説明

層間耐チッピング材組成物

【課題】層間耐チッピング材組成物において、優れた耐チッピング性や貯蔵安定性を有するのみならず、水性中塗り塗料や上塗り塗料をウェット・オン・ウェットで塗装した場合でもタレ・ハジキ・色ムラ等の塗装障害が発生せず、その後の加熱に対する耐熱黄変性にも優れ、更に低温かつ短時間で硬化させることができること。
【解決手段】層間耐チッピング材組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ブロックイソシアネートと、溶剤とを含有し、塩化ビニル樹脂中に水酸基含有塩化ビニル樹脂を25〜75重量%の範囲内で含有し、可塑剤として数平均分子量が800〜1100の範囲内のポリフタル酸エステルを塩化ビニル樹脂100重量部に対して25〜75重量部の範囲内で含有し、塩化ビニル樹脂の平均重合度が1500〜2000の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の下塗り(電着)層と中塗り層または上塗り層との層間に塗布されて高い耐チッピング性を確保し、しかも水性中塗り塗料及び上塗り塗料の耐熱黄変性を高めることができる塩化ビニルプラスチゾル系の層間耐チッピング材組成物に関するものである。なお、本明細書・特許請求の範囲・要約書において、「塩化ビニル樹脂」という用語は、ポリ塩化ビニル(塩化ビニルモノマーの単独重合体)のみならず、塩化ビニルモノマーと他のモノマーとの共重合体や、ポリ塩化ビニルと他のポリマーとの混合物をも含む意味に用いられるものとする。
【背景技術】
【0002】
自動車等の表面塗膜には、小石・砂粒等が衝突する機会が多いので、かかる衝撃に耐えて塗膜の剥離を起こさない耐チッピング性が要求される。従来、自動車の上塗焼付後に塗布されていた耐チッピング塗料は、溶剤型2液ウレタン塗料であり環境負荷物質を含むので好ましくなく、しかも黒色であるので意匠的に限定されてしまう。最近は、こうした環境問題や意匠的な問題に対処するために、水性中塗り塗料の導入や、層間タイプの耐チッピング塗料と中塗り塗料とのウェット・オン・ウェットで塗装される工程が増えており、それに対応する層間タイプの塩化ビニルプラスチゾル系耐チッピング塗料が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、重量平均分子量が1000〜1600のアジピン酸系ポリエステルを可塑剤として含み、かつナフテン成分を60重量%以上含有する炭化水素系溶剤をポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して10〜30重量部含む塩化ビニルプラスチゾル耐チッピング材組成物の発明について開示している。これによって、かかる可塑剤は溶剤中に移行しにくいため、中塗り塗料とのウェット・オン・ウェットで塗装される場合でも、タレ・ハジキ等の塗装障害を防止することができ、かつ炭化水素系溶剤が可塑剤に起因する粘度の上昇を防止して、スプレー性を良好に維持できるとしている。
【0004】
また、特許文献2においては、塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び充填剤からなり、可塑剤が炭素数19〜23の二塩基酸エステル系可塑剤と炭素数19〜24の一塩基酸エステル系可塑剤との混合物で、その使用量が塩化ビニル系樹脂100重量部に対して80〜200重量部である塩化ビニル系樹脂プラスチゾル組成物の発明について開示している。これによって、110〜180℃の加熱温度範囲で十分に硬化し、加熱時の揮発成分が極めて少なく、塗布作業性に優れ、かつ良好な貯蔵安定性を有する耐チッピング性塩化ビニル系樹脂プラスチゾル組成物となるとしている。
【0005】
更に、特許文献3においては、塩化ビニル系重合体樹脂、可塑剤及び充填材を主成分とし、発泡剤を含み、可塑剤がフタル酸ジヘプチル及びフタル酸ジイソノニルからなり、フタル酸ジヘプチルとフタル酸ジイソノニルとが1:3〜1:5の重量割合で混合されている塩化ビニルプラスチゾル組成物の発明について開示している。これによって、主として自動車のホイルハウス部や床裏部等に塗布されることにより、自動車の鋼板に優れた耐チッピング性能を発揮するのみならず、小石や砂利等が衝突した際の防音性能にも極めて優れた塩化ビニル樹脂系のプラスチゾル塗料が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−026192号公報
【特許文献2】特開平10−130566号公報
【特許文献3】特許第3126679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の塩化ビニルプラスチゾル耐チッピング材組成物においては、中塗り塗料及び上塗り塗料として溶剤系の塗料を想定しているため、水性中塗り塗料や上塗り塗料をウェット・オン・ウェットで塗装した場合には、やはりタレ・ハジキ等の塗装障害が発生する可能性がある。また、耐チッピング材組成物を塗布した上に塗布された中塗り塗料や上塗り塗料がその後の加熱によって黄変し、見栄えが損なわれるという問題点があった。
【0008】
一方、上記特許文献2及び特許文献3に記載の技術においては、いずれも耐チッピング材組成物の単独の特性を向上させたものに過ぎず、水性中塗り塗料や上塗り塗料をウェット・オン・ウェットで塗装する場合に対応できるものではないため、やはりタレ・ハジキ等の塗装障害や、耐チッピング材組成物を塗布した上に塗布された中塗り塗料や上塗り塗料がその後の加熱によって黄変して見栄えが損なわれる事態を防止することができないという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであって、優れた耐チッピング性や貯蔵安定性を有するのみならず、水性中塗り塗料や上塗り塗料をウェット・オン・ウェットで塗装した場合でもタレ・ハジキ・色ムラ等の塗装障害が発生せず、その後の加熱に対する耐熱黄変性にも優れ、更に低温かつ短時間で硬化させることができる塩化ビニルプラスチゾル系の層間耐チッピング材組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係る層間耐チッピング材組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ブロックイソシアネートと、溶剤とを含有する塩化ビニルプラスチゾル系の層間耐チッピング材組成物であって、前記塩化ビニル樹脂中に水酸基含有塩化ビニル樹脂を25〜75重量%の範囲内で含有し、前記可塑剤として数平均分子量が800〜1100の範囲内のポリフタル酸エステルを前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して25〜75重量部の範囲内で含有し、前記塩化ビニル樹脂の平均重合度が1500〜2000の範囲内であるものである。
【0011】
ここで、「可塑剤」としては、フタル酸ジイソノニル(DINP)を始めとするフタル酸エステル、及びフタル酸またはフタル酸エステルがアルコール、グリコール、ポリオール等と重合したポリフタル酸エステル等を用いることができる。
【0012】
また、「ブロックイソシアネート」とは、イソシアネート基(−N=C=O)を有する化合物であるイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素を有する化合物でブロックして不活性化したものであり、加熱等の一定条件下でこのブロックが外れて、イソシアネート基が水酸基を有する化合物と反応する。なお、「活性水素」とは「有機化合物中の水素原子を、炭素に直接結合しているものと、酸素、窒素などと結合しているものとにわけて、後者を反応性が強いということから活性水素とよぶことがある。」(「岩波・理化学辞典・第5版」、254頁、長倉三郎他編集、発行所・株式会社岩波書店、1998年2月20日発行)とあるように、酸素、窒素などと結合している水素をいう。
【0013】
請求項2の発明に係る層間耐チッピング材組成物は、請求項1の構成において、更に、前記可塑剤としてフタル酸エステルを含有するものである。ここで、「フタル酸エステル」としては、フタル酸ジイソノニル(DINP)を始めとして、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ビス−2−エチルへキシル(DEHP)、フタル酸ジノルマルオクチル(DnOP)、等がある。
【0014】
請求項3の発明に係る層間耐チッピング材組成物は、請求項1または請求項2の構成において、前記塩化ビニル樹脂、前記可塑剤、前記ブロックイソシアネート及び前記溶剤のいずれとも反応しない無機充填材を含有するものである。かかる「無機充填材」としては、炭酸カルシウムを始めとして、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライト、等を用いることができる。
【0015】
請求項4の発明に係る層間耐チッピング材組成物は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記可塑剤として前記ポリフタル酸エステルとフタル酸エステルとを含有し、前記ポリフタル酸エステル及び前記フタル酸エステルの含有量の合計が、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して30〜90重量部の範囲内、より好ましくは60〜80重量部の範囲内であるものである。
【0016】
請求項5の発明に係る層間耐チッピング材組成物は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記ポリフタル酸エステルの構造式が次式(1)で表されるものである。
【0017】
【化1】

【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る層間耐チッピング材組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ブロックイソシアネートと、溶剤とを含有する塩化ビニルプラスチゾル系の層間耐チッピング材組成物で、塩化ビニル樹脂中に水酸基含有塩化ビニル樹脂を25〜75重量%の範囲内で含有することから、水酸基含有塩化ビニル樹脂とブロックイソシアネートとが反応して、水酸基含有塩化ビニル樹脂の水酸基(−OH)とブロックイソシアネートのイソシアネート基(−N=C=O)とが強固なウレタン結合を形成するため、良好な耐チッピング性を得ることができる。ここで、水酸基含有塩化ビニル樹脂の含有量が25重量%未満であるか、または75重量%を超えると、耐チッピング性が低下する。
【0019】
また、可塑剤として数平均分子量が800〜1100の範囲内のポリフタル酸エステルを塩化ビニル樹脂100重量部に対して25〜75重量部の範囲内で含有することから、数平均分子量を800〜1100の範囲内とすることによって、可塑剤が中塗り塗膜・上塗り塗膜に移行し難くなり、塗装障害が防止される。数平均分子量が800未満の可塑剤または1100を超える可塑剤を使用すると、塗装障害の発生を防止することができない。また、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、ポリフタル酸エステルの含有量が25重量部未満であると塗装障害防止効果が得られず、一方、ポリフタル酸エステルの含有量が75重量部を超えると貯蔵安定性が悪くなってしまう。
【0020】
更に、塩化ビニル樹脂の平均重合度が1500〜2000の範囲内であることによって、中塗り塗装・上塗り塗装を施した後の加熱乾燥時において、優れた耐熱黄変性を得ることができる。塩化ビニル樹脂の平均重合度が1500未満であるか、平均重合度が2000を超えると、耐熱黄変性に劣る層間耐チッピング材組成物となり、中塗り塗膜・上塗り塗膜に黄変が生じてしまう。そして、かかる構成を有する請求項1に係る層間耐チッピング材組成物は、中塗り塗装・上塗り塗装を施した後の加熱乾燥時において、従来品よりも低温かつ短時間で加熱硬化させることができる。
【0021】
このようにして、優れた耐チッピング性や貯蔵安定性を有するのみならず、水性中塗り塗料や上塗り塗料をウェット・オン・ウェットで塗装した場合でもタレ・ハジキ・色ムラ等の塗装障害が発生せず、その後の加熱に対する耐熱黄変性にも優れ、更に低温かつ短時間で硬化させることができる層間耐チッピング材組成物となる。
【0022】
請求項2の発明に係る層間耐チッピング材組成物においては、更に可塑剤としてフタル酸エステルを含有することから、請求項1に係る発明の効果に加えて、フタル酸エステルは最も一般的な可塑剤で入手も容易であるため低コスト化でき、更に塩化ビニル樹脂をより一層均一に分散して安定な塩化ビニルプラスチゾルを形成することができる。
【0023】
ここで、フタル酸エステルとしては、特に、環境負荷とならない点、取り扱い易さの点、等を考えると、フタル酸エステルの中でもフタル酸ジイソノニル(DINP)を用いるのが好ましい。また、フタル酸エステルの含有量としては、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、フタル酸エステルの含有量が5重量部未満であると塩化ビニル樹脂をより一層均一に分散する効果が得られず、一方、フタル酸エステルの含有量が60重量部を超えると貯蔵安定性が悪くなってしまうため、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、フタル酸エステルを5重量部〜60重量部の範囲内で含有させることが好ましい。
【0024】
請求項3の発明に係る層間耐チッピング材組成物においては、塩化ビニル樹脂、可塑剤、ブロックイソシアネート及び溶剤のいずれとも反応しない無機充填材を含有することから、請求項1及び請求項2に係る発明の効果に加えて、層間耐チッピング材組成物の貯蔵安定性を損なうことなく乾燥後の塗膜の強度をより向上させることができ、耐チッピング性もより向上するという作用効果が得られる。
【0025】
なお、無機充填材の含有量としては、塩化ビニル樹脂100重量部に対して無機充填材が100重量部未満の場合には、乾燥後の塗膜の強度を向上させる効果が不充分となり、一方、無機充填材の含有量が200重量部を超えた場合には、層間耐チッピング材組成物の粘度が高くなり過ぎて均一に塗布することが困難となるため、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、無機充填材を100重量部〜200重量部の範囲内で含有させることが好ましい。
【0026】
請求項4の発明に係る層間耐チッピング材組成物においては、可塑剤としてポリフタル酸エステルとフタル酸エステルとを含有し、ポリフタル酸エステル及びフタル酸エステルの含有量の合計が、塩化ビニル樹脂100重量部に対して30〜90重量部の範囲内であり、本発明者らは、鋭意実験研究の結果、これによってより優れた耐チッピング性や貯蔵安定性を有し、塗装障害をより確実に防止することができ、その後の加熱に対する耐熱黄変性にもより優れ、更に低温かつ短時間で硬化させることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0027】
なお、ポリフタル酸エステル及びフタル酸エステルの含有量の合計が、塩化ビニル樹脂100重量部に対して60〜80重量部の範囲内であれば、より一層優れた耐チッピング性、貯蔵安定性、塗装障害防止効果、耐熱黄変性が得られるため、より好ましい。
【0028】
請求項5の発明に係る層間耐チッピング材組成物においては、ポリフタル酸エステルの構造式が次式(1)で表されるものであり、本発明者らは、鋭意実験研究の結果、これによってより優れた耐チッピング性や貯蔵安定性を有し、塗装障害をより確実に防止することができ、その後の加熱に対する耐熱黄変性にもより優れ、更に低温かつ短時間で硬化させることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0029】
【化1】

【0030】
すなわち、上記式(1)で示されるように、ポリフタル酸エステルとして、フタル酸と炭素数4のグリコールと炭素数9のアルコールとで構成されるポリエステル化合物を用いることによって、より一層優れた耐チッピング性、貯蔵安定性、塗装障害防止効果、耐熱黄変性が得られる層間耐チッピング材組成物となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明を実施するに際して、「ブロックイソシアネート」としては、芳香族イソシアネート(MDI、TDI、メタフェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、等)を始めとするイソシアネート化合物の一方のイソシアネート基に、水酸基を有するポリエステル、ポリエーテル、アクリル、エポキシ等を予め反応させて、残りのイソシアネート基を活性水素を有する化合物(例えばメタノール、エタノール等の脂肪族アルコール類、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾール、シクロヘキサノール等の環状アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等の水酸基含有エーテル類、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸アミル、乳酸ブチル等の水酸基含有エステル類、ダイアセトンアルコール等の水酸基含有ケトン類、アセトオキシム、ケトオキシム、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム等のオキシム類、ε−カプロラクタム、β−プロピオラクタム等のラクタム類、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル等の活性メチレン類、ブチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン等のメルカプタン類、アセトアニリド、アクリルアミド、酢酸アミド等の酸アミド類、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のイミド類、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン等のアミン類、イミダゾール、2−エチルイミダゾール等のイミダゾール類、その他尿素類、イミン類、亜硫酸塩類、等)でブロックし不活性化したものを用いることができる。
【0032】
また、「可塑剤」としては、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ビス−2−エチルへキシル(DEHP)、フタル酸ジノルマルオクチル(DnOP)等のフタル酸エステルを始めとして、アジピン酸エステル、トリメット酸エステル、低分子ポリエステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル、更にはフタル酸またはフタル酸エステルがアルコール、グリコール、トリオール、ポリオール等と重合したポリフタル酸エステル、等を用いることができる。
【0033】
更に、「溶剤」としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素若しくはこれらの混合物、その他の石油混合系溶剤、アルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、等を用いることができる。また、「無機充填材」としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライト、等を用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明に係る層間耐チッピング材組成物について、実施例を挙げて具体的に説明する。本発明の実施例に係る層間耐チッピング材組成物においては、塩化ビニル樹脂として、三種類の有機化合物を使用した。すなわち、水酸基含有塩化ビニル樹脂であるヴィテック(株)製の商品名「P−100」(水酸基価12mgKOH/g、重合度1400、以下「塩化ビニル樹脂A」という。)、日本ゼオン(株)製の商品名「39J」(酢酸ビニル7重量%含有、重合度2000、以下「塩化ビニル樹脂B」という。)、日本ゼオン(株)製の商品名「103ZX」(酢酸ビニル3重量%含有、重合度1000、以下「塩化ビニル樹脂C」という。)である。
【0035】
また、可塑剤としては、フタル酸エステルとしてのフタル酸ジイソノニル(DINP)、及びポリフタル酸エステルとしての次式(1)で示されるポリエステル化合物(X=2であって数平均分子量Mn=858のものと、X=3であってMn=1078のもの)の三種類を使用した。なお、次式(1)において、X=2の場合には理論的分子量=858となり、X=3の場合には理論的分子量=1078となるが、実際の製品においては部分的に結合が切れて分子量が小さくなったり、逆に部分的に余分に結合して分子量が大きくなったりしたポリフタル酸エステルが混在し得るため、数平均分子量Mnは800〜1100の範囲内となる。
【0036】
【化1】

【0037】
更に、ブロックイソシアネートとしては、ジイソシアネート化合物としてのジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の一方のイソシアネート基にポリオール系ポリエステルを予め反応させて、残りのイソシアネート基を活性水素を有する化合物としてのメチルエチルケトンオキシムでブロックして不活性化したものを使用した。また、溶剤としては、石油系混合溶剤である新日本石油(株)製の商品名「0号ソルベント」を使用した。更に、無機充填材としては、炭酸カルシウムを用いている。
【0038】
本発明に係る層間耐チッピング材組成物の実施例1〜実施例4の各配合組成を、表1の上段に示す。なお、配合比は、いずれも重量部で表されている。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の上段に示されるように、実施例1〜実施例4の各配合は、いずれも塩化ビニル樹脂A,B,C中に水酸基含有塩化ビニル樹脂(塩化ビニル樹脂A)を25重量%の割合で含有し、可塑剤として、実施例1は、数平均分子量(Mn)が858のポリフタル酸エステルを、塩化ビニル樹脂A,B,Cの合計100重量部に対して28.6重量部の割合で含有し、実施例2は、数平均分子量が1078のポリフタル酸エステルを、塩化ビニル樹脂A,B,Cの合計100重量部に対して28.6重量部の割合で含有している。
【0041】
また、実施例3は、数平均分子量(Mn)が858のポリフタル酸エステルを、塩化ビニル樹脂A,B,Cの合計100重量部に対して71.4重量部の割合で含有し、実施例4は、数平均分子量が1078のポリフタル酸エステルを、塩化ビニル樹脂A,B,Cの合計100重量部に対して71.4重量部の割合で含有している。更に、実施例1〜実施例4の各配合は、いずれも塩化ビニル樹脂A,B,Cの平均重合度が1600であり、かつ、ブロックイソシアネートを含有している。したがって、実施例1〜実施例4の各配合は、いずれも、本発明の請求項1に係る条件を満たしている。
【0042】
また、実施例1〜実施例4の各配合は、いずれも可塑剤としてフタル酸エステルとしてのフタル酸ジイソノニル(DINP)を含有し、塩化ビニル樹脂、可塑剤、ブロックイソシアネート及び溶剤のいずれとも反応しない無機充填材として、炭酸カルシウムを含有しており、更に、ポリフタル酸エステル及びフタル酸エステルの含有量の合計が、塩化ビニル樹脂A,B,Cの合計100重量部に対して78.6重量部である。したがって、実施例1〜実施例4の各配合は、いずれも、本発明の請求項2,3,4,5に係る条件を満たしている。
【0043】
これらの実施例1〜実施例4の各配合による層間耐チッピング材組成物と比較するために、比較例として比較例1〜比較例10の各配合による組成物をも作製した。比較例1〜比較例10の各配合組成を、表2の上段に示す。なお、配合比は、いずれも重量部で表されている。
【0044】
【表2】

【0045】
表2の上段に示されるように、比較例1及び比較例2の配合においては、塩化ビニル樹脂として塩化ビニル樹脂A,Cのみを使用しており、重合度が2000と最も大きい塩化ビニル樹脂Bを使用していない結果、平均重合度が1200であり、比較例9及び比較例10の配合においては、塩化ビニル樹脂A,B,Cを全て使用しているものの、塩化ビニル樹脂Bの配合比が小さい結果、平均重合度が1350であり、いずれも本発明の請求項1に係る「塩化ビニル樹脂の平均重合度が1500〜2000の範囲内」という条件を満たしていない。
【0046】
また、表2の上段に示されるように、比較例3の配合においては、塩化ビニル樹脂として塩化ビニル樹脂B,Cのみを使用しており、塩化ビニル樹脂A(水酸基含有塩化ビニル樹脂)を使用していないため、本発明の請求項1に係る「塩化ビニル樹脂中に水酸基含有塩化ビニル樹脂を含有し」という条件を満たしていない。更に、比較例4の配合においては、可塑剤としてフタル酸エステルとしてのフタル酸ジイソノニル(DINP)しか含有していないため、本発明の請求項1に係る「可塑剤として数平均分子量が800〜1100の範囲内のポリフタル酸エステルを含有し」という条件を満たしていない。
【0047】
また、表2の上段に示されるように、比較例5の配合においては数平均分子量(Mn)が858のポリフタル酸エステルを、比較例6の配合においては数平均分子量が1078のポリフタル酸エステルを、いずれも塩化ビニル樹脂A,B,Cの合計100重量部に対して78.6重量部と多く含有しているため、本発明の請求項1に係る「可塑剤として数平均分子量が800〜1100の範囲内のポリフタル酸エステルを塩化ビニル樹脂100重量部に対して25〜75重量部の範囲内で含有し」という条件を満たしていない。
【0048】
更に、表2の上段に示されるように、比較例7の配合においてはブロックイソシアネートを含有していないため、本発明の請求項1に係る「塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ブロックイソシアネートと、溶剤とを含有する」という条件を満たしていない。そして、比較例8の配合においては、数平均分子量(Mn)が858のポリフタル酸エステルを塩化ビニル樹脂A,B,Cの合計100重量部に対して21.4重量部しか含有していないため、本発明の請求項1に係る「可塑剤として数平均分子量が800〜1100の範囲内のポリフタル酸エステルを塩化ビニル樹脂100重量部に対して25〜75重量部の範囲内で含有し」という条件を満たしていない。
【0049】
このように、比較例1〜比較例10の各配合による組成物は、本発明の請求項1に係る各条件のうち、いずれか1つを満たしていないものである。これらの比較例1〜比較例10の各配合による組成物と比較して、上述した本発明の実施例1〜実施例4に係る層間耐チッピング材組成物の性能を評価した。すなわち、表1の下段及び表2の下段に示されるように、耐チッピング性、塗装障害、耐熱黄変性、貯蔵安定性の各項目についての評価を実施した。
【0050】
具体的には、下塗り(電着)塗装した鋼板に、実施例1〜実施例4の層間耐チッピング材組成物及び比較例1〜比較例10の組成物をそれぞれスプレー塗布して、その上からウェット・オン・ウェットで水性中塗り塗料、水性ベース塗料及び上塗り塗料を塗布した後に、130℃で15分間乾燥したものを試験片として、耐チッピング性試験、塗装障害発生試験及び耐熱黄変性試験を実施した。また、実施例1〜実施例4の層間耐チッピング材組成物及び比較例1〜比較例10の組成物をそれぞれ容器に入れて、貯蔵安定性を試験した。
【0051】
耐チッピング性は、ナット落下重量20kg以上でもチッピングが生じない場合に○、ナット落下重量20kg未満でチッピングが生じた場合には×と判定した。また、塗装障害については、試験片を観察して、タレ・ハジキ・色ムラ等の異常がない場合には○、異常がある場合には×と判定した。耐熱黄変性は、試験片を160℃で30分間保持する加熱処理を2回繰り返した後の水性中塗り塗料の塗膜のΔb値(黄変度)が1.0未満の場合に○、1.0以上の場合には×と判定した。
【0052】
更に、貯蔵安定性については、40℃で10日間保存した後の粘度変化率が30%未満の場合に○、30%以上の場合には×と判定した。試験方法としては、初期粘度については、粘度測定器として東京計器(株)製のBH型回転粘度計を使用して、被試験組成物の温度20℃においてローターNo.7を用いて、20rpmで1分後の粘度を読み取った。また、10日後粘度については、20℃まで冷却して、初期粘度と同様にして測定した。そして、粘度変化率を次式(2)にしたがって算出した。
粘度変化率=‖10日後粘度−初期粘度‖÷初期粘度×100 ‥‥(2)
各性能試験の結果について、表1の下段及び表2の下段に示す。
【0053】
表1の下段に示されるように、本発明の実施例1〜実施例4に係る層間耐チッピング材組成物のいずれにおいても、耐チッピング性・塗装障害・耐熱黄変性・貯蔵安定性の全ての項目について○と評価されており、優れた層間耐チッピング材組成物であることが実証された。
【0054】
これに対して、表2の下段に示されるように、比較例1〜比較例10の各配合による組成物のいずれにおいても、耐チッピング性・塗装障害・耐熱黄変性・貯蔵安定性のうちいずれか1つの項目について、×の評価であった。すなわち、塩化ビニル樹脂の平均重合度が不足している比較例1、比較例2、比較例9及び比較例10の組成物においては、耐熱黄変性が劣っており、塩化ビニル樹脂中に水酸基含有塩化ビニル樹脂を含有していない比較例3、及びブロックイソシアネートを含有していない比較例7の組成物においては、強固なウレタン結合が形成されないため、耐チッピング性が劣っている。
【0055】
また、可塑剤としてポリフタル酸エステルを含有していない比較例4、及びポリフタル酸エステルの含有量が不足している比較例8の組成物においては、可塑剤が中塗り塗膜・上塗り塗膜に移行し易いため、タレ・ハジキ・色ムラ等の塗装障害が発生しており、ポリフタル酸エステルの含有量が多過ぎる比較例5及び比較例6の組成物においては、貯蔵安定性に劣るという評価結果となった。
【0056】
以上説明したように、本発明の実施例1〜実施例4に係る層間耐チッピング材組成物は、耐チッピング性に優れており、ウェット・オン・ウェットで水性中塗り塗料、水性ベース塗料及び上塗り塗料を塗布した場合でも塗装障害が発生せず、かつ優れた耐熱黄変性を有している。また、40℃に調整された槽内に10日間放置した後の増粘率が低いことから、層間耐チッピング材組成物としての貯蔵安定性にも優れており、夏季の高温時における長期間の保存にも耐えることが分かった。
【0057】
更に、従来品の層間耐チッピング材組成物が、ウェット・オン・ウェットで水性中塗り塗料、水性ベース塗料及び上塗り塗料を塗布した場合に、加熱硬化させるためには140℃において18分間保持する工程を2回繰り返す必要があったのに対して、本発明の実施例1〜実施例4に係る層間耐チッピング材組成物は、上述したように、130℃において15分間保持するだけで加熱硬化させることができる。
【0058】
このようにして、本実施例に係る層間耐チッピング材組成物においては、優れた耐チッピング性や貯蔵安定性を有するのみならず、水性中塗り塗料や上塗り塗料をウェット・オン・ウェットで塗装した場合でもタレ・ハジキ・色ムラ等の塗装障害が発生せず、その後の加熱に対する耐熱黄変性にも優れ、更に低温かつ短時間で硬化させることができる。
【0059】
本実施例においては、塩化ビニル樹脂として、ヴィテック(株)製の商品名「P−100」(水酸基価12mgKOH/g、重合度1400)、日本ゼオン(株)製の商品名「39J」(酢酸ビニル7重量%含有、重合度2000)及び日本ゼオン(株)製の商品名「103ZX」(酢酸ビニル3重量%含有、重合度1000)を用いた場合について説明したが、「水酸基含有塩化ビニル樹脂を25〜75重量%の範囲内で含有し平均重合度が1500〜2000の範囲内」という条件を満たすものであれば、どのような塩化ビニル樹脂の組み合わせを用いても良い。
【0060】
また、本実施例においては、可塑剤として、フタル酸エステルとしてのフタル酸ジイソノニル(DINP)及びポリフタル酸エステル(数平均分子量Mn=858のもの、または数平均分子量Mn=1078のもの)のみを用いた場合について説明したが、「数平均分子量が800〜1100の範囲内のポリフタル酸エステルを塩化ビニル樹脂100重量部に対して25〜75重量部の範囲内で含有する」という条件を満たせば、可塑剤としてその他のフタル酸エステル(フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ビス−2−エチルへキシル(DEHP)、フタル酸ジノルマルオクチル(DnOP)等)を始めとして、アジピン酸エステル、トリメット酸エステル、低分子ポリエステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル、等を同時に用いることができる。
【0061】
更に、本実施例においては、ブロックイソシアネートとして、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の一方のイソシアネート基にポリオール系ポリエステルを予め反応させて、残りのイソシアネート基を活性水素を有する化合物としてのメチルエチルケトンオキシムでブロックして不活性化したものを使用した場合について説明したが、その他のブロックイソシアネートを使用することもできる。
【0062】
また、本実施例においては、無機充填材として炭酸カルシウムを使用しているが、これに限られるものではなく、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライト、等を用いることができる。
【0063】
なお、本実施例においては、層間耐チッピング材組成物をスプレー塗布して、その上からウェット・オン・ウェットで水性中塗り塗料、水性ベース塗料及び上塗り塗料を塗布する、所謂「4WET塗装」について説明したが、本発明に係る層間耐チッピング材組成物は、その上からウェット・オン・ウェットで水性中塗り塗料及び上塗り塗料を塗布する、所謂「3WET塗装」にも適用できることは言うまでもない。
【0064】
本発明を実施するに際しては、層間耐チッピング材組成物のその他の部分の構成、成分、配合、形状、数量、材質、大きさ、製造方法等についても、本実施例に限定されるものではない。
【0065】
なお、本発明の実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ブロックイソシアネートと、溶剤とを含有する塩化ビニルプラスチゾル系の層間耐チッピング材組成物であって、
前記塩化ビニル樹脂中に水酸基含有塩化ビニル樹脂を25〜75重量%の範囲内で含有し、前記可塑剤として数平均分子量が800〜1100の範囲内のポリフタル酸エステルを前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して25〜75重量部の範囲内で含有し、前記塩化ビニル樹脂の平均重合度が1500〜2000の範囲内であることを特徴とする層間耐チッピング材組成物。
【請求項2】
更に、前記可塑剤としてフタル酸エステルを含有することを特徴とする請求項1に記載の層間耐チッピング材組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル樹脂、前記可塑剤、前記ブロックイソシアネート及び前記溶剤のいずれとも反応しない無機充填材を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の層間耐チッピング材組成物。
【請求項4】
前記可塑剤として前記ポリフタル酸エステルとフタル酸エステルとを含有し、前記ポリフタル酸エステル及び前記フタル酸エステルの含有量の合計が、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して30〜90重量部の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の層間耐チッピング材組成物。
【請求項5】
前記ポリフタル酸エステルの構造式が次式(1)で表されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の層間耐チッピング材組成物。
【化1】


【公開番号】特開2010−260991(P2010−260991A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114346(P2009−114346)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】