説明

工具ホルダ

【課題】面倒な調整作業に頼ることなくかつ基本の構造に変更を加えることなく、簡単かつ高精度に工具の芯出しを行うことができるようにする。
【解決手段】軸心部に工具Tのストレートシャンク部T1が挿入される工具挿入孔15を有しかつ先端部に工具挿入孔15と同心をなすテーパ穴16を有するホルダ本体11と、このホルダ本体11のテーパ穴16に嵌合される外周テーパ部を有するコレット20と、ホルダ本体11の先端部に螺合され、コレット20を前記テーパ穴16に押込んで縮径させる締付ナット26とを備えた工具ホルダ10において、前記ホルダ本体の工具挿入孔15内に、工具Tのストレートシャンク部T1をわずかのクリアランスでガイドするブッシュ30を嵌着し、コレット20とブッシュ30との2点で工具Tを保持して、工具Tを高精度に芯出しする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル、リーマ、エンドミル等の棒状工具を把持するための工具ホルダに係り、より詳しくは工具のストレートシャンク部を把持するコレットを備えた工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の工具ホルダは、一般に、軸心部に工具のストレートシャンク部が挿入される工具挿入孔を有しかつ先端部に前記工具挿入孔と同心をなすテーパ穴を有するホルダ本体と、該ホルダ本体のテーパ穴に嵌合される外周テーパ部を有するコレットと、前記ホルダ本体の先端部に螺合され、前記コレットを前記テーパ穴に押込んで縮径させる締付ナットとを備えた構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ドリルやリーマによる穴加工あるいはエンドミルによる溝加工においては、加工すべき穴や溝の深さが深くなると、当然に使用する工具の長さも長くなる。しかるに、上記した一般の工具ホルダによれば、コレットの把持代がわずか(15mm程度)であるため、長さの長い工具、いわゆるロングツールを把持する場合に、該工具に振れが生じ易くなり、所望の加工精度を確保することが困難になる、という問題があった。
【0004】
なお、一部では、ホルダ本体を、コレットを保持するコレットホルダと工作機械の主軸(スピンドル)に取付けられるテーパシャンクとからなる分割構造とし、両者の接合部に介装したジャッキボルトにより工具の芯ずれを修正可能とした工具ホルダが開発されている(特許文献2)。しかし、このような工具ホルダでは、工具先端の振れを測定しながらジャッキボルトを操作するという面倒な調整作業が必要になることに加え、分割構造としたことによるホルダ本体の製作コストの上昇が避けられず、操作性およびコスト面で問題を残すこととなる。
【特許文献1】特開2004−255474号公報
【特許文献2】実開平6−50712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した技術的背景に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、面倒な調整作業に頼ることなくかつ基本の構造に変更を加えることなく、簡単かつ高精度に工具の芯出しを行うことができ、もってロングツールによる高精度加工に向けて有用な工具ホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、軸心部に工具のストレートシャンク部が挿入される工具挿入孔を有しかつ先端部に前記工具挿入孔と同心をなすテーパ穴を有するホルダ本体と、該ホルダ本体のテーパ穴に嵌合される外周テーパ部を有するコレットと、前記ホルダ本体の先端部に螺合され、前記コレットを前記テーパ穴に押込んで縮径させる締付ナットとを備えた工具ホルダにおいて、前記ホルダ本体の工具挿入孔に、工具のストレートシャンク部をわずかのクリアランスでガイドするブッシュを、前記コレットから後端側へ離して嵌着したことを特徴とする。
【0007】
上記のように構成された工具ホルダにおいては、コレットによる把持部位とブッシュによるガイド部位との2箇所(2点)で工具が支持されるので、工具を芯出しするための特別の操作や構造の改良は不要になる。
【0008】
本発明において、工具のストレートシャンク部とブッシュとのクリアランスは、あまり小さいとブッシュに対する工具の挿入が困難になり、逆に大きすぎると2点支持による工具の芯出し精度が低下するので、工具のシャンク径のはめあいの寸法許容差h8に対し、ブッシュの内径の寸法許容差を+0.03〜+0.08mmに設定するのが望ましい。
【0009】
本発明において、上記ブッシュは、工具挿入側端部の内周縁部をテーパ形状に面取りするのが望ましく、これにより、ブッシュに対する工具が挿入が円滑となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る工具ホルダによれば、コレットとブッシュとによる2点支持により工具が高精度に芯出しされるので、ロングツールによる高精度加工に向けて極めて有用となる。また、面倒な調整作業を必要とせず、しかも基本の構造に変更を加える必要がないので、操作性およびコスト面での負担が増加することはなく、その利用価値は大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の一つの実施形態としての工具ホルダを示したものである。本実施形態としての工具ホルダ10は、マシニングセンタに装着して用いられるもので、そのホルダ本体11は、工具交換に供される大径の被把持部12の後端側にマシニングセンタの主軸(スピンドル)1の先端部に結合されるシャンク部13を備えると共に、該被把持部12の先端側に後述のコレット20を保持するコレットホルダ部14を備えている。前記シャンク部13は、ここでは二又状をなしており、その内面には、主軸1内を延ばした引込み装置(図示略)に装備されたボール2と係合する複数の凹部13aが形成されている。前記ボール2は、半径方向へ移動可能となっており、ホルダ本体11は、そのシャンク部13に形成した凹部13aに前記ボール2を受入れることで主軸1内に引込まれ、主軸1に対して同軸に位置決め固定される。
【0013】
一方、上記ホルダ本体11の被把持部12およびコレットホルダ部14の軸心部には、工具Tのストレートシャンク部T1が挿入される工具挿入孔15が貫通して設けられると共に、コレットホルダ部14の先端部には、先端側から次第に縮径して前記工具挿入孔15に連接するテーパ穴16が設けられている。
【0014】
上記工具挿入孔15の、被把持部12内に位置する後端部分には、所定長さにわたって雌ねじ部17が形成されており、この雌ねじ部17には、工具挿入孔15に挿入した軸部材(ツールドライバ)18の後端部外周に形成した雄ねじ部19が螺合されている。ツールドライバ18の後端部には、シャンク部13側から挿入された回螺治具(図示略)の先端部を受入れるソケット部18aが設けられており、ツールドライバ18は、そのソケット部18aに係合させた回螺治具による回転に応じて、前記雌ねじ部17に沿って工具挿入孔15内を螺進退するようになっている。このツールドライバ18は、工具Tの刃部T2の、工具ホルダ10からの突出し代を調整する役割をなすもので、その先端部には、工具Tのストレートシャンク部T1の後端を当接させるストッパ部18bが設けられている。
【0015】
コレット20は、図2によく示されるように、外周面に環状溝21を有するヘッド部22とこのヘッド部22から後方へ延ばされた外周テーパ部23とを備えている。このコレット20には、ヘッド部22の端面から外周テーパ部23の端面近傍まで軸方向に延びる複数(ここでは、6つ)第1スリット24と外周テーパ部23の端面からヘッド部22の近傍まで軸方向に延びる複数(ここでは、6つ)の第2スリット25とが円周方向に交互に等配して形成されている。前記外周テーパ部23の傾斜角度は、前記コレットホルダ部14のテーパ穴16の傾斜角度と同一に設定されており、コレット20は、その外周テーパ部23が後述の締付ナット26にて前記テーパ穴16に押込まれることで、その径を縮小させるようになっている。
【0016】
締付ナット26は、その内周面の一端側に前記ホルダ本体11のコレットホルダ部14の先端部外周に形成された雄ねじ部27に螺合する雌ねじ部28を有すると共に、その内周面の中間部位に前記コレット20のヘッド部22に形成された環状溝21に係合する環状突起29を有している。前記環状突起29は、図3に示されるように、内部にだ円形状の開口Sが形成されるようにその輪郭が設定されている。前記環状突起29は、その長円形状の開口Sの長軸側の口部を利用して、コレット20に対して締付ナット26を適宜傾動させることで、コレット20の肩部を乗越えて環状溝21に乗り移ることができ、これによりコレット20と締付ナット26とはサブアセンブリされる。
【0017】
本実施の形態において、上記ホルダ本体11の工具挿入孔15内には、ブッシュ30が嵌着されている。ブッシュ30は、前記ツールドライバ18の移動範囲を外れた部分に、コレット20から後端側へ離して配置されている。このブッシュ30の内径は、工具Tのストレートシャンク部T1との間にわずかのクリアランスを確保する寸法に形成されている。このクリアランスは、工具Tのシャンク径のはめあいの寸法許容差がh8である場合、ブッシュ30の内径の寸法許容差を+0.03〜+0.08mmに設定する程度の大きさとするのが望ましく、これにより、工具Tのストレートシャンク部T1は、ほとんどガタなくブッシュ30にガイドされる。このブッシュ30はまた、図4に示されるように、工具挿入側端部の内周縁部に面取りによる斜面31を設けている。
【0018】
上記ホルダ本体11の工具挿入孔15に対するブッシュ30の固定方式は任意であり、接着剤を用いて固定しても、圧入固定しても、あるいはねじ部を介して螺着してもよい。また、このブッシュ30の材種も任意であり、金属製、セラミックス製、樹脂製等とすることができる。ただし、耐摩耗性およびコスト面を考慮すれば、金属製特に鋼製(熱処理品)とするのが望ましい。また、このブッシュ30の内周面は、工具Tの挿入を円滑にするため、できるだけ細かい面粗さとするのが望ましい。
【0019】
上記のように構成された工具ホルダ10に工具Tを把持させるには、先ず、コレット20およびブッシュ30を通してホルダ本体11の工具挿入孔15に工具Tのストレートシャンク部T1を挿入し、該ストレートシャンク部T1の後端がツールドライバ18の先端のストッパ部18bに当接するまで工具Tを押込む。この時、ツールドライバ18を回螺治具により回転させて工具Tの、工具ホルダ10からの突出し長さを調整する。次に、締付ナット26をコレットホルダ部14の先端部の雄ねじ部27にねじ込む。すると、締付ナット26の環状突起29に押されて、コレット20がコレットホルダ部14のテーパ穴16内に押込まれ、これによりコレット20が縮径して工具Tがコレット20を介して工具ホルダ10内に把持される。
【0020】
しかして、上記工具ホルダ10に対する工具Tの把持に際しては、工具Tのストレートシャンク部T1の一部がブッシュ30によってガイドされるので、工具Tは、コレット20による把持部位とブッシュ30によるガイド部位との2箇所(2点)で支持された状態となり、これにより、工具Tは高精度に芯出しされる。したがって、工具Tがロングツールで、しかも工具ホルダ10からの突出し長さが長い場合でも、工具Tの刃部T2の先端の振れが抑制され、結果として深穴の加工を高精度に行うことができるようになる。本実施形態において特に、コレット20が、すり割り方向を逆にする第1スリット25と第2スリット26とを交互に配置した構造となっているので、前記テーパ穴16内への押込みに応じて平均的に縮径し、これにより工具Tはより高精度に芯出しされる。
【0021】
因みに、工具Tとしてストレートシャンク部T1の直径が5mmのサイズのドリルを用い、上記実施形態の工具ホルダ10に、このドリルを突出し代100mmにして把持させて、ドリル先端(工具先端)の振れを測定したところ、0.01mm以下であった。この値は、一般の工具ホルダの振れが突出し代100mm当り0.03mm程度であるのに比べて著しく小さく、本工具ホルダ10は、ロングツールによる高精度加工に向けて極めて有用であることが明らかである。
【0022】
ここで、上記マシニングセンタの主軸1に対する工具ホルダ10の結合構造は任意であり、例えば、図5に示されるように、ホルダ本体11の大径の被把持部12に対し、一端にプルスタッド40を有するテーパシャンク41を連接し、主軸1内を延ばした図示を略す引込み装置にプルスタッド40を係止させてホルダ本体11を主軸1内に引込み、該主軸1のテーパ穴3にテーパシャンク41を嵌合させる構造であってもよい。この場合は、テーパシャンク41の軸心部に前記被把持部12内の工具挿入孔15に通じる貫通孔42を穿設し、該貫通孔42を通してツールドライバ18の後端部のソケット部18aに回螺治具を係合させるようにする。なお、この実施形態では、ホルダ本体11のコレットホルダ部14とその内部の構造に全く変更がないので、図1に示した部分と同一部分には同一符号を付している。
【0023】
なお、上記実施形態においては、マシニングセンタの主軸1に装着して用いられるものとして本工具ホルダ10を説明したが、本工具ホルダ10は、ボール盤、フライス盤等の汎用の工作機械に装着して用いられる構成としてもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の1つの実施形態としての工具ホルダの全体的構造を示す断面図である。
【図2】本工具ホルダに装備されるコレットの構造を示したもので、(a)は断面図、(b)は正面図である。
【図3】本工具ホルダに装備される締付ナットの構造を示す正面図である。
【図4】本工具ホルダに装備されるブッシュの構造を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態としての工具ホルダの全体的構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 マシニングセンタの主軸
10 工具ホルダ
11 ホルダ本体
14 コレットホルダ部
15 工具挿入孔
16 テーパ穴
20 コレット
21 外周テーパ部
26 締付ナット
30 ブッシュ
T 工具
T1 ストレートシャンク部
T2 刃部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心部に工具のストレートシャンク部が挿入される工具挿入孔を有しかつ先端部に前記工具挿入孔と同心をなすテーパ穴を有するホルダ本体と、該ホルダ本体のテーパ穴に嵌合される外周テーパ部を有するコレットと、前記ホルダ本体の先端部に螺合され、前記コレットを前記テーパ穴に押込んで縮径させる締付ナットとを備えた工具ホルダにおいて、前記ホルダ本体の工具挿入孔に、工具のストレートシャンク部をわずかのクリアランスでガイドするブッシュを、前記コレットから後端側へ離して嵌着したことを特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
工具のシャンク径のはめあいの寸法許容差h8に対し、ブッシュの内径の寸法許容差を+0.03〜+0.08mmに設定したことを特徴とする請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項3】
ブッシュの、工具挿入側端部の内周縁部をテーパ形状に面取りしたことを特徴とする請求項1または2に記載の工具ホルダ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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