説明

多層ポリオレフィン系熱収縮フィルム

【課題】 本発明は、低温収縮性、耐熱性、製膜安定性、ホットスリップ性、ヒートシール性及び省資源性に優れていると共に、廃棄処理時に燃焼させても有害ガスを発生しない熱収縮フィルムを提供する。
【解決手段】 密度0.91〜0.93g/cm3のポリエチレン系樹脂30〜70重量%と、DSCを用いた示差走査熱量分析において、溶融開始温度が30℃以上で溶融終了温度が150℃以下で且つ上記溶融開始温度から上記溶融ピーク温度よりも20℃低い温度までの間に吸収された熱量の総量が上記溶融開始温度から上記溶融終了温度までの間に吸収された全熱量の40〜60%であるポリプロピレン系樹脂30〜70重量%とからなる中間層の両面に、密度0.91〜0.93g/cm3のポリエチレン系樹脂からなる表面層を積層一体化させてなることを特徴とする多層ポリオレフィン系熱収縮フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業包装用に用いられる多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムに関する。更に詳しくは、低温収縮性、耐熱性、製膜安定性、ホットスリップ性、ヒートシール性及び省資源性に優れていると共に、廃棄処理時に燃焼させても有毒ガスを発生しない多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱収縮性フィルムに使用される原材料としては、低温での収縮性能に優れたポリ塩化ビニル(PVC)が広く使用されてきた。しかしながら、近年PVCの燃焼時に発生するダイオキシンなどの有毒ガスによる環境への悪影響が注目され、PVCを原材料とするプラスチック製品の使用を見直す動きが活発になってきている。
【0003】
このような動きは、熱収縮性フィルムにおいても例外ではなく、PVCに代わる原材料として、ポリエチレンやポリプロピレンを使用した熱収縮性フィルムが今日広く使用されるようになった。
【0004】
しかしながら、ポリエチレンを主成分とする熱収縮性フィルムは、低温収縮性に優れているものの、耐熱性が不十分であり、収縮可能な温度範囲が極めて狭いという問題を有していた。又、ポリプロピレンを主成分とする熱収縮性フィルムは、耐熱性に優れているものの、低温収縮性が低く、高温でないと熱収縮させることができないといった問題を有していた。
【0005】
そこで、直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とし、直鎖状低密度ポリエチレンを架橋させることによって、耐熱性を付与したヒートシール可能な多層フィルムが提案されている(特許文献1)。
【0006】
しかし、上記ヒートシール可能な多層フィルムは、フィルムを構成する直鎖状低密度ポリエチレンが架橋されていることから、フィルムの製造時において、フィルム端部のトリミングや不適合品などから大量に生じるスクラップを再利用することができず、製造コストがかさみ、省資源性に劣るという問題があった。
【0007】
又、低温収縮性及び耐熱性に優れた多層熱収縮性フィルムとしては、両最外層がポリプロピレン系樹脂からなり、中間層は少なくとも1層が所定密度の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、又は該樹脂を主体とする樹脂組成物からなるポリプロピレン系積層熱収縮性フィルムが提案されている(特許文献2)。しかしながら、上記フィルムはホットスリップ性(収縮直後の滑性)及びヒートシール性が不十分であるという欠点を有していた。
【0008】
そして、ホットスリップ性に優れた多層熱収縮性フィルムとしては、密度の異なる2種類のポリエチレンからなるポリエチレン系熱収縮性フィルム層と、プロピレン系熱収縮性フィルム層とからなるポリオレフィン系熱収縮性積層フィルムが提案されている(特許文献3)。しかしながら、上記フィルムは、収縮性にやや劣り、ヒートシール性も不十分であるという欠点を有していた。
【0009】
更に、表面層が所定条件を満たした直鎖状低密度ポリエチレン及び直鎖状高密度ポリエチレンからなり、芯層が所定条件を満たした直鎖状低密度ポリエチレン及び直鎖状極低密度ポリエチレンからなるポリエチレン系多層熱収縮性フィルムが提案されている(特許文献4)。このフィルムは、低温収縮性及び耐熱性に優れているものの、製膜安定性が不十分であった。
【0010】
【特許文献1】特公平4−70987号公報
【特許文献2】特公平8−2625号公報
【特許文献3】特公平8−5172号公報
【特許文献4】特開2002−370327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、低温収縮性、耐熱性、製膜安定性、ホットスリップ性、ヒートシール性及び省資源性に優れていると共に、廃棄処理時に燃焼させても有害ガスを発生しない多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、密度0.91〜0.93g/cm3のポリエチレン系樹脂30〜70重量%及びポリプロピレン系樹脂30〜70重量%からなる中間層の両面に、密度0.91〜0.93g/cm3のポリエチレン系樹脂からなる表面層を積層一体化させてなる多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムであって、上記ポリプロピレン系樹脂は、DSC(示差走査熱量計)を用いた示差走査熱量分析において、溶融開始温度が30℃以上で溶融終了温度が150℃以下であり且つ上記溶融開始温度から溶融ピーク温度よりも20℃低い温度までの間に吸収された熱量の総量が上記溶融開始温度から上記溶融終了温度までの間に吸収された全熱量の40〜60%であることを特徴とする。
【0013】
上記多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの中間層を構成するポリエチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレンを主成分とするエチレンと他のモノマーとの共重合体などが挙げられ、単独で用いられても、二種以上が併用されてもよい。なお、上記エチレンを主成分とするエチレンと他のモノマーとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、ランダムブロック共重合体の何れであってもよい。
【0014】
又、上記多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの中間層を構成するポリエチレン系樹脂としては、エチレンを主成分とするエチレンと他のモノマーとの共重合体が好ましく、これらの中でも、直鎖状低密度ポリエチレンがより好ましい。上記直鎖状低密度ポリエチレンは、Ziegler 触媒や、メタロセン触媒などのシングルサイト系触媒を用いて、エチレンとα−オレフィンとを共重合して得られ、α−オレフィンの種類や量を調整することによって密度範囲を制御することができる。なお、上記α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0015】
そして、上記中間層を構成するポリエチレン系樹脂の密度は、低いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムのヒートシール性及びホットスリップ性が低下する一方、高いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの低温収縮性及びヒートシール性が低下するので、0.91〜0.93g/cm3に限定され、0.915〜0.925g/cm3が好ましい。なお、本発明におけるポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K7112に準拠して測定された値をいう。
【0016】
又、上記中間層を構成するポリエチレン系樹脂のメルトフローレイトは、小さいと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの厚さ精度が低下することがある一方、大きいと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜安定性が低下することがあるので、0.7〜2.0g/10分が好ましく、0.8〜1.5g/10分がより好ましい。なお、本発明におけるポリエチレン系樹脂のメルトフローレイトとは、JIS K7210に準拠して、190℃、荷重21.18Nの条件下で測定されたものをいう。
【0017】
更に、上記中間層におけるポリエチレン系樹脂の含有量は、30〜70重量%に限定され、40〜60重量%が好ましい。これは、中間層におけるポリエチレン系樹脂の含有量が少ないと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの低温収縮性が低下したり、或いは、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの透明性が低下することがあり、更に、中間層を構成するポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる樹脂組成物と、後述する表面層を構成するポリエチレン系樹脂との相溶性が低下し、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの中間層と表面層との接着性が低下して、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムのヒートシール性が低下するといった問題が生じる一方、ポリエチレン系樹脂の含有量が多いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜安定性及び耐熱性が低下するからである。
【0018】
又、上記中間層を構成するポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンを主成分とするプロピレンと他のモノマーとの共重合体などが挙げられ、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。なお、上記プロピレンを主成分とするプロピレンと他のモノマーとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、ランダムブロック共重合体の何れであってもよい。
【0019】
そして、上記中間層を構成するポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンを主成分とするプロピレンと他のモノマーとの共重合体が好ましく、これらの中でも、含有させるα−オレフィンの種類及び量によって溶融温度範囲を調節することができる点からプロピレン−α−オレフィン共重合体がより好ましい。なお、上記プロピレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテンなどが挙げられ、エチレンが好ましい。
【0020】
又、DSC(示差走査熱量計)により測定された上記ポリプロピレン系樹脂の溶融開始温度は、30℃以上に限定される。これは、ポリプロピレン系樹脂の溶融開始温度が30℃よりも低いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの耐熱性や滑性が低下するからである。
【0021】
そして、DSCにより測定された上記ポリプロピレン系樹脂の溶融終了温度は、150℃以下に限定される。これは、ポリプロピレン系樹脂の溶融開始温度が150℃よりも高いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの低温収縮性が低下するからである。
【0022】
更に、上記ポリプロピレン系樹脂としては、DSCを用いた示差走査熱量分析において、溶融開始温度から溶融ピーク温度よりも20℃低い温度までの間に吸収された熱量の総量が、溶融開始温度から溶融終了温度までの間に吸収された全熱量の40〜60%になるものに限定され、45〜55%になるものが好ましい。これは、DSCにより測定された、ポリプロピレン系樹脂の溶融開始温度から溶融終了温度までの間に吸収された全熱量に対するポリプロピレン系樹脂の溶融開始温度から溶融ピーク温度よりも20℃低い温度までの間に吸収された熱量の総量の割合(以下、「低温吸熱量割合」という)が40%よりも低いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの低温収縮性が低下する一方、低温吸熱量割合が60%よりも高いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜安定性及び耐熱性が低下するからである。
【0023】
上記DSCによるポリプロピレン系樹脂の示差走査熱量分析は、従来公知の方法にて0〜200℃の温度範囲で行なう。なお、上記示差走査熱量分析に用いるDSCとしては、特に限定されず、例えば、セイコー電子工業社から商品名「SSC−5100」で市販されているDSCなどが挙げられる。
【0024】
そして、上述のようなDSCを用いた示差走査熱量分析により得られたポリプロピレン系樹脂の吸熱曲線において、最も強い吸熱ピークの頂点の温度を溶融ピーク温度、吸熱曲線の最も低温側の変曲点の温度を溶融開始温度、吸熱曲線の最も高温側の変曲点の温度を溶融終了温度とした。
【0025】
又、上記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイトは、小さいと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの厚さ精度が低下することがある一方、大きいと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜安定性が低下することがあるので、0.5〜6.0g/10分が好ましく、0.8〜2.0g/10分がより好ましい。なお、本発明におけるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイトとは、JIS K7210に準拠して、230℃、荷重21.18Nの条件下で測定されたものをいう。
【0026】
更に、上記中間層におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、少ないと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜安定性、耐熱性及びホットスリップ性が不十分になる一方、多いと、溶融温度の高い樹脂成分が増加し、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの低温収縮性が低下するので、30〜70重量%に限定され、40〜60重量%が好ましい。
【0027】
本発明の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、上述のような中間層の両面に表面層が積層一体化されてなる。この多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの表面層を構成するポリエチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、及び、エチレンを主成分とするエチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられ、エチレンを主成分とするエチレンと他のモノマーとの共重合体が好ましく、なかでも、直鎖状低密度ポリエチレンがより好ましい。なお、これらのポリエチレン系樹脂は単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
更に、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの中間層の両面に積層一体化される両表面層を構成するポリエチレン系樹脂の組成は、それぞれ異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0029】
上記表面層を構成するポリエチレン系樹脂の密度は、低いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜安定性及びヒートシール性が低下する一方、高いと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの低温収縮性及びヒートシール性が低下するので、0.91〜0.93g/cm3に限定され、0.915〜0.925g/cm3が好ましい。
【0030】
そして、上記表面層を構成するポリエチレン系樹脂のメルトフローレイトは、小さいと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの厚さ精度が低下することがある一方、大きいと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜安定性が低下することがあるので、0.5〜3.0g/10分が好ましく、0.8〜1.5g/10分がより好ましい。
【0031】
又、本発明の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムには、その物性を損ねない範囲内で、滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶造核剤などの添加剤を添加してもよい。
【0032】
更に、本発明の効果を損ねない範囲内であれば、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの表面層上に、接着層、着色層、印刷層などの層を積層一体化させてもよい。
【0033】
そして、上記多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、上述のように、中間層の両面に表面層がそれぞれ積層一体化されてなり、中間層及び表面層の厚さや、中間層と表面層との厚さ比は、特に限定されないが、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの機械的強度や作業性などの点から、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの全体厚さは、5〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0034】
又、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの中間層と表面層の厚さ比(中間層の厚さ/表面層の厚さ)は、小さいと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜安定性及び耐熱性が不十分になることがある一方、大きいと、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの低温収縮性が低下することがあるので、3〜8が好ましく、3.5〜6がより好ましい。なお、中間層の両面に積層一体化されている両表面層の厚さは、同じであることが好ましいが、必ずしも同一でなくてもよく、両表面層の厚さが異なっている場合は、中間層と表面層の厚さ比は、薄いほうの表面層の厚さを用いて算出する。
【0035】
次に、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜方法を説明する。多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製膜法としては、特に限定されず、例えば、多層Tダイキャスト法や多層ダイスを用いた水冷インフレーション法などの公知の製膜法によって未延伸の多層ポリオレフィン系フィルムを製膜した後、この未延伸の多層ポリオレフィン系フィルムをロ−ル1軸延伸、テンター2軸延伸、チューブラー2軸延伸などの延伸法により延伸させて多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを製膜する方法が挙げられる。なお、上記未延伸の多層ポリオレフィン系フィルムの厚さは200〜500μmであることが好ましい。又、上記未延伸の多層ポリオレフィン系フィルムを延伸する際は、延伸速度10〜100m/分、延伸温度50〜120℃の条件下にて、多層ポリオレフィン系フィルムを縦横各2〜10倍に延伸するのが好ましい。なお、上記延伸温度とは延伸する直前の多層ポリオレフィン系フィルムの温度のことをいう。
【0036】
そして、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを用いた被包装体の包装方法としては、特に限定されず、例えば、商品などの被包装体を多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムによって多少のゆとりをもって包装してなる熱収縮性包装体をL型シール包装機に供給し、この熱収縮性包装体を130〜160℃に加熱することによって、熱収縮性包装体の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを熱収縮させ、フィルムを被包装体の形状にぴったりと沿って密着させて、被包装体を多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムにより包装してなる熱収縮包装体を得る方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、上述のような構成をとることから、ポリエチレン系樹脂の特長である低温収縮性を有しており、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを用いて被包装体を包装する際の熱収縮温度が比較的低温であっても、未収縮部が生じることがなく、緊迫性に優れた熱収縮包装体を得ることができる。従って、上記多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは高温条件下では変質してしまうプラスチック成形品、生肉、冷凍食品などの商品の包装に好適に用いられる。
【0038】
又、本発明の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムには、上述のように、フィルムの中間層にポリプロピレン系樹脂が含有されていることから、ポリプロピレン系樹脂の特長である製膜安定性及び耐熱性が付与されている。上記多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、製膜安定性が付与されることによって、製造されるフィルムの厚さ精度が向上されているので、厚さムラを生じることがない。更に、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、耐熱性が付与されることによって、フィルムを熱収縮させるのに適した温度範囲が広くなっていることから、包装機内の温度を厳密に管理しなくても、被包装体の形状にぴったり沿って密着させて包装することができると共に、熱収縮性包装体を高温で加熱することで熱収縮にかかる時間を短縮させて行なう高速包装を実施した場合においても、得られる熱収縮包装体の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの表面に溶融破れを生じることがほとんどない。
【0039】
このように、本発明の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、厚さ精度が良好で、熱収縮適正温度の範囲が広く、高速包装にも適していることから、包装機適性に優れている。従って、本発明の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムによれば、外観性に優れた熱収縮包装体を生産性良く得ることができる。
【0040】
又、上記多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、中間層及び表面層を構成するポリエチレン系樹脂の密度が同じ或いは密度差が小さいので、中間層と表面層とが層間剥離することがなく、得られる熱収縮包装体の表面にピンホールが生じないので、ヒートシール性に優れている。更に、上記多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、機械的強度及びホットスリップ性にも優れていることから、熱収縮包装体を移送する際に、熱収縮包装体の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの表面に傷つきや破れを生じてしまうことがほとんどない。
【0041】
更に、本発明の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、その中間層及び表面層を構成する樹脂成分を架橋させる必要がなく、中間層及び表面層を架橋しないことによって、フィルムの製膜時に、不適合品やフィルム端部のトリミングなどから生じるスクラップを再生利用することができ、省資源性に優れている。更に、上記多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムは、フィルムを構成する樹脂成分にポリ塩化ビニルを含有させなくても上述の如き優れた物性を有しているので、廃棄処理の際に燃焼させてもダイオキシンなどの有害ガスの発生を抑制することができ、環境衛生にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
三機の押出機の先端が円形の多層ダイスに接続されてなる製膜装置を用意し、この製膜装置の二機の押出機を表面層用とし、残余一機の押出機を中間層用として、中間層用の押出機にポリエチレン系樹脂である直鎖状低密度ポリエチレンA(DOW社製 商品名「2045G」、密度:0.920g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)50重量部及びポリプロピレン系樹脂であるプロピレン−エチレン共重合体(DOW社製 商品名「VERSIFY2300」、プロピレン含有量:15重量%、メルトフローレイト:2.0g/10分)50重量部を供給する一方、両表面層用の押出機のそれぞれに直鎖状低密度ポリエチレンA(DOW社製 商品名「2045G」、密度:0.920g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)を供給し、水冷インフレーション法により、直鎖状低密度ポリエチレン及びプロピレン−エチレン共重合体からなる中間層の両面に直鎖状低密度ポリエチレンからなる表面層が積層一体化された、厚さ375μmの多層ポリオレフィン系フィルムを作製した。
【0044】
なお、上記プロピレン−エチレン共重合体のDSCにより測定された溶融開始温度は35℃、溶融ピーク温度は120℃、溶融終了温度は145℃であった。又、DSCにより測定された、上記プロピレン−エチレン共重合体の35℃〜100℃の間に吸収された吸熱量割合(低温吸熱量割合)は55%であった。
【0045】
そして、得られた多層ポリオレフィン系フィルムをチューブラー2軸延伸装置に供給し、縦横方向にそれぞれ5倍に延伸して、全体厚さ15μm、両表面層の厚さが同一で且つ中間層と表面層との厚さ比(中間層の厚さ/表面層の厚さ)が4の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを得た。
【0046】
(比較例1)
中間層を構成する樹脂材料として、直鎖状低密度ポリエチレンA(DOW社製 商品名「2045G」、密度:0.920g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様の要領で、全体厚さ15μm、両表面層の厚さが同一で且つ中間層と表面層との厚さ比が4の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを得た。
【0047】
(比較例2)
中間層を構成する樹脂材料として、プロピレン−エチレン共重合体(DOW社製 商品名「VERSIFY2300」、メルトフローレイト:2.0g/10分)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様の要領で、全体厚さ15μm、両表面層の厚さが同一で且つ中間層と表面層との厚さ比が4の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを得た。
【0048】
(比較例3)
中間層を構成するポリエチレン系樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレンA50重量部の代わりに直鎖状低密度ポリエチレンB(DOW社製 商品名「A4203」、密度:0.905g/cm3、メルトフローレイト:0.8g/10分)50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の要領で、全体厚さ15μm、両表面層の厚さが同一で且つ中間層と表面層との厚さ比が4の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを得た。
【0049】
(比較例4)
中間層を構成するポリエチレン系樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレンA50重量部の代わりに直鎖状中密度ポリエチレンC(密度:0.940g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の要領で、全体厚さ15μm、両表面層の厚さが同一で且つ中間層と表面層との厚さ比が4の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを得た。
【0050】
上記実施例及び比較例で得られた多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムについて、熱収縮性、製膜安定性、ヒートシール性、ホットスリップ性及び包装性について下記に示す要領で評価し、その結果を表1に示した。なお、比較例1においては、製膜安定性が不良で、均質な多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを得ることができなかったため、ヒートシール性、ホットスリップ性及び包装性の評価を行なうことができなかった。又、表1中の「MFR」とは、樹脂のメルトフローレイトを示す。
【0051】
(熱収縮性)
多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムにおける100℃、110℃及び120℃での縦方向及び横方向の熱収縮率(%)を、JIS Z1709「収縮包装用フィルム」に準拠して測定し、この熱収縮率を多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの熱収縮性の評価の指標とした。なお、縦方向とは、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの製造時における押出方向をいい、横方向とは、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの表面に沿い且つ押出方向に直交する方向をいう。
【0052】
(製膜安定性)
製膜安定性については、押出機を稼動させてから安定した多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムが得られるまでの操作が容易であること、製膜バブルの揺れによる多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの変形がほとんど見られないこと、延伸後の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムの厚さ精度が良好であることの3条件を満たすものを○、上記3条件のうち何れか1つの条件でも満たさなかったものを×と評価した。
【0053】
(ヒートシール性)
L型シール包装機(ハナガタ社製 商品名「HP−10」)を用いて、直方体形状の木箱(縦130mm×横170mm×高さ50mm)10個をそれぞれ全体的に、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムによって140℃にて連続的に熱収縮包装した。
【0054】
次に、各木箱を包装している多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムをそれぞれ目視観察し、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムに生じている最も大きな孔(ピンホール)の孔径を測定した。なお、ピンホールの孔径とは、ピンホールを包囲しうる真円の最小径とした。
【0055】
そして、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムにピンホールがないものを5点、ピンホールの孔径が2mm未満のものを3点、ピンホールの孔径が2mm以上で且つ5mm未満のものを1点、ピンホールの孔径が5mm以上のものを0点として50点満点で採点し、下記基準によりヒートシール性を評価した。
○:合計点が40点以上であった。
△:合計点が35点以上40点未満であった。
×:合計点が35点未満であった。
【0056】
(ホットスリップ性)
L型シール包装機(ハナガタ社製 商品名「HP−10」)を用いて、直方体形状の木箱(縦130mm×横170mm×高さ50mm)2個をそれぞれ全体的に、多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムによって140℃にて連続的に熱収縮包装した。次に、熱収縮包装された直後の2個の木箱を互いに擦り合わせ、その際の滑性状況を官能評価し、滑性が良好であったものを○、滑性が不良であったものを×とした。
【0057】
(包装性)
L型シール包装機(ハナガタ社製 商品名「HP−10」)を用いて、このL型シール包装機のトンネル温度を10℃刻みで140℃から160℃まで変化させ、各温度において、木箱(縦140mm×横170mm×高さ50mm)を1個ずつ熱収縮包装した。
【0058】
次に、各木箱を包装している多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムを目視観察して、下記基準に基づいて包装性を評価した。
○:収縮不足や加熱溶融破れなどは認められず、仕上がり状態は良好であった。
△:収縮不足は若干認められたが、実用面での支障はなかった。
×:収縮不足や加熱溶融破れなどが認められ、仕上がり状態が悪かった。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度0.91〜0.93g/cm3のポリエチレン系樹脂30〜70重量%及びポリプロピレン系樹脂30〜70重量%からなる中間層の両面に、密度0.91〜0.93g/cm3のポリエチレン系樹脂からなる表面層を積層一体化させてなる多層ポリオレフィン系熱収縮フィルムであって、上記ポリプロピレン系樹脂は、DSC(示差走査熱量計)を用いた示差走査熱量分析において、溶融開始温度が30℃以上で溶融終了温度が150℃以下であり且つ上記溶融開始温度から溶融ピーク温度よりも20℃低い温度までの間に吸収された熱量の総量が上記溶融開始温度から上記溶融終了温度までの間に吸収された全熱量の40〜60%であることを特徴とする多層ポリオレフィン系熱収縮フィルム。
【請求項2】
中間層を構成するポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルム。
【請求項3】
表面層を構成するポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層ポリオレフィン系熱収縮フィルム。

【公開番号】特開2008−36844(P2008−36844A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210211(P2006−210211)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】