説明

実験用小動物の骨髄採取方法及び骨髄採取用遠心分離チューブ

【課題】 実験用小動物から骨髄を効率良く、しかも正確に質量測定可能な状態で採取することができる方法及び遠心分離チューブの提供。
【解決手段】 実験用小動物の骨を遠心して骨髄を分離採取する;骨髄を貯溜する有底外筒体の内部に、骨を収容保持する内筒体を嵌挿した遠心分離チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験用小動物の骨髄採取方法及び骨髄採取用遠心分離チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
マウスやラット等を初めとする実験用小動物は、各種の薬理試験や安全性試験に汎用されている。当該各種試験の一つとして骨髄中の薬物濃度の測定があるが、その場合には、骨の内部に存在する骨髄を採取する必要がある。
【0003】
而して、従来斯かる骨髄の採取は、図4に示す如く、マウスやラット等の実験用小動物から切断して取り出した大腿骨に、予め注射器に充填した培養液を当該大腿骨の膝関節側から注射器で勢いよく注入することにより押し出して採取する方法(例えば非特許文献1参照)や当該大腿骨を軸方向に切断した後、掻き出して採取する方法によって行なわれていた。
【0004】
しかしながら、上記の如き従来の採取方法は何れもその操作が非常に煩雑で効率性に欠けると云う問題があった。特に、マウスやラット等の実験用小動物の骨髄は非常に少量であり、かつ骨の内部に存在し、単体での骨髄採取は困難なため、薬物濃度測定に供する量を確保するためには、多数の個体から骨髄を採取する必要があるところ、上記の従来の採取方法では対応し得ず、しかも、濃度測定に重要な骨髄の質量を正確に測定するのも困難なのが実状であった。
【非特許文献1】日本生化学会編「続生化学実験講座8 血液」東京化学同人、1987年4月15日、p.8−10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き従来の問題と実状に鑑みてなされたもので、マウスやラット等の実験用小動物から骨髄を効率良く、しかも正確に質量測定可能な状態で採取することができる方法及び当該採取に好適なチューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を、実験用小動物の骨を遠心して骨髄を分離採取することにより解決したものである。
【0007】
また、本発明は、上記課題を、骨髄を貯溜する有底外筒体の内部に、骨髄を採取する骨を収容保持する内筒体を嵌挿せしめた遠心分離チューブにより解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法は、遠心法により骨から骨髄のみを取り出すものであるため、従来の如く、注射器に培養液を充填したり、該培養液を骨に注入する必要がなく、極めて効率良く骨髄を採取することができる結果、小動物から単体での骨髄採取が可能となると共に、多数の個体処理も容易となる。
しかも、遠心中に骨が砕けることがないため、骨と骨髄が明確に分離されるので、骨髄質量を正確に測定することができると共に、不要な骨を容易に廃棄することができる。
【0009】
また、特に本発明遠心分離チューブを用いれば、内外二重筒構造の故に、骨髄を骨から隔離した状態で分離採取することができるので、より正確に骨髄質量を測定することができると共に、そのまま凍結保存や抽出操作を行なうことができる。
【0010】
さらに骨髄中の薬物濃度を正確に測定することにより、骨髄へ移行する性質を持つ薬物の体内動態を評価する際、実験小動物の同一個体の他組織濃度(例えば血清中濃度、肝臓中濃度など)と骨髄中濃度とを測定することにより、その薬物の体内組織分布の評価等をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明方法は、実験用小動物の骨を遠心分離チューブに入れ、通常の遠心機にかけることによって実施されるが、当該遠心分離チューブとしては、本発明遠心分離チューブを用いるのが望ましい。本発明による骨髄採取の際は、骨をチューブ内に、骨の軸方向を遠心方向に合わせて収容・保持した後に、遠心操作によって分離することから、骨髄採取に供する骨は、湾曲していないこと及びマウス等非常に小さな動物においても一定量以上の骨髄を含む骨であるといった条件を満たす点で大腿骨が望ましいが、必ずしもこれに限定されない。これらの骨は、骨髄を効率良く採取するために、予め両端を切断して用いることが望ましい。また、ここでいう実験用小動物とは、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどのげっ歯類およびウサギなどであるが、遠心機に用いるチューブに収容可能な大きさの大腿骨を持つ動物であれば本発明の実施は可能であり、動物の種類は特に限定されない。
【0012】
本発明遠心分離チューブにおいて、有底外筒体に嵌挿される内筒体は1本であっても良いが、複数本とし、各内筒体毎に1本の骨を収容保持し得るようにするのが、骨同士の接触破損を防止する上で望ましい。特に、内筒体を2本とした場合には、大腿骨から骨髄を採取する場合に、実験用小動物1個体は大腿骨を2本有するため、実験用小動物1個体からの骨髄採取をより正確に行なうことができ、有利である。
【0013】
また、内筒体内部に、軸方向の隔壁を形設して複数の区分室に区画することによっても、上記と同様な結果を得ることができる。
【0014】
内筒体が無底の場合、当該無底内筒体の下部開口部内径や区分室の下部開口部内径は、骨を収容保持し得る限り特に限定されないが、これを大腿骨の端部径より小さくするのが、当該開口部から大腿骨が突出するのを防止する上で望ましい。
【0015】
内筒体の外径は、上部から下部に向って徐々に小径とするのが、有底外筒体への嵌挿をよりスムースに行ない得るので望ましい。
【0016】
内筒体は有底でも良いが、骨髄が通過することができる程度の大きさで、かつ骨の端部径より小さい内径の穴が底部に開いているか、もしくは同様の径の開き目を持つ網目状の底部とするのが、骨髄を有底外筒体の内底部に貯溜することができるので望ましい。因に、ここでいう開き目とは、網目の内寸(隣り合う線と線の間)のことである。
【0017】
内筒体の下端と有底外筒体の内底部との間には、当該内筒体の下端が有底外筒体の内底部に貯溜した骨髄と接触することのない間隔を設けるのが、より正確に骨髄を採取し得るので望ましい。
【0018】
内筒体の有底外筒体への嵌挿は、固定方式であっても良いが、着脱自在とするのが、遠心分離後、骨の入った内筒体を骨髄の入った有底外筒体から抜き出すことにより両者を分離し、内筒体はそのまま廃棄処分し得る一方、有底外筒体はそのまま保存や抽出操作することができ、また、予め有底外筒体の質量を測定しておけば、骨の入った内筒体を抜き出してそのまま質量を測定することにより、骨髄の質量を測定できるので望ましい。
【0019】
内筒体は、有底外筒体の上部開口部からやや突出するように嵌挿するのが、遠心分離後、当該突出部を摘むことにより、骨が入った内筒体を骨髄の入った有底外筒体から容易に抜き出すことができるので望ましい。
【0020】
内筒体と有底外筒体の嵌合部は全体的であっても良いが、有底外筒体の上部開口周辺部においてのみ嵌合せしめるのが、内筒体と有底外筒体の着脱操作性に優れ望ましい。
【0021】
有底外筒体としては、その上部開口部及び内筒体の上部開口部を封止する蓋を備えているものが、密閉した状態で遠心分離できると共に、遠心分離後は骨髄の入った有底外筒体を当該蓋で密閉して保存等をすることができるので望ましい。この場合、有底外筒体の上部開口部内径と内筒体の上部開口部内径は同じとするのが蓋を共用できるので有利である。
【0022】
尚、有底外筒体及び内筒体の材質は特に限定されないが、そのまま凍結保存可能な合成樹脂製とするのが望ましい。
また、骨髄の薬物濃度を測定する際には、有機溶媒による薬物の抽出操作が必要であるため、有底外筒体及び内筒体並びに蓋は、薬物の抽出に一般的に使用される有機溶媒に対して耐性を有するものが望ましい。ここで言う有機溶媒とは、アセトニトリル、メタノール、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタンなどであるが、薬物の抽出に使用される有機溶媒であれば、特に限定されない。
さらに、有底外筒体および内筒体は透明または半透明であることが望ましい。特に有底外筒体は、得られた骨髄に上記有機溶媒を添加して均一に混合(懸濁)する操作を確実に行えたかどうかを確認するために、透明または半透明であることが望ましい。
【実施例】
【0023】
以下実施例を挙げて本発明を更に説明するが、かならずしもこれらに限定されない。
【0024】
実施例1(遠心分離チューブ例1)
図1は、本発明遠心分離チューブの第1の実施例を示す概略断面説明図である。
該図1において、10は上部のみが開口した有底外筒体で、遠心分離後は骨髄を貯溜するものである。20は上下が開口した無底内筒体で、大腿骨を収容保持するものである。この無底内筒体20の外径は、上部において同径部21を有するが、それより下方は上部から下部に向って徐々に小径のテーパー状となっていると共に、その下部開口部20bの内径は、収容保持される大腿骨Pの端部径より小さく形成され、当該大腿骨Pが係止して当該下部開口部20bから突出しないようになっている。
【0025】
上記無底内筒体20は、上記有底外筒体10内に、少なくとも同径部21を有底外筒体10の上部開口部10aから突出せしめて嵌挿され、両筒体10、20は当該有底外筒体10の上部開口周辺部においてのみ着脱自在に嵌合している。また、無底内筒体20の下端24と有底外筒体10の内底部との間には、遠心分離後、無底内筒体20の下端22が有底外筒体10の内底部に貯溜した骨髄Qと接触することのない間隔Lが設けられている。
【0026】
有底外筒体10の上部開口部10aの内径と無底内筒体20の上部開口部20aの内径は略同一となっており、有底外筒体10の上部に、柔軟性を有する連結片31を介して付設された蓋30によって、それぞれ当該上部開口部10a、20aが着脱自在に密閉し得るようになっている。
【0027】
実施例2(遠心分離チューブ例2)
図2は、本発明遠心分離チューブの第2の実施例を示す概略断面説明図である。
この実施例は、有底外筒体10内に2本の無底内筒体20が嵌挿され、各無底内筒体20内にそれぞれ1本ずつ大腿骨が収容保持されるようになっている以外は第1の実施例と同様に構成されている。
【0028】
実施例3(遠心分離チューブ例3)
図3は、本発明遠心分離チューブの第3の実施例を示す概略断面説明図である。
この実施例は、軸方向に形設された隔壁23により無底内筒体が2つの区分室24に区画され、各区分室24内にそれぞれ1本ずつ大腿骨が収容保持されるようになっている以外は第1の実施例と同様に構成されている。
【0029】
次に、本発明を用いた骨髄採取の具体的な例(実施例4、5)、および従来の方法を用いた骨髄採取の例(比較例1)を挙げて更に説明する。
【0030】
実施例4(骨髄採取例1)
図1に示した遠心分離チューブの無底内筒体20に、予め両端を切断したマウスの大腿骨Pを2本、骨の軸方向を遠心方向に合わせるよう収容保持せしめた後、これを遠心機にかけ、回転数が約8000rpmとなった時点で停止したところ、有底外筒体10の内底部に骨髄Qが分離貯溜した。そこで、無底内筒体20を有底外筒体10から取り外し、骨髄が貯溜した状態で有底外筒体10の質量を測定し、予め測定しておいた当該有底外筒体10のみの質量を差し引いたところ、得られた骨髄の質量は約18mgであった。
【0031】
実施例5(骨髄採取例2)
図1に示した遠心分離チューブの無底内筒体20にラットの大腿骨Pを2本収容保持せしめた後、これを遠心機にかけ、回転数が約8000rpmとなった時点で停止したところ、有底外筒体10の内底部に骨髄Qが分離貯溜した。
そこで、無底内筒体20を有底外筒体10から取り外し、骨髄が貯溜した状態で有底外筒体10の質量を測定し、予め測定しておいた当該有底外筒体10のみの質量を差し引き、得られた骨髄の質量を測定した。84匹のラットを測定したところ、大腿骨1本における骨髄の平均質量は62.5mgであった。
【0032】
比較例1(骨髄採取例3)
ラットの大腿骨を採取し、1本の大腿骨を軸方向に切断し、中の骨髄を全て掻き取った。得られた骨髄の質量を測定したところ、約10mgであった。
【0033】
以上の結果から明らかなように、従来の方法(比較例1)に比べて、本発明を用いる方法(実施例4および5)の方が、より効率的に小動物の骨髄を採取することができた。また、従来の方法では、マウス1個体の骨髄の質量を正確に測定することは困難であったが、本発明を用いることにより簡便に測定することができた(実施例4)。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明遠心分離チューブの第1の実施例を示す遠心分離後の概略断面説明図。
【図2】本発明遠心分離チューブの第2の実施例を示す遠心分離後の概略断面説明図。
【図3】本発明遠心分離チューブの第3の実施例を示す遠心分離後の概略断面説明図。
【図4】ラットにおける従来の骨髄採取方法を示す模式説明図。
【符号の説明】
【0035】
10:有底外筒体
10a:上部開口部
20:無底内筒体
20a:上部開口部
20b:下部開口部
21:同径部
22:下端部
23:隔壁
24:区分室
P:大腿骨
Q:骨髄
L:間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験用小動物の骨を遠心して骨髄を分離採取することを特徴とする実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項2】
実験用小動物の骨を遠心分離チューブに入れ、次いでこれを遠心機にかけて骨髄を骨から分離採取することを特徴とする請求項1に記載の実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項3】
両端を切断した実験用小動物の骨を遠心分離チューブに収容し、骨の軸方向を遠心方向に合わせて保持し、さらに遠心機にかけて骨髄を骨から分離採取することを特徴とする請求項1又は2に記載の実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項4】
有底外筒体と1ないし複数本の内筒体から構成された遠心分離チューブを用い、該内筒体に実験用小動物の骨を収容して保持することを特徴とする請求項2又は3に記載の実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項5】
遠心分離チューブが、有底外筒体の内部に2本の内筒体を嵌挿して構成されていることを特徴とする請求項4に記載の実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項6】
遠心分離チューブが、有底外筒体の内部に、軸方向に形設された隔壁により複数の区分室に区画された1本の内筒体を嵌挿して構成されていることを特徴とする請求項4に記載の実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項7】
内筒体が、軸方向に形設された隔壁により2つの区分室に区画されていることを特徴とする請求項4又は6に記載の実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項8】
内筒体と有底外筒体が着脱自在であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項9】
骨が大腿骨であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取方法。
【請求項10】
骨髄を貯溜する有底外筒体の内部に、骨を収容保持する1ないし複数本の内筒体を嵌挿せしめたことを特徴とする実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項11】
内筒体が無底内筒体であることを特徴とする請求項10記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項12】
内筒体が2本嵌挿されていることを特徴とする請求項10又は11記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項13】
内筒体が、軸方向に形設された隔壁により複数の区分室に区画されていることを特徴とする請求項10又は11に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項14】
内筒体が、軸方向に形設された隔壁により2つの区分室に区画されていることを特徴とする請求項10、11又は13に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項15】
内筒体の下部開口部内径が、骨髄を採取する骨の端部径より小さいことを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項16】
内筒体の外径が、上部から下部に向って徐々に小径となっていることを特徴とする請求項10〜15のいずれか1項記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項17】
内筒体の下端と有底外筒体の内底部との間に、当該内筒体の下端が有底外筒体の内底部に貯溜した骨髄と接触することのない間隔が設けられていることを特徴とする請求項10〜16のいずれか1項記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項18】
内筒体と有底外筒体が着脱自在であることを特徴とする請求項10〜17のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項19】
内筒体が、有底外筒体の上部開口部からやや突出して嵌挿されていることを特徴とする請求項10〜18のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項20】
内筒体が、有底外筒体の上部開口周辺部においてのみ嵌合していることを特徴とする請求項10〜19のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項21】
有底外筒体が、該有底外筒体の上部開口部及び内筒体の上部開口部を封止する蓋を備えていることを特徴とする請求項10〜20のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項22】
有底外筒体が、有機溶媒耐性を有することを特徴とする請求項10〜21のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。
【請求項23】
有底外筒体が、透明または半透明であることを特徴とする請求項10〜22のいずれか1項に記載の実験用小動物の骨髄採取用遠心分離チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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