多結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンウエハ、多結晶シリコン太陽電池、および、多結晶シリコンインゴットの製造方法
【課題】廉価にゲッタリング効果を得つつ高品質化を図る。
【解決手段】溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させることにより生成させた多結晶シリコンインゴットであって、上端部および下端部における酸素濃度が、この上端部とこの下端部との間の中央部における酸素濃度より高い。また、上端部における酸素濃度が下端部における酸素濃度より高い。
【解決手段】溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させることにより生成させた多結晶シリコンインゴットであって、上端部および下端部における酸素濃度が、この上端部とこの下端部との間の中央部における酸素濃度より高い。また、上端部における酸素濃度が下端部における酸素濃度より高い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンウエハ、多結晶シリコン太陽電池、および、多結晶シリコンインゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池などに用いられる多結晶シリコンインゴットの製造方法として、キャスト法により製造されたインゴットからウエハを切り出す方法が広く用いられている。
【0003】
キャスト法とは、鋳型となる坩堝内で溶融シリコンを凝固させてシリコンインゴットを製造する方法である。溶融シリコンを坩堝内で凝固させる方法としては、固体状のシリコン原料を坩堝内に投入し、溶解させて溶融シリコンにした後、同一の坩堝内でシリコン溶湯を凝固させる方法、または、固体状のシリコン原料を坩堝内に投入し、溶解させて溶融シリコンにした後、別の坩堝内に溶融シリコンを移し、その坩堝内で溶融シリコンを凝固させる方法などがある。
【0004】
キャスト法においては、シリコンインゴットを製造する際に、坩堝の底部から一方向に温度勾配をつけながら溶融シリコンを凝固させることで、偏析係数が小さな金属不純物類(Fe,Al,Tiなど)をシリコンインゴットの上端部に凝集させて、上端部以外の部分の金属不純物濃度を数ppm程度にまで低減可能な一方向凝固が広く行なわれている。金属不純物濃度の高い上端部分を取り除いたシリコンインゴットからウエハを製造することにより、不純物濃度の少ないウエハが得られる。
【0005】
しかしながら、上記の製造方法によりウエハを製造する場合、溶融シリコンを一方向に凝固させた後の冷却工程において、多結晶シリコンインゴットの上端部に偏析させた金属不純物が、この上端部の下方に熱拡散することがある。この場合、多結晶シリコンインゴットにおいて上端部以外の部分の不純物濃度が高くなるため、この多結晶シリコンインゴットから切り出されたウエハから形成された基板に設けられた太陽電池の出力特性が低下する。
【0006】
半導体デバイス製造プロセス中においてウエハを高温処理することにより酸素析出欠陥を形成し、その歪応力によってウエハ中の金属不純物などをゲッターするゲッタリングが広く用いられている。たとえば、800℃の温度において酸素欠陥の核を形成し、1000℃の温度において析出成長させることによりゲッタリングを行なってウエハの品質を向上している。
【0007】
ゲッタリングを行なう半導体シリコンウエハの製造方法を開示した先行文献として、特許文献1(特開平7−86289号公報)がある。特許文献1に記載された半導体シリコンウエハの製造方法においては、シリコンウエハの一方の面に多結晶シリコン堆積層を設け、不活性ガス、還元性ガスまたはこれらの混合ガス中で熱処理してシリコンウエハの他方の面近傍から酸素を放出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−86289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウエハにおけるゲッタリングには、高温のデバイスプロセスおよび長い処理時間が必要となるため処理コストが高くなる問題がある。さらに、基板を長時間高温処理するため、転位などの結晶欠陥が発生しやすくなる。そのため、ウエハにおいてゲッタリングすることにより不純物の影響を低減することは可能となるが、そのウエハから形成された基板に設けられた太陽電池の出力特性を安定して向上することができない。
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、廉価にゲッタリング効果を得つつ高品質化を図れる、多結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンウエハ、多結晶シリコン太陽電池、および、多結晶シリコンインゴットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に基づく多結晶シリコンインゴットは、溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させることにより生成させた多結晶シリコンインゴットである。多結晶シリコンインゴットにおいては、上端部および下端部における酸素濃度が、この上端部とこの下端部との間の中央部における酸素濃度より高い。また、上端部における酸素濃度が下端部における酸素濃度より高い。
【0012】
本発明に基づく多結晶シリコンウエハは、上記の多結晶シリコンインゴットを切断することにより形成されている。
【0013】
本発明に基づく多結晶シリコン太陽電池は、上記の多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む。
【0014】
本発明に基づく多結晶シリコンインゴットの製造方法は、坩堝内でシリコンを加熱して溶融させる溶融工程と、坩堝を冷却して、溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させる一方向凝固工程と、溶融シリコン中に酸素を導入する酸素導入工程とを備える。
【0015】
本発明の一形態においては、坩堝は、溶融工程においてすべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコンの液面より上方で、かつ、一方向凝固工程においてすべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴットの上端面より下方の位置の内面上に酸素含有体を有している。一方向凝固工程において、溶融シリコンが下方から順に凝固するにしたがって溶融シリコンの凝固膨張により溶融シリコンの液面が上昇する。酸素導入工程において、溶融シリコンと酸素含有体とが接触して溶融シリコン中に酸素含有体から酸素が拡散する。
【0016】
本発明の一形態においては、一方向凝固工程にて溶融シリコンが50%以上凝固した後、酸素導入工程において溶融シリコン中に酸素含有粉体を投入する。
【0017】
本発明の一形態においては、一方向凝固工程にて溶融シリコンが50%以上凝固した後、酸素導入工程において溶融シリコン中に酸素ガスを供給する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、廉価にゲッタリング効果を得つつ高品質化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度の分布を示すグラフである。
【図2】同発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を示すフローチャートである。
【図3】同実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を実施するための製造装置の構成を示す一部断面図である。
【図4】同実施形態に係る坩堝内において、シリコンがすべて溶融した状態を示す断面図である。
【図5】同実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。
【図6】同実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態2に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。
【図8】同実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態3に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。
【図10】同実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【図11】比較例および各実施例における多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度の分布を示すグラフである。
【図12】比較例および各実施例における多結晶シリコンインゴットから切り出された多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む多結晶シリコン太陽電池の最大出力分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンインゴットについて図を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度の分布を示すグラフである。図1においては、縦軸に酸素濃度、横軸に多結晶シリコンインゴットの高さ方向における位置を示している。
【0022】
なお、多結晶シリコンインゴットの位置は、下端を0、上端を1としている。また、多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度は、多結晶シリコンインゴットの下端部における酸素濃度を1として規格化している。
【0023】
図1に示すように、多結晶シリコンインゴットの酸素濃度は、下端部から上方に行くにしたがって低下し、0.75程度から一転して上方に行くにしたがって増加している。上端部における酸素濃度は、下端部の約1.5倍になっている。
【0024】
このように、本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットにおいては、上端部および下端部における酸素濃度が、この上端部とこの下端部との間の中央部における酸素濃度より高い。また、上端部における酸素濃度が下端部における酸素濃度より高い。
【0025】
上記のように多結晶シリコンインゴットの酸素濃度が下端部から上方に行くにしたがって低下する理由は、坩堝からシリコン結晶内に拡散する酸素量が坩堝の下面から離れるにしたがって減少するためである。坩堝からシリコン結晶内に拡散する酸素量は、坩堝とシリコンとの接触面積に依存し、下面から離れた位置においては坩堝の側面からのみ酸素が拡散することになって低下する。
【0026】
一方、多結晶シリコンインゴットの酸素濃度が、0.75程度の高さから上方に行くにしたがって増加する理由は、後述するように、溶融シリコン中に酸素を導入したためである。
【0027】
本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットにおいては、上端部に高酸素濃度領域が設けられることにより、この高酸素濃度領域に酸素析出欠陥を発生させてゲッタリングサイトとすることができる。その結果、金属不純物を酸素析出欠陥に固着させて捕獲することにより、多結晶シリコンインゴットの上端部より下方に金属不純物が拡散することを抑制できる。
【0028】
このように生成された多結晶シリコンインゴットの中央部からから切り出された多結晶シリコンウエハは、不純物濃度が低く、かつ、結晶欠陥が少ない高品質のウエハである。その多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む多結晶シリコン太陽電池は、安定して高い出力特性を示す。
【0029】
以下、上記の多結晶シリコンインゴットを製造するための本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法について図面を参照して説明する。
【0030】
(実施形態1)
図2は、本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を示すフローチャートである。
【0031】
図2に示すように、本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法は、坩堝内でシリコンを加熱して溶融させる溶融工程(S100)と、坩堝を冷却して、溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させる一方向凝固工程(S101)と、溶融シリコン中に酸素を導入する酸素導入工程(S102)とを備える。
【0032】
図3は、本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を実施するための製造装置の構成を示す一部断面図である。なお、図3においては、後述する酸素含有体を図示していない。
【0033】
図3に示すように、本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を実施するための製造装置1は、ステンレスからなる略直方体状の筐体2を含む。筐体2の上部には、後述するガス供給管5の一端を筐体2の内部に導入するための開口3が設けられている。筐体2の下部に、筐体2内を排気するための排気口4が設けられている。
【0034】
筐体2の内部に、坩堝6が配置されている。坩堝6は、載置台8上に載置されている。坩堝6は、シリカで構成されている。ただし、坩堝6の材質はシリカに限らずグラファイトなどでもよい。坩堝6の内面には、溶融シリコンとの反応を防止するために、窒化珪素粉7が塗布されている。窒化珪素粉7は、乾燥された後、焼結されている。
【0035】
載置台8は、支持台9上に載置されている。載置台8および支持台9は、高い熱伝導性および耐熱性を有する材料で形成されている。支持台9は、下部で支持部12に接続されている。支持部12は、矢印13で示すように上下に移動可能となるように、筐体2の外に配置された駆動部11に接続されている。駆動部11は、モータを有している。
【0036】
駆動部11は、筐体2の外に配置された冷却部14と接続されている。冷却部14は、冷却媒体を駆動部11および支持部12の内部で循環させることにより、駆動部11および支持部12を冷却している。冷却部14は、ポンプおよび熱交換器を有している。冷却部14により支持部12を冷却することにより、支持台9および載置台8を介して、坩堝6の底部を冷却することができる。
【0037】
坩堝6の周囲に抵抗加熱ヒータ16が配置されている。抵抗加熱ヒータ16は、筐体2の外に配置された電源15に接続されている。
【0038】
支持台9の上方に断熱材からなる中蓋10が配置されている。中蓋10は、抵抗加熱ヒータ16の周囲を囲む側壁部と、支持台9に対向する天井部とを有している。天井部には、ガス供給管5の一端を中蓋10の内側に導入するための孔が設けられている。側壁部と天井部とに囲まれた中蓋10の内側が加熱領域17となる。
【0039】
加熱領域17には、図示しない熱電対が配置されている。熱電対は電源15に接続されている。熱電対による測定温度が電源15にフィードバックされることにより、抵抗加熱ヒータ16への印加電圧が制御される。
【0040】
ガス供給管5の一端は加熱領域17内において坩堝6の上方に位置し、他端は筐体2の外に配置された図示しないガス供給部に接続されている。ガス供給部から送られるArなどの不活性ガスは、ガス供給管5の内部を通過して加熱領域17内に供給される。ガス供給部は、各種のガスを貯蔵した複数のガスボンベおよびマスフローコントローラを含む。
【0041】
排気口4は、筐体2の外に配置された図示しない排気部に接続されている。排気部は、各種の真空ポンプを含む。加熱領域17内に供給された不活性ガスは、排気口4を通過して筐体2の外部に排出される。
【0042】
図4は、本実施形態に係る坩堝内において、シリコンがすべて溶融した状態を示す断面図である。図5は、本実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。図6は、本実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【0043】
図4に示すように、本実施形態に係る坩堝6は、溶融工程(S100)においてすべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より上方の位置の内面上に酸素含有体19を有している。
【0044】
具体的には、窒化珪素粉7上に、シリカなどからなる酸素含有物の粉体を塗布し、乾燥させた後、焼結させることにより酸素含有体19を形成する。ただし、酸素含有体19の材料はシリカに限らず、酸化物などの酸素をシリコン結晶に導入可能な材料であればよい。
【0045】
酸素含有体19を上記の位置に設けることにより、シリコンがすべて溶融した状態においては、溶融シリコン20と酸素含有体19とは接触していない。そのため、酸素含有体19から導入される酸素が溶融シリコン20の全体に拡散することを防止できる。
【0046】
図5に示すように、一方向凝固工程(S101)において、溶融シリコン20が下方から順に凝固するにしたがって溶融シリコン20の凝固膨張により溶融シリコン20の液面21は上昇する。凝固膨張によりシリコンの体積は、約8%増加する。
【0047】
一方向凝固工程(S101)において溶融シリコンが70%程度凝固した段階で、下端部および中央部に位置するシリコンは凝固して多結晶シリコンインゴット22となり、上端部に位置するシリコンは溶融シリコン20として残存している。
【0048】
この段階で、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23は、酸素含有体19より下方に位置している。溶融シリコン20と酸素含有体19とは接触して、溶融シリコン20中に酸素含有体19から酸素が拡散している。すなわち、酸素導入工程(S102)に入っている。なお、酸素導入工程(S102)は、溶融シリコン20が完全に凝固する前に行なわれればよい。
【0049】
図6に示すように、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した段階で、酸素含有体19は完全に多結晶シリコンインゴット22内に取り込まれている。すなわち、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴット22の上端面24より下方の位置に、酸素含有体19が設けられている。
【0050】
上記のように酸素含有体19を配置することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部に高酸素濃度領域22aを設けることができる。この高酸素濃度領域22aに酸素析出欠陥を発生させることによりゲッタリングサイトとすることができる。その結果、金属不純物を酸素析出欠陥に固着させて捕獲することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部より下方に金属不純物が拡散することを抑制できる。
【0051】
なお、一方向凝固工程(S101)において溶融シリコン20が50%以上凝固した際の溶融シリコン20の液面21より高い位置から、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴット22の上端面24より下方の位置まで酸素含有体19を設けることにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部のみに高酸素濃度領域22aを設けることができる。このようにした場合、多結晶シリコンインゴット22の中央部に酸素析出欠陥が現れることを抑制できる。
【0052】
本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法では、ウエハ形成後に高温処理を伴うゲッタリングを行なう必要がないため、廉価にゲッタリング効果を得つつ高品質の基板を得ることができる。
【0053】
以下、本発明の実施形態2に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法について図面を参照して説明する。なお、本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法は、酸素導入工程(S102)における酸素の導入方法のみ実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法と異なるため、他の工程については説明を繰り返さない。
【0054】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。図8は、本実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【0055】
図7に示すように、本実施形態においては、酸素導入工程(S102)において、溶融シリコン20中に酸素含有粉体を投入する。具体的には、一方向凝固工程(S101)において溶融シリコンが70%程度凝固した段階で、投入器28内のシリカ粉末などの酸素含有粉体29を坩堝6内に残存している溶融シリコン20に投入する。
【0056】
その後、溶融シリコン20の温度を一定時間保持することにより対流による撹拌を行ない、溶融シリコン20中の酸素濃度を均一化する。なお、酸素導入工程(S102)は、溶融シリコン20が50%以上凝固した後、溶融シリコン20が完全に凝固する前に行なわれればよい。
【0057】
図8に示すように、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した段階で、酸素含有粉体29は完全に多結晶シリコンインゴット22内に取り込まれている。
【0058】
上記のように酸素含有粉体29を投入することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部にのみ高酸素濃度領域22bを設けることができる。この高酸素濃度領域22bに酸素析出欠陥を発生させることによりゲッタリングサイトとすることができる。その結果、金属不純物を酸素析出欠陥に固着させて捕獲することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部より下方に金属不純物が拡散することを抑制できる。
【0059】
以下、本発明の実施形態3に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法について図面を参照して説明する。なお、本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法は、酸素導入工程(S102)における酸素の導入方法のみ実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法と異なるため、他の工程については説明を繰り返さない。
【0060】
(実施形態3)
図9は、本発明の実施形態3に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。図10は、本実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【0061】
図9に示すように、本実施形態においては、酸素導入工程(S102)において、溶融シリコン20中に酸素ガスを供給する。具体的には、一方向凝固工程(S101)において溶融シリコンが70%程度凝固した段階で、酸素ガス用配管38の一端を坩堝6内に残存している溶融シリコン20に浸漬し、酸素ガス用配管38を通じて溶融シリコン20中に酸素ガス39を流し込む。
【0062】
その後、溶融シリコン20の温度を一定時間保持することにより対流による撹拌を行ない、溶融シリコン20中の酸素濃度を均一化する。なお、酸素導入工程(S102)は、溶融シリコン20が50%以上凝固した後、溶融シリコン20が完全に凝固する前に行なわれればよい。
【0063】
図10に示すように、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した段階で、酸素ガス39は完全に多結晶シリコンインゴット22内に溶け込んでいる。
【0064】
上記のように酸素ガス39を供給することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部にのみ高酸素濃度領域22cを設けることができる。この高酸素濃度領域22cに酸素析出欠陥を発生させることによりゲッタリングサイトとすることができる。その結果、金属不純物を酸素析出欠陥に固着させて捕獲することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部より下方に金属不純物が拡散することを抑制できる。
【0065】
以下、実施形態1から3に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法でそれぞれ製造した多結晶シリコンインゴットの特性と、比較例として高酸素濃度領域を設けずに生成した多結晶シリコンインゴットの特性とを比較した実験例について説明する。
【0066】
(実験例)
比較例の多結晶シリコンインゴットを下記のように製造した。
【0067】
<比較例>
まず、約400kgの粒状または塊状のシリコンを坩堝6内に入れる。その後、排気部の真空ポンプを稼動させて筐体2内を減圧する。ガス供給管5から加熱領域17内にArガスを10リットル/分程度供給する。この状態で、筐体2内の圧力が0.6Pa以上0.9Pa以下程度となるように排気部による排気量を調節する。
【0068】
次に、電源15をONにして抵抗加熱ヒータ16に電圧を印加する。抵抗加熱ヒータ16に電圧が印加されることにより、加熱領域17内の温度が上昇する。本実験例においては、加熱領域17内の温度を1550℃まで上昇させて2時間保持する。融点が1410℃であるシリコンは、坩堝6内で完全に融解する。
【0069】
その後、溶融シリコン20の温度が融点付近になるように抵抗加熱ヒータ16に印加する電圧を下げる。融点より少し高い温度まで溶融シリコン20が冷却されると、駆動部11を稼動させて支持部12を下方に移動させつつ、抵抗加熱ヒータ16に印加する電圧をさらに下げる。
【0070】
支持部12が下降することにより、坩堝6の底部が加熱領域17の外側に位置するようになる。そこで、冷却部14を稼動することにより坩堝6の底部を冷却する。その結果、坩堝6は、底部から上部に向けて冷却される。溶融シリコン20を1℃/時間程度の冷却速度で徐冷する。その結果、坩堝6内において、底部から順に溶融シリコン20が凝固する。
【0071】
多結晶シリコンインゴットの温度が900℃付近まで下がると、ガス供給部から送られるガスをArからHeに変える。その後、多結晶シリコンインゴットを室温まで冷却する。
【0072】
このようにして得られた多結晶シリコンインゴットの酸素濃度を測定し、そのインゴットから切り出されたウエハを用いて太陽電池を製造し、その太陽電池の出力特性を調べた。
【0073】
<実施例1>
上記の比較例の多結晶シリコンインゴットの製造方法に、上述した実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法における酸素導入工程(S102)を追加して,実施例1の多結晶シリコンインゴットを製造した。
【0074】
本実施例においては、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より少し上方の位置から、すべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴット22の上端面24の位置まで、シリカの粉体を塗布し、乾燥させた後、焼結させた。
【0075】
このようにして得られた多結晶シリコンインゴットの酸素濃度を測定し、そのインゴットから切り出されたウエハを用いて太陽電池を製造し、その太陽電池の出力特性を調べた。
【0076】
<実施例2>
上記の比較例の多結晶シリコンインゴットの製造方法に、上述した実施形態2に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法における酸素導入工程(S102)を追加して,実施例2の多結晶シリコンインゴットを製造した。
【0077】
本実施例においては、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23の位置が、上方または同じ高さになった段階で、シリカ粉末を投入した。
【0078】
シリカ粉末を投入した後、対流による撹拌を行なうために、支持部12の下降、および、抵抗加熱ヒータ16に印加する電圧の低下を一時中断して、溶融シリコン20の温度を2時間保持した。その後、再び、支持部12の下降、および、抵抗加熱ヒータ16に引加する電圧の低下を再開した。
【0079】
このようにして得られた多結晶シリコンインゴットの酸素濃度を測定し、そのインゴットから切り出されたウエハを用いて太陽電池を製造し、その太陽電池の出力特性を調べた。
【0080】
<実施例3>
上記の比較例の多結晶シリコンインゴットの製造方法に、上述した実施形態3に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法における酸素導入工程(S102)を追加して,実施例3の多結晶シリコンインゴットを製造した。
【0081】
本実施例においては、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23の位置が、上方または同じ高さになった段階で、酸素ガス用配管38の一端を坩堝6内に残存している溶融シリコン20に浸漬し、酸素ガス用配管38を通じて溶融シリコン20中に酸素ガス39を流し込んだ。
【0082】
酸素ガスを流し込んだ後、対流による撹拌を行なうために、支持部12の下降、および、抵抗加熱ヒータ16に印加する電圧の低下を一時中断して、溶融シリコン20の温度を2時間保持した。その後、再び、支持部12の下降、および、抵抗加熱ヒータ16に引加する電圧の低下を再開した。
【0083】
このようにして得られた多結晶シリコンインゴットの酸素濃度を測定し、そのインゴットよりスライスしたウエハを用いて太陽電池を製造し、その太陽電池の出力特性を調べた。
【0084】
図11は、比較例および各実施例における多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度の分布を示すグラフである。図11においては、縦軸に酸素濃度、横軸に多結晶シリコンインゴットの高さ方向における位置を示している。
【0085】
なお、多結晶シリコンインゴットの位置は、下端を0、上端を1としている。また、多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度は、多結晶シリコンインゴットの下端部における酸素濃度を1として規格化している。
【0086】
図11に示すように、比較例の多結晶シリコンインゴットにおいては、下端部から上方に行くにしたがって酸素濃度が低下している。実施例1から3の多結晶シリコンインゴットにおいては、上端部および下端部における酸素濃度が、この上端部とこの下端部との間の中央部における酸素濃度より高くなっていた。また、上端部における酸素濃度が下端部における酸素濃度より高くなっていた。
【0087】
実施例1の多結晶シリコンインゴットは、実施例2および実施例3の多結晶シリコンインゴットに比べて、上端部の近傍における中央部において酸素濃度が高くなった。これは、実施例1において、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21のすぐ近くまでシリカ粉体を塗布したためである。そのため、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23がシリカ粉体の下端と同じ高さに達する前に、溶融シリコン20とシリカ粉体とが接触して、中央部に位置する溶融シリコン20中にも酸素が拡散したためである。
【0088】
実施例2および実施例3においては、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23の位置が、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より、上方または同じ高さになった段階で酸素を導入したため、多結晶シリコンインゴット22の上部1割程度の範囲に高酸素濃度領域22b,22cが形成されている。
【0089】
図12は、比較例および各実施例における多結晶シリコンインゴットから切り出された多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む多結晶シリコン太陽電池の最大出力分布を示すグラフである。図12においては、縦軸に最大出力、横軸に多結晶シリコンインゴットの高さ方向における位置を示している。
【0090】
なお、多結晶シリコンインゴット22の位置は、下端を0、上端を1としている。また、最大出力は、多結晶シリコンインゴット22の下端部から切り出された多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む多結晶シリコン太陽電池の最大出力を1として規格化している。
【0091】
図12に示すように、実施例1から3に係る多結晶シリコン太陽電池の最大出力は、多結晶シリコンインゴット22の上部から切り出されたウエハから形成された基板を含む太陽電池において、比較例に係る多結晶シリコン太陽電池の最大出力より高かった。
【0092】
実施例1に係る多結晶シリコン太陽電池の最大出力が、実施例2および実施例3に係る多結晶シリコン太陽電池の最大出力より、多結晶シリコンインゴット22の上部の近傍における中央部から切り出されたウエハから形成された基板を含む太陽電池において高い最大出力を示したのは、上述の多結晶シリコンインゴット22中における酸素濃度の影響が現れたためである。
【0093】
本実験例により、多結晶シリコンインゴット22の上端部に高酸素濃度領域を形成することによって、ゲッタリング効果を得つつ多結晶シリコンインゴット22の高品質化を図れることが実証された。
【0094】
今回開示された実施形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0095】
1 多結晶シリコンインゴットの製造装置、2 筐体、3 開口、4 排気口、5 ガス供給管、6 坩堝、7 窒化珪素粉、8 載置台、9 支持台、10 中蓋、11 駆動部、12 支持部、14 冷却部、15 電源、16 抵抗加熱ヒータ、17 加熱領域、19 酸素含有体、20 溶融シリコン、21 液面、22 多結晶シリコンインゴット、22a,22b,22c 高酸素濃度領域、23 界面、24 上端面、29 酸素含有粉体、38 酸素ガス用配管、39 酸素ガス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンウエハ、多結晶シリコン太陽電池、および、多結晶シリコンインゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池などに用いられる多結晶シリコンインゴットの製造方法として、キャスト法により製造されたインゴットからウエハを切り出す方法が広く用いられている。
【0003】
キャスト法とは、鋳型となる坩堝内で溶融シリコンを凝固させてシリコンインゴットを製造する方法である。溶融シリコンを坩堝内で凝固させる方法としては、固体状のシリコン原料を坩堝内に投入し、溶解させて溶融シリコンにした後、同一の坩堝内でシリコン溶湯を凝固させる方法、または、固体状のシリコン原料を坩堝内に投入し、溶解させて溶融シリコンにした後、別の坩堝内に溶融シリコンを移し、その坩堝内で溶融シリコンを凝固させる方法などがある。
【0004】
キャスト法においては、シリコンインゴットを製造する際に、坩堝の底部から一方向に温度勾配をつけながら溶融シリコンを凝固させることで、偏析係数が小さな金属不純物類(Fe,Al,Tiなど)をシリコンインゴットの上端部に凝集させて、上端部以外の部分の金属不純物濃度を数ppm程度にまで低減可能な一方向凝固が広く行なわれている。金属不純物濃度の高い上端部分を取り除いたシリコンインゴットからウエハを製造することにより、不純物濃度の少ないウエハが得られる。
【0005】
しかしながら、上記の製造方法によりウエハを製造する場合、溶融シリコンを一方向に凝固させた後の冷却工程において、多結晶シリコンインゴットの上端部に偏析させた金属不純物が、この上端部の下方に熱拡散することがある。この場合、多結晶シリコンインゴットにおいて上端部以外の部分の不純物濃度が高くなるため、この多結晶シリコンインゴットから切り出されたウエハから形成された基板に設けられた太陽電池の出力特性が低下する。
【0006】
半導体デバイス製造プロセス中においてウエハを高温処理することにより酸素析出欠陥を形成し、その歪応力によってウエハ中の金属不純物などをゲッターするゲッタリングが広く用いられている。たとえば、800℃の温度において酸素欠陥の核を形成し、1000℃の温度において析出成長させることによりゲッタリングを行なってウエハの品質を向上している。
【0007】
ゲッタリングを行なう半導体シリコンウエハの製造方法を開示した先行文献として、特許文献1(特開平7−86289号公報)がある。特許文献1に記載された半導体シリコンウエハの製造方法においては、シリコンウエハの一方の面に多結晶シリコン堆積層を設け、不活性ガス、還元性ガスまたはこれらの混合ガス中で熱処理してシリコンウエハの他方の面近傍から酸素を放出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−86289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウエハにおけるゲッタリングには、高温のデバイスプロセスおよび長い処理時間が必要となるため処理コストが高くなる問題がある。さらに、基板を長時間高温処理するため、転位などの結晶欠陥が発生しやすくなる。そのため、ウエハにおいてゲッタリングすることにより不純物の影響を低減することは可能となるが、そのウエハから形成された基板に設けられた太陽電池の出力特性を安定して向上することができない。
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、廉価にゲッタリング効果を得つつ高品質化を図れる、多結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンウエハ、多結晶シリコン太陽電池、および、多結晶シリコンインゴットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に基づく多結晶シリコンインゴットは、溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させることにより生成させた多結晶シリコンインゴットである。多結晶シリコンインゴットにおいては、上端部および下端部における酸素濃度が、この上端部とこの下端部との間の中央部における酸素濃度より高い。また、上端部における酸素濃度が下端部における酸素濃度より高い。
【0012】
本発明に基づく多結晶シリコンウエハは、上記の多結晶シリコンインゴットを切断することにより形成されている。
【0013】
本発明に基づく多結晶シリコン太陽電池は、上記の多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む。
【0014】
本発明に基づく多結晶シリコンインゴットの製造方法は、坩堝内でシリコンを加熱して溶融させる溶融工程と、坩堝を冷却して、溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させる一方向凝固工程と、溶融シリコン中に酸素を導入する酸素導入工程とを備える。
【0015】
本発明の一形態においては、坩堝は、溶融工程においてすべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコンの液面より上方で、かつ、一方向凝固工程においてすべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴットの上端面より下方の位置の内面上に酸素含有体を有している。一方向凝固工程において、溶融シリコンが下方から順に凝固するにしたがって溶融シリコンの凝固膨張により溶融シリコンの液面が上昇する。酸素導入工程において、溶融シリコンと酸素含有体とが接触して溶融シリコン中に酸素含有体から酸素が拡散する。
【0016】
本発明の一形態においては、一方向凝固工程にて溶融シリコンが50%以上凝固した後、酸素導入工程において溶融シリコン中に酸素含有粉体を投入する。
【0017】
本発明の一形態においては、一方向凝固工程にて溶融シリコンが50%以上凝固した後、酸素導入工程において溶融シリコン中に酸素ガスを供給する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、廉価にゲッタリング効果を得つつ高品質化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度の分布を示すグラフである。
【図2】同発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を示すフローチャートである。
【図3】同実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を実施するための製造装置の構成を示す一部断面図である。
【図4】同実施形態に係る坩堝内において、シリコンがすべて溶融した状態を示す断面図である。
【図5】同実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。
【図6】同実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態2に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。
【図8】同実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態3に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。
【図10】同実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【図11】比較例および各実施例における多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度の分布を示すグラフである。
【図12】比較例および各実施例における多結晶シリコンインゴットから切り出された多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む多結晶シリコン太陽電池の最大出力分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンインゴットについて図を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度の分布を示すグラフである。図1においては、縦軸に酸素濃度、横軸に多結晶シリコンインゴットの高さ方向における位置を示している。
【0022】
なお、多結晶シリコンインゴットの位置は、下端を0、上端を1としている。また、多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度は、多結晶シリコンインゴットの下端部における酸素濃度を1として規格化している。
【0023】
図1に示すように、多結晶シリコンインゴットの酸素濃度は、下端部から上方に行くにしたがって低下し、0.75程度から一転して上方に行くにしたがって増加している。上端部における酸素濃度は、下端部の約1.5倍になっている。
【0024】
このように、本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットにおいては、上端部および下端部における酸素濃度が、この上端部とこの下端部との間の中央部における酸素濃度より高い。また、上端部における酸素濃度が下端部における酸素濃度より高い。
【0025】
上記のように多結晶シリコンインゴットの酸素濃度が下端部から上方に行くにしたがって低下する理由は、坩堝からシリコン結晶内に拡散する酸素量が坩堝の下面から離れるにしたがって減少するためである。坩堝からシリコン結晶内に拡散する酸素量は、坩堝とシリコンとの接触面積に依存し、下面から離れた位置においては坩堝の側面からのみ酸素が拡散することになって低下する。
【0026】
一方、多結晶シリコンインゴットの酸素濃度が、0.75程度の高さから上方に行くにしたがって増加する理由は、後述するように、溶融シリコン中に酸素を導入したためである。
【0027】
本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットにおいては、上端部に高酸素濃度領域が設けられることにより、この高酸素濃度領域に酸素析出欠陥を発生させてゲッタリングサイトとすることができる。その結果、金属不純物を酸素析出欠陥に固着させて捕獲することにより、多結晶シリコンインゴットの上端部より下方に金属不純物が拡散することを抑制できる。
【0028】
このように生成された多結晶シリコンインゴットの中央部からから切り出された多結晶シリコンウエハは、不純物濃度が低く、かつ、結晶欠陥が少ない高品質のウエハである。その多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む多結晶シリコン太陽電池は、安定して高い出力特性を示す。
【0029】
以下、上記の多結晶シリコンインゴットを製造するための本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法について図面を参照して説明する。
【0030】
(実施形態1)
図2は、本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を示すフローチャートである。
【0031】
図2に示すように、本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法は、坩堝内でシリコンを加熱して溶融させる溶融工程(S100)と、坩堝を冷却して、溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させる一方向凝固工程(S101)と、溶融シリコン中に酸素を導入する酸素導入工程(S102)とを備える。
【0032】
図3は、本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を実施するための製造装置の構成を示す一部断面図である。なお、図3においては、後述する酸素含有体を図示していない。
【0033】
図3に示すように、本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法を実施するための製造装置1は、ステンレスからなる略直方体状の筐体2を含む。筐体2の上部には、後述するガス供給管5の一端を筐体2の内部に導入するための開口3が設けられている。筐体2の下部に、筐体2内を排気するための排気口4が設けられている。
【0034】
筐体2の内部に、坩堝6が配置されている。坩堝6は、載置台8上に載置されている。坩堝6は、シリカで構成されている。ただし、坩堝6の材質はシリカに限らずグラファイトなどでもよい。坩堝6の内面には、溶融シリコンとの反応を防止するために、窒化珪素粉7が塗布されている。窒化珪素粉7は、乾燥された後、焼結されている。
【0035】
載置台8は、支持台9上に載置されている。載置台8および支持台9は、高い熱伝導性および耐熱性を有する材料で形成されている。支持台9は、下部で支持部12に接続されている。支持部12は、矢印13で示すように上下に移動可能となるように、筐体2の外に配置された駆動部11に接続されている。駆動部11は、モータを有している。
【0036】
駆動部11は、筐体2の外に配置された冷却部14と接続されている。冷却部14は、冷却媒体を駆動部11および支持部12の内部で循環させることにより、駆動部11および支持部12を冷却している。冷却部14は、ポンプおよび熱交換器を有している。冷却部14により支持部12を冷却することにより、支持台9および載置台8を介して、坩堝6の底部を冷却することができる。
【0037】
坩堝6の周囲に抵抗加熱ヒータ16が配置されている。抵抗加熱ヒータ16は、筐体2の外に配置された電源15に接続されている。
【0038】
支持台9の上方に断熱材からなる中蓋10が配置されている。中蓋10は、抵抗加熱ヒータ16の周囲を囲む側壁部と、支持台9に対向する天井部とを有している。天井部には、ガス供給管5の一端を中蓋10の内側に導入するための孔が設けられている。側壁部と天井部とに囲まれた中蓋10の内側が加熱領域17となる。
【0039】
加熱領域17には、図示しない熱電対が配置されている。熱電対は電源15に接続されている。熱電対による測定温度が電源15にフィードバックされることにより、抵抗加熱ヒータ16への印加電圧が制御される。
【0040】
ガス供給管5の一端は加熱領域17内において坩堝6の上方に位置し、他端は筐体2の外に配置された図示しないガス供給部に接続されている。ガス供給部から送られるArなどの不活性ガスは、ガス供給管5の内部を通過して加熱領域17内に供給される。ガス供給部は、各種のガスを貯蔵した複数のガスボンベおよびマスフローコントローラを含む。
【0041】
排気口4は、筐体2の外に配置された図示しない排気部に接続されている。排気部は、各種の真空ポンプを含む。加熱領域17内に供給された不活性ガスは、排気口4を通過して筐体2の外部に排出される。
【0042】
図4は、本実施形態に係る坩堝内において、シリコンがすべて溶融した状態を示す断面図である。図5は、本実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。図6は、本実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【0043】
図4に示すように、本実施形態に係る坩堝6は、溶融工程(S100)においてすべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より上方の位置の内面上に酸素含有体19を有している。
【0044】
具体的には、窒化珪素粉7上に、シリカなどからなる酸素含有物の粉体を塗布し、乾燥させた後、焼結させることにより酸素含有体19を形成する。ただし、酸素含有体19の材料はシリカに限らず、酸化物などの酸素をシリコン結晶に導入可能な材料であればよい。
【0045】
酸素含有体19を上記の位置に設けることにより、シリコンがすべて溶融した状態においては、溶融シリコン20と酸素含有体19とは接触していない。そのため、酸素含有体19から導入される酸素が溶融シリコン20の全体に拡散することを防止できる。
【0046】
図5に示すように、一方向凝固工程(S101)において、溶融シリコン20が下方から順に凝固するにしたがって溶融シリコン20の凝固膨張により溶融シリコン20の液面21は上昇する。凝固膨張によりシリコンの体積は、約8%増加する。
【0047】
一方向凝固工程(S101)において溶融シリコンが70%程度凝固した段階で、下端部および中央部に位置するシリコンは凝固して多結晶シリコンインゴット22となり、上端部に位置するシリコンは溶融シリコン20として残存している。
【0048】
この段階で、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23は、酸素含有体19より下方に位置している。溶融シリコン20と酸素含有体19とは接触して、溶融シリコン20中に酸素含有体19から酸素が拡散している。すなわち、酸素導入工程(S102)に入っている。なお、酸素導入工程(S102)は、溶融シリコン20が完全に凝固する前に行なわれればよい。
【0049】
図6に示すように、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した段階で、酸素含有体19は完全に多結晶シリコンインゴット22内に取り込まれている。すなわち、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴット22の上端面24より下方の位置に、酸素含有体19が設けられている。
【0050】
上記のように酸素含有体19を配置することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部に高酸素濃度領域22aを設けることができる。この高酸素濃度領域22aに酸素析出欠陥を発生させることによりゲッタリングサイトとすることができる。その結果、金属不純物を酸素析出欠陥に固着させて捕獲することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部より下方に金属不純物が拡散することを抑制できる。
【0051】
なお、一方向凝固工程(S101)において溶融シリコン20が50%以上凝固した際の溶融シリコン20の液面21より高い位置から、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴット22の上端面24より下方の位置まで酸素含有体19を設けることにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部のみに高酸素濃度領域22aを設けることができる。このようにした場合、多結晶シリコンインゴット22の中央部に酸素析出欠陥が現れることを抑制できる。
【0052】
本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法では、ウエハ形成後に高温処理を伴うゲッタリングを行なう必要がないため、廉価にゲッタリング効果を得つつ高品質の基板を得ることができる。
【0053】
以下、本発明の実施形態2に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法について図面を参照して説明する。なお、本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法は、酸素導入工程(S102)における酸素の導入方法のみ実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法と異なるため、他の工程については説明を繰り返さない。
【0054】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。図8は、本実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【0055】
図7に示すように、本実施形態においては、酸素導入工程(S102)において、溶融シリコン20中に酸素含有粉体を投入する。具体的には、一方向凝固工程(S101)において溶融シリコンが70%程度凝固した段階で、投入器28内のシリカ粉末などの酸素含有粉体29を坩堝6内に残存している溶融シリコン20に投入する。
【0056】
その後、溶融シリコン20の温度を一定時間保持することにより対流による撹拌を行ない、溶融シリコン20中の酸素濃度を均一化する。なお、酸素導入工程(S102)は、溶融シリコン20が50%以上凝固した後、溶融シリコン20が完全に凝固する前に行なわれればよい。
【0057】
図8に示すように、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した段階で、酸素含有粉体29は完全に多結晶シリコンインゴット22内に取り込まれている。
【0058】
上記のように酸素含有粉体29を投入することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部にのみ高酸素濃度領域22bを設けることができる。この高酸素濃度領域22bに酸素析出欠陥を発生させることによりゲッタリングサイトとすることができる。その結果、金属不純物を酸素析出欠陥に固着させて捕獲することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部より下方に金属不純物が拡散することを抑制できる。
【0059】
以下、本発明の実施形態3に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法について図面を参照して説明する。なお、本実施形態に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法は、酸素導入工程(S102)における酸素の導入方法のみ実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法と異なるため、他の工程については説明を繰り返さない。
【0060】
(実施形態3)
図9は、本発明の実施形態3に係る坩堝内において、溶融シリコンの一部が凝固して溶融シリコンの液面が上昇した状態を示す断面図である。図10は、本実施形態に係る坩堝内において、溶融シリコンが完全に凝固した状態を示す断面図である。
【0061】
図9に示すように、本実施形態においては、酸素導入工程(S102)において、溶融シリコン20中に酸素ガスを供給する。具体的には、一方向凝固工程(S101)において溶融シリコンが70%程度凝固した段階で、酸素ガス用配管38の一端を坩堝6内に残存している溶融シリコン20に浸漬し、酸素ガス用配管38を通じて溶融シリコン20中に酸素ガス39を流し込む。
【0062】
その後、溶融シリコン20の温度を一定時間保持することにより対流による撹拌を行ない、溶融シリコン20中の酸素濃度を均一化する。なお、酸素導入工程(S102)は、溶融シリコン20が50%以上凝固した後、溶融シリコン20が完全に凝固する前に行なわれればよい。
【0063】
図10に示すように、一方向凝固工程(S101)においてすべてのシリコンが凝固した段階で、酸素ガス39は完全に多結晶シリコンインゴット22内に溶け込んでいる。
【0064】
上記のように酸素ガス39を供給することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部にのみ高酸素濃度領域22cを設けることができる。この高酸素濃度領域22cに酸素析出欠陥を発生させることによりゲッタリングサイトとすることができる。その結果、金属不純物を酸素析出欠陥に固着させて捕獲することにより、多結晶シリコンインゴット22の上端部より下方に金属不純物が拡散することを抑制できる。
【0065】
以下、実施形態1から3に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法でそれぞれ製造した多結晶シリコンインゴットの特性と、比較例として高酸素濃度領域を設けずに生成した多結晶シリコンインゴットの特性とを比較した実験例について説明する。
【0066】
(実験例)
比較例の多結晶シリコンインゴットを下記のように製造した。
【0067】
<比較例>
まず、約400kgの粒状または塊状のシリコンを坩堝6内に入れる。その後、排気部の真空ポンプを稼動させて筐体2内を減圧する。ガス供給管5から加熱領域17内にArガスを10リットル/分程度供給する。この状態で、筐体2内の圧力が0.6Pa以上0.9Pa以下程度となるように排気部による排気量を調節する。
【0068】
次に、電源15をONにして抵抗加熱ヒータ16に電圧を印加する。抵抗加熱ヒータ16に電圧が印加されることにより、加熱領域17内の温度が上昇する。本実験例においては、加熱領域17内の温度を1550℃まで上昇させて2時間保持する。融点が1410℃であるシリコンは、坩堝6内で完全に融解する。
【0069】
その後、溶融シリコン20の温度が融点付近になるように抵抗加熱ヒータ16に印加する電圧を下げる。融点より少し高い温度まで溶融シリコン20が冷却されると、駆動部11を稼動させて支持部12を下方に移動させつつ、抵抗加熱ヒータ16に印加する電圧をさらに下げる。
【0070】
支持部12が下降することにより、坩堝6の底部が加熱領域17の外側に位置するようになる。そこで、冷却部14を稼動することにより坩堝6の底部を冷却する。その結果、坩堝6は、底部から上部に向けて冷却される。溶融シリコン20を1℃/時間程度の冷却速度で徐冷する。その結果、坩堝6内において、底部から順に溶融シリコン20が凝固する。
【0071】
多結晶シリコンインゴットの温度が900℃付近まで下がると、ガス供給部から送られるガスをArからHeに変える。その後、多結晶シリコンインゴットを室温まで冷却する。
【0072】
このようにして得られた多結晶シリコンインゴットの酸素濃度を測定し、そのインゴットから切り出されたウエハを用いて太陽電池を製造し、その太陽電池の出力特性を調べた。
【0073】
<実施例1>
上記の比較例の多結晶シリコンインゴットの製造方法に、上述した実施形態1に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法における酸素導入工程(S102)を追加して,実施例1の多結晶シリコンインゴットを製造した。
【0074】
本実施例においては、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より少し上方の位置から、すべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴット22の上端面24の位置まで、シリカの粉体を塗布し、乾燥させた後、焼結させた。
【0075】
このようにして得られた多結晶シリコンインゴットの酸素濃度を測定し、そのインゴットから切り出されたウエハを用いて太陽電池を製造し、その太陽電池の出力特性を調べた。
【0076】
<実施例2>
上記の比較例の多結晶シリコンインゴットの製造方法に、上述した実施形態2に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法における酸素導入工程(S102)を追加して,実施例2の多結晶シリコンインゴットを製造した。
【0077】
本実施例においては、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23の位置が、上方または同じ高さになった段階で、シリカ粉末を投入した。
【0078】
シリカ粉末を投入した後、対流による撹拌を行なうために、支持部12の下降、および、抵抗加熱ヒータ16に印加する電圧の低下を一時中断して、溶融シリコン20の温度を2時間保持した。その後、再び、支持部12の下降、および、抵抗加熱ヒータ16に引加する電圧の低下を再開した。
【0079】
このようにして得られた多結晶シリコンインゴットの酸素濃度を測定し、そのインゴットから切り出されたウエハを用いて太陽電池を製造し、その太陽電池の出力特性を調べた。
【0080】
<実施例3>
上記の比較例の多結晶シリコンインゴットの製造方法に、上述した実施形態3に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法における酸素導入工程(S102)を追加して,実施例3の多結晶シリコンインゴットを製造した。
【0081】
本実施例においては、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23の位置が、上方または同じ高さになった段階で、酸素ガス用配管38の一端を坩堝6内に残存している溶融シリコン20に浸漬し、酸素ガス用配管38を通じて溶融シリコン20中に酸素ガス39を流し込んだ。
【0082】
酸素ガスを流し込んだ後、対流による撹拌を行なうために、支持部12の下降、および、抵抗加熱ヒータ16に印加する電圧の低下を一時中断して、溶融シリコン20の温度を2時間保持した。その後、再び、支持部12の下降、および、抵抗加熱ヒータ16に引加する電圧の低下を再開した。
【0083】
このようにして得られた多結晶シリコンインゴットの酸素濃度を測定し、そのインゴットよりスライスしたウエハを用いて太陽電池を製造し、その太陽電池の出力特性を調べた。
【0084】
図11は、比較例および各実施例における多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度の分布を示すグラフである。図11においては、縦軸に酸素濃度、横軸に多結晶シリコンインゴットの高さ方向における位置を示している。
【0085】
なお、多結晶シリコンインゴットの位置は、下端を0、上端を1としている。また、多結晶シリコンインゴットにおける酸素濃度は、多結晶シリコンインゴットの下端部における酸素濃度を1として規格化している。
【0086】
図11に示すように、比較例の多結晶シリコンインゴットにおいては、下端部から上方に行くにしたがって酸素濃度が低下している。実施例1から3の多結晶シリコンインゴットにおいては、上端部および下端部における酸素濃度が、この上端部とこの下端部との間の中央部における酸素濃度より高くなっていた。また、上端部における酸素濃度が下端部における酸素濃度より高くなっていた。
【0087】
実施例1の多結晶シリコンインゴットは、実施例2および実施例3の多結晶シリコンインゴットに比べて、上端部の近傍における中央部において酸素濃度が高くなった。これは、実施例1において、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21のすぐ近くまでシリカ粉体を塗布したためである。そのため、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23がシリカ粉体の下端と同じ高さに達する前に、溶融シリコン20とシリカ粉体とが接触して、中央部に位置する溶融シリコン20中にも酸素が拡散したためである。
【0088】
実施例2および実施例3においては、多結晶シリコンインゴット22と溶融シリコン20との界面23の位置が、すべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコン20の液面21より、上方または同じ高さになった段階で酸素を導入したため、多結晶シリコンインゴット22の上部1割程度の範囲に高酸素濃度領域22b,22cが形成されている。
【0089】
図12は、比較例および各実施例における多結晶シリコンインゴットから切り出された多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む多結晶シリコン太陽電池の最大出力分布を示すグラフである。図12においては、縦軸に最大出力、横軸に多結晶シリコンインゴットの高さ方向における位置を示している。
【0090】
なお、多結晶シリコンインゴット22の位置は、下端を0、上端を1としている。また、最大出力は、多結晶シリコンインゴット22の下端部から切り出された多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む多結晶シリコン太陽電池の最大出力を1として規格化している。
【0091】
図12に示すように、実施例1から3に係る多結晶シリコン太陽電池の最大出力は、多結晶シリコンインゴット22の上部から切り出されたウエハから形成された基板を含む太陽電池において、比較例に係る多結晶シリコン太陽電池の最大出力より高かった。
【0092】
実施例1に係る多結晶シリコン太陽電池の最大出力が、実施例2および実施例3に係る多結晶シリコン太陽電池の最大出力より、多結晶シリコンインゴット22の上部の近傍における中央部から切り出されたウエハから形成された基板を含む太陽電池において高い最大出力を示したのは、上述の多結晶シリコンインゴット22中における酸素濃度の影響が現れたためである。
【0093】
本実験例により、多結晶シリコンインゴット22の上端部に高酸素濃度領域を形成することによって、ゲッタリング効果を得つつ多結晶シリコンインゴット22の高品質化を図れることが実証された。
【0094】
今回開示された実施形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0095】
1 多結晶シリコンインゴットの製造装置、2 筐体、3 開口、4 排気口、5 ガス供給管、6 坩堝、7 窒化珪素粉、8 載置台、9 支持台、10 中蓋、11 駆動部、12 支持部、14 冷却部、15 電源、16 抵抗加熱ヒータ、17 加熱領域、19 酸素含有体、20 溶融シリコン、21 液面、22 多結晶シリコンインゴット、22a,22b,22c 高酸素濃度領域、23 界面、24 上端面、29 酸素含有粉体、38 酸素ガス用配管、39 酸素ガス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させることにより生成させた多結晶シリコンインゴットであって、
上端部および下端部における酸素濃度が、該上端部と該下端部との間の中央部における酸素濃度より高く、
前記上端部における酸素濃度が前記下端部における酸素濃度より高い、多結晶シリコンインゴット。
【請求項2】
請求項1に記載の多結晶シリコンインゴットを切断することにより形成された、多結晶シリコンウエハ。
【請求項3】
請求項2に記載の多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む、多結晶シリコン太陽電池。
【請求項4】
坩堝内でシリコンを加熱して溶融させる溶融工程と、
前記坩堝を冷却して、溶融シリコンを前記坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させる一方向凝固工程と、
溶融シリコン中に酸素を導入する酸素導入工程
とを備える、多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項5】
前記坩堝は、前記溶融工程においてすべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコンの液面より上方で、かつ、前記一方向凝固工程においてすべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴットの上端面より下方の位置の内面上に酸素含有体を有し、
前記一方向凝固工程において、溶融シリコンが下方から順に凝固するにしたがって溶融シリコンの凝固膨張により溶融シリコンの液面が上昇し、
前記酸素導入工程において、溶融シリコンと前記酸素含有体とが接触して溶融シリコン中に前記酸素含有体から酸素が拡散する、請求項4に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項6】
前記一方向凝固工程にて溶融シリコンが50%以上凝固した後、前記酸素導入工程において溶融シリコン中に酸素含有粉体を投入する、請求項4に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項7】
前記一方向凝固工程にて溶融シリコンが50%以上凝固した後、前記酸素導入工程において溶融シリコン中に酸素ガスを供給する、請求項4に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項1】
溶融シリコンを坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させることにより生成させた多結晶シリコンインゴットであって、
上端部および下端部における酸素濃度が、該上端部と該下端部との間の中央部における酸素濃度より高く、
前記上端部における酸素濃度が前記下端部における酸素濃度より高い、多結晶シリコンインゴット。
【請求項2】
請求項1に記載の多結晶シリコンインゴットを切断することにより形成された、多結晶シリコンウエハ。
【請求項3】
請求項2に記載の多結晶シリコンウエハから形成された基板を含む、多結晶シリコン太陽電池。
【請求項4】
坩堝内でシリコンを加熱して溶融させる溶融工程と、
前記坩堝を冷却して、溶融シリコンを前記坩堝内の下方から上方に向けて一方向に凝固させる一方向凝固工程と、
溶融シリコン中に酸素を導入する酸素導入工程
とを備える、多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項5】
前記坩堝は、前記溶融工程においてすべてのシリコンが溶融した際の溶融シリコンの液面より上方で、かつ、前記一方向凝固工程においてすべてのシリコンが凝固した際の多結晶シリコンインゴットの上端面より下方の位置の内面上に酸素含有体を有し、
前記一方向凝固工程において、溶融シリコンが下方から順に凝固するにしたがって溶融シリコンの凝固膨張により溶融シリコンの液面が上昇し、
前記酸素導入工程において、溶融シリコンと前記酸素含有体とが接触して溶融シリコン中に前記酸素含有体から酸素が拡散する、請求項4に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項6】
前記一方向凝固工程にて溶融シリコンが50%以上凝固した後、前記酸素導入工程において溶融シリコン中に酸素含有粉体を投入する、請求項4に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項7】
前記一方向凝固工程にて溶融シリコンが50%以上凝固した後、前記酸素導入工程において溶融シリコン中に酸素ガスを供給する、請求項4に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−112580(P2013−112580A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261676(P2011−261676)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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