説明

多重モード圧電フィルタ素子

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は圧電素板を用いた多重モ−ド圧電フィルタ素子の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から図4に示す如く圧電素板例えばATカット水晶素板(AT板)1の主表面表裏に相対向する電極2を付着し、前記電極2の一方あるいは双方を所定の間隙(ギャップ)を介して分割することによって当該分割電極2による振動相互の音響結合の結果、前記AT板表面に発生する対称モ−ド及び反対称モ−ドと称する共振周波数がそれぞれf 及びf なる2つの振動モ−ドを利用し、中心周波数がほぼf であり通過帯域幅がほぼ2(f −f )となる所謂多重(2重)モ−ド水晶フィルタ素子が通信機等の分野で広く用いられている。
その製造に於いては、所定の大きさに加工した前記AT板表面に、電極と同一形状の孔を穿設した金属マスクを用い蒸着によって電極を形成するのが一般的であった。しかしこの方法では電極のエッジがぼけるため前記分割電極2の電極形状及びギャップ間隔gがばらつき、これらの寸法をパラメータとして変化するフィルタの通過帯域幅がばらつくという問題があった。これは例えばギャップ間隔gが狭くなると分割電極2の音響結合が強くなり通過帯域幅が広く、逆の場合は狭くなるといった周知の現象に起因するものである。
【0003】
そこで、通過帯域幅が前記分割電極のプレートバック量をパラメータとして変化することに着目し、電極膜厚を変化させることによって上述のばらつきを調整していた。
ここで、プレートバック量とは、水晶素板表面に電極のない無電極状態を基準として、その表面に電極を付着したことによる固有周波数の変化量を示すものであって、一般的には電極膜厚が厚くなるにつれてプレートバック量が大きくなる。
実際には、図5の実線で示す如きプレートバック量と通過帯域幅との周知の関係を示すグラフに於いて、その傾きが大きくなる○印の一方の近傍でプレートバック量を選択したとき、スペック等で与えられた目的とする通過帯域幅Δfが得られるよう電極形状及びギャップ間隔gを決定していた。
これは上述の理由から明らかなように、例えばギャップ間隔gを変化させると前記グラフが図5の点線で示す如く同図中上下方向に移動可能であることを利用すればよい。
このように構成すれば図5の○印近傍ではプレートバック量によって通過帯域幅を容易に変化させることができるから、電極形成後プレートバック量即ち電極膜厚を変化することによって電極寸法による通過帯域幅のばらつきを調整していた。
【0004】
ところで、近年の電子機器等に於ける小型化に伴い、上述の如き多重モ−ド圧電フィルタ素子に於いても一枚のAT板表面にホトリソグラフィによって微小な電極を複数個同時に形成し、これを小さなユニットごとに切断する所謂バッチ処理による製造が行われるようになった。これによって量産及びコストダウンが可能となるのはもちろん、ホトリソグラフィを用いたことにより分割電極のエッジが従来よりはるかにシャープになると共にギャップ間隔gのばらつきも大幅に縮減されるから、電極寸法による通過帯域幅のばらつきは極限され調整の必要がなくなった。
【0005】
しかしながら、このような多重モ−ド圧電フィルタ素子に於いて上述した如く図5の一方の○印近傍でプレートバック量を選択したとき、スペック等で与えられた目的の通過帯域幅Δfが得られるよう分割電極の電極形状及びギャップ間隔gを決定すると、従来は問題にならなかったプレートバック量即ち電極膜厚のばらつきによる通過帯域幅のばらつきが現出するため、電極寸法による通過帯域幅のばらつきを極限したにもかかわらず調整しなければならないという欠陥があった。
【0006】
【発明の目的】
本発明は上述した如き従来の多重モ−ド圧電フィルタ素子の有する欠陥を解決するためなされたものであって、分割電極の膜厚がばらついても通過帯域幅にばらつきが生じない多重モ−ド圧電フィルタ素子を提供することを目的とする。
【0007】
【発明の概要】
上述の目的を達成するため本発明に係る多重モ−ド圧電フィルタ素子は圧電素板の相対面する両面それぞれに付着する対向電極の一方或は双方を所定の間隙を隔して分割した分割電極とした多重モード圧電フィルタ素子に於いて、前記分割電極のプレートバック(plate back)量と通過帯域幅との関係を示すグラフの極点近傍にて前記プレートバック量を選択し、所望の通過帯域幅が得られるよう前記分割電極を構成したものである。
【0008】
【実施例】
以下本発明を実施例を示す図面によって詳細に説明する。
図1はAT板表面にホトリソグラフィによって分割電極を形成した中心周波数90MHzの多重モ−ド水晶フィルタ素子に於けるプレートバック量と通過帯域幅の関係を示すグラフであって、該グラフの極点(即ち同図中●印)近傍のプレートバック量pに相当する電極膜厚を選択したとき目的の通過帯域幅Δfとなるよう分割電極の電極形状及びギャップ間隔gを選択することによって、同図から明らかな如くプレートバック量の変化に対し通過帯域幅はほとんど変化しないから、たとえ電極膜厚の製造ばらつきが生じたとしてもほぼ無調整で製造することが可能となるから調整工程が不要となりコストダウンすることができる。
【0009】
ところで、多重モ−ド圧電フィルタ素子に於いては小型化と共に高周波化への要求が高まっているが、ATカット水晶振動子の如く厚みすべり振動を利用した圧電共振子の素板は一般に平板であり、その共振周波数は板厚と反比例するため製造技術及び機械的強度の観点から基本波振動においては40MHz程度が限界であった。
これを解決する手段の一として、以前より数10乃至数100MHzの高周波領域に於いて基本波振動が励振可能な超薄板圧電共振子を利用した多重モ−ド圧電フィルタ素子が提案されている。図2(a)及び(b)はそれぞれ本発明に係る多重モ−ド圧電フィルタ素子にこの超薄板圧電共振子を利用した一例を示す平面図及びABに於ける断面図であって、AT板1の一方の表面を例えばエッチングによって凹陥せしめ、その底面を薄板状の振動部3とすると共に前記振動部3の周囲を支持する厚肉の環状囲繞部4を前記振動部3と一体的に形成して前記振動部3の機械的強度を保持した超薄板水晶共振子に於いて、凹陥側に導電膜を蒸着して全面電極5を形成し、対向する平坦面の前記振動部3ほぼ中央に分割電極2を上述した如くプレートバック量と通過帯域幅との関係を示すグラフの極点近傍にて前記プレートバック量を選択し、所望の通過帯域幅が得られるよう形成することによって上述の実施例と同様の効果を高周波領域に於いても得ることができる。
【0010】
尚、上述した如き多重モード圧電フィルタに於いて、製造後通過帯域幅の微調整を必要とする場合には、図3に示す如く一方の電極のみを分割するタイプの分割電極2とし、そのギャップ真裏の分割しない側の電極表面に、蒸着等により金属6を付着することによって、分割電極2のギャップ近傍に於ける音響結合が高まり、その結果として通過帯域幅が広がる周知の技術を適用すればよい。
以上、ATカット水晶素板を用いた多重モ−ド圧電フィルタ素子を実施例に本発明を説明してきたが、本発明はこれのみに限定される必要はなく、明細書の煩雑を避ける為グラフは省略するが、他の圧電材料に於いてもプレートバック量と通過帯域幅との間に同様の関係を有することから、本発明をこれらに適用してもよいこと自明である。
【0011】
【発明の効果】
本発明は、以上説明した如く構成するものであるから、分割電極の形状即ちホトリソグラフィ用マスクの変更のみで調整工程を必要とすることなく通過帯域幅の製造ばらつきを極限する上で著しい効果を呈する。
【0012】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る多重モ−ド圧電フィルタ素子のプレートバック量と通過帯域幅の関係を示す図。
【図2】(a)及び(b)はそれぞれ本発明に係る超薄板圧電共振子を利用した多重モ−ド圧電フィルタ素子の一例を示す平面図及びABに於ける断面図。
【図3】本発明に係る多重モ−ド圧電フィルタ素子の通過帯域幅の調整方法を説明する図。
【図4】多重モ−ド圧電フィルタ素子の基本的構成を示す斜視図。
【図5】従来の多重モ−ド圧電フィルタ素子のプレートバック量と通過帯域幅の関係を示す図。
【符号の説明】
1・・・ATカット水晶素板
2・・・分割電極
3・・・振動部
4・・・環状囲繞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素板の相対面する両面それぞれに付着する対向電極の一方或は双方を所定の間隙を隔して分割した分割電極とした多重モード圧電フィルタ素子に於いて、
前記分割電極の間隙の間隔gは、分割電極のプレートバック(plate back)量と通過帯域幅との関係が極大を呈する値の近傍に分割電極のプレートバック量を選択したとき所望の通過帯域幅が得られるよう設定されていると共に、前記分割電極のプレートバック量は、分割電極のプレートバック量と通過帯域幅との関係が極大を呈する値の近傍に設定されていることを特徴とする多重モード圧電フィルタ素子。
【請求項2】
前記圧電素板は、薄肉の振動部と該振動部の周囲を支持する厚肉の環状囲繞部とを一体的に構成したものであって、前記振動部表面に前記対向電極を設けたことを特徴とする請求項1記載の多重モード圧電フィルタ素子。
【請求項3】
所望の通過帯域幅が得られるよう前記対向電極の分割しない側の電極表面であり且つ前記分割電極の間隙真裏に相当する位置に所要量の金属が付着されていることを特徴とする請求項1及び2記載の多重モード圧電フィルタ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3552056号(P3552056)
【登録日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【発行日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−290854
【出願日】平成3年10月9日(1991.10.9)
【公開番号】特開平5−102787
【公開日】平成5年4月23日(1993.4.23)
【審査請求日】平成10年9月25日(1998.9.25)
【審判番号】不服2001−13516(P2001−13516/J1)
【審判請求日】平成13年8月2日(2001.8.2)
【出願人】(000003104)東洋通信機株式会社 (1,528)
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開平2−140008(JP,A)
【文献】特開昭62−169510(JP,A)
【文献】特開昭59−41913(JP,A)
【文献】特公昭51−49386(JP,B2)
【文献】特公昭51−45430(JP,B2)