差動制限装置及び差動制限装置の製造方法
【課題】摺動面間の潤滑状態を最適化して、高い静粛性を確保することのできる差動制限装置を提供すること。
【解決手段】各プラネタリギヤの歯先面には複数の微細溝31が形成され、これにより不整な凹凸が形成される。そして、その不整な凹凸は、油溝として機能する複数の複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとにより構成される。
【解決手段】各プラネタリギヤの歯先面には複数の微細溝31が形成され、これにより不整な凹凸が形成される。そして、その不整な凹凸は、油溝として機能する複数の複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとにより構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動制限装置及び差動制限装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の差動制限装置には、駆動系に生ずるトルク反力に応じて差動を制限するトルク感応型のものがある。一般に、こうしたトルク感応型の差動制限装置は、同軸配置されたリングギヤ及びサンギヤと、これら各ギヤに噛合するプラネタリギヤと、その歯先面に摺接しつつ該プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤとを備えている。そして、そのプラネタリギヤの自転及び公転に基づき二つの出力間の差動を許容するとともに、上記噛合する各ギヤ間の回転反力に基づくスラスト力、及び上記摺接する摺動面間(プラネタリギヤの歯先面及びプラネタリキャリヤ側の摺接面)の摩擦力に基づいて、その差動を制限する構成になっている。
【0003】
さて、このようにプラネタリギヤの歯先面がプラネタリキャリヤに摺接する構成では、その摺動面間の潤滑状態が極めて重要となる。即ち、摺動面間に供給される潤滑油の不足は、振動の増大や、該各摺動面の異常磨耗、ひいては焼き付きの発生につながるおそれがある。この点を踏まえ、例えば、特許文献1には、プラネタリギヤの歯先面に不整な状態で複数の凹部を形成する方法が提案されている。そして、これにより、摺動面間の潤滑状態を改善して、その耐磨耗性及び耐久性の向上を図ることができる。
【特許文献1】特開2004−324736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、車両においては、従来にも増して、高い水準の静粛性が要求されるようになっている。このため、差動制限装置においては、上記のような耐磨耗性及び耐久性の観点のみならず、静粛性の向上という観点からも、その摺動面間の潤滑状態について、より一層の最適化を進めることが重要な課題となっている。
【0005】
つまり、差動制限装置の振動を抑え、静粛性を向上させるためには、摩擦係数−すべり速度特性(μ−v特性)を正勾配、即ち、すべり速度の上昇に伴って摩擦係数が大きくなる特性に近づけることが有効であることが知られている。ここで、摺動面に形成される膜厚(油膜)の増大は、プラネタリギヤとプラネタリキャリヤとの間の相対速度(すべり速度)の上昇に伴う境界潤滑(固体摩擦成分が主体)から混合潤滑(流体摩擦成分が増大)への移行を促進する一方、その過剰な抑制は、すべり速度の上昇に伴う固体摩擦成分の減少を顕在化させる。即ち、何れの場合も、その摺動面間の摩擦力を減少させることとなり、これにより、その振動が増大することになる。従って、更なる静粛性の向上を図るためには、とりわけ、このようなすべり速度の上昇局面における摺動面間の潤滑状態を改善することが重要であり、その最適化を図ることのできる有効な対策が強く求められていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、摺動面間の潤滑状態を最適化して、高い静粛性を確保することのできる差動制限装置及び差動制限装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、不整な凹凸が形成された差動制限装置において、前記不整な凹凸が形成された面は、そのフーリエ解析による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなる表面粗さを有すること、を要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、摺動面となる部分のうねりを生じない範囲において十分な数の微細溝を形成することができ、これにより、その摩擦係数−すべり速度特性(μーv特性)の正勾配化に寄与する流体摩擦成分を付加するための十分な微細溝粗さを形成することができる。その結果、すべり速度の上昇局面においても、その振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。尚、「不整な凹凸」とは、深さや間隔が規則正しく規定されておらず、様々な深さの凹凸が所定のバラツキの範囲内でランダムに形成されていることをいう。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記不整な凹凸が形成された面は、5μm〜12μmの10点平均粗さを有すること、を要旨とする。
上記構成によれば、摺動面における過大な膜厚形成を抑制する油溝として最適な溝深さを有する複数の微細溝を形成することができ、これにより固体摩擦成分を維持し、境界潤滑から混合潤滑への移行を抑制することができる。その結果、混合潤滑への移行に伴う振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記不整な凹凸は、油溝として機能する複数の第1微細溝と、前記第1微細溝よりも溝深さの浅い複数の第2微細溝とにより構成されること、を要旨とする。
【0011】
即ち、油溝として機能する各第1微細溝により、摺動面における過大な膜厚形成を抑制して、その固体摩擦成分を維持することができるとともに、各第2微細溝により、摺動面に過大な膜厚を形成することなく、すべり速度の上昇に伴い増加する流体摩擦成分を付加することができる。その結果、摺動面間の潤滑状態を最適化して、高い静粛性を確保することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、研削加工により、不整な凹凸が形成される差動制限装置の製造方法において、前記不整な凹凸が形成される面は、その表面粗さが、10点平均粗さで5μm〜12μmとなるように管理されること、を要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、摺動面における過大な膜厚形成を抑制する油溝として最適な溝深さを有する複数の微細溝を形成することができ、これにより固体摩擦成分を維持し、境界潤滑から混合潤滑への移行を抑制することができる。その結果、混合潤滑への移行に伴う振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、研削加工により、不整な凹凸が形成される差動制限装置の製造方法において、前記不整な凹凸が形成された面は、その表面粗さが、フーリエ解析による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理されること、を要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、摺動面となる部分のうねりを生じない範囲において十分な数の微細溝を形成することができ、これにより、その摩擦係数−すべり速度特性(μーv特性)の正勾配化に寄与する流体摩擦成分を付加するための十分な微細溝粗さを形成することができる。その結果、すべり速度の上昇局面においても、その振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記不整な凹凸が形成された面は、その5μm深さの接触面積率が、30%〜60%となるように管理されること、を要旨とする。
即ち、10点平均粗さ(RzJIS)と、5μm深さの接触面積率(Tp)とには相関関係がある。従って、上記構成によれば、より高精度な品質管理が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、摺動面間の潤滑状態を最適化して、高い静粛性を確保することが可能な差動制限装置及び差動制限装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の差動制限装置1は、略円筒状をなすケース2を有している。そして、このケース2内には、リングギヤ3と、同リングギヤ3の内側に同軸配置されたサンギヤ4と、これらリングギヤ3及びサンギヤ4に噛合する複数のプラネタリギヤ5と、該各プラネタリギヤ5を自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤ6とからなる遊星歯車機構7が収容されている。
【0019】
図1〜図3に示すように、本実施形態のプラネタリキャリヤ6は、回転自在に上記サンギヤ4と同軸(図1中右側)に並置された軸部10と、各プラネタリギヤ5を回転自在に支承する支持部11とを備えてなる。本実施形態では、軸部10は、中空状に形成されるとともに、その外周には径方向外側に延びるフランジ部12が形成されている。そして、支持部11は、このフランジ部12から軸方向に延設されることにより、リングギヤ3とサンギヤ4との間に同軸配置されている。
【0020】
本実施形態では、支持部11は、略円筒状に形成されるとともに、軸方向に延びる複数の収容穴13を有している。尚、これら各収容穴13は、支持部11の周方向に沿って所定の間隔で形成されている。これら各収容穴13は、断面円形状に形成されており、その内径は、各プラネタリギヤ5の外径よりも大きく形成されている。尚、収容穴13の内径とプラネタリギヤ5の外径の違いは僅かであり、収容穴13の内径はプラネタリギヤ5の外径の1.005〜1.05倍に設定される。これにより、収容穴13の径方向の内周側及び外周側の端部付近では、プラネタリギヤ5の外周面と収容穴13の内周面との間の隙間が、収容穴13の径方向の中央部(図3に一点鎖線で示す部分)付近に比べて大きくなる。また、各収容穴13の内径は、支持部11の径方向の厚みよりも大きく設定されており、これにより、各収容穴13の壁面13aには、支持部11の外周及び内周にそれぞれ開口する二つの開口部15a,15bが形成されている。そして、各プラネタリギヤ5は、これら各収容穴13に収容されることにより、その歯先面5aを各収容穴13の壁面13aに摺接しつつ回転自在に支承されるとともに、径方向両側に形成された各開口部15a,15bを介してリングギヤ3及びサンギヤ4に噛合されている。尚、本実施形態の差動制限装置1では、各プラネタリギヤ5には、ヘリカルギヤが採用されている。
【0021】
また、図1に示すように、リングギヤ3には、出力部材16が連結されている。本実施形態の出力部材16は、プラネタリキャリヤ6の軸部10と同軸(図1中右側)に並置された軸部17を有しており、該軸部17は、プラネタリキャリヤ6の軸部10と同様、中空状に形成されている。この軸部17のプラネタリキャリヤ6側(同図中左側)の端部には、プラネタリキャリヤ6の軸部10の径方向外側を包囲するように同軸配置された大径部18が接続されており、該大径部18の先端(同図中左側の端部)には、径方向外側に延びるフランジ部19が形成されている。そして、出力部材16は、このフランジ部19が、リングギヤ3の軸方向端部(同図中右側の端部)に連結されることにより、同リングギヤ3と一体回転するように構成されている。
【0022】
ここで、本実施形態では、ケース2は、出力部材16の大径部18に連結されることにより出力部材16及びリングギヤ3と一体回転するように構成されている。また、プラネタリキャリヤ6は、その軸部10と出力部材16の大径部18との間に介在された軸受(ニードルベアリング)20により、出力部材16及びリングギヤ3に対して相対回転可能に支承されている。更に、本実施形態のサンギヤ4は、中空状に形成されるとともに、その一方の端部(同図中右側の端部)がプラネタリキャリヤ6の軸部10の一方の端部(同図中左側の端部)に回転自在に外嵌されている。そして、これにより、サンギヤ4は、プラネタリキャリヤ6に対して相対回転可能に支承されている。
【0023】
本実施形態では、サンギヤ4、プラネタリキャリヤ6の軸部10、及び出力部材16の軸部17には、それぞれ、その内周にスプライン嵌合部4a,10a,17aが形成されている。そして、本実施形態の差動制限装置1では、プラネタリキャリヤ6の軸部10に形成されたスプライン嵌合部10aが、駆動トルクの入力部、サンギヤ4のスプライン嵌合部4a及び出力部材16の軸部17に形成されたスプライン嵌合部17aが、それぞれ第1及び第2の出力部となっている。
【0024】
即ち、プラネタリキャリヤ6に入力された駆動トルクは、同プラネタリキャリヤ6に支承された各プラネタリギヤ5の自転及び公転により、その差動を許容しつつ、所定の配分比で該各プラネタリギヤ5に噛合されたサンギヤ4及びリングギヤ3(出力部材16)へと伝達される。尚、本実施形態の差動制限装置1は、四輪駆動車のセンターデフとして構成されており、第1の出力部としてのサンギヤ4には前輪側の駆動軸が連結され、第2の出力部としての出力部材16には後輪側の駆動軸が連結される。そして、車両の駆動系にトルク反力が生じた場合には、その噛合する各ギヤ間の回転反力に基づくスラスト力、及びその摺接する摺動面間、即ち各プラネタリギヤ5の歯先面5a及びプラネタリキャリヤ6側の摺接面(各収容穴13の壁面13a)間の摩擦力に基づいて、その差動を制限する構成となっている。
【0025】
次に、本実施形態の差動制限装置における摺動面の溝形状について説明する。
図4に示すように、本実施形態の差動制限装置1では、摺動面の一方を構成する各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、複数の溝部21が形成されている。これら各溝部21は、摺動面間に潤滑油を供給するための油溝としての機能を有しており、その溝深さは、5μm以上に設定されている。
【0026】
即ち、各プラネタリギヤ5とプラネタリキャリヤ6との間の相対速度(すべり速度)の増加に伴い、摺動面間に供給される潤滑油量は増加傾向となるが、これにより形成される油膜の増大は、境界潤滑(固体摩擦成分が主体)から混合潤滑(流体摩擦成分が増大)への移行を促進する。そして、図1に示される本実施形態の差動制限装置1では、こうした境界潤滑から混合潤滑への移行する際に生ずる摺動面の摩擦力の減少により、その振動が増大する傾向がある。
【0027】
しかしながら、上記のように、各溝部21の溝深さを5μm以上に設定することで、すべり速度の上昇局面においても、過剰な潤滑をこれら各溝部21に吸収させることができ、その結果、各摺動面に形成される油膜の増大を抑制して境界潤滑を維持することができる。より詳細には、ある1つの歯先面5aがプラネタリキャリヤ6の内周側又は外周側から収容穴13内に進入する際に、その歯先面5aと収容穴13の壁面13aとの間の隙間に潤滑油が導入される。このとき、その歯先面5aが、当該歯先面5aと壁面13aとの間に最も大きな面圧が発生する位置、即ち収容穴13の径方向の中央部に向かうに連れて過剰な潤滑油は溝部21に排出される。その結果、収容穴13の径方向の中央部付近では境界潤滑が維持される。そして、本実施形態では、これにより、振動の発生を抑制して高い静粛性を確保する構成となっている。また、適度な潤滑油が歯先面5aと壁面13aとの間に存在することにより、焼き付きが発生することもない。
【0028】
本実施形態では、各溝部21は、各プラネタリギヤ5の回転方向(各プラネタリギヤ5の周方向)に対して所定の傾きθを有して形成されている。本実施形態では、各溝部21は、螺旋状に、より具体的には複数条(例えば、10条)を一組として螺旋状に形成されている。そして、これにより、その傾きθが3°〜45°の鋭角となるように設定されている。尚、このような螺旋状の溝は、プラネタリギヤ5を周方向に回転させつつ軸方向に移動させながら刃具を押し当てて切削加工を行うこと等により形成することができる。
【0029】
即ち、各溝部21に所定の傾きθを与えることで、各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、プラネタリキャリヤ6側の摺接面(各収容穴13の壁面13a)に対して、常に異なる箇所が摺接することになる。これにより、プラネタリキャリヤ6側の摺接面のうち、プラネタリギヤ5の歯先面5aの溝部21を除く部分に当接して摩耗する部分が、プラネタリギヤ5の収容穴13内での回転に伴って周期的に規則正しく変動する。そして、本実施形態では、これにより、摺動面の磨耗を均一化して、長期に亘り高い静粛性の維持を図る構成となっている。また、回転方向に対する傾きを45°以上とした場合、すべり速度の上昇局面においては、当該すべり速度の上昇に伴う動圧(油圧反力)が増大し、混合潤滑への移行が促進される可能性がある。従って、各溝部21の傾きθは、3°〜45°の鋭角とすることが望ましい。
【0030】
また、本実施形態では、摺接面である各収容穴13の壁面13aには、イオン窒化処理が施される一方、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、タングステンカーバイド/ダイヤモンド−ライク・カーボンの多層薄膜処理が施されている。即ち、本実施形態では、各溝部21は、両摺動面のうちの表面硬度の高い方に形成されている。そして、これにより、各溝部21の形成により残された部分(ランド部)の磨耗を抑制する構成となっている。
【0031】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)摺動面の一方を構成する各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、該各プラネタリギヤ5の回転方向(各プラネタリギヤ5の周方向)に対して所定の傾きθを有する複数の溝部21が形成される。
【0032】
上記構成によれば、各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その収容穴13内での回転に伴って、プラネタリキャリヤ6側の摺接面(各収容穴13の壁面13a)に対して、常に異なる箇所が摺接することになる。これにより、摺動面の磨耗を均一化することができ、その結果、長期に亘り高い静粛性の維持を図ることができるようになる。
【0033】
(2)各溝部21が形成される各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、その摺接面である各収容穴13の壁面13aよりも表面硬度が高くなるような表面処理が施される。これにより、各溝部21の形成により残された部分(ランド部)の磨耗を抑制することができる。
【0034】
(3)各溝部21は、複数条を一組として螺旋状に形成される。これにより、容易且つ正確に所定の傾きを有する複数の溝部を形成することができる。
(第2の実施形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、各プラネタリギヤ5の歯先面5aの構造のみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
【0035】
図5は、プラネタリギヤの斜視図、そして、図6は、その歯先面の断面プロフィール(B−B)である。図6に示すように、本実施形態の差動制限装置1では、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには複数の微細溝31が形成されている。そして、これにより、本実施形態の各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、不整な凹凸が形成されている。
【0036】
詳述すると、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、油溝として機能する比較的溝深さの深い複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとが形成されている。そして、本実施形態の差動制限装置1は、これら各第1微細溝31a及び第2微細溝31bによって、摺動面間の潤滑状態の最適化を図り、各プラネタリギヤ5とプラネタリキャリヤ6との間の相対速度(すべり速度)の上昇局面における境界潤滑から混合潤滑への移行を抑制して、その静粛性の向上を図る構成となっている。
【0037】
即ち、摺動面に生ずる摩擦力は、固体同士の接触に基づく固体摩擦成分と、流体が介在された状態の流体摩擦成分とからなり、摺動面における潤滑状態は、大別して、固体摩擦成分が主体である「境界潤滑」、流体摩擦成分が主体となる「流体潤滑」、及び両摩擦成分が混在する「混合潤滑」の3つに区分することができる。そして、潤滑油の粘度及び摺動面に作用する荷重を一定とした場合における摺動面の摩擦係数μとすべり速度(v)との関係は、そのすべり速度vに応じて、図7に示されるような曲線(ストライベック曲線)状に変化する。
【0038】
ここで、差動制限装置における潤滑状態は、境界潤滑が基本となるが、図7に示すように、その摺動面間の潤滑状態は、すべり速度vの上昇に伴い境界潤滑から混合潤滑へと移行する。そして、差動制限装置においては、こうした境界潤滑から混合潤滑への移行する際に生ずる摺動面の摩擦力の減少により、その振動が増大する傾向がある。従って、より一層の静粛性向上を図るためには、このようなすべり速度vの上昇局面における潤滑状態の改善が重要となる。
【0039】
つまり、図8(a)に示すように、通常、すべり速度vの上昇に伴い固体摩擦成分が減少し、これにより全体としての摩擦係数が低下する、即ち、その摩擦係数−すべり速度特性(μーv特性)は、負勾配となる。
【0040】
しかしながら、本実施形態の差動制限装置1のように、摺動面の一方である各プラネタリギヤ5の歯先面5aに、比較的溝深さの深い複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとを形成することで、そのμーv特性を正勾配に近づけることが可能となる。
【0041】
即ち、図8(b)に示すように、油溝として機能する各第1微細溝31aにより、摺動面における過大な膜厚形成を抑制して、その固体摩擦成分を維持することができるとともに、各第2微細溝31bにより、摺動面に過大な膜厚を形成することなく、すべり速度の上昇に伴い増加する流体摩擦成分を付加することができる。そして、本実施形態の差動制限装置1は、これにより、摺動面の潤滑状態を最適化して、すべり速度vの上昇局面における振動の発生を抑制し、高い静粛性を確保する構成となっている。
【0042】
さらに詳述すると、本実施形態では、各プラネタリギヤ5の歯先面5aの不整な凹凸、即ち各第1微細溝31a及び各第2微細溝31bは、研削加工により形成される。具体的には、本実施形態では、その研削加工方法として、図9に示すような所謂センタレス研磨工法が採用されている。
【0043】
即ち、センタレス研磨工法とは、研磨対象物40(プラネタリギヤ5)の軸心を固定することなく、調整車41、砥石42、及びブレード43(並びに案内板44a,44b及び押さえ板45)により保持しつつ研磨加工を行う工法であり、当該研磨対象物40は、これら各部材との間のクリアランスによって、自動的にその軸心位置を調節しつつ加工される。尚、調整車41は、研磨対象物40に対して砥石42と逆方向の回転を与えつつ、当該研磨対象物40を軸方向に送り出す機能を有しており、ブレード43は、研磨対象物40と調整車41及び砥石42とのクリアランスを決定する機能を有している。
【0044】
そして、本実施形態の差動制限装置1では、この研削加工により不整な凹凸(各第1微細溝31a及び各第2微細溝31b)が形成された後の各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その表面粗さが、10点平均粗さ(RzJIS)で5μm〜12μm、且つフーリエ解析(FFT:高速フーリエ解析)による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理されている。40〜60μmピッチのパワーに着目した理由は、この範囲のピッチの粗さが固体摩擦成分の維持に影響するからである。より詳細には、60μmピッチを超える粗さでは油膜を十分に切ることができないために固体摩擦成分を維持することができず、また、40μmピッチ未満の粗さでは長期の使用により摩耗が発生し、固体摩擦成分を維持できなくなってしまうからである。
【0045】
次に、上記各管理指標の妥当性について検証する。
尚、この妥当性の評価には、「μ−v特性の負勾配量」、即ち、プラネタリギヤ及びプラネタリキャリヤの両摺動面のすべり速度vが低回転領域(10rpmrpm)の状態から高回転領域(80rpm)の状態まで変化した際に両摺動面の摩擦係数μが下がる割合を表す指標を用いる。この「μ−v特性の負勾配量」はゼロに近いほど摩擦係数μの変化が小さいことを示している。つまり、すべり速度vの増加局面においても摺動面の摩擦力は低下しにくく、振動が発生しにくいということを示すものである。
【0046】
先ず、10点平均粗さによる管理の妥当性について検証する。
図10は、プラネタリギヤ5の歯先面5aの10点平均粗さ(RzJIS)と「μ−v特性の負勾配量」との関係を示すグラフであり、図11は、10点平均粗さと振動特性(NV評点)との関係を示すグラフである。尚、NV評点は、官能評価による点数であり、その点数が高いほど、発生する振動が小さいことを示している。
【0047】
図10に示すように、「μ−v特性の負勾配量」は、10点平均粗さが大きくなるにしたがって小さな値となり、その10点平均粗さが約6μm〜約11μmの範囲において略一定の値となる。そして、以降、10点平均粗さが大きくなるにしたがって大きな値となる。
【0048】
ここで、10点平均粗さは、平均値からの偏差値のうち、最大のものから上位5つの偏差値の平均と最小のものから下位5つの偏差値の絶対値の平均値の和である。即ち、10点平均粗さは、比較的溝深さの深い微細溝、つまり油溝としての機能を有する各第1微細溝31aの溝深さを示す指標と位置づけることができる。従って、図10に示されるグラフから、その10点平均粗さを約6μm〜約11μmに近い範囲で管理することによって、各第1微細溝31aの溝深さを、油溝として機能させるための最適な溝深さとすることが可能であると考察することができる。
【0049】
一方、図11に示すように、NV評点は、10点平均粗さが大きくなるにしたがって高い値となり、その10点平均粗さが約6μm〜約11μmの範囲において略一定の値となる。そして、以降、10点平均粗さが大きくなるにしたがって小さな値となる。つまり、その傾向は、上記「μ−v特性の負勾配量」と10点平均粗さとの関係と同様の傾向を有しており、当該範囲の近傍において、高い静粛性(低振動性)を確保することができる。
【0050】
ここで、この官能評価試験においては、NV評点が図11に示すグラフ中のA点以上であることが、振動が小さく静粛性に優れていると評価される。従って、プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その10点平均粗さが、上記A点を超える5μm〜12μmの範囲となるように管理することが妥当であると結論付けることができる。
【0051】
尚、「μ−v特性の負勾配量」、NV評点ともに、その値は、10点平均粗さが約6μm〜約11μmの範囲において略一定、且つ最も良好な値をとる。従って、これを考慮すれば、10点平均粗さを、この約6μm〜約11μmの範囲で管理することが望ましく、これにより、その静粛性の更なる向上とともに、高い水準での品質の安定化を実現することができる。
【0052】
次に、フーリエ解析(FFT:高速フーリエ解析)による管理の妥当性について検証する。
図12は、FFTによるプラネタリギヤ5の歯先面5aの40〜60μmピッチのパワーの最大値と、「μ−v特性の負勾配量」との関係を示すグラフである。同図に示すように、「μ−v特性の負勾配量」は、40〜60μmピッチのパワーの最大値が大きくなるにしたがって小さな値となり、そのパワーの最大値が約0.6μm〜約1.1μmの範囲において略一定の値となる。そして、以降、そのパワーの最大値が大きくなるにしたがって大きな値となる。
【0053】
即ち、40〜60μmピッチのパワーの最大値により、比較的溝深さの浅い微細溝、つまり上記第2微細溝31bを管理することができ、FFTによるそのパワーの最大値が大きな値であるということは、それだけ歯先面5aに形成される第2微細溝31bの数が多いことを示している。そして、図12のグラフに示されるデータは、単純に第2微細溝31bの数が多ければよいというわけではなく、その最適な範囲が存在することを示している。
【0054】
従って、プラネタリギヤ5の歯先面5aの表面粗さは、FFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値が上記約0.6μm〜約1.1μmに近い範囲で管理することが望ましい。そして、上記図12に示されるグラフに、上記10点平均粗さによる管理での「μ−v特性の負勾配量」の範囲(図10参照、RzJIS5μm〜12μmに対応)を当てはめることで、0.4μm〜1.2μmという管理範囲が導出される。
【0055】
次に、歯先面5aに形成される第2微細溝31bの数、即ち微細溝粗さに最適範囲が存在する理由について考察する。
図13(a)は、40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm未満の場合における歯先面の断面プロフィール(図6参照、B−B断面)であり、図13(b)は、上記パワーの最大値が1.2μmを超える場合の断面プロフィールである。そして、図13(c)は、そのパワーの最大値が上記の管理範囲、即ち約0.4μm〜約1.2μmの範囲内(略中間)にある場合の断面プロフィールである。
【0056】
図13(a)に示すように、40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm未満である場合の歯先面の断面プロフィールでは、第2微細溝31bに該当するものは僅かであり、略平坦となっている。このため、上記のような流体摩擦成分を十分に付加することができず、その結果、μ−v特性の正勾配化を達成できない、即ち「μ−v特性の負勾配量」の低下を抑制することができないと推測される。
【0057】
一方、図13(b)に示すように、40〜60μmピッチのパワーの最大値が1.2μmを超える場合の歯先面の断面プロフィールでは、十分な微細溝粗さが形成されているものの、その摺動面となる部分は、波打つようにうねった状態となっている。これは、多数の第2微細溝31bを形成することで、その形成の際、ランド部分の強度を確保することができず、当該ランド部分が崩壊してしまった結果と推測される。そして、この摺動面となる部分のうねりにより実質的な摺動面積が低下し、それが「μ−v特性の負勾配量」の増加、即ちμ−v特性の負勾配化を引き起こす要因と考察することができる。
【0058】
この点、図13(c)に示すように、上記の管理範囲、即ち約0.4μm〜約1.2μmの範囲内(略中間)にある場合には、図13(b)の断面プロフィールにみられるような摺動面となる部分のうねりもなく、十分な微細溝粗さが形成されている。従って、このように、プラネタリギヤ5の歯先面5aの表面粗さを、そのFFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理することで、すべり速度vの上昇局面においても、その微細溝粗さにより十分な流体摩擦成分を付加することできる。そして、これにより、μ−v特性を正勾配化して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0059】
尚、上記10点平均粗さによる管理と同様、FFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値が約0.6μm〜約1.1μmの範囲において、「μ−v特性の負勾配量」の値が略一定、且つ最も良好な値をとることを考慮すれば、40〜60μmピッチのパワーの最大値は、この約0.6μm〜約1.1μmの範囲で管理することが望ましい。更に、微細溝粗さによる流体摩擦成分の付加性能を担保するならば、より好ましくは、その管理範囲の下限を0.8μm以上とするとよい。
【0060】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)各プラネタリギヤ5の歯先面5aには複数の微細溝31が形成され、これにより不整な凹凸が形成される。そして、その不整な凹凸は、油溝として機能する複数の複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとにより構成される。
【0061】
即ち、油溝として機能する各第1微細溝31aにより、摺動面における過大な膜厚形成を抑制して、その固体摩擦成分を維持することができるとともに、各第2微細溝31bにより、摺動面に過大な膜厚を形成することなく、すべり速度の上昇に伴い増加する流体摩擦成分を付加することができる。従って、上記構成によれば、摺動面の潤滑状態を最適化することができ、その結果、すべり速度vの上昇局面においても、その振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0062】
(2)各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その表面粗さが、10点平均粗さ(RzJIS)で5μm〜12μmとなるように管理される。
上記構成によれば、各第1微細溝31aの最適な溝深さを、油溝として機能させるための最適な溝深さとすることができる。
【0063】
(3)各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その表面粗さが、フーリエ解析(FFT:高速フーリエ解析)による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理される。
【0064】
上記構成によれば、摺動面となる部分のうねりを生じない範囲において、多数の第2微細溝31bを形成する、即ちすべり速度vの上昇局面において、流体摩擦成分を付加するための十分な微細溝粗さを形成することができる。
【0065】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第1の実施形態では、各プラネタリギヤ5の歯先面5a側に、回転方向に対して所定の傾きθを有する各溝部21を形成することとした。しかし、これに限らず、摺接面である各収容穴13の壁面13a側に、このような所定の傾きθを有する各溝部21を形成する構成としてもよい。尚、この場合、ランド部の磨耗を抑制すべく、摺接面である各収容穴13の壁面13a側の表面硬度が高くなるような表面処理を施すことが望ましい。
【0066】
・また、各プラネタリギヤ5の歯先面5a及び摺接面である各収容穴13の壁面13aの双方に、所定の傾きθを有する各溝部21を形成する構成としてもよい。即ち、等しいピッチ(例えば100μm)で形成された両者の各溝部21を、当該ピッチの半分に相当する位相だけずらして接触させるように配置することで、その相対的なピッチ幅は、当該ピッチの半分(50μm)と同等となる。従って、このような構成とすれば、製造困難なより微細なピッチを形成した場合と同等の効果を得ることが可能になる。
【0067】
・更に、上記のように摺動面の双方に、所定の傾きθを有する各溝部21を形成する場合、各プラネタリギヤ5の歯先面5a側の各溝部21と摺接面である各収容穴13の壁面13aの各溝部21とが交差するように形成してもよい。これにより、更なる摺動面の磨耗の均一化を図ることができる。
【0068】
・上記第2の実施形態では、油溝として機能する複数の複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとにより構成される不整な凹凸は、摺動面を構成する一方側、即ち各プラネタリギヤ5の歯先面5aに形成されることとした。しかし、これに限らず、このような不整な凹凸は、その摺接面、即ち同じく摺動面を構成する各収容穴13の壁面13a側に形成してもよく、各プラネタリギヤ5の歯先面5a、及び各収容穴13の壁面13aの双方に形成する構成としてもよい。
【0069】
・上記第2の実施形態では、各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その表面粗さが、10点平均粗さ(RzJIS)で5μm〜12μm、且つフーリエ解析(FFT:高速フーリエ解析)による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理されることとした。しかし、上記第2の実施形態のように、各プラネタリギヤ5の歯先面5aの不整な凹凸、即ち各第1微細溝31a及び各第2微細溝31bを形成する際、その研削加工方法としてセンタレス研磨工法(図9参照)を採用した場合、図14に示すように、10点平均粗さとFFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値との間には相関性がある。従って、このような工法を採用する場合においては、10点平均粗さ又はFFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値の何れかにより各プラネタリギヤ5の歯先面5aの表面粗さを管理してもよい。
【0070】
・また、図15に示すように、10点平均粗さ(RzJIS)と、5μm深さの接触面積率(Tp)との間には、少なくとも特定の範囲(図15のグラフに示される範囲)において、相関関係がある。従って、摺動面の表面粗さの管理に、この5μm深さの接触面積率(Tp)を併用してもよく、この場合、その管理範囲は、30%〜60%とするとよい。これにより、より高精度な品質管理が可能になる。尚、5μm深さの接触面積率とは、摺動面となる部分の最も高い部分から5μmの深さで断面を取った場合の面積率である。
【0071】
・本発明は、遊星歯車機構を構成する各ギヤの何れかに摺動面を有するものであれば、図1に示される差動制限装置1以外の型式のものに適用してもよい。即ち、例えば、特開平7−71562号公報に記載の構成を有するものや、特開平7−332466号公報に記載の構成を有するもの、或いは、上記特許文献1(図5,6)に開示のある所謂ツインデフ型等のもの等に適用してもよい。
【0072】
・更に、上記第1の実施形態の構成と上記第2の実施形態の構成とを組み合わせてもよい。例えば、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには上記第1の実施形態の構成、即ち回転方向に対して所定の傾きθを有する各溝部21を形成する一方、その摺接面である各収容穴13の壁面13aには上記第2の実施形態の構成、即ち上記各第1微細溝31a及び各第2微細溝31bにより構成される不整な凹凸を形成する等してもよい。尚、その組み合わせを逆転させた構成としてもよいことはいうまでもない。
【0073】
・上記の各実施形態では、プラネタリキャリヤ6に入力されたトルクがリングギヤ3及びサンギヤ4から出力されるように構成した場合について説明したが、これに限らず、例えばリングギヤ3に入力されたトルクがプラネタリキャリヤ6及びサンギヤ4から出力されるように構成してもよい。
【0074】
・本発明の適用対象となる差動制限装置は、サンギヤ、プラネタリキャリヤ及びプラネタリギヤ、リングギヤが径方向に配列されたものに限らない。例えば、特開平10−153249号公報や特開平5−280596号公報に記載のように、同軸配置された第1及び第2サンギヤを出力部材とし、第1サンギヤに噛み合う第1プラネタリギヤと第2サンギヤ及び第1プラネタリギヤに噛み合う第2プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤを入力部材として構成してもよい。
【0075】
・また更に、特開2006−46642号公報に記載のように、一対のサイドギヤ(本発明の「一対のギヤ」に相当)と、これらサイドギヤの回転軸に対して直交する回転軸を有するピニオンギヤ(本発明の「プラネタリギヤ」に相当)と、ピニオンギヤの外周面と摺動するピニオンギヤ保持面によりピニオンギヤを自転可能且つ公転可能に支承するディファレンシャルケース(本発明の「プラネタリキャリヤ」に相当)とを備え、ディファレンシャルケースを入力部材とし、一対のサイドギヤを出力部材として構成してもよい。
【0076】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想をその効果とともに記載する。
(付記1)複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備えた差動制限装置において、前記プラネタリギヤの歯先面又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面には、前記プラネタリギヤの回転方向に対して所定の傾きを有する複数の溝部が形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0077】
即ち、網目状の油溝を形成する従来の構成(例えば、特開平8−178017号公報参照)では、該各油溝の形成により、残る部分が小さな突部となり、これらの突部がプラネタリキャリヤ側の摺接面側の特定箇所に摺接することになる。そして、当該摺接面が不均一に磨耗することで、長期使用時においては、次第に振動が増大し当初の静粛性を維持できなくなるという問題がある。加えて、これらの突部とプラネタリキャリヤの摺接面との間に潤滑油が必要以上に供給されることで後に詳述する「境界潤滑」から「流体潤滑」に移行しやすくなり、その結果、振動が生ずるおそれもある。
【0078】
この点、上記構成によれば、プラネタリギヤの歯先面とプラネタリキャリヤ側の摺接面とは、常に異なる箇所が摺接することになる。これにより、摺動面の磨耗を均一化することができ、その結果、長期に亘り高い静粛性の維持を図ることができるようになる。
【0079】
(付記2)上記付記1に記載の差動制限装置において、前記各溝部は、前記プラネタリギヤの歯先面又は前記プラネタリキャリヤの摺接面のうち表面硬度の高い側に形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0080】
上記構成によれば、各溝部の形成により残された部分(ランド部)の磨耗を抑制することができる。
(付記3)複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備えた差動制限装置において、前記プラネタリギヤの歯先面及び該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面には、前記プラネタリギヤの回転方向に対して所定の傾きを有する複数の溝部が形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0081】
上記構成によれば、プラネタリギヤの歯先面とプラネタリキャリヤ側の摺接面とは、常に異なる箇所が摺接することになる。これにより、摺動面の磨耗を均一化することができ、その結果、長期に亘り高い静粛性の維持を図ることができるようになる。更に、等しいピッチ(例えば100μm)で形成された両者の各溝部を、当該ピッチの半分に相当する位相だけずらして接触させるように配置することで、その相対的なピッチ幅は、当該ピッチの半分(50μm)と同等となる。その結果、製造困難なより微細なピッチを形成した場合と同等の効果を得ることができるようになる。
【0082】
(付記4)上記付記3に記載の差動制限装置において、前記各溝部は、前記プラネタリギヤの歯先面側と前記プラネタリキャリヤの摺接面側とが交差するように形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0083】
上記構成によれば、更なる摺動面の磨耗の均一化を図ることができる。
(付記5)上記付記1〜付記4の何れか一項に記載の差動制限装置において、前記溝部は、複数状を一組として螺旋状に形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0084】
上記構成によれば、容易且つ正確に所定の傾きを有する複数の溝部を形成することができる。
(付記6)上記付記1〜付記5の何れか一項に記載の差動制限装置において、前記プラネタリキャリヤに入力されるトルクを前記プラネタリギヤを介して前記一対のギヤに出力するように構成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0085】
上記構成によれば、大きな面圧がかかった状態で摩擦摺動するプラネタリギヤの歯先面とプラネタリキャリヤの摺接面の摩耗を均一化することができる。
(付記7)上記付記1〜付記6の何れか一項に記載の差動制限装置において、前記一対のギヤは、前記プラネタリキャリヤの外側に同軸配置されたリングギヤ及び前記プラネタリキャリヤの内側に同軸配置されたサンギヤであること、を特徴とする差動制限装置。
【0086】
上記構成によれば、プラネタリギヤがプラネタリキャリヤの外周側と内周側の両側でリングギヤ及びサンギヤに噛み合うので、プラネタリギヤの歯先面とプラネタリキャリヤの摺接面との摩擦摺動がより適切に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】差動制限装置の断面図。
【図2】プラネタリキャリヤの斜視図。
【図3】各ギヤ間の噛合部分のA−A断面図。
【図4】第1の実施形態におけるプラネタリギヤ及びその歯先面の形状を示す説明図。
【図5】プラネタリギヤの斜視図。
【図6】第2の実施形態におけるプラネタリギヤの歯先面の断面プロフィール(B−B断面)。
【図7】摺動面の摩擦係数とすべり速度との関係(ストライベック曲線)を示す説明図。
【図8】(a)(b)すべり速度の上昇局面における摩擦係数とすべり速度との関係を示す説明図。
【図9】センタレス研磨工法の説明図。
【図10】十点平均粗さ(RzJIS)と「μ−v特性の負勾配量」との関係を示すグラフ。
【図11】十点平均粗さ(RzJIS)と振動特性(NV評点)との関係を示すグラフ。
【図12】FFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値と「μ−v特性の負勾配量」との関係を示すグラフ。
【図13】(a)(b)(c)プラネタリギヤの歯先面の断面プロフィール。
【図14】10点平均粗さ(RzJIS)とFFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値との間の相関性を示すグラフ。
【図15】10点平均粗さ(RzJIS)と5μm深さの接触面積率(Tp)との間の相関性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0088】
1…差動制限装置、3…リングギヤ、4…サンギヤ、5…プラネタリギヤ、5a…歯先面、6…プラネタリキャリヤ、13…収容穴、13a…壁面、21…溝部、θ…傾き。
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動制限装置及び差動制限装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の差動制限装置には、駆動系に生ずるトルク反力に応じて差動を制限するトルク感応型のものがある。一般に、こうしたトルク感応型の差動制限装置は、同軸配置されたリングギヤ及びサンギヤと、これら各ギヤに噛合するプラネタリギヤと、その歯先面に摺接しつつ該プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤとを備えている。そして、そのプラネタリギヤの自転及び公転に基づき二つの出力間の差動を許容するとともに、上記噛合する各ギヤ間の回転反力に基づくスラスト力、及び上記摺接する摺動面間(プラネタリギヤの歯先面及びプラネタリキャリヤ側の摺接面)の摩擦力に基づいて、その差動を制限する構成になっている。
【0003】
さて、このようにプラネタリギヤの歯先面がプラネタリキャリヤに摺接する構成では、その摺動面間の潤滑状態が極めて重要となる。即ち、摺動面間に供給される潤滑油の不足は、振動の増大や、該各摺動面の異常磨耗、ひいては焼き付きの発生につながるおそれがある。この点を踏まえ、例えば、特許文献1には、プラネタリギヤの歯先面に不整な状態で複数の凹部を形成する方法が提案されている。そして、これにより、摺動面間の潤滑状態を改善して、その耐磨耗性及び耐久性の向上を図ることができる。
【特許文献1】特開2004−324736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、車両においては、従来にも増して、高い水準の静粛性が要求されるようになっている。このため、差動制限装置においては、上記のような耐磨耗性及び耐久性の観点のみならず、静粛性の向上という観点からも、その摺動面間の潤滑状態について、より一層の最適化を進めることが重要な課題となっている。
【0005】
つまり、差動制限装置の振動を抑え、静粛性を向上させるためには、摩擦係数−すべり速度特性(μ−v特性)を正勾配、即ち、すべり速度の上昇に伴って摩擦係数が大きくなる特性に近づけることが有効であることが知られている。ここで、摺動面に形成される膜厚(油膜)の増大は、プラネタリギヤとプラネタリキャリヤとの間の相対速度(すべり速度)の上昇に伴う境界潤滑(固体摩擦成分が主体)から混合潤滑(流体摩擦成分が増大)への移行を促進する一方、その過剰な抑制は、すべり速度の上昇に伴う固体摩擦成分の減少を顕在化させる。即ち、何れの場合も、その摺動面間の摩擦力を減少させることとなり、これにより、その振動が増大することになる。従って、更なる静粛性の向上を図るためには、とりわけ、このようなすべり速度の上昇局面における摺動面間の潤滑状態を改善することが重要であり、その最適化を図ることのできる有効な対策が強く求められていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、摺動面間の潤滑状態を最適化して、高い静粛性を確保することのできる差動制限装置及び差動制限装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、不整な凹凸が形成された差動制限装置において、前記不整な凹凸が形成された面は、そのフーリエ解析による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなる表面粗さを有すること、を要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、摺動面となる部分のうねりを生じない範囲において十分な数の微細溝を形成することができ、これにより、その摩擦係数−すべり速度特性(μーv特性)の正勾配化に寄与する流体摩擦成分を付加するための十分な微細溝粗さを形成することができる。その結果、すべり速度の上昇局面においても、その振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。尚、「不整な凹凸」とは、深さや間隔が規則正しく規定されておらず、様々な深さの凹凸が所定のバラツキの範囲内でランダムに形成されていることをいう。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記不整な凹凸が形成された面は、5μm〜12μmの10点平均粗さを有すること、を要旨とする。
上記構成によれば、摺動面における過大な膜厚形成を抑制する油溝として最適な溝深さを有する複数の微細溝を形成することができ、これにより固体摩擦成分を維持し、境界潤滑から混合潤滑への移行を抑制することができる。その結果、混合潤滑への移行に伴う振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記不整な凹凸は、油溝として機能する複数の第1微細溝と、前記第1微細溝よりも溝深さの浅い複数の第2微細溝とにより構成されること、を要旨とする。
【0011】
即ち、油溝として機能する各第1微細溝により、摺動面における過大な膜厚形成を抑制して、その固体摩擦成分を維持することができるとともに、各第2微細溝により、摺動面に過大な膜厚を形成することなく、すべり速度の上昇に伴い増加する流体摩擦成分を付加することができる。その結果、摺動面間の潤滑状態を最適化して、高い静粛性を確保することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、研削加工により、不整な凹凸が形成される差動制限装置の製造方法において、前記不整な凹凸が形成される面は、その表面粗さが、10点平均粗さで5μm〜12μmとなるように管理されること、を要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、摺動面における過大な膜厚形成を抑制する油溝として最適な溝深さを有する複数の微細溝を形成することができ、これにより固体摩擦成分を維持し、境界潤滑から混合潤滑への移行を抑制することができる。その結果、混合潤滑への移行に伴う振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、研削加工により、不整な凹凸が形成される差動制限装置の製造方法において、前記不整な凹凸が形成された面は、その表面粗さが、フーリエ解析による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理されること、を要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、摺動面となる部分のうねりを生じない範囲において十分な数の微細溝を形成することができ、これにより、その摩擦係数−すべり速度特性(μーv特性)の正勾配化に寄与する流体摩擦成分を付加するための十分な微細溝粗さを形成することができる。その結果、すべり速度の上昇局面においても、その振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記不整な凹凸が形成された面は、その5μm深さの接触面積率が、30%〜60%となるように管理されること、を要旨とする。
即ち、10点平均粗さ(RzJIS)と、5μm深さの接触面積率(Tp)とには相関関係がある。従って、上記構成によれば、より高精度な品質管理が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、摺動面間の潤滑状態を最適化して、高い静粛性を確保することが可能な差動制限装置及び差動制限装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の差動制限装置1は、略円筒状をなすケース2を有している。そして、このケース2内には、リングギヤ3と、同リングギヤ3の内側に同軸配置されたサンギヤ4と、これらリングギヤ3及びサンギヤ4に噛合する複数のプラネタリギヤ5と、該各プラネタリギヤ5を自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤ6とからなる遊星歯車機構7が収容されている。
【0019】
図1〜図3に示すように、本実施形態のプラネタリキャリヤ6は、回転自在に上記サンギヤ4と同軸(図1中右側)に並置された軸部10と、各プラネタリギヤ5を回転自在に支承する支持部11とを備えてなる。本実施形態では、軸部10は、中空状に形成されるとともに、その外周には径方向外側に延びるフランジ部12が形成されている。そして、支持部11は、このフランジ部12から軸方向に延設されることにより、リングギヤ3とサンギヤ4との間に同軸配置されている。
【0020】
本実施形態では、支持部11は、略円筒状に形成されるとともに、軸方向に延びる複数の収容穴13を有している。尚、これら各収容穴13は、支持部11の周方向に沿って所定の間隔で形成されている。これら各収容穴13は、断面円形状に形成されており、その内径は、各プラネタリギヤ5の外径よりも大きく形成されている。尚、収容穴13の内径とプラネタリギヤ5の外径の違いは僅かであり、収容穴13の内径はプラネタリギヤ5の外径の1.005〜1.05倍に設定される。これにより、収容穴13の径方向の内周側及び外周側の端部付近では、プラネタリギヤ5の外周面と収容穴13の内周面との間の隙間が、収容穴13の径方向の中央部(図3に一点鎖線で示す部分)付近に比べて大きくなる。また、各収容穴13の内径は、支持部11の径方向の厚みよりも大きく設定されており、これにより、各収容穴13の壁面13aには、支持部11の外周及び内周にそれぞれ開口する二つの開口部15a,15bが形成されている。そして、各プラネタリギヤ5は、これら各収容穴13に収容されることにより、その歯先面5aを各収容穴13の壁面13aに摺接しつつ回転自在に支承されるとともに、径方向両側に形成された各開口部15a,15bを介してリングギヤ3及びサンギヤ4に噛合されている。尚、本実施形態の差動制限装置1では、各プラネタリギヤ5には、ヘリカルギヤが採用されている。
【0021】
また、図1に示すように、リングギヤ3には、出力部材16が連結されている。本実施形態の出力部材16は、プラネタリキャリヤ6の軸部10と同軸(図1中右側)に並置された軸部17を有しており、該軸部17は、プラネタリキャリヤ6の軸部10と同様、中空状に形成されている。この軸部17のプラネタリキャリヤ6側(同図中左側)の端部には、プラネタリキャリヤ6の軸部10の径方向外側を包囲するように同軸配置された大径部18が接続されており、該大径部18の先端(同図中左側の端部)には、径方向外側に延びるフランジ部19が形成されている。そして、出力部材16は、このフランジ部19が、リングギヤ3の軸方向端部(同図中右側の端部)に連結されることにより、同リングギヤ3と一体回転するように構成されている。
【0022】
ここで、本実施形態では、ケース2は、出力部材16の大径部18に連結されることにより出力部材16及びリングギヤ3と一体回転するように構成されている。また、プラネタリキャリヤ6は、その軸部10と出力部材16の大径部18との間に介在された軸受(ニードルベアリング)20により、出力部材16及びリングギヤ3に対して相対回転可能に支承されている。更に、本実施形態のサンギヤ4は、中空状に形成されるとともに、その一方の端部(同図中右側の端部)がプラネタリキャリヤ6の軸部10の一方の端部(同図中左側の端部)に回転自在に外嵌されている。そして、これにより、サンギヤ4は、プラネタリキャリヤ6に対して相対回転可能に支承されている。
【0023】
本実施形態では、サンギヤ4、プラネタリキャリヤ6の軸部10、及び出力部材16の軸部17には、それぞれ、その内周にスプライン嵌合部4a,10a,17aが形成されている。そして、本実施形態の差動制限装置1では、プラネタリキャリヤ6の軸部10に形成されたスプライン嵌合部10aが、駆動トルクの入力部、サンギヤ4のスプライン嵌合部4a及び出力部材16の軸部17に形成されたスプライン嵌合部17aが、それぞれ第1及び第2の出力部となっている。
【0024】
即ち、プラネタリキャリヤ6に入力された駆動トルクは、同プラネタリキャリヤ6に支承された各プラネタリギヤ5の自転及び公転により、その差動を許容しつつ、所定の配分比で該各プラネタリギヤ5に噛合されたサンギヤ4及びリングギヤ3(出力部材16)へと伝達される。尚、本実施形態の差動制限装置1は、四輪駆動車のセンターデフとして構成されており、第1の出力部としてのサンギヤ4には前輪側の駆動軸が連結され、第2の出力部としての出力部材16には後輪側の駆動軸が連結される。そして、車両の駆動系にトルク反力が生じた場合には、その噛合する各ギヤ間の回転反力に基づくスラスト力、及びその摺接する摺動面間、即ち各プラネタリギヤ5の歯先面5a及びプラネタリキャリヤ6側の摺接面(各収容穴13の壁面13a)間の摩擦力に基づいて、その差動を制限する構成となっている。
【0025】
次に、本実施形態の差動制限装置における摺動面の溝形状について説明する。
図4に示すように、本実施形態の差動制限装置1では、摺動面の一方を構成する各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、複数の溝部21が形成されている。これら各溝部21は、摺動面間に潤滑油を供給するための油溝としての機能を有しており、その溝深さは、5μm以上に設定されている。
【0026】
即ち、各プラネタリギヤ5とプラネタリキャリヤ6との間の相対速度(すべり速度)の増加に伴い、摺動面間に供給される潤滑油量は増加傾向となるが、これにより形成される油膜の増大は、境界潤滑(固体摩擦成分が主体)から混合潤滑(流体摩擦成分が増大)への移行を促進する。そして、図1に示される本実施形態の差動制限装置1では、こうした境界潤滑から混合潤滑への移行する際に生ずる摺動面の摩擦力の減少により、その振動が増大する傾向がある。
【0027】
しかしながら、上記のように、各溝部21の溝深さを5μm以上に設定することで、すべり速度の上昇局面においても、過剰な潤滑をこれら各溝部21に吸収させることができ、その結果、各摺動面に形成される油膜の増大を抑制して境界潤滑を維持することができる。より詳細には、ある1つの歯先面5aがプラネタリキャリヤ6の内周側又は外周側から収容穴13内に進入する際に、その歯先面5aと収容穴13の壁面13aとの間の隙間に潤滑油が導入される。このとき、その歯先面5aが、当該歯先面5aと壁面13aとの間に最も大きな面圧が発生する位置、即ち収容穴13の径方向の中央部に向かうに連れて過剰な潤滑油は溝部21に排出される。その結果、収容穴13の径方向の中央部付近では境界潤滑が維持される。そして、本実施形態では、これにより、振動の発生を抑制して高い静粛性を確保する構成となっている。また、適度な潤滑油が歯先面5aと壁面13aとの間に存在することにより、焼き付きが発生することもない。
【0028】
本実施形態では、各溝部21は、各プラネタリギヤ5の回転方向(各プラネタリギヤ5の周方向)に対して所定の傾きθを有して形成されている。本実施形態では、各溝部21は、螺旋状に、より具体的には複数条(例えば、10条)を一組として螺旋状に形成されている。そして、これにより、その傾きθが3°〜45°の鋭角となるように設定されている。尚、このような螺旋状の溝は、プラネタリギヤ5を周方向に回転させつつ軸方向に移動させながら刃具を押し当てて切削加工を行うこと等により形成することができる。
【0029】
即ち、各溝部21に所定の傾きθを与えることで、各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、プラネタリキャリヤ6側の摺接面(各収容穴13の壁面13a)に対して、常に異なる箇所が摺接することになる。これにより、プラネタリキャリヤ6側の摺接面のうち、プラネタリギヤ5の歯先面5aの溝部21を除く部分に当接して摩耗する部分が、プラネタリギヤ5の収容穴13内での回転に伴って周期的に規則正しく変動する。そして、本実施形態では、これにより、摺動面の磨耗を均一化して、長期に亘り高い静粛性の維持を図る構成となっている。また、回転方向に対する傾きを45°以上とした場合、すべり速度の上昇局面においては、当該すべり速度の上昇に伴う動圧(油圧反力)が増大し、混合潤滑への移行が促進される可能性がある。従って、各溝部21の傾きθは、3°〜45°の鋭角とすることが望ましい。
【0030】
また、本実施形態では、摺接面である各収容穴13の壁面13aには、イオン窒化処理が施される一方、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、タングステンカーバイド/ダイヤモンド−ライク・カーボンの多層薄膜処理が施されている。即ち、本実施形態では、各溝部21は、両摺動面のうちの表面硬度の高い方に形成されている。そして、これにより、各溝部21の形成により残された部分(ランド部)の磨耗を抑制する構成となっている。
【0031】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)摺動面の一方を構成する各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、該各プラネタリギヤ5の回転方向(各プラネタリギヤ5の周方向)に対して所定の傾きθを有する複数の溝部21が形成される。
【0032】
上記構成によれば、各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その収容穴13内での回転に伴って、プラネタリキャリヤ6側の摺接面(各収容穴13の壁面13a)に対して、常に異なる箇所が摺接することになる。これにより、摺動面の磨耗を均一化することができ、その結果、長期に亘り高い静粛性の維持を図ることができるようになる。
【0033】
(2)各溝部21が形成される各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、その摺接面である各収容穴13の壁面13aよりも表面硬度が高くなるような表面処理が施される。これにより、各溝部21の形成により残された部分(ランド部)の磨耗を抑制することができる。
【0034】
(3)各溝部21は、複数条を一組として螺旋状に形成される。これにより、容易且つ正確に所定の傾きを有する複数の溝部を形成することができる。
(第2の実施形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、各プラネタリギヤ5の歯先面5aの構造のみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
【0035】
図5は、プラネタリギヤの斜視図、そして、図6は、その歯先面の断面プロフィール(B−B)である。図6に示すように、本実施形態の差動制限装置1では、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには複数の微細溝31が形成されている。そして、これにより、本実施形態の各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、不整な凹凸が形成されている。
【0036】
詳述すると、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、油溝として機能する比較的溝深さの深い複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとが形成されている。そして、本実施形態の差動制限装置1は、これら各第1微細溝31a及び第2微細溝31bによって、摺動面間の潤滑状態の最適化を図り、各プラネタリギヤ5とプラネタリキャリヤ6との間の相対速度(すべり速度)の上昇局面における境界潤滑から混合潤滑への移行を抑制して、その静粛性の向上を図る構成となっている。
【0037】
即ち、摺動面に生ずる摩擦力は、固体同士の接触に基づく固体摩擦成分と、流体が介在された状態の流体摩擦成分とからなり、摺動面における潤滑状態は、大別して、固体摩擦成分が主体である「境界潤滑」、流体摩擦成分が主体となる「流体潤滑」、及び両摩擦成分が混在する「混合潤滑」の3つに区分することができる。そして、潤滑油の粘度及び摺動面に作用する荷重を一定とした場合における摺動面の摩擦係数μとすべり速度(v)との関係は、そのすべり速度vに応じて、図7に示されるような曲線(ストライベック曲線)状に変化する。
【0038】
ここで、差動制限装置における潤滑状態は、境界潤滑が基本となるが、図7に示すように、その摺動面間の潤滑状態は、すべり速度vの上昇に伴い境界潤滑から混合潤滑へと移行する。そして、差動制限装置においては、こうした境界潤滑から混合潤滑への移行する際に生ずる摺動面の摩擦力の減少により、その振動が増大する傾向がある。従って、より一層の静粛性向上を図るためには、このようなすべり速度vの上昇局面における潤滑状態の改善が重要となる。
【0039】
つまり、図8(a)に示すように、通常、すべり速度vの上昇に伴い固体摩擦成分が減少し、これにより全体としての摩擦係数が低下する、即ち、その摩擦係数−すべり速度特性(μーv特性)は、負勾配となる。
【0040】
しかしながら、本実施形態の差動制限装置1のように、摺動面の一方である各プラネタリギヤ5の歯先面5aに、比較的溝深さの深い複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとを形成することで、そのμーv特性を正勾配に近づけることが可能となる。
【0041】
即ち、図8(b)に示すように、油溝として機能する各第1微細溝31aにより、摺動面における過大な膜厚形成を抑制して、その固体摩擦成分を維持することができるとともに、各第2微細溝31bにより、摺動面に過大な膜厚を形成することなく、すべり速度の上昇に伴い増加する流体摩擦成分を付加することができる。そして、本実施形態の差動制限装置1は、これにより、摺動面の潤滑状態を最適化して、すべり速度vの上昇局面における振動の発生を抑制し、高い静粛性を確保する構成となっている。
【0042】
さらに詳述すると、本実施形態では、各プラネタリギヤ5の歯先面5aの不整な凹凸、即ち各第1微細溝31a及び各第2微細溝31bは、研削加工により形成される。具体的には、本実施形態では、その研削加工方法として、図9に示すような所謂センタレス研磨工法が採用されている。
【0043】
即ち、センタレス研磨工法とは、研磨対象物40(プラネタリギヤ5)の軸心を固定することなく、調整車41、砥石42、及びブレード43(並びに案内板44a,44b及び押さえ板45)により保持しつつ研磨加工を行う工法であり、当該研磨対象物40は、これら各部材との間のクリアランスによって、自動的にその軸心位置を調節しつつ加工される。尚、調整車41は、研磨対象物40に対して砥石42と逆方向の回転を与えつつ、当該研磨対象物40を軸方向に送り出す機能を有しており、ブレード43は、研磨対象物40と調整車41及び砥石42とのクリアランスを決定する機能を有している。
【0044】
そして、本実施形態の差動制限装置1では、この研削加工により不整な凹凸(各第1微細溝31a及び各第2微細溝31b)が形成された後の各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その表面粗さが、10点平均粗さ(RzJIS)で5μm〜12μm、且つフーリエ解析(FFT:高速フーリエ解析)による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理されている。40〜60μmピッチのパワーに着目した理由は、この範囲のピッチの粗さが固体摩擦成分の維持に影響するからである。より詳細には、60μmピッチを超える粗さでは油膜を十分に切ることができないために固体摩擦成分を維持することができず、また、40μmピッチ未満の粗さでは長期の使用により摩耗が発生し、固体摩擦成分を維持できなくなってしまうからである。
【0045】
次に、上記各管理指標の妥当性について検証する。
尚、この妥当性の評価には、「μ−v特性の負勾配量」、即ち、プラネタリギヤ及びプラネタリキャリヤの両摺動面のすべり速度vが低回転領域(10rpmrpm)の状態から高回転領域(80rpm)の状態まで変化した際に両摺動面の摩擦係数μが下がる割合を表す指標を用いる。この「μ−v特性の負勾配量」はゼロに近いほど摩擦係数μの変化が小さいことを示している。つまり、すべり速度vの増加局面においても摺動面の摩擦力は低下しにくく、振動が発生しにくいということを示すものである。
【0046】
先ず、10点平均粗さによる管理の妥当性について検証する。
図10は、プラネタリギヤ5の歯先面5aの10点平均粗さ(RzJIS)と「μ−v特性の負勾配量」との関係を示すグラフであり、図11は、10点平均粗さと振動特性(NV評点)との関係を示すグラフである。尚、NV評点は、官能評価による点数であり、その点数が高いほど、発生する振動が小さいことを示している。
【0047】
図10に示すように、「μ−v特性の負勾配量」は、10点平均粗さが大きくなるにしたがって小さな値となり、その10点平均粗さが約6μm〜約11μmの範囲において略一定の値となる。そして、以降、10点平均粗さが大きくなるにしたがって大きな値となる。
【0048】
ここで、10点平均粗さは、平均値からの偏差値のうち、最大のものから上位5つの偏差値の平均と最小のものから下位5つの偏差値の絶対値の平均値の和である。即ち、10点平均粗さは、比較的溝深さの深い微細溝、つまり油溝としての機能を有する各第1微細溝31aの溝深さを示す指標と位置づけることができる。従って、図10に示されるグラフから、その10点平均粗さを約6μm〜約11μmに近い範囲で管理することによって、各第1微細溝31aの溝深さを、油溝として機能させるための最適な溝深さとすることが可能であると考察することができる。
【0049】
一方、図11に示すように、NV評点は、10点平均粗さが大きくなるにしたがって高い値となり、その10点平均粗さが約6μm〜約11μmの範囲において略一定の値となる。そして、以降、10点平均粗さが大きくなるにしたがって小さな値となる。つまり、その傾向は、上記「μ−v特性の負勾配量」と10点平均粗さとの関係と同様の傾向を有しており、当該範囲の近傍において、高い静粛性(低振動性)を確保することができる。
【0050】
ここで、この官能評価試験においては、NV評点が図11に示すグラフ中のA点以上であることが、振動が小さく静粛性に優れていると評価される。従って、プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その10点平均粗さが、上記A点を超える5μm〜12μmの範囲となるように管理することが妥当であると結論付けることができる。
【0051】
尚、「μ−v特性の負勾配量」、NV評点ともに、その値は、10点平均粗さが約6μm〜約11μmの範囲において略一定、且つ最も良好な値をとる。従って、これを考慮すれば、10点平均粗さを、この約6μm〜約11μmの範囲で管理することが望ましく、これにより、その静粛性の更なる向上とともに、高い水準での品質の安定化を実現することができる。
【0052】
次に、フーリエ解析(FFT:高速フーリエ解析)による管理の妥当性について検証する。
図12は、FFTによるプラネタリギヤ5の歯先面5aの40〜60μmピッチのパワーの最大値と、「μ−v特性の負勾配量」との関係を示すグラフである。同図に示すように、「μ−v特性の負勾配量」は、40〜60μmピッチのパワーの最大値が大きくなるにしたがって小さな値となり、そのパワーの最大値が約0.6μm〜約1.1μmの範囲において略一定の値となる。そして、以降、そのパワーの最大値が大きくなるにしたがって大きな値となる。
【0053】
即ち、40〜60μmピッチのパワーの最大値により、比較的溝深さの浅い微細溝、つまり上記第2微細溝31bを管理することができ、FFTによるそのパワーの最大値が大きな値であるということは、それだけ歯先面5aに形成される第2微細溝31bの数が多いことを示している。そして、図12のグラフに示されるデータは、単純に第2微細溝31bの数が多ければよいというわけではなく、その最適な範囲が存在することを示している。
【0054】
従って、プラネタリギヤ5の歯先面5aの表面粗さは、FFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値が上記約0.6μm〜約1.1μmに近い範囲で管理することが望ましい。そして、上記図12に示されるグラフに、上記10点平均粗さによる管理での「μ−v特性の負勾配量」の範囲(図10参照、RzJIS5μm〜12μmに対応)を当てはめることで、0.4μm〜1.2μmという管理範囲が導出される。
【0055】
次に、歯先面5aに形成される第2微細溝31bの数、即ち微細溝粗さに最適範囲が存在する理由について考察する。
図13(a)は、40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm未満の場合における歯先面の断面プロフィール(図6参照、B−B断面)であり、図13(b)は、上記パワーの最大値が1.2μmを超える場合の断面プロフィールである。そして、図13(c)は、そのパワーの最大値が上記の管理範囲、即ち約0.4μm〜約1.2μmの範囲内(略中間)にある場合の断面プロフィールである。
【0056】
図13(a)に示すように、40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm未満である場合の歯先面の断面プロフィールでは、第2微細溝31bに該当するものは僅かであり、略平坦となっている。このため、上記のような流体摩擦成分を十分に付加することができず、その結果、μ−v特性の正勾配化を達成できない、即ち「μ−v特性の負勾配量」の低下を抑制することができないと推測される。
【0057】
一方、図13(b)に示すように、40〜60μmピッチのパワーの最大値が1.2μmを超える場合の歯先面の断面プロフィールでは、十分な微細溝粗さが形成されているものの、その摺動面となる部分は、波打つようにうねった状態となっている。これは、多数の第2微細溝31bを形成することで、その形成の際、ランド部分の強度を確保することができず、当該ランド部分が崩壊してしまった結果と推測される。そして、この摺動面となる部分のうねりにより実質的な摺動面積が低下し、それが「μ−v特性の負勾配量」の増加、即ちμ−v特性の負勾配化を引き起こす要因と考察することができる。
【0058】
この点、図13(c)に示すように、上記の管理範囲、即ち約0.4μm〜約1.2μmの範囲内(略中間)にある場合には、図13(b)の断面プロフィールにみられるような摺動面となる部分のうねりもなく、十分な微細溝粗さが形成されている。従って、このように、プラネタリギヤ5の歯先面5aの表面粗さを、そのFFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理することで、すべり速度vの上昇局面においても、その微細溝粗さにより十分な流体摩擦成分を付加することできる。そして、これにより、μ−v特性を正勾配化して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0059】
尚、上記10点平均粗さによる管理と同様、FFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値が約0.6μm〜約1.1μmの範囲において、「μ−v特性の負勾配量」の値が略一定、且つ最も良好な値をとることを考慮すれば、40〜60μmピッチのパワーの最大値は、この約0.6μm〜約1.1μmの範囲で管理することが望ましい。更に、微細溝粗さによる流体摩擦成分の付加性能を担保するならば、より好ましくは、その管理範囲の下限を0.8μm以上とするとよい。
【0060】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)各プラネタリギヤ5の歯先面5aには複数の微細溝31が形成され、これにより不整な凹凸が形成される。そして、その不整な凹凸は、油溝として機能する複数の複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとにより構成される。
【0061】
即ち、油溝として機能する各第1微細溝31aにより、摺動面における過大な膜厚形成を抑制して、その固体摩擦成分を維持することができるとともに、各第2微細溝31bにより、摺動面に過大な膜厚を形成することなく、すべり速度の上昇に伴い増加する流体摩擦成分を付加することができる。従って、上記構成によれば、摺動面の潤滑状態を最適化することができ、その結果、すべり速度vの上昇局面においても、その振動の発生を抑制して、高い静粛性を確保することができるようになる。
【0062】
(2)各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その表面粗さが、10点平均粗さ(RzJIS)で5μm〜12μmとなるように管理される。
上記構成によれば、各第1微細溝31aの最適な溝深さを、油溝として機能させるための最適な溝深さとすることができる。
【0063】
(3)各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その表面粗さが、フーリエ解析(FFT:高速フーリエ解析)による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理される。
【0064】
上記構成によれば、摺動面となる部分のうねりを生じない範囲において、多数の第2微細溝31bを形成する、即ちすべり速度vの上昇局面において、流体摩擦成分を付加するための十分な微細溝粗さを形成することができる。
【0065】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第1の実施形態では、各プラネタリギヤ5の歯先面5a側に、回転方向に対して所定の傾きθを有する各溝部21を形成することとした。しかし、これに限らず、摺接面である各収容穴13の壁面13a側に、このような所定の傾きθを有する各溝部21を形成する構成としてもよい。尚、この場合、ランド部の磨耗を抑制すべく、摺接面である各収容穴13の壁面13a側の表面硬度が高くなるような表面処理を施すことが望ましい。
【0066】
・また、各プラネタリギヤ5の歯先面5a及び摺接面である各収容穴13の壁面13aの双方に、所定の傾きθを有する各溝部21を形成する構成としてもよい。即ち、等しいピッチ(例えば100μm)で形成された両者の各溝部21を、当該ピッチの半分に相当する位相だけずらして接触させるように配置することで、その相対的なピッチ幅は、当該ピッチの半分(50μm)と同等となる。従って、このような構成とすれば、製造困難なより微細なピッチを形成した場合と同等の効果を得ることが可能になる。
【0067】
・更に、上記のように摺動面の双方に、所定の傾きθを有する各溝部21を形成する場合、各プラネタリギヤ5の歯先面5a側の各溝部21と摺接面である各収容穴13の壁面13aの各溝部21とが交差するように形成してもよい。これにより、更なる摺動面の磨耗の均一化を図ることができる。
【0068】
・上記第2の実施形態では、油溝として機能する複数の複数の第1微細溝31aと、これら各第1微細溝31aよりも溝深さの浅い複数の第2微細溝31bとにより構成される不整な凹凸は、摺動面を構成する一方側、即ち各プラネタリギヤ5の歯先面5aに形成されることとした。しかし、これに限らず、このような不整な凹凸は、その摺接面、即ち同じく摺動面を構成する各収容穴13の壁面13a側に形成してもよく、各プラネタリギヤ5の歯先面5a、及び各収容穴13の壁面13aの双方に形成する構成としてもよい。
【0069】
・上記第2の実施形態では、各プラネタリギヤ5の歯先面5aは、その表面粗さが、10点平均粗さ(RzJIS)で5μm〜12μm、且つフーリエ解析(FFT:高速フーリエ解析)による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理されることとした。しかし、上記第2の実施形態のように、各プラネタリギヤ5の歯先面5aの不整な凹凸、即ち各第1微細溝31a及び各第2微細溝31bを形成する際、その研削加工方法としてセンタレス研磨工法(図9参照)を採用した場合、図14に示すように、10点平均粗さとFFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値との間には相関性がある。従って、このような工法を採用する場合においては、10点平均粗さ又はFFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値の何れかにより各プラネタリギヤ5の歯先面5aの表面粗さを管理してもよい。
【0070】
・また、図15に示すように、10点平均粗さ(RzJIS)と、5μm深さの接触面積率(Tp)との間には、少なくとも特定の範囲(図15のグラフに示される範囲)において、相関関係がある。従って、摺動面の表面粗さの管理に、この5μm深さの接触面積率(Tp)を併用してもよく、この場合、その管理範囲は、30%〜60%とするとよい。これにより、より高精度な品質管理が可能になる。尚、5μm深さの接触面積率とは、摺動面となる部分の最も高い部分から5μmの深さで断面を取った場合の面積率である。
【0071】
・本発明は、遊星歯車機構を構成する各ギヤの何れかに摺動面を有するものであれば、図1に示される差動制限装置1以外の型式のものに適用してもよい。即ち、例えば、特開平7−71562号公報に記載の構成を有するものや、特開平7−332466号公報に記載の構成を有するもの、或いは、上記特許文献1(図5,6)に開示のある所謂ツインデフ型等のもの等に適用してもよい。
【0072】
・更に、上記第1の実施形態の構成と上記第2の実施形態の構成とを組み合わせてもよい。例えば、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには上記第1の実施形態の構成、即ち回転方向に対して所定の傾きθを有する各溝部21を形成する一方、その摺接面である各収容穴13の壁面13aには上記第2の実施形態の構成、即ち上記各第1微細溝31a及び各第2微細溝31bにより構成される不整な凹凸を形成する等してもよい。尚、その組み合わせを逆転させた構成としてもよいことはいうまでもない。
【0073】
・上記の各実施形態では、プラネタリキャリヤ6に入力されたトルクがリングギヤ3及びサンギヤ4から出力されるように構成した場合について説明したが、これに限らず、例えばリングギヤ3に入力されたトルクがプラネタリキャリヤ6及びサンギヤ4から出力されるように構成してもよい。
【0074】
・本発明の適用対象となる差動制限装置は、サンギヤ、プラネタリキャリヤ及びプラネタリギヤ、リングギヤが径方向に配列されたものに限らない。例えば、特開平10−153249号公報や特開平5−280596号公報に記載のように、同軸配置された第1及び第2サンギヤを出力部材とし、第1サンギヤに噛み合う第1プラネタリギヤと第2サンギヤ及び第1プラネタリギヤに噛み合う第2プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤを入力部材として構成してもよい。
【0075】
・また更に、特開2006−46642号公報に記載のように、一対のサイドギヤ(本発明の「一対のギヤ」に相当)と、これらサイドギヤの回転軸に対して直交する回転軸を有するピニオンギヤ(本発明の「プラネタリギヤ」に相当)と、ピニオンギヤの外周面と摺動するピニオンギヤ保持面によりピニオンギヤを自転可能且つ公転可能に支承するディファレンシャルケース(本発明の「プラネタリキャリヤ」に相当)とを備え、ディファレンシャルケースを入力部材とし、一対のサイドギヤを出力部材として構成してもよい。
【0076】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想をその効果とともに記載する。
(付記1)複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備えた差動制限装置において、前記プラネタリギヤの歯先面又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面には、前記プラネタリギヤの回転方向に対して所定の傾きを有する複数の溝部が形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0077】
即ち、網目状の油溝を形成する従来の構成(例えば、特開平8−178017号公報参照)では、該各油溝の形成により、残る部分が小さな突部となり、これらの突部がプラネタリキャリヤ側の摺接面側の特定箇所に摺接することになる。そして、当該摺接面が不均一に磨耗することで、長期使用時においては、次第に振動が増大し当初の静粛性を維持できなくなるという問題がある。加えて、これらの突部とプラネタリキャリヤの摺接面との間に潤滑油が必要以上に供給されることで後に詳述する「境界潤滑」から「流体潤滑」に移行しやすくなり、その結果、振動が生ずるおそれもある。
【0078】
この点、上記構成によれば、プラネタリギヤの歯先面とプラネタリキャリヤ側の摺接面とは、常に異なる箇所が摺接することになる。これにより、摺動面の磨耗を均一化することができ、その結果、長期に亘り高い静粛性の維持を図ることができるようになる。
【0079】
(付記2)上記付記1に記載の差動制限装置において、前記各溝部は、前記プラネタリギヤの歯先面又は前記プラネタリキャリヤの摺接面のうち表面硬度の高い側に形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0080】
上記構成によれば、各溝部の形成により残された部分(ランド部)の磨耗を抑制することができる。
(付記3)複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備えた差動制限装置において、前記プラネタリギヤの歯先面及び該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面には、前記プラネタリギヤの回転方向に対して所定の傾きを有する複数の溝部が形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0081】
上記構成によれば、プラネタリギヤの歯先面とプラネタリキャリヤ側の摺接面とは、常に異なる箇所が摺接することになる。これにより、摺動面の磨耗を均一化することができ、その結果、長期に亘り高い静粛性の維持を図ることができるようになる。更に、等しいピッチ(例えば100μm)で形成された両者の各溝部を、当該ピッチの半分に相当する位相だけずらして接触させるように配置することで、その相対的なピッチ幅は、当該ピッチの半分(50μm)と同等となる。その結果、製造困難なより微細なピッチを形成した場合と同等の効果を得ることができるようになる。
【0082】
(付記4)上記付記3に記載の差動制限装置において、前記各溝部は、前記プラネタリギヤの歯先面側と前記プラネタリキャリヤの摺接面側とが交差するように形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0083】
上記構成によれば、更なる摺動面の磨耗の均一化を図ることができる。
(付記5)上記付記1〜付記4の何れか一項に記載の差動制限装置において、前記溝部は、複数状を一組として螺旋状に形成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0084】
上記構成によれば、容易且つ正確に所定の傾きを有する複数の溝部を形成することができる。
(付記6)上記付記1〜付記5の何れか一項に記載の差動制限装置において、前記プラネタリキャリヤに入力されるトルクを前記プラネタリギヤを介して前記一対のギヤに出力するように構成されること、を特徴とする差動制限装置。
【0085】
上記構成によれば、大きな面圧がかかった状態で摩擦摺動するプラネタリギヤの歯先面とプラネタリキャリヤの摺接面の摩耗を均一化することができる。
(付記7)上記付記1〜付記6の何れか一項に記載の差動制限装置において、前記一対のギヤは、前記プラネタリキャリヤの外側に同軸配置されたリングギヤ及び前記プラネタリキャリヤの内側に同軸配置されたサンギヤであること、を特徴とする差動制限装置。
【0086】
上記構成によれば、プラネタリギヤがプラネタリキャリヤの外周側と内周側の両側でリングギヤ及びサンギヤに噛み合うので、プラネタリギヤの歯先面とプラネタリキャリヤの摺接面との摩擦摺動がより適切に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】差動制限装置の断面図。
【図2】プラネタリキャリヤの斜視図。
【図3】各ギヤ間の噛合部分のA−A断面図。
【図4】第1の実施形態におけるプラネタリギヤ及びその歯先面の形状を示す説明図。
【図5】プラネタリギヤの斜視図。
【図6】第2の実施形態におけるプラネタリギヤの歯先面の断面プロフィール(B−B断面)。
【図7】摺動面の摩擦係数とすべり速度との関係(ストライベック曲線)を示す説明図。
【図8】(a)(b)すべり速度の上昇局面における摩擦係数とすべり速度との関係を示す説明図。
【図9】センタレス研磨工法の説明図。
【図10】十点平均粗さ(RzJIS)と「μ−v特性の負勾配量」との関係を示すグラフ。
【図11】十点平均粗さ(RzJIS)と振動特性(NV評点)との関係を示すグラフ。
【図12】FFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値と「μ−v特性の負勾配量」との関係を示すグラフ。
【図13】(a)(b)(c)プラネタリギヤの歯先面の断面プロフィール。
【図14】10点平均粗さ(RzJIS)とFFTによる40〜60μmピッチのパワーの最大値との間の相関性を示すグラフ。
【図15】10点平均粗さ(RzJIS)と5μm深さの接触面積率(Tp)との間の相関性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0088】
1…差動制限装置、3…リングギヤ、4…サンギヤ、5…プラネタリギヤ、5a…歯先面、6…プラネタリキャリヤ、13…収容穴、13a…壁面、21…溝部、θ…傾き。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、不整な凹凸が形成された差動制限装置において、
前記不整な凹凸が形成された面は、そのフーリエ解析による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなる表面粗さを有すること、
を特徴とする差動制限装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動制限装置において、
前記不整な凹凸が形成された面は、5μm〜12μmの10点平均粗さを有すること、
を特徴とする差動制限装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の差動制限装置において、
前記不整な凹凸は、油溝として機能する複数の第1微細溝と、前記第1微細溝よりも溝深さの浅い複数の第2微細溝とにより構成されること、を特徴とする差動制限装置。
【請求項4】
複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、研削加工により、不整な凹凸が形成される差動制限装置の製造方法において、
前記不整な凹凸が形成される面は、その表面粗さが、10点平均粗さで5μm〜12μmとなるように管理されること、を特徴とする差動制限装置の製造方法。
【請求項5】
複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、研削加工により、不整な凹凸が形成される差動制限装置の製造方法において、
前記不整な凹凸が形成された面は、その表面粗さが、フーリエ解析による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理されること、
を特徴とする差動制限装置の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の差動制限装置において、
前記不整な凹凸が形成された面は、その5μm深さの接触面積率が、30%〜60%となるように管理されること、を特徴とする差動制限装置の製造方法。
【請求項1】
複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、不整な凹凸が形成された差動制限装置において、
前記不整な凹凸が形成された面は、そのフーリエ解析による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなる表面粗さを有すること、
を特徴とする差動制限装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動制限装置において、
前記不整な凹凸が形成された面は、5μm〜12μmの10点平均粗さを有すること、
を特徴とする差動制限装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の差動制限装置において、
前記不整な凹凸は、油溝として機能する複数の第1微細溝と、前記第1微細溝よりも溝深さの浅い複数の第2微細溝とにより構成されること、を特徴とする差動制限装置。
【請求項4】
複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、研削加工により、不整な凹凸が形成される差動制限装置の製造方法において、
前記不整な凹凸が形成される面は、その表面粗さが、10点平均粗さで5μm〜12μmとなるように管理されること、を特徴とする差動制限装置の製造方法。
【請求項5】
複数のプラネタリギヤと、前記各プラネタリギヤの歯先面に摺接しつつ該各プラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、前記プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な一対のギヤとを備え、前記プラネタリギヤの歯先面、又は該歯先面に摺接する前記プラネタリキャリヤの摺接面の少なくとも一方には、研削加工により、不整な凹凸が形成される差動制限装置の製造方法において、
前記不整な凹凸が形成された面は、その表面粗さが、フーリエ解析による40〜60μmピッチのパワーの最大値が0.4μm〜1.2μmとなるように管理されること、
を特徴とする差動制限装置の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の差動制限装置において、
前記不整な凹凸が形成された面は、その5μm深さの接触面積率が、30%〜60%となるように管理されること、を特徴とする差動制限装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−267426(P2008−267426A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108062(P2007−108062)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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