説明

巨大クラゲの細断装置

【課題】 既出願発明の構成が複雑であったので、本願発明は実施を容易にするための改良発明である。
【構成】 海流に乗って遊泳してくる巨大クラゲをガイド網により細断装置入口に誘導し、集めた巨大クラゲを細断する細断装置において、前記細断装置は円筒状の枠体と、前記枠体を海中の適宜の深さで固定する固定手段と、前記枠体内部で該枠体の円筒の中心軸と直交する水平軸の回りを回転自在に回転する回転軸と、前記回転軸に設けた巨大クラゲを細断する切断刃と、前記回転軸を回転駆動する海流の流れエネルギーを利用した水車とを具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エチゼンクラゲ等の巨大クラゲを細片に切断する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国の沿岸では、広い地域に渡って、エチゼンクラゲのような巨大クラゲが大量に回遊し、甚大な被害を起こしています。従来からクラゲに対する被害をなくす方法がこれまでにいくつか提案されてきました。従来のクラゲによる被害を食い止める為の方法及び装置は、主に小さいクラゲに対する方法や装置であり、巨大なエチゼンクラゲ(以下、単に巨大クラゲ又はエチゼンクラゲという。)に対する提案は数多くありません。これは巨大クラゲが日本近海に大量に出現するようになったのは最近だからです。なお、小さいクラゲに対する従来方法は、そのままでは巨大クラゲに適用することは困難です。それは、巨大クラゲが従来の小さなクラゲに比べて格段に大きく、大量に来遊するからです。
【0003】
以下にエチゼンクラゲの排除又は殺傷する従来方法(又は装置)について述べます。従来方法には定置網等の網の中にエチゼンクラゲの入網を阻止する方法、入網したエチゼンクラゲを網の外に逃がす方法、エチゼンクラゲを駆除(殺傷して駆除)する方法等があります。前の2つの方法は相当数の提案がありますが、直接本願発明との関連性が少ないので、最後のエチゼンクラゲを駆除する従来方法について説明致します。
【0004】
まず、従来方法1としては、非特許文献1に記載されているように、エチゼンクラゲが遊泳している海域で筒状の網を2槽の船で曳いて廻る方法です。筒状の網は入り口の開口が大きく奥に行くにつれて細くなり、一番奥に格子状のワイヤが張ってあって、網の中に入ったエチゼンクラゲがバラバラに切り刻まれる仕組みになっています。網の長さは25mで、速度を3ノット(約5.6km/時間)以上で曳いた試験で良好な結果が得られたという報告があります。
【非特許文献1】独立行政法人・水産総合試験センターのレポート
【0005】
また、従来方法2として、例えば、定置網に入ったクラゲを切断して駆除する方法です。具体的には、約2メートル四方の枠内にステンレス製のカッターを格子状に取り付けてある器具を定置網の近くの海上に浮かべて設置し、定置網に入ったエチゼンクラゲを器具の上に落としてエチゼンクラゲを切断し、駆除する方法が提案されています。
【非特許文献2】福井県水産試験場のレポート
【0006】
しかし、エチゼンクラゲが日本近海を回遊する時期は9月から12月頃までであり、定置網は8月末から翌年の1月末まで操業しており、被害を受ける期間は長期間であります。しかも、日本近海に来遊してくるエチゼンクラゲの数は多いときは1億匹とも言われております。従って、従来方法1や従来方法2ではエチゼンクラゲを全て駆除するために、莫大な費用と労力が必要であり、問題でありました。なお、日本近海には巨大クラゲとしてはエチゼンクラゲの他にミズクラゲがおります。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は上記の問題を解決するための発明をして、既に出願をしております。
【特許文献1】特許願、特願2009−004266しかし、上記出願の発明は構成が少々複雑であり、実施上問題が有ります。本願発明はこのような状況下でなされたものであり、実施を容易にするための改良発明であります。従って、本願発明の課題は、実施を容易にするための構成を提供することであります。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、上記課題を解決するために以下の構成を採用している。即ち、
請求項1に記載の発明は、海流に乗って遊泳してくる巨大クラゲをガイド網により細断装置入口に誘導し、集めた巨大クラゲを細断する細断装置において、前記細断装置は円筒状の枠体と、前記枠体を海中の適宜の深さで固定する固定手段と、前記枠体内部で該枠体の円筒の中心軸と直交する水平軸の回りを回転自在に回転する回転軸と、前記回転軸に設けた巨大クラゲを細断する切断刃と、前記回転軸を回転駆動する海流の流れエネルギーを利用した水車とを具備したことを特徴とします。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記切断刃は、半円弧状に形成し、両端を前記回転軸に設けた円盤に固設したことを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記切断刃は、2枚又は3枚の刃を回転方向に等角度で前記回転軸に設けた円盤に固設したことを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載の発明において、前記枠体は樹脂体で構成し、該枠体は円筒の一側に中心軸に対して垂直な切断面を有し、他側に該中心軸に対して斜めに切断した切断面を有する形状に形成し、前記一側に前記ガイド網と接続する接続部を設け、前記他側に巨大クラゲの細片を一定方向に放出するための放出ガイドを設けたことを特徴としている。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4に記載の発明において、前記固定手段は、前記枠体の接続部を前記ガイド網に接続すると共に、前記枠体の下側にロープを介して沈子を接続し、該枠体の上側にロープを介して浮子を接続し、該浮子が海中に位置するように固定したことを特徴としている。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5記載の発明において、前記水車は、2枚又は3枚のブレードを有するサボニウス型水車で構成したことを特徴としている。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項45記載の発明において、前記水車は、2個の水車を前記枠体の両側に配置し、該枠体を貫通する連通孔を設けて、前記回転軸の両側端と前記各水車の回転駆動軸とを接続したことを特徴としている。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項45記載の発明において、前記細断装置は、前記刃の最大外周速度を毎秒0.5〜3.0メートルの速度としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によれば、枠体を円筒状に構成したことにより、該装置の構成がシンプルになり、従って製作も容易になるという効果が得られる。又、巨大クラゲの枠体内部への移動が円滑に行われ、能率が向上するという効果が得られる。更に、該装置の円筒の横方向成分の海水流れに対して抵抗が小さくなるので、安定性が向上するという効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<実施形態>
図1は本願発明の実施形態1の要部の正面図を示し、図2は全体構成を示す。図2(A)は構成全体の上平面図、図2(B)は側面図を示す。図2において、大域ガイド網11は海流に乗って遊泳してくる巨大クラゲを広範囲の海域から集め、局所ガイド網12は大域ガイド網11で集めた巨大クラゲを細断装置13の入口に誘導する。細断装置13は枠体14、枠体14の内部に設けられた切断刃を有する回転軸21、回転軸21を海流エネルギー利用して回転駆動する水車15、枠体を海中の所定の深さ位置に固定する浮子16、沈子17から構成されている。なお、図中の矢印は海流の流れ方向を示す。
【0018】
図1において、枠体14は樹脂製で構成する。枠体14の略中心を通り、枠体14の中心軸と直交する水平軸の枠体14の両壁に回転軸21が回転可能な大孔22を設ける。大孔22を枠体14の内側と外側から挟むように樹脂製部材23a、23bを枠体14に固着して設け、大孔22と同じ中心位置に僅かに小さい径の孔を設けて軸受け部23を構成する。回転軸21の内側位置に切断刃31を固定するための円盤25を固設し、また、回転軸21の外側端に水車15を固定するための円盤26を固設する。更に、枠体14の上側面に浮子16を接続するロープ固定具27を設け、枠体14の下側面に沈子17を接続するロープ固定具28を設ける。なお、枠体14の前側に局所ガイド網12と接続する接続部14aを設けて流れ方向の位置を固定している。
【0019】
図3(A)は円筒状枠体14の平面図を示し、図3(B)は側面図を示す。図3において、枠体14の前端面(図の左側面)14aは中心軸に対して垂直面で切断された形状で、前端面14aに局所ガイド網12と接続する接続部31を設ける。また、枠体14の後端面(図の右側端)14bは、下端の筒長さが最少となるように、中心軸に対して斜めの面で切断された形状に構成する。後端面14bはそのままの形状にしてもいが、巨大クラゲの細片を一定方向に放出したい場合又は散乱しないように纏めて放出したい場合は、放出用ガイドを設けてもよい。放出用ガイドとしては、例えば、図4に示すような中間ガイド41を設け、更に、中間ガイド41の放出端に放出用ガイド網42を設けてもよい。
【0020】
図5は3枚の切断刃31を固定用円盤25に設けた例である。図5(A)は正面図、図5(B)は矢視X−Xから見た側面図であり、図(C)は上から見た切断刃31の平面図である。3枚の切断刃31は等間隔の角度で配置し、両端が固定円盤25に溶着(溶接)、鋲、その他の手段で固設する。なお、切断刃31は樹脂製の刃でもよいし、金属製の刃でもよい。又、刃先35の形状は図(D)の(a)、(c)に示すように片刃でもよいし、(b)に示すように両刃でもよい。
【0021】
図6は切断刃の別の実施例で、図5の切断刃31に巨大クラゲの細片を更に細かくするために半円弧状の刃31の他に回転軸21の半径方向に切断刃36を設けて巨大クラゲの細片を細分割するように構成した例である。これによって、巨大クラゲの細片を更に分割しているので、細片の処理が円滑に行われる。
【0022】
本実施形態では回転駆動用水車15としてサボニウス水車40を使用する。なお、流れ抵抗の左右のバランスをとるために枠体14の左右の両側に水車15を設けている。図7は3枚の半円弧状のブレードを有するサボニウス水車40の説明図である。図7(A)は側面図で、図7(B)は図7(A)の矢視Y−Yから見た断面図である。図7(A)に示すように、サボニウス水車40は3枚のブレード41を挟んで両端を円盤42a、42bで固設し、一方の円盤42a(又は42b)に固定円盤26に固設している。固定円盤26は出力軸43を介して回転軸21に接続されている。サボニウス水車40のブレード41の外側端は直径(D)の外接円に接し、内側端は直径(d)の内接円に接している。尚、直径(D)と直径(d)の比は3対1としている。ブレード41の外側端と内側端の配置角度は150度で、外側端は外接円上に120度毎に等間隔で配置される。なお、左右の両側に設けたサボニウス水車40が同一方向に回転するようにブレード41の渦巻き方向を同一向きに形成する。
【0023】
サボニウス水車40の回転方向は海流の全方向の流れに対して1方向に回転し、起動トルクが大きく、低速の流れにおいても自己起動する。即ち、海流の流れ方向が変化しても大きさ一定の回転力が得られる。回転数は低く、ブレード41の外周速度は海流の流速度に略等しい。従って、回転軸21の所望の回転速度と海流の流れ速度からブレード41の外接円の径(D)を決定することができる。回転軸21の所望の回転トルクからブレード40の長さ(L)を決定することができる。さらに、回転軸21の所望の回転速度は切断刃31による巨大クラゲの望ましい切断速度から求められ、回転軸21の所望の回転トルクは巨大クラゲの切断の際の抵抗力から求められる。
【0024】
以上に説明したように、本実施形態に依れば、枠体14を円筒状に構成したことにより、該装置の構成がシンプルになり、従って製作も容易になるという効果が得られる。又、巨大クラゲの枠体内部への流入が円滑に行われ、能率が向上するという効果が得られる。更に、該装置の横方向の海水流れに対して抵抗が小さくなるので、安定性が向上するという効果が期待できる。また、サボニウス水車40を使用したことにより、海流の流れ方向に依存せず、回転軸21は略一定の回転トルクと略一定の回転速度が得られるために安定した巨大クラゲの切断処理を行う事ができる。
【0025】
本願発明の技術的範囲は、上記した実施形態の範囲に限定されるものではない。例えば、枠体14は樹脂製に限定されるものではなく、金属製又は木製であってもよい。また、切断刃は3枚の刃を設けた例について説明したが、2枚又は4枚であってもよい。同様に、水車のブレードの枚数は2枚又は4枚を設けたものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願発明の実施形態の要部を示す。
【図2】実施形態の上平面図(A)と側面図(B)を示す
【図3】枠体の上平面図(A)、側面図(B)を示す。
【図4】枠体の別の実施例を示す。(A)は上平面図を示し、(B)は側面図を示す。
【図5】切断刃の実施例を示す。(A)は切断刃の正面図で、(B)は断面側面図を、(C)は上平面図、(D)は刃先の実施例を示す。
【図6】切断刃の別の実施例を示す。(A)は切断刃の正面図で、(B)は断面側面図を示す。
【図7】サボニウス型水車の説明図を示す。
【符号の説明】
【0027】
13 巨大クラゲ細断装置
14 枠体
15 回転駆動用水車(サボニウス水車)
16 浮子
17 沈子
21 回転軸
25 切断刃固定用円盤
26 水車固定用円盤
41 ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海流に乗って遊泳してくる巨大クラゲをガイド網により細断装置入口に誘導し、集めた巨大クラゲを細断する細断装置において、前記細断装置は円筒状の枠体と、前記枠体を海中の適宜の深さで固定する固定手段と、前記枠体内部で該枠体の円筒の中心軸と直交する水平軸の回りを回転自在に回転する回転軸と、前記回転軸に設けた巨大クラゲを細断する切断刃と、前記回転軸を回転駆動する海流の流れエネルギーを利用した水車とを具備したことを特徴とする巨大クラゲ細断装置。
【請求項2】
前記切断刃は、半円弧状に形成し、両端を前記回転軸に設けた円盤に固設したことを特徴とする請求項1に記載の巨大クラゲ細断装置。
【請求項3】
前記切断刃は、2枚又は3枚の刃を回転方向に等角度で前記回転軸に設けた円盤に固設したことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1に記載の巨大クラゲ細断装置。
【請求項4】
前記枠体は樹脂体で構成し、該枠体は円筒の一側に中心軸に対して垂直な切断面を有し、他側に該中心軸に対して斜めに切断した切断面を有する形状に形成し、前記一側に前記ガイド網と接続する接続部を設け、前記他側に巨大クラゲの細片を一定方向に放出するための放出ガイドを設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1に記載の巨大クラゲ細断装置。
【請求項5】
前記固定手段は、前記枠体の接続部を前記ガイド網に接続すると共に、前記枠体の下側にロープを介して沈子を接続し、該枠体の上側にロープを介して浮子に接続し、該浮子が海中に位置するように固定したことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1に記載の巨大クラゲ細断装置。
【請求項6】
前記水車は、2枚又は3枚のブレードを有するサボニウス型水車で構成したことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1に記載の巨大クラゲ細断装置。
【請求項7】
前記水車は、2個の水車を前記枠体の両側に配置し、該枠体を貫通する連通孔を設けて、前記回転軸の両側端と前記各水車の回転駆動軸とを接続したことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1に記載の巨大クラゲ細断装置。
【請求項8】
前記細断装置は、前記刃の最大外周速度を毎秒0.5〜3.0メートルの速度としたことを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1に記載の巨大クラゲ細断装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−10613(P2011−10613A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158757(P2009−158757)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(306030301)
【Fターム(参考)】