緑化システムAにおいては、略水平方向に延設した断面略凹状の樋部材2に枠部材1bを着脱可能に固定して緑化ユニット1が設置されているため、常時、構造物Tの壁面T1が緑化ユニット1(壁面緑化システムA)に被覆される。このため、構造物Tが建物の場合には、緑化ユニット1で太陽光が遮られて建物T側の照度が低くなり、建物Tの窓などの開口部から室内への採光が妨げられて室内が暗くなってしまう。そして、このように壁面緑化を施すことにより室内への採光が妨げられることで、光熱費の負担が増大するという問題があった。
【0005】
また、例えば冬場などの低温時に早く植物を育成させたい場合があり、このような場合には、緑化ユニット1の植物接地面1c(培土基盤1aの表面)を太陽光線に対して直交させ、太陽熱を十分に緑化ユニット1に吸収(採熱)させることによって、短時間で効率的に植物を育成することが可能になる。しかしながら、上記の壁面緑化システムAにおいては、緑化ユニット1が、常時、植物接地面1cを構造物Tの壁面T1に沿わせた状態で固設されているため、太陽熱を十分に吸収できず、植物の育成を促進させることができないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、壁面緑化を施しつつ構造物(建物の室内)への採光を可能にするとともに、冬場などの低温時に植物の育成を促進させることを可能にした壁面緑化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0008】
本発明の壁面緑化システムは、植栽が施される基盤を備えた緑化ユニットを構造物の壁面に沿って並設して前記構造物に緑化を施す壁面緑化システムであって、前記緑化ユニットが前記壁面に対して傾動自在に設けられていることを特徴とする。
【0009】
この発明においては、構造物の壁面に沿ってこの壁面を覆うように設置されている状態から緑化ユニットを傾動させることによって、例えば隣り合う緑化ユニットの間に開口が形成されるため、この開口を通じて構造物側に太陽光を照射させることが可能になる。これにより、構造物が建物の場合に、壁面緑化を施しつつ室内への採光が可能になる。
【0010】
また、例えば冬場などの低温時に植物の育成を促進させたい場合に、植物接地面(基盤の表面)を太陽光線に対して直交させるように緑化ユニットを傾動させることで、構造物に壁面緑化を施しつつ緑化ユニットに太陽熱を十分に吸収(採熱)させることが可能になる。
【0011】
また、本発明の壁面緑化システムおいては、前記緑化ユニットに歯車が設けられるとともに、複数の前記緑化ユニットの前記歯車に無端状の第1伝動部材が巻き掛けられ、前記第1伝動部材を回動させるとともに前記複数の緑化ユニットのそれぞれの前記歯車を回転させることによって、前記複数の緑化ユニットが同時に傾動するように構成されていることが望ましい。
【0012】
この発明においては、第1伝動部材を回動させるとともに複数の緑化ユニットを同時に傾動させることが可能になるため、容易に且つ効率的に室内への採光や各緑化ユニットの採熱を図ることが可能になる。
【0013】
さらに、本発明の壁面緑化システムおいては、回転軸を備えた電動機が設けられるとともに、該電動機の回転軸と少なくとも一つの前記緑化ユニットの歯車とに無端状の第2伝動部材が巻き掛けられ、前記電動機を駆動して前記第2伝動部材を回動させるとともに前記少なくとも一つの緑化ユニットの歯車を回転させることによって、前記第1伝動部材が回動するように構成されていることがより望ましい。
【0014】
この発明においては、電動機の駆動によって第2伝動部材ひいては第1伝動部材を回動させることができ、複数の緑化ユニットを同時に傾動させることが可能になる。これにより、より容易に且つ効率的に室内への採光や各緑化ユニットの採熱を図ることが可能になる。
【0015】
また、本発明の壁面緑化システムおいては、前記電動機の駆動を制御する制御手段が設けられていることがさらに望ましい。
【0016】
この発明においては、制御手段により、例えば太陽の位置に合わせて電動機の駆動を制御することによって、自動的に複数の緑化ユニットを太陽の位置に合わせて傾動させることが可能になる。これにより、さらに容易に且つ効率的に室内への採光や各緑化ユニットの採熱を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の壁面緑化システムによれば、緑化ユニットが構造物の壁面に対して傾動自在に設けられていることにより、構造物が建物の場合に室内への採光が可能になるため、壁面緑化を施しつつ明るい室内を実現でき、光熱費の負担を低減することが可能になる。
【0018】
また、植物接地面を太陽光線に対して直交させるように緑化ユニットを傾動させることで、緑化ユニットに太陽熱を十分に吸収(採熱)させることが可能になるため、例えば冬場などの低温時に、植物をより短時間で効率よく育成することが可能になる。
【0019】
さらに、降雨時に緑化ユニットを傾動させることにより、効率的に灌水を行うことも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1を参照し、本発明の一実施形態に係る壁面緑化システムについて説明する。本実施形態は、建物(構造物)の外面や内面の壁面に緑化を施すための壁面緑化システムに関するものである。
【0021】
本実施形態の壁面緑化システムBは、図1に示すように、植栽が施される基盤1aを備えて矩形板状に形成され、建物Tの壁面T1に沿って並設される緑化ユニット1と、第1チェーン(第1伝動部材)3と、第2チェーン(第2伝動部材)4と、壁面緑化システムBの最上方に配設された電動モータ(電動機)5と、電動モータ5の駆動を制御する例えばコンピュータなどの制御手段6とを備えて構成されている。
【0022】
緑化ユニット1は、建物Tとの間に配設された支持枠7に支持されて、建物Tの壁面T1に沿う上下方向及び水平方向に複数並設されている。また、本実施形態の緑化ユニット1には、その上端部に水平方向に延びる図示せぬ回動軸が一体に固設されており、この回動軸にギア(歯車)8が取り付けられている。そして、各緑化ユニット1は、回動軸を回動可能に支持枠7に支持させて、建物Tの壁面T1に沿う状態から下端部を上方に移動させるように回動軸中心に傾動自在(回動自在)に設けられている。すなわち、各緑化ユニット1は、植物接地面1c(基盤1aの表面)が建物Tの壁面T1に沿って水平方向を向く状態から上方を向くように傾動自在に設けられている。
【0023】
そして、上下方向に並設された複数の緑化ユニット1には、それぞれのギア8に無端状の第1チェーン3が巻き掛けられている。また、最上方の緑化ユニット1のギア8と電動モータ5の回転軸5aに取り付けられたギア5bとに無端状の第2チェーン4が巻き掛けられている。
【0024】
ここで、緑化ユニット1は、図2及び図3に示したように、基盤1aと、この基盤1aを保持する枠部材1bとを備えて構成するようにしてもよい。また、基盤1aに植栽される植物は、例えばコケ、セダム、蔓性植物などが好ましいが特に限定を必要とするものではなく、植物を基盤1aに植栽する手法においても、直接基盤1aに播種して植物を育成させたり、予め基盤1aに窪みを設けてこの窪みにポット苗を植栽するなど、特に限定を必要としない。
【0025】
上記のように構成した本実施形態の壁面緑化システムBにおいては、電動モータ5を駆動して回転軸5aが回転すると、回転軸5aに取り付けられたギア5bが回転し、これとともに第2チェーン4が回動する。この第2チェーン4の回動によって、最上方の緑化ユニット(少なくとも一つの緑化ユニット)1のギア8が回転し、このギア8の回転とともに第1チェーン3が回動する。そして、第1チェーン3が複数の緑化ユニット1のそれぞれのギア8に巻き掛けられているため、各緑化ユニット1のギア8が第1チェーン3の回動とともに回転し、建物Tの壁面T1に沿い、この壁面T1を覆うように設置されている各緑化ユニット1が同時に傾動する。
【0026】
これにより、上下方向に隣り合う緑化ユニット1の間に開口9が形成され、この開口9を通じて建物T側に太陽光が照射される。このため、日中に緑化ユニット1を傾動させることによって、建物T1の窓などの開口部から室内への採光が可能になり、壁面緑化を施した場合においても、室内が明るくなり、余分な光熱費の負担がなくなる。
【0027】
また、このとき、電動モータ5を駆動するとともに第2チェーン4ひいては第1チェーン3が回動して、複数の緑化ユニット1が同時に傾動するため、容易に且つ効率的に室内への採光が図られる。さらに、制御手段6により、例えば太陽の位置に合わせて電動モータ5の駆動を制御した場合には、自動的に複数の緑化ユニット1が太陽の位置に合わせて傾動することになり、さらに容易に且つ効率的に室内への採光が図られることになる。
【0028】
一方、例えば冬場などの低温時に、緑化ユニット1の基盤1aに植栽した植物の育成を促進させたい場合には、電動モータ5を駆動して植物接地面1cが太陽光線に対して直交するように緑化ユニット1を傾動させる。このように緑化ユニット1を傾動させると、緑化ユニット1(基盤1a)に太陽熱が十分に吸収(採熱)され、植物が短時間で効率よく育成することになる。
【0029】
また、この場合においても、電動モータ5を駆動するとともに第2チェーン4ひいては第1チェーン3が回動して、複数の緑化ユニット1が同時に傾動するため、容易に且つ効率的に採熱が図られる。さらに、制御手段6により、例えば太陽の位置に合わせて電動モータ5の駆動を制御した場合には、自動的に複数の緑化ユニット1が太陽の位置に合わせて傾動することになり、さらに容易に且つ効率的に採熱が図られることになる。よって、植物がより短時間で効率よく確実に育成することになる。
【0030】
また、降雨時に緑化ユニット1を傾動させることにより、効率的に灌水が行える。
【0031】
したがって、本実施形態の壁面緑化システムBにおいては、建物Tの壁面T1に沿ってこの壁面T1を覆うように設置されている状態から緑化ユニット1を傾動させることによって、隣り合う緑化ユニット1の間に開口9が形成されるため、この開口9を通じて建物T側に太陽光を照射させることが可能になる。これにより、壁面緑化を施しつつ建物Tの室内への採光が可能になり、壁面緑化を施しつつ明るい室内を実現でき、光熱費の負担を低減することが可能になる。
【0032】
また、例えば冬場などの低温時に植物の育成を促進させたい場合に、植物接地面1cを太陽光線に対して直交させるように緑化ユニット1を傾動させることで、建物Tに壁面緑化を施しつつ緑化ユニット1に太陽熱を十分に吸収(採熱)させることが可能になる。これにより、冬場などの低温時に、植物をより短時間で効率よく育成することが可能になる。
【0033】
さらに、降雨時に緑化ユニット1を傾動させることにより、効率的に灌水を行うことも可能になる。
【0034】
また、本実施形態の壁面緑化システムBおいては、第1チェーン3、第2チェーン4、電動モータ5を備えて構成することにより、電動モータ5の駆動によって第2チェーン4ひいては第1チェーン3を回動させることができ、複数の緑化ユニット1を同時に傾動させることが可能になる。これにより、より容易に且つ効率的に室内への採光や各緑化ユニット1の採熱を図ることが可能になる。
【0035】
さらに、このとき、電動モータ6の駆動を制御する制御手段6を備え、この制御手段6により、太陽の位置に合わせて電動モータ5の駆動を制御することによって、自動的に複数の緑化ユニット1を太陽の位置に合わせて傾動させることが可能になる。これにより、さらに容易に且つ効率的に室内への採光や各緑化ユニット1の採熱を図ることが可能になる。
【0036】
以上、本発明に係る壁面緑化システムの実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、第2チェーン4、電動モータ5、制御手段6を備え、複数の緑化ユニット1が同時に且つ自動的に傾動するものとして説明を行ったが、少なくとも一つの緑化ユニット1のギア8を手動で回転させ、第1チェーン3をこのギア8の回転とともに回動させることによって、複数の緑化ユニット1を同時に傾動させるようにしてもよい。また、例えば建物Tの窓などの開口部を覆っている緑化ユニット1のみを傾動させて室内への採光を図れるようにしてもよく、複数の緑化ユニット1がそれぞれ個別に傾動するように構成してもよい。
【0037】
さらに、本実施形態では、緑化ユニット1の上端部に回動軸が固設され、この水平方向に延びる回動軸を回動可能に支持枠7に支持させることで、緑化ユニット1が建物Tの壁面T1に沿う状態から下端部を上方に移動させるように回動軸中心に傾動するものとした。これに対し、本発明は、緑化ユニット1が壁面T1に対して傾動自在に設けられていればよく、例えば緑化ユニット1の一方の側端部に回動軸を固設し、この上下方向に延びる回動軸を回動可能に支持枠7に支持させて、緑化ユニット1を、建物Tの壁面T1に沿う状態から他方の側端部を横方向(水平方向)に移動させるように傾動自在に設けてもよい。この場合においても、緑化ユニット1を傾動させることで太陽光を建物T側に照射させて室内への採光を図ることが可能である。また、建物Tの壁面T1に沿って設置されている状態と比較し、緑化ユニット1を傾動させることで太陽熱をより多く採熱することが可能である。
【0038】
また、本実施形態では、第1伝動部材と第2伝動部材が第1チェーン3と第2チェーン4であるものとしたが、第1伝動部材と第2伝動部材はそれぞれベルトであってもよい。
【0039】
さらに、本実施形態では、構造物が建物Tであるものとして説明を行ったが、本発明は、土木構造物など建物T以外の構造物に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る壁面緑化システムを示す側面図であり、緑化ユニットを傾動させた状態を示す図である。
【図2】従来の壁面緑化システムを示す側面図である。
【図3】図2のX1−X1線矢視図である。
【符号の説明】
【0041】
1 緑化ユニット
1a 基盤
1b 枠部材
1c 植物接地面(基盤の表面)
2 樋部材
3 第1チェーン(第1伝動部材)
4 第2チェーン(第2伝動部材)
5 電動モータ(電動機)
5a 回転軸
5b ギア
6 制御手段
7 支持枠
8 ギア(歯車)
9 開口
A 従来の壁面緑化システム
B 壁面緑化システム
T 建物(構造物)
T1 壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植栽が施される基盤を備えた緑化ユニットを構造物の壁面に沿って並設して前記構造物に緑化を施す壁面緑化システムであって、
前記緑化ユニットが前記壁面に対して傾動自在に設けられていることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項2】
請求項1記載の壁面緑化システムにおいて、
前記緑化ユニットに歯車が設けられるとともに、複数の前記緑化ユニットの前記歯車に無端状の第1伝動部材が巻き掛けられ、
前記第1伝動部材を回動させるとともに前記複数の緑化ユニットのそれぞれの前記歯車を回転させることによって、前記複数の緑化ユニットが同時に傾動するように構成されていることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項3】
請求項2記載の壁面緑化システムにおいて、
回転軸を備えた電動機が設けられるとともに、該電動機の回転軸と少なくとも一つの前記緑化ユニットの歯車とに無端状の第2伝動部材が巻き掛けられ、
前記電動機を駆動して前記第2伝動部材を回動させるとともに前記少なくとも一つの緑化ユニットの歯車を回転させることによって、前記第1伝動部材が回動するように構成されていることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項4】
請求項3記載の壁面緑化システムにおいて、
前記電動機の駆動を制御する制御手段が設けられていることを特徴とする壁面緑化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−29088(P2010−29088A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193432(P2008−193432)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】