説明

差動式焦電型赤外線センサ

【課題】差動対となる焦電素子を直交方向にずらして配置することにより、従来相殺されていた信号の一部を識別情報等として利用できて、移動物体の識別能力を高めることが可能な作動式焦電型赤外線センサを提供する。
【解決手段】互いに極性の異なる対となる焦電素子の出力を合成して取り出す差動式焦電型赤外線センサにおいて、前記対となる焦電素子は、その並列方向に対する略直交方向の位置が相対的にずれを持って配置されていることを特徴とする。また、前記対となる焦電素子が複数組配置され、各組の焦電素子の並列方向が同一かもしくは互いに略直交することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防犯警備システム等に使用される赤外線センサに係わり、特に、差動対となる焦電素子を備えた差動式焦電型赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、差動式焦電型赤外線センサ1は、例えば図6に示すように、対となる極性の異なる焦電素子2a、2bが並列に配置されると共に、その並列方向Aに対して直交する方向(以下、直交方向Bという)における各焦電素子2a、2bの位置が相対的に一致するようにして基板4上に配置されている。そして、図6(a)に示す矢印イ方向(直交方向B)に対しては、移動物体5が各焦電素子2a、2bで信号1、2として検知されてその合成信号が出力され、図6(b)に示す矢印ロ方向(並列方向A)に対しては、各焦電素子2a、2bで検知された信号1、2が互いに相殺されるようになっている。
【0003】
また、図7及び図8に示すように、移動物体5の識別能力を高めるために複数組の対となる焦電素子2a、2b、3a、3bが配置される場合は、各組及び各組間の焦電素子2a、2b、3a、3bの位置が相対的に一致するようにして配置され、矢印イ、ロ方向に対して各焦電素子2a、2b、3a、3bからの信号1、2が、図9(a)(b)に示す状態で出力されるようになっている。なお、この種の赤外線センサに関する公報としては、例えば特許文献1がある。
【特許文献1】実用新案登録第2597465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図6に示す赤外線センサ1においては、各焦電素子2a、2bを基板4上に効率的に配置できると共に、各焦電素子2a、2bで同時に検知された信号1、2が相殺されるため、外乱による影響をキャンセルすることができるという利点が得られるものの、矢印ロ方向に対して移動物体5の信号もキャンセルされる場合があり、移動物体5を精度良く検知することができない。
【0005】
また、図7及び図8に示す赤外線センサ1の場合は、移動物体5の矢印ロ方向の移動に対して、図9(b)に示すように各信号1、2が検出されるものの、小動物が各焦電素子2a、2b、3a、3bからなる差動対を跨るように横切った場合、信号1、2は、移動物体5が図8に示す人間5aであっても小動物5bであっても同じ波形の信号として出力され、移動物体5が人間5aであるか小動物5bであるかを識別することが困難である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、差動対となる焦電素子を直交方向にずらして配置することにより、従来相殺されていた信号の一部を識別情報等として利用できて、移動物体の識別能力を高めることが可能な差動式焦電型赤外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、互いに極性の異なる対となる焦電素子の出力を合成して取り出す差動式焦電型赤外線センサにおいて、前記対となる焦電素子は、その並列方向に対する略直交方向の位置が相対的にずれを持って配置されていることを特徴とする。また、請求項2に記載の発明は、前記対となる焦電素子が複数組配置され、各組の焦電素子の並列方向が同一かもしくは互いに略直交することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、互いに極性の異なる対となる焦電素子が、並列方向に対する略直交方向の位置が相対的にずれを持って配置されているため、各焦電素子のずれにより、従来相殺されていた信号の一部を取り出して移動物体の識別情報等として利用できて、移動物体が人間かあるいは小動物等かの識別能力を十分に高めることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、対となる焦電素子が複数組配置され、各組の焦電素子の並列方向が同一かもしくは互いに略直交するため、組となった焦電素子を所定に配置することにより、移動物体をその移動方向に係わらず検知できて、移動物体の検知精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図3は、本発明に係わる差動式焦電型赤外線センサの第1の実施形態を示し、図1がその概略構成図、図2がその波形図、図3は赤外線センサを使用した移動物体検知器のブロック図である。なお、上記図7と同一部位には、同一符号を付して説明する。
【0011】
図1に示すように、差動式焦電型赤外線センサ1(以下、赤外線センサ1という)は、対となった極性の異なる第1組の焦電素子2a、2bと、対となった極性の異なる第2組の焦電素子3a、3bを有し、各組の焦電素子2a、2b、3a、3bが並列方向Aに対する直交方向Bにおいて互いにずれを持って配置されている。すなわち、第1組の焦電素子2a、2bは、プラス側の焦電素子2aが図において上方に位置し、マイナス側の焦電素子2bが図において下方に位置して、ずれ量L1だけ上下方向にずれた状態となっている。また、第2組の焦電素子3a、3bも、プラス側の焦電素子3aが図において上方に位置し、マイナス側の焦電素子3bが図において下方に位置して、ずれ量L2だけ上下方向にずれた状態となっている。
【0012】
そして、ずれ量L1とずれ量L2が同一に設定されることにより、第1組の焦電素子2a、2bと第2組の焦電素子3a、3bが、直交方向Bで並列方向Aの略中央部分において重なるように配置されている。なお、4個の焦電素子2a、2b、3a、3bは、例えばセラミック板等からなる基板4上に配置されている。
【0013】
この赤外線センサ1によれば、図1の並列方向Aである矢印イ方向においては、各組の焦電素子2a、3a、2b、3bが並列方向Aで前後していることから、図2(a)に示すように、焦電素子2a、2bで検知される移動物体5の信号1と焦電素子3a、3bで検知される移動物体5の信号2が完全には相殺されず、一部が相殺されない信号が出力される。また、図1の直交方向Bである矢印ロ方向で並列方向Aの略中央部分においては、各組の焦電センサ2a、2b、3a、3bで移動物体5が検知されて、図2(b)に示すように、移動物体5が人間5aの場合には大きな検知信号が得られ、移動物体5が小動物5bの場合には小さな検知信号が得られて、移動物体5に応じて出力が異なる。
【0014】
さらに、図1の中央の斜め方向である矢印ハ方向においては、図2(c)に示すように、各組の焦電素子2a、2b、3a、3bにより移動物体5が人間5aでも小動物5bでも同じ検知信号が出力される。つまり、上記赤外線センサ1の場合、矢印ハ方向の特定条件下では従来と変わらない出力パターンが得られるものの、従来相殺されて出力が得られなかった矢印イ方向については、出力が完全に相殺されることがなく識別情報として利用できる出力パターンが得られ、また、矢印ロ方向については、人間5aと小動物5bとで異なる出力パターンが得られることになり、各出力パターンを総合的に判断することで移動物体5の検知精度を高めることが可能になる。
【0015】
このように構成された赤外線センサ1は、例えば図3に示すように構成された移動物体検知器6として使用される。この移動物体検知器6は、赤外線センサ1の各組の焦電素子2a、2b及び焦電素子3a、3bに接続されて検知された信号1、2を増幅する増幅器7a、7bと、この増幅器7a、7bで増幅された信号を処理する信号処理回路8と、この信号処理回路8で処理された信号に基づいて警報を発するベル、スピーカ等の警報器9等で構成されている。
【0016】
そして、赤外線センサ1から出力される信号1、2に基づいて、警戒エリア内の移動物体5が人間5aであると判定された場合に警報を発することかでき、その際、赤外線センサ1から図2(a)に示す一部相殺さない信号が出力されることから、この信号を移動物体5の識別情報として使用して、例えば移動物体5が人間5aか小動物5bかを明確に識別できることになる。
【0017】
図4及び図5は、本発明に係わる赤外線センサ1の第2の実施形態を示す概略構成図及びその波形図である。以下、上記第1の実施形態と同一部位には同一符号を付して説明する。この第2の実施形態の赤外線センサ1の特徴は、第1組の対となった焦電素子2a、2bの並列方向Aと、第2組の対となった焦電素子3a、3bの並列方向Aとを直交させて配置した点にある。すなわち、第1組の対となった焦電素子2a、2bは、並列方向Aを図において左右方向に設定すると共に、上下の焦電素子2a、2bを直交方向Bである左右方向にずれ量L3ずらして配置する。また、第2組の対となった焦電素子3a、3bは、並列方向Aを図4において上下方向に設定すると共に、左右の焦電素子3a、3bを直交方向Bである上下方向にずれ量L4ずらして配置する。
【0018】
そして、ずれ量L3、L4を所定に設定すると共に、第1組の焦電素子2a、2bの図において下方に第2組の焦電素子3a、3bを配置する。これにより、矢印イ方向においては、各組の焦電素子2a、2b、3a、3bが同一形態で配置されず、図5(a)に示すように検知信号の一部が相殺されない出力が得られる。また、矢印ロ方向においては、図5(b)に示すように、人間5aと小動物5bとで異なる出力が得られ、これにより、矢印イ方向と矢印ロ方向の両方向において、移動物体5が検知できると共にその識別が可能となる。なお、この例の場合、各組の焦電素子2a、2bと焦電素子3a、3bの並列方向Aは、90度完全に直交する方向に限らず、所定角度を有して交差する状態で配置することも可能であるし、ずれ量L3、L4も警戒エリアの形態に応じて同一もしくは異なるように適宜に設定することが可能である。
【0019】
このように、上記各実施形態の赤外線センサ1にあっては、互いに極性の異なる対となる焦電素子2a、2b、3a、3bが、直交方向Bにおいてその位置が相対的にずれを持って配置されると共に、これらが2組設けられているため、各組の焦電素子2a、2b、3a、3bのずれにより、従来完全に相殺されていた信号の一部を取り出すことができて、その信号を例えば移動物体5の識別情報として利用することができる等、移動物体5が人間5aか小動物5b等かの識別能力を十分に高めることができる。
【0020】
また、各組の対となった焦電素子2a、2bと焦電素子3a、3bが差動対として作用するため、差動式の利点である外乱光入射時等の環境変化に対する安定性を保つことができて、検知精度に優れた赤外線センサ1を得ることができる。さらに、各組の対となる焦電素子2a、2b及び焦電素子3a、3bの並列方向Aを同一かもしくは互いに略直交する方向等に設定することにより、移動物体5の移動方向に係わらず検知できる等、移動物体5である侵入者(人間5a)を精度良く検知することができる。また、各組の焦電素子2a、2b及び焦電素子3a、3bを基板4上に配置することにより、配置効率は劣るものの赤外線センサ1を簡単に形成できて、コストパフォーマンスに優れた赤外線センサ1を提供することが可能となる。
【0021】
なお、上記実施形態においては、2組の対となった各焦電素子2a、2b、3a、3bが直交方向Bにおいて中央部が重なるようにしてずらしたが、本発明はこの構成に限定されず、例えば図4の二点鎖線aで示すように、対となった焦電素子2a、2b、3a、3bを直交方向Bにおいて重ならないように完全にずらして配置しても良く、そのずれ量等は、赤外線センサ1が設置される警戒エリアの形態等に応じて、適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、対となった焦電素子を2組有する赤外線センサに限らず、4組あるいは8組等の適宜の組数を有する等、少なくとも対となった焦電素子を1組有する全ての赤外線センサに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係わる差動式焦電型赤外線センサの第1の実施形態を示す概略構成図
【図2】同その波形図
【図3】同該センサを使用した移動物体検知器のブロック図
【図4】本発明に係わる差動式焦電型赤外線センサの第2の実施形態を示す概略構成図
【図5】同その波形図
【図6】従来の差動式焦電型赤外線センサを示す概略構成図
【図7】従来の他の差動式焦電型赤外線センサを示す概略構成図
【図8】同その説明図
【図9】同波形図
【符号の説明】
【0024】
1・・・赤外線センサ、2a、2b、3a、3b・・・焦電素子、4・・・基板、5・・・移動物体、5a・・・人間、5b・・・小動物、6・・・移動物体検知器、7a、7b・・・増幅器、8・・・信号処理回路、9・・・警報器、A・・・並列方向、B・・・直交方向、L1〜L4・・・ずれ量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに極性の異なる対となる焦電素子の出力を合成して取り出す差動式焦電型赤外線センサにおいて、
前記対となる焦電素子は、その並列方向に対する略直交方向の位置が相対的にずれを持って配置されていることを特徴とする差動式焦電型赤外線センサ。
【請求項2】
前記対となる焦電素子が複数組配置され、各組の焦電素子の並列方向が同一かもしくは互いに略直交することを特徴とする請求項1に記載の差動式焦電型赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−14483(P2009−14483A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176141(P2007−176141)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000101400)アツミ電氣株式会社 (69)
【Fターム(参考)】