説明

多軸ロボット

【課題】多軸ロボットにて、ケーブルの基台への挿入方向に沿う撓み部分の長さを短くする。
【解決手段】多軸ロボットは、中空の基台2と、アームの基端部を構成する中空の支持部材3と、該支持部材3と共に回転し、一端部が前記基台2内に回転自在に挿入されて、その内部空間が前記支持部材3の内部空間と基台2の内部空間に連通する案内管4とを備えている。基台2内に位置する案内管4の端部の周面には、切欠き43が形成され、モータケーブル5が案内管4の径方向外側から、案内管4の回転方向に平行な面内にて案内管4の外周面の周りに撓み部分50を形成するように切欠き43に至り、該切欠き43から案内管4の内側を通って前記支持部材3の内部空間に至るように延びる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用の多軸ロボットに関し、特にワーク塗装用の多軸ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
図10は、従来のワーク塗装用の多軸ロボットの側面図である(特許文献1参照)。図10は、特許文献1に図1として記載された図であり、参照符号及び構成部材の名称は本願の出願人が付与し直した。
多軸ロボット111は、基台112と、該基台112に取り付けられた旋回体100と、該旋回体100に枢支部C1を中心として回転可能に取り付けられた第1アーム110と、該第1アーム110の先端部に枢支部C2を中心として回転可能に取り付けられた第2アーム120と、該第2アーム120の先端部に軸線L2を中心に回転可能に取り付けられた塗装ガン14を備える。多軸ロボット1は、密閉された塗装ブース75内に配置されて、塗装ガン14から噴射した塗料が塗装ブース75の外側に飛散することを防いでいる。
【0003】
基台112は、内側に固定部130と、該固定部130に対して軸線L1を中心に回転可能に設けられた可動部140を有する。可動部140に前記旋回体100が設けられ、旋回体100は軸線L1を中心に回転する。第1アーム110、第2アーム120、塗装ガン14、可動部140は、専用のモータ(図示せず)にて回転駆動される。基台2から塗装ガン14に向けて延びるように、可撓性長尺体150が設けられ、該可撓性長尺体150には、各モータに通電するモータケーブルと、塗装ガン14に塗料を搬送するチューブが含まれる。第1アーム110、第2アーム120、塗装ガン14は夫々回転するから、可撓性長尺体150はそれらの回転時に伸ばされる。かかる伸ばされた際に、可撓性長尺体150が切断等されることを防ぐべく、可撓性長尺体150は旋回体100の下方に、膨らみを下側に向けた略U字形の撓み部分50を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006―95614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の多軸ロボット111では、可撓性長尺体150が基台112を、当該基台112に接続された旋回体100の回転軸(軸線L1)上に延在するように挿通されている。このため、旋回体100の回転による可撓性長尺体150の伸張を考慮する必要は無い。しかしながら、多軸ロボット1には塗装において種々の使用態様が想定される。例えば、可撓性長尺体150が旋回体100の回転軸(軸線L1)に略垂直な方向から基台112に挿入されるような使用態様である場合には、基台112に接続された旋回体100の回転による可撓性長尺体150の伸張に対処する構成が必要とされる。また、塗装効率を考慮すると、塗装ブースを小さくするために、コンパクトに当該構成を実現することが必要とされる。
また、このような課題は、線条体を備える多軸ロボットにおいても共通に生じる。
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、基台に接続された回転体の回転による線状体の伸張に対処する構成をコンパクトに実現できる多軸ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多軸ロボットは、中空の基台と、該基台にその軸心を中心として回転可能に設けられ、アームの基端部を構成する中空の支持部材と、
前記支持部材に設けられて、該支持部材と共に回転し、一端部が前記基台内に回転自在に挿入されて、その内部空間が前記支持部材の内部空間と基台の内部空間に連通し、第1の線条体がその長手方向に沿って挿通される案内管とを備え、該案内管の回転中心と前記第1の線条体の中心はずれており、
前記基台内に位置する案内管の端部の周面には、第1の線条体が通る切欠きが形成され、
前記第1の線条体は、前記案内管の径方向外側から、案内管の回転方向に平行な面内にて案内管の外周面の周りに撓み部分を形成するように前記切欠きに至り、該切欠きから案内管の内側を通って前記支持部材の内部空間に至るように延びている。
【0007】
本発明に従えば、第1の線条体は、案内管の回転方向に平行な面内にて案内管の外周面の周りに撓み部分を形成するように延びた後に、案内管の切欠きを通る。即ち、第1の線条体は支持部材の回転軸方向とは略直交する面内にて、撓まされるので、支持部材の回転軸方向に沿う該撓み部分の長さを短くすることができる。
また、撓み部分は切欠きに至るので、撓み部分は案内管の両端間に設けられる。これによって、支持部材の回転軸方向に沿う基台の長さも短くすることができる。
更に、第1の線条体の径に合わせて、案内管の径を小さくすれば、撓み部分の撓み量を小さくすることができる。これにより、第1の線条体の全体長さも短くできる。
また、案内管が回転すると、案内管内で第1の線条体が捻られる一方、案内管の回転中心と前記第1の線条体の中心はずれているから、案内管内の第1の線条体の捻りと案内管周りの第1の線条体の撓み部分の変形の両方により、支持部材の回転が第1の線条体に与えるダメージ、具体的には第1の線条体の捻りと引っ張りを吸収する。これにより、第1の線条体の撓み部分の撓み量を少なくすることができる。
【0008】
上記発明において、前記案内管の前記切欠きには、該案内管の回りに揺動可能であり、且つ前記軸心に直交する方向に前記第1の線条体が挿通されるガイド孔を有するガイド部材が設けられており、
前記第1の線条体は前記案内管の径方向外側から、前記ガイド孔と前記切欠きを通って前記案内管に導入されている。
【0009】
上記構成に従えば、ガイド部材は第1の線条体がガイド孔に挿入された状態で、撓み部分が位置する面内と同じ面内を揺動することができる。これにより、ガイド部材は第1の線条体の伸縮に合わせて揺動して、第1の線条体の挙動を安定にすることができる。該第1の線条体の挙動を安定にすることで、第1の線条体が基台内にて不用意に擦れることを防止し、第1の線条体の寿命を延ばすことができる。更に、第1の線条体が複数の線条体の束で構成される場合、該線条体の束がばらけることを防止することができる。
【0010】
上記発明において、前記案内管は隔壁によって夫々該案内管の軸方向に延びる第1通路及び第2通路に区画され、
前記第1通路の一端は閉鎖され、且つ該第1通路は該一端において前記切欠きを通じて前記基台の内部空間に連通するとともに他端において前記支持部材の内部空間に連通し、
前記第2通路の両端は前記支持部材の開口部に繋がる外部空間及び前記基台の開口部に繋がる外部空間に連通し、
前記第1の線条体は通電用であって、前記第1通路に挿通され、
第2の線条体が前記基台の開口部から前記第2通路を通って、前記支持部材の外側へ延びる。
【0011】
上記構成に従えば、案内管内に第1の線条体と第2の線条体の2つを並列して通すことができるので、該第1の線条体と第2の線条体とが分離することがなく、コンパクトに収めることができる。
【0012】
上記発明において、前記基台、案内管の第1通路及び前記支持部材を構成する内部空間は、密閉された気密室とされる。
【0013】
上記構成に従えば、前記基台及び前記支持部材の外部の空気は、前記基台及び前記支持部材の内部空間内には入らない。これにより、通電用の第1の線条体が基台及び支持部材の外部の可燃性気体に触れることによる危険を回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る多軸ロボットにあっては、第1の線条体が支持部材の回転軸方向に沿う撓み部分の長さを短くすることができ、該多軸ロボットが配備されるブースを小型化することができる。
従って、基台に接続された支持部材が回転することによる第1の線状体の伸張に対処する構成をコンパクトに実現できる。
また、案内管内の第1の線条体の捻りと案内管周りの第1の線条体の撓み部分の変形の両方にて、支持部材の回転による第1の線条体の捻りと引っ張りを確実に吸収することができる。また、支持部材の回転範囲を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る多軸ロボットの構成とモータケーブルの配線状態を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る多軸ロボットの構成とチューブの配線状態を示す側面図である。
【図3】図1の基台と支持部材の回転軸周りの構成を示す平面視断面図である。
【図4】案内管の正面視断面図である。
【図5】案内管の斜視図であり、モータケーブル及びチューブが挿入された状態を示す。
【図6】図6(a)〜図6(d)は、支持部材の回転軸を中心とする回転に伴う、モータケーブルの挙動を示す図である。
【図7】図1の多軸ロボットのブラケットへの取付け態様を示す側面図である。
【図8】図1の多軸ロボットの壁面への取付け態様を示す側面図である。
【図9】案内管の他の構成例を示す断面図である。
【図10】従来の多軸ロボットの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図を参照しながら説明する。なお、以下では、全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付してその重複する説明を省略する。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る多軸ロボット1は、例えば、ワークへの塗装作業に用いられる産業用ロボットである。しかし、多軸ロボット1は、線条体を備えるものであれば、特に限定されない。
多軸ロボット1は基台2を備え、この基台2が例えば、壁面7に直交して設けられたターンテーブル70上に設けられている。該基台2には支持部材3、第1リンク10、第2リンク11、第1ハンド12、第2ハンド13及びアタッチメントである塗装ガン14がこの順で繋がっている。以下の記載では、壁面7から塗装ガン14に向かう方向を前方、その逆方向を後方とする。
【0017】
ターンテーブル70から塗装ガン14までの8つの要素は多軸ロボット1のアームを構成し、互いに回転可能に連結されている。つまり、支持部材3は基台2との連結部である第1ジョイントJT1の回転軸A1周りに回転可能であり、第1リンク10は、支持部材3との連結部である第2ジョイントJT2の回転軸A2周りに回転可能である。第2リンク11は、第1リンク10との連結部である第3ジョイントJT3の回転軸A3周りに回転可能であり、第1ハンド12は、第2リンク11との連結部である第4ジョイントJT4の回転軸A4周りに回転可能であり、第2ハンド13は第1ハンド12との連結部である第5ジョイントJT5の回転軸A5周りに回転可能である。塗装ガン14は第2ハンド13との連結部である第6ジョイントJT6の回転軸A6周りに回転可能である。更に、基台2はターンテーブル70との連結部である第7ジョイントJT7の回転軸A7周りに回転可能である。基台2と支持部材3は多軸ロボット1のアームの基端部を構成する。
【0018】
各ジョイントJT1〜JT7には、サーボモータ(図示せず)が設けられており、各サーボモータが動作することによって、これに対応する各要素の回転軸A1〜A7周りの回転が許される。各サーボモータは独立して回転可能であり、各要素を回転軸A1〜A7周りに互いに独立して回転させることにより、塗装ガン14を任意の姿勢で任意の位置に任意の移動路に沿って移動させることができる。
後記の如く、多軸ロボット1には、該多軸ロボット1の各サーボモータに通電するモータケーブル5と、塗料を供給するチューブ6とが配線される。モータケーブル5及びチューブ6は可撓性材料から形成されて、多少の捻りを許容する。
モータケーブル5は、本発明における第1の線条体の一例であり、チューブ6は本発明における第2の線条体の一例である。しかし、両線条体はモータケーブル5とチューブ6に限定されない。
塗装ガン14から噴射される塗料は、引火性且つ揮発性である。揮発性成分の拡散を防ぐべく、多軸ロボット1はその全体が、塗装ブース75内に収納される。
【0019】
図1には、前記モータケーブル5の配線状態が示されている。モータケーブル5は、例えば、電線の束を可撓性樹脂のシートで被覆して構成され、壁面7から出てターンテーブル70の下側からターンテーブル70に入り、1本の電線がターンテーブル70内の第7ジョイントJT7のサーボモータに接続される。
モータケーブル5は基台2に挿入されて、対応する電線が第1ジョイントJT1のサーボモータに接続され、支持部材3内にて対応する電線が第2ジョイントJT2のサーボモータに接続される。以降、モータケーブル5は、第1リンク10、第2リンク11、第1ハンド12、第2ハンド13内を通って、対応する電線が各ジョイントJT3〜JT6のサーボモータに接続される。
【0020】
ターンテーブル70から第2ハンド13までは、モータケーブル5が挿通する通路が形成されており、該通路内は、密閉された気密室とされ、且つ多軸ロボット1の外部よりも高圧となるように維持されている。具体的には、例えばターンテーブル70から第2ハンド13に至るまでの所定箇所に、前記通路に空気又は不活性ガスを供給するポンプ(図示せず)が設けられている。これは前記の如く、塗装ブース75は引火性且つ揮発性成分を含む雰囲気内にあるから、該雰囲気の空気が多軸ロボット1内に入り、モータケーブル5に触れることを防ぐ為である。即ち、引火性且つ揮発性成分を含む空気が、通電中のモータケーブル5に触れると、引火の危険があるから、かかる危険を防いでいるのである。
【0021】
図2は、多軸ロボット1の塗装ガン14に塗料を供給するチューブ6の配線状態を示す。チューブ6は可撓性を有する多数の細管(図示せず)の束を例えば可撓性シートで被覆して構成され、各細管に別々の色の揮発性塗料が流れる。壁面7において多軸ロボット1の上方には、チューブ6が通る略L字形の保護カバー71が設けられ、該保護カバー71の下端は基台2の後端部よりも前方に位置する。壁面7を通って保護カバー71の下端部から延出したチューブ6は、壁面7から離れて下向きに延び、基台2をその後端部から前方に向けて挿入される。
保護カバー71の下端から基台2の後端部に至るまでのチューブ6は撓まされて、ターンテーブル70から塗装ガン14までの8つの要素が回転しても、チューブ6が緊張することを防いでいる。
また、基台2はターンテーブル70との連結部である第7ジョイントJT7を中心に水平面内で回転するが、チューブ6は可撓性材料から形成されているので、多少の捻りを吸収する。
【0022】
チューブ6内には引火性且つ揮発性塗料が流れるので、電流が流れるモータケーブル5とチューブ6とが長い距離を沿うことは好ましくない。従って、チューブ6が多軸ロボット1の外側に配置されれば、この点は支障が無い。
しかし、チューブ6が多軸ロボット1の外側にて、基台2から塗装ガン14の各要素の回転に合わせて自由に動くと、例えばチューブ6が塗装対象のワークに接したり、壁面7に接する虞がある。チューブ6がワークに接すると、ワークに塗布された塗料がチューブ6に付着し、塗装品質に問題を生じる。また、チューブ6が壁面7に接すると、壁面7に付着した埃等がチューブ6によって落とされて塗装ブース75内を浮遊し、ワークに付着してやはり塗装品質に問題を生じる虞がある。チューブ6の挙動を抑えるために多軸ロボット1上に専用の部材を設けると、該多軸ロボット1の構成が複雑になる。
従って、保護カバー71にてチューブ6を壁面7に接触させないとともに、後記の如く、基台2と支持部材3の間にて、チューブ6の不用意な動きを簡素な構造で規制している。
【0023】
図2に示すように、基台2又は第2リンク11の何れかに、塗料を噴射させるべく加圧する塗装機器18が一点鎖線で示すように、選択的に配置される。塗装機器18内には例えば塗装すべき色に対応して、チューブ6内の各細管の閉止と開放を切り換える色変換バルブ(CCV、color change valve)が設けられる。塗装ガン14が塗装するワークは、例えば自動車のドアが想定され、基台2に配置される塗装機器18は主に該ドアの内側塗装用であり、第2リンク11に配置される塗装機器18は主に該ドアの外側塗装用である。これについては、後記する。
【0024】
図3は、図1の基台2と支持部材3の回転軸A1周りの構成を示す平面断面図であり、図1とは基台2と支持部材3を左右逆にして示す。基台2と支持部材3はともに中空であり、基台2と支持部材3の間には、前記サーボモータによって回転される回転体30が一点鎖線で示すように設けられる。支持部材3は回転体30に取り付けられて、該回転体30と共に回転する。基台2の内部通路と支持部材3の内部通路は、回転体30を通る案内管4にて連通され、該案内管4の一端部は支持部材3に取り付けられる。案内管4は長手方向を前記回転軸A1と平行に向け、回転軸A1と同軸に回転する。尚、案内管4は支持部材3と同軸でなくともよい。
【0025】
基台2には、支持部材3に対向した前壁20と、基台2の内側にて該前壁20に対向した中間壁21が配備され、前壁20及び中間壁21には前記案内管4の他端部が通る開口22、22が夫々開設されている。開口22、22の内周には案内管4を受けるベアリング23又はオイルシールが配備され、案内管4のスムーズな回転を支持しつつ、基台2と支持部材3の内部空間を高圧に維持している。
前記モータケーブル5は案内管4の長手方向に沿って挿通され、案内管4の他端部は基台2の内部通路内に位置する。該案内管4の他端部には、前記モータケーブル5が通る切欠き43が形成されている。
【0026】
図4は、案内管4の正面視断面図である。該案内管4の内部空間は、当該内部空間に配置された隔壁40によって、上下に並列して軸方向に延びた2つの通路、即ち第1通路41と第2通路42に仕切られる。換言すれば、案内管4は軸方向に延びた2つの通路を有する複合管である。
第1通路41の後端面は後板47にて閉鎖され、第1通路41の前端面は開放されて、支持部材3の内部空間に連通している。第2通路42の後端面は開放され、基台2の後側の外部空間に連通している。第2通路42の前端面は開放され、支持部材3の外周面に形成された開口部3a(図3参照)を通って外部空間に連通している。つまり、第1通路41はモータケーブル5が挿通される気密な通路の一部を構成していて高圧に保たれ、第2通路42は多軸ロボット1の外部空間に開放されている。
第1通路41には、切欠き43から導入されたモータケーブル5が、第2通路42には、チューブ6が夫々挿通される。隔壁40によってモータケーブル5はチューブ6と隔離されて、互いに接触することが防止されている。これによって、チューブ6への引火等の危険を防いでいる。1本の案内管4にてモータケーブル5とチューブ6の挙動を抑えており、該挙動を抑える構造が簡素になる。また、図4に示すように、モータケーブル5の中心と案内管4の回転中心は、案内管4の半径方向においてずれており、案内管4の回転によって、モータケーブル5は捻られる。
【0027】
前記切欠き43は、案内管4の第1通路41側の周面上に形成される。切欠き43内にて隔壁40からは突片44が、案内管4の長手方向に直交して突出し、該突片44に支え棒45が枢軸46を中心として回転自在に設けられる。支え棒45は例えば突片44内のべアリング(図示せず)によって自由に回転可能である。該支え棒45の先端部には、中心にガイド孔80が設けられた環状のガイド部材8が取り付けられ、該ガイド孔80にモータケーブル5が挿入されて嵌まる。即ち、ガイド部材8は案内管4とは独立して自由に回転することができる。
該ガイド部材8は、例えば、モータケーブル5との摩擦が小さい材料から構成され、モータケーブル5はガイド部材8内をスムーズにスライドすることができる。また、支え棒45が案内管4の回転方向を含む面内を回転するから、ガイド部材8も同じ面内を回転する。
【0028】
図5は、案内管4の斜視図であり、モータケーブル5及びチューブ6が挿入された状態を示す。モータケーブル5は、基台2内にて案内管4の外側から、案内管4の回転方向を含む面内にて案内管4の外周面の周りに、略円弧状の撓み部分50を形成するように延び、そこから切欠き43に至る。モータケーブル5は、該切欠き43内にてガイド部材8のガイド孔80にガイドされ、そこから撓み部分50に略直交する方向に向きを変えて、案内管4の第1通路41内を通り、支持部材3の端面開口を出て支持部材3の内部空間に至る。モータケーブル5は、基台2の内部空間から案内管4を通って支持部材3の内部空間に達し、両内部空間は多軸ロボット1の外部よりも高圧であるから、多軸ロボット1の外部空気はモータケーブル5に触れない。後記するように、案内管4の回転に伴って案内管4内のモータケーブル5が捻られ、且つ案内管4周りのモータケーブル5の撓み部分50が変形することで、支持部材3の回転によるモータケーブル5の捻りと引っ張りを吸収する。
一方、チューブ6は案内管4の端面開口から第2通路42内に挿入され、案内管4の支持部材3側の端面(前端面)の開口を出て支持部材3の外周面に形成された開口部3aを通り外部空間に至る。
【0029】
(実際のケーブル挙動)
図6(a)〜(d)は、支持部材3の回転軸A1を中心とする回転に伴う、モータケーブル5の挙動を示す図であり、図3をB1方向から見ている。説明の便宜上、図6(a)〜(d)では、チューブ6を図示しない。図6(a)は、支持部材3及び案内管4の基準状態を示し、この基準状態における回転角度を0°とする。本実施形態では、多軸ロボット1の使用時には、支持部材3及び案内管4は、例えば、基準状態から、±120°の角度範囲で回転する。但し、この角度範囲はこの±120°の範囲に限定されない。撓み部分50は、支持部材3及び案内管4の回転によりモータケーブル5が引っ張られても、余裕がある長さに設けられている。
図6(b)は、支持部材3及び案内管4が、図6(a)の基準状態から+120°、即ち反時計方向に回転した状態を示す。案内管4の回転に合わせて、ガイド部材8も回転軸A1を中心として回転し、モータケーブル5を案内する。モータケーブル5の撓み部分50は膨らみ部分が内向きに変形するように撓む。また、前記の如く、案内管4の回転に伴い、案内管4内のモータケーブル5は捻られる。
【0030】
ガイド部材8は枢軸46(図4参照)を中心に、案内管4とは独立して回転することができるので、ガイド部材8はモータケーブル5の撓み部分50の変形に合わせて回転して向きを変え、モータケーブル5の挙動を安定にすることができる。即ち、ガイド部材8を設けない場合、支持部材3及び案内管4の回転によるモータケーブル5の挙動は特に規制されないので一定ではない(不安定である)が、ガイド部材8を設けることにより、モータケーブル5の挙動がガイド部材8によって規制される。しかも、ガイド部材8が支持部材3及び案内管4の回転方向に平行な面内で自由に回転するので、モータケーブル5が適度に捻れ、且つ撓み部分50が適度に変形する限度内で当該規制が行われる。これにより、モータケーブル5の挙動を安定にすることができる。このように、モータケーブル5の挙動を安定にすることで、該モータケーブル5が基台2内にて不用意に擦れることを防止し、モータケーブル5の寿命を延ばすことができる。また、モータケーブル5が複数のケーブルの束で構成される場合、該ケーブルの束がばらけることを防止することができる。
尚、図6(b)に示す状態にて、案内管4の回転方向を含む垂直面内にて、切欠き43から案内管4内に入るモータケーブル5と隔壁40の成す角度α1は、出願人の計測で45°であった。
【0031】
図6(c)は、図6(b)に示す状態から、案内管4が−75°回転した状態、即ち、図6(a)に示す基準状態から案内管4が+45°回転した状態を示す。図6(c)に示すように、モータケーブル5の撓み部分50の形状は僅かに変化しているに過ぎない。このときに、案内管4の回転方向を含む垂直面内にて、切欠き43から案内管4内に入るモータケーブル5と隔壁40の成す角度α2は、出願人の計測で110°であった。
即ち、案内管4が図6(b)に示す状態から―75°回転すると、角度α2と角度α1の差である65°分が、モータケーブル5が案内管4内で捻られることで吸収され、残り10°分が撓み部分50の変形で吸収されていることが、出願人の実験で判った。
【0032】
図6(d)は、図6(c)に示す状態から、案内管4が更に−90°回転した状態、即ち、図6(a)に示す基準状態から案内管4が―45°回転した状態を示す。このときに、案内管4の回転方向を含む垂直面内にて、切欠き43から案内管4内に入るモータケーブル5と隔壁40の成す角度α3は、出願人の計測で85°であった。
即ち、案内管4が図6(c)に示す状態から―90°回転すると、角度α3と角度α2の差である25°分が、モータケーブル5が案内管4内で捻られることで吸収され、残り65°分が撓み部分50の変形で吸収されていることが、出願人の実験で判った。
【0033】
このように、案内管4の回転に伴って案内管4内のモータケーブル5が捻られ、且つ案内管4周りのモータケーブル5の撓み部分50が変形することで、支持部材3の回転によるモータケーブル5の捻りと引っ張りを吸収している。仮に、案内管4内のモータケーブル5が捻られないと、案内管4の周りの撓み部分50にて、モータケーブル5の引っ張りと捻りを全て吸収しなければならず、該撓み部分50の撓み量が多くなる。案内管4内でモータケーブル5が捻られ、且つ案内管4周りのモータケーブル5の撓み部分50が変形することによって、モータケーブル5の撓み部分50の撓み量を少なくすることができる。
【0034】
(本実施形態の多軸ロボットの効果)
本実施形態に係る多軸ロボット1は、更に以下の効果を奏する。
1.通電用のモータケーブル5は、案内管4の回転方向に平行な面内にて案内管4の外周面の周りに撓み部分50を形成するように延びた後に、案内管4の切欠き43を通る。即ち、モータケーブル5は案内管4への挿通方向とは略直交する面内にて、撓まされるので、案内管4へのケーブル挿通方向に沿う該撓み部分50の長さを短くすることができる。
また、撓み部分50は切欠き43に至るので、撓み部分50は案内管の両端間に設けられる。これによって、案内管4へのケーブル挿通方向における基台2の長さも短くすることができ、ひいては多軸ロボット1が配備される塗装ブース75を小さくすることができる。
一般に、塗装ブース75は大きくなれば、維持費が高くなる。従って、本実施形態に係る多軸ロボット1によって塗装ブース75の維持費を抑えることができる。
2.案内管4内にモータケーブル5とチューブ6の2つを並列に通すことができるので、モータケーブル5とチューブ6とが分離して別個に挙動することがなく、コンパクトに収めることができる。また、チューブ6は案内管4を通るので、チューブ6の不用意な挙動が規制される。これにより、チューブ6の不用意な挙動により、ワークの塗装品質に悪影響を与えることが防止される。
【0035】
(塗装機器の配置)
前記の如く、塗装ガン14が塗装するワークは、例えば自動車のドアであり、該ドアが車体に取り付けられた状態で、ドアの内側(以下、「内板」と呼ぶ)とドアの外側(以下、「外板」と呼ぶ)が選択的に塗装される。基台2又は第2リンク11の何れかに、塗装機器18が選択的に配置される理由を以下に示す。
内板を塗装する場合は、開いたドアと車体の間が狭く、塗装ガン14に近い第2リンク11に塗装機器18を配置すると、該塗装機器18がドア又は車体に接触して傷付ける虞がある。従って、内板もしくは内板と外板の両方を塗装する場合は、塗装機器18を基台2に設け、当該塗装機器18をドアから離して配置する。
これに対し、外板を塗装する場合は、塗装ガン14が配備される空間の大きさに余裕があり、塗装ガン14に近い第2リンク11に塗装機器18を設けても該塗装機器18がドア又は車体に接触する虞はない。また、塗装終了後には、チューブ6の細管内に残存した塗料を廃棄する必要があるが、塗装機器18を第2リンク11に配置すれば、塗装機器18から塗装ガン14までの距離が短く、廃棄する塗料が少なくて済む。従って、コスト低減の点からも外板を塗装する場合は、塗装機器18を第2リンク11に配置する。
【0036】
上記の実施形態では、基台2はターンテーブル70上に載置されるが、該ターンテーブル70に代えて、壁面7から壁面7に略直交して延びた棚(図示せず)に固定して設置されてもよい。この場合、基台2は回転しないから、モータケーブル5は棚を通る必要は無く、壁面7から基台2に接続されてもよい。
また、図7に示すように、床面77に壁状のブラケット78を設け、該ブラケット78の側面に基台2を設け、多軸ロボット1を縦置きに設けてもよい。
更に、図8に示すように、ターンテーブル70や棚を介さず、基台2を壁面7に直接取り付けてもよい。このように、本実施形態の多軸ロボット1は種々の取付け姿勢で用いることができる。
【0037】
また、図4では案内管4の隔壁は案内管4の横断面において直線状に形成される。しかし、チューブ6内の細管は塗装すべき色に応じて数十本に及ぶことがあり、チューブ6はモータケーブルよりも大径であることがある。従って、図9に示すように、隔壁40を案内管4の横断面においてV字形に形成し、チューブ6が通る第2通路42の断面積を第1通路41の断面積よりも大きく形成してもよい。更に、案内管4の隔壁を直線状に形成したまま、第2通路42の断面積を第1通路41の断面積よりも大きく形成してもよい。
上記形態では、突片44に支え棒45を回転自在に取り付けているとしたが、該支え棒45を後板47に回転自在に取り付けてもよい。
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る多軸ロボットは、線条体を備えたロボット等として有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 多軸ロボット
2 基台
3 支持部材
4 案内管
5 モータケーブル
6 チューブ
8 ガイド部材
41 第1通路
42 第2通路
43 切欠き
50 撓み部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の基台と、該基台にその軸心を中心として回転可能に設けられ、アームの基端部を構成する中空の支持部材と、
前記支持部材に設けられて、該支持部材と共に回転し、一端部が前記基台内に回転自在に挿入されて、その内部空間が前記支持部材の内部空間と基台の内部空間に連通し、第1の線条体がその長手方向に沿って挿通される案内管とを備え、該案内管の回転中心と前記第1の線条体の中心はずれており、
前記基台内に位置する案内管の端部の周面には、第1の線条体が通る切欠きが形成され、
前記第1の線条体は、前記案内管の径方向外側から、案内管の回転方向に平行な面内にて案内管の外周面の周りに撓み部分を形成するように前記切欠きに至り、該切欠きから案内管の内側を通って前記支持部材の内部空間に至るように延びる、多軸ロボット。
【請求項2】
前記案内管の前記切欠きには、該案内管の回りに揺動可能であり、且つ前記軸心に直交する方向に前記第1の線条体が挿通されるガイド孔を有するガイド部材が設けられており、
前記第1の線条体は前記案内管の径方向外側から、前記ガイド孔と前記切欠きを通って前記案内管に導入されている、請求項1に記載の多軸ロボット。
【請求項3】
前記案内管は隔壁によって夫々該案内管の軸方向に延びる第1通路及び第2通路に区画され、
前記第1通路の一端は閉鎖され、且つ該第1通路は該一端において前記切欠きを通じて前記基台の内部空間に連通するとともに他端において前記支持部材の内部空間に連通し、
前記第2通路の両端は前記支持部材の開口部に繋がる外部空間及び前記基台の開口部に繋がる外部空間に連通し、
前記第1の線条体は通電用であって、前記第1通路に挿通され、
第2の線条体が前記基台の開口部から前記第2通路を通って、前記支持部材の外側へ延びる、請求項1又は2に記載の多軸ロボット。
【請求項4】
前記基台、前記案内管の第1通路及び前記支持部材を構成する内部空間は、密閉された気密室である、請求項1乃至3の何れかに記載の多軸ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−94856(P2013−94856A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237379(P2011−237379)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】