説明

多層離型フィルム

【課題】 本発明は、離型性及び対形状追従性に優れ、オーバーレイ端部からの接着剤の浸み出しを防止すると共に、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子を汚染することのない多層離型フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の多層離型フィルムは、中間層の両面に表面層が積層一体化されてなる多層離型フィルムであって、上記中間層が、沸騰ヘプタン可溶性のアタクチックポリプロピレン10重量%以上及びアイソタクチックポリプロピレンを含有し且つ融解ピーク温度が150℃以上で融解熱量が20〜100J/gであるポリプロピレン系樹脂70〜99.9重量%と、ビニル芳香族系エラストマー0.1〜30重量%とを含有する樹脂組成物からなると共に、上記表面層の一方の表面層は、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び/又は結晶性芳香族ポリエステルからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を用いてフィルム又はシート状の積層物を熱プレス接着する際に使用される多層離型フィルムに関し、詳しくは、フレキシブルプリント基板に、接着剤が塗布されたオーバーレイを熱プレス接着する際に使用される多層離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板(以下、「FPC」という)は、ポリイミドなどの断熱フィルムの片面又は両面に、銅箔を積層一体化し、この銅箔をエッチングして、電気回路を形成することによって得られる。そして、絶縁及び断熱の目的で、FPCの電気回路(銅箔)面上にオーバーレイと称される接着剤付き耐熱フィルムを熱プレス接着し、オーバーレイによって電気回路面が被覆されたFPC(以下、「FPC製品」という)として用いられるのが通常である。
【0003】
かかる熱プレス接着工程において、FPCやオーバーレイと、プレス熱板とが接着してしまうのを防ぐために、FPCやオーバーレイと、プレス熱板との間に離型フィルムを介在させている。このような離型フィルムとしては、FPC、オーバーレイ及びプレス熱板への離型性はもちろんのこと、FPCの電気回路面の凹部に対するオーバーレイの食い込み性(対形状追従性)を付与するのに必要な柔軟性、他の部品との電気接続のためにオーバーレイによって被覆されないFPC(FPC製品)の銅端子への離型性、オーバーレイ端部からの接着剤の浸み出し防止性などの特性を有するものが求められてきた。
【0004】
このため、従来、表面層に離型性、中間層に熱時流動性を持つように、2種類のフィルムを3層に積層一体化した離型フィルムが多く使用されてきた。このような離型フィルムとしては、例えば、特許文献1に、中間層がエチレンとメチルメタクリレートの共重合樹脂であり、中間層をはさむ上下層がポリプロピレン又はポリメチルペンテンであることを特徴とするプリントサーキットラミネート工程用離型多層フィルムが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許2659404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記プリントサーキットラミネート工程用離型多層フィルムは、特許文献1の実施例で開示されている、圧力2.9MPa、温度150℃で60分間に亘って熱プレスした場合において、プリントサーキットラミネート工程用離型多層フィルムの中間層からエチレンとメチルメタクリレートの共重合樹脂が溶出してしまい、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子が、エチレンとメチルメタクリレートの共重合樹脂やその分解物によって汚染されてしまうという問題が生じていた。
【0007】
又、中間層のエチレンとメチルメタクリレートの共重合樹脂が溶出してしまうことによって、プリントサーキットラミネート工程用離型多層フィルムの柔軟性が失われ、対形状追従性が不十分となるので、得られるFPC製品において、電気回路面とオーバーレイとの間に隙間が生じてしまうという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、上記のような問題点を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、離型性及び対形状追従性に優れ、オーバーレイ端部からの接着剤の浸み出しを防止すると共に、多層離型フィルムを構成する樹脂成分やその分解物が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、フレキシブルプリント基板及びフレキシブルプリント基板の銅端子を汚染してしまうようなことがない多層離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多層離型フィルムは、中間層の両面に表面層が積層一体化されてなる多層離型フィルムであって、上記中間層が、沸騰ヘプタン可溶性のアタクチックポリプロピレン10重量%以上及びアイソタクチックポリプロピレンを含有し且つ示差走査熱量計(DSC)により測定された融解ピーク温度が150℃以上で融解熱量が20〜100J/gであるポリプロピレン系樹脂70〜99.9重量%と、ビニル芳香族系エラストマー0.1〜30重量%とを含有する樹脂組成物からなると共に、上記表面層のうちの少なくとも一方の表面層は、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び/又は結晶性芳香族ポリエステルからなることを特徴とする。
【0010】
多層離型フィルムの中間層を構成するポリプロピレン系樹脂は、アイソタクチックポリプロピレンと、沸騰ヘプタン可溶性のアタクチックポリプロピレンとを含有している。上記沸騰ヘプタン可溶性のアタクチックポリプロピレンとは、アタクチックポリプロピレン1.5g及びヘプタン100gをソックスレー抽出器に供給し、マントルヒーターなどの加熱器によりソックスレー抽出器中のヘプタンを沸騰させ、ヘプタンが沸騰し始めた時点から6時間ソックスレー抽出器中で加熱還流した後、得られた沸騰ヘプタン抽出液をヘプタンの温度が下がってしまわないうちに200メッシュのステンレス製金網で濾過した際に、この金網上に残渣が残らないものをいう。
【0011】
そして、上記アタクチックポリプロピレンとは、ポリプロピレンの主鎖を構成するプロピレン成分における不斉炭素原子に側鎖として結合したメチル基の立体配置に規則性がないものをいい、ホモポリプロピレンの他に、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。なお、アタクチックポリプロピレンは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。そして、上記α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。
【0012】
又、上記アイソタクチックポリプロピレンは、ポリプロピレンの主鎖を構成するプロピレン成分における不斉炭素原子に側鎖として結合したメチル基の立体配置が全て同じである、換言すれば、ポリプロピレンの主鎖を構成している炭素−炭素結合をジクザグになるように平面上に並べると、メチル基が全て平面の片側に配列した状態となっている。このようなアイソタクチックポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンの他に、アイソタクチックなプロピレンブロックを含有する、プロピレンとα−オレフィンとのブロック共重合体であってもよい。なお、アイソタクチックポリプロピレンは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。そして、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。
【0013】
又、上記ポリプロピレン系樹脂中における沸騰ヘプタン可溶性のアタクチックポリプロピレンの含有量は、少ないと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分になるので、ポリプロピレン系樹脂全重量の10重量%以上に限定され、多すぎると、多層離型フィルムが柔軟になりすぎて、取扱いが困難になることがあるので、ポリプロピレン系樹脂全重量の12〜60重量%が好ましい。
【0014】
そして、上記ポリプロピレン系樹脂中におけるアイソタクチックポリプロピレンの含有量は、少ないと、多層離型フィルムが柔軟になりすぎて、取扱いが困難になることがある一方、多いと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分になることがあるので、ポリプロピレン系樹脂全重量の20〜90重量%が好ましく、40〜88重量%がより好ましい。
【0015】
このような沸騰ヘプタン可溶性のアタクチックポリプロピレンを10重量%以上含有するポリプロピレン系樹脂は、一般に非晶性ポリプロピレンと略称され、その市販品としては、例えば、出光石油化学社の商品名「出光TPO」、レキセン社の商品名「FPO」などが挙げられる。
【0016】
そして、上記ポリプロピレン系樹脂としては、示差走査熱量計(DSC)により測定された融解ピーク温度(以下、単に「融解ピーク温度」という)が、150℃以上のものに限定され、155〜200℃のものが好ましい。これは、ポリプロピレン系樹脂の融解ピーク温度が低いと、後述する熱プレス接着工程において、多層離型フィルムからポリプロピレン系樹脂やその分解物が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子が汚染されるといった問題が生じるからである。
【0017】
又、上記ポリプロピレン系樹脂としては、示差走査熱量計(DSC)により測定された融解熱量(以下、単に「融解熱量」という)が20〜100J/gであるものに限定され、40〜90J/gのものが好ましい。これは、ポリプロピレン系樹脂の融解熱量が、小さいと、多層離型フィルムの離型性が不十分になる一方、大きいと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分になるからである。
【0018】
なお、本発明におけるポリプロピレン系樹脂の融解ピーク温度及び融解熱量は、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠して測定された値をいう。その具体的な測定方法としては、先ず、ポリプロピレン系樹脂試料及び基準物質を示差走査熱量計(DSC)内に供給し、この示差走査熱量計(DSC)内の温度を10℃/分の速度で280℃まで昇温し、10℃/分の速度で280℃から25℃まで降温させた後、再び25℃から10℃/分の速度で昇温させることによりDSC曲線を得る。そして、このDSC曲線で検出された融解ピークのうち、ピーク面積が最も大きい融解ピーク温度をポリプロピレン系樹脂の融解ピーク温度とし、上記DSC曲線より算出されたポリプロピレン系樹脂試料の総融解熱量(J)をポリプロピレン系樹脂試料の総重量(g)で除した値をポリプロピレン系樹脂の融解熱量(J/g)とした。
【0019】
更に、本発明の多層離型フィルムの中間層を構成する樹脂組成物中におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、少ないと、多層離型フィルムの製膜安定性が低下する一方、多いと、多層離型フィルムの柔軟性が不足して、対形状追従性が不十分になるので、上記樹脂組成物中、70〜99.9重量%に限定され、75〜95重量%が好ましい。
【0020】
本発明の多層離型フィルムの中間層を構成する樹脂組成物には、多層離型フィルムの柔軟性を向上させ、対形状追従性を高める目的で、ビニル芳香族系エラストマーが含有されている。
【0021】
上記ビニル芳香族系エラストマーは、ビニル芳香族化合物(a)と共役ジエン(b)とのブロック共重合体又はランダム共重合体である。上記ビニル芳香族系エラストマーのブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物(a)と共役ジエン(b)とが、A−(B−A)m、又は、B−(A−B−A)n(Aはビニル芳香族化合物のブロックポリマー、Bは共役ジエンのブロックポリマー、m、nは自然数を表す)で表される状態で重合したものである。
【0022】
又、上記ビニル芳香族化合物(a)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレンなどが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0023】
そして、上記共役ジエン(b)としては、特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエンなどが挙げられ、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0024】
なお、上記ビニル芳香族系エラストマーとしては、耐熱性及び耐候性を改良するために水素添加(水添)されて、ビニル芳香族系エラストマーの共役ジエンのブロックポリマー部位の二重結合が飽和されたものであることが好ましい。
【0025】
又、本発明の多層離型フィルムの中間層を構成する樹脂組成物中におけるビニル芳香族系エラストマーの含有量は、少ないと、多層離型フィルムの柔軟性が不足して、対形状追従性が不十分になる一方、多いと、多層離型フィルムの製膜安定性が低下するので、上記樹脂組成物全重量の0.1〜30重量%に限定され、5〜25重量%が好ましい。
【0026】
なお、本発明の多層離型フィルムの中間層を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、ポリプロピレン系樹脂及びビニル芳香族系エラストマー以外の樹脂成分や添加剤が含有されてもよい。
【0027】
本発明の多層離型フィルムはその中間層の両面に表面層が積層一体化されてなる。上記両表面層のうちの少なくとも一方の表面層は、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び/又は結晶性芳香族ポリエステルからなり、両表面層が結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び/又は結晶性芳香族ポリエステルからなるのが好ましい。なお、両表面層が結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び/又は結晶性芳香族ポリエステルからなる場合において、両表面層を構成する、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び/又は結晶性芳香族ポリエステルは、同一でなくてもよいが、同一であることが好ましい。
【0028】
上記結晶性芳香族ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、低分子量脂肪族ジオールとを重合して得られる重合体である。上記芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸などが挙げられ、又、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、オルトフタル酸ジメチル、ナフタリンジカルボン酸ジメチル、パラフェニレンジカルボン酸ジメチルなどが挙げられる。芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体は、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0029】
又、低分子量脂肪族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、これらは単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
このような結晶性芳香族ポリエステルとしては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられ、これらの中でも、結晶性及び耐熱性に優れたポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0031】
そして、上記結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体としては、例えば、芳香族ジカルボン酸若しくはそのエステル形成性誘導体を低分子量脂肪族ジオールと高分子量ジオールでエステル化し、得られたエステル化合物を重縮合して得られるブロック共重合体、芳香族ジカルボン酸或いはそのエステル形成性誘導体を低分子量脂肪族ジオールでエステル化し、得られたエステル化合物にカプロラクトンを添加して開環重合することにより得られるブロック共重合体などが挙げられる。
【0032】
更に、上記高分子量ジオールとしては、特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどが挙げられ、これらは単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体としては、特に限定されないが、結晶性及び耐熱性に優れたポリブチレンテレフタレートをブロック構成単位として含有していることが好ましく、具体的には、ポリブチレンテレフタレート及びポリテトラメチレングリコールをブロック構成単位として有するブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート及びポリカプロラクトンをブロック構成単位として有するブロック共重合体が好ましい。
【0034】
上記表面層を構成する、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び結晶性芳香族ポリエステルは、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよいが、耐熱性に優れた結晶性芳香族ポリエステルと、離型性及び柔軟性に優れた、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体とを混合してなる結晶性芳香族ポリエステル混合物を用いるのが好ましい。
【0035】
このように、表面層を結晶性芳香族ポリエステル混合物から構成することによって、表面層は、耐熱性、離型性及び柔軟性に優れたものとなり、後述する熱プレス接着工程において、多層離型フィルムから結晶性芳香族ポリエステル混合物やその分解物が溶出したり、多層離型フィルムをきれいに剥離することができなくなって、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPC製品の銅端子を汚染してしまうことや、多層離型フィルムの柔軟性が不足して対形状追従性が不十分になることがない。
【0036】
上記結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び結晶性芳香族ポリエステルのガラス転移温度は、低いと、多層離型フィルムの離型性及び取扱い性が低下することがある一方、高いと、多層離型フィルムの離型性が低下し、或いは、多層離型フィルムの柔軟性が不足して対形状追従性が不十分になることがあるので、0〜100℃であることが好ましく、30〜70℃がより好ましい。なお、本発明においてガラス転移温度とは、動的粘弾性測定で得られる損失正接(tanδ)の極大のうちミクロブラウン運動に起因する極大が現れる温度を意味する。上記ガラス転移温度は、粘弾性スペクトロメータなどを用いた従来公知の方法によって測定することができる。又、結晶性芳香族ポリエステルと、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体とを併用している場合は、結晶性芳香族ポリエステル混合物全体のガラス転移温度は、0〜100℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。
【0037】
そして、表面層には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、酸化防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、顔料や染料といった着色剤、帯電防止剤などの添加剤や、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルクなどの無機充填材を含有させてもよい。
【0038】
本発明の多層離型フィルムの厚さは、特に限定されないが、薄いと、多層離型フィルムの強度が不足することがある一方、厚いと、後述する熱プレス接着工程における熱伝導性が不足することがあるので、50〜300μmであることが好ましい。
【0039】
又、多層離型フィルムの表面層と中間層の厚さ比(中間層の厚さ/表面層の厚さ)は、特に限定されないが、小さいと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分となることがある一方、大きいと、多層離型フィルムの耐熱性及び離型性が不十分となることがあるので、1〜19であることが好ましい。なお、両表面層の厚さは、同一であることが好ましいが、必ずしも同一でなくてもよい。又、両表面層の厚さが異なる場合、それぞれの表面層の厚さと中間層の厚さ比が上記範囲内であることが好ましい。
【0040】
本発明の多層離型フィルムの製膜法としては、特に限定されないが、共押出ラミネート法、押出ラミネート法、ドライラミネート法などが挙げられ、共押出ラミネート法が好ましい。
【0041】
次に、本発明の多層離型フィルムを用いてFPCとオーバーレイとを熱プレス接着し、FPC製品を製造する方法について説明するが、本発明の多層離型フィルムの使用方法は、これらの方法に限定されるものではない。
【0042】
先ず、断熱フィルムの片面に電気回路が設けられてなるFPCとオーバーレイとを熱プレス接着する方法としては、例えば、FPCの電気回路面上に、オーバーレイをその接着剤塗布面がFPCの電気回路面に対向するように積層させてなる積層体を用意し、この積層体の両面に多層離型フィルムを積層させて熱プレス用積層体を作製する。
【0043】
続いて、上記熱プレス用積層体を多段型プレス機に供給し、圧力2〜6MPa、温度150〜180℃で熱プレス用積層体の両面を熱プレス用積層体の厚さ方向に30〜60分間に亘って加圧し、その後25〜50℃になるまで加圧したまま冷却する。しかる後、熱プレス用積層体を多段型プレス機から取り出し、熱プレス用積層体から多層離型フィルムを剥離除去することにより、FPC製品を製造することができる。
【0044】
又、断熱フィルムの両面に電気回路が設けられたFPCの両面にオーバーレイを熱プレス接着する方法としては、例えば、FPCの両面に、オーバーレイをその接着剤塗布面がFPCと対向した状態になるようにして積層して積層体を用意し、この積層体の両面に多層離型フィルムを積層させて熱プレス用積層体を作製する。そして、上述した片面に電気回路が設けられたFPCとオーバーレイとの熱プレス接着工程と同様の要領で、FPC製品を製造する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の多層離型フィルムは、上述のような構成をとることから、離型性に優れている。従って、上記多層離型フィルムによれば、FPCとオーバーレイとを熱プレス接着させた後に、プレス熱板、FPC製品及びその銅端子から多層離型フィルムを除去する際に、プレス熱板、FPC製品及びその銅端子に多層離型フィルムが付着したまま剥離できずにこれらを汚染してしまうようなことがないので、FPC製品の製造効率を向上させることができる。
【0046】
又、上記多層離型フィルムは、優れた耐熱性を有しているので、FPCとオーバーレイとを熱プレス接着する際に、中間層を構成する樹脂組成物やその分解物が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子を汚染してしまうこともない。
【0047】
更に、上記多層離型フィルムは、上述のような構成をとるので、FPCとオーバーレイとを熱プレス接着する際に、適度な柔軟性を発現し、オーバーレイに塗布された接着剤が溶融して流動する前に変形して、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子の形状に沿って密着し、オーバーレイの端部から接着剤を浸み出させてしまうことがない。よって、本発明の多層離型フィルムによれば、オーバーレイに塗布された接着剤が浸み出してFPCの銅端子を汚染してしまうことがなく、電気接続不良が発生しにくい優れた品質のFPC製品を得ることができる。
【0048】
又、本発明の多層離型フィルムは、上述のように、FPCとオーバーレイとを熱プレス接着する際に、適度な柔軟性を発現するので、対形状追従性に優れている。従って、上記多層離型フィルムによれば、オーバーレイがFPCの電気回路面の凹部にしっかりと食い込み、FPCとオーバーレイとの対向面間に隙間がないFPC製品を得ることができる。
【0049】
そして、本発明の多層離型フィルムによれば、上述のような構成をとるので、FPCとオーバーレイの対向面間に気泡が残存することがない。従って、本発明の多層離型フィルムによって製造されたFPC製品は、FPC製品内に残存した空気によって電気回路が経時的に酸化され、電気回路の寿命が短くなってしまうことがないので、長寿命のFPC製品として、電子機器などの電気回路基板に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
1つの共押出ダイに接続具を介して3機の押出機が接続された共押出製膜装置を用意し、1機の押出機に中間層用の樹脂成分としてポリプロピレン系樹脂(出光石油化学社製 商品名「出光TPO E2900H」、沸騰ヘプタン可溶性のアタクチックポリプロピレン含有量:18重量%、アイソタクチックポリプロピレン含有量:82重量%、融解ピーク温度:160℃、融解熱量:80J/g)90重量%及びスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水添物(旭化成ケミカルズ社製 商品名「タフテック」、スチレン含有量:12重量%)10重量%からなる樹脂組成物を供給し、残り2機の押出機の双方に表面層用の樹脂として、ポリブチレンテレフタレートをブロック構成単位として含有するブロック共重合体(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 商品名「ノバデュラン5505S」、ガラス転移温度:57℃)を供給し、それぞれの押出機内にて300℃で溶融混練した後、3機の押出機から共押出製膜することにより、厚さ120μmの中間層の両面に、厚さ20μmの表面層が積層一体化された総厚さ160μmの多層離型フィルムを得た。なお、上記スチレン−ブタジエンブロック共重合体は、B−(A−B−A)n(Aはスチレンのブロックポリマー、Bは1,3−ブタジエンのブロックポリマーを表す)の式で表されるブロック共重合体である。
【0052】
(比較例1)
1つの共押出ダイに接続具を介して3機の押出機が接続された共押出製膜装置を用意し、1機の押出機に中間層用の樹脂成分としてエチレン−メチルメタクリレート共重合体(住友化学社製 商品名「アクリフトWH102」)を供給し、残り2機の押出機の双方に表面層用の樹脂成分としてポリプロピレン系樹脂(モンテル・エスディーケー・サンライズ社製 商品名「ジェイアロマーPC630A」)を供給して、それぞれの押出機内にて溶融混練した後、3機の押出機から共押出製膜することにより、厚さ60μmの中間層の両面に厚さ50μmの表面層が積層一体化された総厚さ160μmの多層離型フィルムを得た。
【0053】
(FPC製品の製造)
次に、上記実施例及び比較例で得られた多層離型フィルムを用いて、以下のような要領でFPC製品を製造した。
【0054】
予め用意しておいた、断熱フィルムの片面に電気回路が設けられてなるFPCの電気回路面上にオーバーレイをその接着剤塗布面が対向するように積層してなる積層体の両面に、多層離型フィルムを積層し、熱プレス用積層体を作製した。
【0055】
続いて、上記熱プレス用積層体を一対のプレス熱板を備えた多段型プレス機(神藤金属工業所社製 商品名「圧縮成形機NSF−37」)に供給し、圧力4.9MPa、温度160℃で、熱プレス用積層体の両面を熱プレス用積層体の厚さ方向に45分間に亘って加圧し、その後50℃になるまで加圧したまま冷却した。そして、冷却後の熱プレス用積層体を多段型プレス機から取り出し、熱プレス用積層体から多層離型フィルムを剥離させることにより、FPC製品を得た。
【0056】
そして、プレス熱板及びFPC製品から多層離型フィルムを剥離させた際の離型性と、得られたFPC製品の対形状追従性、FPC製品のFPCとオーバーレイとの対向面間における気泡の有無、FPC製品の銅端子の汚染の有無及びFPC製品の端面からの接着剤の浸み出しについて以下に示す基準で評価し、その結果を表1に示した。
【0057】
(離型性)
上述のような熱プレス接着工程の終了後、多層離型フィルムをFPC製品及びプレス熱板から手で剥離させた際の離型性を下記基準に基づき評価した。
○:多層離型フィルムを容易に剥離させることができた。
△:多層離型フィルムを剥離させるのがやや困難であった。
×:多層離型フィルムを剥離させるのが困難であった。
【0058】
(対形状追従性)
得られたFPC製品のFPCとオーバーレイの対向面間を目視観察し、多層離型フィルムの対形状追従性を下記基準に基づいて評価した。
○:FPCの凹部にオーバーレイが隙間なく食い込んでいた。
×:FPCの凹部へのオーバーレイの食い込みが十分でなく、隙間が生じていた。
【0059】
(気泡の有無)
得られたFPC製品のFPCとオーバーレイの対向面間を目視観察し、気泡の有無を判断した。
【0060】
(FPCの銅端子の汚染の有無)
得られたFPC製品の銅端子部分を目視観察し、汚染の有無を判断した。
【0061】
(接着剤の浸み出し長さ)
得られたFPC製品のオーバーレイの両端部を目視観察し、FPC製品のオーバーレイの両端部から浸み出した接着剤の長さをそれぞれ測定し、その長さの合計値を評価の値とした。
【0062】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層の両面に表面層が積層一体化されてなる多層離型フィルムであって、上記中間層が、沸騰ヘプタン可溶性のアタクチックポリプロピレン10重量%以上及びアイソタクチックポリプロピレンを含有し且つ示差走査熱量計(DSC)により測定された融解ピーク温度が150℃以上で融解熱量が20〜100J/gであるポリプロピレン系樹脂70〜99.9重量%と、ビニル芳香族系エラストマー0.1〜30重量%とを含有する樹脂組成物からなると共に、上記表面層のうちの少なくとも一方の表面層は、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び/又は結晶性芳香族ポリエステルからなることを特徴とする多層離型フィルム。
【請求項2】
両表面層が、結晶性芳香族ポリエステルをブロック構成単位として含有するブロック共重合体及び/又は結晶性芳香族ポリエステルからなることを特徴とする請求項1に記載の多層離型フィルム。
【請求項3】
結晶性芳香族ポリエステルがポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層離型フィルム。
【請求項4】
ブロック共重合体が、ポリブチレンテレフタレートをブロック構成単位として含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層離型フィルム。

【公開番号】特開2008−49504(P2008−49504A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225804(P2006−225804)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】