説明

多層離型フィルム

【課題】 本発明は、離型性及び対形状追従性に優れ、オーバーレイ端部からの接着剤の浸み出しを防止すると共に、多層離型フィルムを構成する樹脂成分やその分解物が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子を汚染してしまうようなことがない多層離型フィルムを提供することにある。
【解決手段】 本発明の多層離型フィルムは、中間層の両面に表面層が積層一体化された多層離型フィルムであって、上記中間層は、融点が160℃以上、重量平均分子量が240,000〜650,000で且つクロス分別法により測定した各温度範囲における樹脂溶出量が所定割合であるプロピレン系樹脂50〜100重量%及びビニル芳香族系エラストマー0〜50重量%からなる樹脂組成物よりなると共に、上記表面層は、荷重たわみ温度が160〜250℃の脂環式オレフィン系樹脂からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を用いてフィルム又はシート状の積層物を熱プレス接着する際に使用される多層離型フィルムに関し、詳しくは、フレキシブルプリント基板に、接着剤が塗布されたオーバーレイを熱プレス接着する際に使用される多層離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板(以下、「FPC」という)は、ポリイミドなどの断熱フィルムの片面又は両面に、銅箔を積層一体化し、この銅箔をエッチングして、電気回路を形成することによって得られる。そして、絶縁及び断熱の目的で、FPCの電気回路(銅箔)面上にオーバーレイと称される接着剤付き耐熱フィルムを熱プレス接着し、オーバーレイによって電気回路面が被覆されたFPC(以下、「FPC製品」という)として用いられるのが通常である。
【0003】
かかる熱プレス接着工程において、FPCやオーバーレイと、プレス熱板とが接着してしまうのを防ぐために、FPCやオーバーレイと、プレス熱板との間に離型フィルムを介在させている。このような離型フィルムとしては、FPC、オーバーレイ及びプレス熱板への離型性はもちろんのこと、FPCの電気回路面の凹部に対するオーバーレイの食い込み性(対形状追従性)を付与するのに必要な柔軟性、他の部品との電気接続のためにオーバーレイによって被覆されないFPC(FPC製品)の銅端子への離型性、オーバーレイ端部からの接着剤の浸み出し防止性などの特性を有するものが求められてきた。
【0004】
このため、従来、表面層に離型性、中間層に熱時流動性を持つように、2種類のフィルムを3層に積層一体化した離型フィルムが多く使用されてきた。このような離型フィルムとしては、例えば、特許文献1に、中間層がエチレンとメチルメタクリレートの共重合樹脂であり、中間層をはさむ上下層がポリプロピレン又はポリメチルペンテンであることを特徴とするプリントサーキットラミネート工程用離型多層フィルムが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許2659404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記プリントサーキットラミネート工程用離型多層フィルムは、特許文献1の実施例で開示されている、圧力2.9MPa、温度150℃で60分間に亘って熱プレスした場合において、プリントサーキットラミネート工程用離型多層フィルムの中間層からエチレンとメチルメタクリレートの共重合樹脂が溶出してしまい、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子が、エチレンとメチルメタクリレートの共重合樹脂やその分解物によって汚染されてしまうという問題が生じていた。
【0007】
又、中間層のエチレンとメチルメタクリレートの共重合樹脂が溶出してしまうことによって、プリントサーキットラミネート工程用離型多層フィルムの柔軟性が失われ、対形状追従性が不十分となるので、得られるFPC製品において、電気回路面とオーバーレイとの間に隙間が生じてしまうという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、上記のような問題点を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、離型性及び対形状追従性に優れ、オーバーレイ端部からの接着剤の浸み出しを防止すると共に、多層離型フィルムを構成する樹脂成分やその分解物が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、フレキシブルプリント基板及びフレキシブルプリント基板の銅端子を汚染してしまうようなことがない多層離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多層離型フィルムは、中間層の両面に表面層が積層一体化された多層離型フィルムであって、上記中間層は、融点が160℃以上、重量平均分子量が240,000〜650,000で且つクロス分別法により測定した樹脂溶出量が、0℃以上で且つ10℃以下において全プロピレン系樹脂の45〜60重量%、10℃を超え且つ70℃以下において全プロピレン系樹脂の15〜22重量%、70℃を超え且つ95℃以下において全プロピレン系樹脂の3〜20重量%、95℃を超え且つ125℃以下において全プロピレン系樹脂の10〜35重量%であるプロピレン系樹脂50〜100重量%及びビニル芳香族系エラストマー0〜50重量%からなる樹脂組成物よりなると共に、上記表面層は、荷重たわみ温度が160〜250℃の脂環式オレフィン系樹脂からなることを特徴とする。
【0010】
上記中間層に用いられるプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。なお、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。
【0011】
又、上記中間層に用いられるプロピレン系樹脂の融点は、低いと、熱プレス接着の際に中間層を構成する樹脂組成物及びその分解物が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子を汚染してしまうので、160℃以上に限定され、160〜
250℃が好ましい。なお、プロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121に準拠して測定されたDSC曲線の融解ピーク温度をいい、融解ピーク温度が複数ある場合には、融解曲線の面積の最も大きいピーク温度を融点とする。
【0012】
そして、上記中間層を構成するプロピレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、低いと、熱プレス接着の際に中間層を構成する樹脂組成物及びその分解物が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子を汚染してしまう一方、高いと、多層離型フィルムの製膜安定性が低下するので、240,000〜650,000に限定され、250,000〜600,000が好ましい。なお、本発明におけるプロピレン系樹脂の重量平均分子量の測定方法は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法によって測定されたポリスチレン換算値をいう。
【0013】
本発明の多層離型フィルムの中間層を構成するプロピレン系樹脂におけるクロス分別法により測定した0℃以上で且つ10℃以下での樹脂溶出量は、少ないと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分となる一方、多いと、多層離型フィルムの離型性が不十分となるので、全プロピレン系樹脂の45〜60重量%に限定される。
【0014】
又、上記中間層を構成するプロピレン系樹脂におけるクロス分別法により測定した10℃を超え且つ70℃以下での樹脂溶出量は、少ないと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分となる一方、多いと、多層離型フィルムの離型性が不十分となるので、全プロピレン系樹脂の15〜22重量%に限定される。
【0015】
そして、上記中間層を構成するプロピレン系樹脂におけるクロス分別法により測定した70℃を超え且つ95℃以下での樹脂溶出量は、少ないと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分となる一方、多いと、多層離型フィルムの機械的強度が低下するので、全プロピレン系樹脂の3〜20重量%に限定される。
【0016】
更に、上記中間層を構成するプロピレン系樹脂におけるクロス分別法により測定した95℃を超え且つ125℃以下での樹脂溶出量は、少ないと、多層離型フィルムの機械的強度が低下する一方、多いと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分となるので、全プロピレン系樹脂の10〜35重量%に限定される。
【0017】
ここで、本発明においてクロス分別法は下記の要領で行なわれる。先ず、プロピレン系樹脂をプロピレン系樹脂が完全に溶解する温度のo−ジクロロベンゼンに溶解し、このプロピレン系樹脂を溶解させた溶液を一定速度で0℃まで冷却して予め用意しておいた不活性担体の表面に薄いポリマー層を結晶性の高い順及び分子量の大きい順に生成させる。次に、温度を連続的又は段階的に昇温し、順次溶出した成分の濃度を検出して組成分布(結晶性分布)を測定することにより行われる。これを温度上昇溶離分別(TREF=Temperature Rising Elution Fractionation)という。
【0018】
この温度上昇溶離分別と共に、上記順次溶出した成分について、高温型GPCにより重量平均分子量及び分子量分布を測定し、これに基づいて各温度範囲での樹脂の溶出量を算出する。本発明では、例えば、温度上昇溶離分別部分と高温GPC(SEC=Size Exclusion Chromatograph)部分とをシステムとして備えている、三菱油化社から商品名「CFC−T150A型」で販売されているクロス分別クロマトグラフ装置を用いることができる。
【0019】
なお、上述のような条件を満たすプロピレン系樹脂は、例えば、トクヤマ社から商品名「PER」で、Basel社から商品名「キャタロイ」で市販されている。
【0020】
ここで、プロピレン系樹脂は、例えば、プロピレンモノマーをチタン系触媒の存在下にてパイプ中に流して短時間で重合させることによって製造される。この際、重合時間を変化させることによって、プロピレン系樹脂のブロック鎖長を変化させることができ、各温度範囲における樹脂溶出量を調整することができる。
【0021】
又、溶出温度の低い、即ち結晶性の低いプロピレン系樹脂を得るためには、プロピレンモノマーを触媒存在下で重合させる際に、エチレンモノマーなどの添加を多くし、より結晶性の低い樹脂を得るように制御すればよい。なお、重合により得られた樹脂をポリマーブレンドすることにより、各温度範囲における樹脂溶出量の割合と、重量平均分子量とを適宜必要な構成に調整することもできる。
【0022】
そして、本発明の多層離型フィルムの中間層を構成する樹脂組成物中におけるプロピレン系樹脂の含有量は、少ないと、製膜安定性が不十分となるので、50〜100重量%に限定され、70〜100重量%が好ましい。
【0023】
本発明の多層離型フィルムの中間層を構成する樹脂組成物には、多層離型フィルムの柔軟性を向上させ、対形状追従性を高める目的で、ビニル芳香族系エラストマーが含有されていてもよい。
【0024】
上記ビニル芳香族系エラストマーは、ビニル芳香族化合物(a)と共役ジエン(b)とのブロック共重合体又はランダム共重合体である。上記ビニル芳香族系エラストマーのブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物(a)と共役ジエン(b)とが、A−(B−A)m、又は、B−(A−B−A)n(Aはビニル芳香族化合物のブロックポリマー、Bは共役ジエンのブロックポリマー、m、nは自然数を表す)で表される状態で重合したものである。
【0025】
又、上記ビニル芳香族化合物(a)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレンなどが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0026】
そして、上記共役ジエン(b)としては、特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエンなどが挙げられ、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0027】
なお、上記ビニル芳香族系エラストマーとしては、耐熱性及び耐候性を改良するために水素添加(水添)されて、ビニル芳香族系エラストマーの共役ジエンのブロックポリマー部位の二重結合が飽和されたものであることが好ましい。
【0028】
又、本発明の多層離型フィルムの中間層を構成する樹脂組成物中におけるビニル芳香族系エラストマーの含有量は、多いと、多層離型フィルムの製膜安定性が低下するので、0〜50重量%に限定され、0〜30重量%が好ましい。
【0029】
なお、本発明の多層離型フィルムの中間層を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、プロピレン系樹脂及びビニル芳香族系エラストマー以外の樹脂成分や添加剤が含有されてもよい。
【0030】
本発明の多層離型フィルムは、その中間層の両面に脂環式オレフィン系樹脂からなる表面層が積層一体化されてなる。なお、両表面層を構成する脂環式オレフィン系樹脂は、同一でなくてもよいが、同一であることが好ましい。
【0031】
ここで、上記脂環式オレフィン系樹脂とは、主鎖或いは側鎖に脂環式炭化水素構造を有する環状オレフィン系樹脂をいい、このような脂環式オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンの開環重合体又は開環共重合体、環状オレフィンの付加重合体又は付加共重合体、環状オレフィンと、これと共重合可能なモノマーとの付加重合体が挙げられる。
【0032】
上記環状オレフィンは、環外又は環内に任意の数の炭素炭素二重結合を有する脂環式炭化水素をいい、具体的には、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体;ジシクロペンタジエンやジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体;テトラシクロドデセンなどの四環体;トリシクロペンタジエンなどの五環体;テトラシクロペンタジエンなどの七環体;これらのアルキル置換体(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルケニル置換体(例えば、ビニル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体など)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル、ナフチル置換体など)などのノルボルネン系モノマー、シクロペンテン、シクロオクテン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエンなどのシクロアルケン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン、ビニル−2−メチルシクロヘキサン、ビニル−3−メチルシクロヘキサン、ビニルノルボルナンなどのビニルシクロアルカンなどが挙げられる。
【0033】
なお、上記脂環式炭化水素構造としては、例えば、下記式1で示される構造が挙げられる。
【0034】
【化1】

【0035】
そして、上記表面層に用いられる脂環式オレフィン系樹脂としては、耐熱性及び機械的強度に優れた熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂が好ましい。上記熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂とは、特許2712643号公報、特許2881751号公報、特開平9−183832号公報などに開示されている公知の樹脂である。
【0036】
このような熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂としては、例えば、(1)ノルボルネン系モノマーの開環重合体又は開環共重合体に水素を添加したもの、(2)ノルボルネン系モノマーを付加重合させたもの、(3)ノルボルネン系モノマーと、エチレンなどのα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーとを付加重合させたもの、(4)ノルボルネン系モノマーと、シクロペンテン、シクロオクテン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエンなどの環状オレフィン系モノマーとを付加重合させたもの、及び、これらの熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を変性させて得られる変性物などが挙げられる。
【0037】
そして、上記脂環式オレフィン系樹脂の荷重たわみ温度は、160〜250℃に限定され、160〜200℃が好ましい。これは、脂環式オレフィン系樹脂の荷重たわみ温度が低いと、多層離型フィルムの耐熱性が不足し、後述する熱プレス工程において脂環式オレフィン系樹脂が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子を汚染してしまう一方、脂環式オレフィン系樹脂の荷重たわみ温度が高いと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分になるからである。
【0038】
なお、本発明における脂環式オレフィン系樹脂の荷重たわみ温度とは、ASTM D648に準拠して、荷重1.82MPa(18.6kgf/cm2)の条件にて測定された温度をいう。
【0039】
そして、上記脂環式オレフィン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、小さいと、多層離型フィルムの製膜安定性が低下することがある一方、大きいと、多層離型フィルムの機械的強度が低下することがあるので、0.5〜30g/10分が好ましく、5〜10g/10分がより好ましい。なお、本発明における脂環式オレフィン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)とは、JIS K6719に準拠して、280℃の条件下で測定された値をいう。
【0040】
このような脂環式オレフィン系樹脂としては、例えば、日本ゼオン社から商品名「ゼオノア」として市販されている下記式2の繰り返し単位を有する脂環式オレフィン系樹脂や、JSR社から商品名「アートン」として市販されている下記式3の繰り返し単位を有する脂環式オレフィン系樹脂などを用いることができる。なお、これらの脂環式オレフィン系樹脂は単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
【化2】

【0042】
【化3】


(R1及びR2は、水素原子又はアルキル基を示す。R1及びR2は同一であっても相違してもよい。)
【0043】
又、上記表面層には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上述のような脂環式オレフィン系樹脂以外の樹脂成分;酸化防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、顔料や染料といった着色剤、帯電防止剤などの添加剤;酸化チタン、炭酸カルシウム、タルクなどの無機充填材などを含有してもよい。
【0044】
本発明の多層離型フィルムの厚さは、特に限定されないが、薄いと、多層離型フィルムの機械的強度が不足することがある一方、厚いと、後述する熱プレス接着工程における熱伝導性が不足することがあるので、50〜300μmであることが好ましい。
【0045】
又、多層離型フィルムの表面層と中間層の厚さ比(中間層の厚さ/表面層の厚さ)は、特に限定されないが、小さいと、多層離型フィルムの柔軟性が不足し、対形状追従性が不十分となることがある一方、大きいと、多層離型フィルムの耐熱性及び離型性が不十分となることがあるので、1〜19であることが好ましい。なお、両表面層の厚さは、同一であることが好ましいが、必ずしも同一でなくてもよい。又、両表面層の厚さが異なる場合、それぞれの表面層の厚さと中間層の厚さ比が上記範囲内であることが好ましい。
【0046】
本発明の多層離型フィルムの製膜法としては、特に限定されないが、共押出ラミネート法、押出ラミネート法、ドライラミネート法などが挙げられ、共押出ラミネート法が好ましい。
【0047】
次に、本発明の多層離型フィルムを用いてFPCとオーバーレイとを熱プレス接着し、FPC製品を製造する方法について説明するが、本発明の多層離型フィルムの使用方法は、これらの方法に限定されるものではない。
【0048】
先ず、断熱フィルムの片面に電気回路が設けられてなるFPCとオーバーレイとを熱プレス接着する方法としては、例えば、FPCの電気回路面上に、オーバーレイをその接着剤塗布面がFPCの電気回路面に対向するように積層させてなる積層体を用意し、この積層体の両面に多層離型フィルムを積層させて熱プレス用積層体を作製する。
【0049】
続いて、上記熱プレス用積層体を多段型プレス機に供給し、圧力2〜6MPa、温度150〜180℃で熱プレス用積層体の両面を熱プレス用積層体の厚さ方向に30〜60分間に亘って加圧し、その後25〜50℃になるまで加圧したまま冷却する。しかる後に、熱プレス用積層体を多段型プレス機から取り出し、熱プレス用積層体から多層離型フィルムを剥離除去することにより、FPC製品を製造することができる。
【0050】
又、断熱フィルムの両面に電気回路が設けられたFPCの両面にオーバーレイを熱プレス接着する方法としては、例えば、FPCの両面に、オーバーレイをその接着剤塗布面がFPCと対向した状態になるようにして積層して積層体を用意し、この積層体の両面に多層離型フィルムを積層させて熱プレス用積層体を作製する。そして、上述した片面に電気回路が設けられたFPCとオーバーレイとの熱プレス接着工程と同様の要領で、FPC製品を製造する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0051】
本発明の多層離型フィルムは、上述のような構成をとることから、離型性に優れている。従って、上記多層離型フィルムによれば、FPCとオーバーレイとを熱プレス接着させた後に、プレス熱板、FPC製品及びその銅端子から多層離型フィルムを除去する際に、プレス熱板、FPC製品及びその銅端子に多層離型フィルムが付着したまま剥離できずにこれらを汚染してしまうようなことがないので、FPC製品の製造効率を向上させることができる。
【0052】
又、上記多層離型フィルムは、優れた耐熱性を有しているので、FPCとオーバーレイとを熱プレス接着する際に、中間層を構成する樹脂組成物やその分解物が溶出して、プレス熱板、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子を汚染してしまうこともない。
【0053】
更に、上記多層離型フィルムは、上述のような構成をとるので、FPCとオーバーレイとを熱プレス接着する際に、適度な柔軟性を発現し、オーバーレイに塗布された接着剤が溶融して流動する前に変形して、オーバーレイ、FPC及びFPCの銅端子の形状に沿って密着し、オーバーレイの端部から接着剤を浸み出させてしまうことがない。よって、本発明の多層離型フィルムによれば、オーバーレイに塗布された接着剤が浸み出してFPCの銅端子を汚染してしまうことがなく、電気接続不良が発生しにくい優れた品質のFPC製品を得ることができる。
【0054】
又、本発明の多層離型フィルムは、上述のように、FPCとオーバーレイとを熱プレス接着する際に、適度な柔軟性を発現するので、対形状追従性に優れている。従って、上記多層離型フィルムによれば、オーバーレイがFPCの電気回路面の凹部にしっかりと食い込み、FPCとオーバーレイとの対向面間に隙間がないFPC製品を得ることができる。
【0055】
そして、本発明の多層離型フィルムによれば、上述のような構成をとるので、FPCとオーバーレイの対向面間に気泡が残存することがない。従って、本発明の多層離型フィルムによって製造されたFPC製品は、FPC製品内に残存した空気によって電気回路が経時的に酸化され、電気回路の寿命が短くなってしまうことがないので、長寿命のFPC製品として、電子機器などの電気回路基板に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下のプロピレン系樹脂Aの融点、重量平均分子量及びクロス分別法により測定した各温度範囲における樹脂溶出量は、表1に示すとおりである。
【0057】
(実施例1)
1つの共押出ダイに接続具を介して3機の押出機が接続された共押出製膜装置を用意し、1機の押出機に中間層用の樹脂成分として、プロピレン系樹脂A(サンアロマー社製 商品名「キャタロイQ200F」)90重量%及びスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水添物(旭化成ケミカルズ社製 商品名「タフテック」、スチレン含有量:12重量%)10重量%からなる樹脂組成物を供給し、残り2機の押出機の双方に表面層用の樹脂成分として脂環式オレフィン系樹脂a(日本ゼオン社製 商品名「ゼオノア・グレード1600R」、密度:1.01g/cm3、MFR:7.0g/10分、荷重たわみ温度:161℃)を供給し、それぞれの押出機内にて300℃で溶融混練させた後、3機の押出機から共押出製膜することにより、厚さ120μmの中間層の両面に、厚さ20μmの表面層が積層一体化された多層離型フィルムを得た。なお、上記スチレン−ブタジエンブロック共重合体は、B−(A−B−A)n(Aはスチレンのブロックポリマー、Bは1,3−ブタジエンのブロックポリマーを表す)の式で表されるブロック共重合体である。
【0058】
(実施例2)
表面層用の樹脂成分として、脂環式オレフィン系樹脂aの代わりに脂環式オレフィン系樹脂b(JSR社製 商品名「アートン・グレードG」、密度:1.08g/cm3、MFR:8.0g/10分、荷重たわみ温度:164℃)を用いたこと以外は実施例1と同じ要領で、中間層の厚さが120μm、両表面層の厚さがそれぞれ20μmの多層離型フィルムを得た。
【0059】
(比較例1)
1つの共押出ダイに接続具を介して3機の押出機が接続された共押出製膜装置を用意し、1機の押出機に中間層用の樹脂成分として、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(住友化学社製 商品名「アクリフトWH102」)を供給し、残り2機の押出機の双方に表面層用の樹脂成分としてプロピレン系樹脂B(モンテル・エスディーケー・サンライズ社製 商品名「ジェイアロマーPC630A」、密度:0.90g/cm3、MFR:7.5g/10分、荷重たわみ温度:90℃)を供給し、それぞれの押出機内にて230℃で溶融混練させた後、3機の押出機から共押出製膜することにより、厚さ60μmの中間層の両面に、厚さ50μmの表面層が積層一体化された多層離型フィルムを得た。
【0060】
(FPC製品の製造)
次に、上記実施例及び比較例で得られた多層離型フィルムを用いて、以下のような要領でFPC製品を製造した。
【0061】
予め用意しておいた、断熱フィルムの片面に電気回路が設けられてなるFPCの電気回路面上にオーバーレイをその接着剤塗布面が対向するように積層して得られた積層体の両面に、上記のようにして得られた多層離型フィルムを積層し、熱プレス用積層体を作製した。
【0062】
続いて、上記熱プレス用積層体を一対のプレス熱板を備えた多段型プレス機(神藤金属工業所社製 商品名「圧縮成形機NSF−37」)に供給し、圧力4.9MPa、温度160℃で、熱プレス用積層体の両面を熱プレス用積層体の厚さ方向に45分間に亘って加圧し、その後50℃になるまで加圧したまま冷却した。そして、冷却後の熱プレス用積層体を多段型プレス機から取り出し、熱プレス用積層体から多層離型フィルムを剥離させることにより、FPC製品を得た。
【0063】
そして、プレス熱板及びFPC製品から多層離型フィルムを剥離させた際の離型性と、得られたFPC製品の対形状追従性、FPC製品のFPCとオーバーレイとの対向面間における気泡の有無、FPC製品の銅端子の汚染の有無及びFPC製品の端面からの接着剤の浸み出しについて以下に示す基準で評価し、その結果を表2に示した。
【0064】
(離型性)
上述のような熱プレス接着工程の終了後、多層離型フィルムをFPC製品及びプレス熱板から手で剥離させた際の離型性を下記基準に基づき評価した。
○:多層離型フィルムを容易に剥離させることができた。
△:多層離型フィルムを剥離させるのがやや困難であった。
×:多層離型フィルムを剥離させるのが困難であった。
【0065】
(対形状追従性)
得られたFPC製品のFPCとオーバーレイの対向面間を目視観察し、多層離型フィルムの対形状追従性を下記基準に基づいて評価した。
○:FPCの凹部にオーバーレイが隙間なく食い込んでいた。
×:FPCの凹部へのオーバーレイの食い込みが十分でなく、隙間が生じていた。
【0066】
(気泡の有無)
得られたFPC製品のFPCとオーバーレイの対向面間を目視観察し、気泡の有無を判断した。
【0067】
(FPCの銅端子の汚染の有無)
得られたFPC製品の銅端子部分を目視観察し、汚染の有無を判断した。
【0068】
(接着剤の浸み出し長さ)
得られたFPC製品のオーバーレイの両端部を目視観察し、FPC製品のオーバーレイの両端部から浸み出した接着剤の長さをそれぞれ測定し、その長さの合計値を評価の値とした。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層の両面に表面層が積層一体化された多層離型フィルムであって、上記中間層は、融点が160℃以上、重量平均分子量が240,000〜650,000で且つクロス分別法により測定した樹脂溶出量が、0℃以上で且つ10℃以下において全プロピレン系樹脂の45〜60重量%、10℃を超え且つ70℃以下において全プロピレン系樹脂の15〜22重量%、70℃を超え且つ95℃以下において全プロピレン系樹脂の3〜20重量%、95℃を超え且つ125℃以下において全プロピレン系樹脂の10〜35重量%であるプロピレン系樹脂50〜100重量%及びビニル芳香族系エラストマー0〜50重量%からなる樹脂組成物よりなると共に、上記表面層は、荷重たわみ温度が160〜250℃の脂環式オレフィン系樹脂からなることを特徴とする多層離型フィルム。

【公開番号】特開2008−49505(P2008−49505A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225805(P2006−225805)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】