説明

布帛および繊維製品

【課題】超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するだけでなく優れた保温性をも有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】織物組織または編物組織を有する布帛であって、単繊維径10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aと単繊維径が1000nmより大の中空フィラメント糸Bとを含むことを特徴とする布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するだけでなく優れた保温性をも有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノファイバーと称せられる超極細繊維は、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するため、衣料用途、インナー衣料、スポーツ衣料などの分野で、さかんに開発が行われている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
しかしながら、超極細繊維で構成された布帛は、嵩高性に乏しく保温性が不十分であるという問題があった。
他方、中空繊維を用いた布帛は従来知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−41432号公報
【特許文献2】特開2004−162244号公報
【特許文献3】特開2005−23466号公報
【特許文献4】特開2007−2364号公報
【特許文献5】特許第3880320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するだけでなく優れた保温性をも有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、単繊維径が1000nm以下の超極細繊維と、中空繊維とで布帛を構成することにより、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するだけでなく優れた保温性をも有する布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「織物組織または編物組織を有する布帛であって、単繊維径10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aと単繊維径が1000nmより大の中空フィラメント糸Bとを含むことを特徴とする布帛。」が提供される。
【0007】
その際、布帛重量に対して、前記ポリエステルフィラメント糸Aが20重量%以上含まれ、かつ前記中空フィラメント糸Bが20重量%以上含まれることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、中空フィラメント糸Bが中空率10%以上のポリエステル中空糸であることが好ましい。
【0008】
本発明の布帛において、布帛が織物組織を有し、織物の経糸および/または緯糸に、前記ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが交織されていることが好ましい。また、布帛が織物組織を有し、織物の経糸および緯糸のうち、どちらか一方に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ他方に前記フィラメント糸Bが含まれ、かつ布帛が朱子組織を有することが好ましい。また、布帛が2層構造織物組織を有し、1層に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ他層に前記フィラメント糸Bが含まれることが好ましい。また、布帛が3層以上の多層構造織物組織を有し、最表層または最裏層に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが、両者で構成される複合糸として布帛に含まれることが好ましい。その際、複合糸が空気混繊糸、複合仮撚捲縮加工糸、およびカバリング糸からなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。また、下記に定義する保温性αが18%以上であることが好ましい。
20℃の雰囲気温度中で10cm四方の65℃の熱源上に測定サンプルを置き、消費電力W1(ワット)と、同じ熱源で測定サンプルを置かない場合の消費電力W0(ワット)とから下式に基づいて保温性αを算出する。
保温性α=(W0−W1)/W0×100(%)
【0009】
また、本発明によれば、前記の布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するだけでなく優れた保温性をも有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明で用いるポリエステルマルチフィラメント糸Aはその単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜800nm、特に好ましくは550〜800nm)であることが肝要である。かかる単繊維径を単糸繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が1000nmを超える場合には、染色織物が超極細繊維特有のソフトな風合いを呈さず好ましくない。逆に、該単繊維径が10nm未満の場合には繊維強度が低くなるため実用上好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0012】
前記ポリエステルフィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、超極細繊維特有の風合いを得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、ポリエステルフィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記ポリエステルフィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0014】
前記ポリエステルフィラメント糸Aを形成するポリエステルはジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステルには、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。かかるポリエステルとしては、ポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステル、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。また、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。さらには、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルであってもよい。該ポリエステルポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0015】
また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。例えばまず、下記のような海島型複合繊維用の海成分ポリマーと島成分ポリマーを用意する。
【0016】
海成分ポリマーは、好ましくは島成分との溶解速度比が200以上であればいかなるポリマーであってもよいが、特に繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。また、ナイロン6は、ギ酸溶解性があり、ポリスチレン・ポリエチレンはトルエンなど有機溶剤に非常によく溶ける。なかでも、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。なお、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加効果が大きくなるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性・紡糸安定性などの点から好ましくなくなる。また、共重合量が10重量%以上になると、本来溶融粘度低下作用があるので、本発明の目的を達成することが困難になる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0017】
一方、島成分ポリマーは、海成分との溶解速度差があればいかなるポリエステルポリマーであってもよいが、前記のように繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。
【0018】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0019】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0020】
次に島数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなるので100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。なお、島数があまりに多くなりすぎると紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなるので10000以下とするのが好ましい。
【0021】
次に、島成分の径(直径)は、10〜1000nm(好ましくは100〜800nm)の範囲とする必要がある。島成分の径を該範囲内とすることにより、最終的に得られる織物に、単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nmのマルチフィラメント糸が含まれることになる。ここで、島成分の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を島成分の径とする。なお、島成分の径(直径)は、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去したのち、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0022】
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。
【0023】
吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。
【0024】
ここで、特に微細な島径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを極細化する流動延伸工程を採用することが好ましい。流動延伸を容易とするため、熱容量の大きい水媒体を用いて繊維を均一に予熱し、低速で延伸することが好ましい。このようにすることにより延伸時に流動状態を形成しやすくなり、繊維の微細構造の発達を伴わずに容易に延伸することができる。このプロセスでは、特に海成分および島成分が共にガラス転移温度100℃以下のポリマーであることが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステルに好適である。具体的には60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施し、延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で実施することが好ましい。予熱温度不足および延伸速度が速すぎる場合には、高倍率延伸を達成することができなくなる。
【0025】
得られた流動状態で延伸された延伸糸は、その強伸度などの機械的特性を向上させるため、定法にしたがって60〜220℃の温度で配向結晶化延伸する。該延伸条件がこの範囲外の温度では、得られる繊維の物性が不十分なものとなる。なお、この延伸倍率は、溶融紡糸条件、流動延伸条件、配向結晶化延伸条件などによって変わってくるが、該配向結晶化延伸条件で延伸可能な最大延伸倍率の0.6〜0.95倍で延伸すればよい。
【0026】
かくして得られた海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が40%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0027】
また、前記の海島型複合繊維において、その島間の海成分厚みが500nm以下、特に20〜200nmの範囲が適当であり、該厚みが500nmを越える場合には、該厚い海成分を溶解除去する間に島成分の溶解が進むため、島成分間の均質性が低下するだけでなく、毛羽やピリングなど着用時の欠陥や染め斑も発生しやすくなる。
【0028】
次いで、該海島型複合繊維にアルカリ水溶液処理を施し、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。また、アルカリ水溶液処理は、織物を織成する前でもよいが、織物を織成した後のほうが好ましい。
【0029】
一方、中空フィラメント糸Bは中空率1%以上(好ましくは10%以上、特に好ましくは15〜50%)であることが肝要である。該中空率が1%未満では十分な保温性が得られず好ましくない。
【0030】
かかる中空フィラメント糸Bにおいて、単繊維径が1000nmより大(好ましくは1.1〜20μm)であることが肝要である。該単繊維径が1000nm以下であると、中空フィラメント糸Bの製造が困難となるおそれがある。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0031】
前記中空フィラメント糸Bにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、1〜300本の範囲内であることが好ましい。また、かかるフィラメント糸Bの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0032】
また、中空フィラメント糸Bを形成するポリマーとしては、ポリエステルフィラメント糸Aと同様のポリエステルが好ましいが、ポリアミドなど繊維形成性ポリマーでもよし天然繊維でもよい。
【0033】
本発明の布帛は、例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、前記ポリエステルフィラメント糸A(またはポリエステルフィラメント糸A用海島型複合繊維フィラメント糸)と中空フィラメント糸B(複数種類でもよい。)と、必要に応じてその他の繊維を用いて布帛(織編物)を織編成した後、必要に応じて、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aとするとよい。その際、前記ポリエステルフィラメント糸Aの布帛の全重量に対する重量割合は20重量%以上(好ましくは50〜80重量%)の範囲内であることが好ましい。一方、フィラメント糸Bの布帛の全重量に対する重量割合は、20重量%以上(好ましくは50〜80重量%)であることが好ましい。また、布帛に他の繊維が含まれる場合、かかる他の繊維としては、ポリエステルマルチフィラメント糸Aと同様のポリエステルからなるポリエステル繊維が好ましい。
【0034】
また、布帛の織編組織は特に限定されず、織物の織組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。
【0035】
編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0036】
ここで、布帛が織物組織を有し、織物の経糸および/または緯糸に、前記ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが交織されていることが好ましい。すなわち、織物の経糸および/または緯糸において、前記ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが一本交互、複数本交互、1本:複数本交互、複数本:1本交互に規則的に配されていることが好ましい。また、布帛が織物組織を有し、織物の経糸および緯糸のうち、どちらか一方に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ他方に前記フィラメント糸Bが含まれ、かつ布帛が朱子組織を有することが好ましい。このような朱子組織を採用すると、布帛の表裏どちらか一方の面において、ポリエステルフィラメント糸Aが多く露出するため、該面が、超極細繊維特有のソフトなタッチを呈し好ましい。また、布帛が2層構造織物組織を有し、1層に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ他層に前記フィラメント糸Bが含まれることが好ましい。また、布帛が3層以上の多層構造織物組織を有し、最表層または最裏層に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが、両者で構成される複合糸として布帛に含まれることが好ましい。その際、複合糸が空気混繊糸、複合仮撚捲縮加工糸、およびカバリング糸からなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。
【0037】
また、かかる布帛には、常法の染色工、精練、リラックス、プレセット、ファイナルセットなどの各種加工を施してもよい。さらには、起毛加工、撥水加工、カレンダー加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0038】
かくして得られた布帛において、前記フィラメント糸Bが含まれることにより、優れた保温性を有する。その際、下記に定義する保温性αが18%以上であることが好ましい。
20℃の雰囲気温度中で10cm四方の65℃の熱源上に測定サンプルを置き、消費電力W1(ワット)と、同じ熱源で測定サンプルを置かない場合の消費電力W0(ワット)とから下式に基づいて保温性αを算出する。
保温性α=(W0−W1)/W0×100(%)
【0039】
また、かかる布帛には、単繊維径10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aが含まれているので、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈する。
【0040】
また、かかる布帛が織物である場合には、経糸のカバーファクターおよび緯糸のカバーファクターがいずれも500〜5000(さらに好ましくは、500〜2500)であると布帛に防風性が付加され好ましい。なお、本発明でいうカバーファクターCFは下記の式により表されるものである。
経糸カバーファクターCF=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCF=(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWは経糸総繊度(dtex)、MWは経糸織密度(本/2.54cm)、DWは緯糸総繊度(dtex)、MWは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0041】
次に、本発明の繊維製品は、前記の布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の布帛を用いているので、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するだけでなく、優れた保温性を有する。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0043】
<溶解速度>海・島ポリマーの各々0.3Φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
【0044】
<経糸カバーファクターCFpおよび緯糸カバーファクターCFf>下記式で定義する。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0045】
<溶解速度>海・島ポリマーの各々0.3Φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
【0046】
<風合い>
布帛表面の風合いを試験者3人が官能評価し、3級:超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する、2級:普通、1級:超極細繊維特有の風合いを呈さない、の3段階に評価した。
【0047】
<単繊維径>
布帛を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
【0048】
<保温性>
20℃の雰囲気温度中で10cm四方の65℃の熱源上に測定サンプルを置き、消費電力W1(ワット)と、同じ熱源で測定サンプルを置かない場合の消費電力W0(ワット)とから下式に基づいて保温性αを算出した。
保温性α=(W0−W1)/W0×100(%)
【0049】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=40:60、島数=500の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合延伸糸(ポリエステルフィラメント糸A用)は50dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
一方、フィラメント糸Bとして、中空率25%のポリエステルフィラメント(帝人ファイバー社製、110dtex/24fil)を用意した。
【0050】
次いで、経糸に中空繊維を配し、一方、緯糸に海島型複合延伸糸を配し、図1に示す朱子組織で織物を製織した。そして、前記海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。該織物には、単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸A(40重量%)と単繊維径23μmの中空フィラメント糸B(60重量%)が含まれていた。
得られた織物を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されていることを確認した。得られた織物において、経糸カバーファクターCFpは1500、緯糸カバーファクターCFfは1000であり、保温性は20%と優れた保温性を有していた。また、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合い(3級)を呈するものであった。
次いで、該織物を用いてTシャツ(スポーツウェア)を得て着用したところ、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈し、また、優れた保温性を有するものであった。
【0051】
[比較例1]
実施例1で用いた海島型複合延伸糸を経糸および緯糸に配し、図1に示す朱子組織で織物を製織した。そして前記海島型複合延伸糸n海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%で減量(アルカリ減量)した。得られた織物を操作型電子顕微鏡(SEM)で織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、生み成分は完全に溶割除去されていることを確認した。得られた織物において経糸カバーファクターCFpは1500、緯糸カバーファクターCFfは1000であり、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合い(3級)を呈するものの、保温性は5%と低く、不十分であった。
【0052】
[比較例2]
実施例1で用いた中空フィラメント糸Bを経糸および緯糸に配し、図1に示す朱子組織で織物を製織し、通常の加工を行った。得られた織物において経糸カバーファクターCFpは1500、緯糸カバーファクターは1000であり、保温性は25%と十分であったが、風合いは硬く、不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するだけでなく優れた保温性をも有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1において用いた織物組織図を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物組織または編物組織を有する布帛であって、単繊維径10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aと単繊維径が1000nmより大の中空フィラメント糸Bとを含むことを特徴とする布帛。
【請求項2】
布帛重量に対して、前記ポリエステルフィラメント糸Aが20重量%以上含まれ、かつ前記中空フィラメント糸Bが20重量%以上含まれる、請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1または請求項2に記載の布帛。
【請求項4】
中空フィラメント糸Bが中空率10%以上のポリエステル中空糸である、請求項1〜3のいずれかに記載の布帛。
【請求項5】
布帛が織物組織を有し、織物の経糸および/または緯糸に、前記ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが交織されている、請求項1〜4のいずれかに記載の布帛。
【請求項6】
布帛が織物組織を有し、織物の経糸および緯糸のうち、どちらか一方に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ他方に前記フィラメント糸Bが含まれ、かつ布帛が朱子組織を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の布帛。
【請求項7】
布帛が2層構造織物組織を有し、1層に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ他層に前記フィラメント糸Bが含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の布帛。
【請求項8】
布帛が3層以上の多層構造織物組織を有し、最表層または最裏層に前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、他層に前記フィラメント糸Bが含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の布帛。
【請求項9】
前記ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが、両者で構成される複合糸として布帛に含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の布帛。
【請求項10】
複合糸が空気混繊糸、複合仮撚捲縮加工糸、およびカバリング糸からなる群より選択されるいずれかである、請求項9に記載の布帛。
【請求項11】
下記に定義する保温性αが18%以上である、請求項1〜10のいずれかに保温性とソフトな風合いを有する布帛。
20℃の雰囲気温度中で10cm四方の65℃の熱源上に測定サンプルを置き、消費電力W1(ワット)と、同じ熱源で測定サンプルを置かない場合の消費電力W0(ワット)とから下式に基づいて保温性αを算出する。
保温性α=(W0−W1)/W0×100(%)
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−18907(P2010−18907A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180169(P2008−180169)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】