説明

家畜用乳頭マーキングシート

【課題】乳牛等の搾乳動物の乳房に搾乳器を取り付け搾乳する際、誤って乳房炎や乳頭炎となった牛から搾乳しないようにする実用上簡便な手段であって、色落ちや疾病の悪化を防止する手段の提供。
【解決手段】支持体10と、前記支持体10上に配された粘着剤層10aと、前記支持体10が配された面と反対側の前記粘着剤層面上に配されており、使用時には前記粘着剤層10aから容易に剥離可能な剥離層とを有する、乳房炎及び/又は乳頭炎に感染した家畜から搾乳することを防止するための家畜用乳頭マーキングシート1であって、前記支持体10が不織布、織布又は編布から選択される材料であり、前記シート1の5%引張応力(N/25mm)が2.0〜30、伸び(%)が10〜400、曲げ硬さ(mg・cm)が15〜70である家畜用乳頭マーキングシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛や山羊等の搾乳動物における乳房炎や乳頭炎といった炎症部位から搾乳しないように、あらかじめ当該疾患に罹患した動物を標識するための、家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
乳牛の搾乳時、疾病で最も問題視されているものとして乳房炎が挙げられる。乳房炎は重症になると廃用牛にせざるを得ず、毎年、廃用牛理由の1位或いは2位となっている。また、廃用牛に至らないまでも、乳房炎になると乳量の低下や乳成分の劣化を生じ、加えて乳房炎に対して抗生物質による治療を行っている期間は法規制により乳を出荷できず、酪農家にとっては経済的打撃が大きい。
【0003】
乳牛は、その5〜10%が乳房炎に感染しているといわれている。現在、正常な乳牛と乳房炎に感染した乳牛を区別するため、現状では色付きスプレーを乳房炎等にかかった乳房付近に噴射したり、乳頭部分にゴムバンド等を装着したりすることにより正常な牛と区別している。しかしながら、色付きスプレーは、作業を行う又は終了するまでに色落ちする可能性がある上、乳頭があわらになっているため、間違えて搾乳器を装着して搾乳してしまうおそれがあった。また、ゴムバンド等を装着する方法は、作業性が悪く、装着と脱着が面倒であり、乳頭を拘束し傷つけたり、乳頭炎を悪化させたりするおそれがあった。搾乳は非常に多くの牛を取り扱う性質上、重労働であり、正常な乳に感染した牛の乳が混入する事故はいまだ発生している。感染した牛の乳は飲料としては不適であり、廃棄処分となるため酪農家は多大な損害を被る。
【0004】
従来は、防水性を示し、一定の伸び率を有する可とう性フィルムからなる、巻きつけ固定が可能である家畜用乳頭保護材料が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1には、乳牛等の搾乳動物における乳房炎や乳頭炎といった乳頭(乳房)の炎症を治療或いは予防することができる乳頭保護材料が提案されている。当該乳頭保護材料は、治療或いは予防を目的としたものである。尚、特許文献1には、乳頭保護材料を乳頭に貼り付けた上から搾乳機を装着することも可能であり、搾乳の都度貼り替える必要がなく、数日間乃至数週間貼りつづけることができることが記載されている。しかし、実際には乳頭に乳頭保護材料を巻きつけた状態で搾乳を行うと、空気を抱き込んで搾乳品の品質が低下するおそれがある上、搾乳機を繰り返し装着すると支持体の端部分がこすれ、乳頭保護材料が剥がれて捲れあがるなどの懸念がある。また、透湿性が悪いフィルムを数日間乃至数週間貼り続けることは、一般に皮膚へのストレスが過度になり、皮膚呼吸を妨げ皮膚刺激が起こりやすくなるという問題も抱えている。また、特許文献1に係る乳頭保護材料では、可とう性フィルムを採用しているため、そのまま家畜類の乳首に適用すると、透湿性が十分ではないことから、皮膚にかぶれが生じることがある。また、可とう性フィルムは視認性に劣り、着色なしには酪農家が感染動物と非感染動物を見分けることが難しい。
【0005】
また、乳頭を菌、汚れ、糞尿等から保護するゲル状の乳頭パックも知られている(例えば特許文献2)。特許文献2においては、具体的には、アルギン酸塩を含有する液を乳頭に塗布しゲル化させることにより、乳頭上にパックを形成させている。特許文献2に記載の方法でも、マーキング機能がなく、酪農家にとって感染動物と非感染動物を容易に見分けることができない。
【特許文献1】特開2006−129795
【特許文献2】特開2006−50911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、正常な乳牛等の搾乳動物の乳房に搾乳器を取り付け搾乳する際、誤って乳房炎や乳頭炎となった牛から搾乳しないようにかかる乳牛等をマーキングする実用上簡便な手段であって、色落ちや疾病の悪化を防止する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況の下、発明者が鋭意検討した結果、驚くべきことに、不織布、織布および編布から選択される材料を採用し、さらに、引張応力、伸びおよび曲げ硬さを特定の範囲とすることにより、当該課題を解決することを見出した。
より詳細には、本発明は、以下の本発明(1)〜(13)よりなる。
【0008】
本発明(1)は、支持体と、
前記支持体上に配された粘着剤層と、
前記支持体が配された面と反対側の前記粘着剤層面上に配されており、使用時には前記粘着剤層から容易に剥離可能な剥離層とを有する、乳房炎及び/又は乳頭炎に感染した家畜から搾乳することを防止するための家畜用乳頭マーキングシートであって、
前記支持体が不織布、織布及び編布からなる群より選択される材料であり、前記シートの5%引張応力(N/25mm)が2.0〜30、伸び(%)が10〜400、曲げ硬さ(mg・cm)が15〜70である家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【0009】
本発明(2)は、前記支持体が、一辺が5〜15cmの略方形、直径が5〜15cmの略円形又は短軸及び長軸が5〜15cmの略楕円形である本発明(1)記載の家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【0010】
本発明(3)は、前記支持体が、長辺が5〜15cm、短辺が2〜4cmの略矩形である本発明(1)記載の家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【0011】
本発明(4)は、前記支持体外縁の一部又は全部には、前記粘着剤層が形成されていないか又は粘着剤層上に更に被覆部材で被覆されて非粘着化した口取り部が設けられている、本発明(1)〜(3)のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【0012】
本発明(5)は、前記口取り部が着色されている、本発明(4)記載の家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【0013】
本発明(6)は、前記支持体の略中央部には前記粘着剤層が形成されていないか又は当該粘着剤層が被覆部材で被覆されて非粘着化されている、本発明(1)〜(5)のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【0014】
本発明(7)は、前記支持体が、長辺が8〜12cm、短辺が2〜4cmの略矩形である不織布からなり、前記口取り部の幅が1〜3cmで、前記粘着剤がアクリル系粘着剤である、本発明(4)〜(5)のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【0015】
本発明(8)は、前記剥離層が相対する口取り部の外側に延伸していることを特徴とする、本発明(4)〜(6)のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシートに関する。
【0016】
本発明(9)は、乳房炎及び/又は乳頭炎を患った搾乳動物から誤って搾乳しないよう当該動物をマーキングする方法において、
本発明(1)〜(8)のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシートの、前記粘着剤が形成された面が、前記搾乳動物の乳首に接触するように配置する工程
を有することを特徴とする方法に関する。
【0017】
本発明(10)は、前記家畜用乳頭マーキングシートの、前記粘着剤が形成された面を、前記搾乳動物の乳首の下方に乳首と対向して配置する工程、及び
乳首の下方に配置された前記家畜用乳頭マーキングシートを上昇させ、前記家畜用乳頭マーキングシートを前記搾乳動物の乳首の先端に接触させた後、乳首の先端に接触させた前記家畜用乳頭マーキングシートを更に上昇させ、前記家畜用乳頭マーキングシートを前記先端を支点として袋状に変形することにより前記乳首全体を前記家畜用乳頭マーキングシートで包む工程と
を有することを特徴とする本発明(9)記載の方法に関する。
【0018】
本発明(11)は、前記家畜用乳頭マーキングシートを、貼付の位置決めをするため、先ず、搾乳動物の頭側の乳首上部から貼付する工程、及び
乳首先端部から当該シート全体を上方に移動し乳首全体を覆うように貼付することにより、当該シートを袋状に変形し乳首全体を覆う工程
を有することを特徴とする本発明(9)記載の方法に関する。
【0019】
本発明(12)は、前記家畜用乳頭マーキングシートを、乳房炎及び/又は乳頭炎となった乳牛の乳首先端部を外して周囲に貼付し、次に粘着剤面同士を貼り合わせる工程を有することを特徴とする本発明(9)記載の方法に関する。
【0020】
本発明(13)は、乳房炎及び/又は乳頭炎を患った搾乳動物から誤って搾乳しないよう当該動物をマーキングする方法において、
本発明(4)〜(8)のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシートを、前記粘着剤が形成された面が、前記搾乳動物の乳首に接触するように配置する工程、及び
口取り部を搾乳動物の尻側に向けて貼付する工程
を有することを特徴とする方法に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、手のひらにちょうど乗る大きさ及び形状をしていることに加え、乳首を包むように貼付することを前提として、適度な伸縮性のある物性{シートの5%引張応力(N/25mm)が2.0〜30、伸び(%)が10〜400、曲げ硬さ(mg・cm)が15〜70}としたので、作業性に優れていると共に乳首にも優しく疾病の悪化を防止でき、更には、それ自体が視認性に優れた素材(不織布、織布又は編布)で構成されているので、着色することによる色落ちも防止することが可能になり、かつ、乳房炎や乳頭炎となった動物の判別を間違いなく行うことができ、誤って搾乳器を装着してしまった場合でも、搾乳を防止することができるという効果を奏する。尚、不織布、織布又は編布といった素材は通気性も有しており、動物の不快感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、第一形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図2】図2は、本発明に係る家畜用乳頭マーキングシートの使用状況を示した図である。
【図3】図3は、本発明に係る家畜用乳頭マーキングシートの使用状況を示した図である。
【図4】図4は、第二形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図5】図5は、第二形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図6】図6は、第三形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図7】図7は、第四形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図8】図8は、第五形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図9】図9は、第六形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図10】図10は、第七形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図11】図11は、第八形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図12】図12は、第九形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図13】図13は、第十形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図14】図14は、第十一形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図15】図15は、第十二形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図16】図16は、第十三形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図17】図17は、第十四形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【図18】図18は、第十四形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの使用状況の一例である。
【図19】図19は、第十四形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの使用状況の別例である。
【図20】図20は、第十四形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の最良形態について図面を参照しながら説明する。尚、以下で説明する最良形態は本発明の一部を構成するに過ぎず、本発明は当該最良形態に限定されるものではない。
【0024】
《家畜用乳頭マーキングシートの構成》
はじめに、本最良形態に係る家畜用乳頭マーキングシートは、適度な柔軟性のある支持体と、当該支持体上に適用された皮膚に優しい粘着剤層と、未使用時には当該粘着剤層と接合状態にあるが使用時には容易に剥離可能な剥離層と、を有する。更に、当該支持体外縁の一部又は全部には、粘着剤層が形成されていないか或いは粘着剤層上に更に被覆部材(例えばフィルム)を被覆して非粘着化した、剥離作業性が良好なように着色された口取り部を有する。ロール状のテープとすると、酪農家は搾乳時に手袋で作業するため取り扱い性が極端に悪くなる為、適さない。
【0025】
以下、本最良形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの構造をまず説明する。
図1は、第一形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの一例を示した図である。より詳細には、図1(a)は、支持体10の口取り部10bをつまんで剥離層11から部分的にマーキングシート1を隔離した様子を示した図である。図1(b)は、当該マーキングシート1の表面図である。図1(c)は、当該マーキングシート1(剥離後)の背面図である。図1(d)は、当該マーキングシート1(剥離前)の背面図である。図1(e)は、当該マーキングシートの断面図である。当該図に係る家畜用乳頭マーキングシート1は、支持体10と、当該支持体10上に配された粘着剤層10aと、未使用時には当該粘着剤層と接合状態にあるが使用時には容易に剥離可能な剥離層11と、を有する。更に、当該支持体10の一部には、粘着剤層が形成されていないか或いは粘着剤層上に更にフィルムを被覆して非粘着化した、剥離作業性が良好なように着色(例えば青色)された口取り部10bを有する。図1bに示すように、係る着色された口取り部10bは支持体10を通して視認可能である。ここで、例えば、図1(e)に示すように、当該口取り部10bは、当該支持体10の四辺の内の一辺外縁において、支持体10に適用された粘着剤層10aを着色フィルムで被覆してなる。以下、各要素を詳述する。
【0026】
(支持体の構成)
本最良形態に係る家畜用乳頭マーキングシート(又は支持体)の大きさ及び形状は、変形により対象となる家畜の乳頭を全体的又は部分的に包み込む(図3参照)ことが可能である必要があり、具体的には、一辺が5〜15cm、好ましくは8〜12cmの方形(例えば、正方形、長方形、菱形)、直径が5〜15cm、好ましくは8〜12cmの円形又は短軸及び長軸が5〜15cm、好ましくは8〜12cmの楕円形である。その他の一形態では、長辺が5〜15cm、好ましくは8〜12cmで短辺が2〜6cm、好ましくは2〜4cmの略矩形である。ここで、「略方形」、「略矩形」は、概ね方形或いは矩形と見える程度でよく、角があるもののみならず、面取りされたものをも包含する。また、「略円形」及び「略楕円形」についても、概ね円形や楕円形と見える程度でよく、一部が裁断されたようなものをも包含する。例えば、図1(b)に示す支持体シート10の大きさ及び形状は、四辺が面取りされた、一辺が約10cmの略正方形である。これは、当該シートが牛用として設計されており、牛の乳首の太さが概ね15〜40mmであることを踏まえた設計である。
【0027】
ここで、支持体の厚さは、支持体の材料特性等によって適宜決定されることが好ましいが、乳房の皮膚の追従性を考慮すると0.05〜0.8mmが好適であり、0.08〜0.5mmがより好適である。
【0028】
(粘着剤層の構成)
次に、支持体上に配されている粘着剤層は、支持体全面にわたって存在していてもよく、一部にしか存在していなくともよい。例えば、図1に示す支持体シート10では、製造上容易であるとの理由から、支持体10の全面にわたり粘着剤層10aが適用されている。但し、乳首を粘着剤が覆ってしまうと家畜が痛がる場合があるので、乳首の先端部に当たる部分については粘着剤層を設けない手法(例えばパターンコーティング)であるとか、当該部分の粘着剤層を被覆部材で覆う(例えば、剥離層を剥離した後でも乳首の先端部に当たる部分に剥離層を残存させる)手法も有効である。また、絆創膏に用いられているパッドを設けることも可能である。
【0029】
(口取り部の構成)
次に、支持体の端部に形成される口取り部は、必ずしも家畜用乳頭マーキングシートに存在していなくともよい。しかしながら、酪農家は搾乳時にラテックス等の手袋での作業を行うことや、1日2回搾乳し、しかも1日に搾乳する牛の頭数が多いために手際よい行動が必要であり、視認性の更なる向上や剥離層からの剥ぎ取り易さを考慮すると、口取り部が存在している方が、剛性が高まり手袋の手で掴み易いので好適である。ここで、口取り部の形成手法は、例えば前述したように、当該部分に粘着剤層を形成させない手法でも、或いは、当該部分に存在する粘着剤層上に更にフィルム又は粘着フィルムを被覆して非粘着化させる手法でもよい。例えば、前述のように、図1(e)に示すように、本形態に係る家畜用乳頭マーキングシート1では、支持体10の全面にわたり粘着剤層10aを設けた上、一辺の端部に着色フィルム(例えば青色フィルム)を貼付することで口取り部10bを形成している。ここで、口取り部10bの色(着色フィルムを貼付する場合には着色フィルムの色)は、青、緑、赤、黄などの視認性の良いものが好適である。尚、着色フィルムを用いた場合、図1(b)に示すように、支持体(例えば不織布)を介して、表面からも当該着色が観察できる。また、口取り部は基本的に皮膚に密着しないため、家畜用乳頭マーキングシートを乳首に貼付した後に、口取り部のあるテープ部分を自分自身の不織布に接触するように軽く折り曲げる等を行うと、不織布を通さずに口取り部を直接認識できるようになり、剥ぎ取りの際の作業性が向上する。口取り部のフィルムの幅は、貼付中の剥がれにくさと、所定時間貼付後の剥がし易さを考慮すると、1〜3cmが好適である。また、口取り部のフィルムの材質がポリエステルの場合は、厚さは5〜80μmが好適である。
【0030】
《家畜用乳頭マーキングシートの材質》
次に、本最良形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの材質を説明する。
【0031】
(支持体の材質)
本最良形態に係る乳頭マーキングシートを構成する適度な伸縮性のある支持体は、好適には、乳房の皮膚の伸縮に追従できる柔軟性と数時間の固定性を有すると共に、皮膚刺激を起こさないものである。ここで、本最良形態に係る支持体は、MD方向の5%引張応力(N/25mm)が2.0〜30であることが好適である。2.0未満であると柔らかすぎて貼り難く、30を超えると硬すぎて皮膚に馴染まずゴワゴワするからである。尚、本明細書中におけるX%(5%、10%、20%)引張応力および伸びは、JIS−K7113に準拠し、引張試験機を用いて、温度23℃、伸張速度300mm/minで、試料をX%(5%、10%、20%)伸長した時の応力(試料幅25mm、つかみ間隔50mm)を測定したものである。また、本最良形態に係る支持体は、伸び(%)が好適には10〜400、より好適には20〜250であり、最も好適には20〜150である。20%未満だと皮膚に馴染まずゴワゴワし、250%を超えると伸び過ぎて貼り難く剥がす時伸び過ぎて剥がし難いからである。更に、本最良形態に係る支持体は、曲げ硬さ(mg・cm)が50〜300であることが好適である。尚、本明細書における曲げ硬さは、ASTM D1388 OptionB ハートループテストに準じて試験を行い測定されたものである。更に、搾乳器を取り付ける作業は素早く搾乳可能か否かの判断が求められるため、透明の支持体では過誤により搾乳器を装着して搾乳してしまうおそれが生じる。よって、非透明性の支持体が好適である。また、透湿性が悪い支持体を用いた場合は、皮膚から蒸散する水分の揮散を妨げるため、皮膚が蒸れることによる皮膚の白化や皮膚刺激が発生するなど角質層に悪い影響を与える。例えば、ポリオレフィンやポリエステルのフィルムと比較して透湿性が比較的良いと考えられるウレタンフィルムでも、作業性を向上させるために、その厚さを50μm以上、例えば100μmとした場合においては、貼付材の透湿度は低くなり、貼付時の密着性が悪く、手で貼付材を持った場合にテープに腰がないという不具合もある。加えて、当該フィルムを使用した場合には、剥離時に剥がしにくいため、爪などで乳頭を傷つけてしまうおそれもある。以上を踏まえ、本発明において好適な支持体は、視認性が高く、適度な柔軟性があり、透湿性が良く、乳頭先端を傷つけるおそれの低い支持体である、織布、不織布又は編布である。より好適な支持体は、ポリエステル繊維や綿、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等のように伸縮性の小さい繊維を用いた不織布、織布又は編布である。特に好適な支持体は、手触りや作業性の観点から、ポリプロピレンのスパンボンド不織布である。尚、上述した引張応力及び伸びに関しては、当該支持体に粘着剤を適用したシートに関しても、支持体と略同一の数値となる(したがって、シートの好適な引張応力及び伸びは、前述した支持体のそれらと同一範囲である)。他方、曲げ硬さ(mg・cm)に関しては、15〜70であることが好適であり、さらに好適には20〜65であり、最も好適には30〜60である。15未満であるとテープに腰がなくペラペラ(まとわり付き易く)となり貼り難く、70を超えると硬すぎてゴワゴワして家畜(例えば牛)が貼付中または剥離時に痛がるからである。
【0032】
尚、撥水機能をはじめとする機能を支持体に付与する処理を施してもよい。例えば、支持体上に撥水処理を行う手法としては、撥水処理剤を支持体に適用(例えば塗布)することや、撥水機能を持つフィルム等を支持体に積層する等、一般的な方法で当該処理を行うことができる。例えば、支持体の一方の面(粘着剤層が配された面と反対側の面)に撥水性があり透湿性の良いポリウレタン層を積層すると、支持体に撥水機能のほか、防水機能を付与することが可能となる。ここで使用されるウレタンとしては、エーテル系やエステル系のウレタンのいずれでもよい。ウレタン層の厚さは、透湿性を考慮すると、例えば1〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることが更に好ましい。
【0033】
(粘着剤の材質)
本最良形態に係る粘着剤としては、一般的に人間の皮膚貼付用用途で用いられる粘着シートやシートに用いられる粘着剤であるゴム系、アクリル系、シリコーン系粘着剤が好適に用いられる。ここで、ゴム系粘着剤は、皮膚面に対して優れた接着力を有するが、通常、疎水性が高く透湿性が悪いので、貼付中に皮膚面からの発汗等によって皮膚面が蒸れて皮膚刺激を生起したり、夏場などの多量の発汗時には皮膚接着力が急激に低下するおそれがある。したがって、アクリル系の粘着剤がより好適である。以下、かかるアクリル系粘着剤について詳述する。
【0034】
アクリル系粘着剤としては、アクリル系共重合体にカルボン酸エステルを含有させた粘着剤組成物が、皮膚刺激の観点から好ましい。特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル/アルコキシ基含有エチレン性不飽和単量体/カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を含む単量体混合物から得られるアクリル系共重合体とカルボン酸エステルとを含有したアクリル系粘着剤が好ましい。以下、当該好適態様について詳述する。
【0035】
まず、(メタ)アクリル酸アルキルエステル/アルコキシ基含有エチレン性不飽和単量体/カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を含む単量体混合物から得られるアクリル系共重合体を説明する。はじめに、一モノマー成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が2以上、さらに6〜15の長鎖アルキルエステルを用いると効果的で、皮膚に対する刺激性が比較的少なく、長期間の使用によっても粘着性の低下が起こりにくいという利点を有する。例えばアクリル酸イソノニル、アクリル酸2−エチルヘキシル等を用いることが好ましい。次に、一モノマーであるアルコキシ基含有エチレン性不飽和単量体は、得られる粘着剤組成物や粘着剤層に親水性を与えて透湿性と吸湿性を付与する成分である。例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等の炭素数が1〜4のアルコキシ基を有するアルコキシアルキルアクリレートを用いることが好ましい。次に、一モノマーであるカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体は、架橋処理する際の反応点を確保できると共に、得られるアクリル系共重合体の凝集力を向上させる機能を有する。例えば、アクリル酸やメタクリル酸が挙げられる。
【0036】
ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステル/アルコキシ基含有エチレン性不飽和単量体/カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の共重合体を製造するに際しては、全モノマー重量を基準として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを好適には50〜90重量%、より好適には60〜80重量%の範囲、アルコキシ基含有エチレン性不飽和単量体を好適には10〜60重量%、より好適には20〜50重量%、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を0.1〜8重量%、より好適には0.5〜5重量%で配合し共重合させることにより製造できる。その他、親水性の付与等の各種改質を行うための改質用単量体として、スチレンや酢酸ビニル、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の単量体を必要に応じて適宜共重合してもよい。
当該アクリル系共重合体は、皮膚接着力の観点から、ガラス転移温度が−23℃以下とすることが好ましい。更に、当該アクリル系共重合体の重量平均分子量は、相溶させるカルボン酸エステルによって可塑化されても十分な皮膚接着力を発揮できるよう、100万以下、好ましくは50万〜90万程度に調整することが好適である。尚、当該アクリル系共重合体を得るための重合方法としては、溶液重合や乳化重合、懸濁重合等特に限定されるものではなく、過酸化物系化合物やアゾ系化合物のような通常のラジカル重合開始剤を用いたラジカル重合によって共重合可能である。
【0037】
次に、カルボン酸エステルとしては、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、イソステアリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル等の一価アルコールを用いたカルボン酸エステルや、ジカプリル酸プロピレングリコール、ジイソステアリン酸プロピレングリコール、トリカプリル酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン等の二価以上の多価アルコールを用いたカルボン酸エステルを1種又は2種以上併用して用いることが好ましい。ここで、使用するカルボン酸エステルは、室温下で液状またはペースト状の性状を示すものである。
【0038】
当該粘着剤組成物は、アクリル系共重合体100重量部に対して、カルボン酸エステルを10〜60重量部含有することが好適であり、10〜20重量部含有することが特に好適である。
【0039】
(他の任意成分の材質)
尚、本最良形態に係る乳頭マーキングシートは、乳牛等の搾乳動物における乳房炎や乳頭炎といった乳頭の炎症を治療する薬剤を更に有していてもよい。この場合、当該炎症部分と接触する部分に薬剤を適用する必要があり、例えば、粘着剤層中に当該薬剤を導入する手法を挙げることができる。
【0040】
《家畜用乳頭マーキングシートの製造方法》
本発明に係る家畜用乳頭マーキングシートは、常法に従って、柔軟性のある支持体の少なくとも片面に、粘着剤を塗工することにより製造することができる。粘着剤を剥離紙上に塗工し、支持体上に転写してもよい。粘着剤を塗工するには、基材高分子及び必要に応じて添加剤成分を有機溶剤に均一に溶解又は分散させた溶液を、支持体又は剥離紙上に塗布し、乾燥すればよい。粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、通常、15〜80μm、好ましくは20〜60μm程度である。その後、適宜裁断を行い家畜用乳頭マーキングシートを作製する。その際、支持体と剥離紙は同じ大きさか、支持体よりも剥離紙が若干大きくなるように裁断することが好ましい。
【0041】
《家畜用乳頭マーキングシートの使用方法》
乳牛からの搾乳は1日2回行われる。泌乳期には、乳房炎となった牛からも廃棄のための搾乳を行わないといけないため、乳房炎となった牛と正常な牛を区別し、搾乳時間をずらす必要がある。通常の搾乳は一般的に牛に尻を向けさせた状態で行うため、4本の乳首のうちの1本以上、好適には尻側の乳首2本、さらに好適には対抗する乳首2本を当該シートで覆うことによって、マーキングとして働き正常な牛と見分けることが容易となる。家畜用乳頭マーキングシートは1日2回貼り替えるため、12時間程度乳首に持続的に貼付可能であることが好ましい。例えば、泌乳期の治療牛の作業手順としては、乳首を覆うタイプの家畜用乳頭マーキングシートの場合は、乳頭清拭、搾乳、乳頭乾燥、ディッピング、乳頭乾燥、家畜用乳頭マーキングシートの貼付の順に行い、乳頭周囲に貼付するタイプの家畜用乳頭マーキングシートの場合は、乳頭清拭、搾乳、乳頭乾燥、家畜用乳頭マーキングシートの貼付、ディッピングの順に行う。乳頭周囲に家畜用マーキングシートを貼付する形態の場合は、乾燥作業が少なくなりさらに効率的である。尚、ディッピングとは、乳頭先端部分を消毒の為の薬剤に浸漬する作業のことである。
【0042】
以下、本最良形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの使用方法(三態様)を詳述する。
はじめに、図1〜図4を参照しながら、第一態様に係る家畜用乳頭マーキングシートの使用方法を説明する。まず、図1(a)に示すように、使用直前に、口取り部10bをつまんで家畜用乳頭マーキングシート1を剥離層11から剥離する。そして、家畜用乳頭マーキングシート1の粘着剤層10aが上面となるよう手のひら全体に当該シート1を乗せた後、図2に示すように、家畜の乳首の先端に、当該シート1の中心部を当接させる。そして、乳首の先端が当該シート1に当接した状態で手のひら全体を更に上方に移動させることにより、図3に示すように、当該シート1が袋状に変形し乳首全体がすっぽりと家畜用乳頭マーキングシート1で被覆される。そして、当該シート1の、乳首と対向している側の全部又は一部には、粘着剤層が設けられている結果、当該粘着剤層が乳首に接着し当該シートが乳首に固定されたままとなる。
【0043】
次に、第二態様に係る家畜用乳頭マーキングシートの使用方法を説明する。まず、図1(a)に示すように、使用直前に、口取り部10bをつまんで家畜用乳頭マーキングシート1を剥離層11から剥離する。そして、当該シート1の粘着剤層10aが上面となるよう手のひら全体に当該シート1を乗せた後、貼付の位置決めをするため、先ず、牛の頭側の乳首上部から貼付し、次に乳首先端部から手のひら全体を上方に移動し全体を覆うように貼付する。そうすると、図3に示すように、当該シート1が袋状に変形し、乳首全体がすっぽりと被覆される。そして、当該シート1の、乳首と対向している側の全部又は一部には、粘着剤層が設けられている結果、当該粘着剤層が乳首に接着し当該シート1が乳首に固定されたままとなる。
【0044】
次に、第三態様に係る、乳頭の先端を覆わない場合の家畜用乳頭マーキングシートの使用方法を説明する。まず図17に示すように、使用直前に口取り部10bをつまんで家畜用乳頭マーキングシート1を剥離層11から剥離する。そして、図18に示すように、当該シート1の粘着剤層10aが乳頭の先端部を外して周囲に固定するように巻くように貼付し、口取り部が視認可能なように貼付する。図18(a)は牛の乳頭に家畜用乳頭マーキングシートを貼付し、合掌貼りした態様の側面図であり、図18(b)は図18(a)の線A−Aから見た断面図である。このとき、図18のように、粘着剤面同士を貼り合せる合掌貼りが、使用上剥がれにくいので好ましいが、図19に示すように、貼付材自身の支持体上に粘着剤が重なるようにして貼付してもよい。図19(a)はかかる側面図であり、図19(b)は図19(a)の線B−Bから見た断面図である。本例において、家畜用乳頭マーキングシート1は不織布からなるため、着色された口取り部10bは当該シート1の反対側からも視認可能である。
【0045】
図20は、第三形態に係る家畜用乳頭マーキングシートである。ここで、図20は、第三形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの背面図である。ここで、図20(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれ、当該形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの平面図、正面図、背面図及び右側面図(いずれも剥離前)である。図20(b)に示すように、形状が略矩形であり、剥離層11が相対する口取り部10bを完全に覆い、さらに外側に延伸している以外の構成は第一形態に係る家畜用乳頭マーキングシートと同一である。本形態では剥離層11が支持体よりも長手方向、横断方向ともに大きいサイズで作成されている。かかる構成により、手袋をした状態でも容易に口取り部10bをつまみやすく、剥離層11から剥離しやすい。また、形状が略矩形であることから、好適に乳頭の先端部を外して周囲に固定するように巻きつけ、口取り部が視認可能なように貼付することが可能となる。
【0046】
尚、第一態様から第三態様は、貼付後に牛の尻尾側(即ち頭と反対側)の乳首部分に口取り部が配置されることが好適である。その理由は下記の通りである。前述したように、泌乳期には、乳房炎となった牛からも廃棄のための搾乳を行わないといけない。そのため、乳房炎となった牛の乳首に貼付した当該マーキングシートを剥離する必要がある。この際、当該搾乳作業は、牛の尻尾側から実施するものである。よって、牛の尻尾側方向に口取り部が配置されていると、牛の尻尾側からの剥離作業が容易となり、剥離作業と搾乳作業が連続して実行可能となる。特に、前述したように、酪農家は、搾乳時にラテックス等の手袋での作業を行うことや1日2回搾乳し、しかも1日に搾乳する牛の頭数が多いために手際よい行動が必要である中で、当該貼付態様とすることのメリットは大きい。
【0047】
《家畜用乳頭マーキングシートの形状例》
以下、図4〜図16を参照しながら、本最良形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの様々な形状例を説明する。尚、第一形態と同様の機能を有する構成要素には同一符号を付してある。
【0048】
図4及び図5は、第二形態に係る家畜用乳頭マーキングシートである。ここで、図4は、第二形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの斜視図であり、図5(a)及び(b)は、それぞれ、第二形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの表面図及び背面図(剥離後)である。図4及び図5(a)に示すように、家畜用乳頭マーキングシート1を上面から眺めた場合、向かい合う二辺の端部(図の灰色部)が有色と視認可能であり、それ以外は白色(例えば織布又は不織布の白色)となっている。そして、図5(b)に示すように、この家畜用乳頭マーキングシート1を剥離層から剥離した場合、図5(a)の白色部分の裏面には粘着剤層が形成されており、図5(b)の有色部分10bには有色フィルムが貼付されている。図1と同様に、支持体10が不織布でなるため、支持体10を通して有色フィルム10bに色があることが反対面(図10(a))からも視認することができる。
【0049】
図6〜図10は、それぞれ、第三形態〜第七形態に係る家畜用乳頭マーキングシートである。いずれの図面についても、(a)及び(b)は、それぞれ、当該形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの表面図及び背面図(剥離後)である。尚、有色部及び白色部の位置が異なることを除き、第一形態や第二形態と同一構成である。図9(c)は、第六形態における剥離前の背面図である。
【0050】
図11及び図12は、それぞれ、第八形態及び第九形態に係る家畜用乳頭マーキングシートである。切り込み部15が設けられている点を除き、他の構成は第一形態に係る家畜用乳頭マーキングシートと同一である。ここで、(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、当該形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの表面図、背面図(剥離後)、背面図(剥離前)である。
【0051】
図13は、第十形態に係る家畜用乳頭マーキングシートである。図示するように、口取り部と対向した剥離層部分が折り返されている点を除き、他の構成は第一形態に係る家畜用乳頭マーキングシートと同一である。ここで、(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、当該形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの表面図、背面図(剥離後)、背面図(剥離前)である。
【0052】
図14及び図15は、第十一形態〜第十二形態に係る家畜用乳頭マーキングシートにおいて、支持体の裏側における粘着剤の様子を示した概念図である。図示するように、支持体の裏面に粘着剤が設けられていない部分が存在する点を除き、他の構成は第一形態に係る家畜用乳頭マーキングシートと同一である。このように、家畜の乳頭と当接する部分に粘着剤層を設けないことにより、家畜の乳頭の先端に当該シートを当接させた際、乳頭が粘着剤と直接接触する状況を回避することが可能となる。
【0053】
図16は、第十三形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの背面図である。ここで、(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、当該形態に係る家畜用乳頭マーキングシートの表面図、背面図(剥離後)、背面図(剥離前)である。図16(c)に示すように、剥離層の裏側に切り込み部16が設けられている点を除き、他の構成は第一形態に係る家畜用乳頭マーキングシートと同一である。このように構成することにより、図16(b)に示すように、家畜用乳頭マーキングシートを剥離層から剥がした際、切り込み部16の存在により、家畜用乳頭マーキングシートの粘着剤層上に剥離層の一部(中央の方形部)が残存する。これにより、家畜の乳頭の先端に当該シートを当接させた際、乳頭が粘着剤と直接接触する状況を回避することが可能となる。
【0054】
また、図16の別の態様例として、係る家畜用乳頭マーキングシートにおいて、略中央部(切り込み部16によって囲まれた部分)が開口されていてもよい(すなわち、ドーナツ形状)。かかる構造により、家畜の乳頭に開口部を通すことによって、乳頭が本シートと直接接触する状況を回避できるため、シート着用時においてもディッピング及びマーキングを行うことが可能となる。
【実施例】
【0055】
{貼付材(乳牛用乳頭マーキングシート)の作製例}
以下に実施例を挙げて具体的に本発明を説明する。尚、以下の実施例及び比較例において、部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0056】
[実施例1]
酢酸エチルとアセトンの混合溶媒中で、モノマー混合物を常法によりラジカル重合することにより、アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸メトキシノナエチレングリコール/メタクリル酸ノナエチレングリコール(83部/16部/1部)共重合体を得た。得られたアクリル系共重合体100部(固形分)に、架橋剤として、ポリイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、コロネートL)0.6部、及び可塑剤としてミリスチン酸イソプロピル10部を添加し、十分に攪拌混合して、アクリル系粘着剤(A)溶液を作成した。この粘着剤溶液を、片面にシリコーン処理をした厚さが120μmの剥離紙上に、乾燥後の厚みが50μmになるように塗布し、さらに120℃で3分間加熱乾燥した。支持体として、厚さ290μmのポリプロピレンスパンボンド不織布(PPスパンボンド)を使用し、乾燥した粘着剤層の表面に均一に圧着して粘着テープを得た。さらに口取りテープとして青色に着色した厚さが12μmで幅が20mmのポリエステルフィルムを粘着テープのエッジ部に積層し、10cm×10cmに裁断し、四隅の角を落としてR(13mm)を設けて図1に示す最終形状にし、さらに50℃で7日間熟成し、図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0057】
[実施例2]
支持体として、厚さ200μmのPPスパンボンド不織布とした以外は実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0058】
[実施例3]
支持体として、厚さ230μmのPPスパンボンド不織布とした以外は実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0059】
[実施例4]
支持体として、厚さ230μmのメルトブローPP不織布とした以外は実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0060】
[実施例5]
支持体として、厚さ200μmのリヨセル不織布とした以外は実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0061】
[実施例6]
支持体として、厚さ305μmのウレタン不織布とした以外は実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0062】
[実施例7]
口取りテープとして赤色に着色した厚さが12μmで幅が20mmのポリエステルフィルムを粘着テープのエッジ部に積層し、10cm×3cmに裁断し、四隅の角を落としてR(13mm)を設けて図17に示す最終形状にした以外は実施例1と同様にして乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0063】
[実施例8]
口取りテープとして赤色に着色した厚さが12μmで幅が20mmのポリエステルフィルムを粘着テープのエッジ部に積層し、10cm×5cmに裁断し、四隅の角を落としてR(13mm)を設けた以外は実施例1と同様にして乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0064】
[比較例1]
支持体として、厚さ80μmのパルプ/PET不織布とした以外は実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0065】
[比較例2]
支持体として、厚さ80μmのメルトブローU不織布とした以外は、実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0066】
[比較例3]
支持体として、厚さ250μmのレーヨン不織布とした以外は実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0067】
[比較例4]
支持体として、厚さ115μmのパルプ/PET不織布とした以外は実施例1と同様にして図1に示す乳牛用乳頭マーキングシートを得た。
【0068】
(貼付材の特性評価及び実用評価)
上記実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた乳牛用乳頭マーキングシートについて、厚さ、坪量、5%引張応力、10%引張応力、20%引張応力、最大点荷重、伸び、曲げ硬さ及び乳牛乳首の貼付試験を下記の方法に従って評価した。尚、引張応力、最大点加重、伸び及び曲げ硬さは、シートでの測定値である。
【0069】
〔厚さの測定〕
厚さは、JIS B−7509に従って、0.001mm目盛りのダイヤルゲージで各試験片について測定した。
【0070】
〔坪量の測定〕
各試験片を0.1mの大きさに裁断し1m2当たりの重量を坪量として算出した。
【0071】
〔引張試験、最大点荷重、伸び〕
JIS K−7113に準じて引張試験を行い、5%、10%及び20%引張応力の測定を行った。また、試験片が裁断するまで引張り、最大点の荷重及び伸びを求めた。それぞれの試験片は、不織布の製造時の流れ方向(MD方向)について測定した。
・試験機:テンシロン型引張試験機
・試験片:幅25mm、長さ100mm
・つかみ間隔:50mm
・クロスヘッド移動速度(引張速度):300mm/min
・繰返し試験数:n=3
・測定雰囲気:23℃、50%RH
例:5%引張応力の測定法:試験片は、不織布の製造時の流れ方向(MD方向)について幅25mm、長さ100mmの短冊を裁断し、中央部につかみ間隔50mmの標線をつけ、つかみ間隔部以外は、カートンテープ(品番:6604−50、ニチバン製)で測定時に試験片が伸縮しないように挟み込んで固定し、測定雰囲気下で1時間以上放置した後、テンシロン型引張試験機のクロスヘッドに上記50mmのつかみ間隔で取り付ける。下部クロスヘッドを300mm/minの速度で下げ、上記試験片を引っ張った。引張り長さが元の試験片を基準として、5%伸張に至ったときの荷重を5%引張応力とした。荷重の単位は、ニュートン(N)で表した。
【0072】
〔曲げ硬さ〕
不織布の製造時の流れ方向(MD方向)に裁断した試験片について、JIS L1096一般織物試験方法の剛軟性のC法(ハートループ法)及びASTM D1388 OptionB ハートループテストに従って試験を行い、曲げ剛さG(mg・cm)を求めた。Gは、数値が高いほど曲げるのが硬く、低いほど柔らかい指標となる。
【表1】

尚、実施例7および実施例8のマーキングテープの物性評価結果は実施例1と同じである。
【0073】
〔乳牛乳首の貼付試験〕
健康なホルスタイン種の搾乳牛を実験に供した。
(A)取り扱い性
ラテックス製の手袋をはめた状態で、前述の第二態様に係る家畜用乳頭マーキングシートの使用方法で乳牛の乳首に貼付したときの、試験片の取り扱い性について、下記の基準で評価した。
○:貼付しやすい、△:柔らかすぎる又は硬すぎるためやや貼付しにくい、×:粘着面同士がくっつき又は手袋へまとわりつくため非常に貼付しにくい。
【0074】
(B)貼付後の密着性
試験Aにおいて、貼付12時間経過後の乳首への粘着テープの密着性を観察し、下記の基準で評価した。
○:密着性が良好で剥がれなし、△:密着性がやや悪く一部剥離、×:密着性が悪く全面剥がれた。
【0075】
(C)視認性
試験Aにおいて、貼付中の乳首への粘着テープの密着性を観察し、下記の基準で評価した。
○:視認性が良好で、一瞥で他の乳首と区別しやすい、△:視認性がやや悪く、しっかりと見ないと他の乳首と区別しにくい、×:視認性が悪く、実用的でない。
【表2】

乳牛乳首の貼付試験において、実施例の乳牛用乳頭マーキングシートは、(A)取り扱い性、(B)貼付後の密着性及び(C)視認性のいずれにおいても、良好な結果が得られた。一方、比較例1では、基材がゴワゴワして、取り扱い性及び密着性が悪く、不適であった。比較例2では、基材が柔らく(伸縮性が高すぎて)、取り扱い性が悪く、不適であった。比較例3では、基材が硬くてゴワゴワし、密着性が悪く、不適であった。比較例4では、基材がゴワゴワして、取り扱い性及び密着性が悪く、不適であった。
【0076】
尚、実施例7と8は乳頭の先端を外し、乳頭周囲に家畜用マーキングシートを貼付できる形態であり、ディッピング前の乾燥作業が不要のため、取り扱い性が実施例1乃至6に比べてもさらに向上している。特に、実施例7の家畜用マーキングシートの取り扱い性が最も良かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に配された粘着剤層と、
前記支持体が配された面と反対側の前記粘着剤層面上に配されており、使用時には前記粘着剤層から容易に剥離可能な剥離層とを有する、乳房炎及び/又は乳頭炎に感染した家畜から搾乳することを防止するための家畜用乳頭マーキングシートであって、
前記支持体が不織布、織布及び編布からなる群より選択される材料であり、前記シートの5%引っ張り応力(N/25mm)が2.0〜30、伸び(%)が10〜400、曲げ硬さ(mg・cm)が15〜70である家畜用乳頭マーキングシート。
【請求項2】
前記支持体が、一辺が5〜15cmの略方形、直径が5〜15cmの略円形又は短軸及び長軸が5〜15cmの略楕円形である、請求項1記載の家畜用乳頭マーキングシート。
【請求項3】
前記支持体が、長辺が5〜15cm、短辺が2〜4cmの略矩形である、請求項1記載の家畜用乳頭マーキングシート。
【請求項4】
前記支持体外縁の一部又は全部には、前記粘着剤層が形成されていないか又は粘着剤層上に更に被覆部材で被覆されて非粘着化した口取り部が設けられている、請求項1〜3のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシート。
【請求項5】
前記口取り部が着色されている、請求項4記載の家畜用乳頭マーキングシート。
【請求項6】
前記支持体の略中央部には前記粘着剤層が形成されていないか又は当該粘着剤層が被覆部材で被覆されて非粘着化されている、請求項1〜5のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシート。
【請求項7】
前記支持体が、長辺が8〜12cm、短辺が2〜4cmの略矩形である不織布からなり、前記口取り部の幅が1〜3cmで、前記粘着剤がアクリル系粘着剤である、請求項4〜5のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシート。
【請求項8】
前記剥離層が相対する口取り部の外側に延伸していることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシート。
【請求項9】
乳房炎及び/又は乳頭炎を患った搾乳動物から誤って搾乳しないよう当該動物をマーキングする方法において、
請求項1〜8のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシートの、前記粘着剤が形成された面が、前記搾乳動物の乳首に接触するように配置する工程
を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記家畜用乳頭マーキングシートの、前記粘着剤が形成された面を、前記搾乳動物の乳首の下方に乳首と対向して配置する工程、及び
乳首の下方に配置された前記家畜用乳頭マーキングシートを上昇させ、前記家畜用乳頭マーキングシートを前記搾乳動物の乳首の先端に接触させた後、乳首の先端に接触させた前記家畜用乳頭マーキングシートを更に上昇させ、前記家畜用乳頭マーキングシートを前記先端を支点として袋状に変形することにより前記乳首全体を前記家畜用乳頭マーキングシートで包む工程と
を有することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記家畜用乳頭マーキングシートを、貼付の位置決めをするため、先ず、搾乳動物の頭側の乳首上部から貼付する工程、及び
乳首先端部から当該シート全体を上方に移動し乳首全体を覆うように貼付することにより、当該シートを袋状に変形し乳首全体を覆う工程
を有することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記家畜用乳頭マーキングシートを、乳房炎及び/又は乳頭炎となった乳牛の乳首先端部を外して周囲に貼付し、次に粘着剤面同士を貼り合わせる工程を有することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項13】
乳房炎及び/又は乳頭炎を患った搾乳動物から誤って搾乳しないよう当該動物をマーキングする方法において、
請求項4〜8のいずれか一項記載の家畜用乳頭マーキングシートを、前記粘着剤が形成された面が、前記搾乳動物の乳首に接触するように配置する工程、及び
口取り部を搾乳動物の尻側に向けて貼付する工程
を有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−213691(P2010−213691A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34826(P2010−34826)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)