説明

多孔板吸音体の製造方法

【課題】特別な部材や装置を必要とせず、直径数百マイクロメートルの微細な貫通孔を容易にしかも短時間で形成することが可能な多孔板吸音体の製造方法を提供する。
【解決手段】薄板2の表面2aに、埋め込み粒子4を分散させつつ付着する分散付着工程Aと、埋め込み粒子4を薄板2に埋め込む埋込み工程Bと、埋め込み粒子4を膨潤または溶解して除去する溶解工程Cとを順次行い、薄板2に平均孔径が100μm以上200μm以下の複数の貫通孔3を設けることを特徴とする多孔質薄板1の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔板吸音体の製造方法に関するものであり、特に、多孔板吸音体を製造するに際してフォトリソグラフィー技術等の複雑な工程を必要としない製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属、木材、プラスチック等からなる板状部材に貫通孔を設け、貫通孔の音源と反対側に背後空気層を持たせた吸音パネルが知られている。特に、直径が数百マイクロメートルの貫通孔を有する吸音パネルは、貫通孔を肉眼で視認できないため、美観性に優れるという特徴がある。
【0003】
板状部材に数百マイクロメートルの貫通孔を形成する手段としては、例えば、針状の金型を板材に押し当てて貫通孔を形成するプレス加工法(特許文献1)や、フォトリソグラフィー技術とエッチング技術を組み合わせて貫通孔を形成するエッチング加工法(特許文献2)や、ドリルを用いて貫通孔を形成するドリル加工法や、レーザーによって貫通孔を形成するレザー加工法(特許文献3)などが知られている。
【特許文献1】特表2002−521722号公報
【特許文献2】特開平9−209175号公報
【特許文献3】特許第3160084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のプレス加工法によって直径数百マイクロメートルの貫通孔を形成するためには、金型となる針を極細にする必要があり、針が折れて金型が破損しやすいという問題があった。また、吸音特性に応じて貫通孔のピッチや直径等を変更したい場合には、別途金型を用意する必要があり、吸音特性に応じた吸音パネルの仕様の変更が困難になる場合があった。更に、金型やプレス機が高価であるという問題もあった。
また、上記のエッチング加工法では、フォトリソグラフィー技術に供されるマスク、レジスト、現像液、剥離液等がいずれも高価であり、また、露光装置等も高価で、コスト増になるおそれがあった。
更に、ドリル加工法では、貫通孔のピッチ等にもよるが、吸音パネル1平方メートル当たり数十万個程度の貫通孔を逐一形成する必要があり、貫通孔の形成に要する時間が膨大になるという問題があった。
更にまた、レーザー加工法では、ドリル加工法と同様に、吸音パネル1平方メートル当たり数十万個程度の貫通孔を逐一形成する必要があり、貫通孔の形成に要する時間が膨大になるという問題があった。また、レーザー加工装置が高価でコスト増になるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、特別な部材や装置を必要とせず、直径数百マイクロメートルの微細な貫通孔を容易にしかも短時間で形成することが可能な多孔板吸音体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究を行った結果、平均孔径が数百マイクロメートル程度の微細な貫通孔を有する多孔板吸音体においては、貫通孔の平均孔径及び開口率が所定の範囲内にあれば、貫通孔の開口形状、孔径または貫通孔同士のピッチ等が多少ばらついて、これらの分布が比較的広くなっている場合でも、所望の吸音特性が得られることを見出すに至り、本発明を完成させた。すなわち上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0007】
本発明の多孔板吸音体の製造方法は、薄板の表面に、貫通孔形成用の埋め込み粒子を分散させつつ付着する分散付着工程と、前記埋め込み粒子を前記薄板に埋め込む埋込み工程と、前記埋め込み粒子を膨潤または溶解して除去する溶解工程とを順次行い、前記薄板に平均孔径が100μm以上200μm以下の複数の貫通孔を設けることを特徴とする。
また、本発明の多孔板吸音体の製造方法においては、前記分散付着工程において、前記埋め込み粒子を分散液に分散してスラリーとし、前記スラリーを前記薄板の表面に噴霧することにより、前記埋め込み粒子を前記薄板表面に分散させることが好ましい。
また、本発明の多孔板吸音体の製造方法においては、前記薄板の厚みが50〜200μmの範囲であることが好ましい。
更に、本発明の多孔板吸音体の製造方法においては、前記薄板が金属薄板であり、前記埋め込み粒子が樹脂からなる粒子であり、前記埋め込み粒子を溶解する溶解液が前記樹脂を膨潤または溶解可能な有機溶剤を含む溶解液であることが好ましい。
更にまた、本発明の多孔板吸音体の製造方法においては、前記薄板が樹脂薄板であり、前記埋め込み粒子が金属からなる粒子であり、前記埋め込み粒子を溶解する溶解液が前記金属を溶解可能な酸または金属塩を含む溶解液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔板吸音体の製造方法によれば、分散付着工程、埋込み工程及び溶解工程を順次行うことにより多孔板吸音体を製造するので、平均孔径が100〜200μmの微細な貫通孔を容易にしかも短時間で形成することができる。
また、本発明の多孔板吸音体の製造方法によれば、分散付着工程において、埋め込み粒子を含むスラリーを噴霧することにより埋め込み粒子を薄板表面に分散させるので、貫通孔同士のピッチが比較的均一な多孔板吸音体を製造できる。
更に、本発明の多孔板吸音体の製造方法によれば、金属薄板を用いる場合には、金属薄板に樹脂粒子を埋め込んでから樹脂粒子を膨潤または溶解させて除去することで、多孔板吸音体を容易に製造できる。
更にまた、本発明の多孔板吸音体の製造方法によれば、樹脂薄板を用いる場合には、樹脂薄板に金属粒子を埋め込んでから金属粒子を溶解させて除去することで、多孔板吸音体を容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態である多孔板吸音体及びその製造方法について、図面を参照して説明する。以下の説明で参照する図は、吸音パネル等の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の吸音パネル等の寸法関係と異なる場合がある。
【0010】
図1は、本実施形態の多孔板吸音体の製造方法によって製造された多孔板吸音体の一例を示す斜視図であり、図2は、図1に示す多孔板吸音体の断面模式図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の多孔板吸音体1は、厚みが50μm〜200μmの薄板2を主体として構成され、この薄板2には、一面2aから他面2bの間をその厚み方向に貫通する複数の貫通孔3が設けられている。複数の貫通孔3を薄板2に設けることによって、音や空気が多孔板吸音体1を通過可能になっている。また、貫通孔3は単に音や空気を通過するのみならず、音を吸音する機能も備わっている。
【0011】
薄板2の厚みが50μm以上であれば、薄板2自体の強度が低下することなく取り扱いが容易になり、また吸音特性が低下することもなく好適である。また、薄板2の厚み200μm以下であれば、後述するように貫通孔3を良好に形成できる。
【0012】
また、薄板2を金属薄板で構成した場合の材質は、比較的軟らかいものが好ましく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金を用いることが好ましい。また、薄板2を樹脂薄板で構成した場合は、金属の場合と同様に比較的軟らかいものが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、合成ゴム、シリコーンゴム等を用いることが好ましい。
【0013】
また、薄板2の一面2aまたは他面2bには、多孔板吸音体1の外観の美観性を向上させるために絵、模様等のデザインが施されていても良く、また各面2a、2bを鏡面仕上げにしても良い。
【0014】
貫通孔3は後述するように、薄板に貫通孔形成用の埋め込み粒子を埋め込み、その後、埋め込み粒子を除去することにより形成される。従って貫通孔3の平面視形状は、真円形状、楕円形状、矩形状、不定形状等の様々な形状をなす。また、隣接する貫通孔3同士が相互に繋がることによって、その平面視形状が不定形状になった貫通孔が一部に存在しても良い。
これら貫通孔3の平均孔径は、100〜200μmの範囲が好ましい。平均孔径が100μm以上であれば、十分な吸音特性を確保することができる。また、平均孔径が200μm以下であれば、貫通孔3を肉眼では視認することが困難になり、多孔板吸音体の美観性が向上して化粧板として用いることが可能になる。なお、平均孔径とは、複数の貫通孔3の孔径の平均である。また、貫通孔3の孔径は、例えば、貫通孔3の平面視形状が真円状の場合はその直径が孔径になり、楕円形状の場合はその長径が孔径となり、矩形状の場合はその長辺長が孔径になる。また、貫通孔3が不定形状の場合はその最長の長さが孔径になる。
【0015】
また、貫通孔3の平面視形状は、図2に示すように薄板3の厚み方向に沿って一定であってもよいが、厚み方向に沿って大きさが徐々に変化してもよい。即ち、図2に示す貫通孔3は、いずれも模式的に示したものであるため、その平面視形状が薄板2の厚み方向に沿って一定であり、貫通孔3の内壁面3aが薄板の厚み方向に沿うように形成されているが、本実施形態ではこれに限らず、貫通孔3の内壁面3aがテーパー面でもよく、球面でもよい。また、内壁面3aは平滑面でもよいし粗面でもよい。貫通孔3は、薄板に埋め込んだ埋め込み粒子を除去することにより形成されるため、貫通孔3の内壁面3aは埋め込み粒子の表面形状をある程度反映した形状になるので、このような様々な形態の面に形成される。
【0016】
また、貫通孔3の開口率は、0.2%〜15%の範囲が好ましく、0.5%〜10%の範囲がより好ましい。ここで貫通孔3の開口率とは、薄板2の一面2aまたは他面2bの面積に対する貫通孔3の開口面積の割合である。開口率が0.2%以上であれば、良好な吸音特性を得ることができ、開口率が15%以下であれば、貫通孔3が目立たず、多孔板吸音体1の外観の美観性が損なわれる虞がない。
【0017】
更に、貫通孔3同士のピッチは、薄板に埋め込み粒子を分散させた際の粒子の分布によって決まるので、貫通孔3同士のピッチは完全に揃っていなくともよく、ある程度均一であればよい。
【0018】
上記の多孔板吸音体1は、図3に示すように、多孔板吸音体1の音源側の面とは反対側の面に離間して配置された背面板11(剛体)と組み合わされることによって、吸音パネル12を構成する。多孔板吸音体1と背面板11との間には、多孔板吸音体1の各貫通孔3と連通する背後空気層13が備えられる。また、背後空気層13には、グラスウールに代表される多孔質吸音基材が配置されてもよい。多孔質吸音基材としては、例えば、ガラス粒子、鉱物粒子、セラミックス粒子、樹脂粒子等が焼結若しくは結着されてなる粒状の多孔質材料でも良く、ガラス繊維、鉱物繊維、樹脂繊維、金属繊維、綿等の天然繊維等が絡まりあってなる繊維状の多孔質材料でも良い。また、繊維状の多孔質材料の場合には、繊維同士の間に、ガラス粒子、鉱物粒子、セラミックス粒子、樹脂粒子等を充填してもよい。
【0019】
次に、本実施形態の多孔板吸音体の製造方法について説明する。この製造方法は、図4に示すように、薄板2の一面2a(表面)に貫通孔形成用の埋め込み粒子4を分散して付着させる分散付着工程Aと、埋め込み粒子4を薄板に埋め込む埋込み工程Bと、埋め込み粒子4を溶解して除去する溶解工程Cとから概略構成される。以下、各工程について図4を参照して説明する。
【0020】
(分散付着工程A)
分散付着工程Aでは、図4に示すように、一方向に連続的に移動する薄板2の一面2a上に、貫通孔形成用の埋め込み粒子4を順次分散させて付着する。具体的には例えば、埋め込み粒子4を水またはアルコールなどの分散液に分散してスラリーとし、このスラリーを移動中の薄板2の一面2aに連続的に噴霧することにより、埋め込み粒子4を薄板2上に分散させて付着する手段を例示できる。
【0021】
ここで、薄板2としては、上述したように、金属または樹脂の薄板2を用いることができる。薄板2として金属薄板を用いる場合には、埋め込み粒子4として、樹脂からなる粒子を用いることができる。より具体的には、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド樹脂といった、比較的硬質の樹脂からなる粒子を用いることができる。一方、薄板2として樹脂薄板を用いる場合には、埋め込み粒子4として、金属からなる粒子を用いることができる。より具体的には、Cu、Al、Fe、Ni、Cr、W、Ti、NiFe合金等からなる粒子を用いることができる。
【0022】
埋め込み粒子4の形状は、どのような形状でもよく、例えば、球状、楕円球状、柱状、針状、平板状、不定形状等の形状でもよい。
【0023】
埋め込み粒子4の平均粒径は、薄板2の厚みにもよるが、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、50μm以上200μm以下の範囲が最も好ましく、これらの範囲で薄板2の厚みよりも大きな平均粒径がよい。埋め込み粒子4の平均粒径が薄板2の厚みを大幅に超えて例えば500μmを超えると、次工程の埋め込み工程において埋め込み粒子4が粉砕されるかあるいは変形されてしまい、良好な貫通孔3が形成されなくなる場合があるので好ましくない。また、粒子の粉砕や変形がなくても、500μm超の粒子を用いた場合は貫通孔3の径が過大になり、多孔板吸音体1の美観性を損ねる場合があるので好ましくない。
また、埋め込み粒子4の平均粒径が薄板2の厚みより大幅に小さく例えば50μm未満になると、埋め込み粒子4が薄板2に完全に埋め込まれてしまい、貫通孔3の形成に寄与できなくなる場合があるので好ましくない。
更に、埋め込み粒子4の平均粒径が薄板の厚みよりも小さいと、薄板2の厚みより小さな粒径の粒子の割合が増加し、良好な貫通孔3が形成されなくなる場合があるので好ましくない。
【0024】
また、埋め込み粒子4の粒度分布は、比較的狭い分布幅を持つものが好ましい。埋め込み粒子4の粒度分布の分布幅が過剰に広がると、薄板2の厚みより大きな粒径の粒子や、薄板2の厚みより小さな粒径の粒子の割合が増加し、良好な貫通孔3が形成されなくなる場合があるので好ましくない。
【0025】
(埋め込み工程B)
次に、埋め込み工程Bでは、一面2a上に分散して付着された埋め込み粒子4を薄板2に押し込んで、埋め込み粒子4を薄板2に埋め込む。具体的には例えば、図4に示すように、双ロール5の間に薄板2を連続的に通して、ロール圧力によって埋め込み粒子4を薄板2に順次埋め込む。このときのロール5同士の間隔は、例えば、薄板2の厚みとほぼ同じ寸法に調整すればよい。また、ロール5により薄板2に与える線圧は、薄板2及び埋め込み粒子4の材質や埋め込み粒子の粒径によって異なるので適宜変更すればよい。更に、ロール5は、埋め込み粒子4が潰されず、かつ粒子を露出させるようにロール材質が復元可能なゴム様なものとし、かつロールによる加圧力を適宜調整するとよい。このようにして、埋め込み粒子4が薄板2に埋め込まれる。
【0026】
なお、図4では、連続して供給される薄板を双ロール5の間を通すことで埋め込み粒子4を薄板2に埋め込む例を示したが、薄板を連続的に平板プレスすることで埋め込み粒子4を薄板2に埋め込んでもよい。
【0027】
(溶解工程C)
次に溶解工程Cでは、溶解液によって埋め込み粒子を膨潤または溶解して薄板2から除去することにより、薄板2に貫通孔3を形成する。具体的には、例えば図4に示すように、連続的に移動する薄板2に対して、埋め込み粒子4を膨潤または溶解させる溶解液Lをシャワーノズル等で噴射させてもよく、溶解液を満たした溶解槽を用意し、この溶解槽に薄板を連続的に浸漬させてもよい。溶解液に触れた埋め込み粒子4は、溶解または膨潤して薄板2から除去される。
【0028】
ここで溶解液としては、金属または樹脂からなる埋め込み粒子を溶解または膨潤させるものがよい。埋め込み粒子4が金属からなる場合は、金属の種類にもよるが例えば、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩化第2鉄水溶液等を用いればよい。また、埋め込み粒子4が樹脂からなる場合は、樹脂の種類にもよるが例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトン等を用いればよい。
【0029】
図5及び図6には、埋め込み工程後及び溶解工程後の薄板の拡大断面図を示す。図5(a)及び図6(a)はそれぞれ、埋め込み工程後の薄板の拡大断面模式図であり、図5(b)及び図6(b)はそれぞれ、溶解工程後の薄板の拡大断面模式図である。
図5について説明すると、図5(a)は、様々な粒径の球状の埋め込み粒子が薄板に埋め込まれた状態を示している。図5(a)に示す埋め込み粒子4aは、その粒径が薄板2の厚みよりも若干大きいため、その一部が薄板2の一面2a及び他面2bから僅かに露出している。また、図5(a)に同時に示す埋め込み粒子4b〜4dは、その粒径が薄板2の厚みより若干小さいため、薄板中に完全に埋め込まれたり(4b)、一部が薄板2の一面2aまたは他面2bから僅かに露出した状態になっている(4c、4d)。
このような状態の薄板に対して溶解工程を行ったのが図5(b)に示される薄板であり、図5(b)においては、埋め込み粒子4aに対応する貫通孔3bが形成される一方、埋め込み粒子4bは溶解されずに薄板2内に残存し、埋め込み粒子4cについては一面2a側に開口する穴3cを形成し、更に埋め込み粒子4dについては他面2b側に開口する穴3dを形成する。このうち、吸音特性を発現するのは貫通孔3bであり、残存した埋め込み粒子4b及び穴3c、3dは吸音特性に何ら関与しない。
このように、本実施形態の多孔質製造方法によれば、一部に吸音特性に関与しない穴が形成されたり、埋め込み粒子が残存する場合もあるが、埋め込み粒子4の一部を一面2a及び他面2bから露出させてから溶解除去することで、概ね、平均孔径100〜200μmの貫通孔3が薄板2を貫通するように形成される。
【0030】
また、図6について説明すると、図6(a)は、様々な形状の埋め込み粒子が薄板に埋め込まれた状態を示している。図6(a)に示す球状または楕円球状の埋め込み粒子4e、4fは、図5に示す埋め込み粒子4aと同様に、その粒径が薄板2の厚みよりも若干大きいため、その一部が薄板2の一面2a及び他面2bから僅かに露出している。また、図6(a)に示す柱状の埋め込み粒子4gは、アスペクト比が1に近いため、薄板2に対してその長手方向が直交する方向に沿って埋め込まれている。更に、図6(a)に示す柱状の埋め込み粒子4hは、アスペクト比が1より大きいため、薄板2に対してその長手方向が平行になって埋め込まれている。
このような状態の薄板に対して溶解工程を行ったのが図6(b)に示される薄板であり、図6(b)においては、埋め込み粒子4e〜4hに対応する貫通孔3e〜3hが形成されている。図6に示すように、各貫通孔3e〜3hは、埋め込み粒子4e〜4hの形状に対応した異なる孔径を有している。
このように、本実施形態の多孔質製造方法によれば、異なる孔径の貫通孔が形成される場合もあるが、概ね、平均孔径100〜200μmの貫通孔が薄板2を貫通して形成される。
【0031】
上記の多孔板吸音体の製造方法によれば、分散付着工程、埋込み工程及び溶解工程を順次行うことにより多孔板吸音体1を製造するので、平均孔径が100〜200μmの微細な貫通孔を容易にしかも短時間で形成することができる。
また、分散付着工程において、埋め込み粒子4を含むスラリーを噴霧することにより、埋め込み粒子4を薄板表面2aに分散させるので、貫通孔3同士のピッチが比較的均一な多孔板吸音体1を製造できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
「実施例1」
ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETという)からなる厚み0.1mmの樹脂薄板と、平均粒径170μmで最大粒径が300μmの球状のCuからなる埋め込み粒子を用意した。この埋め込み粒子を水に分散させてスラリーを形成し、このスラリーを樹脂薄板に噴霧して樹脂薄板上に埋め込み粒子を分散させて付着させた。
次に、埋め込み粒子が付着した状態の樹脂薄板を、双ロールの間に通して薄板に埋め込み粒子を埋め込ませた。ロールによって薄板に印加する線圧は100MPaに調整した。
次に、埋め込み粒子が埋め込まれた樹脂薄板を、濃度30重量%の塩化第2鉄水溶液中に浸漬させ、液温を最高40℃程度に調整することにより、Cuからなる埋め込み粒子を溶解させて除去した。このようにして貫通孔を形成した。その後、樹脂薄板を水洗して乾燥することにより、実施例1の多孔板吸音体を製造した。
【0033】
「実施例2」
Cuからなる厚み0.1mmの金属薄板と、平均粒径170μmで最大粒径が300μmの球状のポリメチルメタクリレート樹脂(以下、PMMAという)からなる埋め込み粒子を用意した。この埋め込み粒子を水に分散させてスラリーを形成し、このスラリーを樹脂薄板に噴霧して金属薄板上に埋め込み粒子を分散させて付着させた。
次に、埋め込み粒子が付着した状態の金属薄板を、双ロールの間に通して薄板に埋め込み粒子を埋め込ませた。ロールによって薄板に印加する線圧は100MPaに調整した。
次に、埋め込み粒子が埋め込まれた金属薄板を、N−メチルピロリドン中に浸漬させ、液温を80℃程度に調整しつつ超音波振動を印加することにより、PMMAからなる埋め込み粒子を溶解させて除去した。このようにして貫通孔を形成した。その後、金属薄板を水洗して乾燥することにより、実施例2の多孔板吸音体を製造した。
【0034】
「比較例1」
Cuからなる厚み0.1mmの金属薄板を用意した。この金属薄板上にフォトレジスト層を形成し、フォトレジスト層上にマスクを載置し、露光及び現像処理を行ってフォトレジスト層をパターニングした。その後、ウエットエッチング法により金属薄板をエッチングすることにより、貫通孔を形成した。その後、フォトレジスト層を除去することにより、比較例1の多孔板吸音体を製造した。
【0035】
「比較例2」
PETからなる厚み0.1mmの樹脂薄板を用意した。この樹脂薄板上に針状の金型を配置し、プレス機によって金型を樹脂薄板に押し当てることにより貫通孔を形成した。その後、プレスの際に付着した油分を取り除くことにより、比較例2の多孔板吸音体を製造した。
【0036】
「比較例3」
Alからなる厚み0.1mmの金属薄板を用意した。この金属薄板に対して、レーザー加工機によるレーザー加工を行うことにより貫通孔を形成した。このようにして、比較例3の多孔板吸音体を製造した。
【0037】
実施例1〜2及び比較例1〜3の多孔板吸音体について、貫通孔の平均孔径、最大孔径、最小孔径、平均ピッチ及び開口率を計測した。また、実施例1〜2及び比較例1〜3の直径100mmの多孔板吸音体について、背後空気層の厚みを50mmとした場合の垂直入射吸音特性を測定した。
これらの結果を表1及び図7〜図9に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、実施例1及び2の多孔板吸音体は、貫通孔の最大孔径と最小孔径との差が200μmもあり、一方、比較例1〜3では最大孔径と最小孔径との差が10〜40μm程度であり、実施例1及び2の貫通孔は孔径のバラツキが大きいことが判る。それにもかかわらず、実施例1及び2については比較例1〜3とほぼ同等の吸音特性を示していることが判る。
【0040】
すなわち、表1に示すように、実施例1及び2と比較例1〜3の1kHzにおける吸音率は、いずれも91〜92%程度である。また、図7〜図9に示すように、実施例1及び2並びに比較例2における吸音率の周波数依存性は、ほぼ同等である。以上のことから、実施例1及び2と比較例1〜3とは、ほぼ同等の吸音特性を有していることが判る。
【0041】
また、実施例1及び2においては、薄板、埋め込み粒子及び溶解液を準備する他は、特に特別な材料を用いることなく、また、双ロールプレス機等の汎用的な設備を用意する他は特別な装置を用意することもなく、比較例1〜3の多孔板吸音体と同等の吸音特性を有する多孔板吸音体が得られている。
【0042】
これに対して、比較例1では、露光装置、エッチング装置等の高価な設備が必要であり、比較例2では高価な金型が必要であった。また、比較例1では製造工程が複雑であった。
また、比較例3では、レーザー光の照射によって貫通孔を1つずつ形成する必要があり、多孔板吸音体の製造に膨大な時間を要した。
このように比較例1〜3では、実施例1及び2に比べて、製造に要する時間が長く、コストも極めて高いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明の実施形態である多孔板吸音体の一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の多孔板吸音体の部分断面模式図である。
【図3】図3は、図1の多孔板吸音体を備えた吸音パネル一例を示す断面模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態である多孔板吸音体の製造方法の全工程を説明する工程図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態である多孔板吸音体の製造方法を説明する工程図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態である多孔板吸音体の製造方法を説明する工程図である。
【図7】図7は、実施例1の多孔板吸音体の垂直入射吸音率を周波数との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例2の多孔板吸音体の垂直入射吸音率を周波数との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、比較例2の多孔板吸音体の垂直入射吸音率を周波数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1…多孔板吸音体、2…薄板、2a…一面(表面)、3…貫通孔、4…埋め込み粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板の表面に、貫通孔形成用の埋め込み粒子を分散させつつ付着する分散付着工程と、前記埋め込み粒子を前記薄板に埋め込む埋込み工程と、前記埋め込み粒子を膨潤または溶解して除去する溶解工程とを順次行い、前記薄板に平均孔径が100μm以上200μm以下の複数の貫通孔を設けることを特徴とする多孔板吸音体の製造方法。
【請求項2】
前記分散付着工程において、前記埋め込み粒子を分散液に分散してスラリーとし、前記スラリーを前記薄板の表面に噴霧することにより、前記埋め込み粒子を前記薄板表面に分散させることを特徴とする請求項1に記載の多孔板吸音体の製造方法。
【請求項3】
前記薄板の厚みが50〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔板吸音体の製造方法。
【請求項4】
前記薄板が金属薄板であり、前記埋め込み粒子が樹脂からなる粒子であり、前記埋め込み粒子を溶解する溶解液が前記樹脂を膨潤または溶解可能な有機溶剤を含む溶解液であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の多孔板吸音体の製造方法。
【請求項5】
前記薄板が樹脂薄板であり、前記埋め込み粒子が金属からなる粒子であり、前記埋め込み粒子を溶解する溶解液が前記金属を溶解可能な酸または金属塩を含む溶解液であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の多孔板吸音体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−233794(P2008−233794A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77045(P2007−77045)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】