説明

多結晶シリコン製造設備

【課題】頻度の高い軽度或いは中度の地震に対しても確実に機能が維持される免震構造が低コストで施された多結晶シリコン製造設備を提供する。
【解決手段】電極上に立設されたシリコン芯材3に、化学気相析出法によりシリコンを析出・成長させて多結晶シリコンロッド3を得るための反応容器2が工場建屋内に配設された多結晶シリコン製造設備において、反応容器2内の多結晶シリコンロッド3に対して免震構造が施されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場建屋内に配設された多結晶シリコン製造設備に関するものであり、より詳細には、頻度の高い軽度或いは中度の地震に対して免震構造が施された多結晶シリコン製造設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンの最も一般的な製造方法として、例えば特許文献1に記載されているように、高純度シリコンの芯線を電流加熱し、加熱された芯線上でトリクロロシランを水素と反応させて多結晶シリコンを芯線上に析出させるという化学的気相法が知られている。このような方法では、シリコンの芯線は、一対の電極上に逆U字型に立設されており、従って、多結晶シリコンは逆U字型ロッド状の形態で得られる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−240934
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような多結晶シリコン(以下、単に「シリコン」ともいう。)を製造するための製造設備が配設された工場建屋に関して、シリコンロッドの転倒を防止するための地震対策を施すことが必要である。
【0005】
上記地震対策の手段としては、工場建屋全体を免震構造とすることが一般的である。しかしながら、建屋全体の免震構造は、建築基準法に準拠し、大地震に対しての建屋の損傷を防止することを目標としている。従って、このような目標のために施される免震構造は、頻度の高い軽度或いは中度の地震、具体的には、震度5以下程度の地震に対して、シリコンロッドの転倒を防止するという観点からは満足し得るものではなかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、頻度の高い軽度或いは中度の地震に対して、シリコンロッドの転倒が有効に防止され、設備機能が確実に維持される免震構造が施された多結晶シリコン製造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に対して、本発明者等は、下記の知見:
(a)前記頻度の高い軽度或いは中度の地震を分析したところ、その加速度のピーク周期が、シリコンロッドの固有周期と重なっており、その状態においては、容易にロッドの転倒限界加速度に達し、ロッドの転倒を招くこと;
(b)シリコンロッドの限界加速度が極めて小さいこと;
(c)通常、建造物の免震構造は、その固有周期より数倍長い固有周期となるように設定されるが、工場建屋や多結晶シリコン製造設備の固有周期は、シリコンロッドに対して一般に短い値を示し、これを基準として免震構造を施した場合、設定される固有周期がシリコンロッドの固有周期より短いか或いは十分長くないため、シリコンロッドの免震を十分行うことができないこと;
に基づき、シリコン製造設備についての免震構造を検討し、上記のように建造物を基準とせず、その中に存在するシリコンロッドに対して前記免震構造を施すことにより、その免震効果を十分に発揮することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、電極上に立設されたシリコン芯材に、化学気相析出法によりシリコンを析出・成長させて多結晶シリコンロッドを得るための反応容器が工場建屋内に配設された多結晶シリコン製造設備において、
前記反応容器内の多結晶シリコンロッドに対して免震構造が施されていることを特徴とする多結晶シリコン製造設備が提供される。
【0009】
本発明の多結晶シリコン製造設備においては、
(1)1または複数の反応容器が支持架台に配設され、該支持架台が、地盤に固定された工場建屋の基礎基台或いは該基礎基台に固定された支持台に免震機構を介して支持されていることにより免震構造が形成されていること、
(2)前記支持架台を複数有しており、該複数の支持架台のそれぞれに1もしくは2以上の反応容器が配設されており、該複数の支持架台のそれぞれが、独立して前記基礎基台或いは前記支持台に免震機構を介して支持されていること、
(3)前記免震構造の固有周期が、前記多結晶シリコンロッドの最大固有周期よりも長くなるように設定されていること、
(4)前記免震構造の固有周期が、前記多結晶シリコンロッドの最大固有周期の1.5乃至20倍の範囲となるように設定されていること、
(5)前記免震機構として、転がり支承及び復元用積層ゴムを組み合せたこと、
(6)前記免震機構として、さらに、滑り支承または粘性ダンパーを組み合せたこと、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
従来、建築物の免震構造を施す上で、例えば、部屋の花瓶の転倒防止のために免震を施すようなことはせず、建築物に対して免震を施すのが常識である。しかるに、本発明は、工場建屋やその中に配設される多結晶シリコン製造設備に対してではなく、多結晶シリコンロッドに対して免震構造が施すという従来の常識とは全く異なる新規な手段を採用した点に重要な特徴を有するものであり、このような手段を採用したことにより、頻度の高い軽度或いは中度の地震(例えば震度5以下程度の地震)に対して、多結晶シリコンロッドの転倒を確実に防止することができる。
【0011】
また、本発明では、多結晶シリコンロッドに対して免震構造を施せばよいため、工場建屋全体を免震する必要はなく、後述するように、工場建屋に配設される多結晶シリコン製造設備からシリコンロッドを支持する構造に至る小規模の範囲に対して免震構造を施すだけでよい。そして、かかる小規模の免震を施すことによって、免震装置が小型化できるため、効率もよく、経済性の点でも有利である。
尚、上記したように、免震を小規模の範囲に対して施した場合、本発明が想定している、頻度の高い軽度或いは中度の地震に対して、工場建屋等は、耐震性を有していれば十分であり、高度な免震を特に必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を、以下、添付図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の多結晶シリコン製造設備の平面図であり、
図2は、図1の多結晶シリコン製造設備のA−A’断面図である。
【0013】
図1及び図2(特に図2)を参照して、全体として1で表される本発明のシリコン製造設備は、支持架台1に固定された反応容器2を有している。反応容器2は、耐熱性に優れ且つ化学的に不活性な材料で形成され、且つ密閉された構造を有している。この反応容器2内には、所定の電極(図示せず)を介して逆U字型のシリコン芯線3aが立設されており、また、支持架台1の下方から原料ガスを供給するためのガス管9が反応容器2内に延びている。さらに図示されていないが、シリコン芯線3aに接合されている電極に電流を印加するための電気配線が、上記のガス管9と同様に反応容器2内に延びて、電極に接続されている。
【0014】
即ち、上記のガス管9からトリクロロシランや水素などの原料ガスが反応容器2内に供給され、この状態でシリコン芯線3aを通電加熱することにより、シリコン芯線3a上に多結晶シリコンが析出し、成長することにより、多結晶シリコンロッド3が形成されることとなる。従って、得られる多結晶シリコンロッド(以下、単にシリコンロッドと呼ぶ)3は、シリコン芯線3aと一体化され、逆U字型形状を有するものとなる。
【0015】
本発明の多結晶シリコン製造設備においては、免震構造の一態様として、上記の支持架台1が免震機構を介して固定床4に支持されており、この免震機構により、上述したシリコンロッドに対して免震構造が施されている。尚、固定床4とは、地盤に固定された工場建屋の基礎基台或いは該基礎基台に固定された支持台を意味するものである。
【0016】
本発明によれば、前述したシリコンロッドに対して免震構造が施されているため、前記地震に対して、該シリコンロッドの転倒を安定且つ確実に防止することができる。即ち、多結晶シリコン製造設備の固定床4、支持架台1、反応容器2等、シリコンロッドを間接的に保持している設備は、上記シリコンロッドより固有周期が短いため、これらの設備に対して、換言すれば、これらの設備の固有周期を基準にして、常識的な範囲で免震構造を施しても、シリコンロッドの転倒を安定且つ確実に防止することができない。
【0017】
また、シリコンロッドに対しての免震構造は、前記したように、シリコンロッドの固有周期よりも免震構造の周期を長くすることにより実現することができる。
【0018】
ところで、シリコンロッド3は、先に説明したように、反応ガスを反応容器2内に供給しての化学的気相反応によりシリコン芯線3aと一体的に形成されるものであり、反応の進行に従って径及び重量が増大する。従って、シリコンロッド3の振動に対する固有周期は、反応の進行とともに変化することとなる。このような固有周期の変化形態は、この設備の仕様(反応容器2の容積やシリコンロッド3の長さ、その他の反応条件)によって異なるため、設備の仕様に応じて、振動測定法により固有周期の変化形態を解析してシリコンロッド3の最大固有周期を把握しておき、免震構造の周期(以下、免震周期と呼ぶ。具体的には、図2、3において、免震機構により支持されている支持架台1の周期)が、この最大固有周期よりも長くなるように免震機構を設計するのがよい。これにより、シリコンロッドの成長過程の如何なる時点においても、免震周期をシリコンロッドの固有周期よりも長くすることができ、確実且つ安定した免震構造を確保することができる。
【0019】
尚、シリコンロッド3の固有周期は、一般に、反応容器において成長前のシリコン芯線3aの状態において最大値を採ることが多い。また、シリコン芯線3aの固有周期の測定は、具体的には、非接触法としてレーザー光線による変位計測(レーザー振動計による)により、常温において行うことができる。
【0020】
本発明において、上記の免震周期は、シリコンロッド3の最大固有周期の1.5乃至20倍、特に、2乃至7倍の範囲に設定しておくのがよい。即ち、この範囲よりも免震周期が短い場合には、シリコンロッド3に対する免震が不十分となり、シリコンロッド3の倒壊防止効果が低減する。また、免震周期が上記範囲よりも大きい場合には、免震構造が大掛かりとなってしまい、コストが著しく増大してしまうばかりか、免震構造の確保に用いる転がり支承による移動幅(免震機構の変形量)が大きくなり、後述するガス管を蛇腹としたり、電気配線をフレキシブルにしたりしたとしても、破損し易くなるという問題を生じる。
【0021】
上記のような免震構造を付与するための免震機構は、それ自体公知の手段を採用することができ、特に、免震周期を長くするという観点から、転がり支承と復元用積層ゴムとの組合せが好適に使用される。
【0022】
転がり支承は、基板上に小径の鋼球を多数配置した構造を有するものであり、摩擦係数の小さい鋼球で荷重を支持することにより、地盤の揺れの伝達を遮断するものであり、長周期免震に適している。図1及び図2の例では、転がり支承は5で示されている。
【0023】
また、復元用積層ゴムは、揺れにより生じた変形を元に復元する機能を有している。図1及び図2の例では、復元用積層ゴムは6で示されており、支持架台1が復元用積層ゴム6で保持されている。復元用積層ゴム6の復元力を調整することによって長周期化を制御することができる。
【0024】
また、図1及び図2の例では、上記の転がり支承5及び復元積層ゴム6と共に、粘性ダンパー7及び滑り支承8により、支持架台1が固定床4に支持されている。オイルダンパーの如き粘性ダンパー7や滑り支承8は、振動を減衰させる部材であり、このような部材を併用することにより、例えば震度が5程度以下の地震に対してもシリコンロッド3の倒壊を一層確実に防止することができる。
【0025】
このように、本発明においては、例えば、図3に示されているように、適度な支持面積を有する転がり支承5の複数個を分散配置し、このような転がり支承5を介して支持架台1を固定床4に支持せしめると同時に、適度な数の復元積層ゴム6や滑り支承8(及び/または粘性ダンパー7)をさらに分散配置し、これらの部材を介して支持架台1を固定床4に支持することが、一層優れた免震性を発現させる上で好適である。
【0026】
さらに図2を参照して、支持架台1の周縁部と固定床4との間にゴム等の緩衝材10を設けておくことが好ましい(図2では、固定床4の側面に緩衝材10が取り付けられている)。即ち、このような緩衝材10を設けることにより、振動に際しての支持架台1と固定床4との衝突による衝撃を緩和し、衝撃による支持架台1上の各種設備の破損を有効に防止することができる。
【0027】
また、ガス管9の破損等を有効に防止するためには、ガス管9を蛇腹とし、衝撃を緩和し得る構造とすることが好適である。また、ガス管9などと共に取り付けられる各種の配線(図示せず)もフレキシブルなものとするのがよい。
【0028】
上述した本発明においては、1個の支持架台1にシリコンロッド3(シリコン芯線3a)が立設されている反応容器2を一つ配置する構造とすることもできるが、通常、多数の反応容器2を配置してシリコンロッド3が量産されるため、支持架台1には、複数の反応容器2を配設した構造とすることが、効率の点で好ましい。しかるに、工場建屋内に配設される反応容器2の全てを一つの支持架台1上に配設することは、免震構造がかなり大掛かりなものとなってしまい、コスト的にも不利となる。従って、一般的には、一つの支持架台1上には、2〜6程度の数の反応容器2を設け、このような支持架台1を複数、配設することが好適である。例えば、図1に示されている例では、一つの支持架台1に6個の反応容器2が設けられ、このような支持架台1が6個配置されている。この場合、複数の支持架台1のそれぞれについて、前述した免震機構が施されている。
【実施例】
【0029】
<実験例1>
近年の頻度の高い中度の地震についてのシリコンロッド加速度応答スペクトルのピークと、シリコンロッドの固有周期との関係を図4に示す。
【0030】
上記地震に対して、図1、2に示す免震構造を利用して、転がり支承5、復元用積層ゴム6及び滑り支承8を組み合せて図3に示すように配置した免震構造により、シリコンロッドの最大固有周期の2.5倍の固有周期を持つように免震を施した。このときのシリコンロッド加速度応答スペクトルのピークとシリコンロッドの固有周期との関係を図5に示した。図5において、横軸の1はシリコンロッドの最大固有周期を示し、縦軸の1はシリコンロッドの倒壊限界加速度を示す(図4においても同様)。図5に示すように、前記地震のシリコンロッド加速度応答スペクトルのピーク周期及びその周辺部のピークは、シリコンロッドの固有周期を十分外れて長周期化されていることにより、シリコンロッドの採り得る固有周期帯において、シリコンロッドの転倒限界加速度を超えるピークも存在していない。従って、シリコンロッドの固有周期の範囲内では、シリコンロッドの転倒限界加速度以下となり、シリコンロッドの転倒が有効に防止できることが理解される。かかる図5は、シリコンロッドの固有周期の2,5倍となるように免震構造を施し、横軸1(シリコンロッドの最大固有周期)以下の領域のシリコンロッドの加速度応答スペクトルをシリコンロッドの倒壊限界加速度以下に低減した例であるが、この固有周期に対して長周期化を図るほど、確実に地震の加速度のピークをシリコンロッドの転倒限界加速度以下とすることができ、特にシリコンロッドの固有周期の3倍以上の免震構造とすることにより、一層確実にシリコンロッドの転倒限界加速度以下とすることができる。
【0031】
以上の実験結果から、シリコンロッドを基準とし、その最大固有周期よりも長く免震周期を設定することにより、振動によるシリコンロッドの倒壊を有効に防止し、地震に際しての多結晶シリコン製造設備の機能を有効に維持できることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の多結晶シリコン製造設備の平面図
【図2】図1の多結晶シリコン製造設備のA−A’断面図
【図3】支持架台における免震機構の配置の一例を示す平面図
【図4】免震を施す前のシリコンロッド加速度応答スペクトルのピークと、シリコンロッドの固有周期の範囲との関係を示すグラフ
【図5】実験例1において、免震を施した後のシリコンロッド加速度応答スペクトルのピークと、シリコンロッドの固有周期の範囲との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0033】
1支持架台
2:反応容器
3:シリコンロッド
4:固定床
5:転がり支承
6:復元積層ゴム
7:粘性ダンパー
8:滑り支承
9:ガス管
10:緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極上に立設されたシリコン芯材に、化学気相析出法によりシリコンを析出・成長させて多結晶シリコンロッドを得るための反応容器が工場建屋内に配設された多結晶シリコン製造設備において、
前記反応容器内の多結晶シリコンロッドに対して免震構造が施されていることを特徴とする多結晶シリコン製造設備。
【請求項2】
1または複数の反応容器が支持架台に配設され、該支持架台が、地盤に固定された工場建屋の基礎基台或いは該基礎基台に固定された支持台に免震機構を介して支持されていることにより免震構造が形成されている請求項1に記載の多結晶シリコン製造設備。
【請求項3】
前記支持架台を複数有しており、該複数の支持架台のそれぞれに1もしくは2以上の反応容器が配設されており、該複数の支持架台のそれぞれが、独立して前記基礎基台或いは前記支持台に免震機構を介して支持されている請求項2に記載の多結晶シリコン製造設備。
【請求項4】
前記免震構造の固有周期が、前記多結晶シリコンロッドの最大固有周期よりも長くなるように設定されている請求項1乃至3の何れかに記載の多結晶シリコン製造設備。
【請求項5】
前記免震構造の固有周期が、前記多結晶シリコンロッドの最大固有周期の1.5乃至20倍の範囲となるように設定されている請求項1乃至4の何れかに記載の多結晶シリコン製造設備。
【請求項6】
前記免震機構として、転がり支承及び復元用積層ゴムを組み合せた請求項2に記載の多結晶シリコン製造設備。
【請求項7】
前記免震機構として、さらに、滑り支承又は粘性ダンパーを組み合せた請求項6に記載の多結晶シリコン製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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