説明

密封型転がり軸受

【課題】シールドの脱落防止を図るとともに、シールド装着によって発生する外輪外周面の変形を抑制することができ、はめあい代のばらつきによって生じる変形量のばらつきも抑えることができる密封型転がり軸受を提供する。
【解決手段】密封型転がり軸受において、外輪1とシールド31とのはめあい代は、固定部31aと、固定部31aから径方向内方に折り曲げられて延伸する延伸部31dとの間の隅部31eにおけるはめあい時の応力が降伏応力以上となるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封型転がり軸受に関し、より詳細には、鉄道車両などの振動荷重環境下で使用される密封型転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車軸の端部には鉄道車両用転がり軸受ユニットが取り付けられており、車軸を回転自在に支持するとともに車両の重量を支えている。図7は、従来の鉄道車両用転がり軸受ユニットを示す。
【0003】
この鉄道車両用転がり軸受ユニットは、鉄道車両に用いられる転がり軸受の一例である複列円錐ころ軸受10(以降、軸受10と称す)を備えており、この軸受10に鉄道車両の車軸20が支持されている。軸受10は、一体型の外輪1と各列に個別に分割された内輪2,2とを備え、内輪2と外輪1との間には、保持器4に保持された複数のころ(転動体)3が転動自在に配置されている。そして、軸受10の軸方向両端側には、後蓋(又はバッキングリング)6及び前蓋7が内輪2,2の側面と当接するように配置されている。
【0004】
後蓋6及び前蓋7の軸受寄りの外周側には、段付き円筒状のシールド31が外輪1に嵌合されて配置されている。シールド31の内周側には、環状のシール32が取り付けられている。即ち、シール32の外周側がシールド31の内周面に固着され、シール32の内周側が後蓋6または前蓋7の外周面に摺接している。これにより、軸受10が密封され、内部にごみ、水分、異物等が外部から侵入することを防ぐとともに、軸受10内のグリース等の潤滑剤が外部に漏出するのを防いでいる。
【0005】
図8(a)〜(c)は、特許文献1に記載のシールドが装着された種々の密封型転がり軸受を示す。図8(a)に示すシールド31は、外輪1の肩部の内周面1aに圧入固定された筒状の固定部31aと、固定部31aから外輪1の軸方向外側に延びるとともにシール32が保持される筒状の保持部31bとを有する。また、固定部31aの端部には、径方向に突出した突起部31cが形成され、肩部に形成されたシール溝1bに係合し、シールド31の軸方向への移動が規制されている。
【0006】
また、図8(b)及び図8(c)に示すシールド31は、固定部31aが先端に向かって拡径するテーパ面を有し、弾性的に縮径した状態で、外輪1の肩部の内周面1aとシール溝1bとの間に形成される環状角部1cに内嵌され、環状角部1cと固定部31aの外周面とが線接触することで、外輪1に固定されている。また、固定部31aの先端には、径方向外側に突出して、シール溝1bに係合する突起部31cが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−240781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、転がり軸受のシールドは、特に鉄道車両用といった振動環境下で使用される場合、シールドが振動によって脱落しないようはめあい代を大きく設定する必要がある。その結果、シールドの装着によって外輪が変形し易くなる為、外輪を一定の公差範囲に入れることが困難になると同時に、公差を確保した場合でも外輪とハウジング間での片当たりが発生する結果、外輪外周面にフレッティング損傷が発生する懸念があった。
【0009】
このハウジングとの外輪はめあい部分への変形の影響を軽減する方法として、シールド装着部分に対応する外輪外周面に逃げを設ける方法が一般に採用されるが、その場合でもシールドと外輪間のはめあいによって発生する力が大きい場合、この逃げ以外の外輪外周面にも変形が波及し、その結果、ハウジングと接触する外輪外周面に部分的なかじりが発生する可能性があった。
【0010】
また、図8(a)に示すシールド31は、はめあいによって発生する力が大きい場合、外輪外周面の変形量を抑制することができないため、締め代をあまり大きくできないことから、シールド31が脱落する可能性があった。さらに、図8(b)及び図8(c)に示すシールドは、固定部31aが線接触のため、シールド31の姿勢が不安定であり、接触面に応力集中が発生しやすい。また、固定部31aの外周面は、テーパ面のため、外輪1に挿入し難い。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シールドの脱落防止を図るとともに、シールド装着によって発生する外輪外周面の変形を抑制することができ、はめあい代のばらつきによって生じる変形量のばらつきも抑えることができる密封型転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外輪、内輪、及び、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体と、前記外輪の外周面又は内周面としめしろ嵌合する固定部を有するシールドと、
を備えた密封型転がり軸受において、
前記外輪と前記シールドとのはめあい代は、前記固定部と、前記固定部から径方向内方に折り曲げられて延伸する延伸部との間の隅部におけるはめあい時の応力が降伏応力以上となるように設定されていることを特徴とする密封型転がり軸受。
【発明の効果】
【0013】
本発明の密封型転がり軸受によれば、外輪とシールドとのはめあい代は、隅部におけるはめあい時の応力が降伏応力以上となるように設定されているので、隅部の応力の許容範囲内ではめあい代を大きく設定して、シールドの脱落防止を図るとともに、シールド装着によって発生する外輪外周面の変形を抑制することができる。また、はめあい代のばらつきによる発生応力の変動も弾性変形の場合より小さくなる為、外輪の局部的変形(そり)のばらつきも小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の密封型転がり軸受としての円錐ころ軸受を示す要部拡大断面図である。
【図2】本発明のしめしろと外輪変形量の関係を模式的に示すグラフである。
【図3】本発明の密封型転がり軸受としての深溝玉軸受を示す要部拡大断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の密封型転がり軸受としての円筒ころ軸受を示す要部拡大断面図である。
【図5】(a)は、試験に使用された密封型転がり軸受を示す要部拡大断面図であり、であり、(b)は、しめしろと外輪変形量の関係を示すグラフである。
【図6】(a)〜(c)は、本発明の密封型転がり軸受としての円錐ころ軸受、深溝玉軸受、円筒ころ軸受をそれぞれ示す要部拡大断面図である。
【図7】従来の鉄道車両用転がり軸受ユニットの断面図である。
【図8】(a)〜(c)は、従来の密封型転がり軸受を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る密封型転がり軸受の一実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明の密封型転がり軸受は、従来技術として説明した図7に記載の鉄道車両用軸受ユニットにも適用可能であり、従来技術と実質的に同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0016】
本実施形態の円錐ころ軸受(密封型転がり軸受)10では、図1に示すように、外輪1の肩部の外周面に、小径部1dが形成されており、この小径部1dの外周面1eにシールド31の固定部31aの内周面が嵌合している。小径部1dの外径は、シールド31が装着された外輪1が図示しないハウジングに内嵌された際に、シールド31の外周面がハウジングと干渉しないように設定されている。
【0017】
また、シールド31は、外輪1の軸方向端面と当接するように、固定部31aから径方向内方に折り曲げられて延伸する延伸部31dを有している。ここで、外輪1の小径部1dとシールド31の固定部31aとは、円筒部31aと延伸部31dとの間の湾曲した隅部31e(以下、隅R部31eと称す。)におけるはめあい時の応力が降伏応力以上になるように、はめあい代が設定されている。
【0018】
このように、シールド31が挿入される外輪1とのはめあい面のはめあい代を、応力が集中する隅R部31eで降伏応力以上となるように設定した場合、はめあい代とはめあい部の応力の関係が弾塑性となる為、はめあい代増大に対する発生応力の増大分が弾性変形の場合より小さくなる。その結果、隅R部31eの応力の許容範囲内ではめあい代を大きく設定できることができ、また、はめあい代のばらつきによる発生応力の変動も弾性変形の場合より小さくなる為、外輪1の局部的変形(そり)のばらつきも小さくすることができる。
なお、はめあい代の上限は、シールドの強度及び鉄道車両用軸受の設計しめしろ範囲を考慮して、しめしろ/嵌合部外径(小径部1dの外径、固定部31aの内径)の比で、0.003に設定される。
【0019】
図2は、上述した本発明の効果を模式的に示す。しめしろd1からd2において、はめあい代とはめあい部の応力の関係が弾性の場合には外輪変形量はAになるが、はめあい代とはめあい部の応力の関係が弾塑性の場合には、d1以上で隅R部31eの応力が降伏応力以上となるため、外輪変形量はBとなり弾性の場合に比べて外輪変形量を大幅に抑制できる。
【0020】
なお、密封型転がり軸受としては、図1の円錐ころ軸受10に限らず、図3に示す深溝玉軸受10Aや、図4に示す円筒ころ軸受10Bであっても、シールド31の隅R部31eにおけるはめあい応力が降伏応力以上になるようにはめあい代を設定することで同様の効果が得られる。なお、シールド31は、図4(a)に示すように、延伸部31dが段付き形状によって2箇所に設けられてもよく、図4(b)に示すように、延伸部31dが1箇所に設けられるものであっても良い。
【0021】
図5は、図4(b)の円筒ころ軸受に本発明を適用した場合の解析値と実測値を示す。軸受緒元は図5(a)に示す通りで、外輪変形量は軸端から14.5mmの値を採用している。図5(b)に示す結果から、隅R部31eの応力が降伏応力以上となる領域(しめしろ0.1mm以上)で、外輪の変形量(実測値)は大きく抑制されていることがわかる。
なお、鉄道車両用で使用されるシールド31としては、SPCCのような鋼材が使用されているが、図5の解析及び実験では、SUS304を使用している。
【0022】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0023】
上記実施形態では、外輪1の外周面にシールド31を嵌合する場合を示したが、図6(a)〜(c)に示すように、円筒ころ軸受、深溝玉軸受、円すいころ軸受の外輪1の肩部の内周面1aに、シールド31の隅R部31eにおけるはめあい時の応力が降伏応力以上になるようにはめあいを設定することによって、同様の効果が得られる。
また、図6(a)に示すように、固定部31aの先端には、径方向外側に突出して、シール溝1bに係合する突起部31cが形成されてもよい。
【0024】
また、図7に示すシールド31は、シール32が取り付けられることで、軸受10を密封しているが、シールド31によって軸受10を密封する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 外輪
1a 内周面
1e 外周面
2 内輪
3 ころ(転動体)
10 複列円錐ころ軸受(密封型転がり軸受)
10A 深溝玉軸受
10B 円筒ころ軸受
31 シールド
31a 固定部
31d 延伸部
31e 隅R部(隅部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪、内輪、及び、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体と、前記外輪の外周面又は内周面としめしろ嵌合する固定部を有するシールドと、
を備えた密封型転がり軸受において、
前記外輪と前記シールドとのはめあい代は、前記固定部と、前記固定部から径方向内方に折り曲げられて延伸する延伸部との間の隅部におけるはめあい時の応力が降伏応力以上となるように設定されていることを特徴とする密封型転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104507(P2013−104507A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249876(P2011−249876)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】