説明

屋根作業用安全装置

【課題】屋根上に張設された親綱の張設位置を変更することなく屋根の勾配面の全範囲にわたって作業位置を変更することができるようにして、屋根上での作業を安全に能率よく行なうことができるようにした屋根作業用安全装置を提供することである。
【解決手段】親綱4を屋根1の棟2に沿って張設し、その親綱4にロープ巻取器20をスライド自在に連結する。屋根1上での作業に際し、作業者の腰部に高所作業用安全帯50を巻き付け、その高所作業用安全帯50にロープ巻取器20から引き出された帯状ロープ23の先端部を連結して安全性を確保し、ロープ巻取器20の親綱4に沿っての移動と、ロープ巻取器20からの帯状ロープ23の繰出しとによって屋根1の勾配面の全体にわたって作業位置を変更できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の屋根上で作業する作業者の墜落事故の防止を図る屋根作業用安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、瓦やスレート瓦、カラー鋼板等の屋根葺材の葺き替えや既存の屋根上にソーラーパネル等を設置する屋根上での作業は極めて危険であるため、安全性を確保することが行なわれる。
【0003】
その安全性の確保に際して、普通、屋根上に親綱を張設し、その親綱に作業者の腰部に巻き付けられた高所作業用安全帯から延びるフック付きロープの先端の安全フックを掛けて安全性を確保することが行なわれる。
【0004】
この場合、親綱は、棟の長さ方向に沿って張設される場合と、棟を横切る方向に張設される場合とがあり、棟を横切るように親綱を張設する場合には、その親綱に任意の位置で固定し得る金具(グリップ)を取り付け、そのグリップにフック付きロープの先端の安全フックを連結して安全性を確保することが行なわれる。
【0005】
しかし、棟に沿って親綱を張設する場合、棟の長さ方向に容易に移動することができるものの、高所作業用安全帯に接続されたフック付きロープの長さが1.7m程度であるため、屋根の勾配方向への移動範囲が狭く、軒先部での作業ができない場合が生じるため、屋根の勾配方向に作業位置を変更する場合、屋根の勾配方向に親綱の張設位置を変更する必要があり、作業能率を低下させることになる。
【0006】
一方、棟を横切るように親綱を張設した場合、屋根の勾配方向に容易に位置を変更することができるものの、横方向への移動範囲が狭く、棟の長さ方向に作業位置を変更する場合、棟の長さ方向に親綱の張設位置を変更する必要があり、作業能率を低下させることになる。
【0007】
ここで、特許文献1には、巻取式命綱を用いて屋根上の全ての範囲にわたって作業位置を変更することができるようにした屋根作業用安全装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−183305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載された屋根作業用安全装置においては、建物棟部の屋根葺材の一部を剥がし取って棟木の一部を露出させ、その露出部分に支柱固定部材を取り付けて支柱を立て、その支柱によって巻取式命綱を回転自在に取り付けるようにしているため、作業が屋根の解体に限定され、屋根葺材の葺き替えや、既存の屋根にソーラーパネルを設置する等の屋根上での作業を行なうことができないという不都合がある。
【0010】
この発明の課題は、屋根上に張設された親綱の張設位置を変更することなく屋根の勾配面の全範囲にわたって作業位置を任意に変更することができるようにして、屋根葺材の葺き替えや、既存の屋根にソーラーパネルを設置する等の屋根上での作業を安全に能率よく行なうことができるようにした屋根作業用安全装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明においては、屋根の棟にほぼ平行に張設された親綱と、その親綱に沿って長さ方向に移動可能に連結され、内部に組込まれたロープ巻取リールが帯状ロープの巻取り方向に付勢され、そのロープ巻取リールから帯状ロープが急速に引き出された際にロープ巻取リールをロックして帯状ロープの引き出しを停止するロック機能を有するロープ巻取器と、そのロープ巻取器を支持し、屋根の上面に沿って転動可能なキャスタを下面に有する台車とからなり、前記ロープ巻取器から引き出された帯状ロープの先端部を作業者に装着された高所作業用安全帯に対して係脱自在とした構成を採用したのである。
【0012】
ここで、親綱は、屋根の妻面側の両端部から起立する対向一対の支柱の上部端部間に渡し、あるいは、建物の周囲に組まれた足場枠の上部間に渡して、屋根の上面と間隔のある張設としてもよい。また、屋根上面の妻面側の両端部に取付けられた金属板の折曲げからなるロープ連結金具に両端部を連結して屋根の上面に沿う張設としてもよい。
【0013】
また、高所作業用安全帯は、胴ベルトタイプのものであってもよく、あるいは、ハーネスタイプのものであってもよい。
【0014】
上記の構成からなる屋根作業用安全装置において、ロープ巻取器から引き出された帯状ロープの先端部を作業者に装着された高所作業用安全帯に係合することにより、作業者が棟の長さ方向に移動すると、帯状ロープを介してロープ巻取器に引張り力が付与されるため、そのロープ巻取器が親綱に沿って移動し、また、作業者が屋根の勾配に沿って軒先方向に移動すると、ロープ巻取器から帯状ロープが引き出されるため、屋根の勾配面の全体にわたって作業位置を変更することができ、その位置の変更によって親綱の張設位置を変更する必要がない。
【0015】
ここで、ロープ巻取器は屋根の上面に沿って転動可能なキャスタを有する台車に支持されているため、帯状ロープを介して引張り力が付与されるロープ巻取器は親綱の長さ方向にスムーズに移動し、棟の長さ方向に作業位置をスムーズに変更することができる。
【0016】
このため、屋根葺材の葺き替えや、既存の屋根にソーラーパネルを設置する等の屋根上での作業を能率よく行なうことができる。
【0017】
また、作業者が万一足を滑らして落下しはじめると、ロープ巻取器から帯状ロープが急速に引き出され、このとき、ロック機構が作動してロープ巻取リールがロックされるため、作業者が墜落するという危険がなく、屋根上において安全に作業することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、上記のように、棟に沿って親綱を張設し、その親綱に沿ってロープ巻取器を移動自在に連結し、そのロープ巻取器を屋根の上面に沿って転動可能キャスタを有する台車で支持したことにより、そのロープ巻取器から引き出された帯状ロープの先端部を作業者に装着された高所作業用安全帯に係合することによって、屋根上に張設された親綱の張設位置を変更することなく屋根の勾配面の全範囲にわたって作業位置をスムーズに変更することができ、屋根葺材の葺き替えや、既存の屋根にソーラーパネルを設置する等の屋根上での作業を能率よく行なうことができる。
【0019】
また、ロープ巻取器は、帯状ロープが急速に引き出されるとロック機構が作動してロープ巻取リールをロックするロック機能付きであるため、作業者が墜落するという危険がなく、屋根上において安全に作業することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係る屋根作業用安全装置の実施の形態を示す正面図
【図2】ロープ巻取器を支持する台車の平面図
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図
【図4】図2のIV−IV線に沿った断面図
【図5】図2に示す台車の分解斜視図
【図6】ロープ巻取器の一部切欠平面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、屋根1の棟2の長さ方向の両端部には親綱支柱3が立てられ、その一対の親綱支柱3の上端部間に親綱4が張設されている。
【0022】
親綱4の張設に際し、ここでは、安全フック5を一端に有し、他端部に親綱緊張器6が接続されたロープ7を用い、そのロープ7に一端の安全フック5を一方の親綱支柱3に係合し、他方の親綱支柱3の上部に親綱4の一端に接続された安全フック8を係合し、その親綱4の他端部を親綱緊張器6の形成されたロープ挿入路に挿通して折り返し、その折返し側端部を引く操作により親綱4を緊張させ、その緊張させた親綱4に親綱緊張器6に設けられた図示省略のロック爪を係合させて、親綱4を緊張状態に保持するようにしている。
【0023】
親綱4には連結ロープ9の一端部に取り付けられたカラビナ10がスライド自在に連結され、その連結ロープ9の他端部に取り付けられたカラビナ11にロープ巻取器20が連結されている。
【0024】
図6に示すように、ロープ巻取器20は、ケース21と、そのケース21内に組込まれた巻取リール22と、その巻取リール22に巻き取られた帯状ロープ23がケース21に形成されたロープ引出し口24から急速に引き出された際に巻取リール22をロックして帯状ロープ23の引き出しを停止するロック機構25とを有しており、上記ケース21の外周面には連結片26が設けられ、その連結片26にカラビナ11を連結する連結孔27が形成された従来から周知のものが採用されている。
【0025】
ここで、巻取リール22は図示省略したゼンマイばねによって帯状ロープ23を巻き取る方向に付勢されている。
【0026】
一方、ロック機構25は、巻取リール22のリール軸22aに固定されたラチェットホイール28と、そのラチェットホイール28の外周囲に設けられた固定ピン29を中心に揺動自在に支持されたラチェット爪30と、そのラチェット爪28をラチェットホイール28の外周に形成された歯28aに対して係合解除する方向にラチェット爪30を付勢するスプリング31を有し、上記ラチェット爪30にはその揺動中心からラチェットホイール28の周方向に延びる操作片部32を連設し、帯状ロープ23が急速に引き出されて巻取リール22が同図の矢印で示す方向に回転したとき、ラチェットホイール28の歯28aが操作片部32を瞬時に蹴り上げる作用により、ラチェット爪30をラチェットホイール28の外周に向けて揺動させて歯28aに係合させるようにしている。
【0027】
図1に示すように、ロープ巻取器20は台車40で支持されている。図2乃至図5に示すように、台車40は、台車本体41と、その台車本体41に支持されたロープ巻取器20を台車本体41に固定するコの字形の押え枠42とからなっている。
【0028】
台車本体41は複数の首振り可能なキャスタ41aを下面に有し、両側部には下向きに折曲げ片43が形成され、その折曲げ片43の折曲げ部位に貫通孔44が設けられている。押え枠42は、その両端部が貫通孔44に挿入されて台車本体41に支持されたロープ巻取器20の周囲を覆い、上記折曲げ片43に形成された上下に長いボルト挿入孔45に挿入されて押え枠42の両端部に形成されたねじ孔46にねじ込まれる蝶ボルト47の締め付けにより台車本体41に固定されて、ロープ巻取器20を台車本体41に固定している。
【0029】
ここで、ロープ巻取器20をより強固に固定するため、台車本体41の上面両側部にロープ巻取器20のケース21を支持する一対のベースプレート48を取り付け、各ベースプレート48の上面に複数の位置決め突起49を設け、その位置決め突起49をロープ巻取器20のケース21の下面に設けられた凹部21aに係合させて、ロープ巻取器20の固定化を図るようにしている。
【0030】
なお、ベースプレート48を省略し、台車本体41に位置決め突起49を直接設けるようにしてもよい。また、押え枠42に代えて、面ファスナにより係脱される一対のベルトによりロープ巻取器20を台車本体41に固定するようにしてもよい。
【0031】
ロープ巻取器20を支持する台車40は、屋根1の上面に載置されてキャスタ41aの転動により屋根1の上面に沿って移動自在とされている。
【0032】
実施の形態で示す屋根作業用安全装置は上記の構造からなり、屋根葺材の葺き替えや、既存の屋根1にソーラーパネルを設置する等の屋根1上での作業に際しては、図1に示すように、作業者Mの腰部に高所作業用安全帯50を巻き付け、その高所作業用安全帯50のD環にロープ巻取器20から引き出された帯状ロープ23の先端部をカラビナ等を介して連結する。
【0033】
ここで、実施の形態においては、高所作業用安全帯50として、胴ベルトタイプのものを示したが、ハーネスタイプのものであってもよい。また、帯状ロープ23は、胴ベルトやハーネスに直接連結してもよい。
【0034】
上記のような準備作業後において、作業者Mが棟2の長さ方向に移動(横移動)すると、帯状ロープ23を介してロープ巻取器20に引張り力が付与されるため、そのロープ巻取器20を支持する台車40が屋根1の上面に沿ってスムーズに横移動する。
【0035】
また、台車40の横移動により連結ロープ9が緊張すると、その連結ロープ9の一端のカラビナ10が親綱4に沿って移動する。一方、作業者Mが屋根1の勾配に沿って軒先方向に移動すると、ロープ巻取器20から帯状ロープ23が引き出される。
【0036】
このように、作業者Mは親綱4の張設方向と屋根1の勾配に沿った方向の2方向に自由に移動することができるため、屋根1の勾配面の全体にわたって作業位置をスムーズに変更することができ、その位置の変更によって親綱4の張設位置を変更する必要がないため、屋根上での作業を能率よく行なうことができる。
【0037】
また、ロープ巻取器20は、帯状ロープ23が急速に引き出されるとロック機構25が作動してロープ巻取リール22をロックするロック機能付きであるため、作業者Mが万一足を滑らしても、帯状ロープ23で受止められることになるため墜落するという危険がなく、屋根上において安全に作業することができる。
【0038】
図1に示す実施の形態では、棟2の長さ方向の両端部に親綱支柱3を立て、その親綱支柱3の上端部間の親綱4を張設するようにしたが、新築工事の建物においてはその周囲に足場枠を架設する場合が多いため、その足場枠の上部間に親綱4を張設するようにしてもよい。
【0039】
また、新築工事での瓦やカラー鋼板等の屋根葺材を葺く場合は、屋根下地が露出する状態にあるため、その屋根下地の妻面側の両端部に金属板の折曲げからなるロープ連結金具をねじ止め等の手段で固定し、そのロープ連結具間に親綱4を渡して、屋根下地の上面に沿うような張設としてもよい。この場合、ロープ巻取器20にカラビナ等のロープ連結具を取付け、そのロープ連結具を親綱4にスライド自在に連結することで、図1に示す連結ロープ9を不要とすることができる。
【0040】
ここで、日本瓦を敷き詰めた屋根上での作業においては、ロープ巻取器20を支持する台車40の横方向への移動にスムーズさを欠き、あるいは、日本瓦を損傷させる可能性があるため、その場合は、屋根上に板を敷き、その板上で台車40を移動自在とするのが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 屋根
2 棟
4 親綱
20 ロープ巻取器
22 巻取リール
23 帯状ロープ
25 ロック機構
40 台車
41a キャスタ
50 高所作業用安全帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根の棟にほぼ平行に張設された親綱と、その親綱に沿って長さ方向に移動可能に連結され、内部に組込まれたロープ巻取リールが帯状ロープの巻取り方向に付勢され、そのロープ巻取リールから帯状ロープが急速に引き出された際にロープ巻取リールをロックして帯状ロープの引き出しを停止するロック機能を有するロープ巻取器と、そのロープ巻取器を支持し、屋根の上面に沿って転動可能なキャスタを下面に有する台車とからなり、前記ロープ巻取器から引き出された帯状ロープの先端部を作業者に装着された高所作業用安全帯に対して係脱自在とした屋根上作業安全装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−26162(P2012−26162A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165758(P2010−165758)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000106287)サンコー株式会社 (24)