説明

多系統冷却装置及びその給水設定方法

【課題】 必要な流量及び水圧を確保しつつ全体の電力消費低減により省エネルギ性を高めるとともに、全体のコストダウン及び小型化を実現する。
【解決手段】 冷却液タンク2からメイン圧送ポンプ6により共有送水ラインLoに送出された冷却水Wを少なくとも二系統に分岐し、一方の冷却水Wをメイン給水系統3のメイン送水ラインLmを通して被冷却物Mに供給し、かつ他方の冷却水Wをサブ圧送ポンプ8により送出することによりサブ給水系統4のサブ送水ラインLsを通して被冷却物Mに供給するとともに、サブ送水ラインLsとメイン送水ラインLm間に接続した流量設定回路9によりサブ送水ラインLsの流量を設定し、また、メイン送水ラインLmと冷却液タンク2間に接続した水圧設定回路10によりメイン送水ラインLmの水圧を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液が収容された冷却液タンクからメイン給水系統及びサブ給水系統により被冷却物に冷却水を供給する多系統冷却装置及びその給水設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷却液が収容された冷却液タンクからレーザ加工機等の被冷却物に冷却水を供給する冷却装置であって、特にメイン給水系統及びサブ給水系統の二つの独立した給水系統を備える多系統冷却装置は知られており、例えば、特許文献1には、2系統の循環水経路を備えたレーザ加工機用冷却装置が開示されている。
【0003】
同文献1に開示されるレーザ加工機用冷却装置は、循環ポンプをその経路中に備え、レーザ加工機を構成する機器のうち、発熱量の大きいものを冷却する第1の循環水経路と、循環ポンプより能力の低い循環ポンプをその経路中に備え、第1の循環水経路により冷却するものの発熱量よりも小さい発熱量の機器を冷却する第2循環水経路と、からなる2系統の循環水経路を備えたレーザ加工機用冷却装置であって、第1の循環水経路と第2循環水経路とを繋ぐバイパス経路を備え、第1の循環水経路中の循環ポンプによる循環によって、第2の循環水経路中に残留しているガスを除去するようにした構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−335720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来(特許文献1)のレーザ加工機用冷却装置は、次のような問題点があった。
【0006】
第一に、レーザ加工機等の特定の被冷却物を冷却する場合、主要部分を冷却する第1の系統は、冷却水の流量を確保することが求められ、かつ水圧に対しては一定の制限が必要になるとともに、主要部分以外の一部の狭い機構等を冷却する第2の系統は、流量はさほど重要ではなく、冷却水の水圧を確保することが求められる場合があるため、各系統では要求される給水条件を満たす独立した設計が必要になる。特に、要求される揚程をそれぞれ満足させる必要があることから圧送ポンプが大型化しやすい。この結果、全体の電力消費も大きくなるなど、省エネルギ性に劣る。
【0007】
第二に、各給水系統には異なる給水条件が要求され、相互に干渉しない独立した2系統の異なる給水系統が必要となることから、冷却器及び回路部品を含む独立した給水系統が2系統(2台)分必要となる。結局、部品の共有化ができないため、部品点数が増加し、これに伴うコストアップ及び大型化を招きやすい。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した多系統冷却装置及びその給水設定方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る多系統冷却装置1は、上述した課題を解決するため、冷却液Wが収容された冷却液タンク2から第一の給水条件により冷却水Wを被冷却物Mに供給するメイン給水系統3と、冷却液タンク2から第二の給水条件により冷却水Wを被冷却物Mに供給するサブ給水系統4とを備えてなる多系統冷却装置であって、冷却液タンク2からメイン圧送ポンプ6により冷却水Wを共有送水ラインLoに送出する共有系統5と、共有送水ラインLoに送出された冷却水Wを少なくとも二系統に分岐する分岐部7と、分岐した一方の冷却水Wをメイン送水ラインLmを通して被冷却物Mに供給するメイン給水系統3と、分岐した他方の冷却水Wをサブ圧送ポンプ8により送出することにより、サブ送水ラインLsを通して被冷却物Mに供給するサブ給水系統4と、サブ送水ラインLsとメイン送水ラインLm間に接続して当該サブ送水ラインLsの流量Qwを設定可能な流量設定回路9と、メイン送水ラインLmと冷却液タンク2間に接続して当該メイン送水ラインLmの水圧Pwを設定可能な水圧設定回路10とを備えてなることを特徴とする。
【0010】
一方、本発明に係る多系統冷却装置1の給水設定方法は、上述した課題を解決するため、冷却液Wが収容された冷却液タンク2から第一の給水条件によりメイン給水系統3を介して被冷却物Mに冷却水Wを供給するとともに、冷却液タンク2から第二の給水条件によりサブ給水系統4を介して被冷却物Mに冷却水Wを供給するに際し、冷却液タンク2からメイン圧送ポンプ6により共有送水ラインLoに送出された冷却水Wを少なくとも二系統に分岐し、分岐した一方の冷却水Wをメイン給水系統3のメイン送水ラインLmを通して被冷却物Mに供給し、かつ分岐した他方の冷却水Wをサブ圧送ポンプ8により送出することにより、サブ給水系統4のサブ送水ラインLsを通して被冷却物Mに供給するとともに、サブ送水ラインLsとメイン送水ラインLm間に接続した流量設定回路9によりサブ送水ラインLsの流量Qwを目標流量値Qwsに設定し、この後、メイン送水ラインLmと冷却液タンク2間に接続した水圧設定回路10によりメイン送水ラインLmの水圧Pwを目標水圧値Pwmに設定するようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、好適な態様により、多系統冷却装置1には、メイン給水系統3から被冷却物Mに供給された冷却水Wを冷却液タンク2に戻すメイン戻りラインLmr,及びサブ給水系統4から被冷却物Mに供給された冷却水Wを冷却液タンク2に戻すサブ戻りラインLsrを設けることができる。さらに、共有送水ラインLoには、当該共有送水ラインLoを流れる冷却水Wを冷却する冷却器11を接続することができる。他方、サブ送水ラインLsと冷却液タンク2間には、水圧制限用のリリーフバルブ12を接続することもできる。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明に係る多系統冷却装置1及びその給水設定方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) サブ給水系統4におけるサブ圧送ポンプ8の揚程を小さくできるとともに、メイン給水系統3とサブ給水系統4間の融通性を高めることができる。したがって、特にサブ圧送ポンプ8の小型化が可能になるとともに、サブ給水系統4の余力をメイン給水系統3に利用するなどにより、冷却水Wに対する利用の高効率化及び最適化を図ることができる。この結果、必要な流量Qw及び水圧Pwを確保しつつ全体の電力消費低減により省エネルギ性を高めることができる。
【0014】
(2) 冷却液タンク2からメイン圧送ポンプ6により共有送水ラインLoに送出された冷却水Wを少なくとも二系統に分岐し、一方の冷却水Wをメイン給水系統3のメイン送水ラインLmを通して被冷却物Mに供給し、かつ他方の冷却水Wをサブ圧送ポンプ8により送出することによりサブ給水系統4のサブ送水ラインLsを通して被冷却物Mに供給するとともに、サブ送水ラインLsとメイン送水ラインLm間に接続した流量設定回路9によりサブ送水ラインLsの流量Qwを設定し、また、メイン送水ラインLmと冷却液タンク2間に接続した水圧設定回路10によりメイン送水ラインLmの水圧Pwを設定するようにしたため、給水系統の全体における一部の共有化及び相互間の融通性向上により、全体の小型化及び軽量化、更にはコストダウンを実現できる。
【0015】
(3) 好適な態様により、共有送水ラインLoに当該共有送水ラインLoを流れる冷却水Wを冷却する冷却器11を接続すれば、メイン給水系統3とサブ給水系統4に対する冷却器11の実質的な共有化が可能になるため、冷却器の数量半減に伴うコストダウン及び小型化に寄与できる。
【0016】
(4) 好適な態様により、サブ送水ラインLsと冷却液タンク2間に水圧制限用のリリーフバルブ12を接続すれば、サブ送水ラインLsの水圧を制限できるため、サブ給水系統4から冷却水Wが供給される被冷却物M側における一部の狭い(細かい)機構等を高水圧に対して保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適実施形態に係る多系統冷却装置及びこの多系統冷却装置により冷却される被冷却物の回路構成図、
【図2】同多系統冷却装置の給水設定方法を用いた設定手順を説明するためのフローチャート、
【図3】同多系統冷却装置及び比較例に係る一般的な多系統冷却装置の動作条件及び性能(ポンプ消費電力)を対比して示す原理回路図及び実験データ表、
【図4】同好適実施形態に係る多系統冷却装置の特性図、
【図5】本発明の変更実施形態に係る多系統冷却装置の一部回路構成図、
【図6】本発明の他の変更実施形態に係る多系統冷却装置の一部回路構成図、
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
まず、本実施形態に係る多系統冷却装置1の構成について、図1を参照して具体的に説明する。
【0020】
図1中、1は本実施形態に係る多系統冷却装置の全体構成を示すとともに、Mはこの多系統冷却装置1に接続した被冷却物Mを示す。なお、例示の被冷却物Mはレーザ加工機Moであり、メイン負荷Mmとサブ負荷Msを有する。この場合、メイン負荷Mmは発振器等の主要部分が冷却対象となる負荷を想定し、サブ負荷Msは一部の狭い機構等の主要部分以外の特定部分を想定している。
【0021】
多系統冷却装置1は、冷却液Wを収容する冷却液タンク2を備え、この冷却液タンク2には共有送水ラインLoの上流端を接続する。共有送水ラインLoの下流端は分岐部7となり、この分岐部7にはメイン送水ラインLmの上流端及びサブ送水ラインLsの上流端をそれぞれ接続する。これにより、共有送水ラインLoを通る冷却水Wは、分岐部7によりメイン送水ラインLmとサブ送水ラインLsに分岐される。さらに、メイン送水ラインLmの下流端及びサブ送水ラインLsの下流端は、それぞれ多系統冷却装置1における吐出口21m及び21sに接続する。これにより、メイン送水ラインLm側がレーザ加工機Moに冷却水Wを供給するメイン給水系統3となり、サブ送水ラインLs側がレーザ加工機Moに冷却水Wを供給するサブ給水系統4となるとともに、共有送水ラインLo側が冷却液タンク2からメイン圧送ポンプ6により冷却水Wを送出する共有系統5となる。
【0022】
また、冷却液タンク2には、メイン戻りラインLmrの下流端及びサブ戻りラインLsrの下流端を接続するとともに、メイン戻りラインLmrの上流端及びサブ戻りラインLsrの上流端は、それぞれ多系統冷却装置1における戻り口22m及び22sに接続する。これにより、メイン給水系統3からレーザ加工機Moに供給された冷却水Wは、メイン戻りラインLmrを通して冷却液タンク2に戻されるとともに、サブ給水系統4からレーザ加工機Moに供給された冷却水Wは、サブ戻りラインLsrを通して冷却液タンク2に戻される。
【0023】
そして、共有送水ラインLoには、冷却液タンク2の冷却水Wを当該共有送水ラインLoに送水するメイン圧送ポンプ6を接続する。メイン圧送ポンプ6は、メイン給水系統3及びサブ給水系統4の双方の流量を確保するとともに、特に、サブ給水系統4の供給状態に拘わらずメイン給水系統3で要求される流量Qw(目標流量値Qwm)を確保できる圧送ポンプを用いる。例示のメイン圧送ポンプ6は、インバータ駆動であり、出力は3.2〔kW〕である。
【0024】
さらに、メイン圧送ポンプ6の下流側における共有送水ラインLoには、当該共有送水ラインLoを流れる冷却水Wを冷却する冷却器11を接続する。この冷却器11は冷凍サイクルCを構成する熱交換器を用いる。冷凍サイクルCは、圧縮機25,凝縮器26及び膨張弁27を順次接続し、圧縮機25と膨張弁27間に冷却器11を接続する。これにより、冷媒が循環する冷媒循環回路を有する冷凍サイクルCが構成される。このように、共有送水ラインLoに、当該共有送水ラインLoを流れる冷却水Wを冷却する冷却器11を接続すれば、メイン給水系統3とサブ給水系統4に対する冷却器11の実質的な共有化が可能になるため、冷却器の数量半減に伴うコストダウン及び小型化に寄与できる。なお、26fは凝縮器26を空冷する凝縮器ファン、28はメイン圧送ポンプ6の下流側の共有送水ラインLoに接続した水圧計を示す。
【0025】
一方、サブ送水ラインLsには、冷却水Wを当該サブ送水ラインLsを通して送水するサブ圧送ポンプ8を接続する。サブ圧送ポンプ8は、サブ給水系統4の流量のみを確保できれば足りるため、メイン圧送ポンプ6に対して出力の小さい小型の圧送ポンプを用いる。特に、必要流量(例えば、30〔L/min〕)時に、目標水圧値Pws(例えば、0.8〔MPa〕)を確保できる大きさを選定する。例示のサブ圧送ポンプ8は、出力が0.4〔kW〕である。なお、29はサブ送水ラインLsに接続した水圧計を示すとともに、30はサブ送水ラインLsに接続した流量計を示す。また、メイン送水ラインLm側も、ポンプを接続しない点を除き、サブ送水ラインLs側と同様に構成できる。31及び32はメイン送水ラインLmに接続した水圧計及び流量計を示す。
【0026】
他方、サブ圧送ポンプ8の下流側のサブ送水ラインLsとメイン送水ラインLm間には、流量調整バルブ等を用いた流量設定回路9を接続する。流量設定回路9はサブ送水ラインLsとメイン送水ラインLm間を接続するバイパス回路として機能するとともに、このバイパス回路の流量を可変調整する機能を有する。この場合、サブ圧送ポンプ8を接続したサブ送水ラインLs側の水圧が高くなるため、冷却水Wは、サブ送水ラインLsからメイン送水ラインLmに流れる。したがって、この流量設定回路9によりバイパスする冷却水Wの流量を可変調整することにより、サブ送水ラインLsの流量Qwを設定することができる。
【0027】
さらに、メイン送水ラインLmと冷却液タンク2(メイン戻りラインLmr)間には、流量調整バルブ等を用いた水圧設定回路10を接続する。水圧設定回路10はメイン送水ラインLmと冷却液タンク2(メイン戻りラインLmr)間を接続するバイパス回路として機能するとともに、このバイパス回路の流量を可変調整する機能を有する。したがって、この水圧設定回路10によりバイパスする冷却水Wの流量を可変調整することにより、メイン送水ラインLmの水圧Pwを設定することができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る多系統冷却装置1の給水設定方法について、図1を参照しつつ図2に示すフローチャートに従って説明する。
【0029】
今、図1に示すレーザ加工機Moに対して新たに多系統冷却装置1を設置する場合を想定する。通常、レーザ加工機Moを冷却する場合、発振器等の主要部分に対しては、メイン給水系統3から十分な流量の冷却水Wを供給して冷却を行うとともに、主要部分以外の一部の特定部分に対しては、流量はさほど必要としないが冷却水Wの水圧を確保できる別途のサブ給水系統4から冷却水Wを供給して冷却を行っている。これにより、メイン給水系統3から供給される冷却水Wによっては十分に冷却を行うことができない一部の狭い(細かい)機構等の特定部分における冷却を確保している。
【0030】
図1中、Mmはレーザ加工機Moの主要部分の負荷(メイン負荷)の流量抵抗を等価的に示す。このメイン負荷Mmに対してはメイン給水系統3から冷却水Wが供給される。なお、例示のメイン負荷Mmにおける給水条件は、流量目標値Qwmが170〔L/min〕(揚程50〔m〕)以上、水圧目標値Pwmが0.5〔MPa〕である。また、Msはレーザ加工機Moの特定部分の負荷(サブ負荷)の流量抵抗を等価的に示す。このサブ負荷Msに対してはサブ給水系統3から冷却水Wが供給される。なお、例示のサブ負荷Msにおける給水条件は、流量目標値Qwsが20〔L/min〕(揚程80〔m〕)以上、水圧目標値Pwmが0.8〔MPa〕以上である。
【0031】
以下、設置及び設定の手順について説明する。まず、レーザ加工機Moに多系統冷却装置1を接続する(ステップS1)。この場合、多系統冷却装置1の吐出口21mを、開閉バルブ24mを介してレーザ加工機Moにおけるメイン負荷Mmの上流側に接続するとともに、このメイン負荷Mmの下流側を、開閉バルブ25mを介して多系統冷却装置1の戻り口22mに接続する。また、多系統冷却装置1の吐出口21sを、開閉バルブ24sを介してサブ負荷Msの上流側に接続するとともに、サブ負荷Msの下流側を、開閉バルブ25sを介して多系統冷却装置1の戻り口22sに接続する。そして、流量設定回路9及び水圧設定回路10はいずれも初期状態、即ち、遮断状態にする(ステップS2)。
【0032】
次いで、多系統冷却装置1の運転スイッチをONにして運転を開始する(ステップS3)。多系統冷却装置1の運転時には、メイン圧送ポンプ6及びサブ圧送ポンプ8の作動により、冷却液タンク2に収容された冷却液Wは、共有送水ラインLoを通って分岐部7に至り、分岐部7により一方のメイン送水ラインLmと他方のサブ送水ラインLsに分岐する。一方のメイン送水ラインLmに流入した冷却水Wは、このメイン送水ラインLmを通り、吐出口21mからレーザ加工機Moのメイン負荷Mmに供給されるとともに、他方のサブ送水ラインLsに流入した冷却水Wは、サブ圧送ポンプ8により送出され、サブ送水ラインLsを通り、吐出口21sからレーザ加工機Moのサブ負荷Msに供給される。この際、共有送水ラインLoを流れる冷却水Wは、冷却器11により冷却(熱交換)される。また、メイン負荷Mmに供給された冷却水Wは、当該メイン負荷Mmにより加熱(熱交換)され、使用後の冷却水Wは、メイン戻りラインLmrを通して冷却液タンク2に戻されるとともに、サブ負荷Msに供給された冷却水Wは、当該サブ負荷Msにより加熱(熱交換)され、使用後の冷却水Wは、サブ戻りラインLsrを通して冷却液タンク2に戻される。
【0033】
今、このような運転状態において、サブ送水ラインLsの流量Qwが40〔L/min〕、メイン送水ラインLmの流量Qwが160〔L/min〕であった場合を想定する。この場合、前述したように、サブ送水ラインLsの流量Qwに対する給水条件、即ち、目標流量値Qwsは、20〔L/min〕以上であるが、サブ送水ラインLs側における流量Qwの確保は、さほど重要ではないため、流量設定回路9により流量を可変調整し、20〔L/min〕分をサブ送水ラインLsからメイン送水ラインLmにバイパスさせ、サブ送水ラインLsの流量Qwを20〔L/min〕に設定する(ステップS4,S5)。このときの流量Qwは流量計30により確認できる。なお、サブ送水ラインLsの水圧Pwに対する給水条件、即ち、目標水圧値Pwsは、0.8〔L/min〕以上であるが、目標水圧値Pwsについては、予め、サブ圧送ポンプ8の出力選定により確保される。
【0034】
このように、流量設定回路9の可変調整により、サブ送水ラインLsの流量Qwを最適化できるとともに、同時に、メイン送水ラインLmの流量Qwを160〔L/min〕から180〔L/min〕へ増加させることができる。したがって、メイン送水ラインLm側の流量Qwに余裕を持たせることができるとともに、使用時の目減り防止にも寄与できる。一方、メイン送水ラインLmの流量Qwの増加により、メイン送水ラインLm側の水圧Pwも上昇する(ステップS6,S7)。メイン送水ラインLm側の目標水圧値Pwmは、0.5〔MPa〕であるため、流量Qwの増加により水圧が0.6〔MPa〕まで上昇したとすれば、水圧設定回路10により流量を可変調整し、メイン送水ラインLmの冷却水Wの一部を冷却液タンク2に戻すことにより、メイン送水ラインLmの水圧Pwを0.5〔MPa〕に設定する(ステップS8,S9)。このときの水圧Pwは水圧計31により確認できる。以上により給水設定が終了する(ステップS10)。
【0035】
なお、図3には、本実施形態に係る多系統冷却装置(実施装置)1及び比較例に係る一般的な多系統冷却装置(比較装置)1xにおける動作状態及びポンプ消費電力を対比して示す。図3(aa)及び(ab)は、実施装置1の原理回路図及び実験データ表をそれぞれ示し、図3(ba)及び(bb)は、比較装置1xの原理回路図及び実験データ表をそれぞれ示す。比較装置1xは、完全に独立した二つの給水系統、即ち、冷却液タンク2とメイン負荷Mm(図示を省略)を接続するメイン送水ラインLmxにメイン圧送ポンプ6xを接続したメイン給水系統3x,及び冷却液タンク2とサブ負荷Ms(図示を省略)を接続するサブ送水ラインLsxにサブ圧送ポンプ8xを接続したサブ給水系統4xを備えている。また、Vm及びVsは、共に流量又は水圧を制限するリリーフバルブである。さらに、図4には実施装置1の特性図を示す。
【0036】
実施装置1と比較装置1xを比較すれば、いずれもメイン負荷及びサブ負荷に対する給水条件を満たしている。即ち、いずれもメイン負荷に対する流量が170〔L/min〕以上の給水条件を満たしているとともに、サブ負荷に対する流量が20〔L/min〕以上の給水条件を満たしている。この場合、実施装置1では、比較装置1xのサブ圧送ポンプ8xに対して出力を1/4程度まで小型化(0.4〔kW〕)した、より小型のサブ圧送ポンプ8を用いており、結果的に、サブ圧送ポンプ8の消費電力は半分以下になっているとともに、メイン圧送ポンプ6を含めた全体の消費電力も10〔%〕程度低減していることを確認できる。
【0037】
このように、本実施形態に係る給水設定方法によれば、サブ給水系統4におけるサブ圧送ポンプ8の揚程を小さくできるとともに、メイン給水系統3とサブ給水系統4間の融通性を高めることができる。したがって、特にサブ圧送ポンプ8の小型化が可能になるとともに、サブ給水系統4の余力をメイン給水系統3に利用するなどにより、冷却水Wに対する利用の高効率化及び最適化を図ることができる。この結果、必要な流量Qw及び水圧Pwを確保しつつ全体の電力消費低減により省エネルギ性を高めることができる。また、冷却液タンク2からメイン圧送ポンプ6により共有送水ラインLoに送出された冷却水Wを少なくとも二系統に分岐し、一方の冷却水Wをメイン給水系統3のメイン送水ラインLmを通して被冷却物Mに供給し、かつ他方の冷却水Wをサブ圧送ポンプ8により送出することによりサブ給水系統4のサブ送水ラインLsを通して被冷却物Mに供給するとともに、サブ送水ラインLsとメイン送水ラインLm間に接続した流量設定回路9によりサブ送水ラインLsの流量Qwを設定し、さらに、メイン送水ラインLmと冷却液タンク2間に接続した水圧設定回路10によりメイン送水ラインLmの水圧Pwを設定するようにしたため、給水系統の全体における一部の共有化及び相互間の融通性向上により、全体の小型化及び軽量化、更にはコストダウンを実現できる。
【0038】
次に、本発明の変更実施形態に係る多系統冷却装置1について、図5及び図6を参照して説明する。
【0039】
図5は、図1に示した多系統冷却装置1のサブ圧送ポンプ8の下流側におけるサブ送水ラインLsとメイン戻りラインLmr(冷却液タンク2)間に、水圧制限用のリリーフバルブ12を接続したものである。サブ圧送ポンプ8により送出される冷却水Wは、前述したように、被冷却物Mの主要部分以外の一部の狭い機構等のサブ負荷Msに供給されるため、水圧Pwを確保する必要がある。しかし、反面、その構造上、水圧Pwが高くなり過ぎることは悪影響も生じやすい。そのため、水圧制限用のリリーフバルブ12を接続し、例えば、リミッタ値を0.9〔MPa〕に設定することにより、水圧Pwを0,8〜0.9〔MPa〕に制限し、サブ負荷Ms側における一部の狭い(細かい)機構等を高水圧に対して保護することができる。
【0040】
図6は、図1に示した多系統冷却装置1に対してコントローラ51による制御系を追加したものである。51sはコントローラ51に接続した操作部を示す。図1に示した多系統冷却装置1に備える流量設定回路9及び水圧設定回路10は、いわば手動操作を想定したものであるが、図6に示す多系統冷却装置1は、コントローラ51からの制御信号により駆動制御可能な流量設定回路9及び水圧設定回路10を用いたものである。したがって、水圧計29,31及び流量計30,32はコントローラ51に対して検出信号を付与可能なタイプを用いる。この多系統冷却装置1によれば、操作部51sの自動給水設定ボタンのONによりコントローラ51の自動設定モードが起動する。これにより、コントローラ51は、水圧計29,31及び流量計30,32からの検出信号を監視しつつ、図2に示したフローチャートに従って流量設定回路9及び水圧設定回路10を駆動制御し、給水設定を自動で行う。このため、コントローラ51は、マイコン(マイクロコンピュータ)を搭載、即ち、CPU及びメモリ等を内蔵したコンピュータ機能を有し、多系統冷却装置1の全体の制御を司る機能に加えて、自動設定モードを実行するシーケンス制御プログラムを格納している。
【0041】
以上、好適実施形態及び変更実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0042】
例えば、多系統冷却装置1として、メイン給水系統3とサブ給水系統4の二系統を備えるタイプを示したが、さらに、給水系統を追加して三系統以上で構成してもよい。この場合、例示したメイン給水系統3とサブ給水系統4の二系統を基本として他の給水系統を追加することができる。また、メイン戻りラインLmrとサブ戻りラインLsrを設けて冷却水Wを循環させる循環式に構成した場合を示したが、冷却水Wを循環させることなく廃棄する非循環式に構成する場合を排除するものではない。一方、共有送水ラインLoに、当該共有送水ラインLoを流れる冷却水Wを冷却する冷却器11を接続した場合を示したが、メイン戻りラインLmrとサブ戻りラインLsrを合流させ、この合流させたラインに冷却器11を接続するなど、他の接続形態を排除するものではない。なお、冷却器11は、冷凍サイクルCを用いたが、ペルチェ素子を利用したサーモモジュール等の他の冷却器の使用であってもよい。また、冷凍サイクルC及びサーモモジュールは冷却器又は加熱器として機能させることができるため、本発明における「冷却」とは「加熱」も含む概念である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る多系統冷却装置1及びその給水設定方法は、レーザ加工機をはじめ、複数系統により冷却液を供給する各種被冷却物の冷却に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1:多系統冷却装置,2:冷却液タンク,3:メイン給水系統,4:サブ給水系統,5:共有系統,6:メイン圧送ポンプ,7:分岐部,8:サブ圧送ポンプ,9:流量設定回路,10:水圧設定回路,11:冷却器,12:リリーフバルブ,W:冷却液,M:被冷却物,Lo:共有送水ライン,Lm:メイン送水ライン,Ls:サブ送水ライン,Lmr:メイン戻りライン,Lsr:サブ戻りライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液が収容された冷却液タンクから第一の給水条件により冷却水を被冷却物に供給するメイン給水系統と、前記冷却液タンクから第二の給水条件により冷却水を被冷却物に供給するサブ給水系統とを備えてなる多系統冷却装置であって、前記冷却液タンクからメイン圧送ポンプにより冷却水を共有送水ラインに送出する共有系統と、前記共有送水ラインに送出された冷却水を少なくとも二系統に分岐する分岐部と、分岐した一方の冷却水をメイン送水ラインを通して前記被冷却物に供給するメイン給水系統と、分岐した他方の冷却水をサブ圧送ポンプにより送出することにより、サブ送水ラインを通して被冷却物に供給するサブ給水系統と、前記サブ送水ラインと前記メイン送水ライン間に接続して当該サブ送水ラインの流量を設定可能な流量設定回路と、前記メイン送水ラインと前記冷却液タンク間に接続して当該メイン送水ラインの水圧を設定可能な水圧設定回路とを備えてなることを特徴とする多系統冷却装置。
【請求項2】
前記メイン給水系統から被冷却物に供給された冷却水を前記冷却液タンクに戻すメイン戻りライン,及び前記サブ給水系統から被冷却物に供給された冷却水を前記冷却液タンクに戻すサブ戻りラインを備えることを特徴とする請求項1記載の多系統冷却装置。
【請求項3】
前記共有送水ラインには、当該共有送水ラインを流れる冷却水を冷却する冷却器を接続することを特徴とする請求項1又は2記載の多系統冷却装置。
【請求項4】
前記サブ送水ラインと冷却液タンク間には、水圧制限用のリリーフバルブを接続することを特徴とする請求項1,2又は3記載の多系統冷却装置。
【請求項5】
冷却液が収容された冷却液タンクから第一の給水条件によりメイン給水系統を介して被冷却物に冷却水を供給するとともに、前記冷却液タンクから第二の給水条件によりサブ給水系統を介して被冷却物に冷却水を供給するための多系統冷却装置の給水設定方法であって、前記冷却液タンクからメイン圧送ポンプにより共有送水ラインに送出された冷却水を少なくとも二系統に分岐し、分岐した一方の冷却水をメイン給水系統のメイン送水ラインを通して前記被冷却物に供給し、かつ分岐した他方の冷却水をサブ圧送ポンプにより送出することにより、サブ給水系統のサブ送水ラインを通して前記被冷却物に供給するとともに、前記サブ送水ラインと前記メイン送水ライン間に接続した流量設定回路により前記サブ送水ラインの流量を目標流量値に設定し、この後、前記メイン送水ラインと前記冷却液タンク間に接続した水圧設定回路により前記メイン送水ラインの水圧を目標水圧値に設定することを特徴とする多系統冷却装置の給水設定方法。
【請求項6】
前記共有送水ラインを流れる冷却水は、冷却器により冷却することを特徴とする請求項5記載の多系統冷却装置の給水設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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