説明

変速機の潤滑構造

【課題】 この発明は,潤滑油導入路からインプットシャフトの軸方向の油孔へ潤滑油を流入し易くした変速機の潤滑構造を提供する。
【解決手段】 油溜め空間15には,インプットシャフト3の回転方向に沿って潤滑油導入路16の出口25から徐々に容積が増大し,次いで徐々に容積が減少する開放部26が形成されている。潤滑油導入路16の出口25における圧力よりも開放部26の圧力の方が低く,潤滑油は潤滑油導入路16から油溜め空間15に導入される。開放部26は途中から回転方向に沿って容積が減少しているので,油溜め空間15は再び狭くなって最下部27で圧力が最も高くなる。インプットシャフト3の油孔19が最下部27に位置する時に,潤滑油は圧力の低いインプットシャフト3の油孔19内にスムーズに流れ込む。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,2本のシャフトの間に配置されたパイロットベアリング等のベアリングを潤滑するための変速機の潤滑構造,特に,自動車等の変速機におけるインプットシャフトとメインシャフトとの間に組み込まれたベアリングを潤滑するための変速機の潤滑構造に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に,自動車等の変速機においては,図5に示すように,インプットシャフト3が,クラッチハウジング1に装着されたインプットベアリング2によって,クラッチハウジング1に対して回転自在に支持され,インプットシャフト3と同一軸上にメインシャフト4が配置され,両シャフト3,4を互いに相対回転可能に支持するために両シャフト3,4間にパイロットベアリング5が配置されている。
【0003】従来,パイロットベアリング5への潤滑油の供給は,外部からの流れ込みによって行うのが普通である。例えば,図5に示すように,従来の変速機の潤滑構造は,トランスミッションケース内の潤滑油を導入するためにクラッチハウジング1に形成された潤滑油導入路16,潤滑油導入路16に連通し且つインプットシャフト3の周りに形成された油溜め空間15,インプットベアリング2を塞ぐように油溜め空間15に配置され且つクラッチハウジング1とインプットベアリング2の外輪13とで固定された遮蔽板14,油溜め空間15とパイロット部20を連通するようにインプットシャフト3に軸方向に形成された油孔19等から構成されている。この潤滑構造において,油溜め空間15からインプットベアリング2の方への潤滑油の流出は,遮蔽板14によって制限されているので,潤滑油導入路16から導入された潤滑油は油溜め空間15内に溜まり,溜まった潤滑油は油孔19を通ってパイロットベアリング5へ供給される。
【0004】ところで,潤滑油導入路16から導入された潤滑油は,油溜め空間15内で回転中のインプットシャフト3に接触して,粘性抵抗により連れ回りする。しかし,潤滑油の回転速度はインプットシャフト3の回転速度と同一回転速度になることはなく,潤滑油とインプットシャフト3とは回転差が生じる。しかも,軸孔19はインプットシャフト3の軸方向に形成されており,潤滑油の回転方向と軸孔19の方向とは直交しているので,油溜め空間15からインプットシャフト3の油孔19内へ潤滑油は流れ込み難い。また,インプットシャフト3の回転数が上がれば上がるほど,両者の回転差は増加するため,益々油孔19への潤滑油の流入は困難となる。これにより,パイロットベアリング5への潤滑油の供給量が減り,潤滑油不足から,パイロットベアリング5の寿命の低下又は焼き付きを引き起こすことがある。
【0005】図5の潤滑構造においては,図6に示すように,クラッチハウジング1の内径は大きく形成され,油溜め空間15が広く形成されているので,潤滑油導入路16からの油溜め空間15への潤滑油の供給はスムーズに行われるが,油溜め空間15に潤滑油が充満していないため,潤滑油とインプットシャフト3に形成した油孔19との接触の機会が少なく,油孔19への潤滑油の流入が困難である。これに対して,図7に示すように,クラッチハウジング1の内径を小さくして油溜め空間15の全周に潤滑油を充満させることにより,潤滑油と油孔19との接触機会を増やし,油孔19への潤滑油の流入をスムーズにすることが考えられる。しかし,油溜め空間15の全周で圧力が一定であるため,インプットシャフト3の回転方向と油孔19の方向との違いに起因する油孔19への潤滑油の流入し難さの解消にはならない。
【0006】油溜め空間内で油圧を発生させて,油孔へ潤滑油をスムーズに流入させるようにした変速機の潤滑構造として,特公平7−81674号公報に開示された回転軸内への自力潤滑装置がある。該潤滑装置は,油溜め空間内に油圧発生体を設け,潤滑油を油圧発生体に導いて油圧発生体で遠心力に打ち勝つ油圧を発生させることにより,潤滑油を油孔にスムーズに流入させるものであり,言い換えれば,油圧発生体に形成した円弧状の壁面でガイドして潤滑油の流れる方向を内側に向けることにより潤滑油を油孔へスムーズに導くものである。しかし,油溜め空間は潤滑油導入路から円弧状の壁面まで容積が同じであるため,潤滑油導入路から油溜め空間に潤滑油を引き込む力は発生せず,油溜め空間内に潤滑油が不足する可能性がある。潤滑油は重力により油溜め空間の下部に溜まるが,油孔への潤滑油の供給は上部で行っており,潤滑油の油孔への供給を十分に行うことができず,また,潤滑油導入路から油圧発生凹部までの距離が長く,ケース面との摺動抵抗で流速が落ちる等の問題を有する。しかも,油孔は,インプットシャフトの軸方向に沿って形成されたものではなく,むしろ径方向に形成されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記のとおり,図5に示したような,インプットシャフトの軸方向に沿って形成された油孔を通じてパイロットベアリングに潤滑油を供給する従来の変速機の潤滑構造においては,潤滑油を油孔へスムーズに流入させるための手段が設けられておらず,また,前掲特公平7−81674号公報に開示されたものは軸孔の方向が異なるが故に適用できない。それ故,従来から,油溜め空間の全周に潤滑油を充満させることにより,潤滑油と油孔との接触機会を増やすとともに,油溜め空間において回転方向に圧力変化を起こさせることにより,潤滑油導入路からクラッチハウジング内に潤滑油を供給し易くし,且つインプットシャフトの軸方向に形成された油孔へ潤滑油を流入し易くすることが課題となっていた。
【0008】上記課題は,変速機におけるインプットシャフトとメインシャフトとの間に配置されたパイロットベアリングを潤滑するための変速機の潤滑構造に限らず,2本のシャフトの間に配置されたベアリングを潤滑するための変速機の潤滑構造において解決すべき課題でもある。即ち,同一軸上に配置された2本のシャフトが両シャフト間に配置されたパイロットベアリングを介して相対回転可能に支持されたものであって,一方のシャフトに軸方向に沿って形成された油孔を通じてパイロットベアリングに外部から潤滑油を供給する変速機の潤滑構造においては,油溜め空間の全周に潤滑油を充満させることにより,潤滑油と油孔との接触機会を増やすとともに,油溜め空間において回転方向に圧力変化を起こさせることにより,潤滑油導入路から油溜め空間内に潤滑油を供給し易くし,且つシャフトの軸方向に形成された油孔へ潤滑油を流入し易くすることが課題となっていた。
【0009】
【課題を解決するための手段】この発明の目的は,上記課題を解決することであり,同一軸上に配置された2本のシャフト間にベアリングを配置し,該ベアリングで両シャフトを相対回転可能に支持し且つ前記ベアリングに潤滑油を供給するための油孔を一方のシャフトに軸方向に沿って形成した変速機の潤滑構造において,油溜め空間の全周に潤滑油を充満させ,油溜め空間において回転方向に圧力変化を起こさせる構成を採用することにより,ベアリングへ供給される潤滑油を十分に確保し,もってベアリング転動面の温度上昇を抑え,ベアリング寿命を延ばし,潤滑油の不足に起因するベアリングの寿命低下や焼き付きを防止した変速機の潤滑構造を提供することである。
【0010】この発明は,第一ベアリングを介してハウジングに回転自在に支持され且つ端部に凹部を設けた第一シャフト,前記第一シャフトと同一軸上に配置された第二シャフト,前記凹部内に配置され前記第二シャフトの一端を前記第一シャフトに対して相対回転自在に支持する第二ベアリング,前記ハウジングと前記第一シャフトと前記第一ベアリングへの潤滑油の流出を制限する遮蔽板とで囲まれた油溜め空間,外部から前記油溜め空間へ潤滑油を導入するために前記ハウジングに形成された潤滑油導入路,及び前記油溜め空間と前記凹部を連通するように前記第一シャフトに軸方向に沿って形成された油孔を備え,前記油溜め空間には,前記第一シャフトの回転方向に沿って前記潤滑油導入路の出口から徐々に容積が増大し,次いで徐々に容積が減少するような形状の拡大部が形成されていることを特徴とする変速機の潤滑構造に関する。ここで,遮蔽板は,第1ベアリングへの潤滑油の流出を完全に防止するものであっても,ある程度の潤滑油の流出を許容するものであっても,どちらでもよいので,上記のように「流出を制限する」という表現を使用している。
【0011】この発明による変速機の潤滑構造によれば,外部から潤滑油導入路を通って油溜め空間に導入された潤滑油は,第一シャフトの回転に伴って連れ回りして,第一シャフトの周りを回転する。油溜め空間は第一シャフトの回転方向に沿って潤滑油導入路の出口から徐々に容積が増大しているので,容積増大部の圧力は潤滑油導入路の出口よりも低くなっており,それ故,潤滑油は潤滑油導入路から吸い込まれるように油溜め空間内へ導入される。また,拡大部は途中から回転方向に沿って容積が減少するように形成されているので,圧力が上昇し,それ故,潤滑油は圧力の低い第一シャフトの油孔内に流れ込もうとする。このようにして,潤滑油はスムーズにベアリングの方へ向けて排出される。
【0012】また,この変速機の潤滑構造において,前記拡大部は,前記第一シャフトの回転方向に沿って前記潤滑油導入路の前記出口から最下部までの間に設けられていることが好ましい。即ち,拡がった油溜め空間を最下部で狭くすれば,潤滑油の自重の影響を受けて,他の部分に拡大部を配置するよりも圧力が高くなるので,油孔への潤滑油の流入をより一層スムーズなものにすることができる。
【0013】また,この変速機の潤滑構造は,前記第一シャフトを変速機におけるインプットシャフト,前記第二シャフトを変速機におけるメインシャフト,前記外部をトランスミッションケースとしたものである。即ち,この発明は,手動変速機のインプットシャフトとメインシャフトとの間に配置される第二ベアリングを潤滑するための潤滑構造として適用することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下,図面を参照しながら,この発明による変速機の潤滑構造の実施例について説明する。図1はこの発明による変速機の潤滑構造の一実施例を示す断面図,図2は図1のA−A線における矢視断面図,図3は図1に示す変速機を車両後方から見た背面図,及び図4は図3に示す変速機の側面図である。
【0015】自動車等の変速機においては,図1に示すように,クラッチハウジング1に装着された第一ベアリングのインプットベアリング2を介してインプットシャフト3がクラッチハウジング1に回転可能に支持されるとともに,インプットシャフト3と同一軸上にメインシャフト4が配置され,両シャフト3,4を互いに相対回転可能に支持するために両シャフト3,4間に第二ベアリングのベアリング(パイロットベアリング)5が配置されている。インプットシャフト3の先端部にはトップギヤ6が一体に設けられ,トップギヤ6のボス部7にはドッグ歯(ドグ歯)8が一体に設けられ,ドッグ歯8にはブロックリング9が摺動可能に設けられている。ブロックリング9はスリーブ10の軸方向への動きに連動して軸方向に動き,スリーブ10とドッグ歯8の相対回転を同期させるものである。
【0016】クラッチハウジング1の内径部にはオイルシール11が装着され,オイルシール11のリップ部12はインプットシャフト3に摺接して,クラッチハウジング1とインプットシャフト3との隙間を密封している。また,インプットベアリング2の外輪13とクラッチハウジング1との間には遮蔽板14が挟持され且つ固定されており,インプットベアリング2は遮蔽板14によって塞がれている。そして,クラッチハウジング1とインプットシャフト3とオイルシール11と遮蔽板14とで形成される環状の空間は,後で詳しく述べる油溜め空間15を構成している。クラッチハウジング1には潤滑油導入路16が形成され,潤滑油導入路16は油溜め空間15に開口し,潤滑油をトランスミッションケース28から油溜め空間15に導入することができる。
【0017】ここで,遮蔽板14はインプットベアリング2への潤滑油の「流出を制限する」ものである。遮蔽板14が無い場合には,潤滑油はインプットベアリング2から流出してトランスミッションケース28に戻ってしまい,ベアリング5を潤滑することができなくなることから,油溜め空間15に潤滑油を保持するために必要なものである。しかし,インプットベアリング2が潤滑油導入路16からの潤滑油を必要とする場合には,遮蔽板14はある程度の潤滑油を流出させる必要があり,他方,インプットベアリング2が潤滑油導入路16からの潤滑油を必要としないものである場合には,遮蔽板14は完全に潤滑油の流出を防止するものでなければならない(この場合,遮蔽板14の内径端にオイルシールを設けて,インプットシャフト3の大径部17の壁面との接触部18との間で密封する必要がある。)。従って,遮蔽板14は,潤滑油の流出を完全に防止するものであっても,ある程度の潤滑油の流出を許容するものであっても,どちらでもよいので,上記のように「流出を制限する」という表現を使用している。この実施例においては,遮蔽板14は,インプットベアリング2の外輪13とクラッチハウジング1との間に挟持されて固定されており,インプットシャフト3は遮蔽板14に対して相対回転するので,潤滑油は,遮蔽板14の内径端とインプットシャフト3の大径部17の壁面との接触部18からインプットベアリング2側に少し流出して即ち漏れて,インプットベアリング2を潤滑し,再びトランスミッションケース28に戻ってくる。なお,遮蔽板14に小さな孔をあけることによって,インプットベアリング2側への潤滑油の流出量を調節することも可能である。
【0018】インプットシャフト3の先端部には大径部17が形成され,大径部17には軸方向に沿って,即ちインプットシャフト3の軸線に平行に,油孔19が形成され,油孔19はインプットシャフト3の端部に形成された凹部20(パイロット部20)に開口し,油溜め空間15とパイロット部20とを連通している。
【0019】インプットシャフト3と同一軸上には,メインシャフト4が回転自在に設けられている。メインシャフト4の一端には,円錐ころ軸受であるベアリング5が外嵌されている。ベアリング5は,インプットシャフト3の端部に形成された凹部20内に装着され,メインシャフト4はベアリング5を介してインプットシャフト3の凹部20で回転自在に支持されている。ベアリング5は,インプットシャフト3の端部に一体形成された外輪21と,メインシャフト4の一端に外嵌された内輪22と,外輪21と内輪22との間の環状空間に収容された複数個の円錐ころ23と,円錐ころ23を回転自在に保持する保持器24とから構成されている。
【0020】油溜め空間15は,図2に示すような断面形状をしている。即ち,図7に示した油溜め空間のように,クラッチハウジング1の内径を小さく形成し,油溜め空間15の全周に潤滑油を充満することのできる大きさに形成されている。また,クラッチハウジング1の内径部には,インプットシャフト3の回転方向に沿って潤滑油導入路16の出口25から徐々に容積が増大し,次いで徐々に容積が減少する拡大部26が型成形によって形成されている。拡大部26は,潤滑油導入路16の出口25からクラッチハウジング1の最下部27までの間に設けられている。このように,拡大部26において環状の油溜め空間15の容積を変化させることにより,潤滑油導入路16の出口25では低圧となり,クラッチハウジング1の最下部27付近では拡大部26による高圧化と潤滑油自体の自重による高圧化によって最大高圧となる。
【0021】トランスミッションケース28の上方には,図3及び図4に示すように,変速ギヤ29,30,31によって掻き上げられた潤滑油を受けるために,油樋32が設置されており,油樋32から油溜め空間15に向けて斜め下方に潤滑油導入路16が延びている。潤滑油導入路16を斜めに形成せずに鉛直方向に形成すれば,潤滑油導入路16内での流れの損失を最小限に抑えることができ,流れを速くすることができる。トランスミッションケース28の大きさを気にしなければ自由度は拡がるが,車両レイアウト,油量,重量などの問題からトランスミッションケース28を大きくすることは得策ではなく,そのため,径の大きな低速ギヤ29の径にあわせてトランスミッションケース28の大きさが決定されるのが普通である。それ故,油樋32はトランスミッションケース28の縦横幅を変えないように高速ギヤ31の角部に設置される。これに対して,パイロット部20はギヤ29,30,31の中心部にあるため,潤滑油導入路16は必然的に斜めになってしまうのである。このように潤滑油導入路16が斜めであって鉛直方向ではないのは,レイアウト上の制約によるものである。ただし,潤滑油導入路16が仮に鉛直方向に延びていて流速を上げることができたとしても,潤滑油の流れ方向を変えることにはならないので,潤滑油導入路16の延びる方向が斜めか鉛直方向かの違いは,あまり問題ではない。
【0022】この変速機の潤滑構造は,上記のような構成を備えているので,ベアリング5への潤滑油の供給は次のようにして行われる。即ち,トランスミッションケース内の変速ギヤの回転によって掻き上げられた潤滑油は,トランスミッションケース28内の上方に設置された油樋32に集められ,この集められた潤滑油は,矢印で示すように潤滑油導入路16を通って,油溜め空間15に導入される。インプットシャフト3は図2において矢印X方向に回転するので,導入された潤滑油も連れ回りしてインプットシャフト3の回りを回転する。油溜め空間15には,インプットシャフト3の回転方向に沿って潤滑油導入路16の出口25から徐々に容積が増大し,次いで徐々に容積が減少する拡大部26が形成されているので,潤滑油導入路16の出口25における圧力よりも拡大部26の圧力の方が低くなっており,それ故,潤滑油は潤滑油導入路16から吸い込まれるように滑らかに油溜め空間15に導入される。その上,クラッチハウジング1の内径を小さくしたので,油溜め空間15の全周に潤滑油を充満させることができ,潤滑油と油孔19との接触機会を増やすことができる。
【0023】また,拡大部26は途中から回転方向に沿って容積が減少するように形成されているので,油溜め空間15は再び狭くなって圧力が上昇する。しかも,拡大部26が回転方向に沿って潤滑油導入路16の出口25から最下部27までの間に設けられているので,即ち最下部27で油溜め空間15が再び狭くなってくるので,潤滑油の自重の影響も加わって,油溜め空間15は最下部27で圧力が最も高くなる。従って,インプットシャフト3の油孔19が最下部27に位置しているときに,潤滑油は圧力の低いインプットシャフト3の油孔19内に流れ込もうとする。このようにして,潤滑油の回転方向と油孔19の方向とが直交しているにも拘わらず,潤滑油はスムーズに油孔19内に流れ込んで,ベアリング5の方へ導入されることになる。そして,ベアリング5を潤滑すると同時に冷却した潤滑油は,再びトランスミッションケース28へと排出される。
【0024】
【発明の効果】この発明による変速機の潤滑構造では,油溜め空間の容積を第一シャフトの回転方向に沿って変化させることによって,潤滑油導入路の出口よりも拡大部で低圧になり,最下部では高圧になるように圧力分布を変えているため,潤滑油は潤滑油導入路から吸い出されるように油溜め空間に導入され,導入された潤滑油は油孔が最下部にきたときに,圧力の低い油孔内にスムーズに流れ込み,パイロット部のベアリングの方へ導入される。従って,この変速機の潤滑構造は,パイロット部のベアリングへ供給される潤滑油を十分に確保することができるため,ベアリング転動面の温度上昇を抑え,ベアリングの寿命を延ばし,潤滑油の不足に起因するベアリングの寿命低下や焼き付きを防止することができる。
【0025】また,油溜め空間は,クラッチハウジングの壁面の形状を変更するだけで従来の手動変速機などにも簡単に適用可能であり,しかも,クラッチハウジングの壁面は型で成形することができるので,ほとんどコストアップを伴うことなく,本願発明の変速機の潤滑構造を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による変速機の潤滑構造の一実施例を示す断面図であって,手動変速機を示す断面図である。
【図2】図1の変速機の潤滑構造に設けられた油溜め空間の形状を示すA−A線における矢視断面図である。
【図3】図1に示す手動変速機を車両後方から見た背面図である。
【図4】図3に示す手動変速機の側面図である。
【図5】従来の手動変速機における変速機の潤滑構造を示す断面図である。
【図6】図5の変速機の潤滑構造に設けられた油溜め空間の形状を示すB−B線における矢視断面図である。
【図7】図5の変速機の潤滑構造に設けられた油溜め空間の別の形状を示す断面図であり,断面の位置は図5のB−B線と同じ位置である。
【符号の説明】
1 クラッチハウジング(ハウジング)
2 インプットベアリング(第一ベアリング)
3 インプットシャフト(第一シャフト)
4 メインシャフト(第二シャフト)
5 ベアリング(第二ベアリング)
14 遮蔽板
15 油溜め空間
16 潤滑油導入路
19 油孔
20 凹部
25 出口
26 拡大部
27 最下部
28 トランスミッションケース(外部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 第一ベアリングを介してハウジングに回転自在に支持され且つ端部に凹部を設けた第一シャフト,前記第一シャフトと同一軸上に配置された第二シャフト,前記凹部内に配置され前記第二シャフトの一端を前記第一シャフトに対して相対回転自在に支持する第二ベアリング,前記ハウジングと前記第一シャフトと前記第一ベアリングへの潤滑油の流出を制限する遮蔽板とで囲まれた油溜め空間,外部から前記油溜め空間へ潤滑油を導入するために前記ハウジングに形成された潤滑油導入路,及び前記油溜め空間と前記凹部を連通するように前記第一シャフトに軸方向に沿って形成された油孔を備え,前記油溜め空間には,前記第一シャフトの回転方向に沿って前記潤滑油導入路の出口から徐々に容積が増大し,次いで徐々に容積が減少するような形状の拡大部が形成されていることから成る変速機の潤滑構造。
【請求項2】 前記拡大部は,前記第一シャフトの回転方向に沿って前記潤滑油導入路の前記出口から最下部までの間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の変速機の潤滑構造。
【請求項3】 前記第一シャフトは変速機におけるインプットシャフト,前記第二シャフトは変速機におけるメインシャフトであり,前記外部はトランスミッションケースであることを特徴とする請求項1又は2に記載の変速機の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開平11−257470
【公開日】平成11年(1999)9月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−73064
【出願日】平成10年(1998)3月9日
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)