説明

布基礎の補強方法

【課題】施工者による施工品質のバラツキを防止できるとともに簡便に施工可能な木造構造物の布基礎の補強方法を提供する。
【解決手段】木造建築物の布基礎の補強方法であって、無筋コンクリートからなる布基礎の片面又は両面に、ガラス繊維シートと該ガラス繊維シートに含浸されている光硬化性樹脂組成物とを含む光硬化型プリプレグシートを接着させる接着工程、及び該接着後の該光硬化型プリプレグシートを光硬化させる硬化工程を含む、補強方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型プリプレグシートを用いて木造構造物の布基礎を補強する方法に関する。具体的には、無筋コンクリートからなる木造構造物の布基礎に、ガラス繊維シートを補強材とする光硬化型プリプレグシートを貼り付け、該シートを光硬化させることにより、木造構造物の強度を向上せしめる補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
阪神淡路大震災、中越地震等の大規模な地震による木造構造物の倒壊が近年大きな社会問題となり、木造構造物の耐震性の向上及び改善に対する社会的要求が高まっている。大規模地震発生時には、木造構造物の基礎として用いられている、無筋コンクリートからなる布基礎(通常逆T字型の断面を持つ連続したコンクリートによる基礎)が破壊することにより、木造構造物全体の破壊又は倒壊がもたらされる場合が多い。木造構造物(例えば木造住宅)の基礎としては、最近では、鉄筋コンクリート構造の布基礎が施工されることが多く、地震に対して十分な強度を有する構造になっていることがほとんどであるが、建築基準法の改正された昭和56年より前に建築された住宅においては、無筋コンクリート構造の布基礎が多い。従って、無筋コンクリート構造の布基礎を実用的な方法により補強することが求められている。
【0003】
コンクリート製の布基礎の補強方法としては、例えば次のような方法が提案されている。無筋コンクリートからなる布基礎の両側面に該布基礎の立ち上がり部から天端まで所望の水平長さ範囲でアラミド等の高強度繊維シートを接着することで、布基礎に生じる面内曲げモーメントによるひび割れ及び面外撓みによるひび割れを抑制するように構成したことを特徴とする基礎補強構造が提案されている(例えば特許文献1)。また、コンクリート構造物の表面にガラス繊維シートを接着し、更に繊維シートを貼り付けたコンクリート構造物の表面にガラス製のファイバーアンカーを埋込んで固着するコンクリート構造物の補強方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−132081号公報
【特許文献2】特開2009−57793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される補強方法に用いるアラミド繊維シートは、高い引張り強度を有するものであるが、高剛性、低伸度の材料であるため、基礎のコンクリートの変形に追随することができないため、地震による荷重を受けた場合にコンクリートと繊維シートとが剥離し、十分な補強効果を発揮できない問題がある。また、上記のアラミド繊維シートは高価な材料であるため、中古木造住宅の補修への適用は困難である。一方、特許文献2の方法は、伸度及び靭性率の高いガラス繊維を用いる補強方法であるが、コンクリート構造物中に穿孔してファイバーアンカーを埋め込む必要があり、既設基礎へのダメージが避けられず、建築から年数を経た木造住宅の補修方法として実施するには問題があった。
【0006】
更に、特許文献1及び特許文献2のいずれにおいても、補強繊維を現場でコンクリートに貼付け、未硬化の液状樹脂を含浸した後で硬化させる方法をとるが、現場での樹脂含浸は、一般的に塗り斑及び樹脂層の厚み斑が出やすい。また、木造住宅の基礎の補強は、狭く込み入った作業場所での、人手による作業となり、作業者の熟練度の影響が出やすく、補修工事の信頼性を確保するのが困難である。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑み、地震等の荷重による無筋コンクリート製の基礎の破壊を防ぐ為に、簡便で実用的な施工方法であるとともに施工者による施工品質のバラツキを防止できる、木造構造物の布基礎の補強方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1] 木造建築物の布基礎の補強方法であって、
無筋コンクリートからなる布基礎の片面又は両面に、ガラス繊維シートと該ガラス繊維シートに含浸されている光硬化性樹脂組成物とを含む光硬化型プリプレグシートを接着させる接着工程、及び
該接着後の該光硬化型プリプレグシートを光硬化させる硬化工程
を含む、補強方法。
[2] 該光硬化型プリプレグシートとして、該ガラス繊維シートが一方向強化されたガラスロービングクロスである一方向強化プリプレグシートを用い、
該接着工程において、該布基礎の長手方向と該ガラスロービングクロスの強化方向とを一致させて該布基礎に該一方向強化プリプレグシートを接着させる、上記[1]に記載の補強方法。
[3] 該光硬化型プリプレグシートとして、該ガラス繊維シートが一方向強化されたガラスロービングクロスである一方向強化プリプレグシートと、該ガラス繊維シートが等方性のガラス繊維シートである等方性プリプレグシートとを少なくとも用い、
該接着工程において、該布基礎の長手方向と該ガラスロービングクロスの強化方向とを一致させて該布基礎に該一方向強化プリプレグシートを接着させた後、該一方向強化プリプレグシートに該等方性プリプレグシートを接着させる、上記[1]又は[2]に記載の補強方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の補強方法においては、ガラス繊維シートを補強材として使用する。このような補強材は比較的伸度が高く、基礎の変形に追随して伸長しつつ優れた補強効果を発現するため、小変形の段階で基礎と剥離することなく、靭性的な補強が可能である。
【0010】
また、本発明の補強方法によれば、コンクリートにアンカーを埋める必要がないので、コンクリート基礎に対するダメージを与えることがない。
【0011】
ガラス繊維は、比較的伸度が大きいため、補強繊維が補強方向に対して弛んでいると、補強効果が発現できない恐れがある。このような弛みは、従来方法による現場での繊維シートへの樹脂含浸の際に発生する場合がある。これに対し、本発明の補強方法では、予め、繊維シートに樹脂を含浸させてなるプリプレグシートを製造し、現場でこれを貼り付けるため、繊維の弛みを軽減することができる。
【0012】
特に、本発明の一態様では、一方向強化されたガラスロービングクロスを用いて形成したプリプレグシートの強化方向を、補強の必要な基礎の長手方向に一致させた状態で、両者を貼付ける。この態様によれば、ガラス繊維の強度及び靭性を有効に活用して基礎を補強することができる。
【0013】
更に、本発明の補強方法によれば、予め製造した光硬化型プリプレグシートを使用して現場での作業を行うため、現場での人手による含浸作業を行う従来方法で発生する、施工者による施工品質のバラツキ(例えば含浸樹脂の厚みのバラツキ)を軽減することができ、補強の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】補強材として一方向強化されたガラスロービングクロスを用いる態様における光硬化型プリプレグシートの模式図である。
【図2】補強材として等方性のガラス繊維シートを用いる態様における光硬化型プリプレグシートの模式図である。
【図3】布基礎の片面に一方向強化プリプレグシートを接着させた状態を示す模式図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中のA−A’断面における断面図である。
【図4】布基礎の両面に一方向強化プリプレグシートを接着させた状態を示す模式図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中のB−B’断面における断面図である。
【図5】布基礎の片面の略全面及び反対側の片面の一部に一方向強化プリプレグシートを接着させた状態を示す模式図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中のC−C’断面における断面図である。
【図6】布基礎の片面に一方向強化プリプレググシート及び等方性プリプレグシートを重ねて接着させた状態を示す模式図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中のD−D’断面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様は、木造建築物の布基礎の補強方法であって、無筋コンクリートからなる布基礎の片面又は両面に、ガラス繊維シートと該ガラス繊維シートに含浸されている光硬化性樹脂組成物とを含む光硬化型プリプレグシートを接着させる接着工程、及び該接着後の該光硬化型プリプレグシートを光硬化させる硬化工程を含む、補強方法を提供する。本発明の補強方法は、無筋コンクリートからなる布基礎を有する木造建築物において深刻な問題となっている、布基礎に掛かる荷重による該布基礎の破壊を抑制又は防止するものである。
【0016】
<光硬化型プリプレグシート>
本発明に用いる光硬化型プリプレグシートは、補強材としてのガラス繊維シートと、該ガラス繊維シートに含浸されている光硬化性樹脂組成物とを含み、典型的にはこれらからなる。光硬化性樹脂組成物は、主剤としての光硬化性樹脂(典型的には不飽和結合を有する樹脂)の他、例えば後述する各種成分を含有するものである。好ましい態様において、光硬化性樹脂組成物は、光硬化性樹脂を増粘させるための増粘剤を含有できる。
【0017】
図1及び図2は本発明に用いる光硬化型プリプレグシートの例を示し、図1は、補強材として一方向強化されたガラスロービングクロスを用いる態様における光硬化型プリプレグシートの模式図であり、図2は、補強材として等方性のガラス繊維シートを用いる態様における光硬化型プリプレグシートの模式図である。図1に示す一方向強化プリプレグシート1は、本発明において用いる光硬化型プリプレグシートであり、補強材としての一方向強化されたガラスロービングクロス11に光硬化性樹脂組成物12が含浸されている。図2に示す等方性プリプレグシート2は、本発明において用いる光硬化型プリプレグシートであり、補強材としての等方性のガラス繊維シート21(例えば等方性のガラスクロス)に光硬化性樹脂組成物22が含浸されている。
【0018】
[光硬化性樹脂組成物]
光硬化性樹脂組成物は、特定波長領域の紫外線、可視光線、近赤外線等に感応して重合反応する組成物として定義され、典型的には、主剤である不飽和結合を有する樹脂(以下、主剤樹脂ともいう)と光重合開始剤とを含有する。光硬化性樹脂組成物の主剤樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、アリルエステル樹脂、キシレン樹脂等がある。これらの樹脂は、単独で用いても良く、2種以上を適宜混合して用いても良い。
【0019】
光硬化性樹脂組成物は、後述のガラス繊維シートへの含浸性等を考慮し、液状重合性単量体を含有することが好ましい。液状重合性単量体は、主剤樹脂との溶解性及び重合性を有するものであれば、特に制限されず、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等が好ましく用いられる。木造建造物の住民及び/又は施工者に対する臭気対策を講じる場合は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等のアクリル化合物系の液状重合性単量体が好ましく用いられる。液状重合性単量体の配合割合は、主剤樹脂100質量部に対して、10質量部〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは20質量部〜60質量部である。上記配合割合が10質量部以上である場合、光硬化性樹脂組成物のガラス繊維シートへの含浸性が良好であり、100質量部以下である場合、液状重合性単量体の揮発が少なく、施工時の臭気が少ない。
【0020】
光重合開始剤としては、紫外線から近赤外線までの、目的の波長領域で感光性を有する公知の光重合開始剤を単独又は2種以上の組合せで用いることができる。光硬化性樹脂組成物の硬化速度の観点から、紫外線領域に感光性を有する光重合開始剤が好ましく用いられる。このような光重合開始剤としては、ラジカル系開始剤として、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン等のベンジルケタール型開始剤、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のα−ヒドロキシアセトフェノン型開始剤、アミノアセトフェノン型開始剤、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドやビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド型開始剤、O−アシルオキシム型開始剤、チタノセン型開始剤等が挙げられ、カチオン系開始剤として、例えば、オニウム塩、アリールジアゾニウム塩、鉄−アレーン錯体等が挙げられ、アニオン系開始剤として、例えば、アルキルリチウム化合物等が挙げられる。光重合開始剤の配合割合は、主剤樹脂100質量部に対して、例えば0.05質量部〜15質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部〜10質量部である。上記配合割合が0.05質量部以上である場合、光硬化性樹脂組成物の硬化速度が速く、短時間での施工が可能であり、15質量部以下である場合、硬化後の光硬化性樹脂組成物の強度が高く、補強効果が良好である。
【0021】
上記光硬化性樹脂組成物には、公知の添加剤を添加しても良い。具体的には、増粘剤、カテコール、ハイドロキノン等の重合禁止剤、水酸化アルミニウム、燐系化合物等の難燃剤、ガラス粒子等の充填材、ポリエチレン等の硬化収縮剤等を、光硬化性が著しく阻害されない範囲で、1種又は2種以上使用できる。
【0022】
上記増粘剤は、光硬化性樹脂組成物を増粘させて、硬化前の光硬化型プリプレグシートの腰を強くし、取扱いを容易にするという利点を与える。増粘剤の種類は特に限定されないが、例えば酸化マグネシウム等の金属酸化物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、イソシアネート化合物、又は熱可塑性樹脂粉末等が好ましい。中でも、光硬化型プリプレグシートの品質安定性の観点から、熱可塑性樹脂粉末を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂粉末は、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等の重合性単量体から選ばれた少なくとも1種の単量体を50質量%以上含有する単量体組成物を重合反応させることにより得られる。増粘剤の配合割合としては、例えば、100質量部に対して5〜30質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。上記配合割合が5質量部以上である場合、硬化前の光硬化型プリプレグシートの腰が強くて取扱い性が良好であり、30質量部以下である場合、硬化後の光硬化型プリプレグシートの耐熱性が良好である。
【0023】
本発明においては、光硬化性樹脂組成物に必要に応じて溶剤を添加し、光硬化性樹脂組成物溶液として用いてもよい。
【0024】
[ガラス繊維シート]
ガラス繊維シートとしては、ガラスロービングクロス、ガラスクロス、チョップトストランドマット等を用いることができ、これらを組み合わせて使用することもできる。ガラス繊維シートとしては、補強効果が特に良好であるという観点から、一方向強化されたガラスロービングクロスが好ましく用いられる。一方向強化されたガラスロービングクロスとしては、縦方向と横方向とのガラスロービングの本数又は太さを変えて、一方向の強度を高めた布、又は一方向のみガラスロービングを有し、該ガラスロービングと直角の方向にはガラスヤーン若しくはガラス以外の繊維を用いて織った布、又は、一方向にガラスロービングを引きそろえて、接着剤等で帯状に束ねたもの、等を用いることができる。ここで一方向強化されたとは、強化方向(すなわち引張強度が最大となる方向)の引張強度が非強化方向(すなわち引張強度が最小となる方向)の引張強度の2倍以上であることを意味する。また、非強化方法の引張強度が小さく、後述した方法で測定不可能なものも含む。
【0025】
本発明においては、等方性のガラス繊維シートも使用でき、好ましい態様において、上記の一方向強化されたガラスロービングクロスとの組合せで用いる。等方性のガラス繊維シートとしては、等方性の、ガラスクロス、チョップトストランドマット等を使用できる。本明細書で記載する等方性とは、引張強度が最大となる方向での引張強度が、引張強度が最小となる方向での引張強度の2倍未満であることを意味する。
【0026】
なお本明細書で記載する引張強度とは、JIS R 3420の引張強さの測定方法により測定される値を意味する。
【0027】
ガラス繊維シートの目付量としては、450g/m2〜1350g/m2が好ましい。上記目付量が450g/m2以上である場合、補強効果が良好であり、1350g/m2以下である場合、経済性及び施工性が良好である。上記目付量は、より好ましくは800〜1350g/m2である。なお本明細書で記載する目付量とは、ガラス繊維シートの単位面積当たりの質量であり、JIS R 3420の「質量」の測定方法により測定される値である。
【0028】
[光硬化型プリプレグシートの製造]
光硬化型プリプレグシートは、上記の光硬化性樹脂組成物(必要に応じて溶剤が添加された光硬化性樹脂組成物溶液の状態であることができる)を上記のガラス繊維シートに含浸し、その後、加熱、光照射等により増粘させることにより、連続式又はバッチ式で製造される。連続式の場合には、ガラス繊維シートをロールより巻き出し、含浸装置でガラス繊維シートに光硬化性樹脂組成物を含浸し、加熱装置又は光照射装置により増粘させ、巻取り装置で巻き取ることにより、ロール状の光硬化型プリプレグシートを製造できる。
【0029】
含浸の方法としては、光硬化性樹脂組成物を満たした浸漬槽中にガラス繊維シートを走行させて浸漬する方法、走行するガラス繊維シートに、ダイコーター、ロールコーター等で光硬化性樹脂組成物を塗布する方法、フィルムに光硬化性樹脂組成物を塗布し、これをガラス繊維シートに転写する方法等を用いることができる。また、浸漬又は塗布後のガラス繊維シートをスクイズロールに通して樹脂含浸量を均一に調整することができる。
【0030】
このように連続的に製造した光硬化型プリプレグシートは、巻き出しから巻取りにいたる工程において適正な張力がかけられることにより、補強材であるガラス繊維シートの弛みがなく、樹脂の付着量が均一で、物性のばらつきが少ないものであり好ましい。
【0031】
一方、ガラス繊維シートを切断して枚葉とし、含浸及び増粘を行なうことにより、枚葉状の光硬化型プリプレグシートをバッチ式で製造することもできる。
【0032】
光硬化型プリプレグシートには、運搬時及び現場での作業時の取扱性の観点から、保護フィルムを片面又は両面に積層しても良い。保護フィルムを積層することにより、光硬化型プリプレグシート表面の硬化性向上、光硬化型プリプレグシートの長期品質安定性向上及び臭気抑制を図ることができる。保護フィルムの材質は、特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリエステル等の樹脂材料から成形された汎用のフィルム材が用いられる。その中でも、ポリエチレンテレフタレート製で、厚み20μm〜60μmのフィルムが好ましく用いられる。
【0033】
特に、布基礎への接着面側の保護フィルムは、シリコン樹脂等で離型処理されていることが好ましい。一方、該接着面側と反対側の保護フィルムには、光硬化性樹脂組成物が含有する光重合開始剤が感光性を有する波長領域において遮光性を有するコーティング処理が施されていることが好ましい。
【0034】
上記保護フィルムは、光硬化型プリプレグシートの製造において、光硬化性樹脂組成物の含浸後に貼り付けても良いし、含浸前にガラス繊維シートに保護フィルムを貼り付けておいても良いし、保護フィルムに液状の上記光硬化性樹脂組成物を塗布した後ガラス繊維シートと重ね合わせることにより、樹脂の含浸と保護フィルムの貼付けとを同時に行っても良い。
【0035】
本発明で用いる光硬化型プリプレグシートにおいては、ガラス繊維シート100質量部に対する光硬化性樹脂組成物の含有量が150〜400質量部であることが好ましい。該含有量が150質量部以上である場合、光硬化型プリプレグシートと布基礎との接着強度が特に良好であり、400質量部以下である場合、ガラス繊維シートによる補強効果が特に良好である。光硬化性樹脂組成物の該含有量は、200〜350質量部であることがより好ましい。
【0036】
次に、本発明に係る木造構造物の布基礎の補強方法の各工程について具体的に説明する。
【0037】
<接着工程>
本工程では、布基礎の片面又は両面に、上述した光硬化型プリプレグシートを接着させる。布基礎は、無筋コンクリートからなる。図3〜6は、光硬化型プリプレグシートを布基礎に接着させた状態の例を示す。
【0038】
光硬化型プリプレグシートを布基礎に接着させる際、接着強度向上又は布基礎と光硬化型プリプレグシートとの間に介在する気泡の除去作業の効率化を目的として、必要によりプライマーを塗布する。プライマーとしては、ウレンタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の硬化性樹脂と硬化剤とを塗布前に混合させて用いる2液性プライマー、又はこれらの硬化性樹脂に硬化剤成分が予め含有されており、塗布後に反応が進行して硬化する1液性プライマーを用いることができ、1液性プライマーと2液性プライマーとを重ねて塗布することもできる。本発明においては、1液性の湿気硬化ウレタンプライマーが好ましく用いられる。1液性の湿潤硬化ウレタンプライマーとは、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネートと、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール等の活性水素基含有化合物との反応によって調製された、一分子中に1個以上の遊離イソシアネート基を有するプレポリマーと、溶剤、触媒、フィラー等を混合したものであり、塗布後にコンクリート基材又は空中の湿気により硬化反応が進むものである。本発明においては、1液性の湿気硬化ウレタンプライマーを用いることにより、より安定した補強効果が得られる。
【0039】
図3は、布基礎3の片面に一方向強化プリプレグシート1を接着させた状態を示す模式図であり、図4は、布基礎3の両面に一方向強化プリプレグシート1を接着させた状態を示す模式図である。図5は、布基礎の片面の略全面及び反対側の片面の一部に一方向強化プリプレグシート1を接着させた状態を示す模式図であり、図6は、布基礎3の片面に一方向強化プリプレググシート1及び等方性プリプレグシート2を重ねて接着させた状態を示す模式図である。本発明において、光硬化型プリプレグシートは、例えば図3に示すように布基礎の片面に接着させてもよいし、例えば図4に示すように布基礎の両面に接着させてもよい。好ましくは、布基礎の少なくとも表側面(すなわち木造構造物の外側となる面)に、光硬化型プリプレグシート(特に好ましくは、少なくとも一方向強化プリプレグシート)を接着させる。
【0040】
図5に示すように、布基礎の片面の略全面及び反対側の片面の一部に光硬化型プリプレグシートを接着させる場合、例えば布基礎の表側面の略全面と裏側面の一部とに光硬化型プリプレグシートを接着させることによって、全面貼付けがしにくい裏側面については、一部にのみ貼付けることにより、表側面のみの貼付けに比較して高い補強効果が得られるという利点が得られる。このとき、布基礎の裏側面の面積のうち、光硬化型プリプレグシートを接着させる部分の割合は、20〜60%であることが好ましい。上記割合が20%以上である場合補強効果が高い点で有利であり、60%以下である場合施工が容易である点で有利である。上記割合は、より好ましくは25〜50%である。
【0041】
なお、本発明において、布基礎に2層以上(例えば、布基礎の両面にそれぞれ1層若しくは2層以上、又は片面に2層以上)の光硬化型プリプレグシートを接着させる場合光硬化型プリプレグシートの種類(例えば、光硬化性樹脂組成物及びガラス繊維シートの各々並びにこれらの組合せ)は互いに同じでも異なってもよい。
【0042】
本発明において、光硬化型プリプレグシートとして、ガラス繊維シートが一方向強化されたガラスロービングクロスである一方向強化プリプレグシートを用いる場合には、本工程において、布基礎の長手方向(すなわち木造構造物の水平の方向)とガラスロービングクロスの強化方向とを一致させて布基礎に一方向強化プリプレグシートを接着させることが好ましい。炭素繊維、アラミド繊維等、従来コンクリート補強に使用されている繊維に比較して、ガラス繊維の弾性率は低いが、一方向強化のガラスロービングクロスを用い、その強化方向を基礎の長手方向と一致させることにより、靭性を活かした補強ができると考えられるからである。
【0043】
本発明の好ましい態様においては、光硬化型プリプレグシートとして、ガラス繊維シートが一方向強化されたガラスロービングクロスである一方向強化プリプレグシートと、ガラス繊維シートが等方性のガラス繊維シートである等方性プリプレグシートとを少なくとも用い、図6に示すように、一方向強化プリプレグシート1に等方性プリプレグシート2を重ねる。これにより、それぞれ単独で用いた場合に比較して高い補強効果を得ることができるとともに、地震波による複雑な振動に対する抵抗性の向上が可能であるという利点が得られる。具体的には、本接着工程において、布基礎の長手方向とガラスロービングクロスの強化方向とを一致させて布基礎に一方向強化プリプレグシートを接着させた後、該一方向強化プリプレグシートに等方性プリプレグシートを接着させることによって、図6に示す構成を形成できる。
【0044】
<硬化工程>
本工程では、上記接着工程における接着後の光硬化型プリプレグシートを光硬化させる。上記接着工程において目的の補強箇所に光硬化型プリプレグシートを接着させた後、本工程において、太陽光、又は光硬化性樹脂組成物中の光重合開始剤の感光波長と同波長領域を有する照射装置により、光硬化型プリプレグシート中の光硬化性樹脂組成物を硬化させる。硬化時間(照射時間)は、1分〜30分であることが好ましい。硬化時間は、照射装置の出力、光重合開始剤量等により制御可能であり、典型的には短時間の内に接着力が著しく向上する。
【0045】
なお、本発明の補強方法においては、上記接着工程の前に、布基礎の欠損部修復作業用の修復材による処理、ひび割れ部分への接着剤の注入処理等を行っても良い。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ピーリング現象防止等の目的で釘、ボルト等を併用しても良い。更に、光硬化型プリプレグシートの接着後、紫外線による劣化の防止又は美観(景観)対策として、該プリプレグシート表面に別の塗装膜を設けても良い。
【0046】
以上により、本発明の補強方法によれば極めて簡便な手順で布基礎を補強できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、戸建て住宅等の無筋コンクリートからなる布基礎を有する木造構造物の耐震性能及び強度の向上に好適である。
【符号の説明】
【0048】
1 一方向強化プリプレグシート
11 一方向強化されたガラスロービングクロス
12,22 光硬化性樹脂組成物
2 等方性プリプレグシート
21 等方性のガラス繊維シート
3 布基礎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の布基礎の補強方法であって、
無筋コンクリートからなる布基礎の片面又は両面に、ガラス繊維シートと該ガラス繊維シートに含浸されている光硬化性樹脂組成物とを含む光硬化型プリプレグシートを接着させる接着工程、及び
該接着後の該光硬化型プリプレグシートを光硬化させる硬化工程
を含む、補強方法。
【請求項2】
該光硬化型プリプレグシートとして、該ガラス繊維シートが一方向強化されたガラスロービングクロスである一方向強化プリプレグシートを用い、
該接着工程において、該布基礎の長手方向と該ガラスロービングクロスの強化方向とを一致させて該布基礎に該一方向強化プリプレグシートを接着させる、請求項1に記載の補強方法。
【請求項3】
該光硬化型プリプレグシートとして、該ガラス繊維シートが一方向強化されたガラスロービングクロスである一方向強化プリプレグシートと、該ガラス繊維シートが等方性のガラス繊維シートである等方性プリプレグシートとを少なくとも用い、
該接着工程において、該布基礎の長手方向と該ガラスロービングクロスの強化方向とを一致させて該布基礎に該一方向強化プリプレグシートを接着させた後、該一方向強化プリプレグシートに該等方性プリプレグシートを接着させる、請求項1又は2に記載の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−36643(P2012−36643A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177832(P2010−177832)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年度「日本建築学会中国支部研究報告集 第33巻」(発行所:社団法人 日本建築学会中国支部 頒布日:平成22年2月26日 発行日:平成22年3月6日)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】