説明

変圧器

【課題】 変圧器を構成する巻線の周辺で生ずる浮遊容量の影響を低減化して、高電圧パルスの立ち上がり後において、高電圧パルスのパルス波高値が時間的に変化しにくい変圧器を提供する。
【解決手段】 1次巻線と、1次巻線の外側に配置された2次巻線とを有する変圧器であり、2次巻線の外側に配置された対向電極を有し、2次巻線と対向電極とを電気的に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線管用電源装置に用いられる変圧器、特に、荷電粒子加速器や電磁波発生等を目的とした電子線管用電源装置に用いられる変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変圧器では、巻線の高電圧部位に電界が集中することによって、外来サージ電圧が侵入することによる絶縁破壊や、部分放電による絶縁の劣化などが生ずることがあった。このため、巻線の端部の近傍に遮蔽電極を設ける対策が行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、低圧巻線と高圧巻線との間に絶縁筒と間隔材とを配置した変圧器もあった。この変圧器は、低圧巻線と高圧巻線との間の特定の領域における電界集中を抑制することを目的としたものであった(例えば、特許文献2参照)。
このように、従来の変圧器では、巻線の両端近傍に電極を設けたものや、2つの巻線の間に絶縁筒などを配置したものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−21308号公報
【特許文献2】特開2000−91131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、荷電粒子加速器や電磁波発生等を目的とした電子線管用電源装置に用いられる変圧器は、パルス列からなる電圧を出力する。このパルス列は、方形波のパルスによって構成されている。パルスは、パルス幅が数マイクロ秒から数ミリ秒程度という短時間であり、パルス波高値が百キロボルト以上のものが要求される。以下、このパルスを高電圧パルスと称する。
【0006】
しかしながら、従来の変圧器では、高電圧巻線と接地電位間との間に浮遊容量が形成されるため、この浮遊容量と高電圧巻線のインダクタンスとによって共振が生じていた。
このため、変圧器により伝達すべき高電圧パルスに、共振による振動電圧が重畳することによって、高電圧パルスの波形が歪んでしまい、負荷となる加速器や電子管に、方形波の高電圧パルスを供給することができなかった(図5参照)。以下、より詳しく説明する。なお、図5に示した部材や部位のうち、後述する図6と同じものについては、同様の符号を付した。
【0007】
上述した浮遊容量は、図5(a)に示すように、主に、巻線間静電容量182と高電圧巻線内部静電容量184と対地間静電容量186とからなる。高電圧巻線内部静電容量184に比べると、巻線間静電容量182、対地間静電容量186の方が大きい。これらの巻線間静電容量182や対地間静電容量186が大きい場合には、高電圧パルスの立ち上がり直後において、高電圧巻線120の軸方向に沿った電位は、図5(b)のグラフの実線に示すように、第2の端部124に近づくに従って大きく変化する。このため、高電圧パルスの立ち上がり直後に、これらの巻線間静電容量182や対地間静電容量186を充電するために、高電圧巻線120の両端から、巻線間静電容量182や対地間静電容量186に電荷が移動する。その後、図5(b)のグラフの破線に示すように、従来の変圧器の誘導起電力による電位の変化は、高電圧巻線120の軸方向に沿って直線的なものとなる。
この電荷の移動によって磁界が生じ、生じた磁界によるインダクタンスと、巻線間静電容量182や対地間静電容量186との間に共振現象が現れ、周期がマイクロ秒台の振動電圧が生ずる。この振動電圧は、高電圧パルスの立ち上がり後において、パルス波高値を時間的に変化させるため、高電圧パルスの波形が方形波から歪んでしまい、負荷となる加速器や電子管に、方形波の高電圧パルスを供給することができなかった。
【0008】
荷電粒子加速器や電磁波発生等を目的とした電子線管用電源装置では、荷電粒子に与えるエネルギーや電磁波の強度を一定に保つ必要がある。このため、これらの装置に供給する高電圧パルスのパルス波高値の変動を数パーセント以内に収める要求があるが、従来の変圧器では、上述した振動電圧によって、この要求を必ずしも満足できなかった。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、変圧器を構成する巻線の周辺で生ずる浮遊容量の影響を低減して、高電圧パルスの立ち上がり後において、高電圧パルスのパルス波高値が時間的に変化するのを抑制することができる変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る変圧器は、
1次巻線と、前記1次巻線の外側に配置された2次巻線とを有する変圧器であって、
前記2次巻線の外側に配置された対向電極を有し、
前記2次巻線と前記対向電極とを電気的に接続してなることを特徴とする。
【0011】
このように構成したことにより、2次巻線の周辺で生ずる浮遊容量によって移動する電荷の量を減らし、電荷の移動によるインダクタンスと浮遊容量とによって生ずる共振による振動電圧を抑えて、2次巻線から出力される電圧の波形の歪みを小さくできる。
【0012】
また、前記2次巻線は、第1の端部と、前記第1の端部よりも高い電位となる第2の端部とを有し、
前記対向電極と対面する部位における前記2次巻線の電位は、前記第1の端部の電位と第2の端部の電位との間の中間電位であり、
前記対向電極は、前記中間電位よりも高い電位になる前記2次巻線の部位に電気的に接続されたものが好ましい。
【0013】
このように構成したことにより、対向電極と中間電位との間で、浮遊容量が形成されやすくなり、中間電位と接地電位との間で形成される浮遊容量(対地間容量)と、同等とすることができるので、高電圧パルス印加直後から静電容量による分圧で、中間電位に略1/2の電圧が印加され、移動する電荷の量を減らし、電荷の移動によるインダクタンスと浮遊容量とによって生ずる共振による振動電圧を抑えて、2次巻線から出力される電圧の波形の歪みを小さくできる。
【0014】
さらに、前記対向電極と前記2次巻線との間の距離が、前記1次巻線と前記2次巻線の間の距離よりも小さいものが好ましい。
【0015】
このように構成したことにより、2次巻線と対向電極との間に形成される浮遊容量を、1次巻線と2次巻線との間に形成される浮遊容量とほぼ等しくすることによって、2次巻線の軸方向に沿った電位の分布を直線状に近づけることで、電荷の移動量を減らし、振動電圧を抑えることにより、2次巻線から出力される電圧の波形の歪みを小さくできる。
【0016】
さらにまた、前記対向電極は、前記2次巻線の軸方向の中央部に、または中央部よりも接地電位側に対向配置されているものが好ましい。
【0017】
このように構成したことにより、2次巻線の軸方向に沿った電位の分布が偏るのを補正して電位の分布を直線状に近づけることによって、電荷の移動量をより減らすことができ、振動電圧を抑えることにより、2次巻線から出力される電圧の波形の歪みを小さくできる。
【0018】
また、前記対向電極は、断面の形状が円、小判形または長円であるものが好ましい。
【0019】
このように、電極の外形の形状を曲面によって構成したので、電界集中を緩和させて、部分放電や絶縁破壊を防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
2次巻線の周辺で生ずる浮遊容量によって移動する電荷の量を減らし、電荷の移動によるインダクタンスと浮遊容量とによって生ずる共振による振動電圧を抑えることにより、2次巻線から出力される電圧の波形の歪みを小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係る変圧器100を示す正面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る変圧器100を示す平面図である。
【図3】図2のII−II線に沿った変圧器100の断面図である。
【図4】図1のI−I線に沿った変圧器100の断面図である。
【図5】従来の変圧器の等価回路を示す参考図(a)と、従来の変圧器の高電圧巻線120における電位の変化を示すグラフ(b)とである。
【図6】本発明の第一実施形態に係る変圧器100の等価回路図を示す図(a)と、本発明の第一実施形態に係る変圧器100の高電圧巻線120における電位の変化を示すグラフ(b)とである。
【図7】本発明の第二実施形態に係る変圧器200を示す正面図である。
【図8】本発明の第二実施形態に係る変圧器200を示す平面図である。
【図9】本発明の第三実施形態に係る変圧器300を示す平面図(a)と、変圧器300で用いる電位分布均等化遮蔽電極330の断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施例について図面に基づいて説明する。
【0023】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る変圧器100を示す正面図である。また、図2は、その平面図であり、図3は、図2のII−II線に沿った断面図である。そして、図4は、図1のI−I線に沿った断面図である。
【0024】
第一実施形態に係る変圧器100は、低電圧巻線110と、高電圧巻線120と、電位分布均等化遮蔽電極130と、支持棒140と、鉄心150とを有する。
【0025】
<低電圧巻線110、高電圧巻線120、鉄心150>
鉄心150は、環状に形成され、磁気回路を構成する。鉄心150は、略四角柱状に形成された鉄心脚152を有する。図4に示すように、鉄心脚152を軸として同心状に、低電圧巻線110と高電圧巻線120とが鉄心脚152に巻回されている。低電圧巻線110が、「1次巻線」に相当し、高電圧巻線120が、「2次巻線」に相当する。
【0026】
図3および図4に示すように、低電圧巻線110は、絶縁体160を介して鉄心脚152に巻回されており、筒状の形状を有する。高電圧巻線120は、絶縁体162を介して低電圧巻線110の外周に巻回されており、筒状の形状を有する。これらの絶縁体160および162は、絶縁油や空気などを用いることができる。
【0027】
この第一実施形態では、図3に示すように、低電圧巻線110の軸方向の中央部O1と、高電圧巻線120の軸方向の中央部O2とが、軸方向で、ほぼ同じ位置になるように配置されている。低電圧巻線110と高電圧巻線120との各々は、所定の巻数を有する。変圧器100では、低電圧巻線110と高電圧巻線120との巻数比に応じて、電圧および電流の変換が行われる。
【0028】
低電圧巻線110は、第1の端部112および第2の端部114を有する(図6(a)参照)。図1または図3において、第1の端部112は、下側に位置し、第2の端部114は、上側に位置する。第1の端部112および第2の端部114には、電源(図示せず)が接続されており、電源電圧が低電圧巻線110に印加される。低電圧巻線110に印加された供給電圧は、低電圧巻線110と高電圧巻線120との巻数比に応じて昇圧され、高電圧巻線120から昇圧された電圧(昇圧電圧)が出力される。
【0029】
一方、高電圧巻線120は、第1の端部122および第2の端部124を有する(図6(a)参照)。図1または図3において、第1の端部122は、下側に位置し、第2の端部124は、上側に位置する。第1の端部122は、接地されており、接地電位となる。一方、第2の端部124は、変圧器100から高電圧パルスが出力されるときには、上述した昇圧電圧に対応した電位(高電位)となる。第1の端部122および第2の端部124には、負荷(図示せず)が接続されており、高電圧巻線120から出力される昇圧電圧が負荷に印加され、高電圧パルスが負荷に供給される。
なお、負荷には、例えば、荷電粒子加速器や電磁波発生等を目的とした電子線管用電源装置などがある。以下、第2の端部124だけでなく、第2の端部124と電気的に接続され、第2の端部124と同電位となる部位、すなわち、昇圧電圧に対応した電位となり得る部位を高電位部位と称する。
【0030】
<高圧側遮蔽電極170>
図1および図2に示すように、高電圧巻線120の上端部には、高圧側遮蔽電極170が設けられている。高圧側遮蔽電極170は、断面が略円形の環状の形状を有し、周方向の一部に間隙172が形成されている。間隙172によって、高圧側遮蔽電極170の周方向に流れる渦電流の発生を防止できる。高圧側遮蔽電極170は、第2の端部124と電気的に接続されており、高圧側遮蔽電極170も高電位部位となる。
【0031】
高圧側遮蔽電極170は、電界緩和を目的とした部材である。すなわち、高電圧巻線120の上端部には電界が集中しやすく、高電圧巻線120の上端部に、断面が略円形の環状の形状の高圧側遮蔽電極170を設けたことにより、電界の集中によって生ずる部分放電や絶縁破壊を防ぐことができる。
【0032】
<電位分布均等化遮蔽電極(対向電極)130>
図2に示すように、高電圧巻線120の上端部または高圧側遮蔽電極170には、4本の支持棒140が電気的に接続されている。これらの4本の支持棒140は、高電圧巻線120の上端部または高圧側遮蔽電極170の周方向に略90度間隔で配置されている。上述したように、高圧側遮蔽電極170の電位は高電位であるので、4本の支持棒140の電位も高電位となる。
この電位分布均等化遮蔽電極130が、「対向電極」に相当する。支持棒140および高圧側遮蔽電極170が、高電圧巻線120と電圧分布均等化遮蔽電極130とを接続する接続体として機能する。なお、4本の支持棒140は、高圧側遮蔽電極170に接続される場合に限らず、高電圧巻線120の上端部または高圧側遮蔽電極170のいずれか一方に電気的に接続されていればよい。
【0033】
支持棒140は、断面が略円形の長尺な形状を有する導電体によって構成されている。支持棒140は、2つの端部を有し、一方の端部は、上述したように、高電圧巻線120の上端部または高圧側遮蔽電極170に接続されている。図1または図3に示すように、4本の支持棒140の各々は、高電圧巻線120の軸方向に沿って下方に向かうに従って、高電圧巻線120の外周面126から離隔するように配置されている。支持棒140の断面の形状を略円形としたことにより、曲面が形成されているので、部分放電を防止することができる。また、支持棒140の断面の形状を小判形にしてもよい。この場合も、曲面が形成されているので、部分放電を防止することができる。
【0034】
図1および図2に示すように、4本の支持棒140の各々の他方の端部は、電位分布均等化遮蔽電極130の周方向に略90度間隔で、電位分布均等化遮蔽電極130に接続されている。電位分布均等化遮蔽電極130は、4本の支持棒140に支持されることによって、低電圧巻線110の軸方向の中央部O1や、高電圧巻線120の軸方向の中央部O2に位置するように配置される。電位分布均等化遮蔽電極130は、断面が略円形で略環状の形状を有する。
図3に示すように、電位分布均等化遮蔽電極130の断面形状のうち内周部曲面(内方を臨む半円部分、電極面)134が、高電圧巻線120の軸方向の中央部O2で、高電圧巻線120の外周面126と対面する。
【0035】
また、図4に示すように、電位分布均等化遮蔽電極130には、周方向の一部に間隙132が形成されている。間隙132によって、電位分布均等化遮蔽電極130の周方向に流れる渦電流の発生を防止できる。電位分布均等化遮蔽電極130は、高電圧巻線120を周回するとともに、高電圧巻線120に対して距離L1の間隙(図3参照)を有するように配置される。
【0036】
上述したように、支持棒140は、導電体によって構成されており、電位分布均等化遮蔽電極130は、支持棒140および高圧側遮蔽電極170を介して、高電圧巻線120の第2の端部124と電気的に接続されている。したがって、電位分布均等化遮蔽電極130を第2の端部124と同電位にすることができる。すなわち、電位分布均等化遮蔽電極130の電位は高電位となる。
【0037】
一方、変圧器100から高電圧パルスが出力されるときには、電位分布均等化遮蔽電極130と向かい合う高電圧巻線120の軸方向の中央部O2における電位は、第1の端部122の電位である接地電位よりも高く、かつ、第2の端部124の電位である高電位よりも低い中間の電位(以下、中間電位と称する。)となる。
このため、変圧器100から高電圧パルスが出力されるときには、電位分布均等化遮蔽電極130の曲面134と、高電圧巻線120の外周面126との間に電位差が生じ、電位分布均等化遮蔽電極130と高電圧巻線120との間に電界を発生させることができる。このような電界が生じたときには、電位分布均等化遮蔽電極130と高電圧巻線120との間に、浮遊容量180(図6(a)参照)が形成される。
このように、浮遊容量180は、中間電位と高電位との間で形成される浮遊容量である。浮遊容量180の大きさは、電位分布均等化遮蔽電極130の直径や、電位分布均等化遮蔽電極130の曲面134と高電圧巻線120の外周面126との間の間隙の距離L1によって、所望するものに変更できる。
【0038】
図6(a)は、本発明の第一実施形態の変圧器100の低電圧巻線110と高電圧巻線120との周辺で生ずる浮遊容量を含む等価回路図を示す図である。
低電圧巻線110と高電圧巻線120との間には、浮遊容量182が形成されている。また、高電圧巻線120の内部で生成される浮遊容量184と、対地間の浮遊容量186とが形成される。さらに、上述したように、電位分布均等化遮蔽電極130を設けたことによって、電位分布均等化遮蔽電極130と高電圧巻線120との間には、浮遊容量180が形成される。
【0039】
図6(b)は、本発明の第一実施形態に係る変圧器100の高電圧巻線120における電位の変化を示すグラフである。図6(b)に示したグラフの横軸は、高電圧巻線120の軸方向に沿った位置を示す。具体的には、第1の端部122を原点として、第1の端部122から第2の端部124までの位置を示す。また、図6(b)に示したグラフの縦軸は、第1の端部122から第2の端部124までの位置に対応した高電圧巻線120の電位を示す。
【0040】
図6(b)に示すように、高電圧巻線120の電位は、第1の端部122から第2の端部124に向かって、直線に近い形で徐々に高くなる。また、高電圧巻線120の軸方向の中央部O2を中心にして、ほぼ対称的な形で電位が変化する。このように、電位分布均等化遮蔽電極130によって、中間電位と高電位との間で形成される浮遊容量180を形成することにより、高電圧巻線120の軸方向に沿った電位の分布を略直線状に近づけることができる。
このようにしたことで、低電圧巻線110と高電圧巻線120との間の浮遊容量182や対地間の浮遊容量186に充電される電荷の量を、高電圧パルスの立ち上がり直後から少なくできる。このため、電荷の移動によって生ずる磁界によるインダクタンスと、浮遊容量182や浮遊容量186との間の共振現象による振動電圧を抑えることができ、変圧器100から出力される高電圧パルスの波形の歪みを小さくできる。
【0041】
また、電位分布均等化遮蔽電極130の曲面134と、高電圧巻線120の外周面126との間の距離L1を、低電圧巻線110と高電圧巻線120の間の距離L2(図3参照)よりも小さくすることで、高電圧巻線120の中央部O2と電位分布均等化遮蔽電極130との間に形成される浮遊容量180の大きさを、高電圧巻線120の中央部O2と低電圧巻線110との間に形成される浮遊容量182の大きさとほぼ等しくできる。
このようにすることで、高電圧巻線120の軸方向に沿った電位の分布を略直線状に近づけることができるので、浮遊容量182や対地間の浮遊容量186に充電される電荷の量を少なくでき、高電圧パルスの波形の歪みを小さくできる。
【0042】
また、上述したように、電位分布均等化遮蔽電極130の断面の形状は、略円形であり、高電圧巻線120の外周面126と対面する面は、断面が円弧状の曲面134である。このように、高電圧巻線120の外周面126と向かい合う面を、曲面134としたことにより、電位分布均等化遮蔽電極130と高電圧巻線120との間に生ずる電界が集中しないようにでき、電界を緩和させることができる。電位分布均等化遮蔽電極130を設けた構成としても、絶縁破壊や絶縁劣化を防止することができる。
【0043】
[第二実施形態]
図7は、本発明の第二実施形態に係る変圧器200を示す正面図である。また、図8は、その平面図である。この第二実施形態に係る変圧器200は、第一実施形態に係る変圧器100とほぼ同様のものを二つ設けた構成を有する。すなわち、図7および図8に示すように、変圧器200は、第1の変圧器脚101aと第2の変圧器脚101bとを有する。
なお、後述するように、第1の変圧器脚101aと第2の変圧器脚101bとが、第一実施形態に係る変圧器100と相違する点は、電位分布均等化遮蔽電極130aおよび130bの形状である。
【0044】
第二実施形態に係る変圧器200は、鉄心250を有する。鉄心250は、環状に形成され、磁気回路を構成する。鉄心250は、略四角柱状に形成された鉄心脚252aおよび252bを有する。
【0045】
第1の変圧器脚101aは、低電圧巻線110aと、高電圧巻線120aと、電位分布均等化遮蔽電極130aと、支持棒140aとを有する。上述した鉄心脚252aを軸として同心状に、低電圧巻線110aと高電圧巻線120aとが鉄心脚252aに巻回されている。
【0046】
低電圧巻線110aは、第一実施形態に係る変圧器100の低電圧巻線110に対応し、高電圧巻線120aは、第一実施形態に係る変圧器100の高電圧巻線120に対応し、電位分布均等化遮蔽電極130aは、第一実施形態に係る変圧器100の電位分布均等化遮蔽電極130に対応し、支持棒140aは、第一実施形態に係る変圧器100の支持棒140に対応し、鉄心脚252aは、第一実施形態に係る変圧器100の鉄心脚152に対応し、これらは、第一実施形態に係る変圧器100と同様の構造を有し、同様に機能する。
【0047】
また、鉄心脚252aと低電圧巻線110aとを絶縁状態にする絶縁体160a(図示せず)や、低電圧巻線110aと高電圧巻線120aとを絶縁状態にする絶縁体162a(図示せず)も第一実施形態と同様の構成であり、同様に機能する。
【0048】
第2の変圧器脚101bは、低電圧巻線110bと、高電圧巻線120bと、電位分布均等化遮蔽電極130bと、支持棒140bとを有する。また、上述した鉄心脚252bを軸として同心状に、低電圧巻線110bと高電圧巻線120bとが鉄心脚252bに巻回されている。
【0049】
低電圧巻線110bは、第一実施形態に係る変圧器100の低電圧巻線110に対応し、高電圧巻線120bは、第一実施形態に係る変圧器100の高電圧巻線120に対応し、電位分布均等化遮蔽電極130bは、第一実施形態に係る変圧器100の電位分布均等化遮蔽電極130に対応し、支持棒140bは、第一実施形態に係る変圧器100の支持棒140に対応し、鉄心脚252bは、第一実施形態に係る変圧器100の鉄心脚152に対応し、これらは、第一実施形態に係る変圧器100と同様の構造を有し、同様に機能する。
【0050】
また、鉄心脚252bと低電圧巻線110bとを絶縁状態にする絶縁体160b(図示せず)や、低電圧巻線110bと高電圧巻線120bとを絶縁状態にする絶縁体162b(図示せず)も第一実施形態と同様の構成であり、同様に機能する。
【0051】
上述したように、第一実施形態の変圧器100と相違する点は、電位分布均等化遮蔽電極130aおよび130bである。図8に示すように、電位分布均等化遮蔽電極130aは、2本の脚部136aおよび138aを備え、略U字状の形状を有する。また、電位分布均等化遮蔽電極130bは、2本の脚部136bおよび138bを備え、略U字状の形状を有する。
【0052】
電位分布均等化遮蔽電極130aの脚部136aと、電位分布均等化遮蔽電極130bの脚部136bとが互いに向かい合うように、かつ、電位分布均等化遮蔽電極130aの脚部138aと、電位分布均等化遮蔽電極130bの脚部138bとが互いに向かい合うように配置されている。互いに向かい合う脚部136aと脚部136bとの間には、間隙132Aが形成され、互いに向かい合う脚部138aと脚部138bとの間には、間隙132Bが形成されている。このように、間隙132Aと間隙132Bとを形成したことにより、2つの脚の高電圧巻線120a、120bを異なる電圧で使用することができ、例えば、負荷として接続される真空管のヒータ用電圧を供給することが可能となる。
【0053】
第1の変圧器脚101aにおいては、電位分布均等化遮蔽電極130aは、高電圧巻線120aと向かい合うように配置され、両者の間で浮遊容量が形成される。この浮遊容量によって、高電圧巻線120aの電位の分布は、高電圧巻線120aの軸方向に沿った位置に対して、直線に近い形で変化する。その結果、低電圧巻線110aと高電圧巻線120aとの間の浮遊容量や、対地間の浮遊容量に充電される電荷の量を、高電圧パルスの立ち上がり直後から少なくできる。このため、電荷の移動によって生ずる磁界によるインダクタンスと浮遊容量との間の共振現象による振動電圧を抑えることができる。
【0054】
第2の変圧器脚101bにおいても、電位分布均等化遮蔽電極130bは、高電圧巻線120bと向かい合うように配置され、両者の間で浮遊容量が形成される。この浮遊容量によって、前記と同様、高電圧巻線120aの電位の分布は、高電圧巻線120aの軸方向に沿った位置に対して、直線に近い形で変化し、低電圧巻線110aと高電圧巻線120aとの間の浮遊容量や、対地間の浮遊容量に充電される電荷の量を、高電圧パルスの立ち上がり直後から少なくでき、電荷の移動によって生ずる磁界によるインダクタンスと浮遊容量との間の共振現象による振動電圧を抑えることができる。
【0055】
このように、複数の変圧器脚を設けたことによって、巻線を分割した「内鉄型」変圧器として用いることができる。
【0056】
上述した第二実施形態においては、低電圧巻線110aおよび110bが、「1次巻線」に相当し、高電圧巻線120aおよび120bが、「2次巻線」に相当し、電位分布均等化遮蔽電極130aおよび130bが「対向電極」に相当する。
【0057】
[第三実施形態]
図9は、本発明の第三実施形態の変圧器300を示す正面図(a)と、変圧器300で用いる電位分布均等化遮蔽電極330の断面図(b)とである。なお、この第三実施形態の変圧器300において、第一実施形態の変圧器100と同様の構成については、同じ符号を付した。
【0058】
第三実施形態の変圧器300は、低電圧巻線110と、高電圧巻線120と、電位分布均等化遮蔽電極330と、支持棒140と、鉄心150とを有する。この低電圧巻線110と高電圧巻線120と支持棒140と鉄心150とは、第一実施形態の変圧器100と同様の構造を有し、同様に機能する。また、鉄心150と低電圧巻線110とを絶縁状態にする絶縁体160(図示せず)や、低電圧巻線110と高電圧巻線120とを絶縁状態にする絶縁体162(図示せず)も第一実施形態と同様の構成であり、同様に機能する。
【0059】
<電位分布均等化遮蔽電極(対向電極)330>
図9(b)に示すように、電位分布均等化遮蔽電極330は、断面が小判形(陸上競技場走路状(race-track shaped cross- section))、または長円形で、略環状の形状を有し、周方向の一部に間隙(図示せず)が形成されている。該間隙(図示せず)によって、電位分布均等化遮蔽電極130の周方向に流れる渦電流の発生を防止できる。電位分布均等化遮蔽電極330は、電位分布均等化遮蔽電極130と同様に、高電圧巻線120を周回するとともに、高電圧巻線120に対して所定の間隙を有するように配置される。
【0060】
また、電位分布均等化遮蔽電極330は、電位分布均等化遮蔽電極130と同様に、導電体からなる4本の支持棒140に電気的に接続され、4本の支持棒140によって、支持されている。したがって、電位分布均等化遮蔽電極330の電位も、変圧器100から高電圧パルスが出力されるときには、第2の端部124と同電位、すなわち、高電位となる。
【0061】
図9(b)に示すように、電位分布均等化遮蔽電極330の断面の形状を、小判形または長円形にした。すなわち、電位分布均等化遮蔽電極330の断面は、上端部と下端部との各々が略半円形で、かつ、上端部と下端部との間に略四角形が配置された形状である。この四角形の直線部分によって構成される面334を高電圧巻線120と対面させることにより、高電圧巻線120と向かい合う面の面積を広くすることができる。
【0062】
このように、断面が小判形または長円形の電位分布均等化遮蔽電極330を用いたことにより、面334によって、高電圧巻線120と向かい合う面の面積を広くすることができる。
これにより、電位分布均等化遮蔽電極330と高電圧巻線120との間の距離を、低電圧巻線110と高電圧巻線120との間の距離と同程度にしつつ、高電圧巻線120と電位分布均等化遮蔽電極330との間に形成される浮遊容量を、低電圧巻線110と高電圧巻線120との間に形成される浮遊容量とほぼ等しくできる。
このため、浮遊容量の大きさのバランスを図りやすくできるとともに、高電圧巻線120の電位の分布を、高電圧巻線120の軸方向に沿った位置に対して、直線に近い形で変化させることができる。
【0063】
さらに、図9に示したように、電位分布均等化遮蔽電極330の位置を、高電圧巻線120の軸方向の中央部よりも、第1の端部122側、すなわち、接地側に近づけた位置にした。このように、接地側に近づけた位置にすることにより、高電圧巻線120の接地側に近い部分と電位分布均等化遮蔽電極330との間で浮遊容量を形成させ、高電圧巻線120の軸方向に沿った電位の分布が、接地側に偏るのを防止できる。
【0064】
また、上述したように、電位分布均等化遮蔽電極330の断面の形状を、小判形または長円形にした。このように、上端部と下端部との各々が略半円形で構成したことにより、電界が集中することを防止して電界緩和を図ることができる。
【0065】
[その他の実施の形態]
上述した図3に示したように、電位分布均等化遮蔽電極130の曲面134と、高電圧巻線120の外周面126との間には、距離L1の間隙が形成されている。この間隙に適合した大きさおよび形状を有する絶縁体を間隙に設けてもよい。
この絶縁体の誘電率によって、電位分布均等化遮蔽電極130と高電圧巻線120との間の浮遊容量の大きさを所望するものにできる。
また、電位分布均等化遮蔽電極130を絶縁体によって支持できるので、電位分布均等化遮蔽電極130を高電圧巻線120の外側に安定させて配置することができる。
【0066】
また、上述した第一〜第三実施形態では、電位分布均等化遮蔽電極130などを、高電圧巻線120の軸方向に沿って1つのみ、設けた構成を示したが、高電圧巻線120の軸方向に沿って、複数の電位分布均等化遮蔽電極130などを設けた構成としても良い。
【0067】
複数の電位分布均等化遮蔽電極130などを設けることによって、浮遊容量180の大きさを適宜変更しやすくでき、高電圧巻線120の軸方向に沿った電位の分布を直線に近づけやすくできる。また、複数の電位分布均等化遮蔽電極130などを設けたことにより、軽量化を図ることもできる。
【0068】
そして、上述した第一〜第三実施形態では、支持棒140および高圧側遮蔽電極170が、高電圧巻線(2次巻線)と電位分布均等化遮蔽電極(対向電極)とを電気的に接続しているが、これに限定されず、高圧側遮蔽電極を有しない変圧器にも適用することができる。この場合、電位分布均等化遮蔽電極(対向電極)と支持棒の一方端を接続する一方、支持棒の他方端を高電圧巻線の上端部(高電位側)に接続すればよい。
【符号の説明】
【0069】
100、200、300 変圧器
101a、101b 変圧器脚
110、110a、110b 低電圧巻線(1次巻線)
120、120a、120b 高電圧巻線(2次巻線)
122 第1の端部
124 第2の端部
130、130a、130b、330 電位分布均等化遮蔽電極(対向電極)
134 曲面(電極面)
334 面(電極面)
140、140a、140b 支持棒
150、250 鉄心
170、170a、170b 高圧側遮蔽電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線と、前記1次巻線の外側に配置された2次巻線とを有する変圧器であって、
前記2次巻線の外側に配置された対向電極を有し、
前記2次巻線と前記対向電極とを電気的に接続してなることを特徴とする変圧器。
【請求項2】
前記2次巻線は、第1の端部と、前記第1の端部よりも高い電位となる第2の端部とを有し、
前記対向電極と対面する部位における前記2次巻線の電位は、前記第1の端部の電位と第2の端部の電位との間の中間電位であり、
前記対向電極は、前記中間電位よりも高い電位になる前記2次巻線の部位に電気的に接続されたことを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項3】
前記対向電極と前記2次巻線との間の距離が、前記1次巻線と前記2次巻線の間の距離よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の変圧器。
【請求項4】
前記対向電極は、前記2次巻線の軸方向の中央部に、または中央部よりも接地電位側に対向配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の変圧器。
【請求項5】
前記対向電極は、断面の形状が円、小判形または長円であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の変圧器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−14585(P2011−14585A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154891(P2009−154891)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)