説明

工作機械のミル主軸

【課題】ミル主軸のスピンドルに供給される切削液のドレン構造の改良を図る。
【解決手段】ミル主軸100はハウジング内に軸受16で支持されるスピンドル20と、スルークーラント通路22を有するドローバー24を備える、回転継手40,50を通る切削液Cはスルークーラント通路22へ送られるが、大量に漏れた切削液Cは、通路110を通ってシリンダ室120内のドッグ130を押し上げる。近接センサ140は、ドッグ130の近接を検知して制御装置に信号を送り、機械を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のミル主軸に関し、特にミル主軸内に供給される切削液が回転継手部から軸受部やモータに浸入することを防止するシール構造を改良した工作機械のミル主軸に関する。
【背景技術】
【0002】
図9及び図10は工作機械のミル主軸の一般的な構造を示す。
図9は、ミル主軸の構造を示す断面図、図10は要部の拡大断面図である。
全体を符号1で示すミル主軸は、ハウジング10内に前側の軸受12,14と後側の軸受16で支持されるスピンドル20を有する。スピンドル20内には工具をスピンドルに引き込んだり、押し出すドローバー24が設けてあり、スプリング26で付勢されている。ドローバー24の中心には工具に切削液を供給するためのスルークーラント通路22が形成してある。
スピンドル20の外周部にはモータのロータ30がとりつけてあり、ステータ32との間でモータを構成する。
【0003】
ドローバー24の後端部には回転側の継手40がとりつけてあり、ハウジング10側に固定される継手50との間で回転継手を構成する。
固定側の継手50の通路52から供給される切削液は回転側の継手40の通路42を介してスルークーラント通路22へ送られる。固定側の継手50と回転側の継手40は切削液の圧力によって接触する方向に力がかかっており、回転時には切削液が潤滑剤となり焼き付きを防いでいる。しかし切削液を停止させ工具交換を行うことにより、固定側の継手50と回転側の継手40の間には明らかな間隙Gが生じるので、その後切削液の吐出を開始した直後にこの間隙Gから少量の切削液の漏れが発生する。
【0004】
回転継手の構造上、この切削液の漏れを完全には防止することは困難である。
そこで、ハウジング10の上部のカバー64内に設けられるドレン室60とハウジングの外部を通ずるドレン穴62を設けて、カバー64とドローバー24の間の僅かな隙間を通して、漏れた切削液をミル主軸の外部へ排出する構成としてある。
また、切削液が軸受16やモータ部30,32へ浸入すると、軸受やモータで構成される駆動部を破損する重大な故障の原因となるので、ラビリンス装置70を配置して切削液の駆動部への浸入を防止している。
【0005】
しかしながら、図10に示すように、何らかの原因で大量の切削液Cが回転継手部からドレン室60に漏れたときには、ドレン穴62からの排出が間に合わずに、切削液Cの一部はラビリンス装置70を通過して軸受16やモータ30,32を損傷する場合がある。
【0006】
スピンドルの回転継手部から漏れる切削液が駆動部へ浸入するのを防止する機構は、下記の特許文献1にも開示されている。
【特許文献1】特開2002−321138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、回転継手部から大量の切削液が漏水したときにも、これを直ちに検知して機械の運転を停止して、切削液がスピンドルの軸受やモータ等の駆動機構に浸入することを確実に防止する装置を備えた工作機械のミル主軸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明のミル主軸は、主軸のハウジング内に軸受を介して支持されるスピンドルと、スピンドルを直接駆動するハウジング内に配設されるモータと、スピンドル内に摺動可能に挿入されるドローバーと、ドローバーの軸心に設けられて切削液を供給するスルークーラント通路と、ドローバーの後端部側に配設されて固定側から供給される切削液を回転しているスピンドル側へ送る回転継手を備え、回転継手から漏れる切削液の通路内に設けられるシリンダ室と、シリンダ室に摺動自在に挿入されるピストン状のドッグと、ドッグの移動を非接触で検知する近接センサを備えるものである。
【0009】
そして、回転継手から漏れる切削液を案内する通路と、通路に設けられるシリンダ室と、シリンダ室に挿入されるドッグを通路に向けて付勢するコイルスプリングを備え、回転継手から漏れる切削液がモータ側へ浸入するのを防止するラビリンス装置を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の工作機械のミル主軸にあっては、回転継手部から漏れる切削液は、その圧力によりドッグを移動させ、このドッグの移動を近接センサが検知して機械の運転を止める。この作用により切削液の駆動部への浸入は確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の工作機械のミル主軸の構造を示す断面図、図2、図3は要部の断面図、図4は要部の平面図である。
全体を符号100で示す本発明の工作機械のミル主軸は、ハウジング10内に軸受12,14,16で支持されるスピンドル20を備える。ドローバー24及びスプリング26とスルークーラント通路22、ロータ30、ステータ32の構成は、図5以下で説明したものと同様であるので、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0012】
このミル主軸100にあっても、固定側の継手50とドローバー24の端部にとりつけた回転側の継手40によって回転継手を構成してある。
固定側の継手50と回転側の継手40の間に間隙Gが形成されることも、先に説明したミル主軸と同様である。
また漏れた切削液をミル主軸の外部へ排出する機構としてドレン室60及びドレン穴62を設けることも、先に説明したミル主軸と同様である。
【0013】
本発明のミル主軸100は、ハウジング10の端部にとりつけられるカバー部材64の内側と回転側の継手40の間に形成される切削液を受け入れる空間66から半径方向に延びる通路110を有する。
この半径方向の通路110の外側は埋栓112により封止される。
【0014】
そして、カバー部材64には、この通路110に開口するシリンダ室120が設けられる。このシリンダ室120には、ピストン状のドッグ130が摺動自在に挿入される。
このドッグ130は押え部材136で抜け出しが防止され、押え部材136とドッグ130の間にはコイルスプリング132が配設される。押え部材136はビス138等で相手部材に固定される。
【0015】
そして、このドッグ130に対向する位置に近接センサ140がとりつけてある。この近接センサ140は、ドッグ130が近接すると、これを非接触で検知して電気信号を発して、ライン142を通じて制御装置へ通報する。
【0016】
図5(a)、(b)は、本発明の作用を示す。
図5の(a)は、回転継手部から漏れる切削液の量が少なく、漏れた切削液はカバー64とドローバー24の間の僅かな隙間を通り、ドレン室60、ドレン穴62を経由して外部へ排出され、通路110内に切削液が浸入していない状態を示す。
図5の(b)は、回転継手部から漏れ出す切削液Cが大量となり、カバー64とドローバー24の間の僅かな隙間を通過可能な単位時間当たりの量を超えたため、切削液が通路110内に浸入・充満した状態を示す。通路内に充満した切削液は、隙間を通過する切削液の配管抵抗分の圧力を有する。
【0017】
通路110に連通するシリンダ部120に充満した切削液Cは、コイルスプリング132のバネ力に抗してドッグ130を高さ寸法Hだけ押し上げる。
近接センサ140は、このドッグ130の上昇移動を検知すると、ライン142を介して信号を制御装置へ送る。
制御装置は、この近接センサ140からの信号を受けると、切削液の異常漏れがあるものと判断して、直ちに機械を停止して、軸受けやモータの損害を防止する。
【0018】
図6は、本発明の他の実施例を示す要部の断面図である。
ミル主軸100Aは、前述したミル主軸100と同様に回転継手から漏れる切削液を溜めるドレン室60を有し、ドレン穴62から切削液を排出する。
そして、カバー部材64は、内側に設けられる切削液を受け入れる空間66に連結する軸線方向の通路111と通路111から半径方向に延びる通路110を有する。
そして、通路111と通路112の開口部は埋栓112,114で封止される。
通路110に連結するシリンダ室120にはピストン状のドッグ130が挿入される。回転継手からの切削液の漏出が、カバー64とドローバー24の間の僅かな隙間を通過可能な単位時間当たりの量を超えると、通路110、シリンダ室120内の切削液の圧力が上昇し、ピストン状のドッグ130をコイルスプリング132に抗して押し上げる。
ドッグ130の軸線上に配置された近接スイッチ140は、このドッグ130の近接を検知して、電気信号を制御装置側へ送り出す。
【0019】
図7は、本発明の更に他の実施例を示す。
このミル主軸100Bも第6図の実施例のミル主軸100Aと同様に切削液の通路111、110を有し、通路110に連通するシリンダ室120を備える。シリンダ室120に挿入されるピストン状のドッグ130の軸線とは直交方向に近接スイッチ140を設ける。
近接スイッチ140はドッグ130の移動を検知して信号を制御装置に送る。
【0020】
図8は、本発明の更に他の実施例を示す。
このミル主軸100Cはカバー部材64に設けられる切削液を受け入れる空間64から半径方向に延びる通路110を有し、通路110の外側の開口部にシリンダ室120が設けられる。
シリンダ室120にはピストン状のドッグ130が挿入され、適宜な機構により抜け止めが防止される。
ピストン状のドッグ130がコイルスプリング132に抗して突出すると、ドッグ130の軸線に直交する方向に配設した近接スイッチ140は、この移動を検知して制御装置へ信号を送る。
【0021】
本発明は以上のように、安価で簡素な機構によって、切削液の大量な漏れを検知し、大事に至る前に機械を停止することができる。
【0022】
そこで、主軸内部に設けられる回転継手部から切削液が大量に漏れたときにも、切削液が軸受やモータ等の駆動部に浸入することを防止し、損傷を最少限に押えることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の工作機械のミル主軸の断面図。
【図2】要部の断面図。
【図3】要部の断面図。
【図4】本発明の機能を示す説明図。
【図5】要部の平面図。
【図6】要部の断面図。
【図7】他の実施例の要部の断面図。
【図8】他の実施例の要部の断面図。
【図9】工作機械のミル主軸の構造を示す断面図。
【図10】要部の拡大断面図。
【符号の説明】
【0024】
10 ハウジング
12,14,16 軸受
20 スピンドル
30 ロータ
32 ステータ
40,50 回転継手
70 ラビリンス装置
100 ミル主軸
110 切削液通路
130 ドッグ
140 近接センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に装備されるミル主軸であって、
主軸のハウジング内に軸受を介して支持されるスピンドルと、スピンドルを直接駆動するハウジング内に配設されるモータと、スピンドル内に摺動可能に挿入されるドローバーと、ドローバーの軸心に設けられて切削液を供給するスルークーラント通路と、ドローバーの後端部側に配設されて固定側から供給される切削液を回転しているスピンドル側へ送る回転継手を備え、
回転継手から漏れる切削液の通路内に設けられるシリンダ室と、シリンダ室に摺動自在に挿入されるピストン状のドッグと、ドッグの移動を非接触で検知する近接センサを備える工作機械のミル主軸。
【請求項2】
回転継手から漏れる切削液を案内する通路と、通路に設けられるシリンダ室と、シリンダ室に挿入されるドッグを通路に向けて付勢するコイルスプリングを備える請求項1記載の工作機械のミル主軸。
【請求項3】
回転継手から漏れる切削液がモータ側へ浸入するのを防止するラビリンス装置を備える請求項1又は2記載の工作機械のミル主軸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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