説明

巻込鋼管製作装置

【課題】巻込速度や巻込精度が均一になるように管状体を巻き込むことにより、小さい口径の巻込鋼管を製作できるようにする。
【解決手段】鋼板を管状に形成した、周方向両端部が未接合の管状体10の外周囲に、軸方向の複数箇所でそれぞれ巻き付けた線状体22を牽引して前記管状体に径方向の圧縮力を作用させて該管状体の周方向一端を他端の内側に巻き込む巻込装置を、それぞれ対応する位置に備えた巻込鋼管製作装置において、前記各巻込装置が、前記線状体を牽引するモータ(ホイスト)30をそれぞれ備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻込鋼管製作装置に係り、特に搬入時の口径を小さくし、既設管に対するPIP(パイプインパイプ)工法の施工性を向上するとともに、その曲がり部を通過させる巻込鋼管の管長を長くすることができる巻込鋼管製作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管の更新工法の一つであるPIP工法は、近年、市街地における掘削工事が困難であることから、非開削によって既に地中に埋設されている老朽管内に新管を布設する工法として知られている。この工法に普通鋼管を用いる場合には、既設管に対してその内部に隙間量50mm程度で布設することができることから、通水断面を十分に確保することができる。
【0003】
また、このPIP工法には、巻込鋼管を用いることも行われている。このようなPIP工法に用いる巻込鋼管については、例えば特許文献1に、鋼板をベンディングロールにより拡管時の曲率半径より小さい曲率半径で且つ曲率半径を順次変化させて所定の重ね代を有する巻込鋼管を製作する技術が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、拡管作業を容易にするために、鋼板を折り曲げて形成した端縁部未接合の略円筒状の管体材料の外周にワイヤロープを巻き付け、該ワイヤロープの少なくとも一端を牽引してワイヤロープにより前記管体材料外径に緊縮力を作用させ、管体材料の一方の端縁部を管体材料鋼板内面に巻き込むことにより、塑性曲げを起こすことなく弾性曲げによる自然な状態の巻き込みが行われるようにして巻込鋼管を製作する技術が開示されている。
【0005】
更に特許文献3には、巻込鋼管の縮管後の外径に略対応した狭幅の保持部を備えた縮管治具を配置し、該縮管治具の上方に巻込鋼管を配置した後、前記縮管治具の上方から保持部に巻込鋼管を順次落とし込むことにより、自重により縮管して巻込鋼管を容易に製作することができるとした技術が開示されている。
【0006】
このようなPIP工法に用いる巻込鋼管は、製管時に周方向両端部に対する軸方向の溶接を行わず、一端部を他端部に対して周方向に巻き込むようにしていることにより管の口径を小さくすることができる。その結果、一般的に、既設管の曲がり部を通過させる通過管長は、通常の鋼管(普通鋼管)に比べて巻込鋼管の方が長くできるため、既設管内で溶接により布設長さを延長する作業を少なくすることができることから、布設のための施工日数を短縮することができる。また、口径を小さくして搬入できるため、搬入作業を通常の鋼管よりもスムーズに行うことができるほか、拡管後に周方向両端部を軸方向に溶接して管を完成させると、既設管に対して隙間量20mm程度で新管を布設できることから、普通鋼管に比べて既設管の通水断面により近づけることができるという利点もある。
【0007】
このようなPIP工法で布設の施工能率を向上させるためには、前述したように、できるだけ口径の小さい巻込鋼管を製作することが重要となる。
【0008】
従来のPIP工法に用いる巻込鋼管の製作には、例えば前記特許文献2に開示されているように、鋼板にベンディングロールを使って、設定されたカーブを付けて管状体にし、該管状体の外周囲に軸方向の複数箇所にワイヤを巻き付けるとともに、該ワイヤをそれぞれ対応する位置に設置したレバーブロックで締め付け、後に拡管する際に元の形状に戻る弾性挙動範囲内で、その締付量(巻込量)を調整しながら所定の重ね代になるまで巻き込む方法を採用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−144820号公報
【特許文献2】特開昭61−249623号公報
【特許文献3】特開2002−174362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記のように軸方向複数箇所の管状体の外周囲に巻き付けたワイヤを、複数の作業者がそれぞれレバーブロックを使用して締め付ける場合、該レバーブロックは締付量を段階的にしか調整できないため、作業者の力の違いに起因する誤差やワイヤの当たり具合等により、各ワイヤに対する巻込速度や巻込精度を均一にすることが難しい。そのために、従来のPIP工法に用いる巻込鋼管には、その口径を十分に小さくすることができないという問題があった。
【0011】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、巻込速度や巻込精度が均一になるように管状体を巻き込むことにより、従来より小さい口径の巻込鋼管を製作することができる巻込鋼管製作装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、鋼板を管状に形成した、周方向両端部が未接合の管状体の外周囲に、軸方向の複数箇所でそれぞれ巻き付けた線状体を牽引して前記管状体に径方向の圧縮力を作用させて該管状体の周方向一端を他端の内側に巻き込む巻込装置を、それぞれ対応する位置に備えた巻込鋼管製作装置において、前記各巻込装置が、前記線状体を牽引するモータをそれぞれ備えたことにより、前記課題を解決したものである。
【0013】
ここで、前記巻込装置が、前記線状体の一端に連結されるチェーンブロックと、該チェーンブロックのチェーンを巻き取るホイストとを備えることができる。
【0014】
また、前記線状体の各巻付位置の近傍に、前記管状体の巻込量を検出する検出手段をそれぞれ配設することができる。
【0015】
また、前記各検出手段により検出された巻込量に基いて、前記各巻込装置が備えているモータを制御する制御手段を備えることができる。
【0016】
また、前記検出手段を、レーザの投・受光部を備えたレーザ変位計とすることができる。
【0017】
また、前記管状体の軸方向複数箇所に、該管状体の外周部を下方から支持する、周方向に対向配置され2つの支持ローラを備えた管受台を、それぞれ配設することができる。
【0018】
更に、対向配置された前記2つの支持ローラの、互いの対向間隔を変更可能にすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、軸方向の複数箇所について管状体の外周囲に巻き付けた線状体を、モータを使って牽引するようにしたので、該管状体を連続的に巻き込むことが可能となり、均一な巻込速度や巻込精度で巻き込むことが可能となる。従って、レバーブロックにより作業者が手作業で段階的に巻き込む場合に比べ、巻込量を高精度で均一に制御して巻込量を増大することが可能となり、口径を更に小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る一実施形態の巻込鋼管製作装置の概要を示す側面図と管状体内部の説明図
【図2】本発明に係る一実施形態の巻込鋼管製作装置の概要を示す正面図
【図3】管状体に対する変位計の設置例を示す管状体内部の模式図
【図4】前記変位計を用いる制御系の概要を示すブロック図
【図5】本実施形態における駆動制御の手順を示すフローチャート
【図6】本実施形態における巻込鋼管の効果を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1(A)は、本発明に係る一実施形態の巻込鋼管製作装置の概要を示す側面図、図2はその要部を示す正面図である。
【0023】
本実施形態の巻込鋼管製作装置は、巻込鋼管を製作するためにその前段の管状体10を載置するためのベース部12と、該ベース部12の一端部に立接された垂直フレーム部14とを骨格とする、第1、第2、第3の各台車16A、16B、16Cを備えている。
【0024】
第1台車16Aと第2台車16Bの中間位置と、第2台車16Bと第3台車16Cの中間位置には、管状体10の軸方向2箇所の外周部を下方から回転可能に支持するローラ(支持ローラと称する)19A、19Bをそれぞれ主体として構成されている2つの管受台18A、18Bが周方向に対向配置されているとともに、これら2つの管受台18A、18Bは対向間隔が、支持する管状体10の口径に合わせて変更可能になっている。
【0025】
このように、軸方向2箇所に対向配置された管受台18A、18Bにより支持された管状体10は、一端が固定部20に固定されたワイヤロープ(線状体)22が、対向配置された2つのガイドローラ24A、24Bによりガイドされて外周囲に巻き付けられ、他端が変向ローラ26により上方に変向された補助具26Aを介してチェーンブロック28の下端部に連結されている。
【0026】
このチェーンブロック28の上方には、モータ(明示せず)を備えたホイスト30が前記垂直フレーム部14に固定され、該ホイスト30によりチェーン28Aを巻き上げることにより、前記ワイヤロープ22を牽引し、前記管状体10に径方向の圧縮力を作用させることが可能になっている。
【0027】
本実施形態では、前記ホイスト30とチェーンブロック28とを含んで巻込装置が構成されており、同様の構成からなるチェーンブロック28とホイスト30は、各台車16A、16B、16C毎に1組ずつ設置され、前記管状体10を軸方向の3箇所でワイヤロープを同時に牽引できるようになっている。
【0028】
また、前記各台車16A、16B、16Cは、管状体10の軸方向に移動可能で、管長に応じて管状体10に対するワイヤロープ22の巻付位置を適切な間隔に変更可能になっている。
【0029】
本実施形態では、また、ワイヤロープの巻付位置の各近傍の管状体10の内周面には、図3に模式的に、図1(B)にその一部を示すように、各ワイヤロープ22が牽引されることにより該管状体10が圧縮されて矢印方向に巻き込まれたときの巻込量を検出するための第1、第2、第3の各レーザ変位計D1、D2、D3が設置されている。
【0030】
これら変位計D1、D2、D3は反射型であり、各変位計の投・受光部Aにより反射部Bからの反射光として検出される長さの1/2が、それぞれ各巻付位置における巻込量d1、d2、d3として検出されるようになっている。ここで、反射部Bとしては外反射面としても、管径の変化に合わせて反射角度が可変のプリズムミラー等の鏡面としてもよい。
【0031】
前記各変位計D1、D2、D3により検出される巻込量d1、d2、d3に対応する各検出信号は、図4に制御装置の概要を示すように、それぞれコンピュータからなるコントローラ32に入力され、該コントローラ32では別途入力部から入力される巻込目標値d0になるように、各ホイスト30A、30B、30Cがそれぞれ備えているモータに駆動信号を出力し、該当する各ワイヤロープ22を牽引して管状体10の巻き込みを開始するとともに、巻き込み中に各変位計D1、D2、D3により検出される巻込量d1、d2、d3に基いて、図5に示すフローチャートに従って巻込作業を行う。
【0032】
即ち、各ホイスト30A、30B、30Cに対して駆動信号を出力し、管状体10の該当する位置における巻き込みを開始し(ステップS1)、各レーザ変位計D1、D2、D3により検出される巻込量d1、d2、d3を所定の時間間隔で入力する(ステップS2)。
【0033】
各時間毎に入力される巻込量の中では、中間位置の巻込量d2が比較的安定しているので、該巻込量d2を基準としてまず巻込量d1と巻込量d2の差分(d1−d2)が許容値±Δ1以内か否かを判定し(ステップS3)、この許容値を外れている場合には、該許容値内になるように差分の正負と絶対値に応じて第1ホイスト30A内蔵のモータに対する回転速度増減の制御を行う(ステップS4)。
【0034】
次いで、巻込量d3と巻込量d2の差分(d3−d2)が許容値±Δ2以内か否かを判定し、外れている場合には、同様に差分の正負と絶対値に応じて第3ホイスト30C内蔵のモータに対する回転速度増減の制御を行う(ステップS5、6)。
【0035】
以上の各ホイストに対する制御を、第2ホイスト30Bによる巻込量d2が目標値d0になるまで繰り返し(ステップS7)、巻込量d2が目標値d0になったら各ホイスト30A、30B、30Cに対する駆動信号の出力を停止し、巻き込みを終了する(ステップS8)。
【0036】
以上詳述した本実施形態によれば、管状体10をモータで駆動するホイスト30により巻き込むようにしたので、連続的な巻き込みが可能となることから、段階的な巻き込みしかできないレバーブロックを使う場合に比べ、作業者間の人為的な誤差が入り込むことを防止できる上に、巻込速度を一定にできることから、円周方向への巻込精度を向上させることが可能となった。
【0037】
その結果、図6(A)、(B)にクリップ34で固定した状態の巻込鋼管を、従来の場合と対比して示すように、従来は(A)に例示するように周方向全長に対する重ね代L1が0.15%の巻き込みしかできなかったものを、本発明によれば(B)に例示するように0.2%の重ね代L2に巻き込みが可能となり、一段と巻込鋼管の口径を小さくすることが可能となった。
【0038】
また、自動制御により管状体10の巻き込みを行うことが可能となったことから、更に作業者の人為的な誤差も排除できるため、一段と巻込鋼管の口径を小さくすることが可能となった。
【0039】
なお、前記実施形態では、線状体がワイヤロープである場合を説明したが、同様の用途に用いられるものであれば任意であり、例えばナイロンストリング等であってもよい。
【0040】
また、巻込装置はホイストを備えているものに限らず、モータを別体で設けたものであってもよい。
【0041】
また、線状体の巻付箇所は3箇所に限らず、2箇所又は3箇所以上であってもよい。
【0042】
更に、支持ローラからなる管受台の設置箇所も軸方向の2箇所に限らず、例えば図2の左右両端部の2箇所を含む4箇所にしてもよい。
【0043】
10…管状体
12…ベース部
14…垂直フレーム部
16(A、B、C)…台車
18(A、B)…管受台
19(A、B)…支持ローラ
20…固定部
22…ワイヤロープ(線状体)
24(A、B)…ガイドローラ
26…変向ローラ
28…チェーンブロック
30(A、B、C)…ホイスト
32…コントローラ
D(1、2、3)…レーザ変位計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を管状に形成した、周方向両端部が未接合の管状体の外周囲に、軸方向の複数箇所でそれぞれ巻き付けた線状体を牽引して前記管状体に径方向の圧縮力を作用させて該管状体の周方向一端を他端の内側に巻き込む巻込装置を、それぞれ対応する位置に備えた巻込鋼管製作装置において、
前記各巻込装置が、前記線状体を牽引するモータをそれぞれ備えていることを特徴とする巻込鋼管製作装置。
【請求項2】
前記巻込装置が、前記線状体の一端に連結されるチェーンブロックと、該チェーンブロックのチェーンを巻き取るホイストとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の巻込鋼管製作装置。
【請求項3】
前記線状体の各巻付位置の近傍に、前記管状体の巻込量を検出する検出手段がそれぞれ配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の巻込鋼管製作装置。
【請求項4】
前記各検出手段により検出された巻込量に基いて、前記各巻込装置が備えているモータを制御する制御手段を備えていることを特徴とする請求項3に記載の巻込鋼管製作装置。
【請求項5】
前記検出手段が、レーザの投・受光部を備えたレーザ変位計であることを特徴とする請求項3又は4に記載の巻込鋼管製作装置。
【請求項6】
前記管状体の軸方向複数箇所に、該管状体の外周部を下方から支持する、周方向に対向配置され2つの支持ローラを備えた管受台が、それぞれ配設されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の巻込鋼管製作装置。
【請求項7】
対向配置された前記2つの支持ローラが、互いの対向間隔を変更可能であることを特徴とする請求項6に記載の巻込鋼管製作装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−228709(P2012−228709A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98174(P2011−98174)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】