説明

尿臭生成抑制用組成物

【課題】生活環境中においてアンモニアよりも尿臭への寄与の高い悪臭成分を明らかにし、その発生に関わる酵素を阻害することによって、尿に由来する悪臭の生成を持続的に抑制できる剤を提供する。
【解決手段】アケビの茎抽出物を有効成分とする尿臭生成抑制剤、アケビの茎抽出物と0.08〜6重量%の界面活性剤とを含有する尿臭生成抑制用組成物、並びに、当該尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を、対象物に尿が付着する前又は尿が付着してから乾燥する前に適用する尿臭の生成抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アケビの茎抽出物を有効成分とする尿臭生成抑制剤、並びにアケビの茎抽出物及び界面活性剤を含有する尿臭生成抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の衛生志向の高まりから、見た目の汚ればかりでなく汚れの存在を想起させる臭気についても除去することが強く望まれている。特に尿及び便に関しては存在を生活環境から切り離すことはできず、さらに、その臭気は排泄物そのものを強く想起させることから、ヒトに与える不快感は生活環境悪臭の中でもとりわけ大きい。トイレにおいては、便は水洗により容易に屋外に排出することができるが、尿に関しては少量が飛沫として便器の外に残り、その存在が目視で確認しづらいことから長期に渡ってその場に残り、悪臭の発生源となりやすい。また、下着やオムツ、生理用品などのサニタリー製品も、尿が付着した状態で生活環境中に一定期間存在する場面があり、尿を由来とした悪臭の発生源となりうる。
【0003】
従来、このような悪臭に対する一般的な防臭技術としては、悪臭成分を物理的又は化学的に吸着する消臭剤が用いられてきた。このような効果を有するものとして、植物抽出物としては特に緑茶エキスの効果が広く知られている。
【0004】
一方、通常、排尿直後の尿の臭気は非常に弱く、尿に由来する悪臭成分の大部分は微生物由来の代謝酵素の作用によって時間の経過に伴い発生してくるものと考えられている。このため、尿からの悪臭成分の生成を元から持続的に抑制できる技術の開発が望まれている。
【0005】
このような尿由来の悪臭成分としては、尿素からウレアーゼによって生じるアンモニアが挙げられ、その生成抑制技術として、ウレアーゼ活性阻害剤を用いたアンモニアの発生抑制技術が提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0006】
しかしながら、アンモニアは悪臭成分としては閾値が高い(高濃度でないと臭いを感じない)ため、水洗式の普及により排泄物が即時的に屋外へ排出されるようになった現在においては、アンモニア臭が強く感じられる場面は非常に稀である。
【0007】
一方、β-グルクロニダーゼは、各種のアルコール類、フェノール類、アミン類等がグルクロン酸抱合された化合物(グルクロニド)を加水分解する酵素であり、細菌、真菌類、植物、動物など多くの生物に存在するものである。例えばヒトの皮膚に生息する細菌のβ-グルクロニダーゼが、汗中にグルクロン酸抱合されて分泌されたステロイド化合物を分解することによって、腋臭の生成に関与することは知られているが(特許文献5)、当該酵素と尿臭との関連については知られていない。
【0008】
また、アケビは生薬、モクツウ(木通)としても知られるアケビ科アケビ属の蔓性植物であり、その茎抽出物及びこれに含まれる特定のグルクロン酸誘導体がβ-グルクロニダーゼ阻害効果を有することは知られている(特許文献6)。しかし、当該抽出物及び化合物の尿臭生成抑制効果については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-255290号公報
【特許文献2】特開2004-91338号公報
【特許文献3】特開平5-137774号公報
【特許文献4】特開2006-192127号公報
【特許文献5】特開2002-255776号公報
【特許文献6】特開2005-162756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の課題は、生活環境中においてアンモニアよりも尿臭への寄与の高い悪臭成分を明らかにし、その発生に関わる酵素を阻害することによって、尿に由来する悪臭の生成を持続的に抑制できる剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、尿より発生するフェノール系化合物及びインドール類が、尿臭への寄与の高い成分であること、これらの成分は、菌体由来のβ-グルクロニダーゼが尿に作用することによって顕著に増加することを見出した。また、現在の生活環境においてアンモニア臭を強く感じることは稀であり、一般に消費者が感じている尿臭の原因成分は、アンモニアとは別のより閾値の低い上記のフェノール系化合物及びインドール類であると考えられる。
【0012】
そして本発明者らは、アケビの茎抽出物のβ-グルクロニダーゼ阻害効果が、特に尿臭産生菌に対して優れていること、このためアケビの茎抽出物によって不快な尿臭の発生を持続的に抑制でき、尿が関連する製品に使用することにより、これら製品に対して尿臭生成抑制効果を付与できることを見出した。
【0013】
さらに、本発明者らは、一定量の界面活性剤を共存させることにより、尿臭産生菌に対するアケビの茎抽出物のβ-グルクロニダーゼ阻害効果が向上されることを見出した。
【0014】
本発明は、アケビの茎抽出物を有効成分とする尿臭生成抑制剤を提供する。
【0015】
さらに本発明は、アケビの茎抽出物と0.08〜6重量%の界面活性剤とを含有する尿臭生成抑制用組成物を提供する。
【0016】
さらに本発明は、上記尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を、吐出装置を備える容器に収容してなる吐出型製品を提供する。
【0017】
さらに本発明は、上記尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を、対象物に尿が付着する前又は尿が付着してから乾燥する前に適用する尿臭の生成抑制方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の尿臭生成抑制剤及び尿臭生成抑制用組成物は、尿臭を特徴付ける悪臭成分の発生を持続的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】β-グルクロニダーゼによる尿臭強度の増加を示す官能評価結果である。
【図2】除菌尿、腐敗尿菌体及び腐敗尿上清のβ-グルクロニダーゼ活性の測定結果を示す図である。
【図3】除菌尿と腐敗尿の尿臭強度の官能評価結果を示す図である。
【図4】アケビの茎抽出物のβ-グルクロニダーゼ阻害効果を示す図である。
【図5】β-グルクロニダーゼ添加尿に対するアケビの茎抽出物の尿臭生成抑制効果を示す図である。
【図6】尿臭産生菌に対するアケビの茎抽出物のβ-グルクロニダーゼ阻害効果、及び界面活性剤との併用効果を示す図である。
【図7】尿臭産生菌添加尿に対するアケビの茎抽出物による尿臭生成抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の尿臭生成抑制剤及び尿臭生成抑制用組成物は、特に尿臭産生菌のβ-グルクロニダーゼに対して、その活性を効果的に抑制し、これによってトイレ環境、サニタリー製品、下着等の衣類又は肌、あるいは寝具等の尿が付着する恐れのあるあらゆる物品、あるいは部位について、付着した尿から時間の経過に伴い生成する臭気を持続的に抑制する。このため本発明の尿臭生成抑制剤及び尿臭生成抑制用組成物は、優れた防臭効果を有する洗浄剤、消臭剤等の環境衛生製品、及びオムツ、生理用品、犬、猫等のペット用排泄物シート等の動物の排泄物関連品等のサニタリー製品において有用である。
【0021】
〔β-グルクロニダーゼ阻害作用〕
β-グルクロニダーゼとは、各種のアルコール類、フェノール類、アミン類等がグルクロン酸抱合された化合物(グルクロニド)を加水分解する酵素をいい、細菌、真菌、植物、動物など多くの生物に存在する。体外に排出された尿の分解には微生物の関与が大きいため、本発明においては、細菌及び真菌由来のβ-グルクロニダーゼが重要である。具体的には、Escherichia coliLactobacillus brevisPropionibacterium acnesClostridium perfringensStaphylococcus haemolyticusStreptococcus agalactiaeStreptococcus pyogenesHaemophilus somunusShigela sonneiAspergillus niger等由来のβ-グルクロニダーゼが挙げられる。これらの微生物由来のβ-グルクロニダーゼは共通のドメインを有する酵素群に分類される。さらにはヒト血漿由来のβ-グルクロニダーゼも同様のタンパク質群に分類される。
【0022】
本発明において、有効成分であるアケビの茎抽出物のβ-グルクロニダーゼ阻害作用は、1.6 units/mLの大腸菌由来β-グルクロニダーゼType VII-Aに対して、公知の阻害剤であるD-グルカロ-1,4-ラクトンの有する阻害効果と同等以上のものである。さらに、アケビの茎抽出物は、ヒト等の動物の尿、便、若しくは尿と便の混合物、好ましくは便器やトイレ床等のトイレ環境内やサニタリー製品等の対象物に付着した尿、便、若しくは尿と便の混合物、又はこれらが付着若しくは接触した履歴を有する便器やトイレ床等のトイレ環境内やサニタリー製品等から抽出したβ−グルクロニダーゼ活性菌、特に大腸菌由来のβ-グルクロニダーゼに対しても活性抑制効果を有し、トイレ環境やサニタリー製品等の対象物に付着した尿の尿臭生成を効果的に抑制する。
【0023】
〔アケビの茎抽出物〕
本発明は、アケビ(アケビ科アケビ属)の茎を抽出部位として用いるものであり、さらに蔓性の茎を用いることが好ましい。かかる茎を生のまま又は乾燥物として、より好ましくは乾燥物を細切り又は粉砕して用いることができる。抽出物は、この生の茎又は茎の乾燥物を、常温又は加温下にて、より好ましくは常温にて、溶剤抽出することにより得ることができ、抽出に際しては、ソックスレー抽出器等の抽出器具を用いることもできる。
【0024】
アケビの茎抽出物の抽出に用いる溶剤としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ピリジン類などが挙げられ、これらを単独で又は混合物として用いることができる。また、二酸化炭素等の超臨界流体を用いることもできる。
【0025】
本発明においては、上記抽出溶剤の中でも、水、エタノール等のアルコール類、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類から選ばれる溶剤、又はこれらの二種以上の混合溶剤が好ましく、さらに水とエタノールの混合溶剤を用いることが好ましい。水とエタノールの混合溶剤の体積比は(水:エタノール)、10:90〜90:10が好ましく、さらに60:40〜40:60が好ましい。
【0026】
上記の溶剤抽出物は、溶剤を留去することなくそのまま使用しても良いが、より有効性を高めるために溶剤を留去したものを使用することが好ましい。また、得られた溶剤抽出物は、そのままで使用することもできるが、その希釈液若しくは濃縮液としても使用でき、濃縮若しくは凍結乾燥した後、粉末状又はペースト状として用いることもできる。また、液液分配等の技術により、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることもでき、本発明においてはこのようなものを用いることが好ましい。これらは必要により公知の方法で脱臭、脱色等の処理を施してから用いてもよい。例えば、アケビ植物の茎の乾燥品を、エタノールと水の混合溶剤に1〜4週間浸漬し、成分を抽出後、得られた抽出液をろ過し(ワットマン、定性ろ紙)、エバポレーターにて濃縮したものを用いることができる。
【0027】
〔尿臭生成抑制用組成物〕
本発明の尿臭生成抑制用組成物は、アケビの茎抽出物と0.08〜6重量%の界面活性剤とを含有するものである。
【0028】
本発明の尿臭生成抑制用組成物におけるアケビの茎抽出物の含有量は、アケビの茎の溶剤抽出液からエバポレーター等により溶剤を除いたものの重量を基準とする。本発明の尿臭生成抑制用組成物におけるアケビの茎抽出物の含有量は、0.005〜10重量%となるようにするのが好ましく、さらには0.01〜5重量%、さらには0.1〜5重量%となるようにするのが好ましい。また、アケビの茎抽出物の含有量は、尿臭生成抑制用組成物と尿成分との混合状態では0.001〜10重量%となるようにするのが好ましく、さらには0.005〜5重量%、さらには0.01〜1重量%となるようにするのが好ましい。
【0029】
(界面活性剤)
本発明の尿臭生成抑制用組成物は、尿臭生成抑制効果を向上させる点からアケビの茎の抽出物と界面活性剤を併用することが好ましい。この作用機序は不明であるが、微生物の菌体膜に界面活性剤が作用することによって、アケビの茎抽出物中の阻害活性成分による菌体内β-グルクロニダーゼに対する阻害活性を向上させ、又は上記以外の何らかの作用若しくはこれらを含む複数の作用により、アケビの茎抽出物によるβ-グルクロニダーゼ阻害効果及びこれに起因する尿臭生成抑制効果を高めるものと推測する。
【0030】
本発明で使用される界面活性剤としては、具体的には、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤を挙げることができる。上記併用効果を向上させる点から、少なくとも非イオン界面活性剤を含むことが好ましく、更にはアルキルグリコシド型非イオン界面活性剤を含むことがより好ましい。以下、本発明で使用される界面活性剤について、詳細に述べる。
【0031】
・非イオン界面活性剤
非イオン界面活性剤としては、下記一般式(Surf-1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤、下記一般式(Surf-2)で示されるアルキルグリコシド型非イオン界面活性剤、下記一般式(Surf-3)で示されるアミンオキシド型非イオン界面活性剤を挙げることができる。
【0032】
4−(OR5)n−OH (Surf-1)
【0033】
〔式中、R4は炭素数8〜16、好ましくは10〜14の炭化水素基を示し、好ましくはアルキル基であり、R5は炭素数2又は3のアルキレン基を示し、好ましくはエチレン基であり、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す3〜20の数であり、n個のR5は同一でも異なっていても良い。〕
【0034】
6−(OR7)pq (Surf-2)
〔式中、R6は炭素数8〜16、好ましくは9〜16、特に好ましくは9〜14のアルキル基を示し、R7は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、好ましくはエチレン基又はプロピレン基、特に好ましくはエチレン基であり、Gは還元糖に由来する残基を示し、好ましくはグルコース残基である。pはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す0〜6の数であり、p個のR7は同一でも異なっていても良い。qは還元糖の平均縮合度を示す1〜10、好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜2の数である。〕
【0035】
【化1】

【0036】
〔式中、R8は炭素数8〜16、好ましくは10〜16、特に好ましくは10〜14の直鎖アルキル基を示し、R9は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、好ましくはエチレン基又はプロピレン基であり、Xは−COO−又は−CONH−を示し、rは0又は1の数を示し、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し、好ましくはメチル基である。〕
【0037】
・両性界面活性剤
両性界面活性剤としては、スルホベタイン型両性界面活性剤及びカルボベタイン型両性界面活性剤が好適であり、具体的には下記一般式(Surf-4)で示される化合物が好ましい。
【0038】
【化2】

【0039】
〔式中、R12は炭素数8〜16、好ましくは10〜16、特に好ましくは10〜14の直鎖アルキル基を示し、R13は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、好ましくはエチレン基又はプロピレン基であり、Yは−COO−又は−CONH−を示し、sは0又は1の数を示し、R14及びR15はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し、好ましくはメチル基であり、R16はヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキレン基を示し。Z-は−SO3-又は−COO-を示す。〕
【0040】
・カチオン界面活性剤
カチオン界面活性剤としては、4級窒素原子に結合する4つの基のうち、1つ又は2つが炭素数8〜12のアルキル基であり、残りが炭素数1〜3のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又はベンジル基である4級アンモニウム塩型界面活性剤が好ましい。これら4級アンモニウム塩型界面活性剤の多くは抗菌活性を有する。このようなものとして、ジアルキル(好ましくは共に炭素数10)ジメチルアンモニウム塩や、モノアルキル(好ましくは炭素数12)ベンジルジメチルアンモニウム塩が好ましく、ジアルキル(好ましくは共に炭素数10)ジメチルアンモニウム塩がより好ましい。
【0041】
・アニオン界面活性剤
アニオン界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸低級アルキルエステル塩、脂肪酸塩を挙げることができる。
【0042】
本発明の尿臭生成抑制用組成物における界面活性剤の含有量は、β-グルクロニダーゼ阻害効果、尿臭生成抑制効果をより向上させると共に、良好な感触を有するものとする観点より、0.08〜6重量%であり、0.1〜5重量%が好ましい。また、本発明で用いる界面活性剤として、少なくとも非イオン界面活性剤を含有することが好ましく、本発明の尿臭生成抑制用組成物における非イオン界面活性剤の含有量は0.01〜3重量%が好ましく、さらに0.05〜2.5重量%が好ましい。
【0043】
(その他)
本発明の尿臭生成抑制用組成物には、さらに例えば抗菌剤、キレート剤、消臭基剤、有機溶剤、油分、アルコール類、pH調整剤、殺菌剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料、保湿剤、柔軟剤、角質保護剤、薬効剤、酸化防止剤、金属塩及び金属イオン類等の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意に配合して製剤化することができる。
【0044】
・抗菌剤
抗菌剤としては、本発明で用いる界面活性剤の1つであるカチオン界面活性剤以外に、木綿金巾#2003に該化合物1重量%を均一に付着させた布を用い、JIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験法」の方法で抗菌性試験を行い、阻止帯が見られる化合物を用いることができる。このような化合物としては「香粧品、医薬品防腐・殺菌剤の科学」(吉村孝一、滝川博文著、フレグランスジャーナル社、1990年4月10日発行)の501頁〜564頁に記載されているものから選択することができる。
【0045】
好ましい抗菌性化合物としては、2-(4-チオシアノメチルチオ)ベンズイミダゾール、ポリリジン、ポリヘキサメチレンビグアニド及びグルクロン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、ビス-(2-ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、トリクロロカルバニリド、8-オキシキノリン、デヒドロ酢酸、安息香酸エステル類、クロロクレゾール類、クロロチモール、クロロフェン、ジクロロフェン、ブロモクロロフェン、ヘキサクロロフェンから選ばれる1種以上を挙げることができ、特にトリクロサンが抗菌効果の点で好ましい。また、特開平11-189975号公報に記載されているトリクロサン類自体も良好であり、具体的にはジクロロヒドロキシジフェニルエーテル、モノクロロヒドロキシジフェニルエーテルが好ましい。また、上記以外の銀、亜鉛等を含有する無機系抗菌剤も用いることができる。これらの抗菌剤は、単独で用いてもよく、さらに組み合わせて使うこともできる。
【0046】
・キレート剤
キレート剤は、特に、本発明の尿臭生成抑制用組成物をトイレに対して用いる場合には、キレート剤によってトイレに付着する燐酸カルシウムなどの無機物質を除去することによって、尿臭生成抑制効果を向上させることができることから、好適に用いることができる。
【0047】
キレート剤としては、例えば以下に示すような化合物が挙げられる。
(1)フィチン酸などのリン酸系化合物、又はこれらのアルカリ金属塩若しくはアルカノールアミン塩;
(2)エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸などのホスホン酸、又はこれらのアルカリ金属塩若しくはアルカノールアミン塩;
(3)2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸などのホスホノカルボン酸、又はこれらのアルカリ金属塩若しくはアルカノールアミン塩;
(4)アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシンなどのアミノ酸、又はこれらのアルカリ金属塩若しくはアルカノールアミン塩;
(5)ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジエンコル酸、アルキル(炭素数1〜3)グリシン-N,N-ジ酢酸、アスパラギン酸-N,N−ジ酢酸、セリン-N,N-ジ酢酸、グルタミン酸二酢酸、エチレンジアミンコハク酸などのアミノポリ酢酸、又はこれらの塩、好ましくはアルカリ金属塩、若しくはアルカノールアミン塩;
(6)ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、オキシジコハク酸、グルコン酸、カルボキシメチルコハク酸、カルボキメチル酒石酸などの有機酸、又はこれらのアルカリ金属塩、若しくはアルカノールアミン塩;
(7)アミノポリ(メチレンホスホン酸)若しくはそのアルカリ金属塩若しくはアルカノールアミン塩、又はポリエチレンポリアミンポリ(メチレンホスホン酸)若しくはそのアルカリ金属塩若しくはアルカノールアミン塩。
【0048】
これらの中で、上記(2)、(5)及び(6)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、上記(5)及び(6)からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。最も好ましい成分は、エチレンジアミン四酢酸、メチルグリシン-N,N-ジ酢酸、クエン酸である。これらのキレート剤は、単独で用いてもよく、さらに組み合わせて使うこともできる。
【0049】
・消臭基剤
消臭基剤の例としては、
酸化鉄、硫酸鉄、塩化鉄、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化銀、酸化銅等の金属化合物;
リン酸、クエン酸、コハク酸等の酸と、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)等の塩基との組み合わせからなるpH緩衝効果を有する酸ないしはその塩;
乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸等のカルボン酸類;
ウンデシレン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛、リシノール亜鉛などの脂肪酸金属類;
カテキン、ポリフェノール、緑茶抽出物、マッシュルームエキス、木酢液、竹酢液等の植物抽出物系の消臭剤;
鉄、銅などの金属クロロフィリンナトリウム,鉄、銅、コバルトなどの金属フタロシアニン,鉄、銅、コバルト等のテトラスルホン酸フタロシアニン,二酸化チタン、可視光応答型二酸化チタン(窒素ドープ型など)などの触媒型消臭剤;
α-、β-、又はγ-シクロデキストリン、そのメチル誘導体、ヒドロキシプロピル誘導体、グルコシル誘導体、マルトシル誘導体等のシクロデキストリン類;
エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の悪臭の保留効果があるとされるアルキレングリコール類;
ミリスチン酸エステル類、パルミチン酸エステル類、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、クエン酸エステル類等の悪臭の保留効果があるとされるエステル油剤;
多孔メタクリル酸ポリマー、多孔アクリル酸ポリマー等のアクリル酸系ポリマー、多孔ジビニルベンゼンポリマー、多孔スチレン−ジビニルベンゼン−ビニルピリジンポリマー、多孔ジビニルベンゼン−ビニルピリジンポリマー等の芳香族系ポリマー、それらの共重合体等の合成の多孔質ポリマー;キチン、キトサン等の天然の多孔質ポリマー;
活性炭、シリカ、二酸化ケイ素(シリカゲル)、ケイ酸カルシウム、ハイシリカゼオライト(疎水性ゼオライト)、セピオライト、カンクリナイト、ゼオライト、水和酸化ジルコニウム等の無機多孔質物質;
銀担持ゼオライト、銀担持カンクリナイト、銀担持多孔スチレン−ジビニルベンゼン−ビニルピリジンポリマー等の金属担持多孔質
等が挙げられる。これらの消臭基剤は、単独で用いてもよく、さらに組み合わせて使うこともできる。
【0050】
・有機溶剤
有機溶剤としては、水溶性の有機溶剤が好ましく、例えば、
エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブチルアルコール等のアルコール類;
エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、ヘキシレングリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、グリセリン、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール類;
エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル等のエーテル類
等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよく、さらに組み合わせて使うこともできる。
【0051】
〔尿臭生成抑制方法、製品形態〕
本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を、家庭用及び施設用などの製品中に有効量含有させることにより、尿に由来する悪臭の生成に対し、高い抑制効果、防臭効果を奏することができる。また、本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を、対象物(尿臭の発生を抑制しようとする物)に、尿が付着する前又は尿が付着してから付着した尿が乾燥する前に、好ましくは尿が付着してから1時間以内、さらに好ましくは10分以内に適用することにより、尿臭の生成を効果的に抑制することができる。
【0052】
上記尿とは、ヒト由来のものに限定されるものではなく、犬や猫を代表とするペット等の動物由来の尿であっても良い。また、上記の尿に由来する悪臭とは、尿単独から発生する悪臭に限定されるものではなく、例えばオムツ内などにおいて尿と便が混合された状態から発生する悪臭であってもよい。
【0053】
本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物によって制御可能な悪臭成分は、フェノール系化合物及びインドール類であり、具体的にはフェノール、p-クレゾール、4-ビニル-2-メトキシ-フェノール、4-ビニルフェノール、2-メトキシ-1,3-ベンゼンジオール、1,4-ベンゼンジオール、1,3-ベンゼンジオール、インドール等が挙げられるが、これに限定されず、尿にβ-グルクロニダーゼが作用することによって生じる揮発性成分であればよい。
【0054】
(製品形態)
製品形態としては、吐出型製品、塗布製品、拭き取り製品等の対象物に直接本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を適用して付着させる製品、又は尿が回収される部分に本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を保持させる吸収性製品を挙げることができる。
【0055】
吐出型製品は、トリガー式スプレーヤーを備える容器、ボタン式スプレー容器、エアゾール容器、スクイズ容器等の霧状又は泡状に吐出する吐出装置を備える容器、又は滴下型製品用容器に本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を収容し、吐出装置によって対象物に適用する製品である。このうち、トリガー式又はボタン式スプレーの吐出装置を用いた製品が好ましい。滴下による吐出型製品としては、トイレのタンク上、又は便器内に設置されて、トイレの便器内に流れて適用されるものも含まれる。
【0056】
塗布製品又は拭き取り製品は、多孔質部材又はシート材等の保持部材に本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を含浸、又は保持させて対象物に塗布する製品であって、シート材に含浸させたシート製品が好ましい。
【0057】
吸収性製品は、尿等の排泄物が直接吸収される物品に、本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を含浸又は保持させ、吸収された尿による尿臭生成を抑制する。吸収性製品においては、本発明の尿臭生成抑制用組成物がヒトの肌に直接ふれないが、吸収された尿に接触可能なものが好ましく、例えば、多層構造になったシート製品の中間層のいずれかに本発明の尿臭生成抑制用組成物が保持されているものが好ましい。
【0058】
本発明の尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物を、吐出装置を備える容器に収容した吐出型製品とする場合、アケビの茎抽出物の含有量は0.005〜10重量%となるようにするのが好ましく、さらには0.01〜5重量%、さらには0.1〜5重量%となるようにするのが好ましい。
【0059】
また、本発明の吐出型製品用の尿臭生成抑制用組成物における水の含有量は、好ましくは50〜99重量%、より好ましくは70〜98重量%、更に好ましくは80〜95重量%である。また、吐出型製品に収容された尿臭生成抑制用組成物の20℃におけるpHは、好ましくは5〜9、より好ましくは6〜8であり、pH調整は通常用いられるpH調整剤で行われる。
【実施例】
【0060】
下記の参考例及び実施例では、除菌用のフィルターとして0.2μmのフィルター(ミリポア社製、マイレックスGV、又はナルゲン社製のフィルターユニット)を用いた。また、特記しない限りβ-グルクロニダーゼは、大腸菌由来のβ-グルクロニダーゼType VII-A(シグマ社より購入)を使用し、50vol%エタノールは、エタノール50vol%と水50vol%の混合液を使用した。また、吸光度測定には吸光マイクロプレートリーダー(TECAN社製、サンライズレインボーサーモRC)を使用し、各波長におけるサンプルの吸光度は96穴マイクロウェルプレート(NUNC社製、Nunclon Delta Surface)のウェル中でのサンプル200μLに対する測定値を使用した。
【0061】
参考例1 β-グルクロニダーゼ添加による尿からの揮発性化合物の生成
(1) 測定サンプルの調製
γ線滅菌済み容器中に、採取後すぐに0.2μmのフィルターにて除菌操作を行ったヒト尿サンプル(5人のヒト尿混合物)9.9mLを入れ、続いて250units/mLに調整したβ-グルクロニダーゼType VII-A水溶液0.1mLを添加混合し、25℃恒温槽に静置して22時間反応させた。酵素液の代わりに滅菌イオン交換水0.1mLを添加したものを初期尿サンプルとして同様に22時間恒温槽中に静置した。
反応終了後、反応液9mLに内部標準としてベンジルベンゾエート エタノール溶液を添加し、ジエチルエーテル10mLを用いて2回抽出を行った。抽出液は合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥を行った。乾燥後、固形物をろ別し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮して測定サンプルとした。
【0062】
(2) 揮発性化合物の測定
測定にはガスクロマトグラフ質量分析計を用いた。検出された揮発性化合物の生成量は内部標準に対するピークエリア比として算出した。この結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
この結果より、β-グルクロニダーゼの作用により尿から種々のフェノール系化合物及びインドールが生成することが確認された。
【0065】
参考例2 β-グルクロニダーゼ添加による尿臭の発生
(1) 評価サンプルの調製
γ線滅菌済み容器中に、採取後すぐに0.2μmのフィルターにて除菌操作を行ったヒト尿サンプル(5人のヒト尿混合物)720μLを入れ、続いて16units/mLに調整したβ-グルクロニダーゼ Type VII-A水溶液 80μLを添加混合し、37℃恒温槽に静置して20時間反応させた。酵素液の代わりに滅菌イオン交換水80μLを添加したものを初期尿サンプルとし、同様に20時間恒温槽中に静置した。各サンプルについて、それぞれ等量を匂い紙先端に滴下し、これを評価サンプルとした。
【0066】
(2) 臭気官能評価
臭気官能評価は6名のパネラーによって、臭気の強度を0〜5の評価スコアによる6段階臭気強度表示法に基づいて行った。評価スコアは、「0」無臭、「1」やっと感知できるニオイ(検知閾値)、「2」尿臭であることわかるが弱いニオイ(認知閾値)、「3」楽に尿臭であると感じられるニオイ、「4」強い尿臭、「5」強烈な尿臭を示す。臭気強度の判定は0.5刻みで行い、評価の最も高い者と低い者の2名の評価を除き、4名の評価の平均値について、小数点以下の数値を0.25以上0.75未満は0.5とし、0.75以上は整数に切り上げ、0.25未満は整数に切り捨てたものを評価結果とした。評価結果を図1に示した。
この結果より、β-グルクロニダーゼの作用によって生じる揮発性成分は尿臭強度を顕著に増加させることが確認された。
【0067】
参考例3 腐敗尿中のβ-グルクロニダーゼ活性の測定
(1) サンプルの調製
腐敗尿は尿サンプル20mLを採取後、除菌操作を行わずにγ線滅菌済み容器に分注し、室温にて7日間保管したものを用いた。この腐敗尿1mLを10000rpmで5分間遠心分離し、菌体と上清に分離を行った。沈殿した菌体は0.5mLの生理食塩水中に懸濁させた。上清は0.2μmのフィルターを通して除菌を行った。
また、採取直後に0.2μmのフィルターを用いて除菌した尿15mLについても、同様に7日間室温にて保管した。
【0068】
(2) β-グルクロニダーゼ活性の測定
γ線滅菌済み容器中にて、2mM p-ニトロフェニル-β-D-グルクロニド(PNPG)水溶液250μL、0.5Mリン酸バッファー(pH6.8)100μL及びイオン交換水100μLを混合し、続いて上記尿サンプル(除菌尿、腐敗尿菌体懸濁液又は腐敗尿上清)を50μL加え、室温にてそれぞれ反応させた。
反応開始直後及び24時間反応後の上記反応液を0.2Mグリシン-水酸化ナトリウムバッファー(pH10.4)を用いて希釈し、波長400nmの吸光度を測定した。24時間反応後の吸光度から開始直後の吸光度を差し引いた値をβ-グルクロニダーゼ活性の指標とし、サンプルごとの比較を行った。活性測定の結果を図2に示した。
この結果より、腐敗尿中に増殖した菌体がβ-グルクロニダーゼ活性を有すること、さらに菌体を含まない上清もβ-グルクロニダーゼ活性を有することから、これら菌体の産生した酵素が菌体外にも分泌されていることが確認された。
【0069】
(3) 除菌尿及び腐敗尿の臭気官能評価
除菌尿及び腐敗尿は保管に用いた容器のままビン口での臭気評価に供した。
臭気官能評価は6名のパネラーが参考例2の(2)に示した6段階臭気強度表示法に基づいて行った。各パネラーの評価値を参考例2の(2)に示した手法によって平均した結果を図3に示した。
この結果より、尿中に増殖する菌体が尿臭強度を増加させることが確認された。
【0070】
実施例1 植物抽出物によるβ-グルクロニダーゼの活性阻害
(1) 評価サンプル
アケビの茎抽出物は、アケビ植物原体(茎の乾燥品)40gを樹脂容器に入れ、50vol%エタノール400mLに4週間浸漬し、成分を抽出後、得られた抽出液をろ過し(ワットマン、定性ろ紙)、エバポレーターにて濃縮したものを用いた。得られた抽出物は50vol%エタノールに溶解させ1w/v%の溶液として各種評価に用いた。また、比較としてβ-グルクロニダーゼを競争的に阻害することが広く知られているD-グルカロ-1,4-ラクトンを50vol%エタノールに溶解させ1w/v%の溶液を調製し、また、一般に消臭エキスとして用いられている緑茶抽出物(白井松新薬社製、FS-1000)についても、これを50vol%エタノールに溶解させ乾留分1w/v%の溶液を調製し、各種評価に用いた。以下、アケビの茎抽出物の溶液の濃度は、エバポレーターにて溶剤を除去したものの重量を基準する。
【0071】
(2) β-グルクロニダーゼの相対活性阻害率測定
γ線滅菌済み容器中にて2mM PNPG水溶液400μL、0.5Mリン酸バッファー(pH6.8)160μL、イオン交換水152μL、及び1w/v%アケビの茎抽出物溶液又は緑茶抽出物溶液、又はD-グルカロ-1,4-ラクトン溶液8μLを混合し、続いて16units/mLに調製したβ-グルクロニダーゼ水溶液80μLを加えて攪拌後、37℃恒温槽中で2時間反応を行った。アケビの茎抽出物、緑茶抽出物(乾留分)及びD-グルカロ-1,4-ラクトンの反応液中での濃度は0.01w/v%となる。
また、サンプルの代わりに50vol%エタノール8μLを加えたものをコントロールとし、各サンプル及びコントロールごとに酵素液の代わりにイオン交換水を加えたものをブランクとして、それぞれ同様に2時間反応を行った。
上記反応液を0.2Mグリシン-水酸化ナトリウムバッファー(pH10.4)を用いて希釈し、波長400nmにおける吸光度を測定した。得られた測定値より、次式に従ってβ-グルクロニダーゼの相対活性阻害率を求め、図4に示した。
【0072】
【数1】

【0073】
この結果より、アケビの茎抽出物は、D-グルカロ-1,4-ラクトンと同等以上のβ-グルクロニダーゼ阻害活性を有することがわかる。
【0074】
実施例2 β-グルクロニダーゼ添加尿に対するアケビの茎抽出物による尿臭の発生抑制
(1) サンプルの調製
γ線滅菌済み容器中に、採取後すぐに0.2μmのフィルターにて除菌操作を行ったヒト尿サンプル(5人のヒト尿混合物)720μL、及び1w/v%アケビの茎抽出物溶液又は緑茶抽出物溶液又はD-グルカロ-1,4-ラクトン溶液8μLを加え、続いて16units/mLに調製したβ-グルクロニダーゼ水溶液80μLを添加混合し、37℃恒温槽中に静置して20時間反応させた。アケビの茎抽出物、緑茶抽出物及びD-グルカロ-1,4-ラクトンの反応液中での濃度は0.01重量%となる。
また、除菌尿サンプル720μLに50vol%エタノール8μL及び酵素液 80μLを加えて混合したものをコントロール、除菌尿サンプル720μLに50vol%エタノール8μL及びイオン交換水80μLを加え混合したものをブランクとして、それぞれ同様に20時間反応させた。各サンプルについて、それぞれ等量を匂い紙先端に滴下し、これを評価サンプルとした。
【0075】
(2) 官能評価による尿臭抑制の確認
臭気官能評価は、6名のパネラーが参考例2の(2)に示した6段階臭気強度表示法に基づいて行った。各パネラーの評価値を参考例2の(2)に示した手法によって平均した結果を図5に示した。
【0076】
この結果より、β-グルクロニダーゼ阻害活性を有するD-グルカロ-1,4-ラクトン及びアケビの茎抽出物は、尿臭に対して優れた防臭性能を有することがわかる。
【0077】
実施例3 尿臭産生菌に対するアケビの茎抽出物によるβ-グルクロニダーゼ活性抑制
(1) 尿臭産生菌の採取・同定
3名のパネラー宅のトイレ便器フチ裏から常法により菌株(微生物コロニー)の分離を行い、これらを除菌尿中で培養したところ、特定の菌株について強い臭気の発生が確認された。以下の評価においては、これら特定の菌株(尿臭産生菌)の中から16S rDNA部分塩基配列解析によって大腸菌に帰属された菌株を使用した。
【0078】
(2) 菌液の調製
上記の分離大腸菌を3mMのPNPGを含むミュラーヒントン培地で培養し、生理食塩水で数回洗浄することによって培地成分を除いた。これを生理食塩水を用いて適宜希釈し、波長600nmにおける吸光度が2となるように調整した。
【0079】
(3) 尿臭産生菌β-グルクロニダーゼ活性の抑制効果測定
表2に示す組成(w/v%)のアケビの茎抽出物、緑茶抽出物、D-グルカロ-1,4-ラクトン、及び/又は非イオン界面活性剤を含有する尿臭生成抑制用組成物を調製し、各組成物とヒト尿サンプルを体積比1対9で混合した。これら組成物添加尿に対して1mMとなるようにPNPGを溶解させ、さらに(2)で調製した分離大腸菌菌液を1vol%添加混合して得られた各サンプルを30℃恒温槽中で4時間反応させた。反応液中での濃度はそれぞれ、アケビの茎抽出物、緑茶抽出物及びD-グルカロ-1,4-ラクトンは0.04w/v%、非イオン界面活性剤は0.01w/v%となる。
また、各サンプルについて、菌液に代えて生理食塩水を加えたものをブランクとして、同様に4時間反応を行った。
【0080】
【表2】

【0081】
反応終了後、反応液の一部を0.2Mグリシン-水酸化ナトリウムバッファー(pH10.4)を用いて希釈し、10000rpmで2分間遠心操作を行い、遠心後の上清を用いて波長400nmにおける吸光度を測定した。得られた測定値より、次式に従って各サンプルにおける尿臭産生菌β-グルクロニダーゼの相対活性を求め、結果を図6に示した。
【0082】
【数2】

【0083】
この結果より、本発明の尿臭生成抑制用組成物は、尿臭発生の現場から分離された尿臭産生菌に対しても良好なβ-グルクロニダーゼ阻害活性を有すること、さらに非イオン性界面活性剤を併用することでこの効果を助長することがわかる。
【0084】
実施例4 尿臭産生菌添加尿に対するアケビの茎抽出物による尿臭の発生抑制
(1) サンプルの調製
実施例3に示した各サンプルについて、30℃、4時間反応させたものをそれぞれ等量、匂い紙先端に滴下し、これを評価サンプルとした。
(2) 官能評価による尿臭抑制の確認
臭気官能評価は、6名のパネラーが参考例2の(2)に示した6段階臭気強度表示法に基づいて行った。各パネラーの評価値を参考例2の(2)に示した手法によって平均した結果を図7に示した。
この結果より、本発明の尿臭生成抑制用組成物は、尿臭発生の現場から分離された尿臭産生菌を用いた評価においても尿臭に対して優れた防臭性能を有することがわかる。
【0085】
実施例5 スプレー型製品
表3に示す組成(重量%)のアケビの茎抽出物及び各種界面活性剤を含有する尿臭生成抑制用組成物を調製し、これをトリガースプレー容器に入れて、スプレー型製品を作製した。組成物のpHは6.5〜7.5になるように調整した。
【0086】
<配合成分(界面活性剤)>
非イオン界面活性剤1:アルキルグリコシド(花王(株)製、マイドール12、アルキル基の炭素数は12、グルコース平均縮合度1.3)
非イオン界面活性剤2:N-ラウロイルアミノプロピル-N,N-ジメチルアミンオキシド
非イオン界面活性剤3:ポリオキシエチレン(平均8モル)ラウリルエーテル
両性界面活性剤1:N-ラウロイルアミノプロピル-N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシスルホプロピル)アンモニウムベタイン
両性界面活性剤2:N-ラウロイルアミノプロピル-N,N-ジメチル-N-カルボシキメチルアンモニウムベタイン
カチオン界面活性剤1:ジデシルジメチルアンモニウムクロリド(花王(株)製、コータミンD-10E)
カチオン界面活性剤2:アルキルベンジルアンモニウムクロリド(花王(株)製、サニゾールC、アルキル基の炭素数は12)
アニオン界面活性剤1:アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数は11〜15)
アニオン界面活性剤2:ラウリル硫酸ナトリウム
【0087】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アケビの茎抽出物を有効成分とする尿臭生成抑制剤。
【請求項2】
アケビの茎抽出物と0.08〜6重量%の界面活性剤とを含有する尿臭生成抑制用組成物。
【請求項3】
界面活性剤が、少なくとも非イオン界面活性剤を含有する請求項2に記載の尿臭生成抑制用組成物。
【請求項4】
非イオン界面活性剤が、アルキルグリコシド型非イオン界面活性剤である請求項3に記載の尿臭生成抑制用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の尿臭生成抑制剤又は請求項2から4に記載の尿臭生成抑制用組成物を、吐出装置を備える容器に収容してなる吐出型製品。
【請求項6】
請求項1に記載の尿臭生成抑制剤又は請求項2から4に記載の尿臭生成抑制用組成物を、対象物に尿が付着する前又は尿が付着してから乾燥する前に適用する尿臭の生成抑制方法。
【請求項7】
尿臭生成抑制剤又は尿臭生成抑制用組成物の対象物への適用が、吐出装置を備える容器からの吐出、又は塗布による対象物への付着である請求項6に記載の尿臭の生成抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−246905(P2010−246905A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68105(P2010−68105)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】