説明

実験動物飼育用ラック装置

【課題】幅寸法が異なる種類の飼育ケージを棚板状に収容でき、ラック装置の震動等によっても飼育ケージが横方向にずれ動くことなく、更には飼育ケージ内の空気を排気ボックスへ流すボックス状排気部の清掃も容易な実験動物飼育用ラック装置を提供する。
【解決手段】フレーム構造体13で支持された棚板15上の収納空間部16に複数の飼育ケージ1が所定間隔で収納され、収納空間部16の後方は背面板12bで閉鎖され、後方側上部には排気ボックス19が設置され、かつ前方側上部にはケージ上部カバー23が設置される。背面板12bにはバックステイ25が着脱可能に取り付けられ、バックステイ25には、移動制限バー27が取り付けられ、かつ飼育ケージ1間の間隔を保持するスペーサ29が着脱自在に取り付けられている。スペーサ29は、飼育ケージ1の幅方向の大きさに対応した予定収納位置を確保すべくバックステイ25から着脱して選択的に設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験動物飼育用ラック装置に関し、更に詳細には、例えば医薬品の開発或いは医学的な種々の実験や検証などで使用するマウスなどのような小形の実験動物の飼育に用いる実験動物飼育用ラック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医学的な種々の実験や検証などで使用するマウス、ラット、モルモット、ハムスターなど実験用の小動物は、それら実験動物への細菌感染或いはそれら実験動物からの細菌拡散に対して十分な管理を図るように設備の整った実験動物飼育室で飼育されている。
【0003】
従来の実験動物飼育室では、実験動物を細菌などの微生物感染から保護し、或いは実験動物飼育室から細菌などの微生物の外部への拡散を防止するために実験動物飼育用のラック装置によってこれらの実験動物が飼育されている。従来の実験動物飼育用のラック装置としては、特許文献1、2に開示された発明を挙げることができる。
【0004】
特許文献1に開示された動物飼育ラックは、小動物を入れて飼育するケージを上下の棚板間に配置するものであり、棚板の下面には断面形状がI形をした垂れ壁が側方に並んで設けられ、これら垂れ壁の間における動物飼育ラックの背面には排気チャンバーに連通する排気口が形成されている。飼育ケージは、開放上部周縁部の鍔部をこの垂れ壁の下側係止片に引っかけて吊り下げるか、或いは、鍔部と下側係止片との間を僅かに開けるように棚板上に直接置かれて動物飼育ラックに収納される。
【0005】
他方、特許文献2に開示された実験動物飼育用ラック装置は、特許文献1に記載された動物飼育ラックと同様に、上下の棚板間の空間部をケージ収納部とし、小動物を飼育するケージをそのケージ収納部に配置するものであり、特に、この発明の特徴としては、ケージ収納部に飼育ケージが配置されたとき正面側上部にケージ上部カバーが給気可能な隙間を残して飼育ケージの開放上面に近接するように設置され、さらに、ケージ収納部の背面側上部には、ラック装置の背面側に取り付けられた排気ボックス装置の排気チャンバーに連通するボックス状の排気部が設けられ。この排気部には排気口形成体が取り付けられ、ケージ収納部に飼育ケージが配置されるとき排気口形成体の排気口が飼育ケージ内に進入した状態になるように構成されている点にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4191565号
【特許文献2】特開2010−041978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、上面が開放した飼育ケージを動物飼育ラックにおける上下棚板間の棚(飼育ケージ収納部)に配置する方法として、前述したように飼育ケージの開放上部周縁部に形成されている鍔部をI形の垂れ壁における下側係止片の上に乗せ、所定の位置まで押し込んで吊り下げるようにし、これにより、排気チャンバーの空気を排気することにより排気口から動物飼育ラックにおける飼育ケージ収納部内の空気が吸引されることで、動物飼育ラック内が陰圧になり、飼育ケージ内の空気が動物飼育ラックの外(動物飼育ラックが設置されている飼育室内)へ出ることなく排気口から排気チャンバーへ吸引され、同時に、飼育室内に供給されている浄化空気が飼育ケージ内に進入する、と説明されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、各ケージ収納部(空間)の横方向幅がその両側方部に設置されたI形の垂れ壁により規制されるため、ケージ収納部に収容可能な飼育ケージは、該ケージ収納部の横幅に見合った一種類のみであって、ケージ収納部の横方向幅より大きな或いは小さな幅寸法の飼育ケージを収容することはできない、という問題があった。また、特許文献1に記載された動物飼育ラックでは、棚板の背面側に設置された排気チャンバーとケージ収納部とを連通する丸い排気口が排気チャンバー前面側の板材に形成されているが、この排気口は横方向に所定の間隔をあけて配置された小さな開口であるため排気チャンバー前面側の板材の表面が汚れた場合、飼育ケージを出し入れる前面側からしか清掃できず、そのためケージ収納部の奥壁、即ち排気チャンバー前面側の板材における排気口の周囲表面を常に清潔に保ことが難しい、という問題もあった。
【0009】
他方、特許文献2に記載された実験動物飼育用ラック装置の場合、特許文献1の発明のようにケージ収納部の横方向幅を規制する垂れ壁のような構造部がないので、横方向の幅寸法が異なる種々の飼育ケージを棚板上に並べて収容することができる。しかし、特許文献2の発明では、ケージ収納部の横方向幅を規制する構造部がないために棚板上に収容した飼育ケージが、建物の揺れなどにより横方向にずれることがある、という問題と共に、ボックス状の排気部内の清掃が難しい、という問題があった。通常、ラック本体の背面側に設置された排気ボックス装置は、その後面側の壁板が取り外しできるように構成されているので、その後面板を取り外せば排気チャンバー内を清掃することは、容易であるが、ボックス状の排気部は、上下の間隔が非常に狭いため排気チャンバー側から排気部内部を清掃する場合には作業者が手を差し入れなければならず、従って非常に清掃作業が困難であった。
【0010】
本発明の目的は、かかる従来の問題点を解決するためになされたもので、幅寸法が異なる飼育ケージを棚板状に並べて収容することができ、しかもラック装置の揺れなどによってもこれら飼育ケージが棚板上で幅方向及び前後方向にずれ動くこともなく、さらには飼育ケージ内の空気を排気チャンバーへ流す排気ボックスの清掃も容易にできる実験動物飼育用ラック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、実験用の小動物を収容する飼育ケージを収納するラック本体と、このラック本体に収納された前記飼育ケージ内の空気を排気する排気チャンバーとから構成される実験動物飼育ラック装置であり、その特徴とするところは、前記ラック本体が、該ラック本体の幅方向に延びる少なくとも1つの棚板と、複数の前記飼育ケージを前記ラック本体の前方側から後方側へ向かって入れると共に前記棚板の前記幅方向に並べて保管し得るように前記棚板上に画成された収納空間部と、前記収納空間部の前記後方側を閉鎖する背面板と、前記収納空間部に収納された複数の前記飼育ケージを前記前後方向に直交する左右の幅方向に所定の間隔を開けて位置決めすると共に前記幅方向への移動を規制すべく前記収納空間部の前記後方側における前記ラック本体に着脱自在に装着されたスペーサと、前記スペーサを前記ラック本体に着脱自在に装着する複数の取付け部と、前記収納空間部における前記後方側の上部に設置され、前記収納空間部に開口した排気口を備える排気ボックスとを備え、前記排気ボックスが前記排気チャンバーに連通している。
【0012】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の一実施形態では、前記ラック本体が、前記収納空間部の前記幅方向に延び、かつ前記背面板に着脱可能に取り付けられたバックステイを備え、前記取付け部が、前記バックステイに形成され、前記スペーサが、これら取付け部に着脱自在に装着されている。
【0013】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の他の実施形態では、前記ラック本体が、前記収納空間部に収納される前記飼育ケージに当接して前記前方側から前記後方側に向う方向への前記飼育ケージの動きを規制して前記飼育ケージを定位置に配置すべく前記バックステイに取り付けられた移動制限部材を備えている。
【0014】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の他の実施形態では、前記ラック本体を構成する前記背面板が、前記排気チャンバーを形成するケーシングの壁板であり、前記排気ボックスの前記後方側が前記排気チャンバーの前記壁板に接続され、前記排気ボックスと該排気チャンバーとの接続部である開口周囲部の少なくとも一部が前記排気ボックスから前記排気チャンバーに向かって拡大するように傾斜面とされている。
【0015】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の他の実施形態では、前記ラック本体が、前記収納空間部に収納された前記飼育ケージの前記前方側からの飛び出しを防止すべく前記収納空間部の前記幅方向に延びる押さえバーを備え、この押さえバーが、その両端部のそれぞれを前記ラック本体における前記幅方向両外側部に位置する固定部に回転可能に支持されていることにより旋回可能に前記ラック本体に取り付けられている。
【0016】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の他の実施形態では、前記ラック本体には、前記排気ボックスより前記前方側に配置され、かつ前記収納空間部に収納される前記飼育ケージの開放上面との間に給気可能な隙間を残して前記開放上面に近接するケージ上部カバーが取り付けられている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実験動物飼育用ラック装置によると、棚板上の収納空間部に幅方向に並べて収納された複数の飼育ケージの相互の間隔を保持し、かつ各飼育ケージの幅方向への移動を規制するスペーサが、収納空間部の後方側でラック本体に着脱自在に装着されているので、スペーサを最適の位置に付け替えることにより1つの棚板上の収納空間部に横幅寸法の異なる複数の飼育ケージを混在して収納することができる。また、収納空間部に並べて収納された複数の飼育ケージは、ラック装置が揺れたとしてもスペーサによって各飼育ケージの横方向への移動を防止することができる。
【0018】
本発明の実験動物飼育用ラック装置によると、背面板にバックステイが着脱可能に設置され、スペーサを着脱自在に装置する取付け部が、このバックステイに設けられているので、スペーサの装着位置を変更する作業が非常に容易に行うことができる。また、横幅の異なる飼育ケージに対応した位置にスペーサ取付け部を設置したバックステイを予め準備しておけば、バックスステイを変更するだけで横幅を異にする数種類の飼育ケージを収納空間部に収納することができる。
【0019】
また、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、ラック本体が、移動制限部材を備えているので、飼育ケージがラック本体の収納空間部に前方側から入れられるとき、飼育ケージの後方側が移動制限部材に当接するので飼育ケージを収納空間部に対して前後方向について所定の位置に配置することができる。
【0020】
また、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、排気チャンバーをラック本体の後方側に密着して設置することにより収納空間部の後方側を閉鎖する背面板が、排気チャンバーを形成するケーシングの壁板で構成することができ、これにより排気ボックスを排気チャンバーに直接接続することができる。しかも、排気ボックスと排気チャンバーとの接続部である開口周囲部の少なくとも一部が排気ボックスから排気チャンバーに向かって拡大するように傾斜面とされているので、排気チャンバーの後方側壁板を取り外して排気ボックス内を清掃する際に排気ボックスと排気チャンバーとの接続部である開口から排気ボックス内に作業者の手を入れやすく、その結果、排気ボックス内の清掃を作業者に怪我などもなく容易にかつ迅速に行うことができる。
【0021】
さらに、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、ラック本体の前方側には押さえバーが取り付けられているので、収納空間部に保管される複数の飼育ケージがラック本体の揺れなどにより前方側に飛び出すことがなく、安全に保管することができる。しかも、押さえバーが棒状の部材で構成され、この棒状部材の両端が、ランク本体の幅方向両外側部に回転可能に支持されていることから収納空間部に保管されている複数の飼育ケージを同時に押さえることができる。
【0022】
さらにまた、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、ラック本体には、排気ボックスより前方側に配置され、かつ収納空間部に収納される飼育ケージの開放上面との間に給気可能な隙間を残して開放上面に近接するケージ上部カバーが取り付けられているので、排気ボックスの排気穴から飼育ケージ内の汚染空気が排気チャンバーへ向かって効率よく吸引され排気されることにより飼育ケージ内が陰圧になると、飼育ケージの開放上面とケージ上部カバーとの間の給気可能な僅かな間隙から実験動物飼育室内の清浄な空気が入るため、ケージ内の空気の換気も効率よくなされ、しかもケージ上部カバーが、ケージ本体の開放上面に対して給気可能な間隙を形成するように近接配置されているため飼育ケージ内の空気が外に出て実験動物飼育室内に漂うこともなく、実験動物飼育室内での悪臭の拡散も防げ、さらには、ラック本体に開閉扉を取り付ける必要もないので、収納空間部への飼育ケージの出し入れも非常に容易で作業能率を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る実験動物飼育用ラック装置を実験動物飼育室に設置した状態で概略的に示す構成説明図。
【図2】棚板上の収納空間部に幅寸法の異なる複数の飼育ケージを配列した状態の実験動物飼育用ラック装置の一部を概略的に示す平面図。
【図3】図2の3−3線で実験動物飼育用ラック装置の一部を切断して示す断面図。
【図4】図3に示される実験動物飼育用ラック装置の一部をさらに拡大して示す部分的な断面図。
【図5】飼育ケージを積み重ねた状態を示す断面図。
【図6】移動規制部材とスペーサを取り付けたバックステイが収納空間部の背面板に取り付けられている状態を簡略的に示す部分的な斜視図。
【図7】移動規制部材とスペーサとを取り付けたバックステイが背面板に支持されている状態を示す平面図。
【図8】バックステイにスペーサを着脱自在に装着する取付け部の他の構成例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実験動物飼育用ラック装置(以下、単に「ラック装置」と称する)を、その好適な実施形態について示す添付図面を参照しながら更に詳細に説明する。本発明の好適な実施形態に係るラック装置10は、図1に概略的に示されるように実験動物飼育室R内に設置され、実験動物を飼育する管理者は、通常、この実験動物飼育室R内で飼育の作業を行う。この実験動物飼育室Rの天井には、空調用の室内吹出口Aが設けられ、この室内吹出口Aからは、室外に設置された空気調和機(図示せず)で所定の温湿度に管理され、また空気清浄機(図示せず)などで除塵殺菌された清浄な所定温湿度の空気が供給されている。
【0025】
このラック装置10は、図1〜図4に示されるようにラック本体11と、このラック本体11に概ね一体に設置された排気チャンバー12aとから構成されている。ラック本体11は、該ラック本体11の所定収納位置に飼育ケージ1を出し入れする前方側(図3で見て右側)と、この前方側とは反対側の後方側(図3で見て左側)とにおいてそれぞれ左右に配置された垂直方向(縦方向)に延びる柱13a,13bと、少なくとも前方側及び後方側それぞれにおける左右の柱13a,13bに架け渡された水平方向(横方向)に延びる複数の横梁13cとからなるフレーム構造体13により構成されている。ラック本体11の前方側は、前述したように飼育ケージ1を所定収納位置に出し入れするために開放しているが、後方側は背面板により閉鎖されている。
【0026】
この実施形態では、背面板が、ラック本体11の後方、即ちフレーム構造体13の後方側に密着して設置された排気チャンバー12aを形成するケーシング12の前方側壁板12bにより構成されている。ケーシング12により形成された排気チャンバー12aは、その上方部分において排気ダクトB(図1参照)により室外に設置された排気ファン(図示せず)に接続され、排気チャンバー12a内に吸引された空気は、排気ファンにより実験動物飼育室Rの外に排出される。ところで、飼育ケージ1は、図3〜図5に示されるように開放したほぼ矩形の上面2aを備える箱形のケージ本体2から構成されている。すなわち、ケージ本体2は、開放上面2aより僅かに小さい四角い底板2bと、この底板2bの前方側及び後方側の各縁部から斜めに立ち上がる前後壁2cと、底板2bの両側縁部から斜めに立ち上がる側壁2dとから形成され、側方から見ると逆台形状を呈している。
【0027】
ケージ本体2における開放上面2aの周縁部には、各壁部の上端から底板2bとほぼ平行で外方向に張り出すフランジ2eが形成されている。このフランジ2eは、ケージ本体2の開放上面2aを補強する機能と共に飼育ケージ1を運ぶ際の把持部としても利用される。ケージ本体2の前後壁2cと側壁2dのそれぞれ外面には、短冊状のスタック3が2つ、従って全部で8つ設けられている。具体的には、ケージ本体2には4つのコーナーがあり、スタック3は、図2及び図3から明らかなようにこれら各コーナーに近いその両側の前後壁2cと側壁2dとに設けられ、各スタック3の一方の側部端面はケージ本体2eの壁面に固着し、上部端面はフランジ2eの下面に固着している。スタック3がケージ本体2eの壁面2c,2dから突出する高さは、開放上面2aの周縁部から張り出すフランジ2eの張り出し長さに一致している。
【0028】
スタック3の下部端面は、フランジ2eを縦断面で見たときの上面形状に整合する形に形成されている。飼育ケージ1は、不使用時には図5に示されるように1つの飼育ケージ1の中に別な飼育ケージ1を入れ込むようにして積み重ねられることがある。そのような時、相互に重なる飼育ケージ1の前後壁2cどうしや側壁2dどうしの密着力が大き過ぎると外し難くなるので、そのようになる前に上側の飼育ケージ1のケージ本体2に形成されているスタック3の下部端面が下側の飼育ケージ1のフランジ2eに乗ることでそれ以上の入り込みを阻止している。スタック3は、上述したような機能の他にもフランジ2eを補強し、かつ壁面2c,2dの強度を高める機能もある。このような飼育ケージ1は、合成樹脂材料などによって一体に形成することができる。
【0029】
ラック本体11は、4本の柱13a,13bで囲まれた領域においてこれらの柱13a,13bに連結するなどして最下部に設けられた底板14と、前述した前方側及び後方側の各柱13a,13bと横梁13cとで支持された棚板15とを備えている。棚板15は、底板14から飼育ケージ1の高さ寸法より高い寸法を開けて上方に複数段設置されている。このようにして、底板14と棚板15との間、及び棚板15とその上の棚板15との間には、飼育ケージ1を置くスペース(空間)が確保され、この空間が飼育ケージ1を収納する収納空間部16である。ラック本体11をその前方側から見たときの収納空間部16の横幅は、複数の飼育ケージ1を所定の間隔をあけて並べることができる大きさであり、従って、収納空間部16は、底部14の上、及び各棚板15の上における左右方向の全てのスペースを指している。
【0030】
図2では、1つの棚板15上の収納空間部16に大きさの異なる2種類の飼育ケージ1が横方向に所定の間隔で並べられて収納されている。これら2種類の飼育ケージ1における大きさの相違は、横幅の寸法だけで、収納空間部16に配置したときラック本体11の前後方向に対応する縦幅の寸法は同じである。便宜的に、図2では、横幅の寸法が大きな飼育ケージを参照符号1Lで示し、それより横幅の寸法が小さな飼育ケージを参照符号1Sで示して区別されている。図2から明らかなように、大きな飼育ケージ1Lは、小さな飼育ケージ1Sに比較して横幅の寸法がほぼ2倍である。従って、収納空間部16に収納したとき、大きな飼育ケージ1Lによる棚板15の占有部分は、小さな飼育ケージ1Sの2つ分である。
【0031】
このようなラック本体11の収納空間部16には、その背面板に水飲み用の給水パイプ17が設置され、この給水パイプ17は、適当な水供給源(図示せず)に接続されている。給水パイプ17には、複数の水飲みプラグ18が取り付けられ、各水飲みプラグ18は、収納空間部16において小さな飼育ケージ1Sが収納される予定収納位置に設置されている。すなわち、水飲みプラグ18は、飼育ケージ1のケージ本体2内で飼育されている動物に飲み水を提供するもので、ケージ本体2の後壁2cには、この水飲みプラグ18が嵌入する受け口(図示せず)が設けられている。これにより、小さな飼育ケージ1Sが、収納空間部16の予定収納位置に収められたとき、ケージ本体2の後壁2cに形成されている受け口に水飲みプラグ18が挿入し、ケージ本体2内に突出する。
【0032】
ケージ本体2内の動物は、水飲みプラグ18の先端出口に設けられている給水バルブ(図示せず)を舐めることによって出た水を口に含む。ところで、大きな飼育ケージ1Lの場合には、前述したように小さな飼育ケージ1Sが収納される予定収納位置2つ分が使用されることになる。従って、大きな飼育ケージ1Lの予定収納位置には2つの水飲みプラグ18が存在することになる。しかし、大きな飼育ケージ1Lは、通常、その中に入れられる実験動物の数も多いので、各水飲みプラグ18に対応する部分にそれぞれ受け口(図示せず)が設けられている。従って、大きな飼育ケージ1Lが収納空間部16の予定収納位置に収納された場合には、2つの水飲みプラグ18が、対応する各受け口から飼育ケージ1L内に挿入されることになる。
【0033】
次に、このラック本体11では、収納空間部16の直上に、排気ボックス19と、ケージ上部カバー23とが設けられている。排気ボックス19は、図3及び図4から明らかなようにラック本体11の後方側寄りであって、横方向に延びる収納空間部16に沿ってその直上に設けられている。排気ボックス19は、収納空間部16の直上に位置する底板19aと、その上部に配置された天板19b、対向する側板19c、及び前方側を閉鎖する端板19dなどの壁板で構成され、これら壁板で形成される排気ボックス19は、水平断面形状が矩形を呈し、その後方側に向いた矩形の開放部が、排気チャンバー12aを形成しているケーシング12の壁板12bに開けられた開口部に整合する状態で結合され、これにより、排気ボックス19と排気チャンバー12aとが連通されている。
【0034】
排気ボックス19と排気チャンバー12aとが連通する開放部、即ちケーシング12の壁板12bに形成されている矩形の開口部は、その上縁部と下縁部とが、排気ボックス19から排気チャンバー12aに向かって次第に拡大するように傾斜した傾斜板20,21により画成されている。このような排気ボックス19は、ラック本体11の後方側に設置した排気チャンバー12aを形成するケーシング12における壁板12bの一部を前方側に向かって膨出させ、収納空間部16の上部に突出させることによってケーシング12と一体に形成することができるので、そのようにすれば排気ボックス19の製造が非常に容易となり、生産性を高めることができるばかりではなく、製造コストも低下させることができる。なお、前述の説明から明らかなように、かかる排気ボックス19は、ラック本体11の横幅全体、言い換えれば収納空間部16の幅方向全体に形成されており、従って、排気ボックス19の側方を塞いでいる側板19cは、ラック本体11の幅方向両側部にのみ存在している。
【0035】
排気ボックス19における底板19aは、収納空間部16に飼育ケージ1が収納されたとき、そのケージ本体2の開放上面2aに近接、言い換えれば開放上面2aすれすれの位置に配置されている。従って、ラック本体11の収納空間部16に前方側から飼育ケージ1を入れるとき、排気ボックス19の底板19aが飼育ケージ1の開放上面2aに当接したり、接触したりして飼育ケージ1の収納空間部16への収納を阻害するようなことは起こらないが、排気ボックス19の底板19aは、ケージ本体2の開放上面2aにすれすれであるため、実質的に飼育ケージ1における開放上面2aの一部を閉鎖しているのとほとんど同じ状態となる。この底板19aには、図3及び図4に示されるように収納空間部16に配置されるケージ本体2の真上に位置する部分に円形の排気口22が複数形成されている。
【0036】
他方、収納空間部16の直上に配置されるケージ上部カバー23は、排気ボックス19の底板19aとほぼ同じ高さ位置に配置された覆い板であり、このケージ上部カバー23は、排気ボックス19の底板19aと同様に収納空間部16に配置された飼育ケージ1の開放上面2aにすれすれの位置に配置されている。このように、ケージ上部カバー23は、飼育ケージ1の開放上面2aにすれすれの位置にあるが、開放上面2aとの僅かな隙間24を開けているので、その隙間24が動物飼育室R内の清浄空気を飼育ケージ1内へ供給する入り口として機能している。
【0037】
ケージ上部カバー23における前方側の先端部23aは、図3に示されるようにラック本体11におけるフレーム構造体13の横梁13cを前方上側から巻き込むように折り曲げられて該横梁13cに連結されている。また、ケージ上部カバー23における後方側は、排気ボックス19の端板19dに沿って折れ曲がり、天板19bの上に重ねられ、更にその後端部23bはラック本体11の後面に設置された排気チャンバー12aのケーシング12に当接している。このような構成から明らかなように、ケージ上部カバー23は、ラック本体11のフレーム構造体13と排気ボックス19とを利用してビス止めなどで固定されているだけで、その設置と取り外しが容易であるので分解清掃が簡単にできる。なお、棚板15は、横梁13cを巻き込んでいるケージ上部カバー23の先端部21aにおける上面と、排気ボックス19の天板19b上に重なっている後方側の部分との間に架け渡されるような状態で配置されている。また、これら棚板15とケージ上部カバー23も排気ボックス19と同様に、収納空間部16全体に亘って、即ちラック本体11の幅全体に亘って設置されている。
【0038】
収納空間部16の後方側を閉鎖する背面板となっている排気チャンバー12aにおけるケーシング12の前方側の壁板12bには、バックステイ25が着脱可能に設置されている。すなわち、バックステイ25は、収納空間部16のほぼ全幅に延びる長さの板部材であり、このバックステイ25は、背面板12bの幅方向両側にそれぞれネジで取り付けられた板状のマウントブラケット26により着脱自在に支持されている。マウントブラケット26は、図6及び図7に示されるように表面側にバックステイ25の端部を受け入れる上部開放の溝部26bを形成している受け部26aを備えている。バックステイ25は、その各端部を背面板の両側に固定された2つのマウントブラケット26の受け部26aに形成されている溝部26bに上方から嵌め込んで支持される。この溝部26bの幅寸法、言い換えれば、ラック本体11の前後方向における溝幅の寸法は、後述する移動制限部材として機能する移動制限バー27をバックステイ25に取り付ける際の問題からバックステイ25の厚みより大きくされている(図7参照)。
【0039】
そのため、バックステイ25は、溝部26b内でがたつきを起こす恐れがあることから、バックステイ25の溝部26bからの外れ防止を兼ねて、マウントブラケット26に隣接して押さえバネ28が背面板である排気チャンバー12aのケーシング壁板12bに取り付けられている。すなわち、押さえバネ28は、帯状のリーフスプリング板をU字形に曲げて形成され、相対向する2つの板部分のうち、一方を固定部28aとし、他方をバネ部28bとしている。屈曲部28cからの長さは、バネ部28bの方が固定部28aより長く、バネ部28bにおける屈曲部28cとは反対側の端部近傍は、下方へ向いた段部28dを形成するように屈折され、この段部28dを含めて端部までが掛け金28eとして機能する。従って、バックステイ25の各端部をマウントブラケット26における受け部26aの溝部26bに入れる際には、押さえバネ28におけるバネ部28bの端部を押してそれを背面板12b側に撓ませている間にバックステイ25を受け部26aの溝部26bに落とし込む。
【0040】
バックステイ25の両端部がマウントブラケット26の溝部26bに入ったところで、バネ部28bの端部である掛け金28eへの押し込み力を開放すると、バネ部材28bのバネ復帰力によりバックステイ25を前方側に押圧して溝部26b内で受け部26aの内壁面に押し付け、がたつきを抑える。同時に、掛け金28eの段部28dがバックステイ25の上に係止してバックステイ25の上方への動きが阻止される。このような押さえバネ28は、収納空間部16の両側に取り付けられたマウントブラケット26の近傍にそれぞれ設置されることが好ましいが、収納空間部16の幅方向中間部付近における背面板12bに1つ設けるだけでもよい。
【0041】
このバックステイ25を外す時には、バネ部28bの掛け金28eを後方側に押して段部28dによるバックステイ25との係止を解除した状態で持ち上げ、その両端部を受け部26aの溝部26b内から外すだけである。かかるバックステイ25には、移動制限部材として機能するバー27が取り付けられている。この移動制限バー27は、1本の金属ロッドを曲げ、大きな幅の上向きコ字形に形成したものである。さらに具体的に説明すると、移動制限バー27は、図2に示されるようにバックステイ25に沿ってラック本体11の幅方向に延びる直線状の第1当接部27aと、この第1当接部27aの両側で、第1当接部27aよりも前方に湾曲して突出した第2当接部27bと、これら各第2当接部27bからバックステイ25の表面に向かって直線状に延びる脚部27cとから構成されている。
【0042】
従って、この移動制限バー27を形成している金属ロッドの両端部が、2つの脚部27cの先端部となり、これら脚部27cの先端部がバックステイ25に形成された穴に表面側から挿入され、その裏面側でそれら先端部のネジ部にナットが螺合されて固定される。また、バックステイ25には、収納空間部16に配置された飼育ケージ1の間隔を保持するためのスペーサ29が着脱自在に取り付けられている。このスペーサ29は、図2、図6及び図7から明らかなように、形状としては例えば機械要素としてよく知られているUボルトのような形をしたもので、1本の金属棒をU字形に曲げて形成され、その両端部29a,29bは、バックステイ25の所定位置に開けられた2つの穴に挿入され、バックステイ25の裏面側からナットを螺合して着脱自在に取り付けられている。このようなスペーサ29をバックステイ25に取り付けるための2つの穴が取付け部である。
【0043】
このような取付け部は、2つの穴を1組として、小さな飼育ケージ1Sを収納空間部16に並べたとき、隣接する飼育ケージ1Sの間にこのスペーサ29が配置されるようなバックステイ25の位置に予め開けられている。従って、大きな飼育ケージ1Lを収納空間部16に収納するときには、この飼育ケージ1Lが占有する予定収納位置に存在する1つの取付け部にはスペーサ29を取り付けず、もし予め取り付けられていればそれを取り外す。
【0044】
図6及び図7に示される実施形態では、スペーサ29をバックステイ25に取り付けるための取付け部が、スペーサ29の両端部29a,29bを差し込む2つの穴であったが、このような取付け部については、スペーサ29の形に基づいて種々変更することができるので、この実施形態の構造に限定されるものではない。例えば、金属棒をU字状に曲げ、さらに2つの端部をL字形に曲げたスペーサ29を使用する場合には、図8に示されるようなブラケット30を取付け部とすることができる。すなわち、このブラケット30は、裏面に2つの溝を形成した板部材で形成され、これをバックステイ25の表面にネジ止めして取り付けることにより、それらの溝がバックステイ25の表面により覆われて取付け用の孔となり、それらの孔にL字形に屈曲された端部を差し込むことによりスペーサ29を自在に着脱することができる。
【0045】
他方、収納空間部16の前方側には、図2及び図3に示されるように、収納されている飼育ケージ1の脱落を防ぐため収納空間部16の幅方向に延びる押さえバー31が設置されている。この押さえバー31も1本の金属棒を曲げて形成されている。具体的には、押さえバー31は、ラック本体11における収納空間部16の幅方向に直線状に延びる押さえ部分31aと、その両側をほぼ直角にクランク状に屈曲させて形成されたアーム部及び両端部の支持軸31bとから構成されている。従って、押さえバー30の両端部に形成された支持軸31bは、押さえ部分31aにほぼ平行であり、この支持軸31bが、ラック本体11を構成するフレーム構造体13の前方側両側方に位置する柱13aに取り付けられた軸受け32により回転可能に支持される。これにより、押さえバー31の押さえ部分31aは、両側の支持軸31bの軸線を中心とし、かつアーム部の長さを半径として旋回し、収納空間部16に収納されている飼育ケージ1の前壁2cに近接したり、離れたりする。押さえバー31の押さえ部分31aには、この押さえ部分31aが飼育ケージ1の前壁2cに近接した状態のときにそれ以上の旋回を停止させるストッパー31cが設けられている。
【0046】
このストッパー31cは、押さえ部分31aの幅方向長さのほぼ中間位置にあって押さえ部分31aに対してほぼ直交する方向に延びる棒材で形成され、この棒材の一端部は押さえ部分31aに接続され、他端部はU字状に屈曲されている。一端部からU字状の屈曲部までがこのストッパー31cの実質長さであり、この長さは、押さえバー31が旋回して押さえ部分31aが収納空間部16に収納されている飼育ケージ1の前壁2cに接触するときに棚板15の表面にU字状屈曲部が当接するように決められる。なお、収納空間部16に収納されている飼育ケージ1をラック本体11から取り出す際に押さえバー31を旋回させても、押さえ部分31aが両端部の支持軸31bの軸線を中心に、かつアーム部の長さを半径として旋回するので、ストッパー31cが収納空間部16に収納されている飼育ケージ1にぶつかる恐れはない。
【0047】
次に、前述した実施形態に係る実験動物飼育用ラック装置10の使用方法について説明する。最初に、実験動物飼育用ラック装置10の収納空間部16に小さな飼育ケージ1Sだけを収める場合について説明する。バックステイ25には予め、収納空間部16に小さな飼育ケージ1Sのみが収納されることを想定して、それら飼育ケージ1Sの間にスペーサ29が位置するように取付け部(取付け穴)が設けられているので、このバックステイ25の各取付け部にスペーサ29が装着される。スペーサ29のバックステイ25への装着は、バックステイ25をマウントブラケット26から取り外し、収納空間部16の外で行う。次いで、飼育管理者は、ケージ本体2内に実験動物を収容した飼育ケージ1Sを持ってラック装置10の前方側から収納空間部16の各予定収納位置に押し込むようにして入れる。飼育ケージ1Sにおけるケージ本体2の後壁2cが、収納空間部16の背面板であるケーシング12の壁板12bに近づくと、ケージ本体2の後壁2cに形成されている受け口から水飲みプラグ18が相対的にケージ本体2の内部に進入する。その後、ケージ本体2の後壁2cに形成されているスタック3に移動制限バー27の第1当接部27aがぶつかり、飼育ケージ1Sのそれ以上の収納移動が停止される。
【0048】
ところで、飼育ケージ1S,1Lのケージ本体2に設けられているスタック3は、前述したように前後壁2cと側壁2dにおけるコーナー寄りに形成されており、また、移動制限バー27は、これを支持するバックステイ25の背面板への取付け上の問題から収納空間部16の全幅に及んではいない。そのため、収納空間部16の両最外側に収納される飼育ケージ1Sは、図2から明らかなように後壁2cに形成されている収納空間部16の幅方向中央寄りのスタック3が第1当接部27aにぶつかるだけで、幅方向外側に位置するスタック3は第1当接部27aから外れる(当接しない)。そうすると、収納空間部16の両最外側に収納される飼育ケージ1Sは、収納空間部16の幅方向外側に位置するコーナー側が収納空間部16の奥に入り込んで斜めになってしまうことから、第1当接部27aより前方に突出した第2当接部27bが、ケージ本体2の後壁2cに形成されている2つのスタック3の間でケージ本体2の後壁2cに直接ぶつかり、その結果、他の飼育ケージ1S,1L等と同様に整然とした整列状態に配置される。
【0049】
収納空間部16に所定数の飼育ケージ1Sが収納されると、ラック本体11の前方側に取り付けられている押さえバー31が旋回され、押さえ部分31aに取り付けられているストッパー31cが棚板15の表面にぶつかった時に押さえバー31の旋回が停止し、押さえ部分31a部材が収納空間部16に収納された飼育ケージ1Sの前壁2cにほぼ接触し、これにより収納空間部16に収納されている全ての飼育ケージ1Sが前方側から押さえ込まれる。これにより、各飼育ケージ1Sは、後方側の移動制限バー27と前方側の押さえバー31とに挟まれ、その結果、ラック装置10が地震などにより揺れたとしても飼育ケージ1Sが棚板15から落ちることはない。
【0050】
このようにして、飼育ケージ1が、ラック本体11の収納空間部16に収まっているとき、排気ボックス19の底板19aが飼育ケージ1Sにおけるケージ本体2の開放上面2aにすれすれの位置にあることから、ケージ本体2内の空気は、底板19aに形成されている排気口22から排気ボックス19内に排気され、排気チャンバー12aを介して外部に排出される。これにより、飼育ケージ1Sのケージ本体2内は陰圧になるので、実験動物飼育室R内の清浄な空気が、ケージ上部カバー23とケージ本体2の開放上面2aとの僅かな隙間24から供給され、ケージ本体2内の換気が行われる。この時、ケージ上部カバー23とケージ本体2の開放上面2aとの隙間24を非常に狭くしているので、この隙間24からケージ本体2内に比較的に速い流速で清浄な空気が流れ込む。
【0051】
この結果、ケージ上部カバー23とケージ本体2の開放上面2aとの隙間24から動物飼育室R内の清浄な空気を取り込み、ケージ本体2の底部2b方向へ流れ、ケージ本体2内の中央付近の汚染空気を排気する気流が確立されるので、飼育ケージ1内の換気が効果的に行われる。また、このラック装置10では、飼育ケージ1Sが収納空間部16に収められているときには、排気ボックス19とケージ上部カバー23とによってケージ本体2の開放上面2aがほとんど閉鎖されているのと同じような状態であるため、ケージ本体2内の汚染空気が隙間24から動物飼育室R内に出る恐れもない。
【0052】
ラック装置10の収納空間部16に収められている飼育ケージ1内の飼育動物に餌をやるとき、飼育動物を飼育ケージ1から出すとき、又は飼育ケージ1から取り出した動物を戻すときなどには、押さえバー30を前方側に旋回させ、飼育ケージ1Sの前方側への移動を可能にさせ、飼育ケージ1Sを収納空間部16から引き出す。ところで、図2に示されるように1つの収納空間部16に小さな飼育ケージ1Sと大きな飼育ケージ1Lとを混在させて収納させるようにすることが従来から望まれていた。そこで、この実施形態のラック装置10では、大きな飼育ケージ1Lの予定収納位置を予め決め、その際、予定収納位置に存在するスペーサ28を取り外しておく。具体的な手順としては、スペーサ28を着脱自在に支持するバックステイ25をマウントブラケット26の受け溝26bから外して収納空間部16の外に出し、大きな飼育ケージ1S,1Lが収納される予定収納位置に存在することになるスペーサ29を取付け部から取り外す。その後、バックステイ25を元の位置に戻し、予定したとおりに小さな飼育ケージ1S及び大きな飼育ケージ1Lを収納空間部16におけるそれぞれの予定収納位置に収納する。
【0053】
これにより、この実施形態に係るラック装置10によると、1つの収納空間部16に小さな飼育ケージ1Sだけ、或いは大きな飼育ケージ1Lだけ、更にそれら大小の飼育ケージ1S,1Lを混在させて状態で整然と収納することが容易にできる。また、地震などによりラック装置10が揺れても収納空間部16に収納されている飼育ケージ1S,1Lが棚板15から脱落することがなく非常に安全に保管することができる。ラック装置10を使用し続けると、ランク本体11の内部や排気チャンバー12a内には塵埃などが付着して成長する。このような塵埃は、飼育ケージ1内を換気する空気が流れる経路、例えば、ケージ上部カバー23の下面や排気ボックス19の内部に特に顕著に付着する。従って、このような部分は定期的な清掃が必要となる。
【0054】
ケージ上部カバー23の下面は、収納空間部16から飼育ケージ1S,1Lを取り出せば、清掃は比較的に容易にできる。他方、排気ボックス19内の清掃は、排気チャンバー12aを構成しているケーシング12の後方側壁板を外し、排気チャンバー12a内から排気ボックス19内に清掃者が手を入れて清掃する。その場合、排気チャンバー12aに向かって開放している排気ボックス19の開口部を画成している上縁部及び下縁部が排気ボックス19から排気チャンバー12aに向かって拡大するように傾斜する板20,21で形成されているため、清掃者が排気ボックス19内に手を入れ易く、その結果、清掃作業が容易で、また怪我をすることもないので安全、かつ迅速に清掃をすることができる。上述した実施形態は、本発明における最適な例を挙げたものであり、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形例を含むものである。
【符号の説明】
【0055】
R 実験動物飼育室
1 飼育ケージ
2 ケージ本体
2a 開放上面
10 実験動物飼育用ラック装置
11 ラック本体
12 排気チャンバー
12a 排気チャンバーを構成するケーシング
13 フレーム構造体
14 底板
15 棚板
16 収納空間部
19 排気ボックス
20,21 傾斜板
22 排気口
23 ケージ上部カバー
24 隙間
25 バックステイ
26 マウントブラケット
27 移動制限部材(移動制限バー)
27a 直線状の第1当接部
27b 前方に突出した第2当接部
28 押さえバネ
29 スペーサ
30 取付け部(取付け穴)
31 押さえ部材(押さえバー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験用の小動物を収容する飼育ケージを収納するラック本体と、このラック本体に収納された前記飼育ケージ内の空気を排気する排気チャンバーとから構成される実験動物飼育ラック装置において、
前記ラック本体が、該ラック本体の幅方向に延びる少なくとも1つの棚板と、複数の前記飼育ケージを前記ラック本体の前方側から後方側へ向かって入れると共に前記棚板の前記幅方向に並べて保管し得るように前記棚板上に画成された収納空間部と、前記収納空間部の前記後方側を閉鎖する背面板と、前記収納空間部に収納された複数の前記飼育ケージを前記前後方向に直交する左右の幅方向に所定の間隔を開けて位置決めすると共に前記幅方向への移動を規制すべく前記収納空間部の前記後方側における前記ラック本体に着脱自在に装着されたスペーサと、前記スペーサを前記ラック本体に着脱自在に装着する複数の取付け部と、前記収納空間部における前記後方側の上部に設置され、前記収納空間部に開口した排気口を備える排気ボックスとを備え、前記排気ボックスが前記排気チャンバーに連通していることを特徴とする実験動物飼育用ラック装置。
【請求項2】
前記ラック本体が、前記収納空間部の前記幅方向に延び、かつ前記背面板に着脱可能に取り付けられたバックステイを備え、前記取付け部が、前記バックステイに形成され、前記スペーサが、これら取付け部に前記着脱自在に装着されている請求項1に記載の実験動物飼育用ラック装置。
【請求項3】
前記ラック本体が、前記収納空間部に収納される前記飼育ケージに当接して前記前方側から前記後方側に向う方向への前記飼育ケージの動きを規制して前記飼育ケージを定位置に配置すべく前記バックステイに取り付けられた移動制限部材を備えている請求項2に記載の実験動物飼育用ラック装置。
【請求項4】
前記ラック本体を構成する前記背面板が、前記排気チャンバーを形成するケーシングの壁板であり、前記排気ボックスの前記後方側が前記排気チャンバーの前記壁板に接続され、前記排気ボックスと該排気チャンバーとの接続部である開口周囲部の少なくとも一部が前記排気ボックスから前記排気チャンバーに向かって拡大するように傾斜面とされている請求項1〜3のいずれかに記載の実験動物飼育用ラック装置。
【請求項5】
前記ラック本体が、前記収納空間部に収納された前記飼育ケージの前記前方側からの飛び出しを防止すべく前記収納空間部の前記幅方向に延びる押さえバーを備え、この押さえバーが、その両端部のそれぞれを前記ラック本体における前記幅方向両外側部に位置する固定部に回転可能に支持されていることにより旋回可能に前記ラック本体に取り付けられている請求項1〜4のいずれかに記載の実験動物飼育用ラック装置。
【請求項6】
前記ラック本体には、前記排気ボックスより前記前方側に配置され、かつ前記収納空間部に収納される前記飼育ケージの開放上面との間に給気可能な隙間を残して前記開放上面に近接するケージ上部カバーが取り付けられている請求項1〜5のいずれかに記載の実験動物飼育用ラック装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−10615(P2012−10615A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147970(P2010−147970)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 第57回日本実験動物学会総会 主催者名 社団法人日本実験動物学会総会 大会長 芦川忠夫 開催日 平成22年5月12日
【出願人】(591023479)ダイダン株式会社 (82)
【Fターム(参考)】