説明

変速機の同期装置

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本考案は、変速機の同期装置に関し、特に、安定したディテント作用を行い得る同期装置に関する。
【0002】
【従来の技術】車両用の変速機として、主変速機(メインギヤ段)の入力側に副変速機(スプリットギヤ段)を備えた多段変速機が知られている。かかる多段変速機において、前記副変速機は、空気圧を利用したアクチュエータ(エアシリンダ装置)により操作するようにしており、高側と低側に2つのシフト位置に切り換えられるようになっており、ニュートラル位置はなく、必ず高側のギヤか低側ギヤのいずれかが作動している構造となっている。
【0003】このような副変速機において、例えばワーナタイプの同期装置を適用したものがある。かかる同期装置の構成は次のようである。図6において、シンクロナイザハブ1外周にはシンクロナイザスリーブ2と噛み合うスプライン3が形成され、該スリーブ2はこのスプライン3上を摺動する。又、前記ハブ1には軸に平行な切欠き4が3個所等分に加工してあり、この切欠き4には中央部に突起5aのあるディテント5が挿入されている。スリーブ2の内周中央部には台形の溝2aが加工してあり、この溝2aにディテント5の突起5aが嵌まり、このディテント5はスプリング6によってスリーブ2に押し付けられている。シンクロナイザリング7の内周コーン面は細かい右ねじと油溝が設けられ、シンクロナイザコーン8のテーパ面と向かい合っている。この部分が円錐クラッチの役割をなす。前記ディテント5は、スリーブ2を押し付けて、初期摩擦力をこの円錐クラッチに発生させるためのものである。この場合、ディテント5の突起5aをスリーブ2の溝2aが乗り越えるときに生じる力が同期作用での油切り、シンクロナイザリング7の押付力となる。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】しかしながら、上述のような従来の同期装置にあっては、ディテント5の突起5aのスリーブ2の溝2aへの出入りによって、シンクロナイザリング7の押付力が作用する構成であり、ディテント5によるスリーブ押し付けにより、初期摩擦力を円錐クラッチに発生させる作用(ディテント作用)がシフト中立位置付近をスタートして作用するため、前記エアシリンダ装置によりストレートにシフト動作を行うと、充分なディテント作用ができない。例えば、エアシリンダ装置を使用したシフト操作のように、ストロークスピードが速いと、高側のギヤ或いは低側のギヤの一方の作動状態から他方の作動状態にする場合、ディテント5の突起5aがスリーブ2の溝2aに戻らない等の事態が発生し、ギヤ鳴き等の問題が発生する。又、エアシリンダ装置によるストロークスピードを遅くして、ディテント作用を確実に行うことも考えられるが、これでは、シフト時間が長くなるという問題が生じてしまう。
【0005】そこで、本考案は以上のような従来の問題点に鑑み、変速機の同期装置において、ディテントの構造等の改良を図って、シフトスピードによらずディテント作用を確実に行うようにし、ギヤ鳴き等を確実に防止することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】このため、本考案の変速機の同期装置は、シンクロナイザハブの外周スプラインに嵌合したシンクロナイザスリーブの内周スプラインを、ディテント及びシンクロナイザリングを介してシンクロナイザコーンの外周スプラインに同期嵌合させて動力伝達を行う変速機の同期装置において、前記シンクロナイザスリーブの内周面の周方向に離間する複数位置に、軸方向に横断する所定幅の溝であって、相対向する両側内面が夫々基端から先端に向けて拡がるようなテーパ面となったV形溝を設ける一方、基端部が前記シンクロナイザハブ外周面の複数の溝に挿入支持され、先端部の相対向する両側外面が前記V形溝のテーパ面に接触する面であって、夫々基端から先端に向けて窄まるようなテーパ面となったディテントを複数設け、該ディテントを前記V形溝に押し付ける方向に弾性付勢するスプリングを前記シンクロナイザハブに埋設支持した構成とする。
【0007】
【作用】かかる構成において、シフト操作を行うと、スリーブと共にディテントが動く。これにより、リングはディテント端面によって押され、相手側ギヤのコーンに押しつけられる。この時、リングとコーンのテーパ面は円錐クラッチとして作用する。
【0008】ここで、ディテントによるリング押付力(ディテント力)は、スリーブとディテントとが相対的に動くことにより生じ、ディテントのラジアル方向にスプリングの弾性力とディテント自身の質量とにより生じる遠心力がスリーブのV形溝のテーパ面とディテントのテーパ面間に作用し、V形溝のテーパ面とディテントのテーパ面間に摩擦力が発生する。この場合、この摩擦力は、V形溝のテーパ面とディテントのテーパ面との間のくさび効果による法線力により増大され、これがディテントによるリング押付力となる。ディテントの作用域は、例えば高側ギヤから低側ギヤへのシフト時に、高側ギヤのシフト位置からスリーブが動き始めると、該スリーブとディテントとは進行方向のガタがなくなるまでは、前記摩擦力のために一体的に動作し、ガタがなくなった段階から相手側リングに対して上記ディテント力が作用し始め、スリーブとディテントとの相対的な動きがある限りディテント力が作用し続ける。かかるディテント力が同期初期のコーン面の油切り、リングのインデックス効果を確実に行う。即ち、従来では、ディテントの突起のスリーブの溝への出入りによって、シンクロナイザリング押付力が作用するのに対して、本考案では、このような突起の溝ヘの出入り動作がなく、単にスリーブが前進するのみで、十分なリング押付力が作用する。
【0009】
【実施例】以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。図3は本考案に係る同期装置を適用した変速機の一実施例を示す図で、入力側に設けられる副変速機(以下、スプリットギヤ段と言う)10において、図示しないエンジンからの動力を入力するメインドライブシャフト(入力軸)11と、主変速機(以下、メインギヤ段と言う)12において、メインドライブシャフト11と同一軸上に配置され、前端がメインドライブシャフト11内に軸支されるメインシャフト13と、メインドライブシャフト11及びメインシャフト13と平行して配置されるカウンタシャフト14とが、設けられている。
【0010】前記メインドライブシャフト11には、シャフト周りに遊転するスプリッタギヤ15が設けられている。メインシャフト13には、図中左方向から順にドライブギヤ16,変速ギヤ17〜19がシャフト上を遊転するように設けられている。カウンタシャフト14には、前記スプリッタギヤ15,ドライブギヤ16,変速ギヤ17〜19と常時噛み合うカウンタギヤ20〜24が固定され一体に回転する。
【0011】ここで、前記メインギヤ段12は手動により操作され、スプリットギヤ段10は空気圧を利用したアクチュエータ即ち、エアシリンダ装置により操作される。図4はメインギヤ段12とスプリットギヤ段10のシフト操作系を示しており、メインギヤ段12用の3本のシフトシャフト25〜27は、夫々シフトフォーク28〜30を固定して備えており、支持部31に摺動可能に支承される。
【0012】又、スプリットギヤ段10用のシフトシャフト32は、シフトフォーク33を固定して備えており、支持部31に摺動可能に支承され、その一端部には前記エアシリンダ装置34のピストン34aが連結される。次に、図1及び図2に基づいて上述のスプリットギヤ段10の同期装置の構造を説明する。
【0013】メインドライブシャフト11に設けられたシンクロナイザハブ35外周はシンクロナイザスリーブ36内周とスプラインを介して噛み合い、該スリーブ36はこのスプライン上を摺動する。前記シンクロナイザスリーブ36の内周面の周方向に離間する複数位置(例えば3個所)には、軸方向に横断する所定幅の溝であって、相対向する両側内面が夫々基端から先端に向けて所定角度(例えば30°)で拡がるようなテーパ面となったV形溝37が設けられている。このV形溝37は、スリーブ36の内周面の歯部を若干削り落とす加工を行って形成する。一方、基端部が前記シンクロナイザハブ35外周面の複数の溝38に挿入支持され、先端部の相対向する両側外面が前記V形溝37のテーパ面に接触する面であって、夫々基端から先端に向けて所定角度(例えば30°)で窄まるようなテーパ面となったディテント39が複数(例えば3個)設けられる。そして、かかるディテント39を前記V形溝37に押し付ける方向に弾性付勢するスプリング40が前記シンクロナイザハブ35の溝38内底部に埋設支持されている。
【0014】シンクロナイザリング41の内周コーン面は細かい右ねじと油溝が設けられ、シンクロナイザコーン42のテーパ面と向かい合っている。この部分が円錐クラッチの役割をなす。前記ディテント39は、リング41を押し付けて、初期摩擦力をこの円錐クラッチに発生させるためのものである。次に、かかる同期装置の作用について説明する。
【0015】例えば、図4に示すエアシリンダ装置34によりシフトシャフト32を操作して、シフトフォーク33を図1の左方向に動作すると、スリーブ36と共にディテント39が左側に動く。これにより、リング41はディテント39端面によって押され、相手側ギヤ15のコーン42に押し付けられる。この時、リング41とコーン42のテーパ面は円錐クラッチとして作用する。
【0016】ここで、ディテント39によるリング押付力(ディテント力)は、スリーブ36とディテント39とが相対的に動くことにより生じ、ディテント39のラジアル方向にスプリング40の弾性力とディテント39自身の質量とにより生じる遠心力がスリーブ36のV形溝37のテーパ面とディテント39のテーパ面間に作用し、V形溝37のテーパ面とディテント39のテーパ面間に摩擦力が発生する。この場合、この摩擦力は、V形溝37のテーパ面とディテント39のテーパ面との間のくさび効果による法線力により増大され、これがディテント39によるリング押付力となる。ディテント39の作用域は、例えば高側ギヤから低側ギヤへのシフト時に、高側ギヤのシフト位置からスリーブ36が動き始めると、該スリーブ36とディテント39とは進行方向のガタaがなくなるまでは、前記摩擦力のために一体的に動作し、ガタaがなくなった段階から相手側リング41に対して上記ディテント力が作用し始め、スリーブ36とディテント39との相対的な動きがある限りディテント力が作用し続ける。かかるディテント力が同期初期のコーン面の油切り、リング41のインデックス効果を確実に行う。
【0017】かかる構成によると、スリーブ36のV形溝37のテーパ面とディテント39のテーパ面間に生じる摩擦力をディテント39によるリング押付力としているため、エアシリンダ装置を使用したシフト操作のように、ストロークスピードが速い場合でも、確実にディテント力が作用し、シフトストロークに対する長い範囲にわたりディテント力が作用し続けるため、確実なディテント作用を奏し、ギヤ鳴き等の問題が発生しない。又、エアシリンダ装置によるストロークスピードを遅くする必要もなく、シフト時間を短縮化することができる。ち、従来では、ディテントの突起のスリーブの溝への出入りによって、リング押付力が作用するのに対して、本構成では、このような突起の溝ヘの出入り動作がなく、単にスリーブ36が前進するのみで、十分なリング押付力が作用する結果、確実な同期作用が得られる。
【0018】上記実施例においては、V形溝37は、スリーブ36の内周面の歯部を若干削り落とす加工を行って形成するようにしたが、図5に示すように、スリーブ36の内周面のスプライン36Aの歯部36a間の溝そのものをV形溝37として利用するようにしても良く、スリーブの内周面に加工を施す必要がない。尚、上記実施例の構造は、本考案の構造的制約を示すものではなく、本考案は実用新案登録請求の範囲に記載された範囲内で変形が自由である。
【0019】例えば、本実施例においては、主変速機(メインギヤ段)の入力側に備えられ、空気圧を利用したアクチュエータによりシフト操作されて、ニュートラル位置のない副変速機(スプリットギヤ段)に本考案の同期装置を適用した例について説明したが、手動でシフト操作される変速機にも、ニュートラル位置のある変速機にも、同様に本考案を適用できる。
【0020】
【考案の効果】以上説明したように、本考案の変速機の同期装置によれば、シンクロナイザスリーブの内周面に複数のV形溝を設け、このV形溝のテーパ面に接触するテーパ面を有するディテントを複数設け、該ディテントをスプリングによって前記V形溝に押し付ける構成としたから、単にスリーブが前進するのみで、十分なリング押付力が作用する結果、ストロークスピードが速い場合でも、確実にディテント力が作用し、シフトストロークに対する長い範囲にわたりディテント力が作用し続けるため、確実なディテント作用を奏し、ギヤ鳴き等の問題が発生しない。又、エアシリンダ装置によるストロークスピードを遅くする必要もなく、シフト時間を短縮化することができる実用的効果大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本考案に係る変速機の同期装置の一実施例を示す縦断面図
【図2】 同上実施例におけるハブとスリーブの端面図
【図3】 同上実施例を適用した変速機の縦断面図
【図4】 同上実施例の変速機の操作系を示す平面断面図
【図5】 他の実施例を説明するハブとスリーブの一部の端面図
【図6】 従来の変速機の同期装置の一例を示す縦断面図
【符号の説明】
10 スプリットギヤ段
35 シンクロナイザハブ
36 シンクロナイザスリーブ
37 V形溝
38 溝
39 ディテント
40 スプリング
41 シンクロナイザリング
42 シンクロナイザコーン

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 シンクロナイザハブの外周スプラインに嵌合したシンクロナイザスリーブの内周スプラインを、ディテント及びシンクロナイザリングを介してシンクロナイザコーンの外周スプラインに同期嵌合させて動力伝達を行う変速機の同期装置において、前記シンクロナイザスリーブの内周面の周方向に離間する複数位置に、軸方向に横断する所定幅の溝であって、相対向する両側内面が夫々基端から先端に向けて拡がるようなテーパ面となったV形溝を設ける一方、基端部が前記シンクロナイザハブ外周面の複数の溝に挿入支持され、先端部の相対向する両側外面が前記V形溝のテーパ面に接触する面であって、夫々基端から先端に向けて窄まるようなテーパ面となったディテントを複数設け、該ディテントを前記V形溝に押し付ける方向に弾性付勢するスプリングを前記シンクロナイザハブに埋設支持したことを特徴とする変速機の同期装置。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【登録番号】第2577261号
【登録日】平成10年(1998)5月8日
【発行日】平成10年(1998)7月23日
【考案の名称】変速機の同期装置
【国際特許分類】
【出願番号】実願平3−33073
【出願日】平成3年(1991)5月13日
【公開番号】実開平4−127428
【公開日】平成4年(1992)11月19日
【審査請求日】平成7年(1995)3月3日
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)