説明

多方向同時送信方式の超音波診断装置

【課題】複数の送信ビームを一度に形成する超音波診断装置において超音波画像の画質を改善する。
【解決手段】互いに異なる送信周波数に対応した2本の送信ビーム60a,60bが一度に形成される。領域A内において電子走査方向に沿って方向を変化させつつ送信ビーム60aと受信ビーム62a,62a´が形成されて超音波ビームが走査される。領域Aにおける走査と並行して、領域B内において電子走査方向に沿って方向を変化させつつ送信ビーム60bと受信ビーム62b,62b´が形成されて超音波ビームが走査される。そして、一度に形成される2本の送信ビーム60a,60bに対応付ける送信周波数を各フレームごとに交代させて、複数フレームに亘って超音波画像が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に超音波の送受信処理に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置では、特に三次元の超音波画像の形成などにおいては、フレームレートの向上が要求される。フレームレートを向上させるために、1回の送信で複数の送信ビームを形成する多方向同時送信と呼ばれる技術が知られている。多方向同時送信では、例えば2方向に同時に送信ビームを形成して各方向ごとに受信ビームを形成する。そのため、一方の送信ビームに対応した受信ビームを形成する際に、その送信ビームに伴う受信信号(メインローブ)に加えて、他方の送信ビームに伴う受信信号(サブローブ)が含まれてしまう。
【0003】
多方向同時送信において、サブローブを低減させるために、1回の送信で互いに異なる送信周波数に対応した複数の送信ビームを形成する技術が提案されている(特許文献1,2参照)。互いに異なる送信周波数を用いることにより、例えばバンドパスフィルタでメインローブを抽出してサブローブを低減させることが可能になる。
【0004】
【特許文献1】特開2000−60850号公報
【特許文献2】特開平8−38473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、上記特許文献1に記載された画期的な技術の改良技術について研究開発を重ねてきた。
【0006】
本発明はその研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、複数の送信ビームを一度に形成する超音波診断装置において超音波画像の画質を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様の超音波診断装置は、超音波を送受波する複数の振動素子を備えたアレイ振動子と、複数の振動素子を制御することにより互いに異なる送信周波数に対応した複数の送信ビームを一度に形成する送信処理部と、複数の振動素子から得られる信号を処理することにより複数の送信ビームに対応した複数の受信ビームを形成して受信信号を得る受信処理部と、受信信号に基づいて超音波画像の画像データを形成する画像形成部と、を有し、前記送信処理部は、複数回のビーム形成タイミングに亘って各回ごとに一度に形成される複数の送信ビームに対応付ける送信周波数を複数回のうちに周期的に交代させる、ことを特徴とする。
【0008】
上記態様によれば、複数の送信ビームに対応付ける送信周波数を複数回のうちに周期的に交代させるため、例えば、送信周波数の相違に伴う分解能の差や感度差などの画像内における偏りが緩和されて超音波画像の画質を均一化することなどが可能になる。なお、送信周波数は、所定の複数回のビーム形成タイミングごとに交代させてもよいし、各ビーム形成タイミングごとに交代させてもよい。
【0009】
望ましい態様において、前記送信処理部は、複数回のビーム形成タイミングに亘って各回ごとに一度に形成される複数の送信ビームを各送信ビームの担当領域内で走査し、当該複数の送信ビームを並行して走査することにより複数の担当領域からなる1つのフレームを形成する、ことを特徴とする。
【0010】
望ましい態様において、前記送信処理部は、各回ごとに一度に形成される複数の送信ビームに対応付ける送信周波数をフレーム単位で交代させる、ことを特徴とする。各フレームごとに送信周波数を交代させることが望ましいものの、所定の複数フレームごとに送信周波数を交代させるようにしてもよい。
【0011】
望ましい態様において、前記画像形成部は、1つのフレームに対応した受信信号と当該フレームから送信周波数を交代させたフレームに対応した受信信号とを重み付け加算して画像データを形成する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい態様において、前記画像形成部は、前記重み付け加算において超音波ビーム方向の深さに応じた重みを用いる、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい態様において、前記受信処理部は、複数の振動素子から得られる信号に基づいて複数の受信ビームを形成し、互いに異なる送信周波数の各々に対応したバンドパスフィルタを用いて、各受信ビームからその受信ビームに対応した送信ビームの送信周波数に対応した受信信号を抽出する、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい態様において、前記受信処理部は、フレーム内における各送信ビームの担当領域の位置に応じた形状の重み関数を用いて、複数の振動素子から得られる信号に重み付けを施して当該送信ビームに対応した受信ビームを形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、複数の送信ビームを一度に形成する超音波診断装置において超音波画像の画質を改善することが可能になる。例えば本発明の好適な態様においては、複数の送信ビームに対応付ける送信周波数を複数回のうちに周期的に交代させるため、送信周波数の相違に伴う分解能の差や感度差などの画像内における偏りが緩和されて超音波画像の画質を均一化することなどが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0017】
図1には本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す機能ブロック図である。
【0018】
複数の振動素子10は、アレイ振動子を形成しており、被検体に対して超音波を送受波する。アレイ振動子としては、コンベックスアレイ振動子などが好適であるものの、リニアアレイ振動子などを用いてもよい。複数の振動素子10の各々に対応して、送信回路12と受信回路14が設けられている。
【0019】
複数の送信回路12は、対応する各振動素子10に対して、超音波の送信信号を出力する。各送信回路12は、選択部20を介して入力される送信信号に対して増幅処理と遅延処理を施す。各振動素子10に供給される送信信号に対してその振動素子10に応じた遅延処理が施されることにより、アレイ振動子から所定方向に向けられた送信ビームが形成される。また、複数のアレイ振動子から構成される送信開口をアレイ方向にシフトするか、遅延処理における遅延量を適宜制御することにより、送信ビームが走査される。
【0020】
選択部20は、各送信回路12へ供給する送信信号の送信周波数を選択する。選択部20は、送信信号f1出力部21から出力される送信信号f1と、送信信号f2出力部22から出力される送信信号f2とからなる二つの送信信号のうちの一方を選択する。
【0021】
送信信号f1と送信信号f2は、互いに周波数が異なる。例えば、送信信号f1の中心周波数f1は4.5MHzに設定され、送信信号f2の中心周波数f2は2.5MHzに設定される。アレイ振動子の種類や診断対象などに応じて、各送信信号の中心周波数が上記以外の周波数に設定されてもよい。本実施形態においては、互いに周波数が異なる送信信号f1と送信信号f2を用いて、一度に2本の送信ビームが形成される。
【0022】
選択部20は、複数の送信回路12のうちの一方のグループに対して送信信号f1を選択し、他方のグループに対して送信信号f2を選択する。図1においては、図の上側のグループの送信回路12へ送信信号f1が出力され、図の下側のグループの送信回路12へ送信信号f2が出力されている。
【0023】
複数の送信回路12のうちの一方のグループ(例えば図1の上側のグループ)は、送信信号f1を用いて当該一方のグループに対応した複数の振動素子10を制御し、送信周波数f1に対応した送信ビームを形成する。また、複数の送信回路12のうちの他方のグループ(例えば図1の下側のグループ)は、送信信号f2を用いて当該他方のグループに対応した複数の振動素子10を制御し、送信周波数f2に対応した送信ビームを形成する。
【0024】
送信周波数f1に対応した送信ビームと送信周波数f2に対応した送信ビームは、複数回のビーム形成タイミングに亘って各回ごとに一度に形成される。例えば、送信パルスの繰り返し周期ごとに、送信周波数f1に対応した送信ビームと送信周波数f2に対応した送信ビームが同時に形成される。なお、送信パルスの繰り返し周期との比較において同時とみなせる程度の短い時間差を伴って2本の送信ビームが形成されてもよい。
【0025】
そして、一度に形成された2本の送信ビームは、各送信ビームの担当領域内において走査され、2本の送信ビームが並行して走査されて2つの担当領域からなる1つのフレームが形成される。さらに、本実施形態においては、選択部20による周波数選択により、各フレームごとに2本の送信ビームに対応付ける送信周波数を交代させる。
【0026】
図2は、本実施形態における超音波の送受信処理を説明するための図である。複数の振動素子10は、コンベックス型のアレイ振動子を形成している。また、図2の中央に引かれた一点鎖線を境として、電子走査の領域が一方側(図の左側)の領域Aと他方側(図の右側)の領域Bに分割されている。
【0027】
複数の送信回路12のうちの一方のグループ(例えば図1の上側のグループ)は、当該一方のグループに対応した複数の振動素子10を制御し、図2に示す領域A内においてa方向に送信ビーム60aを形成する。また、a方向の送信ビーム60aに対応して2本の受信ビーム62a,62a´が形成される。そして領域A内において電子走査方向に沿ってa方向を変化させつつ送信ビーム60aと受信ビーム62a,62a´を形成することにより、超音波ビームが走査される。なお、送信ビーム60aは、送信開口a内の複数の振動素子10を用いて形成される。受信ビーム62a,62a´は、アレイ振動子が備える全ての振動素子10を用いて形成されることが望ましいものの、例えば領域A内の複数の振動素子10を主として、アレイ振動子が備える全ての振動素子10のうちの一部のみを用いて受信ビーム62a,62a´を形成してもよい。
【0028】
複数の送信回路12のうちの他方のグループ(例えば図1の下側のグループ)は、当該他方のグループに対応した複数の振動素子10を制御し、図2に示す領域B内においてb方向に送信ビーム60bを形成する。また、b方向の送信ビーム60bに対応して2本の受信ビーム62b,62b´が形成される。そして領域B内において電子走査方向に沿ってb方向を変化させつつ送信ビーム60bと受信ビーム62b,62b´を形成することにより、超音波ビームが走査される。なお、送信ビーム60bは、送信開口b内の複数の振動素子10を用いて形成される。受信ビーム62b,62b´は、アレイ振動子が備える全ての振動素子10を用いて形成されることが望ましいものの、例えば領域B内の複数の振動素子10を主として、アレイ振動子が備える全ての振動素子10のうちの一部のみを用いて受信ビーム62b,62b´を形成してもよい。
【0029】
なお、一度に形成される2本の送信ビーム60a,60bを互いに引き離して形成することにより、送信ビーム60aと送信ビーム60bとの間の干渉や、受信ビーム62a,62a´と受信ビーム62b,62b´との間の干渉を小さくすることができる。そのため、2本の送信ビーム60a,60bは、例えば互いに一定距離だけ離して互いに略平行となるように走査してもよい。ちなみに、送信開口aと送信開口bが互いに重なるように振動素子10を制御してもよい。
【0030】
本実施形態においては、一度に形成される2本の送信ビームに対応付ける送信周波数を各フレームごとに交代させる。例えば、送信ビーム60aに送信周波数f1を対応付けて送信ビーム60bに送信周波数f2を対応付け、送信ビーム60aと送信ビーム60bを並行して走査することにより1つのフレームを形成した後に、次のフレームにおいて、送信ビーム60aに送信周波数f2を対応付けて送信ビーム60bに送信周波数f1を対応付け、当該次のフレームを形成する。さらに次のフレームにおいては、送信ビーム60aに送信周波数f1を対応付けて送信ビーム60bに送信周波数f2を対応付ける。受信系においては、各送信ビームの送信周波数に対応した周波数成分が抽出される。
【0031】
図1に戻り、複数の受信回路14は、対応する各振動素子10から超音波の受波結果である受波信号を得る。各受信回路14は、対応する振動素子10から得られる受波信号に対して増幅処理とA/D変換処理(アナログデジタル変換処理)を施す。こうして、複数の振動素子10から得られる受波信号(デジタル信号)が4つの受信ビームフォーマ30に供給される。
【0032】
4つの受信ビームフォーマ30は、4本の受信ビーム(図2の受信ビーム62a,62a´,62b,62b´)に対応している。例えば、受信ビームフォーマ(1)は、アレイ振動子が備える全ての振動素子10から得られる受波信号に基づいて、受信ビーム62aを形成する。つまり、複数の振動素子10から得られる受波信号に対して、受信ビーム62aの方向に応じた整相加算処理を施し、受信ビーム62aに沿ってビーム信号(エコーデータ)を得る。また、受信ビームフォーマ(2)は、アレイ振動子が備える全ての振動素子10から得られる受波信号に基づいて受信ビーム62a´を形成する。同様に、受信ビームフォーマ(3)は受信ビーム62bを形成し、受信ビームフォーマ(4)は受信ビーム62b´を形成する。
【0033】
BPF(バンドパスフィルタ)は、対応する受信ビームフォーマにおいて得られるビーム信号(エコーデータ)から、2つの送信周波数f1,f2のうちのいずれかに対応した周波数成分を抽出するバンドパスフィルタである。BPF(1)により送信周波数f1に対応した周波数成分が抽出され、BPF(2)により送信周波数f2に対応した周波数成分が抽出される。
【0034】
例えば、受信ビームフォーマ(1)において形成される受信ビーム62aに対応する送信ビーム60aの送信周波数がf1の場合には、受信ビームフォーマ(1)に対応付けられたBPF(1)(2)のうち、BPF(1)が選択され、受信ビーム62aのビーム信号から周波数f1の成分が抽出される。これにより、送信ビーム60bの送信周波数f2に対応した受波成分が取り除かれる。同様に、受信ビームフォーマ(2)に対応付けられたBPF(1)(2)のうち、BPF(1)が選択され、受信ビーム62a´のビーム信号から周波数f1の成分が抽出される。
【0035】
また、送信ビーム60aの送信周波数がf1の場合には、送信ビーム60bの送信周波数がf2であるため、受信ビームフォーマ(3)に対応付けられたBPF(1)(2)のうち、BPF(2)が選択され、受信ビーム62bのビーム信号から周波数f2の成分が抽出される。同様に、受信ビームフォーマ(4)に対応付けられたBPF(1)(2)のうち、BPF(2)が選択され、受信ビーム62b´のビーム信号から周波数f2の成分が抽出される。
【0036】
本実施形態においては、一度に形成される2本の送信ビームに対応付ける送信周波数を各フレームごとに交代させている。そのため、各フレームごとに送信ビーム60aの送信周波数がf1またはf2に切り換えられ、それに応じて、受信ビームフォーマ(1)に対応付けられたBPF(1)(2)のうち、送信周波数f1またはf2に対応したBPFが選択される。同様に、受信ビームフォーマ(2)〜(3)の各受信ビームフォーマについても、各受信ビームフォーマに対応付けられたBPF(1)(2)のうち、送信周波数f1またはf2に対応したBPFが選択される。
【0037】
図3は、BPFの周波数特性の一例を示す図であり、図3には、横軸を周波数として縦軸に信号の通過量を示した周波数特性が示されている。図1のBPF(1)として、例えば、図3に示す4.5MHz用の特性が利用され、図1のBPF(2)として、例えば、図3に示す2.5MHz用の特性が利用される。もちろん、BPF(1)(2)の特性は図3のものに限定されない。
【0038】
図1に戻り、各受信ビームフォーマにおいて受信ビームが形成され、BPF(1)(2)において送信周波数に対応した信号成分が抽出されると、各受信ビームフォーマごとに設けられた検波器32において対応する受信ビームフォーマから得られる信号に対して検波処理が実行される。こうして、4つの検波器32から、4本の受信ビーム(図2の受信ビーム62a,62a´,62b,62b´)の各々に対応した受信信号が出力される。
【0039】
画像形成部40は、4本の受信ビームの受信信号に基づいて超音波画像の画像データを形成する。画像形成部40は、超音波画像の画像データとして、例えばBモード画像の画像データを形成する。そして、画像形成部40において形成された画像データに対応する超音波画像がモニタなどの表示部42に表示される。なお、図1に示す超音波診断装置内の各部は、制御部50によって制御される。制御部50は、例えば図示しない操作パネルなどを利用して入力されるユーザ操作に応じて図1に示す各部を制御する。
【0040】
本実施形態においては、一度に形成される2本の送信ビームに対応付ける送信周波数を各フレームごとに交代させつつ各送信ビームごとに2本の受信ビームを形成し、複数フレームに亘って受信信号を得ている。画像形成部40は、1つのフレームに対応した受信信号と当該フレームから送信周波数を交代させたフレームに対応した受信信号とを重み付け加算して、超音波画像の画像データを形成する。
【0041】
図4は、本実施形態における超音波画像の形成処理を説明するための図である。本実施形態においては、2本の送信ビームを並行して走査することにより、図4に示すF1,F2,F3,F4,・・・の順に複数のフレームが形成される。各フレームは、領域Aと領域Bとによって形成される。つまり、2本の送信ビームのうちの一方の送信ビーム(例えば図2の送信ビーム60a)が領域Aを担当領域として走査され、2本の送信ビームのうちの他方の送信ビーム(例えば図2の送信ビーム60b)が領域Bを担当領域として走査され、領域Aと領域Bとによって1枚のフレームが形成される。
【0042】
2本の送信ビームの送信周波数は各フレームごとに交代する。図4において、フレームF1は、領域Aを送信周波数f1の送信ビームにより形成され、領域Bを送信周波数f2の送信ビームにより形成されている。フレームF1の次の時刻のフレームF2は、領域Aを送信周波数f2の送信ビームにより形成され、領域Bを送信周波数f1の送信ビームにより形成されている。そして、続くフレームF3,F4においても送信周波数が交代している。
【0043】
画像形成部40は、1つのフレームに対応した受信信号と当該フレームから送信周波数を交代させた次の時刻のフレームに対応した受信信号とを重み付け加算して、超音波画像の画像データを形成する。つまり、画像形成部40は、まず、フレームF1の受信信号とフレームF2の受信信号とを重み付け加算して合成フレームFc1を形成する。
【0044】
画像形成部40は、例えば、フレームF1とフレームF2の間において、互いに同じ位置に対応する画素位置の信号同士を重み付け加算する。これにより、領域A内において、フレームF1の周波数f1の信号とフレームF2の周波数f2の信号とが重み付け加算され、領域B内においてもフレームF1の周波数f2の信号とフレームF2の周波数f1の信号とが重み付け加算される。こうして、合成フレームFc1の全域に亘って、周波数f1の信号と周波数f2の信号が合成される。
【0045】
画像形成部40は、フレームF1とフレームF2との組み合わせの場合と同様に、フレームF2とフレームF3との組み合わせ、フレームF3とフレームF4との組み合わせについても受信信号の重み付け加算を行い、合成フレームFc2,Fc3,・・・を形成する。合成フレームFc2,Fc3,・・・の各合成フレームについても、全域に亘って周波数f1の信号と周波数f2の信号が合成されたものとなる。
【0046】
なお、画像形成部40は、2つのフレーム間の受信信号の重み付け加算において、超音波ビーム方向の深さに応じた重みを用いることが望ましい。図5は、深さに応じた重みを説明するための図であり、横軸を深さとして縦軸に重みの大きさを示している。縦軸の重みは、高周波数f1(例えば4.5MHz)の受信信号に対する重みと、低周波数f2(例えば2.5MHz)の受信信号に対する重みを示している。
【0047】
例えば、深さ0(ゼロ)においては、低周波数f2の受信信号の重みが0.2であり、高周波数f1の受信信号の重みが0.8である。そして、深くなるにつれて、低周波数f2の受信信号の重みを増加させ、深さrmaxにおいて、低周波数f2の受信信号の重みを0.8として高周波数f1の受信信号の重みを0.2とする。これにより、比較的浅い領域において高周波数f1の受信信号による高い分解能を優先させ、比較的深い領域において低周波数f2の受信信号による高い感度を優先することができる。
【0048】
このように、図1に示す本実施形態の超音波診断装置では、1つのフレームに対応した受信信号と当該フレームから送信周波数を交代させたフレームに対応した受信信号とを重み付け加算して画像データを形成しているため、フレームを構成する領域Aと領域Bにおいて送信周波数を交代させずに固定した場合に比べて、送信周波数の相違に伴う分解能の差や感度差などの画像内における偏りが緩和されて超音波画像の画質を均一化することができる。ちなみに、本実施形態における2つのフレーム間の受信信号の重み付け加算は、周波数f1と周波数f2の周波数コンパウンドに相当するため、超音波画像のスペックルの低減などにも寄与する。
【0049】
なお、図1に示す本実施形態の超音波診断装置において、フレーム内における各送信ビームの担当領域の位置に応じた形状の重み関数を用いて、各振動素子10に対して重み付けを行うようにしてもよい。つまり、受信側において、各振動素子10から得られる受波信号に対して重み付けを施して整相加算処理を行うようにしてもよい。また、送信側において、複数の送信信号12から出力される送信信号に対して、ビーム方向に応じた遅延処理に加えて重み付けを施して送信ビームを形成するようにしてもよい。受信側と送信側のいずれか一方のみで重み付けを行ってもよいし、受信側と送信側の両方で重み付けを行ってもよい。
【0050】
図6は、各送信ビームの担当領域の位置に応じた形状の受信重み関数を示す図である。図6の(A1)と(A2)は、a方向の送信ビーム(図2の符号60a)に対応した受信重み関数を示している。(A1)と(A2)の各々の横軸は受信開口であり、図2の電子走査方向に沿った振動素子10の位置に対応している。また、(A1)と(A2)の各々の縦軸は各振動素子10に対応した重みである。
【0051】
a方向の送信ビームは、図2において左側の領域Aを担当領域としていることから、図6の(A1)と(A2)の各々に示す重み関数は、全体的に左側の振動素子10の重みを重視するように、左右非対称な形状となっている。また、(A1)に示す関数形状を近距離用として(A2)に示す関数形状を遠距離用とすることにより、超音波ビーム方向の深さに応じて関数形状を変化させている。
【0052】
図6の(B1)と(B2)は、b方向の送信ビーム(図2の符号60b)に対応した受信重み関数を示している。b方向の送信ビームは、図2において右側の領域Bを担当領域としていることから、図6の(A1)と(A2)の各々に示す重み関数は、全体的に右側の振動素子10の重みを重視するように、左右非対称な形状となっている。また、(B1)に示す関数形状を近距離用として(B2)に示す関数形状を遠距離用とすることにより、超音波ビーム方向の深さに応じて関数形状を変化させている。
【0053】
図1および図2などを利用して説明した実施形態では、二次元領域内において電子走査を行っているが、その二次元領域内における電子走査に機械的な走査を加えて、三次元領域内を立体的に走査するようにしてよい。
【0054】
図7は、三次元領域内における2方向の走査を説明するための図である。図7の縦軸に示す電子走査方向は、二次元領域内における電子走査の方向であり、例えば、図2に示す電子走査方向に対応している。図7の横軸に示す機械走査方向は、電子走査方向に沿って配列された複数の振動素子からなるアレイ振動子を機械的に移動させる方向である。
【0055】
まず、図7に示すフレームF1の期間において、図2などを利用して説明したように、領域A内で送信周波数f1の送信ビームが走査され、領域B内で送信周波数f2の送信ビームが走査される。図7においては、領域Aと領域Bの各送信ビームが図の下側から上側に向かって走査されている。また、図7においては、アレイ振動子が機械的走査により機械走査方向に移動するため、フレームF1の期間において、領域Aと領域Bが機械走査方向に斜めに傾くように三次元空間内に形成される。
【0056】
次に、図7に示すフレームF2の期間において、図2などを利用して説明したように、送信周波数を交代させて、領域A内で送信周波数f2の送信ビームが走査され、領域B内で送信周波数f1の送信ビームが走査される。図7に示すフレームF2の期間においても領域Aと領域Bが機械走査方向に斜めに傾くように三次元空間内に形成される。さらに、フレームF3,フレームF4,・・・とフレームごとに送信周波数を交代させつつ例えばフレームF70まで電子走査と機械走査を行う。こうして、フレームF1からフレームF70までの複数フレームに亘って、二次元的に超音波ビームが走査される。
【0057】
図7に示す走査態様では、互いに隣り合う2フレーム間において、同一の送信周波数に対応した電子的な走査領域が三次元空間内において幾何学的に連続している。例えば、フレームF1において送信周波数f2によって形成される領域Bと、フレームF2において送信周波数f2によって形成される領域Aが、同一平面を形成するように接続される。そこで、例えば、フレームF1の領域BとフレームF2の領域Aとを接続して1枚の合成フレームを形成してもよい。もちろん、図4を利用して説明したように、互いに異なる周波数に対応した領域同士を合成して1枚の合成フレームを形成してもよい。
【0058】
なお、図7に示す走査態様では、横軸方向において機械走査を行っているが、複数の振動素子を図7の縦軸方向と横軸方向に二次元的に配列させ、横軸方向にも電子的走査を適用し、電子的走査のみによる三次元空間内の走査を実現してもよい。
【0059】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。例えば、一度に形成される2方向の送信ビームの各々に対応して4本の受信ビームを形成して2方向同時送信による8方向同時受信を実現してもよいし、一度に形成される送信ビームの本数を3本以上にしてもよい。また、本発明に係る多方向同時送信による多方向同時受信をハーモニックイメージングやカラードプライメージングに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の全体構成を示す機能ブロック図である。
【図2】超音波の送受信処理を説明するための図である。
【図3】BPFの周波数特性の一例を示す図である。
【図4】超音波画像の形成処理を説明するための図である。
【図5】深さに応じた重みを説明するための図である。
【図6】各送信ビームの担当領域の位置に応じた形状の受信重み関数を示す図である。
【図7】三次元領域内における2方向の走査を説明するための図である。
【符号の説明】
【0061】
10 振動素子、12 送信回路、14 受信回路、21 送信信号f1出力部、22 送信信号f2出力部、30 受信ビームフォーマ、40 画像形成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受波する複数の振動素子を備えたアレイ振動子と、
複数の振動素子を制御することにより互いに異なる送信周波数に対応した複数の送信ビームを一度に形成する送信処理部と、
複数の振動素子から得られる信号を処理することにより複数の送信ビームに対応した複数の受信ビームを形成して受信信号を得る受信処理部と、
受信信号に基づいて超音波画像の画像データを形成する画像形成部と、
を有し、
前記送信処理部は、複数回のビーム形成タイミングに亘って各回ごとに一度に形成される複数の送信ビームに対応付ける送信周波数を複数回のうちに周期的に交代させる、
ことを特徴とする多方向同時送信方式の超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記送信処理部は、複数回のビーム形成タイミングに亘って各回ごとに一度に形成される複数の送信ビームを各送信ビームの担当領域内で走査し、当該複数の送信ビームを並行して走査することにより複数の担当領域からなる1つのフレームを形成する、
ことを特徴とする多方向同時送信方式の超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記送信処理部は、各回ごとに一度に形成される複数の送信ビームに対応付ける送信周波数をフレーム単位で交代させる、
ことを特徴とする多方向同時送信方式の超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、1つのフレームに対応した受信信号と当該フレームから送信周波数を交代させたフレームに対応した受信信号とを重み付け加算して画像データを形成する、
ことを特徴とする多方向同時送信方式の超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、前記重み付け加算において超音波ビーム方向の深さに応じた重みを用いる、
ことを特徴とする多方向同時送信方式の超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記受信処理部は、複数の振動素子から得られる信号に基づいて複数の受信ビームを形成し、互いに異なる送信周波数の各々に対応したバンドパスフィルタを用いて、各受信ビームからその受信ビームに対応した送信ビームの送信周波数に対応した受信信号を抽出する、
ことを特徴とする多方向同時送信方式の超音波診断装置。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記受信処理部は、フレーム内における各送信ビームの担当領域の位置に応じた形状の重み関数を用いて、複数の振動素子から得られる信号に重み付けを施して当該送信ビームに対応した受信ビームを形成する、
ことを特徴とする多方向同時送信方式の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−22654(P2010−22654A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188832(P2008−188832)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「インテリジェント手術機器研究開発プロジェクト」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(502196050)国立成育医療センター総長 (8)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】